徒然キャットストリート

作者:真鴨子規

●キャットドリーマー
「うきゃ~、猫ちゃん可愛い~! 食べてる、食べてるよぅ」
 日がたっぷり落ちた夕食時。薄暗い裏路地で。物陰に隠れた1人の女性が、気色悪く身体をくねらせていた。容姿としては決して悪くはないのに、その奇行からある種の変質者として通報されても文句が言えない有様だった。
 そんな彼女の視線先では、数匹の猫たちが一心不乱な食事風景を繰り広げていた。
 女性がこの場所を見付けたのは一ヶ月ほど前。仕事帰りのちょっとした近道に、ほんの気まぐれで人通りのない路地裏を通ったときのことである。
 年頃の女性としてあまり褒められた行為ではなかったが、背負ったリスクに見合った見返りがあった。猫の集会場を見付けたのである。
 それ以来、コンビニで買ったキャットフードを猫たちに与えるのが彼女の日課となった。しかし――
「ああ~近づきたい! 近くに行ってなでなでしたい! モフモフしたい! でもダメ、私が行くとみんなすぐ逃げちゃうから……可愛いからいいんだけどね!」
 溺愛してると言ってもいい彼女は、生来なぜか猫に嫌われるたちで、その無償の愛が報われることは、この一ヶ月の間に一度としてなかった。
「気持ち悪い」
 背後から突然聞こえた声に、女性は「わきゃっ」と奇声を上げて飛び上がった。そのせいで、猫たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げていってしまった。
「うぅ~、誰ですか~?」
 女性が振り向いた先には、不思議な少女がいた。身に付けた黒いコートは、ちょっと風変わりな学校の制服と言えなくもない代物だったが、背中にある大きな鍵のような物体には嫌でも注目してしまう。
「見てるだけでも気持ち悪い。けど触るのはもっと嫌。だから」
 するりと、鍵が少女の手に移る。その光景を迂闊にもぼうっとして女性は眺め、そして――
「貴方が自分で壊しなさい」
 女性をはね除ける勢いで突き出された鍵の先端が、胸の中心に深々と突き刺さった。

●猫ちゃん懐柔大作戦
「君たちは猫は好きかい? 私は好きだよ、唯我独尊なところが」
 世間話でも始めるように、宵闇・きぃ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0067)は語り始めた。
「だが、そんな猫たちへの愛情を悪用しようと動く者が出現する。その名は『陽影』。彼女によって生み出されたドリームイーターが、猫たちの虐殺を企てているようなんだ。君たちには、そのドリームイーターを討ってもらいたい」
 陽影――それは今までにも幾度か現れた名前だ。見返りのない愛情に満たされた人を襲い、ドリームイーターに仕立て上げてきた悪しき敵だ。
「まずはドリームイーターを誘き出さなければならないね。今回の標的は猫だ。が、この敵は警戒心が異常に高くてね。偽物の猫や猫のような別の生き物が囮では、決して姿を現さないんだ」
 ならばどうする? と言いたげなケルベロスたちの視線に、きぃは満足そうに頷いた。
「本物を用意するしかない。近場をねぐらにしている野良猫はたくさんいるから、それを1箇所に集めるんだ。猫は多ければ多いほどいいから、なるべくたくさんね」
 どうやって? と言いたげなケルベロスたちの視線に、きぃは我が意を得たりといった風に微笑んだ。
「いかにして、と言うのは、君たちが工夫するところだね。諸君はどうにかして野良猫たちを手懐けて、言うことを聞かせなければならない。抱きかかえて移動できれば上出来、もっと単純な手で行くなら、美味しそうな餌で釣ってみたりとね。猫と付き合うためのちょっとしたコツとか、調べてみたらいいんじゃないかな」
 結構人懐っこいから大丈夫、ときぃは気楽に付け加える。
「敵のドリームイーターは、デフォルメされた猫のような外見をしている。大きさは人間大だが、なかなかすばしっこいようだ。攻撃を当てるのに苦労するかも知れないね」
 高い命中率のグラビティか、低命中を補う何かが要りそうだ。
「あとは、そうだね。戦うにあたって、暗闇は敵の領域だ。何らかの配慮が要るだろう。それくらいかな。人払いの心配は不要だね」
 そこまで言って、話は終わりとばかりにきぃは手を打った。
「猫好きの人間に猫を殺させようだなんて、悪辣非道ここに極まれり、といったところかな。断じて見過ごしてはおけないね。
 さあ、それでは発とうか。この事件の命運は、君たちに握られた!」


参加者
アイル・フェーリス(幸運を告げる白猫・e02094)
星祭・祭莉(ムーンライダー・e02999)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
柊・リュウ(優しさと恐さの狭間で揺れる・e18037)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
シーヴァ・アイリスハート(流星のシンフォニア・e20651)

■リプレイ

●集まれ猫猫作戦
 黒猫の双眼が怪しく光る夜だった。
 猫と言えば古今東西、何かと縁起の悪い生き物とされてきた。魔性の使徒、魔女の使い魔と言えば分かりやすいだろうか。もちろん家猫としての歴史は遙かに長く、功労者としての一面も多大にあるのだが。目の前を通り過ぎただけで不吉とまでされる動物はそうそういるものではない。
 しかし、ここに集まった8人は、どちらかと言えば、猫の善なる部分を信じる一団であった。物好きと言えばそれまでだけれど、その実、それだけでは語り尽くせない使命を背負った、ケルベロスたちであった。
「お、来たんじゃないか?」
「と思ったらぞろぞろ来た! やったね!」
 路地裏に配置された湯たんぽと、タオルの敷き詰められた段ポールに、数匹の猫が駆け寄ってくる。初めは少し警戒する素振りを見せた猫たちだが、無害であることを確認すると、じきにその恩恵に与った。
 よし、と拳を握り合うアルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)とリューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)。2人は物陰に隠れ、猫たちの動向を探っていた。
「よぉし、この調子で撫でさせて貰っちゃおうかな~」
 そろりそろりとアルベルトが近づいていく。リューデが制止の声を上げるも、構わずアルベルトは猫たちに接近する。
「お、お、いいねいいねー、よしよーし」
 アルベルトは段ボールの中にいた黒ぶちの白猫の頭を撫でる。
 猫はくぁっと1つ大きなあくびをしただけで、我関せずといったようになされるがままになっていた。
「よし、じゃあこの調子で抱っこを。ねーねー、ちょっと協力してくれるー?」
 アルベルトが猫を抱き上げようとした、とたん。
 猫は驚いたように跳ね上がると、一目散に逃げていった。ついでに他の猫たちも追走していってしまった。
「……やり直しだな」
 涙目になっているアルベルトの肩を、リューデがポンと叩いた。

 ぽとり、ぽとり、とつくね団子が投下される。飛行している星祭・祭莉(ムーンライダー・e02999)の仕込みだ。
 祭莉は降下してきて、シーヴァ・アイリスハート(流星のシンフォニア・e20651)と合流する。そして2人してつくね団子の様子を窺う。
 すると虎柄の猫が2匹駆け寄ってきて、つくね団子に鼻を近づける。片方の猫がペロリと一舐めすると、安心したようにちょこちょことつくね団子を食べ始める。
「さあシーヴァ、今度はこれの出番だよ」
 2人は毛糸玉と猫じゃらしを取り出して、影からちょこちょこと先端を出して見せる。慎重に慎重に、猫たちが驚かないように姿を見せ、誘うようにおもちゃを動かす。
 つくね団子を食べ終わった猫たちは、ぴくぴくと耳を揺らすと、警戒しながらも2人に近づいてきた。
「もふもふ……可愛い」
 近づいてきた猫たちを見て、シーヴァがとろけた表情を浮かべる。
「いい感じ。このまま誘導しちゃおう」
 祭莉がそう言って、2人で頷き合うと、少しずつ後退していく。まず2匹、釣れたようだ。

「動物は、あんまり得意じゃねーんだけど」 
「……でも、頑張ろう」
 動物は苦手と言いつつネコ耳なアンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)と、猫の獣人である柊・リュウ(優しさと恐さの狭間で揺れる・e18037)は、2人で路地を進んでいた。
 頃合いを見て、リュウが子猫に変身する。その口には鰹節入りの袋を咥えている。青春の塩味、旬の上り鰹をふんだんに使った最高級の鰹節である。
「いいもん食ってんだな、お前ら……」
 アンナの言葉に、にゃぅ? とリュウが振り返る。その周辺には、ぞろぞろと猫たちが集まり始めていた。

「さあさあ、頑張って猫を手懐けますわよー!」
 1人離れたところで、エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)は気合いを入れて小声で叫んだ。
 彼女の向かう先は、運良く見付けた猫たちの集会場の1つだ。くってりとくつろぐ猫たちにそっと近づくと、まずエルモアは手近な三毛猫に狙いを定めた。
(「まずは目を合わせて瞬きをすること。敵意がないことを伝える合図になるそうですわ」)
 興味深げにこちらを見てくる三毛猫の表情を覗き込む。エルモアがぱちぱちと瞬きを繰り返していると、三毛猫の方もそれに合わせて、静かに目を閉じた。
「こんにちは、猫さん。ちょっと撫でてもよろしいかしら?」
 にっこりと微笑むと、返事をするかのように三毛猫が間延びした声を上げた。
(「撫でるのは背中や顎周り、首周り。いきなりお腹を撫でたりすると怒られますわ」)
 そろりと細い指を伸ばして、三毛猫の額から顎に掛けてさらりと撫でる。そのまま手を顎をくすぐるように動かして、次に背中の方へ。さらさらとした毛並みが心地よい。そうしているうちに、猫の方から頬や背中をエルモアに擦り付けるようになっていた。
「まあ、いい子ね。ふふ、気になる匂いがあるかしら? 私もつい先月から、家で猫を飼うようになったばかりなの。ロシアンブルーの男の子。名前はまだないけれど。色々教わりながら奮闘中ですわ。猫といると幸せを感じます」
 にゃぁご、と返事をするように、三毛猫が鳴いた。
「少し、力を貸していただいてもよろしいかしら?」
 また、ふにゃあと三毛猫が返事をした。
 エルモアが控えめに三毛猫を抱き寄せる。脇に手を入れて、お尻を抱きかかえるように持ち上げる。
 エルモアの胸の中で、猫は少し落ち着かない様子で、自分の前足をペロペロと舐めているが、それでも嫌がったりする素振りは見せない。
 誘導成功である。

「おおー、結構集まってきたにゃ」
 敵をおびき寄せるための集合場所として選んだ広めの裏路地で、アイル・フェーリス(幸運を告げる白猫・e02094)は感嘆の声を漏らした。
 集まった猫の数は、両の手では数え切れないほどには軽く集まっている。
 アイルはアイルで、集まった猫たちが離れてしまわないように、おやつを使って猫たちを釘付けにしようと奮闘していた。
「よーしよし、いっぱい喰えよーお前たち。みんなで持ち寄った餌にお菓子に、たくさんあるからにゃー」
 アイルの周囲に猫たちが集まってくる。三毛猫、黒ぶち、白ぶち、虎柄、白猫、黒猫、身体の小さいものもちらほらといる。収穫は大量だ。
「よし、ここいらで仕上げにゃ! 来いお前たち! もふもふにしてくれにゃ!」
 一斉に猫たちがアイルの方を向く。これまで近くにいても隠れていた猫たちまでもが姿を現した。かと思えば、口々に甲高い声を上げ、アイルへと突撃を掛けた。グラビティ・チェインの力を使い野良猫たちを操る技『もふ猫アタック』である。
「ふにゃあ、ごくらくなのにゃあ」
 数多くの猫たちに囲まれ、アイルは満足そうな表情を浮かべた。
「アイル、そろそろ充分ですわ。隠れますわよ」
 1匹の子猫を抱いて戻ってきたエルモアが、夢中になって猫たちと戯れていたアイルに声を掛ける。
「んにゃあ、もう少し、あと少し……」
「う、羨ましい……じゃなくて、作戦だよアイル! 隠れて隠れて」
 アルベルトに手を引っ張られ、アイルは渋々その場を立ち去っていった。
 集まった猫の数は実に20を超えた。
 仕掛けは万全。
 あとは、敵が現れるのを待つのみだ。

●敵襲
 その敵は、音もなくやってきた。
 闇の中を這いずるように、両手両脚を地に着けてゆっくりと前進する。猫を原型としているにしては形態があまりにも人間的で、猫たちから見たらそれは、殊更巨大な怪物に映ったことだろう。
「ねこちゃあぁん。抱きしめさせてぇぇ」
 地獄の底から響いてきたような声を漏らして、敵は駆けた。その両腕に張り付いているのは、月光を反射する、魚の背びれのような鋭利な刃。あんなもので抱かれたら、怪我どころでは済まされない。
「今だ! 猫たちを守れ!」
 リューデの声が猫の突進を遮った。眩いほどの光が敵を照らし、その姿を暴き出した。猫たちは一斉に逃げ、追おうとする敵の行手を遮って、8人が躍り出た。
「にゃーんだよぅ。邪魔するな!」
「……デフォルメされた猫と言うより、これは」
 リューデが驚きの声を上げる。その驚きの中に、多少の恐怖が混じっていたことは否めない。
「アニメに出てきそうな……いえ、遊園地のマスコットに近いでしょうか?」
 シーヴァが感想を零す。人間大のシルエットは薄ら寒く照らし出され、両腕の刃物と相まって、恐ろしい化け物のように見えた。
「……お前は、俺が倒す。……掛かって来い!」
 言いながら、リュウが弾け飛んだ。バトルオーラで長く伸ばした爪を駆る『猫ノ獲爪』で、猫の敵影――ドリームイーターを襲撃する。
 ぎにゃあ、とドリームイーターは悲鳴を上げる。後退して闇に溶けようとするのを、アンナが追いすがる。
「悪いね、『被害者』さん。別にお前は悪くねーけど……ひとまずその、愛とかいうの、握り潰させてもらう」
 アンナの縛霊撃が命中する。瞬く間に放射される網状の霊力によって、ドリームイーターは一瞬自由を奪われる。
「そこなのにゃ!」
「行って、デルタさん!」
 アイルのスターゲイザーと、アルベルトの時空凍結弾、そして祭莉のウイングキャット『デルタさん』の引っ掻き攻撃がドリームイーターを襲う。
 しかし、それらの攻撃は、するりと高速を抜けたドリームイーターに回避される。――情報通り、恐ろしく素早い。この敵を仕留めるのは至難だ。
「よくも! これでも喰らえ!」
 ドリームイーターが両手でハート型を形作ると、そこからピンク色の光線が撃ち出された。狙われたのはエルモアだが――シーヴァのウイングキャット『アイヴィス』が滑り込み、攻撃を受け止めた。そのダメージも、すぐさまリューデのウィッチオペレーションによって回復される。
「ありがとう、リューデ」
「まだ行けるな。次も頼む」
 アイヴィスに代わって礼を返すシーヴァ。それを一瞥すると、リューデは武器を構えて狙いを定める。
「はっはー! 当ててみなっと!」
「よし分かった! 当ててあげるよ!」
 高い回避力も、スナイパーには通じない。祭莉の狙い澄まされたスターゲイザーが喉元にクリティカルヒットし、ドリームイーターは苦しそうに腰を折った。
「まだまだ! ボクの髪はどこまでも伸びる――ボクに敵意なす者達の動きを縛る!」
 追撃に掛かる祭莉。オレンジ色の髪の毛から無数の光が伸び、糸が敵を絡め取るように縛っていく。『橙色縛鎖(オレンジカースドチェーン)』によって、ドリームイーターは再び自由を奪われた。
「ンー! 負けない!」
 ドリームイーターが無茶苦茶な動きを見せる。両手両脚を自在に操って戦場を駆け回り、絡みついた糸をそのままに、攻撃として突進を繰り出してきた。
「守れ、面影!」
 アンナのビハインド『面影』が立ち塞がり、ドリームイーターの進撃を止める。攻撃は直撃したように見えたが――しかし、ダメージは大したことは無い。サーヴァントでも充分に耐えられる程度でしかなかった。
「おら、食え! こいつ早いだけだ。落ち着いて掛かれば負けやしねーよ!」
 アンナがグラビティ『蕩ける瓔珞(ロンファ・ダ・タングォ)』を発揮する。気を浸透させた金平糖を飲み込んで、アルベルトは失った体力を取り戻す。
「まずは僕が足を止める! 続いてね、みんな!」
 アルベルトが回復された勢いそのままに、制圧射撃を仕掛ける。数多の『点』によって広範囲の『面』を攻撃する銃弾によって、ドリームイーターはどんどん追い詰められていく。
「止まれ……! 猫の敵!」
 走り回る敵を追尾するリュウの気咬弾が、ドリームイーターの尻尾を焦がす。にゃっ! と悲痛な声を上げるも、ドリームイーターは止まらない。
「カレイド、散布! 目を閉じなさい……わたくしの輝きが、増しますから!」
「さあ、命のやりとりをしよう!」
 6機の特殊兵装『カレイド』を散開させたエルモアの『煌めく万華鏡の君(カレイドシューター)』。そして赤き闘争を求める心を解放するアルベルトの『Soulscraper』。2人のホーミングが、駆け回る敵をついに捉え、無数のレーザーが、リボルバー銃の砲火が、敵を撃ち貫いた。
「堕ちろ」
 リューデの『静寂の獄』――地獄化した心臓によって研ぎ澄まされし剣戟が敵を斬り刻む。ライトの光に輝く一閃が煌めき、ドリームイーターの胴を裂いた。
「やるぞ、面影!」
 ポルターガイストを放つ面影の背後から、アンナは気咬弾を被せて撃つ。二段構えの射撃を凌ぐ術はなく、ドリームイーターは窮地に追い込まれる。
「うにゃッ!」
 再び、ドリームイーターが突貫する。腕の刃で四方八方を傷付けながら、ドリームイーターは無謀にも思える攻撃を繰り返した。
 だが、その程度の攻撃では、ケルベロスは揺るがない。
「まだこのステージは終わらせない!」
 シーヴァの『聖光の翼』――絶対に負けないというシンプルで強い想いが、高らかに歌い上げられる。傷を負った仲間たちも、その気持ちを共有する。大丈夫、負けはしない。お互いの想いを繋げた仲間たちは、最早誰にだって負ける気がしていなかった。
「にゃー! さっきから邪魔ー! 私は猫ちゃんと遊びたいだけなんだー!」
 ドリームイーターが吠える。私の夢を、どうして分かってくれないのかと咆吼する。
「どうして……。猫は、君にとって大事じゃないの?」
「だから抱きしめるんだ! それが私の夢だから!」
 抱きしめたら壊してしまう。その姿が、意志に沿わない凶器が、リュウには哀れに思えた。
「これで……終わらせる!」 
 悲しい現実を終わらせるために。リュウは再びその爪を研ぎ澄ませる。
「にゃあッ!」
 ドリームイーターの刃が交差する。
 その隙間を縫うように、リュウの獲爪が敵を穿った。
 そうして、静寂の夜に沈むように、ドリームイーターは消滅した。

●猫たちの宴
「行け、お前たち! 皆をもふもふにしてやれ!」
 戦いが終わって。アイルたちは再び猫を集め、心ゆくまでもふもふを楽しんでいた。
「みんなありがとう。デルタさんもよく頑張ったね」
 つくね団子で出迎える祭莉。デルタも喉を撫でられてご満悦だ。
「……お姉さん、探さなきゃ。僕、猫になって遊んであげるんだ」
「そうですね。コツさえ分かれば、あの人も猫と仲良くなれるはずですから」
 リュウとシーヴァは、ドリームイーターの被害に遭った女性を探すようだ。
「ねえリューデ。具合悪そうな子とかついてきてくれる子は一緒来てもらえないかなあ?」
「こいつらにもこいつらの暮らしがあるだろう。世話をしている人もいるかもしれないし、何より全て飼うには多すぎる」
「里親捜しとかするから、ね?」
「……弱っている奴を一時的に保護するだけだぞ」
 やれやれといった風のリューデを、アルベルトが抱きしめる。騒がしい両人に、猫たちはちょっとだけ距離を開けてしまったのだった。

作者:真鴨子規 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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