かすみがうら事変~あなたの首を落としましょう

作者:陸野蛍

●開花する椿
 かすみがうらの人気の無い、路地裏にその異形は居た。
 身体を攻性植物と化し、人ならざるモノになった者。
 その異形の元に突如、浅黒い肌の男と奇妙な緑色の生き物が現れる。
 椿の異形は、その男に視線を送る。
 浅黒い肌の男は、異形に対し傲慢とも言える笑顔を浮かべると、口を開く。
「おめでとう。君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉を讃え、この種を与えよう!」
 異形の口元に喜びの笑みが浮かぶ。
「この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
 男はそう言うと、隣の緑の生き物からオーズの種を受け取ると、それを異形へと渡す。
 オーズの種を受け取った異形は、すぐにその力を感じ取ることになる。
「身体の細胞一つ一つが花開いて行くような快感! この力があれば、私はもっともっと綺麗な花を咲かせられる! 私自身も綺麗な花になれる!」
 異形が叫ぶと、異形から放出された力で路地のあちこちが破壊されていくが、放出され続ける異形の力ですぐに修復されていく……緑の葉に覆われた、椿があちこちに咲き開く異界としてだが……。
 異形の身体をオーズの種が支配していくと、異形の身体は更に奇怪に変化していく。
 身体中を椿の枝が包み、血の様に赤い椿の花がいくつも咲き開いて行く。
 異形の表情は、もう窺い知ることは出来ない。
 ……赤い椿で、異形の顔は完全に覆われてしまった。
「これで、もっと……もっと! 私の強さを! 美しさをみんなに知らしめることができる!」
 声を上げて笑う、もはや完全な強化攻性植物と化してしまったモノ。
 いつの間にか、男達は姿を消していた。

●かすみがうらの異変
「みんなー! 緊急の仕事だー! すぐに説明始めるからな!」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が慌てた様子でヘリポートに姿を見せる。
「かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された、『楽園樹オーズ』との関連について調査していた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)から、緊急の報告が入ったんだ」
『楽園樹オーズ』人馬宮ガイセリウム中枢、フォールクヴァングに存在した謎の攻性植物である。
「かすみがうらの攻性植物事件の裏には、楽園樹オーズの種を利用したシャイターンの暗躍があったらしくて、ケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争事件などを生き抜いた少年少女達に、より強力なオーズの種を与え、かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたらしい」
 既にかすみがうら市の市街地の一部は、オーズの種を与えられた攻性植物達を中心に密林の様な街に変貌し始めており、周囲の市民達は植物に撒きつかれグラビティ・チェインを吸収され始めているらしい。
「このまま放置してしまったら、全グラビティ・チェインを吸収されてしまった人々は、干からびて死んでしまう。そして吸収された大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物は、もっと厄介な新たな力を手に入れしまうことになるはずだ」
 かすみがうらが既にその状態なら、攻性植物が更に力を手に入れれば、恐ろしい事態になることは、間違い無い。
「それを防ぐ為に、すぐにかすみがうらに向かい、オーズの種を手に入れた攻性植物の撃破をお願いしたい」
 雄大は、ケルベロス達が頷くのを確認すると、説明を続ける。
「皆に撃破して貰いたい攻性植物は、椿の花の力を開花させ、強化された攻性植物だ。体中に椿の花を咲かせ、辛うじて四肢はあるけど……もう人間だったとは思えないな」
 オーズの種の力で攻性植物の力を強め、更なる力を求めるだけのデウスエクスになってしまったと言う。
「攻性植物の体長は3メートル程、辺り一帯の建物が植物化しているから、皆が警戒して近づかなければ、忍び寄られて奇襲される恐れもあるんだ」
 かすみがうらの町並みは、さながら攻性植物が作り出した樹海と化しているとのことだ。
「皆に向かってもらう一帯にも、路上や建物内を合わせると、200名を超す市民が植物に捕らわれているから、植物を引き離しての救出も可能だけど、市民の救出を行った場合、攻性植物にその事実がすぐに伝わって、奇襲される可能性が格段に上がるしこちらからの奇襲も勿論不可能になる。市民の救出に時間をかけ過ぎたり、救出にばかり気をとられていても、攻性植物が有利に事を運べるようになるだろう」
 人々の救出を優先すれば察知され戦闘が不利になる可能性が高く、救出を後回しにし、攻性植物の撃破を優先した場合、その間人々はグラビティ・チェインを搾取され続けることになる。
「攻性植物を撃破出来れば、この一帯の市民を捕えている植物も消えるはずだから、攻性植物の撃破を優先した方が結果として、市民を救うことにもなる。どちらを選ぶかは、みんなの判断に任せる」
 この二者択一に正解は無いからこそ、雄大は選択をケルベロス達に託す。
「攻性植物の能力は、無数の枝を一本に束ねて槍と化し刺し貫く攻撃と、あちこちに椿の花を咲かせ爆発させての攻撃、最後に巨大な椿の葉を刃にしての斬撃だ。特性として、この攻性植物は赤い血を見ると興奮して、血を流している者を攻撃対象に選ぶ傾向がある。それと、首を切り落とすことに執着しているらしい……良い趣味とは言えないな」
 雄大の眉間に皺が寄る。「かすみがうらの攻性植物の事件を操っていたのが、シャイターンだったってのは盲点だった。だけど、まだ最悪の事態にはなっていない。人々もかすみがうらの街も、救うことが出来るんだ。だから、かすみがうらが完全に植物に支配される前に、攻性植物の撃破を何とか完了させて欲しい。頼むな、皆!」
 言うと、雄大は急ぐようにヘリオン操縦室へと駆けて行った。


参加者
ルーナ・バウムフラウセン(レプリカントの鎧装騎兵・e00623)
美城・冥(約束・e01216)
シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)
シグナル・ランフォード(赤ノ斬リ姫・e02535)
若命・モユル(レプリカントのブレイズキャリバー・e02816)
足柄山・箱根(暗殺伐採・e04426)
イルリカ・アイアリス(鐘を鳴らして・e08690)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)

■リプレイ

●かすみがうらの人々を救出せよ
「うわぁ、どこもかしこも植物だらけじゃねぇか……」
 現場に到着した、若命・モユル(レプリカントのブレイズキャリバー・e02816)の第一声である。
 かすみがうらは、モユルの言う通り植物に包まれた異界と化していた。
 特に、モユル達が降り立った地点は、支配している攻性植物の影響か、本来、枝に咲く筈の椿が枝だけでは無く、地面にすら花を咲かせており、辺り一帯、緑と赤だけで構成された世界の様になっていた。
「これだけ植物に覆われていると、住民の発見も大変かもしれないですね」
 双眼鏡で樹海と化した、かすみがうらを確認しながら、シグナル・ランフォード(赤ノ斬リ姫・e02535)が厳しい口調で言う。
「胡蝶おねえちゃん。作戦通り、住民救出を優先していいんですよね?」
 イルリカ・アイアリス(鐘を鳴らして・e08690)が周囲を警戒しながら、 鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699) に聞く。
「それで問題無いわ。ディフェンダーを中心に住民の救出、他の皆は周囲を警戒しつつ、救出した住民の避難誘導……何かあったらすぐに全員に連絡。奇襲好きってことだからみんな気を付けて」
 言うと、胡蝶はイルリカの頭を撫でる。
「胡蝶おねえちゃんと一緒で心強いです」
 少し微笑んで言った後、イルリカは表情を戻し、住民の捜索を開始する。
 他のケルベロス達も、完全にバラバラにならない様に距離を測りながら、住民を探し始める。
「見つけた! 大丈夫? 今、助けるわね」
 ルーナ・バウムフラウセン(レプリカントの鎧装騎兵・e00623)は、ある一軒家に入ると、四人の家族が植物に捕らわれ、苦しんでいるのを発見した。
 住民達は、ルーナの顔を見ると小さな声で『助けて……』と口にする。
 ルーナがすぐに、植物を排除し、住民を助けると疲労はあるが、どうにか歩ける様子に、ルーナも胸をなでおろす。
「外に私の仲間が居るわ、彼らと一緒に急いで避難してちょうだい」
 言って、ルーナはすぐに次の住民の救助に向かう。
「まだ、意識があって良かったです。足元が辛い様ですね。私と一緒に脱出しましょう」
 美城・冥(約束・e01216)もまた、住民を植物から解放すると樹海からの脱出を手伝っていた。
 だが、頭の片隅で、自分達が攻性植物の領域に侵入したことは、ばれており、いつ襲われてもおかしくない状況だと言うことも忘れていなかった。
「この人達の避難をお願いします」
 別所で救助を行っていた、イルリカは、シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)にそれだけを言うと、すぐに樹海へと戻る。
「警戒をお願いします。私もすぐに戻ります」
 シルフィディアは、住民を献身的に助けながら避難させていく。
「今、何人ぐらい助けられたかな?」
 周囲を警戒しながら、足柄山・箱根(暗殺伐採・e04426)が一緒に行動しているモユルに尋ねる。
「正確には、分かんないけど50超えるか超えないかくらいだと思うぜ」
 攻性植物の領域に踏み込んで10分以上経っていたが、住民の救出は難航していた。
 攻性植物の奇襲警戒の為、見えている範囲以外の住人を救出する役をルーナ、冥、イルリカの三人と少数しか割かなかったこともあるが、何よりも住民が囚われている場所が広範囲に及んでおり、発見して救出という流れにも時間がかかっていた。
 その時だった。
 モユルのアイズフォンに通信が入る。
『攻性植物を確認しました! 位置は……グッ』
 シグナルの言葉が途中で途切れる。
「シグナルは、胡蝶と一緒よね?」
「ああ! 傷は癒せるけど、オイラ達も急ごう! そんなに離れてない!」
 箱根とモユルは、樹海と化した、かすみがうらを精一杯駆けた。

●咲き狂う椿
 時間は少し遡る。
「迷惑な遺産が遺っていたものです……。早急に根絶して、人々を助けないと……」
 シグナルが、一人の男性を救出した後呟く。
「まさか、かすみがうらの攻性植物事件を操っていたのが、シャイターンだったなんてねぇ……。やけに不良の子達が攻性植物化してるなとは思ってたけど……。この樹海の主は、もう手遅れかもしれないけれど、何の関係もない住民は助けなきゃね、なんとしても……」
 胡蝶がクールに告げたその時、胡蝶の足元の植物が揺れると、椿の枝が一本の槍となって、胡蝶のしなやかな足を貫く。
「胡蝶さん! グラビティ・百烈槍地獄!」
 シグナルは、二本のゲシュタルトグレイブを器用に回転させると次の瞬間、胡蝶の足元に向かって無数の突きを繰り出した。
「……ランフォートさん、皆に連絡を」
 胡蝶が貫かれた足を庇いながらも、黒鎖の護りの陣を敷きながら、シグナルに言う。
「はい! 攻性植物を確認しました! 位置は……グッ」
 アイズフォンを使って、仲間達に連絡を図るシグナルの肩を、緑の刃が切り裂く。
「ちょっとの間だけ、私が相手をしてあげるわ。アナタに相応しい責め苦を与えてあげるわ――来なさい?」
 胡蝶が詠唱すると、地面からグラビティ・チェインで形成された拷問器具が現れ、樹海に紛れ攻撃を放っていた、攻性植物を捉え、ダメージを与える。
「……なかなか、やるじゃない。私を美しく強くする養分を奪っっているあなた達にお仕置きしてあげようと思って来たのに」
 その姿を完全に現した、椿の異形……攻性植物が好色そうな声で言う。
「ソードビット、アクセス!パターン『TSO』スタート!」
 シグナルの声が響くと、六機のソードビットが展開され牽制と攻撃の両方の動きをする。
 それに合わせて、シグナル自身も突撃する。
「こんな不自然な狂い咲きをされたら、流石に美しさなんて感じられませんね……。これ以上の華は咲かせません、貴方を剪定してあげます」
 意思のこもった言葉をシグナルが、攻性植物にぶつける。
「あなた達に何が……!」
「私の怒りをその身に刻め……」
 攻性植物の背後からシルフィディアの声が聞こえると、地獄の刃と化したシルフィディアの両腕が、攻性植物の身体を……椿を散らしていく。
「……お待たせしました。近くの住民は避難させました」
 シルフィディアが仲間達に告げ、攻性植物に目をやると。
「も、もう、この人は助けられないんですね……もう助からないなら……今すぐ、殺してやる……!」
 言葉と共にシルフィディアがその瞳に冷徹な光を灯す。
 攻性植物が、体勢を整えようと空へ飛び上がると、それを狙っていたかの様に、二つの炎弾が直撃する。
「悪いけど、首刈りは私の領分よ。刈るのは木こりで、刈られるのは植物。首は暗殺者の獲物で、落とされるのは相手の首の方だもの」
 炎を放った左手はそのままに、右手に斧を持った箱根が攻性植物に言葉をぶつける。
「おねーさんが、刈る側と刈られる側の違いって奴を教えてあげるわ」
「うるさーい!」
 箱根の言葉に苛立った攻性植物が叫ぶと、あちこちに椿が現れ爆発していく。
「おい、ツバキ女! お前はすごい力を手に入れた。でもそれはデウスエクスに利用されてるだけなんだ! あいつらに手駒として使われてるだけなんだよ!」
 二本の鉄塊剣を構えながら、モユルが叫ぶが、その声すらも拒むかの様に、椿の爆発が続く。
 その爆発を縫うようにドローンが癒しのグラビティをケルベロス達に与える。
「人の命を糧に繁殖する楽園の種、全くおぞましいわね」
 辺りにルーナの声が響く。
「言いたいことはたくさんありますが……。それが『強さ』? 他人から貰うだけの操られたそれが? そんなもの、容易く崩れることをわたし達が証明してやります」
 イルリカの言葉が聞こえたかと思うと、影の存在と化したイルリカの刃と冥の斬霊刀が攻性植物を同時に切り裂く。
「あなたの強さ、美しさ、私が否定してあげます」
 冥の言葉が終わった時、辺りには既に胡蝶のヒールグラビティが満ちていた。
「そんなに首を刈るのが楽しいのなら、付き合ってあげる。でも、今日落ちる首はあなたの方よ」
 箱根はルーンアックスを攻性植物に突きつけると強く宣言した。
 その時、シグナルだけが気付いた。
 攻性植物の身体に埋め込まれた力の塊……オーズの種が不気味な力を放出し始めたのを。

●落ちる椿……そして
「今もグラビティ・チェインを吸い取らている人達の為にも早々に決めさせてもらいます」
「オイラのスターゲイザー喰らえー!」
 シルフィディアとモユル、二人がクロスする様に、流星の軌跡を描く蹴りを攻性植物に決める。
 すると、攻性植物が突如、笑い始める。
「キャハハハハハハハハハハ! まだよ! まだ! 私にはオーズの種がある! オーズの種よ!」
「二人共! 離れて下さい!」
 シグナルが叫ぶと、攻性植物を中心に風が巻き起こる。
 得体の知れない、何かの訪れを感じ、ルーナ、冥、イルリカが仲間達を庇うように、前に出る。
「オーズの種よ! 私に美しく咲く為の更なる力を与えるのよ!」
 その言葉に、いつでもヒールグラビティを飛ばせるように胡蝶が構える。
 しかし、風が止んでも攻撃は飛んで来ない。
 その代わり、攻性植物に与えた傷が一部消えているのだ。
 刀で切った傷もソードビットが付けた傷も。
「オーズの種には回復の力があるってこと……? これじゃあ」
 オーズの種がある限り攻性植物を仕留められないと胡蝶が考えた時だった。
「なんで!?」
 攻性植物が叫ぶ。
「オーズの種は無限の力。何故、私の美貌が全て癒されないの!? あんた達……私の養分、どれだけの数、奪ってくれたのよ!!」
 激情に任せる様に、攻性植物が椿の刃を正面に居た、ルーナにの首に向け振りかざすが、ルーナは軽く微笑み、それを受け止める。
「そんな雑な攻撃になんて当たってあげないわ。首を切ると興奮するとか、強さと美しさを知らしめたいっていう割には随分俗っぽいのね」
 言って、ルーナはドラゴンヘッドの砲身を攻性植物に当てると、ゼロ距離でレーザーを発射する。
「おそらく、オーズの種の力は、捕えられている人々のグラビティチェインを吸い取ることで力を回復してくれるはずだったんです」
 シルフィディアが、攻性植物の言葉からそう結論付ける。
 ケルベロス達は、一人でも多くの人を一刻も早く苦しみから解放したかった。
 だから、人々の救出を優先したのだが、思わぬところで『オーズの種の回復力の減衰』と言う副産物を得ることになったのだ。
「それなら一気に畳み込もうぜ!」
 モユルの二刀の鉄塊剣が勢いよく振り下ろされれば、次の瞬間、箱根の斧が深く攻性植物の胴に叩きつけられる。
 攻性植物も狙いを首と定めて、冥に緑の刃を振りかざすが、狙いが分かっている以上、防ぐのは容易い。
 多少の傷を受けてもすぐに、胡蝶のヒールグラビティで血の一滴すらも流す暇もなく、ケルベロス達の傷は癒される。
 冥のブラックスライムの槍とシグナルのグレイブが攻性植物の身体に穴を空けて行く。
「街の人達のグラビティ・チェインをこれ以上使われるのは嫌なの。だから……プログラム解放。喰らいつけ縛鎖の牙!」
 ルーナの瞳から攻撃性プログラムが送り込まれると、攻性植物の動きが制限されていく。
 更にシルフィディアの時空をも凍らせる弾丸が攻性植物の緑を凍らせる。
「イルリカちゃん、決めてちょうだい」
 胡蝶がライトニングロッドをかざせば、攻性植物におびただしい電流が流れる。
「剣となした世界よ、この胸に秘めた想いを開合せよ。告げる想いは――」
 イルリカは、作り出した空間から最も相応しい剣を一振り掴む。
(「いいなりのままで、おごり上がるだけおごり上がって。いい気になって力を振りかざす。そんな相手の薄っぺらい時間を認めるわけにはいきません」)
「告げる想いは『否定』」
 イルリカの強い思いは刃を更に研ぎ澄ませ、鋭い切れ味を生む。
 攻性植物の存在そのものを否定するかの様に、その刃は椿の力を付け根から切り落とした。
 攻性植物の首が枯れ落ちた椿の花の様にボトリと落ちた。
 ケルベロス達が勝利した瞬間……………それは始まった。

●終わりのかすみがうら事変、始まりのオーズの種
「……何よ。……これ」
 箱根が困惑の声を上げる。
 椿の首が落ちたと同時に、攻性植物だった死体が急速に枯れ、干からび始めたのだ。
「オーズの種の所為なのかよ……? 攻性植物って言ったって、元は人間だぜ……こんなのって」
 モユルも明らかな嫌悪を示す。
 ケルベロス達の目の前で攻性植物は完全に干からび朽ちた。
「見ていて気持ちいいものじゃ、ありませんでしたね…………!?」
 言葉を紡いでいたシグナルが驚愕で目を見開く。
 朽ちた攻性植物の中心が……いや、オーズの種が輝き出したのだ。
 光輝くオーズの種は宙に浮かぶと、そのまま輝きを失わず飛び去った。
 突然の出来事に言葉を失うケルベロス達。
「何が起ころうとしているの…………?」
 ルーナの問いに応えられる者は誰一人として居なかった。

 オーズの種が飛び去り、攻性植物の身体が塵となって風にさらわれると、辺りを覆い尽くしていた、椿や緑は跡形もなく消え去り、植物に捉えられていた人々も解放された。
 グラビティ・チェインを搾取され疲労している者が大半だったが、幸いなことに死者はいなかった。
 胡蝶とルーナは、住民のケアにヒールにと大忙しだったが、イルリカが自らそれを手伝い、住民の疲労も目に見えて軽くなった。
 モユルは被害者たちの金銭的な負担を考え、ケルベロスカードを配って回った。
 だが、カードを貰うよりも『ありがとう』を伝えてくる住人が多かった為、モユルのケルベロスカードは少し減る程度に留まった。
 攻性植物が死した場所に、箱根とシグナルの二人は佇んでいた。
「…………全部終わったら、埋めてあげるつもりだったんだけどな」
 箱根がポツリと言う。
「だから……」
(「また、地獄で逢いましょうか」)
 心の中で、力の所為で壊れてしまった彼女に箱根は言葉を贈った。
「攻性植物から救えるものなら救いたかった……手遅れだったんですね……」
 シグナルが瞳に悲しみを潜ませ呟く。
「私は今を護りたい。…………その為に、次に何が起こるとしても」
『戦います』シグナルは心の中で固く誓うのだった。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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