●おめでとう
茨城県かすみがうら市の一角にある廃倉庫で、1つの戦いが終わった。
揃いの赤い色をしたジャケットやシャツを着た若者たちに、1人の若者が囲まれている。
3mに届こうという長身の若者の頭からは、足元まで届くほど細長い柳の枝が垂れていた。
足元には最早動くことのない別の若者が倒れている。
リーダーの勝利に湧く若者たちと、反対に青ざめる若者たち。
拍手の音は、若者たちが戦っていたのより、さらに奥まった場所から聞こえた。
「おめでとう。君は進化のための淘汰を耐え抜き、生き残った。栄誉をたたえ、この種を与えよう」
柳の若者は、ただ髪のような枝葉の奥から鋭い目を向けただけだった。
色黒の男がシャイターンと呼ばれるデウスエクスだと、果たして若者たちは知っていたのか。
「この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神へと至る『楽園樹オーズ』の種なのだ」
かたわらにいた小振りな攻性植物から、シャイターンは種を受け取って若者に渡す。
シャイターンがシルベスタ、攻性植物がユグドラシルガードモデルラタトスクという名だと若者たちは知っていただろうか。
「あんたには感謝している。燻っていた俺に……生きる意味をくれて」
呟くように言った若者の顔に、一瞬だけ素朴な笑みが浮かぶ。
渡された種を受けとると、彼にすぐ変化が現れた。
「ああ……これが……これが『本物』の力かっ!」
廃倉庫の壁や天井が……見るまに蔦に覆われる。それは建物自体から伸びているようだった。
●緊急報告
かすみがうら市の攻性植物と『人馬宮』ガイセリウムの楽園樹オーズの関連について、白神・楓(魔術狩猟者・e01132)から緊急の連絡があった。
「白神さんの調査によれば、かすみがうらの事件の裏にはオーズを利用するシャイターンの暗躍があったようです」
抗争やケルベロスの介入を生き延びた不良攻性植物により強力なオーズの種を与えて一斉に行動を起こさせたらしい。
石田・芹架(ドラコニアンのヘリオライダー・en0117)はさらに説明を続けた。
「オーズの力を得た攻性植物達を中心に、かすみがうら市の市街地は密林のような状態になり始めています」
市民たちは植物に巻き付かれてグラビティ・チェインを吸いとられている。
このままでは市民たちは干からびて死亡し、攻性植物は大量のグラビティ・チェインを得て新たな力を得てしまう。
「皆さんには、その前にかすみがうら市に向かって、オーズの種を得た攻性植物を撃破していただきたいのです」
芹架は言った。
ここに集まっているケルベロスに戦ってもらう敵だが、頭部からまるで長い髪の毛のように柳の枝が垂れ下がった攻性植物だ。
「垂れた枝は地面に融合して埋葬形態となり、戦場を侵食して皆さんを飲み込もうとしてきます」
飲み込まれた者は、敵味方の識別を誤り、味方に攻撃したり敵を回復してしまう可能性がある。
また、柳の枝そのものを武器として使うこともある。これはケルベロスチェインと同等の効果を発揮するようだ。
「植物化した若者は身長3mほどのサイズがあります。廃倉庫にいますが、建物が植物化しているため、忍び寄って奇襲することもできるでしょう」
ただし、敵に警戒されていなければ。
周囲の市街地や建物には、200名ほどの市民が捕らわれている。植物を引きちぎって助けるのは容易だが、それをすると攻性植物に気づかれて奇襲はできなくなる。
また、救助に気をとられていると、逆に奇襲を受ける可能性もある。
「敵を倒せば植物も消えるので、あえて危険を犯して市民を先に助ける必要はないでしょう」
苦しむ時間が、多少伸びる程度のことだ。
かすみがうらの事件にシャイターンが関わっていたのは予想外のことだ。だが、調査してくれた楓のおかげでなんとか対策を打つことができる。
「後は、皆さんにお任せします。オーズの種から力を得た敵は強力でしょうが、どうか全力を尽くしてください」
芹架は静かな声で告げ、頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
クィル・リカ(星還・e00189) |
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327) |
天之空・ミーナ(風を継ぎし者・e01529) |
緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755) |
ローザマリア・クライツァール(双裁劍姫・e02948) |
椿・火蘭(業火の女子高生・e03884) |
エフイー・ノワール(遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033) |
アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722) |
●緑の監獄へ
ヘリオンを降りたケルベロスたちは、早足に廃倉庫へと向かっていた。
敵に見つからないように、物陰を選んで移動していれば、望まずとも捕らわれて苦しむ人々が目に入る。
「ひどい……こんなこと、はやく止めないと」
迷彩柄の上着を防具の上から身につけたアシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)が犠牲者を見て呟く。
不完全な心でも、この光景には感じるものがあった。
「気持ち、わかりマース。けど、触っちゃダメデスよ。気づかれるかもしれまセーン」
緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755)は、こんな時にも笑顔を絶やさずにアシュレイへ言った。
「はい……大丈夫、わかっています」
「できるだけ敵を早く倒せば、それだけ早く助けることになります。急ぎましょう」
クィル・リカ(星還・e00189)が淡々と告げる。
うめき声に背を向けて、ケルベロスたちは敵の居場所へと向かった。
廃倉庫は静まり返っていた。
「あの中に攻性植物がいるのね」
ローザマリア・クライツァール(双裁劍姫・e02948)はマリンブルーの瞳で静かに倉庫を見つめた。
オラトリオの少女は、瞳と同じマリンブルーの薔薇を頭に咲かせている。
あたかも長い年月が経過したかのように、建物には植物が幾重にも巻き付いている。
「なるべく声も出さずに行ったほうがいいでしょうね」
エフイー・ノワール(遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033)が言った。
「ああ。武器や足音もな」
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)も鋭い眼光を廃倉庫へと向けながら告げる。
そんな彼自身の斬霊刀には布を巻きつけて音を立てないようにしてある。
「廃倉庫なら多分中は開けていると思います。なるべく高いところを移動したほうがいいかもしれません」
クィルが言った。
「わかったわ。それじゃ、わたしとミーナで先頭に立つから、ついてきて」
椿・火蘭(業火の女子高生・e03884)は、元気な声をできるだけ潜めて皆へ告げた。
彼女は天之空・ミーナ(風を継ぎし者・e01529)と共に、目立たずに行動する術を身に着けていた。
「ああ、仕方ないな。目立たないように行こう」
ぶっきらぼうな口調でミーナは応じる。
ハンドサインで合図をしつつ、火蘭とミーナが仲間たちを先導する。
錆び付いたキャットウォークを移動するケルベロス。
倉庫はクィルの予想したとおり本来は開けていたようだが、現在は枝葉や蔦に覆われて隠れる場所には事欠かない。
先行する2人が、右手を上げて合図をしてくる。
突撃しても大丈夫だという合図だ。
(「植物なら植物らしく大人しくしておいて欲しいもんだが……ま、なっちまったもんは仕方ねぇ。全力で潰すか」)
右手を上げて後方の仲間たちに合図しながら、ミーナは考えていた。
●奇襲攻撃
合図が出された。
長い髪を垂らして立つデウスエクスの周囲に、ケルベロスたちは一斉に飛び降りた。
白陽は無言のまま腰の後ろで交差させていた斬霊刀をまとめて抜き放つ。刀身を覆っていた布がほどけ、放電する刃が現れた。
軌跡すら見えないほどの速度で刃を薙ぐと、彼はそのままさらに床を蹴って敵の視界から逃れる。
その反対側から襲うのは、真の姿を現したエフイーの銃剣。
空中でイグニッションコードを入力したライフルとブレードの複合武器は、強大なる威力で空間ごと敵を切り裂く。
「お前と私……どっちが生き残るか、勝負といこうぜ!」
ミーナが手にした『望』の短剣が魔力によって一気に巨大化する。
振り下ろすのはただ一撃。だが、運命に否定された者に、ミーナが繰り出した一撃はさらなる打撃を与える。
小柄なクィルが光り輝くルーンアックスを力強く振り下ろした時には、結火とローザマリアも攻撃の準備を終えていた。
竜語魔法の詠唱を終えたローザマリアが竜の幻影を生み出す。
幻炎で焼き払われた柳へと、結火がさらなる炎を放つ。
書を焼き、人を焼き、神をも焼く――。
「"Blazing Shot"――Ignition」
サキュバスの翼を広げた彼女の大きな胸が揺れる。
地獄化した右腕の炎が赤黒く変化し、青い瞳が輝きを放つ。
戦う前は笑顔を絶やさなかった彼女の表情はただ冷酷そのものだ。
連続して撃ち出した炎の弾丸は、すべてデウスエクスの巨体を貫いていた。
結火のビハインドである火墨もポルターガイストを起こしている。
火蘭が掌を木目の肌に押し当てる。
裂帛の気合を放つと、螺旋の力が浸透して柳の表皮が内部から爆ぜた。
爆ぜたその傷跡をアシュレイの鉄塊剣がさらに叩き壊す。
「ケルベロス……かっ!」
奇襲からの攻撃を受けた不良柳が、顔を覆い隠す枝の奥からケルベロスたちを見た。
同時に植物に覆われた床に垂れた柳の枝が、彼を囲むように陣を描いている。奇襲で受けたダメージをいくらかなりと癒し、そして己の守りを固めているのだ。
白陽の刀が霊力を帯びて、癒しきれていない敵の傷跡を切り開く。
しかし彼の攻撃は奇襲で与えたほどの威力は発揮しなかった。
エフイーはそれに対応して、仕掛けようとしていた攻撃を変更する。
真の姿から元に戻したブレードが、すさまじいモーター音をあげて回転し始める。
「早々にあなたを倒さなければいけませんので。その守り、切り裂かせてもらいます」
薙ぎ払う刃は敵の体と共に地面に伸びる枝を切り裂き、不良柳の描いた魔法陣を断ち切っていた。
「抜け目ねえタイプってわけだ。やりにくい相手だな」
「褒め言葉と受け取っておきましょう」
応じながら、エフイーは再び剣の真の姿を現すべくコードを入力する。
本格的な戦闘はここからだ。
結火は攻性植物に実らせた黄金の果実を輝かせて、至近距離から敵を囲む仲間たちへと祝福を与える。
その結火の体も、まるで二重写しのようにちらつき始めた。火蘭が分身させたのだ。
支援を受けつつ残るメンバーは攻撃をくわえていく。
ローザマリアは少し離れた位置から、狙いを定めていた。
因果と応報、二刀一対の太刀にはすでに雷の霊力が宿っている。
隙を見て一気に接近し、両の太刀で敵を突くと、ローザマリアはすぐに距離をとる。
別に敵が狙撃や癒しを主体とした後衛の動きをしていても、前進を阻む前衛や中衛がいない以上いくらでも近接攻撃は届く。
とはいえ、取ろうとする間合いなどを見ていれば、敵がなにを主体として行動をしているか察することは別に難しくはない。ケルベロスにとってもデウスエクスにとっても。
「……単に敵に大きなダメージを与えるのが目的の動き。わかりやすいわね」
小細工をするタイプではないということだ。
柳の枝が床と同化し、ケルベロスたちを飲み込もうとする。
「厄介な敵じゃないわね。油断はできないけど」
呟き、ローザマリアはたたんだままの翼に聖なる光を集め始めた。
枝で締め上げ、あるいは床に飲み込む。
絶えることのないケルベロスの攻撃を受けながら、不良柳も反撃を続けていた。
戦場がは廃倉庫から出ることはなかった。動き回りながらも倉庫の外に出る方向に敵が向かわないよう皆が意識していたし、敵もことさら外に出ようとはしなかったからだ。
アシュレイは自らの倍もある敵の攻撃に対し、常に矢面に立ち続けた。
強力に振るう鉄塊剣の攻撃はデウスエクスの目を引き続けている。
枝で首を締め上げられながら、彼女は隠れている敵の顔を見つめる。
防具のおかげもあって耐えているが、だいぶ苦しい。
「偽の力、偽の信念では、私の心は砕けません……!」
動かなくなりそうな体を動かして逃れると、アシュレイはくじけずに自分の周囲へ光の結晶を生み出した。
彼女が得た楽しい心が生み出す光は明るく希望に満ちた音楽をつむぐ。
「だったら、その本物の力でどこまで耐えられるか試してやるよ」
床がまた動き出して、ケルベロスたちを飲み込もうとする。
火墨がとっさにアシュレイを突き飛ばして、代わりに引きずり込まれていく。
攻撃を集める彼女を何度かかばってくれていた火墨だが、サーヴァントの体力はケルベロスよりも低い。
「……すみません」
ついに倒れたサーヴァントに対して申し訳ない気持ちが生まれるが、戦闘の最中に表情はうまく変わってくれなかった。
アシュレイが攻撃を引き受けている間に、仲間たちの攻撃は確実にデウスエクスの体力を削っていた。
クィルの生み出した竜の幻影が、敵を強烈に焼き払うと、柳が大きく揺れた。
「まだだ……もっと戦いたい! ケルベロスよりもデウスエクスよりも強くなるまで!」
叫んだ不良柳に火蘭が一気に近づく。
「別に強くなりたいならなりたいでいいわよ、私だって強くなりたい。でもそれで、関係ない奴を食い物にしてんじゃねえっ!」
怒鳴りつける彼女の体内で、地獄化した心臓が爆発的に鼓動をあげる。
「そんな強さがホンモノってんなら、私らをぶっ倒してみろ! お前が奪ったものありったけ使って、全力でぶつけてみろ! チリひとつ、燃えカスひとつ残らないくらい、手前の命燃やしてみせろ!」
全身に行き渡る血液が、爆発的に火蘭を加速する。
「わたしはおまえを全力で受け止めてやる! おまえを全力で倒してやる!」
連続で叩きつけられた拳で敵の体にひびが入った。
「……いいよな、そうやって、傲慢に悪党を見下してこそ正義の味方だ。それでこそ、命を燃やす価値があるってもんだ! オーズの種よぉっ、俺に力を!」
絶叫。
その声と共に見る間に不良柳の傷が治っていく。通常の癒しの技とは桁違いの速度と、回復量で。
「これは……オーズの種の力なのですか?」
エフイーの呟きに答えられる者はいない。
あるいは囚われた人々から奪ったグラビティ・チェインを使っているかもしれない。
少なくとも……戦いが仕切り直しになったことは間違いなかった。
●さらなる力
回復した敵に対して、白陽が迷うことなく接近した。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
構えもせず無造作に振るう刃。
それは柳に一筋の傷もつけなかった。だが、攻撃が失敗したわけではない。
世界に溶け込み、敵の存在と生命の根源を直接切り裂いたのだ。
他の仲間たちも
「次は回復する暇を与えずに倒す。一度倒す寸前まで行ったんだから、もう一度できないはずがないわ」
ローザマリアが剣から時空を凍結する弾丸を放つ。
彼女の言葉と同じような思いを、それぞれに考えたのだろう。
クィルは無表情にルーンアックスを構えた。
「やはり同情の余地はありませんね。望んで力を得たというならその力の及ぼすものについて責任を負うべきです。利用しようとするシャイターンも勿論許せませんが……」
再び最初からだ。
大上段に構えた斧に刻まれたルーンを輝かせて、クィルは叩きつけた。
先ほどの回復で敵を縛る技もある程度解除されたようだ。だが、無表情を保ったまま、彼女は敵を縛りなおすべく切り込む。
柳の枝がアシュレイを締め上げ、ついに彼女の意識を失わせる。
ミーナはその様を見て動きを止めた。
「仕方ない。あまりいい手ではないが……」
距離をとって戦っていたミーナだったが、敵が残った前衛たちを床に飲み込んでいる間に、一気に接近する。
そして、今度はエフイーへと伸ばされた枝を代わりに受けた。
「助かります」
「後衛にいたから、わたしはあまり攻撃を受けていない。しばらくはしのげるからな」
ぶっきらぼうに答えると、エフイーの攻撃に続いて彼女は魂を食らう降魔の一撃を自らを縛る枝に叩き込んだ。
回復したからといって柳の攻撃に変化は見られない。
ただ、床に敵を埋葬しつつ、枝で縛り上げる。そして時折、毒の弾丸を爆発させたり、守護の陣を床に敷く。
「別にパワーアップしてる様子もないな。本当にただの回復か」
結火は呟いた。
回復役として仲間の負傷状況に気を配っていれば、先ほどまでよりもダメージが増しているかどうかは察することができる。
もっとも、ミーナがアシュレイに代わって防衛役に回らなければ、今ごろ1人2人倒れていただろう。
「もう一度削りきるまで、簡単に倒れてくれるなよ」
「わかっている。何でもやれるけど何にもなれないのが私なんだがな」
結火はミーナへと、桃色の霧を飛ばした。
そして再び、終わりは訪れる。
「柳の木の下には幽霊が居るという――迷わず成仏なさい。この花吹雪が、アンタを冥府へ誘ってくれるわ」
ローザマリアの刃が高速で閃く。
桜吹雪のごとく輝く刃から放たれた真空刃が敵を切り刻む。
「もう一度見せてやるだけよ、全力を!」
火蘭の加速された拳や、クィルの飛び蹴りが敵を捉える。
ミーナをようやく締め落としたのが、デウスエクスの最後のあがきだった。
「コード『E.X.C.A.L.I.B.U.R』……! この一撃で、全てを断ち斬る!』」
真の姿を表したエフイーの剣が敵を断つ……。
「まだだ!」
だが、必殺の意気込みで振るわれた攻撃から、敵はギリギリのところで踏みとどまった。
「いや、終わりだよ。死を撒くものは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
だが、悪夢のごとく現れた白陽に存在の根源を崩され、今度こそ柳は倒れた。
●オーズの種
「おしまいか……ま、ガキの頃憧れてたケルベロスに倒されるんなら、悪くもねえか……」
呟いた彼の体から、輝くものが現れる。
「オーズの種……!?」
思わず伸ばしたエフイーの手をすり抜けて、種はどこかへと飛び去った。
「できれば、オーズについて調査したいところでしたが……」
戦闘後に種が現れることは予想していなかった。
もし予測していれば、種に対してなにかできたのだろうか?
だが、種は最早飛び去ってしまった。今さらどうしようもない。
「なにはともあれ、片付きましたネー」
戦いが終わると、結火はまた笑顔を浮かべていた。
「早くみんなを助けなくちゃ!」
「ああ。これも仕事のうちだ」
元気よく言った火蘭に白陽が同意する。
「できれば他にオーズの情報がないか調べたいところですが、まずは救助活動が優先ですね」
「私もできれば手伝いたいですが……すみません」
アシュレイとミーナは、重傷ではないがすぐに動ける状態でもない。
(「もし彼も、もっと早くに別の楽しみを見つけていたなら仲間になれたかもしれません」)
顔だけを倒れた彼に向けて、アシュレイは心の中で呟く。
ローザマリアも、今やただの木くずと化した敵を静かに見つめる。
200の命をケルベロスたちは救った。
けれども、救えなかった、届かなかった命がここにある。
攻性植物とならなければただの若者であった命が。
気にする必要はないと、言うものもいるだろう。
「分かっていても、やりきれないわね」
だが、ローザマリアはかつて人であった物の前で、静かに目を閉じた。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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