かすみがうら事変~毒花狂騒

作者:宇世真

●種
 荒廃した路地裏の、その袋小路が少年の隠れ家だった。
 くたびれた紺色のパーカーの破れた袖や裾の辺りから覗く植物と化した器官。攻性植物を宿した不良少年の一人だ。目深に被ったそのフードの奥から暗い瞳がナイフの様に鋭く尖り、昼尚暗い己が縄張りへと入り込んで来た二つの気配へと向けられる。
 少年が誰何の声を上げる前に、先方の片や――人型をしている方が口を開いた。
「おめでとう」
 少年は知る由もないが、その名を『シルベスタ』というシャイターンである。
「君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう。この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
 シルベスタは言うと、小動物然としたフォルムを有する傍らの『ユグドラシルガードモデルラタトスク』が、木の実を抱えるリスよろしく携えていた『種』を少年に手渡した。
 胡乱な眼差しで彼らを見つめていた少年だったが、警戒しつつ広げた掌にそれが触れた瞬間――開眼する。
「おお、これは……――凄いぞ、細胞の隅々まで染み渡る大地の息吹を感じる。遂に俺の時代が来た! 真なる力の覚醒だ! 滾る、滾るぞォ……!!」
 最高潮に昂ぶる心の侭に少年が放出した力は、路面を抉り、石壁を吹き飛ばし、その残骸を植物の根が、蔦が、葉が覆って行く。絡み合い、天を衝く緑の柱や壁と化す景色。
 その中で、全身に壷型の花を咲かせた少年は勝ち誇った様に哄笑を上げ続ける。
 かくして、彼の隠れ家は樹海の如き陰鬱な緑の檻へと変容したのだった。

●頭痛の種
「危急危急。おう、俺も急いで説明すっから、まあ聞いてくれ」
 挨拶する様に挙げた片手でぱたぱたと手招き、久々原・縞迩(ウェアライダーのヘリオライダー・en0128)は早速話し始めた。
「かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された『楽園樹オーズ』との関連について調査していた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)嬢から緊急の報告が入ってな」
 かすみがうらの攻性植物事件の裏には、やはり、楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があった様だ。
「これまでの諸々――ケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争事件やなんかを生き抜いた不良共に、より強力なオーズの種を与えて一斉に悪さをさせてるらしいんだな」
 既に、オーズの種を与えられた攻性植物達を中心に、かすみがうら市の市街地は密林のような街に変貌し始めており、周囲の市民達は植物に巻きつかれてグラビティ・チェインを吸い取られている模様。
「このままだと市民がからっからに干からびちまう。んで、大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物共は新たな力を手に入れっちまうだろうぜ。んなもん、どっちも阻止しなきゃだろ。だからよ――」
 顔を上げ、ヘリオライダーは訴える。
 かすみがうらに向かって、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破して欲しい。と。

 敵は一体。だが、強力な固体だと彼は言う。
「元は紺色のパーカーを着ていた様だが、今はもう殆ど植物の化け物みたいになってる。3mはあろうかってデカブツだが、周りの建物も植物化してっから、紛れて忍び寄って来るかもしれねぇ。つまり、気を付けねぇと、奇襲されかねないってこったな」
 また、敵がその身に無数に咲かせている白い壷型の花は、アセビによく似ている様だ。
 ――馬酔木と書く。
 調べて来た、と実際に字を書いて見せながら毒性植物だと付け足す彼。全部位に毒が含まれている程の危険な植物である。とりわけ『捕食形態』には注意した方が良いだろう。
「現場の方も元の袋小路の面影はゼロだ。市街に喰い込む巨大な緑の檻だな。中はさながら樹海。巻き込まれて倒れている市民は、道端や屋内も合わせてざっと200名程って所か」
 市民に取り付いている植物を引き剥がして始末すれば、救助する事も可能だ。
 しかし、救助活動を行えばそれは攻性植物にも伝わる事となる。
「アセビ野郎さえ倒せば人々を捕らえている植物も消える筈だ。こっちから奇襲を仕掛けるなら、敵に気づかれない様にしないとな。逆に、救助に時間をかけすぎたり、救助にばかり気を取られてると……さっきも言ったが、奇襲を受ける側になっちまうぜ」
 一通り説明を終えると縞迩は、こめかみを押さえて静かに息を吐いた。
「なんとも頭の痛ぇ話だが。よろしく頼むぜ。まさか、かすみがうらの攻性植物事件の陰にシャイターンがいたとは――だが、このままかすみがうらを植物化させやしねぇ。だろ?」
 そう言って彼は、こめかみに指を立てたまま、にやりと笑うのだった。


参加者
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
ディーン・ブラフォード(バッドムーン・e04866)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
霞・澄香(桜色の鎧装騎兵・e12264)
アクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)
マティアス・エルンスト(メンシェンリアリン・e18301)
鳴神・御琴(神鳴りの巫女・e23197)

■リプレイ

●索敵
 植物が繁茂するかすみがうらの市街を、ケルベロス達は周囲に注意しつつ進む。
 右も左も同じ様な景色が広がり、用意した地図も、現場の様子がここまで変わってしまっていては用を為さない。
「……予想を越えていました」
 どこか申し訳なさそうな鳴神・御琴(神鳴りの巫女・e23197)の小さな呟き。志藤・巌(壊し屋・e10136)も同感だった。樹海と化そうとしている市街は、思ったよりもかなり見通しが悪かったのだ。
 そんな中、撃破対象を探し歩いて時間だけが過ぎて行く。
 探索中に植物に絡め取られた要救助者を見つけても、手を差し伸べる事はしない。
 奇襲を作戦の主眼に置いている為、解ってはいても彼らを素通りせざるを得ない事に槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)の胸は痛み、囚われた市民の身を案じるアクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)の表情も刻一刻と険しくなって行く。
 ――手遅れではない、という事。
 それは、紫織達の心の支えでもあった。だが決して楽観は出来ない状況だ。
 一秒でも早く、と思いはすれど、中々成果は上がらない。
「一応調べては来たが――」
 と口を開く、ディーン・ブラフォード(バッドムーン・e04866)の言葉を頼りに探す『アセビ』によく似た植物自体は、そこかしこに絡みつく様にして生えていた。
 どこか不気味な佇まい。標的が紛れ込んではいないかと慎重に観察しては、落胆して次へと向かう一行。目に入るアセビを片っ端から問答無用で攻撃したくなる気持ちを人命第一で抑え、ディーンもその繰り返しである。
「どっかに紺色の布切れが纏わりついてたりしないかね」
 かつては紺色のパーカーを着ていたという、僅かな望みに賭けたりもする。
 『木を隠すには森の中』を地で行く様な攻性植物を探しつつ、同時に、一行は足場の確かな、立ち回りに適した場所を意識しながら歩き回った。
「――あ」
「えっ?」
 ディーンは目を丸くして、仲間の声を振り返る。
 その時、彼は何気なく往く手を阻む蔦を払い落としていたのだが――見通しが良くなると同時に、不安に駆られて眉根を寄せた。攻撃したつもりも救命の意図もない。が、
「……もしかして、まずかったか?」 
「わからん。だが、備えておくに越した事はない」
 と、アクレッサス。その行動自体がどう作用するのかは誰にも判る由もないのだ。
「作戦を前倒ししても良いかもしれねェな、そろそろ」
 時間と人命を気に掛ける巌の提言に、アクレッサスとマティアス・エルンスト(メンシェンリアリン・e18301)が応じる構えを見せると共に、紫織が向ける心配げな眼差し。
 マティアスは恋人の視線に気付くと柔らかく微笑んで見せた。
 そんな彼に、詩織は言わずに居られない。
「……気をつけてくださいね。貴方に何かあったら私、本当に泣きますから」
 対する彼は小さく肩を竦めるばかり。
 かくて、彼らは次策へと動き出す。
 敢えて救助活動をする事で敵を誘き出すのだ。そうして、マティアスと、ボクスドラゴンの『はこ』と共にアクレッサスが要救助者を求めて歩を進めた矢先の事だった。
 他の仲間達が用心深く周囲に気を配りながら身を潜める場所を探す最中、遭遇した『アセビ』が『それ』であるかどうかを確認するより早く、花から迸る光線が――仲間に追従する形で最後尾についていた霞・澄香(桜色の鎧装騎兵・e12264)を撃ち抜いた。

●後手
 果たして気付かれていたのかどうか。それは誰にも判らない。
 ただ、双方奇襲にならなかったのは確かだ。兎角、戦闘でも後手に甘んじる事態にマティアスは僅かに目を細めた。感情を揺らしはしない。何故なら倒すべき敵が目の前に居る。
(「……先ずは今ここに囚われている人達を護らなければ」)
 思い新たに鉄塊剣を振り被り、
「後手に回った後悔なんて、後からでも出来るんですから……!」
 ライトニングロッドを構えた紫織の言葉に肯く胸中。続く彼女の詠唱を耳にしながら彼は地を蹴った。
「『エネルギーチャージ、200%……活性放電、スタンバイ……ッ、私の力、受け取ってください! ディスチャージッ!』」
 ロッドを介して放たれた紫織の電撃――生体機能活性エネルギーが前衛陣の戦闘力を増強するライトニングブーストの、狭間を駆け抜けるマティアスのデストロイブレードがアセビの化け物と化した攻性植物の怒りを誘う。初動の射線を潜り抜ける軌道で肉薄した螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が繰り出す重く鋭い飛び蹴りが、流星の軌跡を描いて敵の機動力を削ぎ、次いでオーラの弾丸が喰らい付いて行く。逸れない様に狙い澄ました巌の一撃だ。
「ぐうう……!」
 怒りに満ちた唸り声は、攻性植物と化した人間のものか。震える枝葉の腕の先で花が膨らんで行く様を見て、ディーンが、はんと鼻を鳴らして言った。
「よくもまぁ、ここまで道を踏み外せたものだ、欠片も尊敬はしないがな」
「力が欲しいのはわからんでもねぇが、化物になっちまったら本末転倒だろうに」
 続くアクレッサスの言葉に。
 デウスエクスに利用された成れの果てと思えばいっそ哀れ、とセイヤも思う。
(「所詮は他人に与えられた偽りの力――」)
「そんな偽りの力で俺達を倒すことはできん……!」
 吐き棄てる言葉に、眼差しに、早々に叩き潰すという強い意志を滲ませるセイヤの視界に、ふと気付けば紙兵が舞っている。身を焼く痛みに苛まれながらも涼しい顔をした澄香が彼らの周囲に散布する、守護の霊力を帯びたものだ。その光景を確認するやアクレッサスは肺を膨らませた。キャスターとして立ち回るマティアスに属性の守護を齎す役は『はこ』に任せ、己は攻性植物に向けて瘴気の息を吹きつける。――毒には毒を。
「『とくと味わえ……蝕まれる恐怖を』」
 その声が普段に比べて数段凄みを増している様に聞こえるのは、気の所為ではないのだろう。人知れず、苦い記憶と向き合う葛藤がそうさせる。
(「なんとしてでも、1人の死者も出してやるものか」)
 視認できる範囲に囚われている民間人の姿が在る。逸早く安全な場所に連れて行きたい思いもよぎるが、既に戦闘が始まってしまった今、己の任はディフェンダーの役を務め上げる事のみ。後衛に託そうにも、こうなってしまっては無事に離脱できる保証もない。
「何にせよ、デウスエクス共の企みを全部台無しにしてやるのも悪くない、ってな! まずはコイツからだ、受け取れ」
 ディーンの言葉と共に、ちらつく分身の幻影がマティアスを守る影の様に重なり、その傍らを氷砕片を散らす騎士が風と吹き抜けた。御琴が召喚した【氷結の槍騎兵】は、その冷たい槍身で攻性植物に迫り、突き立て、裂き貫いて行く。
「これ以上、攻性植物の好きにさせる訳には参りません」
 シャーマンズカードを振りかざす御琴のその想いに、応える様に。

 花の毒牙の喰らい付かれようとも、その足元を深淵に呑まれそうになろうとも。
 彼らは止まらなかった。マティアスの腕から回った毒素浄化の光を纏う盾の力で消し去った紫織が深淵に飲まれた時は、御琴が溜めて放つ気力が彼女を解き放つ。救いの手は常に彼らの傍に在り、彼ら自身も誰かの救いの手であった。自らを積極的に狙わせる事で、戦場内に囚われている市民を護るマティアスの目が、脚が、次なる導線を捉えて身を運ぶ。
「攻撃軌道、計算完了」
 宣言。及び、実行。
 流星煌く重い蹴打を死角から浴び、もんどりうつアセビ野郎に見切る余地すら与えないのは他の者達も同様に、巌が放つオーラの弾丸は出端こそ通常の気咬弾と同じものだが、
「『喰らいつけ。気咬弾・六花!』」
 6つの小さな塊に分裂して、それぞれが無軌道に敵へと襲い掛かって行くのだ。
 仲間を護り、高めるグラビティはアクレッサスらの手によって切れ間なく展開され、彼らの支援を受けて、セイヤ達は攻撃に専念している。魂を喰らう降魔真拳がアセビ野郎を内部から揺さぶり、晴れて仲間達のウォームアップを終えたディーンの渾身の乱舞がその表皮を削ぎ落として行く――『ハウリングムーン』。
「『花よ散れ、鳥よ堕ちろ。我は風の如く切り裂き、そして遂には月をも穿たん!』」
 掃い、薙ぎ、斬り上げ、返して貫く一閃。連撃に次ぐ連撃、おまけに追撃。
 アセビ野郎は圧しも押されて、後ずさる。
 後一押し。
(「やれやれ……、なんとかなりそう、か」)
 慣れぬポジションでの立ち回りにアクレッサスが密かに抱いていた懸念も薄らぐ程度には、順調に事は運んでいると思われた。実際、身体を引き摺って蠢くアセビ野郎は息も絶え絶えに見える、が――このまま、押し切るまでは気を抜くまいと彼は呼気を胸に吸い込んだ。
 
●隠し弾
「……逃がさない」
 これでもかと追い詰めて行くマティアスの冷たい声が、刃と共に樹肌を突き刺す。
「人間を辞めて嬉しいか……? 偽りの力が楽しいか……? 覚えておけ……貴様がここで死ぬ理由は、人間を辞め、多くの人々を傷つけたからだと……!」
 激情に駆られるままに口にして、セイヤは切り札を放つべく身構えた。
 それが、瀬戸際まで追い詰めた攻性植物に与える最後の一撃と――なる筈だった。
 しかし、その刹那、事態は一変する。
「吹いてろ。俺は、まだまだこんなもんじゃない。――オーズの種よ、俺に力を!」
 叫ぶや否や、彼の身体に力が膨れ、溢れた。それが何を意味するのか不明な状況下、反射的に防御を固めて攻撃に備えるケルベロス達の目の前で、攻性植物はたちどころに活力を取り戻して行く。目に見えてぼろぼろになっていた表皮が艶々と漲り、対面直後の姿へと。
「何……?!」
「まさか……!」
 ――全快した?
 セイヤは咄嗟の判断で構えを転じ、流星の蹴りを見舞った。ふりだしに戻ったのか、いやそれ以上に、この期に及んで仮初の力に頼る性根に、ふつふつと怒りが沸いてくる。
 囚われたままの市民達には何ら変化は見えないが、こうしている間にもグラビティ・チェインを吸われ続けているのは確かで、彼らの死を忌避する巌やアクレッサスらは顔色を変え、ディーンは己の中で何かが切れる音を聞いた。
「毒の花が狂い咲いても誰も見ずに其処を避けて通るだけだ。迷惑しか他人様に及ばさねぇなら、とっとと散って枯れ果てろ!」
 響くディーンの怒号が、合図となった。
 そして、彼らは仕切り直しの一戦へと身を投じて行く。
 始めからもう一度、畳み掛けるだけとばかりに。
 
 繰り返される応酬は激しさを増し、幾度となく攻守の波を複雑に描いて止まない。
 揺れる視界に、ふと映り込む桜色。焦点を合わせた先で澄香が片手を軽く振っていた。
「大丈夫ですか? 危なくなったらカバーに入りますよ」
「この程度、問題無い。俺は本来、戦闘機だからな」
 気丈に応じてはいるものの、マティアスの足元は癒す事ができない疲労の蓄積を隠し切れない。それは彼の功労の証でもあった。が、この時、既に御琴は戦闘不能に陥り、アクレッサスの『はこ』の姿も確認出来ない。後方からは気遣わしげな紫織の声が飛んで来る。
 重ねる怒りで敵の攻撃を誘引していたとはいえ、その他の要因で彼以外に被害が及ぶのを彼らは完全には喰い止める事ができない。他の面々も程度差こそあれ、無傷ではなかった。
 だがそれは敵とて同じ事。
「力を求めればいつかはそれ以上の力に押し潰される、てめぇの場合ソレが今だったってだけだ」
 肉を切らせて骨を断つ様に。一度目よりも遥かに早くその時は来たらしい。更に幾重にも連ねる攻撃の中、ディーンがその手応えを口にすれば、振り切る様に否やを叫ぶ敵の腕。
「だ、ま、れェ……!!」
 自己回復と恋人からの支援でその場を乗り切るマティアスに再び迫る毒花を、間に飛び込んだアクレッサスが受け止め、すかさず澄香がアームドフォートで照準する。
「『クイックスイッチ、オープンロック。アンキャニーアルティメイタムキャノンズ、……ファイア!』」
 通称、『U.U.C.』。クイックタイプに切り替えた腕部の武装ブーストが唸りを上げて高速稼動、敵の動きを止める牽制弾に本命1発の計6発が、2秒の間に樹木の腕ごと叩き落す。
「――さぁ、今であります!」
 バシュ、と小気味良い音を立てて排熱の為の蒸気を肩口から噴き上げる彼女。
 譲る様に開かれた道へ、応える様に飛び込んだ巌がアセビ野郎の胴にピタリと銃口を突きつけた。零距離からのガトリング連射に踊る攻性植物の四肢。破片を撒き散らして蜂の巣状になりながら、彼は未だその枝を伸ばして花を開こうとする。仕留め切れないその様に微かに舌打ちしながら、巌はしかし二度目の奇跡は起こらない事を確信していた。ちらと走らせる視線の端から、漆黒のオーラを全身に漲らせたセイヤが滑り込んで来る。
「どの道これで、今度こそ終いだ! 『打ち貫け!! 魔龍の双牙ッッ!!』」
 翼を広げ、跳躍と共に解放したオーラは黒竜の姿を纏って拳に集い、敵の直上から真芯を捉え――飛散する欠片諸共、毒花をその命を撃ち抜き、一気に喰らい尽くす。

「……――」
 どこかで一つ間違えれば自分がこうなっていたかもしれない、と――。
 想う故にか澄香はその最期を見届け、無言の祈りを捧げた。
 急速に枯れて行く、攻性植物だったモノ。かつて人だったモノ。
 次の瞬間、干からびた死体の中から光り輝く何かが出現した。
「オーズの種、か……?!」
 探すまでもなく目の前に現れたそれに、セイヤは咄嗟に手を伸ばす。
 が、間に合わない。オーズの種は飛び去り、空を掴んだ拳に力が篭る。
「………」
「と――とにかく、まずは市民の皆さんを!」
 攻性植物の撃破と共に市民を捕らえていた植物も枯れ落ちている。倒壊の危険を孕んだ建物内に取り残された人も居るかもしれない、と駆け出す澄香。幸い戦場で囚われていた人々の命に別状はない様で、急ぎ駆け寄り助け起こしたアクレッサスらも安堵の吐息。
「御琴さん、は、大丈夫ですか?」
「……はい。も少し、休めば何とか」
 御琴を介抱していた紫織も胸を撫で下ろして、マティアスと共に立ち上がる。
 そして、一行は路上に無造作に投げ出された人々の介抱と救助に、暫し一心不乱に奔走するのだった。

作者:宇世真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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