かすみがうら事変~芽吹く狂気の種

作者:雪見進

「これが……俺の……チカラだぁ!」
 攻性植物と化した不良が大きな咆哮を上げる。それは気に入らない相手を叩きのめした勝利の咆哮。
「ふふふ、ははは、あっぁっははは!」
 不気味なほどの高揚感に身を任せ、唸り吠え叫ぶ。その様子は最早人間としての理性を持っているのか怪しいほどだが、その叫びが止まる。
 叫びを止めたのは、突如目の前に現れたシャイターン・シルベスタと攻性植物・ユグドラシルガードモデルラタトスクだった。
「お前は何だ?」
 不良は高揚感を昂ぶらせたまま拳を握る。しかし、目の前に現れたシャイターン・シルベスタから発せられた言葉は、その不良にとって予想外の言葉だった。
「おめでとう。君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう」
 言葉の意味も分からぬまま、シルベスタを睨みつける不良。
「この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
 その言葉は半分以上、不良には届いていなかった。ただ理解したのは、何か新しいチカラを貰えるという事だけ。そのまま手を差し出し、ユグドラシルガードモデルラタトスクが持っていた、オーズの種をシルベスタから受け取る。
「これが新しいチカラ……」
 種を受け取った瞬間、不良の身体から凄まじいチカラが溢れた。
「身体が全て生まれ変わったようだ、ふふふ、ははは! アハハハハァァ!」
 叫ぶと同時に強く地面を踏みしめると、その衝撃波と共に周囲の建物は謎の植物に包まれた植物的なナニカに変化していた。
「ふふふ、あっはっはあ!」
 そのチカラに歓喜し、不良は再び吠える、それを見届けた後、二人は何処かでへ消えるのだった……。

「かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された、『楽園樹オーズ』との関連について調査していた白神楓さんから、緊急の報告が入っす」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は少し興奮気味に説明をする。その内容は白神・楓(魔術狩猟者・e01132)からの緊急報告だった。
「かすみがうらの攻性植物事件の裏には、やはり、楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があったらしいっす」
 そのシャイターンはケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争事件などを生き抜いた不良達に、より強力なオーズの種を与え、かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたらしいのだ。
「オーズの種を与えられた攻性植物達を中心に、かすみがうら市の市街地は密林のような街に変貌し始めてるっす」
 周囲の市民達は植物に巻きつかれてグラビティ・チェインを吸い取られているらしい。
 このまま放置すれば、全てのグラビティ・チェインを吸い取られた市民は干からびて死亡し、大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物達は、新たな力を手に入れてしまうだろう。
「それを防ぐため、かすみがうらに向かって、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破して欲しいっす!」
 そう説明した上で、今度はより詳しい攻性植物についての説明に移るのだった。

「皆さんに相手して欲しいのは、その中の1体っす。今までよりも多彩な攻撃をしてくるようっす」
 その攻性植物は今までの攻性植物が使ってくるグラビティに加え、ツタを鎖のように伸ばし攻撃してくる可能性があるとダンテは説明する。さらに外見は植物のような外見で、さらに3mほどの巨体。しかも、周囲の建物が植物化しているため、警戒を怠ると奇襲される可能性があるほどの隠密性も備えているようなのだ。
「周囲で倒れている市民は200人程度と思われるっす」
 さらに、捕らわれている市民もかなりの数である。もちろんケルベロスが市民を捕らえている植物を引き離して始末すれば救助可能だ。
「でも、難しい場合は攻性植物を倒す事を優先した方がいいかもしれないっす」
 しかし、攻性植物を倒せば市民を捕らえている植物も消えるはずなので、救助を行わなくても問題無いと、ダンテは説明する。
 ただ、そう説明するダンテの表情も複雑だった。市民を救助したいのは誰でも思う事だが、救助の間に攻性植物から奇襲される可能性があるのだ。市民を救う事も必要だが、何よりも攻性植物を倒さなければ、より被害が拡大してしまう。
 さらに救助活動を行えば、その事実は攻性植物に伝わってしまうので、その時点で敵がケルベロスが来たことに気づくので、奇襲などは不可能となる。
「かすみがうらの攻性植物の事件の背後で、シャイターンが暗躍していたというのは予想外だったっすけど、白神さんのおかげで最悪の事態になる前に察知する事ができたっす」
 一歩遅ければどうなっていたか分からない。
「敵がかすみがうらを完全に植物化するまえに、なんとか撃破して欲しい」
 そう言って説明を終えるダンテだった。


参加者
クロノ・アルザスター(地球人の鎧装騎兵・e00110)
レーベン・ヴァルター(エグゼクター・e01734)
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)
夜殻・睡(氷心は眠り続ける・e14891)
京・和紗(ウェアライダーの巫術士・e18769)
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)
赤崎・蛮(豪炎の終焉破壊者・e24005)

■リプレイ


 ここはかすみがうら。そこで攻性植物の事件が発生し、そこにケルベロス8人が急いでいた。
「攻性植物がここまでの規模になるとは想像していなかったな」
 レーベン・ヴァルター(エグゼクター・e01734)が凛々しい声を響かせる、遠くに見える家やビルなどが植物に覆われ、ジャングルと化していた。
「いやはや、そういえば東京がジャングルになっちゃうテレビゲーム発売されてたなぁ」
 明るい声で雑談をするのはクロノ・アルザスター(地球人の鎧装騎兵・e00110)。その明るい口調はかなり大変な状況だからこその、意味もあるのかもしれない。
「僕自身もど田舎出身だけどジャングルは初体験だねぇ……」
 そんなクロノに合わせるようにガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)も軽く笑いながら雑談に合わせる。
「コンクリートジャングルって、こういうのだったかな?」
 そんな軽口で、皆の緊張を解こうとしている様子でもある。
「暗躍ですか……シルベスタの攻性植物バージョンアップ作戦って……」
 そんな軽口を聞きながら呟くのは薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154) 。シルベスタの作戦に嘆息している様子。
 この事件はシャイターン・シルベスタがユグドラシルガードモデルラタトスクが持っていたオーズの種をかすみがうらの攻性植物と化してしまった不良に渡した結果なのだ。
「ともかく、さっさと片付けて、助ける。……手遅れにならないうちに」
「そうだね、時間の余裕はない。ためらっている時間もないかねぇ」
 夜殻・睡(氷心は眠り続ける・e14891)の言葉に同意するように答えるガロンド。このジャングルには多数の市民が捕らわれてしまっている。本来ならすぐにでも助けたいところなのだが、数が多いなどの理由で、このジャングル化の原因である攻性植物を真っ先に倒す。それが成功すれば、このジャングルの植物も枯れるのだ。
(「状況的にここで看過するのはかなり危険なことになるのでしょう。しっかりと止めなければ」)
 京・和紗(ウェアライダーの巫術士・e18769)は心の中で決意の言葉を繰り返していた。
(「今回の攻性植物は野菜に例えると何だ?」)
 そんな中で一人、何故か野菜であれば何に該当するか考えている赤崎・蛮(豪炎の終焉破壊者・e24005) 。しかし、別に依頼に対して不真面目という訳ではないのだが……。
「手早くぶっ倒せば、救助活動もスムーズというわけです。急いで行きましょう」
「そうだな!」
 ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)の言葉で先を急ぐケルベロスたちだった。


「まさかさー、こーゆー所で一緒になっちゃうなんて思わなかったねー」
「クロノと一緒に戦うのは久しぶりだな。だけど、余り騒ぐなよ、敵に気付かれるからな」
 クロノとレーベンは相棒の関係。そんな話をしながらジャングルへ入っていく。ケルベロスたちは円陣を組み全方向に警戒しながら、静かに慎重に進んでいく。
(「やれやれ、骨の折れる仕事になりそうだな」)
 でたらめに生える植物を見ながら心の中で呟くレーベン。そんな中で、和紗がそっとラーナの袖を引く。
「……」
 それは敵発見の合図。合図を受け取ったラーナは隠密気流を纏い、目立たないようにしながら、建物の影から覗き込む。その先には全長3メートルの巨体な攻性植物が仁王立ちしていた。
 その姿から慢心と油断が見えるのだが、ラーナは戻り首を横に振る。仁王立ちする攻性植物の周囲には囚われた人がまるで果実のように吊られていた。ここで戦えば巻き込んでしまうかもしれない。
「こちらに誘い出せば、激しい戦闘になっても、被害なく戦えそうですわ」
 怜奈は周囲を調べ、誘い出す場所を決める。声に出したのは、さらに誘い出しの役割を引き受ける意味もあった。そのまま、攻性植物から見える位置へ移動する。
「貴方が力にだけ魅了された、おバカさんね」
 言葉と共に嘲笑。
「な、なんだとぉ!」
 その言葉と嘲笑にあっさりと乗る攻性植物。同様の言葉を他の者が言ったらまた、違っただろう。そんな気に見事な嘲笑だった。
 挑発に乗るのを見た瞬間、怜奈は蒼く光り輝く蒼玉を作り出し光りを放つ。
「サファイアに秘められし探し海の崇高なる思いを……」
 その光りがケルベロスたちに力を与える。
「ブッコロシテヤル!」
 自分の叫びを完全に無視され、完全に知性が判断を放棄し野獣のように吠え、怜奈に向かい疾走してくる。これで戦いやすい場所への誘い出しが完成した。戦いの始まりだ。


「確かに、力を求めた愚者の末路って感じだねぇ」
 何かを求める者と縁があるガロンドとしては、その気持ちが多少分かるかもしれないが、あえて挑発する言葉を混ぜながら、黄金の果実を実らせ、その光で皆に力を付与する。
「テメェェェ!」
 連続の挑発に激しい怒りを感じているのか、大声を上げながらガロンドに攻撃を仕掛ける攻性植物。蔓を鎖のように伸ばしながらガロンドを攻撃。その蔓の動きがケルベロスチェインと似ているのは、模倣だろう。外見だけ似せた攻撃がガロンドを襲うが、それを受けても微動だにしない。
「簡単に力が得られるなら興味があったけど、この程度ならいらないかな?」
 挑発を続けるガロンドだが、無論ダメージが無い訳ではない。ただ、のんびりの口調で見えていないだけだ。
「テメメメェェェェェ!」
 しかし、挑発は効果覿面。激しく吠える攻性植物。その隙を狙い、連携攻撃を繰り出すケルベロスたち。
「植物は良く燃えるってねー、行くわよレーべ!」
「そうだな」
 元気の良いクロノにレーべンが合わせる形で連携攻撃を繰り出す二人。先に攻撃を繰り出したのはクロノ。エアシューズの摩擦熱を込めての下段回し蹴り。
「グガガ!」
 その蹴りで注意が下に向かったタイミングを逃さず両手のリボルバーを目にも止まらぬ速さで抜き打ち、正確な動きで攻性植物の蔓や蔦を削っていく。
「てめぇ!」
 そこへ反撃の手を伸ばそうとする攻性植物を邪魔するように何か白い物が舞う。
「……」
 それは和紗は縛霊手から舞い散らした紙。花吹雪のように舞った紙は、次の瞬間に紙の兵士となり、皆を守るように立ち上がる。
「力に溺れるとロクなことにならない、っていう典型的な例……だな」
 紙兵の支援を受けながら、さらに言葉を重ねる睡。斬霊刀・雨燕を達人の技術で操り、攻性植物へダメージを与えていく。
「燃やすのと痺れるの、どちらがいいでしょうか」
 連続攻撃の合間に、ラーナは問いかける。
「へっ、どっちもゴメンだね! 逆に毒でもくらってろ!」
 そんなラーナの問いに毒々しい色の蔦を放つが、その蔦を受け流し、カウンター気味に雷撃を放つ。
「ぐがぁ!」
 見事に命中した雷撃で痺れる攻性植物。
「野菜であれば、キュウリと言ったところだな」
 そこへ距離を詰めながら呟くのは蛮。身体を覆う植物が鎧のようになっているのだが、その中身は色々な意味で空っぽ。それが、外見が立派だけど栄養が少ないキュウリに例えた……のかもしれない。
 または、全体的に長っ細い雰囲気からだろうか。
「うるせぇぇ! 俺はキュウリ嫌いなんだよ!」
 そんな蛮の言葉に何故か律儀に反応し、蔓を伸ばしてくる。それをチェーンソー剣で切り払いながら、達人の一撃で同中央を横薙ぎに斬り払う。
 最初の奇襲は失敗したものの、前半は比較的ケルベロス側が有利に戦いを進めていた。

「そろそろ止めかな?」
 ある程度、有利に戦いを進めたからか、そんな言葉が誰とも無く漏れる。以前に現れた攻性植物と比べ、多少強い程度の敵。予想よりも有利に進んでいく戦いに、拍子抜けしてしまっていたケルベロスたち。しかし、そんなケルベロスたちを睨み、そして笑みを浮かべる攻性植物。
「オーズの種よ、俺に力を!」
 そして手を壁の植物に触れると、一瞬で今までの傷がほとんど治り、余裕の笑みを浮かべる。
「ふむ、傷が治るとは……キュウリというよりはメロンかな?」
 そんな驚愕してもいいような状況で蛮は呟く。メロンが野菜かどうかはともかく、メロンは成長途中で割れた表皮を染み出した果汁で保護する性質がある。それを見て、この攻性植物をメロンと言ったのだろう。
「……なっ!」
 蛮の反応に、寧ろ絶句する攻性植物。その反応を見る限り『これがオーズの種の力か!』とか『恐ろしい力だ!』とかの反応を予想していたのだろう。内心、驚いている人もいるかもしれないが、所詮は強力なヒールだ。もし、無尽蔵に使える力ならば脅威だが、そもそもピンチになるまで使用しなかったのだから無尽蔵に使える訳ではないだろう。
「こっちも回復を行うわ、全ての超常を侵食しなさい……カレイドミスト」
 クロノの体内のグラビティチェインを霧として発生させ周囲を覆うように展開させ、皆の傷を癒し毒を中和させる。さらに和紗も紙兵をさらに散布させ、長引きそうな戦いへ備える。
「オーズの種をミミックに食べさせようかと思ったけど、いらないかもね」
 ガロンドは激しいダメージを負っているにも関わらず、それを見せないようにしながら、いつもののんびり口調。
「あなたの力がどの程度か興味はありません」
 逆に全く興味の無いラーナと反応は様々。
「キサマラァァ!!」
 切り札なのだろう。それをメロンだの要らないだの興味ないだの言われ、激怒する攻性植物。
 そんな様子を全て細かく観察している怜奈。その怜奈の観察では、この回復によって周囲に囚われている人が苦しんでいる様子もない。ならば、このまま戦うだけだ。
「ちょっと、力に溺れ過ぎたみたいね……」
 少し憐憫な視線を向ける怜奈に再び激怒する攻性植物。
「ブッコロシテヤル!」
 オーズの種の影響か、それとも元々は不明だが怒りで呂律が回らなくなった攻性植物。ともかく、第二ラウンドの開始だった。


「まがいものの力なのかねぇ」
 黄金の果実の光で自身と皆を癒しながら挑発を続けるガロンド。しかし、その挑発にも限界があった。さらに、激しい戦いは長く続いた結果、ケルベロス側の弱点が露呈してしまった。
「こうすりゃ、てめえらは戦い辛いんだろぉ!」
 あえて囚われた市民の側に移動し戦い始めた。それを身をていしてかばうガロンド。挑発したり、囮的な動きを繰り返していたガロンドの体力はもう限界だった。
「少し休ませてもらうね」
 ついに前線を支えていたガロンドが膝を付き、さらにクロノにも余裕はなかった。
「ならば覚悟を決める!」
 そんな人々を人質に取られた状態でも、積極的に前に出たのは蛮。ここでケルベロスたちが倒れては、この場の200人だけでなく、それ以上の犠牲が出てしまうかもしれない。
「お、おい……いいのかよ、こいつ殺すぜ!」
 そんな『何かあろうとも殲滅する覚悟』を見せる蛮に攻性植物がむしろ気押される。
 人質が効果無いとなれば、むしろ邪魔にしかならない。
「ウガアアア!」
 そんな蛮の気迫に飲まれたのか、人質を離し反撃の蔦を射出する。
「煉獄の炎をくれてやる……ッ!」
 その攻撃をチェーンソー剣で切り落としながら、左手で強烈な打擲。同時に蔦を掴み、マフラーから吹き出す地獄の炎に巻き込まれ、炎の竜巻となる。
「アチいい!」
 叫ぶ攻性植物に大きな隙が生まれる、
「今ですわね」
 怜奈はカードを掲げ、フロスト・ランスナイトを召喚。
 氷属性の騎士がランスを構え突撃を繰り出す。
「……」
 皆の攻撃に合わせて、和紗は矢をつがえず弦を引き鳴らす。それは鳴弦により邪気や魔気を払う退魔儀式。一部簡略化しているが、その鳴弦により、仲間たちを包む毒気や邪蔓を払う。
 その鳴弦に背中を押されながら、動きやすくなった皆が連続攻撃を仕掛ける。
「もう一度、行くわよレーべ!」
「私もいきますね」
 クロノ、ラーナそしてレーベンがタイミングを合わせる。
「そうだな、とっておきをくれてやる」
 先に動いたのはクロノとラーナ。
「させるか!」
 そこへ放たれた蔦がクロノを貫く……かに見えたが、そこで貫かれたのは分身の術で覆っていた幻影。その幻影でダメージを最小限にとどめ、距離を詰めるクロノとラーナ。そのまま二人の流星の蹴りは下半身を蹴り体勢を崩した後、星を見るように天へ貫き、巨体の攻性植物を浮かせる。
「十分堪能するがいい」
 浮き上がった攻性植物を冷静に正確に同中央を狙い撃つレーベン。その弾丸は何の力を持たない鉄屑。しかし、その鉄屑が目の前で展開した7つの術式により、あらゆる敵を穿つ魔弾へと変貌する。
「ぐはぁぁ!」
 完全に貫通したレーベンの弾丸だったが、それでも攻性植物の息の根は止まらなかった。そこへ最後の一矢を放つのは睡。
「天に満ちるは数多の雫」
 静かに睡が声を響かせると、空中と地中に二十四振りずつ、四十八振りの氷の刃が作り出される。
「ジャマダァァァ!」
 それに対抗するように蔦を増やし睡に伸ばすが、それより早く睡が大上段から雨燕を振り下ろし、同時に四十八の氷の刃が殺到する。
「咲くは四十九の刃也ー」
 四十八の氷の刃に加え、自身の雨燕、合わせ四十九を『しずく』と詠むは氷の獰猛な牙。
「ぐはぁ!」
 残るは噛み砕かれ散り落ちる雫。
「チクショオオオオオオオウ!!!」
 悔しさを込めた断末魔を上げる攻性植物。そのまま足元から茶色になり、そのまま枯れていく。
 あっと今に干からびた攻性植物。その身体から光輝くオーズの種が現れる。
「これがオーズの種?」
 突如現れたオーズの種に視線を奪われるケルベロスたち。
 次の瞬間、そのオーズの種は、何処かへ飛び去ってしまった。
「倒れている人を救助しよう」
 飛んで行ってしまったオーズの種の事をこれ以上考えても仕方ない。攻性植物を倒した事で周囲の植物は急速に干からびて枯れていくのだった。


 救助活動をしながら、オーズの種の手掛りを探す怜奈。
「全ての市民を救えたのでしょうか……」
 攻性植物を倒し、周囲の植物は枯れた。それにより捕らえられた市民は解放されたが、それで全ての人が無事だったか確認するには、多少時間が必要だった。
「この数は骨が折れる」
 蛮も戦いの疲れを感じながらも一生懸命救助活動を行う。少なくとも現在のところ、皆無事にようだ。
 しかし、かなりの人が激しく疲労し、怪我もしている。
(「次はシルベスタの首を貰い受けるわ」)
 そんな惨状を見ながら、心に刻む怜奈。
 今回は、被害を最小限にする事が出来た。それは紛れも無くケルベロスたちの活躍だった。駆けつけてくれた救急車に運ばれる人を見ながら、静かに無事を祈るケルベロスたち。
「救助活動を続けましょう」
「そうだな」
 今、立ち止まっては助けられる可能性を失ってしまうかもしれない。戦いで傷ついた身体と疲労を引きずりながら、救助活動を続けるのだった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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