「アニキ、買ってきやした」
「おゥ、サンキュな。この姿じゃおちおちマンガも読めやしねェ」
深夜のコンビニ駐車場。光に吸い寄せられる虫のように、車止めに腰掛けてダベっている若者たち。
アニキと呼ばれた男、いや、その物体は身体を巨大な鳳仙花に変化させた攻性植物だった。
「久瀬ロック君、だね?」
そんな見るからに危険な存在へ近づいてきた2つの影。
「あァ? なんだお前は……」
怪訝そうな視線を向ける久瀬。その先には半裸で耳の長く浅黒い肌をしたマントの男と、緑色をしたリスのような動物がいる。
そのうちマントの男のほうが、ゆっくりと拍手をしながら久瀬を見下ろした。
「おめでとう。君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう」
マントの男はリスの持っていた木の実を受け取ると、久瀬へと差し出す。
「はァ?」
「この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
そう言うと手のひらからこぼすように種を落とした。
「ッと……」
思わず鳳仙花の葉を出してオーズの種を受け取った久瀬は、その瞬間、身体を大きく震わせる。
「あッ……ああァッ!! 熱い……ッ!! 身体が……ッ!!!」
「アニキ! 大丈夫ですか、兄貴ッ!?」
産まれたての小鹿のように全身を震わせながら、立ち上がる久瀬。
「あ……ああッ、身体がまた別のモノに……!! うあああああァァァッ!!!」
久瀬は叫びながら、その両足をかげろうのように揺らめかせる。
「う、うわあぁぁっ!?」
凄まじい衝撃で吹っ飛ばされる下っ端の不良。遅れて風と音が伝わる。
「な、なんなんすか、アニキ、それ……」
寝転がった下っ端の視界に、衝撃の余波でコンビニが植物のつるで覆われていくのが見えた。
「んぐっ!? ア、アニキ……たす――」
そして、そのつるは近くにいた下っ端をも飲み込んでいく。
「変えてやるよ……俺が、世界を塗り替えてやらァッ!!!」
久瀬はオーズの種を握りしめたまま、下っ端を顧みることもなく我を忘れたように吠える。
闇夜に咲いた1輪の鳳仙花。2つの影はその誕生を見届けた後、動じることも無くその場を後にするのだった。
●刹那の雷光
「かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された、『楽園樹オーズ』との関連について調査していた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)から、緊急の報告が入った」
集まったケルベロスに向けて、星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)はいつも以上に真剣な面持ちで告げる。
「かすみがうらの攻性植物事件の裏には、楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があった。ケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争事件などを生き抜いた不良達に、より強力なオーズの種を与え、かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたらしい」
オーズの種を与えられた攻性植物たちを中心に、現状、かすみがうら市の市街地は密林へと変貌し始めている。
突然のことに逃げられなかった周囲の市民たちは植物に巻きつかれ、取り込まれてグラビティ・チェインを吸い取られているのだ。
「このまま放置すれば、全てのグラビティ・チェインを吸い取られた市民は干からびて死亡し、大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物たちは、新たな力を手に入れてしまうだろう。それを防ぐため、かすみがうらに向かって、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破して欲しい」
攻性植物と化した元不良は複数いるが、ここに集まったケルベロスが担当するのはそのうちの1体、久瀬ロックだ。
「久瀬は攻性植物化がかなり進行していて、むしろ人面樹と形容したほうが近いのかもしれない。身長は3メートル、足はいくつもの根と化しており、全身が鳳仙花の花と実、茎や葉で覆われている……これを人間と言えるかどうか……」
説明に困ったのか、瞬は眉根を寄せる。
全身が鳳仙花化しているのなら目立つはずだが、生憎かすみがうらの市街地の一部は今、周囲を植物で覆われてしまっている。その身体が背景と同化してしまい、忍び寄って奇襲される可能性すらあるだろう。
「久瀬ロックは元々、不良チームの間では『刹那の雷光』という二つ名で恐れられていた。実を破裂させる反動を利用してのスピードと爆発力を持った足技を得意としていたらしい。この特徴は現形態でも変わらないと思われる」
言いながら瞬は過去のデータをケルベロスたちへと提供する。久瀬は攻性植物特有の攻撃の他に、エアシューズの技に似たものを使うようだ。
「で、こいつは元コンビニだった建物の近くにたむろしている。周囲で植物にとりつかれている市民は道端や建物の中など、合わせておよそ200名だ」
市民にとりついている植物を引きはがして始末すれば救助可能だが、救助を行った場合は久瀬にその事実が伝わってしまう。
「自らの身体の一部が失われたような感覚がするのだろうか……とにかくごまかすことはできないと思ってくれ」
市民の救助を行った場合は、その時点で敵がケルベロスが来たことに気づくため、気づかれないように潜入して奇襲といった行動はできなくなるだろう。
また、救助に時間をかけすぎたり、救助にばかり気を取られていると、敵の奇襲を受ける可能性もある。
「久瀬を撃破できれば、市民を捕まえている植物も消えるはずなので、救助は行なわなくても問題はない……」
そこで言葉を切って、瞬は小さくかぶりを振った。
「とはいえ、無視もしたくはないが……いや、判断は現場の皆に任せるべきだな……頼む、かすみがうらを救ってくれ」
参加者 | |
---|---|
エルボレアス・ベアルカーティス(中華まん大好きな軍人もどき・e01268) |
アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895) |
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190) |
クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091) |
鉾之原・雫(くしろしずく・e05492) |
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969) |
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872) |
志場・空(シュリケンオオカミ・e13991) |
●Raid and Rescue
樹海と化したかすみがうらを駆ける8人と1匹の影。
「それでは、術式は手はず通りにな」
軍服を着たドラゴニアン、エルボレアス・ベアルカーティス(中華まん大好きな軍人もどき・e01268)はそう言うと、一団から外れて脇へと逸れる。
「奇襲、よろしくね」
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)と彼女のサーヴァントであるボクスドラゴンのシシイもまた、エルボレアスに続いて離脱した。
「彼女たちが救助できるよう、こちらは派手に動いて注意を引きたいところだな」
クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091)がこぼす。
「ろっくんの気を引くっすよ!」
その後に続くようにして鉾之原・雫(くしろしずく・e05492)も気合充分といった様子だ。
「そのやる気はいいけど、奇襲前は静かにな……」
「わ、わかっている……!」
隠された森の小路を使って木々を避け、面々を先導していた柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)に指摘され、クリスティは声のボリュームを一段落としてなかったことにしようとした。
目深にかぶったフードの向こう、史仁の目は鋭く前方へと向けられている。
「距離的にはそろそろ目的のコンビニのはずだ。気を引き締めていけ」
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)は足を止めると息を殺し、茂みの隙間から外の様子を確認する。
「いたわね……」
アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)の目は森の中、奇妙に動く大きな鳳仙花――久瀬ロックをしっかりと捉えていた。
「あいつが空を飛べるようには見えないけど……」
アーティアはスルスルと木を登り、樹木の上から逃げ場を塞ぐようにコンビニへと歩を進めていく。
「ずいぶんと手馴れているな」
史仁の声を背に受けて、アーティアは軽く手を振って答えた。
「ま、こういう森は慣れてるからね」
マングローブの森を守るようにして生きてきたアーティアにとってはお手の物なのだろう。風を纏った手のひらでそっと樹木の葉に触れる。
(「森の守護者として、この子たちを悪事に加担させるわけにはいかないわ」)
全身に風を纏い、音を消しながら進んでいく。地上からは他の奇襲班の面々もロックにこっそり忍びよる。
「そららん、巣作りのほうはよろしくだよっ」
雫に声をかけられた志場・空(シュリケンオオカミ・e13991)はこくりと頷く。
「ああ、駄目で元々だがな」
空には何やら考えがあるようだった。
●襲撃
それは、ロックがコンビニの駐車場から離れて車道を歩きまわっていたときだった。
「……ッ!!」
音も無く、アーティアが頭上より飛来した。その掌に生じた螺旋がロックの頭、鳳仙花の花びらを散らす。
「……ッてェ!!」
呻きながらもロックの蔓触手が伸びる。それを手にした手裏剣で斬り落としながら、アーティアは後ろへと跳ぶ。
「なにしやがんだてめェ!」
「力に酔って万能感に浸っているところ悪いが、オマエはここで終わりだ」
ロックが上空へ意識を集中させたのを見計らい、マサヨシが地獄の炎を纏った翼を推進力にして、懐へと滑空する。
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――我が拳に砕けぬもの無し――我が信念、決して消えること無し――故にこの一撃は極致に至り!」
「久瀬ロックだな。倒させてもらう」
タイミングを合わせ、コンビニの影から飛びだしたクリスティ。
熾炎業炎砲を放ち、マサヨシの蒼い炎に紅い彩りを添える。二色の炎を纏った正拳突きがロックの腹部にブチこまれた。
「つァッ……!!」
焼け焦げる植物の臭い。苦痛に身体を歪めるロック。そこへ更に気咬弾が噛みついてくる。
「わぅっ! ろっくんっ! 雫と勝負するっすよ!」
弾を放ったのは雫だ。もはや顔がどこにあるのかすらわからない、巨大植物と化したロックは大声大気を震わせる。
「この野郎ッ!! やッてやろうじャねえかッ!!」
「3メートル超えの鳳仙花。珍かなお前にはこの色が似合いだ!」
挑発に乗って動き出したロックへと防犯用ペイントボールを投げつける史仁。
効果のほどはわからないが、背景に同化するのを阻止するねらいだ。
「舐めたマネしやがッてェ!」
レガリアスサイクロンを放とうと、鳳仙花の種を弾くように突撃してくるロックに合わせて後退する面々。しばらくジリジリと後退しながらの戦いになる。
「痛た……そろそろいいか?」
根のしなるようなムチの攻撃を受けて全身を傷だらけにしながら、空が合図をする。
「はっ!」
ブラックスライム製の呪装帯からスライムが放射状に射出されるとドーム状に半径30メートルを覆い尽くす。
「なにしやがったッ!」
困惑するロックへ、空が笑いかけた。
「なに、気にするな。ちょっと巣を作っただけだ」
「巣だァ……?」
「教えて欲しいなら説明するっすよ。この巣の中にいる間は、体力を消費しないっす。飲み水の心配もしないで済むっすよ」
「そんなことをして何の意味が――ッ!?」
ビクリとロックが震える。
「くッ……捕まえていた人間を、解放しやがッたな!?」
「救助班も動き始めたみたいね」
「このままじゃ、俺のパワーが……!」
「俺のパワー……?」
ロックの漏らしたひとことに、史仁が眉間に皺を寄せる。
「どういうことっすか、ろっくん教えるっす!」
「言う訳ねェだろ! ッていうか、その呼び方やめやがれ!!」
「嫌っす、アダナは雫のあいでんててーっす!」
「ッていうか、これも時間稼ぎだろ! 付き合ってられッか!」
巣を壊そうと動くロックだが、その歩みの先に火柱が出現し、足止めされた。
「巣の外を気にする余裕なんてあるか? あるなら無くしてやるよ!」
空のニートヴォルケイノだ。グラビティの余波で同時に巣も破壊される。
(「巣は戦闘行為には耐えられなかったか……まあいい、予測の範囲内だ。少しでも気を逸らして時間を稼げれば御の字だろう」)
空たちはさしたる動揺も見せない。
「チィッ!」
続いて上空から黒影弾が飛んできたのを、バックステップでかわすロック。ケルベロスたちの傍へと戻らせ、その場に釘づけにする。
「『刹那の雷光』? その割には今の動きも光より遅く見えるけれど?」
頭上より響くアーティアの声。
「やるべきことを、するだけだ」
クリスティとマサヨシも前後を挟むように動く。
「邪魔してくれやがッて……!」
ロックは歯噛みするように、鳳仙花の蔓触手を震わせるのだった。
●3分間の救出劇
時は少しだけ遡って、ロックが移動した後のコンビニ前。
「あそこだねー」
茂みからチェザとシシィがガサッと顔だけ出す。
「そろそろ巣作りを始めたころだろうか」
比較的緑の少ない車道へと出たエルボレアスは奇襲班が向かった方向を見る。
木々のせいで見通しが悪くはっきりとは見えないが、戦いの音はだいぶ遠ざかったように思えた。
「………うぅ……」
その代わりに各所から聞こえてくるのはうめき声だ。植物に取り込まれた人々が発しているのだろう。2人と1匹の顔が曇る。
「体力が少なく、衰弱していそうな者を優先して救助していこう」
「トリアージって言うんだよね。わかったよー」
うめき声を頼りに、救助班は捜索を開始する。
「この繭のようになっているコブは……」
エルボレアスは人ほどの大きさもある箇所を発見する。
「ハハッ……見つけたぞ!」
歓喜に打ち震えるかのように、コブをグラビティで引き剥がす。
その中には予想通り、一般市民がヒザを抱えるようにして格納されていた。
「だ、大丈夫なのかなこれ」
「脈拍、体温……体力を消耗しているな……治療のし甲斐があるというものだ!!!」
嬉々として市民の治療を始めるエルボレアス。市民の意識が無く、その狂気めいたハイテンションを見なくて済んだのは不幸中の幸いだっただろう。
「みんな、良くなってねー」
救出した人を並べて一気にライトニングウォールで回復していくチェザ。
「……ロックくんは来ないし、作戦は上手くいってるみたい」
助ける間、シシィが見張りのようにロックたちが消えた方向を確認している。
「でも、みんな意識が無いとなると安全な場所まで逃がすのが大変かも……」
「……念のため、防具特徴を用意しておいて良かったな」
エルボレアスは怪力無双で一気に何人もの患者を運んでいく。
「わー、すごい、力持ち!」
「本当は安静に運びたいのだが、仕方ない。シシィ、先導を頼む」
「!!」
大量の人間を運んで前が見えないエルボレアスの代わりにシシィが先導する。
中には症状が軽く、意識を取り戻した市民もいる。
「ボクたちはケルベロスだよ、助けにきたんだ。あのドラゴンについてってねー」
そういった面々はチェザが誘導していく。
「向こうも長くは持つまい。3分を目処に奇襲班に合流するぞ」
「うん。りょうかーい」
こうして救助班が3分間に救助した人数は述べ39人だった。
●刹那の雷光
「はぁ……はぁっ、ろっくん、見て見てっ、UFOっす!」
全身に傷を負いながら、雫は彼方を指さした。
「樹海でUFOが見えるかボケッ!!」
ロックは見向きもするまでもなく、鳳仙花を光らせると魔法の炎で雫を焼く。
「うっ……くうっ……!」
何回も攻撃を代わりに受け、疲弊している雫が苦悶の声を上げる。
ロックも蔓を何本か折られ、花弁もところどころ散り散りになっていた。
「炎に焼かれたらよ、回復が追い付かないんじャねェか?」
「大丈夫だ。今は耐えるんだ……!」
クリスティが気力溜めを使って雫の身を焼く炎を消す。
「シャウトがあるとはいえ、炎を重ねられたり前衛を一度になぎ払われるのは厄介だな……脳みそまで雑草化してるかと思ったが」
一番命中率の高いペトリフィケイションを選択する史仁だが、ロックは鳳仙花の種を飛ばし、回避と同時に爆発的な加速で突っ込んでくる。
「……っ!」
「雑草上等だッ! 雑草魂くれてやらァッ!!」
根をまるで幾本かの足のように操り、前衛を一列に蹴り倒していく。
「……グッ……どうしたッ! そんなもんじゃあ世界どころかオレすら塗りつぶせないぞ!!」
根の一撃を耐えながらマサヨシが吠える。あえて稲妻突きを連発し、隙を見せては攻撃させることを繰り返してきたが、それでも限界が見えてきた。
そんなときだった。
「これが、一撃指圧だッ!!」
マサヨシの背後から、叫びと共に指撃が飛んでくる。
「あいたっ!! 痛ぅ……」
「フフ……痛いけど、効くだろう?」
どこかサディスティックな声。
「もうちょっと優しくしてくれっての……」
ボヤきつつも、マサヨシの体力が一気に回復していく。
「来たわね。これで形勢逆転よ」
アーティアの声が自然と弾む。
「お待たせ、救助してきたよー!!」
その視界には茂みから飛び出したエルボレアスとチェザ、それにシシィの姿があった。
「助けた人は安全なところに避難させておいたよー」
チェザはそう告げると、もふもふの羊を召喚する。
「もふもふもふもふ~♪」
その癒し効果で傷ついた前衛を回復していく。
「チッ、ピンチか……だッたらこッちも回復させてもらうぜ!」
ロックが、吠えた。
「オーズの種よ、俺に力をッ!!」
傷ついたロックの身体がみるみる塞がっていく。
「自己回復だと……!?」
空にも不測の事態だったのだろう、巣が壊れたときにも変わらなかった表情がこわばる。
「とんだ隠し球だな……」
マサヨシはその大きな竜の口を開けてニヤリと笑う。まだ強敵と戦える。その歓喜に打ち震えているようでもあった。
「チッ……やはりパワー不足か……」
悔しそうに蔓触手を振るロック。回復は半分程度で止まったようだ。
「パワー……なるほどな」
その様子を見ていた史仁はひとりごちる。
「ふみふみ、どういうことっ!?」
「こいつ、人間が救助されたとき『俺のパワーが』と言っていただろう」
「捕らえた人間を使って回復をした……ということか」
クリスティも冷静に状況を確認して、その仮定に到達する。
「だとしたら……救助しておいて良かったわね」
意外な展開に、アーティアは改めて救助班の面々に感謝した。
回復役が加わったケルベロスたちに対して、回復しきれなかったロック。
戦いの趨勢は、あっという間にケルベロス側へと傾いていく。
「これでも飲んでくださいっす!」
雫の特製ティーが発動すると、ロックに掛けた茶がその身体を溶かしていく。
「くそッ、こんな茶で死んでたまるかよッ!!」
死にかけたロックの魂が肉体を凌駕する。
「あと一息ね……一気に決めるわよ!」
武器に風の刃を纏わせるアーティア。
「ああ、ここで禍根を断つ……!」
巻き起こる風の流れに合わせるよう、クリスティがオラトリオの翼を広げる。
舞い散る幾枚もの羽根――いや、それは羽根に似た魔力に他ならない。
「天つの風を纏い、彩る想いを迸れ。唸れ、夢想の刃」
「ぐッ……なんだ、この力は……!!」
アーティアの螺旋力で彼女の直前に風の渦ができると、ロックはその風の流れに逆らえず、吸い込まれていく。
「や、やめ、俺は、世界を……ッ!!」
「風の中で、天を仰ぎて死ぬがいい」
「風螺旋龍哭刃!」
風の渦の中。刃と羽根。
「グ……アアアアァァァーッ!!!」
ふたりの必中の二撃を食らい、ロックは断末魔を上げる。
事切れたロックはその鳳仙花の身体を急速に枯らせ、干からびていく。
「終わったか……」
誰ともなく、安堵の息が漏れた瞬間だった。
「ううん、あれ見てっ!」
それにいち早く気付いたのはチェザだった。
干からびた身体の中から、光り輝くオーズの種が出現するとそのまま上空へと飛び去っていく。
「なっ……!」
慌てて空を飛べるエルボレアスやクリスティ、マサヨシといった面々が追うも空を覆う樹海を突破する際に種を見失ってしまった。
「回収できるかと思ったけど、甘かったなぁん……」
しょんぼりするチェザだが、雫がよしよしと頭を撫でる。
「とりあえず倒せただけよしとするっす。それに市民のみなさまを助ける仕事もあるっすよ」
「あと、街のヒールもな」
「うん……」
史仁の言葉に頷くチェザ。
「フフッ、まだまだ治療できる、これほど楽しいことはない!」
「ベアルっち、痛いのはめーっすよ」
「もちろん。痛いのはケルベロスに対してだけだ」
「優しくできるならさっきのあの一撃はなんだったんだよ……」
苦笑するマサヨシの横、空は枯れ果てたロックだったものを見下ろしてこう言葉を掛けるのだった。
「力に飲まれ、部下に手を出した時点でお前はもう人じゃないのさ……私達もその可能性はあるがね」
作者:蘇我真 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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