かすみがうら事変~深緑のカルケル

作者:柚烏

「おめでとう。君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう」
 かつん、と優雅な靴音を響かせて――そのシャイターンの少年は芝居がかった様子で、廃墟に居るもの達へ向けて両手を広げた。或るものは胡乱げなまなざしで、また或るものは微かに興味を惹かれた様子で、そのひとならざる少年の声に耳を傾けている。
「この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
 ――廃墟を根城にしていたのは、攻性植物を宿らせた不良だった。自身も既に、攻性植物と化しているから何となく感じる。彼の言うことは真実で――その種とやらは本当に、自分を更なる高みへ連れて行ってくれるものなのだろう。
 と、其処でシャイターンは、隣に居た小動物の如き攻性植物の持つオーズの種を、不良のひとりに手渡した。彼は一瞬、鋭い瞳を見開いたものの――次の瞬間、凄まじい力を放ち、かつてない力を手に入れた興奮に酔いしれて哄笑を響かせる。
「……何だ、ははっ……身体中から力が湧き上がってくる……! 最高の気分だ、マジで神様とやらになったみたいになぁ……!」
 この余波によって周囲の廃墟は破壊されていくが、それも直ぐに植物のようなものが覆い、修復し――異形のものへと変貌を遂げていった。
 そして、その変化を見届けたシャイターンと攻性植物は、ゆっくりとその場を立ち去って行く――。

 ――かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された『楽園樹オーズ』との関連について調査していた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)から、緊急の報告が入った。
 そうケルベロス達へ告げるエリオット・ワーズワース(オラトリオのヘリオライダー・en0051)は、そんな中でも落ち着いて詳しい情報を伝えようと、深呼吸をひとつしてから話を始める。
「かすみがうらの攻性植物事件の裏には、やはり楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があったみたいなんだ」
 彼は、ケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争事件などを生き抜いた不良達に、より強力なオーズの種を与え――かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたらしい。
「現在、オーズの種を与えられた攻性植物達を中心に、かすみがうら市の市街地は密林のような街に変貌し始めていて、周囲の市民達は植物に巻きつかれてグラビティ・チェインを吸い取られているらしいんだよ」
 このまま放置すれば、全てのグラビティ・チェインを吸い取られた市民は干からびて死亡し、大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物達は、新たな力を手に入れてしまうだろう。その未来を思い浮かべたエリオットは微かに俯くが、やがてゆっくりとかぶりを振って顔を上げる。
「……だから、どうか。かすみがうらに向かって、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破して欲しいんだ」
 ――敵は強力な攻性植物一体のみ。しかし、この攻性植物化した不良の外見は、植物の化け物のような姿となっている。体長も3mくらいと大きいが、周囲の建物が植物化している為、ケルベロスが警戒していなければ忍び寄って奇襲することも可能となっているようだ。
「それと、周囲で倒れている市民の存在も無視できないと思う。道端や建物の中などに、合わせて200名程度は居るから、皆でどう対処するか考えておいてね」
 市民にとりついている植物を引き離して始末すれば救助は可能なのだが、救助を行った場合は攻性植物にその事実が伝わってしまう。その時点で敵はケルベロスが来たことに気付くため、気付かれないように潜入して奇襲――といった事は行えなくなるのだ。
 また、救助に時間をかけすぎたり、救助にばかり気を取られていると、敵の奇襲を受ける可能性もある。攻性植物を撃破出来れば、市民を捕まえている植物も消える筈なので、救助は行なわないと言う選択もある。
「かすみがうらの攻性植物の事件の背後で、シャイターンが暗躍していたというのは予想外だったけれど……白神さんのおかげで、こうして最悪の事態になる前に察知する事が出来た」
 ――後は、かすみがうらを完全に植物化する前に、何とか撃破出来れば。それが可能なのは、地獄の番犬であるケルベロス達だけなのだ。
 これ以上彼の地が蹂躙されないよう、みどりの牢獄から解放して欲しい。エリオットはそう祈りながら、自分の出来ること――ヘリオンを動かす準備に取り掛かっていった。


参加者
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)
藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)
スノーエル・トリフォリウム(クローバーに幸せをこめて・e02161)
ルベル・オムニア(至高の赤・e02724)
エンジュ・ヴォルフラム(銀の魔女・e04271)
ディー・リー(タイラントロフィ・e10584)
コンソラータ・ヴェーラ(フォルモーント・e15409)

■リプレイ

●深緑に呑まれた街
 シャイターンの暗躍によって、かすみがうらはみどりの牢獄へと変貌を遂げた。次々に建物を呑み込み、恐るべき速さで侵食していく植物たち――その変わり果てた街並みに降り立ったケルベロス達は、其処で植物に巻き付かれ、グラビティ・チェインを搾取される人々の姿を目の当たりにした。
「……っ」
 可憐な相貌に悲痛のいろを滲ませて、スノーエル・トリフォリウム(クローバーに幸せをこめて・e02161)は苦しげに息を呑む。彼らの生命の灯は弱々しく、そう遠からず全てを奪われてしまうことが容易に窺えたから。
「……厭な光景。慎ましく咲く位が、うつくしいものなのに」
 紫煙と共にルベル・オムニア(至高の赤・e02724)は憂いの呟きをぽつりと零し、その金糸雀色の髪が儚い陽光に照らされて煌めいた。今この時点で、囚われの人々を救うことも出来るだろう――しかしその動きは、この地を住処にする攻性植物へ直ぐに伝わってしまうのだ。
「仰々しい罠もあったものだ。まぁ、敵地に乗り込む以上、厄介な事態は覚悟しているがね」
 かつん、と地面を這う蔦を器用に避けながら杖を突き、ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)はにやりと笑う。羊を思わせる豊かな髪を揺らしながら、迷いの無い足取りで進む彼女に頷き、ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)は感情を露わにすること無く淡々と――けれど確りと、決意を口にした。
「今も罪のない人々が苦しみ続けているのならば、僕らに出来る事は一刻も早く、事件の根源を断つことです」
「そうだな、密林なんて増やされてたまるか。コンクリートジャングルで間に合ってるんだから」
 さっくりと伐採しちまおう、と藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)も変な気負いを見せずに、悠然とした態度で仲間たちの後に続く。実は方向音痴な雨祈に頷きつつ、ディー・リー(タイラントロフィ・e10584)は植物に囚われ、地面に横たわる人々に向かってそっと励ましの言葉をかけた。
「全員後で助けるゆえ、敵にケリがつくまで待っていてほしいのだー……」
 ――そう。彼らの狙いは、この惨劇をもたらした元凶である、攻性植物への奇襲。それを第一に考え、敵に悟られぬよう、敢えて救助は行わないことにした。きっと敵を倒すことが出来れば、彼らも呪縛から解放されるだろうから。
「……みどりの牢獄とは、よく言ったものだね」
 深緑に呑み込まれ、かつての面影を失った廃ビル――異形の蔦と葉が形作るオブジェを見上げたコンソラータ・ヴェーラ(フォルモーント・e15409)は、中性的な美貌に甘さを滲ませつつ、そっと辺りに視線を巡らせる。
 ――と、其処では、ビルから逃げようとして植物に囚われたのだろう不良たちが、力無く呻いている様子が窺えた。
(「私たちはケルベロスだもの。不安を吹き飛ばさなきゃ」)
 手を差し伸べることは出来る、しかし全員を助けるために最善の行動を――エンジュ・ヴォルフラム(銀の魔女・e04271)は、闇色のヴェールに覆われた貌を毅然と上げて、ただ前を見つめて歩き出す。
「……誰ひとりとして見捨てないわ。そのために、皆と元凶を止めることを選んだのだから」
 そうして彼らは陽光さえ満足に届かぬ、深い緑の檻の中へ、ゆっくりと足を踏み入れていった。

●孤独な玉座の主
(「シャイターンてのも、ナニ考えてんだかね……」)
 戦闘に備えて後ろ髪を結いつつ、雨祈たちは生物の体内を思わせる建物の中を、気配を殺して進んでいく。――けれど何にせよ、あいつらの思惑ごと刈り取って全員助けるまでだ。
 地味な色の外套を被り、出来る限り物音を立てないように注意するコンソラータの配慮もあり、隠密気流を纏う一行は順調に索敵を行っていった。ボクスドラゴンのマシュを抱きしめてスノーエルが慎重に一歩を踏み出す中、エンジュは息を潜めて、巻き込まれる範囲に一般人は居ないかも確認している。
(「ふむ……」)
 植物の蔓延る廃墟――その柱の陰などに身を隠しながら、ヒルダガルデは僅かな音や影の動きも見落とすまいと、月色の瞳を細めて細心の注意を払っているようだ。辺りは不気味なほどに静まり返っていて、ベルノルトも色眼鏡を押し上げつつ、周囲の異音に耳を澄ませて捜索に加わっていた。
 ――そうして上階へと向かうにつれ、倒れている人々の姿は目に見えて減っていく。この辺りならば一般人を巻き込む心配はないと、皆が微かに安堵した時――敵の奇襲も警戒し、緑色のものが動かないかと注意していたディーが、最初にその存在に気付いて皆に合図を送る。
(「居たのだー!」)
 元は不良たちのたまり場だったのだろうか、少し開けた空間に、植物の怪物と化した攻性植物が居た。此処に乗り込んでくる者など、居る筈がないと思っているのだろう――彼は植物で覆われたソファーを玉座代わりに、悠然とした様子で廃墟に君臨していた。
 恐らく、オーズの種を取り込んだ恍惚と全能感に浸っている――その事に思い至ったルベルは、楽しませてくれそうだとばかりに、艶やかな唇に笑みを刻む。
 周囲に一般人が囚われていた場合、戦闘を行う者と救助活動をする者とに分かれることも考慮していたが、幸いにも救助を行う必要はなさそうだ。そのことにスノーエルは安堵の吐息を零し、抱きしめていたマシュをそっと手放した。
(「……今です」)
 ――予め決めておいた、奇襲攻撃のハンドサイン。敵の様子を窺っていたベルノルトは、絶好のタイミングで仲間に合図を出す。すると彼らは次々に、無防備な標的目掛けて強烈な初撃を叩きこもうと飛び出していった。
「一緒だから大丈夫」
 スノーエルが囁くのは、勇気を出すための大切な言葉。自分に言い聞かせるそれは、とっておきのおまじないのようなもの。そんな小さく深呼吸する彼女へ、コンソラータはふんわりと、まるで無垢な少女のような微笑みを向ける。
「……大丈夫、護るよ」
 仲間の背中越しに見上げるのは、大きなおおきな敵の姿。こわいねと彼は呟き、本当は足が竦みそうだと告げつつ、ゆっくりとかぶりを振った。
「でも……ひとりじゃないから」
 ――故に彼は、彼らは、戦える。この牢獄に光を取り戻す為に。

●緑の指と火の指と
 ――鬼さん、こちら、手のなる方へ。鈴の音のようにりんと廃墟にわらべ唄を響かせて、コンソラータは踊るような手つきで雷の壁を構築する。
「一刻も早く、皆を解放しましょう」
 そうして長銃の引き金をエンジュが引くと、その銃口からは熱を奪い去る、無慈悲な冷凍光線が放たれた。更にベルノルトは纏う黒液を変化させ、獲物を捕食するべく一気に丸呑みにしようと襲い掛かる。
「さて、と……さっさと刈り尽くすか」
 結った髪をさらりと揺らして表情を引き締めた雨祈は、精神を極限まで集中させて標的を爆破――其処へディーが地獄を纏う尾を絡ませ、続く拳に炎を纏って一気に顔面を殴りつけた。
「――歯ァ食い縛れ?」
 ガッと鈍い音がして柊の攻性植物がよろめく中、ルベルとヒルダガルデは旋刃と化した脚を振るい、容赦無く相手の急所を貫いていった。
「やぁ、ご機嫌いかがかな?」
 玉座から叩き落とされた攻性植物を見下ろし、不遜とも言える態度で、ヒルダガルデが楽しそうに口角を上げる。しかし敵はその問いかけに応えることもせず、不快そうに枝葉をざわめかせて反撃に転じた。
「気をつけて……!」
 後方で戦況を窺っていたスノーエルが注意を促すと同時、伸ばされた植物は大地と融合し侵食していって――此方を埋葬しようと一気に飲み込んでいく。その威力の恐ろしさを悟ったコンソラータは、更に雷の壁を張り巡らせて皆の耐性を高めていった。
「その力は、得てはいけない力だ。……気の毒、だけど奪い取るよ」
 ごめんね、と人懐っこい笑みを湛えながら、握りしめた避雷針は指揮棒のように揺れて――其処へヒルダガルデも守りを固めるべく、黒鎖を展開して守護の魔法陣を描く。その間も敵の力を削ごうと、ベルノルトが卓越した技量で以て達人の一撃を加えていくが、攻性植物は柊の葉を刃に変えて此方の生命を啜らんと襲い掛かった。
「ソラさん、回復は私が」
 コンソラータに合図を送り、素早く動いたのはスノーエル。盾となり刃をその身に受けたルベルへ施すのは、脳髄の賦活――それは魔導書に記された禁断の断章を詠唱することで、常軌を逸した強化を行う禁忌の魔術だ。
「行くのだー!」
 ――念の為、敵が階下へ降りて行かないように行く手を塞ぎながら。身軽にディーはその身を翻し、流星が尾を引くような蹴りを叩きこんで攻性植物の足取りを鈍らせる。マシュが綿属性のブレスを吐き、ベルノルトも捕縛を蓄積させて敵の動きが精彩を欠いた其処へ、狙い澄ました一撃を雨祈とエンジュが叩きこんだ。
「さぁ、悪い夢は終わりにしましょう」
 雨祈の縛霊手が、尚も霊力の網で標的を絡め取る中――終焉を告げるエンジュの掌からは竜の幻影が放たれ、荒れ狂う業火が邪悪な緑を焼き尽くす。氷と炎の饗宴によって蝕まれていく攻性植物は、アアァ――と軋んだ悲鳴をあげてのたうち、その柊の枝葉はぶすぶすと、厭な煙を上げて不気味に黒ずんでいった。
「その程度で神様気取りとは。片腹痛いぞ、小僧」
 かつん、と地獄化した右脚が床を蹴り、ヒルダガルデの指先が地獄の炎を纏う。後はこれを叩きつければ、と彼女は勝利を確信していた。
 ――しかし其処で、思ってもみなかった事態が起きる。
「オーズの種よ、俺に力を!」
 攻性植物がそう叫ぶや否や、如何なる力が働いたのか――その身に負った傷が、みるみる内に塞がっていったのだ。

●牢獄に差す光
 ――ああ、これも禁断の種子を受け入れたものが、手に入れた力だと言うのだろうか。
「なんだとー!」
 早期撃破を狙っていたディーは思わず絶句し、一方でルベルは『やるじゃないか』とばかりに好戦的な笑みを浮かべる。瀕死の状態まで追い詰められていた攻性植物の傷は全快し、戦いは振り出しに戻ってしまったのだ。
(「まさか……囚われていた人達を使って……?」)
 辺りで植物に絡み付かれ、衰弱していた人々の姿が過ぎったベルノルトは、無表情の裏で静かに苦悶する。恐らく未だ生命の危険は無いだろうが、人々が生贄のような扱いを受けた事実に、彼は密かに震える拳を握りしめた。
「……みんな、大丈夫? マシュちゃんも頑張って」
 ゆっくりと仲間たちの様子を確認しながら、スノーエルは極光のヴェールで優しく傷を癒していくものの――癒えない傷は確実に蓄積しており、長期戦となれば圧倒的に此方が不利だ。
 きゅーと一声鳴いて己を奮い立たせたマシュは、綿属性を注入しつつ懸命に最前線に立っていた。けれど限界は近づいていて、破壊の光花が一直線にその身体を貫き――遂にマシュは力尽きる。
「やるね、でも……」
 裂帛の叫びを響かせ己を鼓舞したルベルは、己の身に纏う薔薇の蔦を這わせ、甘く残酷な抱擁で敵を呪縛しようとした。しかし、その茨は虚しく空を掴み――逆に巨躯からは想像もつかぬ機敏さで、攻性植物の柊刃がルベルの柔肌を貫く。
「……あ……」
 琥珀の瞳がひとつ瞬く間にも、彼女の髪に咲く深紅の薔薇がはらはらと散っていった。その花弁の一枚一枚が、熱き血潮を思わせて――心に虚を抱えたまま、ルベルの身体はぐらりと崩れ落ちる。
「光よ、みんなを守って!」
 ――盾は、居ない。その中でも必死で皆を支えようと、スノーエルは懸命に癒しの力を行使した。けれど厄介な壁が居なくなり、また一度追い詰められたことにより攻性植物は慎重になったようで、その攻撃の矛先は後衛に向けられている。
 大地を侵食する植物は、容赦なく此方を呑み込んでいって――自分の身の安全に配慮しながらも、後衛は戦い続けることを余儀なくされた。
「……それでも、ディー・リーは助けるって約束したのだー。だから諦めるわけにはいかないのだ!」
 竜の尾でぱたん、と地面を叩いて、ディーの全身が地獄の炎を纏って燃え上がる。破壊の力を宿した彼は、溢れ出すそれを拳に纏い、思いっきり叩きつけた。
「一歩、また一歩……自分の足で歩んで、自分で選びとっていくんだ」
 その声はまるで天上の鳥が囀るように、優しく廃墟を満たしていく。破壊の光が花弁から何度放たれようと、コンソラータの手は優雅に、うつくしき光の紗を生み出していった。
「この道が正しいか、間違ってるか分からないけど。……でもきっと、この先に、平和な未来があるって、信じるよ」
 ――天使らしく、笑って。彼の伸ばす指先はそっと、異形と化した若者へ向けられる。
「救いを、――キミに」
「貴方も元は同じ人間……」
 低く呟いたベルノルトは冷然と、攻性植物目掛けて霊力を帯びた黒液を刃と為し――それは標的の負った傷跡を正確に斬り広げ、更なる苦痛をもたらした。
「しかし罪の烙印を押されたとしても、選びましょう。覚悟は此処に」
「同情はしないわ。どちらの意思か分からないけれど、その姿も貴方の選択。その最期、見届けてあげる」
 ふわりとエンジュの背に広がるのは、影の翼。其処から降り注ぐ漆黒の羽根は、攻性植物の身を包み込み――やがて彼の存在は、羽根の触れた先から影に食われて朽ちていく。カミゴロシの異名を持つ朽ちる翼――それは、不死者を殺す対神魔術なのだ。
「さぁ、幕引きだ……思う存分、燃え上がると良い」
 ――タイトロープの上で笑うように、死線など幾度となく渉ってきた。そう嘯くヒルダガルデが繰り出す苛烈な地獄の炎は、獲物を容赦なく呑み込んで――瞬く間に生命を散らしていく攻性植物へ最後の死を与えたのは、雨祈の放った一発の弾丸だった。
 それは壁や地形で跳弾を繰り返し、予期せぬ方向から死角を突いた痛烈な一撃を見舞う。その弾丸に貫かれてなお、彼が生きていられる道理など無いのだ。
「……シャイターンなんぞにイイように使われやがって。神様になんてなれるワケねぇだろが」
 銃口から硝煙を立ち上らせながら、雨祈はただ静かにそう吐き捨てた。

 攻性植物を撃破すると同時、その亡骸は急速に枯れて干からびていった。その身体からは光り輝くオーズの種が出現したが、そのまま彼方へと飛び去っていく。
「今のは……」
 種の行方については気になるが、今は人々の無事を確認するのが先だ。一行は手分けをして安否を確認していき、全員が無事だと知ってほっと息を吐く。
「どうやら、間に合ったようだなぁ」
 ヒルダガルデが呟き、空を見上げると。其処には深緑の檻に差す、眩いばかりの光があった。
 救いを、そして解放を。平和な未来の訪れは、きっともう間もなく――。

作者:柚烏 重傷:ルベル・オムニア(至高の赤・e02724) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。