戦艦竜亀山さんを討ち果たせ!

作者:青葉桂都

●シラス漁船、調査中
 相模湾の沖合を泳ぐのは、黒く焼き上げられた鋼のような鱗を持つ竜だった。
 苛立ちを抑えきれず、戦艦竜は小さな翼で水を引っかき回しているを。
 全身を覆う戦艦竜の鋼の鱗には大量の傷が刻まれている。
 しばし動き回っては体を休め、またしばらくしたら動き出す……戦艦竜はそんな動きを何度も繰り返していた。
 動き回るうち……竜は体になにかが絡みつくのを感じた。
 海の上には2隻の漁船がいた。
 3月のシラス漁解禁に向け、相模湾沖のシラスの生息状況を調査に来た船だ……が、無論戦艦竜にとって、人間たちの漁業のことなど知ったことではない。
「なんだぁ? なにか網に引っかかったぞ」
「この辺りに引っかかるような岩礁はないはずだが……」
 漁船は合図しあって停船する……その次の瞬間のことだった。
 網を引きちぎって、竜が水中から飛び出した。
 尾はスクリューのように広がり、高速で回転している。
 砕け散った船の乗員たちは、悲鳴をあげることさえ許されずに海に飲まれる。
 飛び出した巨体が再び水の中に没すると、高波が巻き起こって船を揺らす。
 今度こそ聞こえた悲鳴はやはりすぐ水に飲まれてしまった。

●三度目の戦い
「ノーザンライト・ゴーストセイン(ぽっちゃり魔女・e05320)さんの調査で、戦艦竜『亀山』が次に出現する場所がわかりました」
 ヘリオライダーは集まったケルベロスたちに告げた。
 もう繰り返す必要はないかもしれないが、『戦艦竜』とはドラゴン勢力の拠点となっていた城ヶ島の、南の海を守っていた竜たちである。
 狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)によって、相模湾の漁船が被害にあっていたこともすでに周知の事実だろう。
「金属のように硬い鱗を持った竜で、最初に戦った皆さんがつけて下さった『亀山』という名前で呼んでいます」
 既知の情報ではあったろうが、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は念のため改めて説明を行った。
 戦艦竜は一度の交戦で倒せる相手ではないが、今回集まったケルベロスたちが戦う敵はすでに二度の戦闘を行った個体だ。
「敵は受けたダメージを回復できません。過去の状態から考えて、うまくいけば今回、悪くとも次回の交戦で『亀山』を倒しきることが可能と考えられます」
 もっとも、余裕がなくなれば敵も必死になって抵抗する。
 最後まで楽な戦いにはならないはずだった。
「亀山は金属のように黒光りする鱗を持ち、翼は小さく、流線型に近い体をしています。体長は10mほどになります」
 蓄積したダメージはすでに5割5分。1回で確実に削りきれるとは言えないが、しっかり戦術を立てて挑めばなんとかなるかもしれない。
「攻撃手段は4つ確認されています。おそらくこれで全部でしょう」
 最強の攻撃手段である口の中の主砲。強靭な肉体の支えを得て放つ必殺技だ。
 黒く光る砲弾は魔法の力を秘めており、当たれば魂が肉体を凌駕することさえ許さず目標を戦闘不能にするという。
「困ったことに、『亀山』は『当たれば倒せる』と判断したときにしか使ってきません。ただ逆に、使用頻度が低いとも言えます」
 それから、小さな翼の下に隠した無数の副砲。強いオーラによって連射される砲弾は一定の隊列をまとめて掃射する。回復を阻害する効果もあるという。
 翼の先端部には強いオーラを内包した鋭い爪も隠している。
 小回りが利き、戦艦竜の攻撃の中では当たりやすい。ただ、近距離の単体にしか攻撃できないし、威力も主砲ほどには高くない。
「最後に尾をスクリューに変えて高速突進し、近距離に範囲攻撃を行います。硬い鱗で防具を損傷させる効果があるようです」
 総じて命中や回避は高くないが攻撃力は桁違いだ。範囲攻撃の速射砲や突進でさえ、ケルベロスの単体攻撃を軽く上回る威力がある。
 能力的には、力任せの行動が得意で、スピードを生かすのは苦手なようだ。
「それから、主砲あるいはその周辺に弱点があるのは確実なようです。敵が主砲を使ってきたところで狙い撃てば、大きなダメージを与えられるでしょう」
 もっとも敵が主砲を使うのは、誰かが倒れる可能性のあるときだけだが……。
 亀山は慎重で、リスクを嫌う性格だという。弱点をさらけ出す機会はなるべく増やさぬように行動してくるはずだ。
 なお、戦場となる海域に目立って大きな障害物の類はない。また、逃亡を選んだり、逃げるこちらを深追いして来ることもないようだ。
「今回で確実に倒せるとはまだ断言できません」
 だが、ケルベロスたち次第で今回倒すことも不可能ではない。
「戦艦竜は知能のない化け物ではありません。敵は敵でなんらかの戦術を立てて行動していることが予測されます」
 過去の交戦から敵の行動パターンを予想し、対策を立てること。
 また、敵の苦手分野や弱点を効率的に狙うこと。
 それができれば倒せるかもしれない。
「今回が決戦となることを、期待しています」
 芹架は最後に告げた。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
灰座・次遠(カイザージオン・e00412)
スプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
倉間・静九(晃鎧機兵・e05752)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)

■リプレイ

●不退転の決意?
 相模湾を、一隻のクルーザーが矢のごとき速度で突き進んでいた。
「クルーザーというのは……ずいぶんとスピードを出すものなのですね」
 倉間・静九(晃鎧機兵・e05752)が言った。
 ただ、彼の知識と照らし合わせて、少し危険な速度が出ているように思える。
「なあ義兄、今回も義兄が運転したほうがよかったんじゃないか?」
「そうだな……前回ずいぶん恨みがましい目で見られたから今回は譲ったんだが……」
 言葉を交わすのは、月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)とヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)の義兄妹だ。
 視線の先には、無表情にクルーザーの操縦席に座るピンクの髪をした魔女。
「おいおい、ずいぶんヤンチャだな、おえぇぇえ」
 灰座・次遠(カイザージオン・e00412)が、船べりに駆け寄って下を向いた。
 だが、操縦席の魔女、ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)はまるで気に留める様子もない。
「思うに……少しスピードを、緩めたほうがいいのではないだろうか?」
 スプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)は平然とした表情をしていたが、次遠を横目にゆっくりと言葉を選びながら言う。
「決戦……不退転。ケルベロスに、ブレーキはいらない」
「……そうか……」
 無表情のまま言い切ったノーザンライトに、あまり人付き合いが得意でないスプーキーはそれ以上言葉をかけることができなかった。
「あほっ、決戦だとしても最後には帰んだろうが」
 代わって魔女に突っ込みを入れたのは、幼い少年だ。
「お前にも俺の姉ちゃんみたいに帰りを待ってる奴くらいいんだろ?」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が魔女の頭を軽く小突いた。
 ノーザンライトはじっと少年を見つめ、こくこくとうなづく。
「ごめん、風が気持ちよかったから。つい」
「はいはい、いいから、運転中は前を見て話そうな」
 ヴォルフが呆れ声を出す。
 ゆっくりとクルーザーが減速し始めた。
「ノーザン、煉、次遠、一緒に戦うのは初戦ぶりだが、気張って行こうぜ」
 レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)が魔銃を手の中で回転させ、不敵な表情を仲間たちに向ける。
「ああ、なんとか、最終決戦には間に合ったみてぇだからな。全力で行くぜ」
 煉が彼の言葉を受けて、拳を打ち鳴らす。
「これで最後。賢いあいつが、死に掛けで相模湾に居続けると思わない……次なんてない」
 淡々と語るノーザンライト。
 それはいつも通りのしゃべり方だったが、聞く者には決意を感じさせた。

●三度目の戦い
 水面から竜が顔を見せたとき、ケルベロスたちはすでに船から飛び降りていた。
 牽制に放たれた速射砲を散って回避する。
「亀山ァ、久しぶりだな。さびしかったろ? だがワリぃな今日はサイン書いてやれそうにねぇ。こいつらのバッキングしなきゃなんねえからな」
 次遠は最初の戦いで刻んだ自分のサインをビシッと指差す。
「別に怖いから後ろに下がってるわけじゃねえぜ」
「おいおい……、ほんとあんたって強そうな面してんのに、ぽんぽんと情けねぇ台詞がでてくるよな」
「強い男ほど、自分の弱いとこは隠さないんだぜコレが」
 煉の指摘に軽口で返すと、ニヤリと笑って次遠は海中に頭を沈めた。
「ま、そんなキャラ嫌いじゃねぇが。いつかあんたの音楽聞いてみてぇな」
 煉も次遠を追うように水をかきわける。
 次々に水中に身を潜らせるケルベロスたち。
 三度の邂逅となるノーザンライトの心のうちに湧き出る執着……いや、愛着に気づいた仲間はいただろうか。
(「……誰にも譲れない。わたし達で殺してやる」)
 あえて攻撃の矢面に立つつもりで、スプーキーは戦艦竜『亀山』と顔を合わせる。
「亀山……愛らしい二つ名を付けられたものだね」
 デウスエクスの年齢は見た目ではわからない。ましてや竜の年齢など。
 だが、恨みや憎しみを含まない、歴戦の戦士である彼の目から見て――『亀山』に老練した雰囲気は感じられなかった。
 レイは敵の動きにも気を配りつつも、海底の様子へ目を向けていた。
 起伏があり、岩礁もある。
 だが、ケルベロスやデウスエクスにとって大きな障害になるほどの地形ではない。
(「……つまりは、使いようだぜ」)
 神をも殺す魔狼銃フェンリルと、使い手の命をも喰らう冥淵銃アビスを構えて呟く。
「亀山が翼を広げてるぜ」
 朔耶の声が水中無線機から聞こえ、その直後に連続して副砲から弾が飛び出す。
 今回、ケルベロスたちはほぼ全員が水中用の無線機を身につけていた。
 普通なら簡単に調達できるようなものではないが、6人までがヘッドセット型の水中無線機を装備しているのだ。
 速射砲を前衛の仲間たちへと浴びせられるが、静九がその攻撃を逃れていた。
 仲間たちが攻撃を受けている間にもレイは移動して有利な地形に陣取っていた。
 砲撃を受けてもひるむことなく、スプーキーの手から釣鐘草を模した鎖が伸びて巨体に絡みつく。
 一気に接近した煉が拳を叩き込みながら水中を駆け抜けてまた距離を取った。
 ノーザンライトの機械弓からは巨大な漆黒の矢が鱗を貫く。
「バックは任せてもらうぜ! お前らに回復の技は使わせねえ。亀山もオレのギター聴いてろよ。これがオレ達とお前のラストライブになるからな」
 次遠が呼びかけた。
 ギターを爪弾き、攻撃を喰らった仲間たちを鼓舞している。普通なら水中でまともに演奏などできるはずもないが、ケルベロスのグラビティが輝きを失うことは無論ない。
 朔耶も攻性植物に黄金の果実を実らせて、静九は海中に仲間たちを守護する星座を描き出し、それぞれ祝福を与えていた。
「頼らせてもらうぜ、次遠!」
 尾のスクリューを回転させて味方を薙ぎ払う竜へ、レイは素早く銃を連射する。
 有利な地形から放った弾丸は、亀山を直撃した。
 静九は前線で守りを固めながら、後衛の次遠とともに仲間の回復に尽力していた。
 朔耶のオルトロス・リキやレイのライドキャリバー・ファントムも、静九やスプーキーとともに攻撃を防ぐのが主な役割だ。
 スプーキーやリキ、ファントムは守りを固めつつも竜の動きを縛る攻撃を続けていた。
 リキの霊剣やファントムのガトリングも少しずつ亀山の装甲に傷をつけている。
 二度目の速射砲が放たれる。
「ヴォルフ様!」
 とっさに静九がかばったのはヴォルフ。打撃役である彼を守るのは最優先事項だ。
 同時にファントムが攻撃を受けて海中に沈んでいく……。
 だがそれを気に留めている時間はない。
 次遠が水中に爆発を起こす。
 支援を受けたヴォルフが攻撃に向かい、真紅の刃を竜の首へ振り下ろす。
 見送りながら、静九は自分に外科手術を施していた。
 まだ、限界が来るほどのダメージではない。
 これまでと同じく最初は前衛に攻撃を集中する亀山に対して、朔耶は巨大な獣の姿をした御業から雷撃を放ち、ノーザンライトは石化の魔術で、動きを縛ろうと試みている。
 やがて範囲攻撃の連発でリキも倒れたところで、亀山は大きく口を開いた。
「主砲が来るぜ! 狙われてるのは……」
 スプーキーは朔耶の言葉が終わる前に動き出していた。
 漆黒の光が巨大な口から放たれるのと、彼が静九の前に飛び出すのは同時。
 ドラコニアンの翼を大きく広げて、彼は静九を覆っていた。
 痛烈な一撃がスプーキーを襲う。
 静九がくらえば倒れるが、体力がまだあるスプーキーなら一発は耐えられる。
 唇の動きで謝意を伝えてくる。
 スプーキーは頷くことでそれに応じた。
「大丈夫、じゃなさそうだな。俺も回復するぜ」
「悪いが頼む」
 朔耶の生み出した木の葉がスプーキーの周囲で舞う。
 次遠もオーラで今受けた傷をふさいでくれた。
 そして、主砲を撃つのを待ち構えていたレイと煉が動く。
「全てを撃ち貫け!! グングニルッ!!!」
「これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ!」
 距離を取っていた2人が、一気に敵の懐まで肉薄する。
 レイの魔銃に収束した高密度のエネルギーと、煉の拳に宿った蒼き狼の闘気が、共に戦艦竜の主砲を打った。
 だが、2人に視線を向けつつも、戦艦竜が攻撃するのはあくまで前衛。
 主砲の一撃を喰らったスプーキーに次遠、朔耶、静九が回復を集中させて、さらに本人も生きることの罪を肯定する歌で前衛をまとめて回復する。
 速射砲で回復した体力を改めて削り取った後、亀山は再び口を開いた。
(「ここまで、ですか……」)
 静九の体が輝きを伴って放たれる砲弾を受けて吹き飛ぶ。
 回復を上回る反則的な戦艦竜の攻撃力……だが、仲間たちが対応していることを、観察していた静九は感じていた。
(「後は、皆さんのやり方を学習させていただきましょう」)
 波間に漂う静九と敵の間にスプーキーが飛び込む。
 頬に浮かぶ黒鱗。
 突撃を挟んで放たれた主砲を一度はかわして見せた彼だが、さらに撃たれた主砲は回避できなかった。
「これで4回目。リスクを嫌うと聞いていたけれど、大盤振る舞いをしてくれたね」
 もう体が動かせない中、亀山へ一気に接近するレイと煉をスプーキーは見守った。

●戦艦竜の最期
 七色に輝く剣で、ノーザンライトが無表情に装甲を切り刻む。
 敵の状態に応じて様々な効果を起こす剣は戦艦竜の動きを縛る技の効果を増強する。
 静九とスプーキー、サーヴァントたちが稼いだ時間で痛打を受ける回数は減っている。
「ここからがパーティータイムだぜ!!」
 次遠は爪弾くギターのテンポを加速させる。
 あまり上手ではない彼のギターだが、この早弾きだけは話が別だ。
 仲間たちを鼓舞する熱いフレーズが海中に鳴り響く。
 速射砲の攻撃が、ギタープレイを阻むべく放たれるが、次遠は気合でそれをかわした。
 いや、次遠だけではなく朔耶や煉も回避している。喰らったのはレイだけだ。
「確殺圏内まで主砲を使ってこねぇんだろ。だったら、後衛の俺らがかわさなきゃいけねぇのは、主砲じゃなくて速射砲のほうだぜ」
 煉が不敵に笑って接近すると、地獄の炎を宿した拳を戦艦竜に叩き込む。
 攻撃が単調にならないよう戦うのはデウスエクスも同じ。スクリューを回転させてヴォルフに突撃をしかけるが、スピードに長ける彼は冷たい表情で避けて反撃する。
 無論、すべてをかわせるわけではない。
「それでも時間はかかるよな。リキの分を返すまでやられるわけにはいかないぜ」
 サーヴァントであるが、朔耶にとっては家族同然の存在なのだ。
 朔耶は翼の生えた巨大な獣を御業で形作る。
 水中を駆け巡る雷撃が亀山を打つ。
 だが、次に放たれた速射砲がとうとう朔耶を捉え、そして戦艦竜が口を開いた……。
 ヴォルフは義妹が倒れても攻撃の手を止めることはなかった。
 気にしていないわけではないが、それでも敵が動いて、攻撃の意思を保っている以上手は止めない。
 可能なら少し話してみたいという思いもあった。しかし、水中で呼吸できれば発声は出来るものの、水に阻まれて相手には届かない。
「前回より早く削れている。殺しきることができるペースだ。さあ……何処まで逃げてくれますか?」
 真紅の刃の大鎌と、鋭利な刃のシースナイフがどこまでも亀山を追い詰めていく。
 もっとも、巨大な戦艦竜を捕らえるまでに、さしたる時間はかからなかった。
 次に亀山が狙ったのは次遠だった。
 何度か速射砲をかわし損ねたところで、戦艦竜がまた口を開こうとした。
「怖くねぇぜ。マジで。今度はきっちり対策してる。あの時とは違うぜ?」
 そこで竜の体が硬直する。
 止めたのは突き刺さっているノーザンライトの矢だ。
 一本や二本ではない。七色の剣による影響もあった。重ね続けていた魔女の攻撃で、亀山の体はかなり麻痺しているのだ。
「助かったぜ、ノーザンライト」
 礼を言われて、魔女は頷いた。
「たぶん、そろそろ前回と同じくらいダメージを与えてる。残り、1割」
「そんじゃビシッと気合を入れていくぜ。今まで戦って、今回来れなかった奴らの思いの分までな!」
 これまで回復と支援に徹していた次遠も攻撃に転じた。
 体を覆うオーラを弾丸に変えて叩きつける。
 無論、レイや煉、ヴォルフも攻撃の手を緩めない。
 せめてもの抵抗とばかりに次遠を主砲で撃破するが、それは同時に後衛の2人が大ダメージを与える機会になる。
「前回の主砲の礼は万倍にして返してやるぜ。その自慢の砲塔……俺の拳でぶっ潰す!」
 海中を駆け抜ける煉の蒼い炎と、レイの銃から放たれた光の槍が、竜の砲塔で十字を描いて交差し――とうとう主砲をひしゃげさせる。
 初めて痛みにのたうち回る姿を見せた戦艦竜に、容赦なくヴォルフが鎌を振り下ろす。
 竜がノーザンライトに目を向けた。小さな翼を広げる。
 爪の攻撃を予測して避けようとしたが、そうするまでもなかった。ノーザンライトの眼前で、また亀山の動きが止まる。
「そろそろ終わりにしようぜ!」
 炎を宿した煉の拳が装甲の上から竜を焼く。
 魔銃に集めたオーラをレイが撃ち込んだ。
「行けよ、ノーザン! 亀山にトドメ任せた……!」
 無線機からレイの声がノーザンライトに届く。
 左の掌に右拳を押し当てて、魔女は再び剣を引き抜く。
「魔女ノーザンライトの名において。顕現せよ七色の聖剣……ノーザンライツセイバー!」
 いつも淡々としゃべる彼女が、珍しく叫ぶような声を出した。
 オーロラの剣を目の前の竜に押し当て、水を思い切り蹴る。
 七色の刃は装甲へ完全に食い込んで、竜の体を断ち切っていた。

●帰還
 戦艦竜が力を失って水底へ沈んでいく。
(「できれば真名を聞いておきたかったけど……」)
 不死の維持など求めなければ、違った出会いもあったのだろうか。
 海底の砂を舞い上げる巨体を見下ろして、ノーザンライトは思った。
 ヴォルフはとうに竜への興味を失い、義妹の体を抱えて海上へ向かう。
 他の3人も、倒れた仲間をそれぞれに支えてクルーザーを目指し始めた。
 冷たい水からあがったケルベロスたちは、しばし身を休める。
「礼はできたかい?」
 デッキに座り込んだレイが煉に問いかけた。
「ま、あの主砲はぶっ潰せたしな」
「そりゃよかった。じゃあ、可愛いお姉さんにもよろしくな」
 簡単に手当てしながら、煉はレイに相槌を打った。
 休息と治療の後で、ノーザンライトがまた操縦席につき、ヴォルフが横から見守る。
「他の竜に遭遇したら戦えないから、いちおう気をつけて帰ろうぜ」
 朔耶の指摘に魔女が頷いた。
「では帰りもなるべく警戒していましょう。この傷では少々厳しいですが」
「俺もそうだな。けど、きっと義兄が見ててくれるぜ」
 静九の言葉に朔耶は答えた。
 ゆっくりと船べりに近づいたスプーキーは、竜が沈んでいるあたりに顔を向ける。
「おやすみ」
 彼の声を残して、クルーザーは戦場から離れていった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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