かすみがうら事変~人を辞めたる者の楽園

作者:雷紋寺音弥

●生き残りし者
 茨城県、かすみがうら市。
 殺風景なビルの屋上にて、攻性植物化した不良少年の前に現れたそれは、隣に侍らせた奇妙な生き物から種を取り出して告げた。
「おめでとう。君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう」
 褐色の肌と尖った耳。暗く濁った瞳は、見紛うことなきシャイターンのものに他ならず。
「この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ。さあ、受け取るがいい!」
 そう言って、種を放って投げ渡す。瞬間、それを攻性植物化した少年が受け取ると同時に、凄まじい力の奔流が溢れ出した。
「あぁ、最高に素晴らしい気分だ! 俺は全てを超越するっ! この種の力でなぁっ!!」
 叫びと共に、攻性植物化した少年の身体は瞬く間に奇怪な植物へと変貌を始めた。それと同時に倒壊するビル。しかし、それが崩れるよりも早く、建物もまた植物が歪に絡み合ったような、恐るべき怪物の牙城へと姿を変えた。

●偽りの楽園
「危急の招集に、駆け付けてもらい感謝する。実は、少々拙い事態が発生した」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を、静かに見降ろすザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)。彼の口から語られたのは、白神・楓(魔術狩猟者・e01132)から入った緊急の報についてであった。
「かすみがうら市で発生している攻性植物の事件は知っているな? この事件の陰には人馬宮ガイセリウムで発見された、『楽園樹オーズ』の存在があったようだ」
 実際には、楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があったらしい。攻性植物同士の抗争事件と、介入したケルベロス達との戦い。それらを生き抜いた攻性植物達に、より強力なオーズの種を与え、かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたのだ。
「オーズの種を与えられた攻性植物達を中心に、かすみがうら市の市街地は密林のような街に変貌し始めている。周囲の市民達は植物に巻きつかれ、グラビティ・チェインを搾取されている状態だ」
 このまま放置すれば、全てのグラビティ・チェインを吸い取られた市民は干からびて死亡し、大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物達は、更なる力を手に入れてしまうだろう。そうなる前に、大至急かすみがうら市へと向かい、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破せねばならない。
「敵は強力な攻性植物が一体のみだが、油断はできんな。花から光線を発射する、大地を侵食して全てを飲み込むという能力に加え、葉の一枚、一枚を鋭い刃と化して相手を斬り刻み、生き血を啜る能力も持っている」
 その外見は既に人から大きく離れ、身の丈も3mを越える怪物だ。しかし、周囲の建物が植物化しているため、それに紛れて奇襲を仕掛けて来る可能性もある。
「周囲で倒れている一般人の数は、およそ200名程になる。彼らを捕獲している植物を引き離して始末すれば、救助は可能だが……その場合は、こちらの存在を敵に感付かれてしまうので注意が必要だな」
 一人でも市民を救助した場合、敵に気付かれず建物に侵入することは不可能となる。加えて、救助に時間を掛け過ぎたり、救助ばかりに集中したりしていると、敵の奇襲を許してしまう恐れもある。
 幸いなのは、攻性植物を撃破できれば、市民を捕まえている植物もまた消滅するということだ。戦闘に勝利さえすれば、救助を行わなくとも一応の問題はない。
「シャイターンが暗躍していたという事実は、私にとっても予想外だったが……」
 多少、影を帯びるような口調で締め括りつつも、ザイフリート王子は改めてケルベロス達に告げた。敵がかすみがうらの街を完全に植物化する前に、なんとしても撃破して欲しいと。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
弥奈護・静流(風の吹くまま・e00630)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
ミリム・ウィアテスト(ブラストトルーパー・e07815)
ダルク・フリード(黒に染める・e10663)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
橘・ほとり(キミとボク・e22291)

■リプレイ

●緑の墓標
 市街に聳え立つビル群。だが、ケルベロス達が到着した時には、既にそこは一面の緑に覆われていた。
「……こんなになるまで気付けなかったなんて」
 巨大な蔦や苔のようなものに覆われた建物を前に、弥奈護・静流(風の吹くまま・e00630)は、そう呟くのが精一杯だった。
 コンクリートジャングルという言葉があるが、目の前にあるのは文字通りのジャングルと化した街並みだ。それはさながら緑の要塞。否、既に人の住める状態でなくなっている以上、緑の墓標と呼んだ方が正しいのかもしれない。
「うわー……辺り一面緑だらけだ」
 どこを向いても緑しかない景色に、ミリム・ウィアテスト(ブラストトルーパー・e07815)も驚きを隠せない。楽園樹オーズの種。たった一つだけで、これだけの事態を引き起こすとは。
「確かにな。だが、驚いている時間はないぞ」
 圧倒されている面々とは異なり、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は冷静である。捕らわれている者達の安否を考えれば、今は一刻も時間が惜しい。
「一般人は助ける、攻性植物は斃す。両方ともやらねば罪なき人々が犠牲になってしまう。それだけは止めねばな」
「……そうだ! 誰も犠牲にしないために、絶対に敵を倒すんだ……!」
 目の前の空気に飲まれている場合ではない。
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)の言葉に、決意を新たにする秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)。この先に、どのような地獄が待っていようとも、自分達の成すべきことは変わらない。
「予定通り、ここからは二手に分かれよう」
 ダルク・フリード(黒に染める・e10663)の提案通り、ケルベロス達は二手に分かれた。戦力を分散するのは危険を伴う行為であったが、固まって闇雲に敵を探すよりも、隠密効果は高いはずと踏んで。
「それじゃ、ボク達はこっちで……。連絡は、ジョルディさんとティーシャさんで……」
 最後に、橘・ほとり(キミとボク・e22291)が確かめるように告げた言葉に、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が無言で頷く。
(「攻性植物にシャイターン……。これ以上はやらせん!」)
 罪なき人々を、悪しきデウスエクスの魔の手から救うため。偽りの楽園の入口へと、彼らは臆することなく飛び込んだ。

●楽園の支配者
 多数の蔦と巨大な根によって侵食されたビルの中は、正に密林という言葉が相応しかった。
 複雑に絡み合った植物の茎は、地形を歪め、ケルベロス達の行く手を否応なしに阻む。途中、それらの中に捕らわれた人々の姿も発見したが、敵の撃破を優先する以上、声を掛けることはできなかった。
 敵はどこに潜んでいるか判らない。慎重に、物音を立てないよう注意しつつ、最上階を目指して進む。張り巡らされた蔦を片手で払い除けながら扉を開けると、そこに広がっていたのは今までになく奇妙な空間だった。
「なに……これ……」
 天井から床に向かって伸びる、無数の巨大な蔦。それらに囲まれるようにして中央に位置するのは、身の丈が3mに届きそうな緑の怪物。
 全身に葉を茂らせ、その身は蔦が歪に絡み合った姿に変貌しながらも、微かに人のような顔も残している。間違いない。あれが、オーズの種を手に入れて強化された、今回の事件の元凶だ。
「敵を発見した。まだ、こちらには気付いていないようだが……大至急、合流を頼む」
 敵に悟られないよう声を殺しつつも、ティーシャはジョルディに連絡を取った。このまま仕掛けても良かったが、戦力を欠いた状態で未知の敵へと挑むには、あまりにも状況が悪過ぎる。
 一秒が一時間にも感じられる瞬間。反対側の入り口から仲間達が合流したのを確認し、ティーシャは間髪入れずに敵の背後から仕掛けた。
「……っ! なんだ、てめ……!?」
 攻性植物が叫んだ瞬間、回転する腕が敵の身体を抉り、葉を散らす。敵に反応する時間など与えさせない。このまま一気に、集中砲火で押し切るだけだ。
「我が爪と嘴を以て貴様を破断する!」
 敵の意識がティーシャへと向けられたところに、今度はジョルディが真横から斬り掛かった。漆黒の巨斧。それが纏うは、全てを焼き尽くす紅蓮の獄炎。
「ここで止めなければ、どれだけの人が危険にさらされるのか……。絶対に止めてみせます!」
 振り返る隙など与えない。ライドキャリバーのヤタガラスと共に突撃し、鋭い蹴りを炸裂させる彼方。
「そこ……隙ありだ! オーライ、オーライ……ファイア!」
 続けて仕掛けたのはミリムだった。強力無比な衛星射撃を叩き込めば、縁もまたオルトロスのアマツと共に仕掛ける。
「皆、この地を解放するぞ!」
 敵の身体が念力で燃やされる中、間髪入れずに鉄塊剣を叩き付ける。純粋に破壊力だけを求めた技は、それだけに威力の程も申し分なく。
「一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華ーー龍嵐!」
 敵を大きく打ち上げたところで、その隙にほとりが守護の紙兵を散布して行く。ビハインドの幽鬼が敵の動きを封じ込め、静流の脚が炎を呼ぶ。
「今日は特別だ……。魔術師としての力、魅せてやろう!」
 一方的に叩き伏せられる攻性植物を前に、二冊の魔導書を開き、ダルクが魔法陣を展開する。指も触れずにページが捲れ上がるのもまた、彼の魔術師としての力故か。
「光の舟よ! 哀れな者達に天罰を!」
 召喚されたのは光輝を纏った巨大な船。それは周囲の木々を薙ぎ倒し、果ては攻性植物そのものでさえも押し潰し。
「これでやった……わけじゃないよね」
 眩い光が静かに収束して行く中、ほとりは油断せずに敵のいた場所を見据えている。果たして、そんな彼女の予想は正しく、光の中から現れたのは怒りに満ちた声を漏らす緑色の怪物だった。
「……やってくれるじゃねぇかよ、テメェら」
 先手を打って一斉に攻撃を叩き込まれてもなお、満身創痍には程遠い。最後の一撃を面の制圧ではなく、単体に狙いを絞った攻撃にすれば、少しは違ったかもしれないが。
「俺様の城で好き勝手したからには……どうなるか、解ってんだろうなぁぁぁっ!!」
 激昂と共に放たれた言葉が、衝撃となって周囲の植物の枝葉を揺らす。瞬間、敵の脚から伸びる根と建物の床が融合し、近くにいた全ての者を飲み込んだ。

●悪魔の種子
 緑に支配されたビルの中。偽りの楽園で繰り広げられる戦いは、次第に激しさを増していた。
 奇襲にこそ成功したものの、しかしケルベロス達の優勢は長く続かない。互いに正面からぶつかり合った場合、戦いにおける準備の不足が否めなかった。
「見た目以上にタフなやつだな。これも、オーズの種とやらの力か?」
「どうだかな……。だが、このままでは、互いに無駄な命の削り合いになるのは確かだぞ」
 アームドフォートの一斉射撃に、地獄の業火が生み出した炎弾を絡めて戦うジョルディとティーシャの二人。それでも、レプリカント達の重火力攻撃を前にしてなお、敵は怯む素振りさえ見せない。
 敵の全身に生えた鋭い葉。一枚、一枚が鋭利なナイフに匹敵するそれは、攻撃に用いられると同時にケルベロス達の生き血を啜り、敵の傷を修復して行く。攻撃と回復を両立させる技は、攻性植物の耐久力を予想以上に引き上げていた。
「うわわ! ちょっと、手が回らないよ~!!」
 そんな中、ヒールドローンを展開するミリムは、早くも手一杯になっている。
 敵の攻撃の壁となって立ち回った結果、床諸共に侵食されて催眠状態へと陥ったサーヴァント達。戦闘や回復の補助に回るはずの彼らは、今や完全に従うべき主を見失い、互いに同志討ちを始めていたのだ。
「さっきの威勢はどうした? 尻尾を撒いて逃げた後、ま~た不意打ちで掛かって来てもいいんだぜ?」
 緑色の巨人が、蔦の中に浮かぶ顔を不敵に歪めて言い放つ。数の差を前にして、圧倒的な余裕。だが、それを見た彼方は奥歯を噛み締めながらも、ヤタガラスを突撃させつつ正面から懐に飛び込んだ。
「ブレイブスター! アクションモジュールシックス! コードナルカミ! 迸れ!」
 左手に宿った稲妻が、4本の槍と化して敵を貫く。緑の巨体が大きく揺れるが、それでも敵は怯まない。
「正義の味方気取りか? 笑わせんな!」
「ふざけるな! 君こそ、何でこんなことをするんだ! 倒れている人達を見ても、何も思わないのか!?」
「ハッ! 虫けらを殺すのに理由がいるのか? それとも、テメェは今までに自分が食って来た牛や豚に、いちいち墓を作って泣いてやるってぇのか?」
「……なっ!?」
 それ以上は、何も言葉を紡ぐことができなかった。
 人間としての倫理観など、相手は端から持ち合わせていない。そこにあるのは、単純な思考。勝利し、支配し、食らい尽くす。ただ、それだけだ。
「中途半端な情けを掛けるな! 付け込まれるぞ!」
 縁の脚が、鋭い三日月を描いて炎を飛ばす。錯乱するアマツの姿を横目にしながらも、敢えて感情を表に出さずに。
「幽鬼……君達も、皆、目を覚まして……」
 広がる紫炎。ほとりが浄化の炎を灯したことで、辛うじてサーヴァント達も正気を取り戻す。が、負っている傷の深さから考えれば、それとて十分ではない。
「いい加減、その減らず口を固めて、叩けぬようにしてやろうか」
「面白ぇ! やってみろよ! できるもんならなぁ!!」
 古代語の詠唱と共にダルクが魔法の光を解き放つが、攻性植物は巨体に反し、それをいとも容易く回避した。いかに鈍重そうな見た目の相手であっても、同じ属性の攻撃を仕掛け続ければ見切られる。
「まだまだ……。これ以上は絶対にさせないんだから!」
 それでも、今度は静流が鋭い蹴り技から炎を繰り出し、相手の身体に良正面から叩きつけた。
 葉が、蔦が、次々と赤く燃えて行く。しかし、身を焼かれてもなお、攻性植物は怯む素振りさえ見せようとせず。
「さっきから、チマチマとウゼェ炎飛ばしやがって……。そんなに火が好きなら、テメェらで燃えてな!」
 その身に毒々しい色の花を開花させ、周囲の光を集めて発射する。間髪入れず、アマツが射線に割って入るが、それが限界だった。
「……」
 消滅する相方の姿を、無言のまま見届ける縁。互いに己の役割を、承知した上での犠牲。だからこそ、その想いを無駄にするようなことはしない。
 手数だけで考えれば、こちらの方が上なのだ。強敵を前に苦戦を強いられつつも、ケルベロス達は果敢に攻撃を仕掛けて行く。刃葉が舞い、触手が床を侵食し、強烈な閃光が身を焦がさんと放たれるが、それでも臆さず戦い続ける。
「……へぇ、なかなかやるじゃねぇか。だったら、こっちも本気を出さねぇとな」
 気が付けば、敵の身体は葉も枝も焼け焦げ、無数の傷を負わされていた。だが、それでも攻性植物は不敵な態度を崩さない。
「オーズの種よ、俺に力を!」
 次の瞬間、凄まじい力の奔流が攻性植物へと流れ込み、ケルベロス達は思わず己の目を疑った。
 完全に焼け焦げたはずの葉が、斬り落としたはずの枝が、全て再生を遂げている。目の前の現実は、即ち絶望への片道切符。
「そ、そんな……。これも、オーズの種の力なのか?」
「諦めるな! ここで俺達が負ければ、捕らわれている人々はどうなる!」
 あまりのことに、立ち尽くす彼方。ジョルディが叱咤するが、それでも状況は最悪だ。しかし、ここで背中を見せるわけにも行かない。
「来いよ腐れ葱野郎! 焼くか微塵切りか……好きな方で調理してやる!」
 こうなれば、最後まで徹底的に相手をしてやろう。
 漆黒の巨斧に刻まれたルーン文字を輝かせ、重騎士の一撃が呪力と共に敵の身体を引き裂いた。

●起死回生
 再び力を取り戻した攻性植物の猛攻を前に、壁を担っていたサーヴァント達は既に消滅していた。
 防具の耐性。見切りへの対策。範囲攻撃の使用による火力低下に救護要員の不足。それらの小さな事が重なり、済し崩し的に戦列を崩壊させられていた。
「……っ! 幽鬼……みんな……ごめん……」
 続けて倒れたのはほとりだった。壁として残された自分だけで味方に降り注ぐ攻撃を受け止めれば、長く持つはずなどない。
「ふっふっふ……。やはり、この種の力は素晴らしい」
 勝ち誇るようにして笑う攻性植物。敵の身体には再び無数の傷痕が刻まれていたが、対するケルベロス達の被害も、決して馬鹿にできるものではなく。
「まだだ! まだ、私は戦える!」
 ティーシャを先頭に、再び炸裂するケルベロス達の攻撃。しかし、先程に比べて勢いは弱い。手数を失っている上に、見切りへの対策が甘い攻撃まで混ざっているのだ。
「オラ! もっと俺を楽しませてみろ!」
 魔性の花より放たれる閃光が、空間を一直線に貫いてダルクへと迫る。咄嗟に魔導書を広げて何かを成そうとするが、それよりも早く、破壊の光が彼の身体を撃ち抜いた。
「……っ!?」
 薬液の雨による回復では、続けたところで気休め程度に過ぎない。衣服の端々を燃やされながら、彼もまた炎の海へと沈み。
「おのれ……。だが、最後まで背中は見せぬ!」
 巨斧を持つ手に力を込めて、ジョルディが跳ねた。後ろを振り返ることはしない。不退転。その言葉こそ、己の流儀であると。仲間の犠牲に報いるためも、今は目の前の敵を倒さねば。
「……ぐぁっ!? き、貴様ぁぁぁっ!」
 振り下ろされた渾身の一撃に半身を斬られ、攻性植物が怒りを露わにして叫んだ。その咆哮を遮るように、ティーシャが、彼方が、アームドフォートの一斉射撃を叩き込む。
「今だ、静流! やつに止めを!」
「ボクの力も受け取って!」
 爆風が晴れるよりも先に、敵を天井へと打ち上げる縁。ミリムも満月の如きエネルギー光球を放ち、それを受け取った静流が一枚の札を取り出し、投げる。
「式神巨人、大進撃!! やっちゃえー!!」
 植物には植物、巨体には巨体。周囲の瓦礫や植物の残骸。札を中心に集まったそれらは、瞬く間に巨大な体躯を誇る式神と化す。
「オォォォォッ!」
 剛腕を振り上げ、式神が吠えた。対する攻性植物も苦し紛れに枝を叩き付け払おうとするが、それも虚しい抵抗だった。
「ば、馬鹿なっ! この、俺が……。この、俺がぁぁぁっ!!」
 巨大な拳の一撃に打ち砕かれて、攻性植物の身体に亀裂が走る。青臭い汁を辺りに撒き散らしながら、緑の巨体が真っ二つに裂け。
「や、やった!? これで無事に終った……のかな?」
 動かなくなった敵の姿を前にして、彼方が思わず口にした時だった。
「あれは……!?」
 倒れた敵の身体が、瞬く間に枯れ果て萎んで行く。そして、その中から姿を現したのは、光り輝くオーズの種。
 残念ながら、追撃するだけの余裕は残されていなかった。しかし、それでも今は、この地を解放できたことを喜ぶべきだと。死闘を終えたケルベロス達は、それぞれに安堵の溜息を吐いて武器を納めた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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