二度目の命に終止符を

■リプレイ

●嫌いなやり方
　ヘリオンから降下するとケルベロス達は、一斉に駆け出した。
　寒さと静けさだけが支配する、オフィス街。
　駆けながら、フィオ・エリアルド（夜駆兎・e21930）が小さく呟く。
「眠っている人をもう一度呼び起こして、使役して……私もそう言うの嫌いだよ」
　フィオのの脳裏に『死神のやり方が許せない』と言った少年の姿が浮かぶ。
　ヘリオライダーとして、デウスエクスの退治を依頼するのが彼の仕事だが、彼は死神の作戦に明らかな嫌悪を示していた。
　フィオとて同じである。
「今度こそ、私達の手で眠らせてあげなきゃ。大丈夫……私だってケルベロスなんだ。やってみせる」
　心に誓うと、フィオは駆ける速度を更に上げる。
「新しい死神が動き出したか。やってることは、同じよーだけどね。ともあれ、目の前の依頼からどーにかしないとねー」
　楽天的にも聞こえる声で、 猫のような軽快さを見せる、アクセル・グリーンウィンド（緑旋風の強奪者・e02049）が言う。
「死人、生き返らせて、そいつに敵殺させるって、どんなクズだよ。死人への尊厳とかゼロかよって……」
　リカルド・アウベス（女々しき凶拳・e21989）が呆れる様に言うが、自分の隣を漂う、ビハインドのマルタを見て苦笑する。
「俺も同じことやってたか……」
　あの日失った、かつての恋人はそれでも、常にリカルドの傍にいてくれる。
　死神に蘇らせられた魂とは、根本から違うと言ってもいいかもしれない。
　ビハインドとなる者は、自らの意思でサーヴァーントとして、マスターに付き従う。
　ビハインドが拒否したならば、ケルベロスがどんなに渇望しても、共に戦ってくれる事は無いだろう。
「みんな、見えて来たみたいだよ。死神とエインヘリアルだね。頑張って、退治しちゃうの♪」
　可愛らしい無垢な少女然とした口調でライドキャリバーに腰をかけた、颯・ちはる（悪徳・e18841）が仲間達に声をかける。
　だが、可憐な少女の笑みとは裏腹に、ちはるは心の中で、死神のやり方に辟易していた。
（「意思の無い操り人形として再利用、ねぇ……。一回死んだ奴は素直にそのまま死なせとけっつーの、だりぃ……。殺し直すのも手間なんだよ。……塩撒いて消えりゃ、楽なんだがなぁ……」）
　あどけない少女にしか見えない、ちはるがこのようなことを思っている等とは全く思っていない仲間達は、エインヘリアル達と戦闘域まで距離を詰めると、各々得物を構える。
「こんにちは、死神さんっ。寝てる子を無理やり起こすなんて、悪い子ね」
　闇を漂う死神達に、フェリシティ・エンデ（シュフティ・e20342）がハッキリとした口調で言うと、隣で佇むボクスドラゴンのそば粉が死神達を威嚇する。
「いい？　そば粉、皆をちゃんと守るのよ。頑張ったらご褒美に美味しいケーキをあげちゃうの！」
　フェリシティの言葉に奮起したのか、そば粉は早速、己が属性をインストールする。
「死せる英雄、エインヘリアルらしいと言えばらしいですね。ですが……絡め取る糸、断ち切ってさしあげましょう。でもまずは……」
　七奈・七海（旅団管理猫にゃにゃみ・e00308）は言うと、死神の一体に駆け寄り、全力のばねを活かした跳躍でアッパーカットを決め、その勢いで連続攻撃を叩き込む。
「あなた達から消えてもらいます」
　七海の宣戦布告と同時に、死神の操り人形と化したエインヘリアルが咆哮を上げた。

●蘇ったモノと蘇らせたモノ
　戦場にカラフルな爆風を起こすと、池・千里子（総州十角流・e08609）がエインヘリアルへと接敵した。
　ケルベロス達の作戦は、死神の優先撃破。
　千里子は、その間、どうしてもフリーになってしまうエインヘリアルの動きを対処するつもりでいた。
　容赦なく、振り下ろされるエインヘリアルの剣が千里子の肩を傷つけるが、すぐにちはるの分身が傷を塞ぐ。
　だが、千里子は顔色を変えず。
「痛みへの恐怖は、とうに覚悟を決めている。だから、私が血を流すその代わりに、力を奮ってくれ。それが前に立つ者の……武人の本懐だ」
　ハッキリとした意思を持って千里子が口にする。
「それでは、エウジェニオ様がしっかり援護しましょう」
　言って、エウジェニオ・バルダッサーレ（真実を嘯くパラノイア・e01048）が、石化の魔力をエインヘリアルに向かって解放する。
「痛覚が無くても、ほォら動けないんですよ？　不思議ですよねー、自分では何の異変も感じないのに、動けないなんて。……ああ、そうか、不思議だと思う心もないんでしたっけ」
　エウジェニオは、飄々と言ってのけると、手元にゲシュタルトグレイブを出現させる。
「それじゃ、手早く終わらせないとね。みんな、食べていいよ……」
　アクセルが呟くと、左手の功性植物が腕全体を覆い尽くし、拳に薄紫色の花を咲かせる。
「制御できるかな……」
　アクセルのそんな言葉を命令と取ったのか、はたまた裏切ったのか、暴走する功性植物は、漂う死神に襲いかかり、消化液で死神を溶かしていく。
「死肉食いの紫弔草……死神の肉は死んでるのかな？」
　首を傾げるアクセルの姿は、無邪気故の残虐性を合わせ持っていた。
「地球の裏側から一発キツイのくれてやんぜ！」
　叫びと共にリカルドが高速の拳を死神にぶち込む。
「リカルドさん、どいて！」
　リカルドが一歩引くと、続けざまにフィオの流星の軌跡を描く蹴りが死神を強襲する。
（「正直、死神の指揮官の事とか、エインヘリアルの事とか……そこまで考えていられないかな。まずは戦うこと。足を引っ張ってなんていられないから！」）
　思いを巡らせながらも、フィオはバックステップの要領で下がるとゾディアックソードを構える。
「ちふゆちゃん、あなたも行くの」
　ライドキャリバーが炎を纏い突進していくのを確認すると、ちはるは、爆破スイッチを押す。
　グラビティのこもった爆発がケルベロス達を包む中、フェリシティのしなる足から繰り出される蹴りが、一体の死神を絶命させた。
「みんなをちゃんと守るのがフェリスの役目！　でも、あなた達は許せないの！」
　フェリシティが、長い黒髪をたなびかせながら、死神達に告げる。
「黄泉戸喫をご存知ですか。遠慮はいりません。たんとお召し上がれ」
　声のする方を見れば、七海のナイフが死神の目を抉っていた。

●死……それは消えると言うこと
「悪戯に弄ばれて、心も何も失っていて……それでも、戦士として戦いの中で果てるコトができるのは唯一の救いですかねー。 アンタの『生』はもうとっくに終わってるんですよ。だから、もう一度……」
　エウジェニオは、エインヘリアルと戦いながらも言葉を紡ぐ。
　その言葉をエインヘリアルは理解していないだろう。
　だが、その言葉は聴覚を通してグラビティとなって、エインヘリアルを絡め取る。
「今言ったことはすべて嘘ですよ。あ、これは本当。というのは冗談です、なんてね。もちろん、嘘偽りなく事実を述べているまでですよ」
　エウジェニオの真実の中に隠された嘘の言葉が、エインヘリアルを翻弄するタイミングで、千里子が音速すらも超える拳をエインヘリアルの裸の上半身に撃ち込むが、エインヘリアルの身体を覆う魔法的な何かの所為で手応えは、薄い。
　それに加えて、千里子の身体に刻まれた傷からは、ヒールグラビティを施しているとはいえ、血とグラビティが流れ出していた。
「それでも、私は……務めを果たす！」
　千里子が叫ぶと、エインヘリアルは無骨な剣を振り、星の力を放つ。
　だが、そのエネルギーは千里子では無く、リカルドの相棒であるマルタが代わりにその身に受け、マルタはグラビティを保てず姿を消す。
「……そんな」
「大丈夫だ。戦闘が終われば、帰ってくる！」
　リカルドの叫びが聞こえたと同時に、リカルド本人が戦場に飛び込む様に跳躍すると、エインヘリアルに向かってその手を伸ばす。
「叩き起こされて、ご機嫌斜めみてぇだが、恨むんなら叩き起こしたヤツを恨んでくれや！」
　リカルドの突きを受けたエインヘリアルの動きが鈍くなる。
「美味しい美味しいリンゴなの！　とっても刺激的な味なのよ！　……あの世まで飛んじまうくらい、な」
　千里子の眼前に真っ赤なリンゴが現れたかと思うと、無理やり咀嚼させられる。
　驚き、目を見開いた、千里子の前に居たのは、とてつもなく笑顔のちはるだった。
「死神は、全部退治出来たよ！　あとは、このエインヘリアルだけだよ！　一気に倒しちゃおう！」
　グラインドファイアでエインヘリアルを牽制しながらフィオが、グラビティ・チェインの戻った千里子に言う。
「知能なくばただ強い『だけ』それを証明しましょう」
　七海が、エインヘリアルにその言葉の真意を見せつける様に、獣腕を振るう。
「頭が高い――伏せなさい」
　七海の獣腕がグラビティで守られた、エインヘリアルの首を襲うと何とも言えない衝撃が七海の獣椀に伝わる。
　そして、エインヘリアルの……絶叫。
　エインヘリアルの剣が縦横無尽に振り回されるが、その剣を蔓草が絡め取る。
「逃がさないよー」
　あくまで天使の様な無邪気さで、アクセルが功性植物にグラビティを込める。
「いいこね。もう一度、フェリス達があなたに永遠の眠りを教えてあげる」
　暴れる子供をあやす様な優しい声音でフェリシティは言うと、その身体から繰り出されたと思えない勢いの拳をエインヘリアルのわき腹に叩き込む。
　繰り返される、ケルベロス達の猛攻で、傷つきつつもなお、暴れ狂うエインヘリアルを見ながら、エウジェニオは何とも言えない情を抱いていた。
（「言葉が通じないなんて厄介ですねー。エウジェニオ様の言葉に『心』が跳ねるトコロが楽しいのに。ああ、まったく反応もない。これじゃあ、本当に人形ですね」）
　エウジェニオは、エインヘリアルの肩にゲシュタルトグレイブを突き立てながら、エインヘリアルの耳元で囁いた。
「こんな悲劇の舞台はさっさと幕を閉じて、深い深い眠りに誘いましょうか。おやすみなさい、永遠に……。……終幕を！」
　エウジェニオの言葉に応える様に、千里子がアスファルトを蹴ると、その衝撃でアスファルトに亀裂が走る。
　一気にエインヘリアルの眼前まで迫った千里子は静かに呟く。
「覚悟を……」
　鋭く突き出された拳は、エインヘリアルの顔面を捉え、更に攻撃的グラビティを炸裂させた。
　完全にグラビティを放出させると、千里子は回転しながら着地する。
（「本来、死した者は皆平等で、敵や味方と言うしがらみは無用のはずだ。眠れ……」）
　千里子の祈りと共に、エインヘリアルの身体はゆっくりとグラビティ・チェインを手放し、霧散すると消えて行った。
　まるで最初から何者も居なかったかの様に。
　周りの傷ついた街並みだけが、彼が存在したことを教えてくれているようだった……。

●本当に倒さなければならない相手
「お疲れ様なんだよ、みんなー！　えへへ、ひとまずは……平和、なのかな……」
　言って、フェリシティは、辺りを見回す。
　戦闘で傷ついた街並みは、既にケルベロス達の手によって、ヒールされ、殆ど以前と変わらない姿に戻っていた。
　戦闘など起こっていなかったかのように。
　死したエインヘリアルが存在していたことも、無かったかのように。
　少しだけ寂しくて、フェリシティは、そば粉を撫でる。
「もう他には、何も起こらないみたいだし、帰ろっか」
　新しい死神の次の一手を警戒していたアクセルも、何も変化が無いことから笑顔で言う。
「お疲れさん。さぁ、次は黒幕だ」
　リカルドが気合いを込める様に言うのを聞き、フィオが呟く。
「私はまだ、戦うだけで精一杯の半人前だから、そこまで考えが回らないけど。……いつか、事件の背後にいる死神を倒さなきゃいけないんだね」
　戸惑い、迷い……そして決意を込めた、言葉。
（「いつか……決着をつけてみせる」）
　エインヘリアルへと祈りを捧げていた千里子は、暗躍する死神へと思いを新たにしていた。
「それじゃ、皆さん。行きましょう♪」
　七海が跳ねる様に立ち去ろうとすると、他のケルベロス達もそれに続く。
　去り際、エウジェニオは、一度だけ振り返ると。
「最期まで戦士だったアンタは格好良かったですよ」
　嘘か真実かそう言葉を紡いだ。
　帰路の途中、突然ちはるが声を上げた。
「あっ！　ちはるちゃん、ちょっと用事を思い出したの。みんな、先に帰っててなの♪」
　言うと、ちはるはライドキャリバーに跨り走り去って行く。
　走るライドキャリバーの上で、ちはるは笑顔の仮面を外した。
「黄泉返りなんざ、こんなもの。あれを『返った』と言えるかどうかは、別だけどね。……さ、とっとと帰るよ、ちふゆ」
　夜の闇に、ライドキャリバーの疾走音だけが響くのだった。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年3月7日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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