かすみがうら事変~不良と蔓と蔦

作者:香住あおい

 攻性植物化した不良の前に現れた2体のデウスエクス。
 それは攻性植物のヤクト・ヴィント(幻想喰らい・e02449)の宿敵であるユグドラシルガードモデルラタトスクと皇・絶華(影月・e04491)の宿敵であるシャイターンのシルベスタ。
「おめでとう。君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう。
 この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
 そう言うとユグドラシルガードモデルラタトスクは持っていたオーズの種を渡す。
 不良はそれを受け取ると、たちまち凄まじい力を放出させる。
「フフフ、我を崇めよ。我こそが神である。愚民どもよ、我にひれ伏すが良い!」
 パワーアップの余波で周囲の建物が破壊されるが、すぐさま修復されていく。その姿は蔦と蔓の絡まった木のような、植物っぽいもの。
 周囲が緑色へと変化していくのを見届け、ユグドラシルガードモデルラタトスクとシルベスタは立ち去って行った。

「皆様、早速ですが事件の概要を説明させていただきます」
 ヘリオライダーの御村・やなぎは深々と頭を下げる。
「かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された『楽園樹オーズ』との関連について調査していた楓様から緊急の報告が入りました」
 白神・楓(魔術狩猟者・e01132)によれば、かすみがうらの攻性植物事件の裏には楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があったとのこと。
 ケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争事件などを生き抜いた不良達により強力なオーズの種を与え、かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたらしい。
「オーズの種を与えられた攻性植物――元不良の皆様を中心に、かすみがうらの市街地は密林のような街に変貌し始めております。それに伴って、周囲の市民の皆様は植物に巻きつかれ、グラビティ・チェインを吸い取られているようです。
 このままですとグラビティ・チェインを全て吸い取られてしまった皆様は干からびて亡くなってしまわれ、大量にグラビティ・チェインを得た攻性植物は新たな力を手に入れてしまうでしょう」
 ケルベロス達には一刻も早くかすみがうらに向かって、オーガの種を手に入れた攻性植物を撃破してほしい、とやなぎは言う。
「相手は一体のみですが、強力ですので気を抜かれませぬよう。
 不良、と申しましても攻性植物と化しております上に外見は既に植物の化物。体長は3mほどありますが、周囲の建物が植物化しておりますので、皆様方が警戒を怠れば奇襲をかけられる恐れもあります。
 攻性植物は捕食形態、蔓触手形態、そしてデスバイハンギングのようなグラビティを使用してくるようでございます。
 また、周囲で倒れられている皆様は道端、建物の中など合わせて200名ほど。
 植物を引き離して始末すれば救助することは可能ですが、その場合は攻性植物に救助した事実が伝わってしまうこととなりますのでご注意ください。
 救助を行った場合はその時点で皆様がいらしたことに気付かれます。ですから気付かれないよう潜入し、奇襲をかけることはできなくなるので、こちらもご注意くださいますよう」
 また、救助に時間をかけすぎる、もしくは救助ばかりに気を取られ過ぎていると敵の奇襲を受ける可能性もある。
「攻性植物さえ撃破出来れば、市民の皆様を捕えている植物も消えるはずですので、救助を行わなくても問題はありません。
 どうなさるのか、それは皆様の判断にお任せいたします」
 やなぎは深々と頭を下げる。顔を上げるとケルベロス達をじっと見る。
「最悪の事態になる前に察知できたのは楓様のお陰。
 皆様、どうか攻性植物を撃退し、かすみがうらをお守りください」


参加者
天壌院・カノン(オントロギア・e00009)
不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)
塔間・隼人(白衣の天災小学生・e05248)
シア・ベクルクス(フルールダンジュ・e10131)
サロメ・シャノワーヌ(サーカスティックロマンス・e23957)

■リプレイ

●奇襲
 かすみがうらの事件の裏にあったオーズの種。それを埋め込まれた攻性植物によってかすみがうらは密林に変貌しつつある。
 話し合いの末、彼らは攻性植物の早期撃破を選択した。捕えられている住民が多く、救出作業よりも手早く片付けたほうがよいと考えたからである。
 作戦は隠密気流や螺旋隠れで気付かれないよう攻性植物に接近し、奇襲を掛けるというもの。
 花や蔦、蔓などの植物に触れぬように人工物の上を伝い、声も出さぬよう静かに移動。仲間に何かを伝える際はハンドサインを使用する。
 山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)は気合十分で戦いに臨む。
 本人ももちろん植物に触れないよう気を付けてはいるが、その先に何もないということを巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)からハンドサインで伝達を受けている。
 真紀はオラトリオの2人からの情報をただ仲間に伝えるだけでなく、生い繁る植物の密度からも敵の位置と相対距離を推測していた。
 天壌院・カノン(オントロギア・e00009)は翼移動を駆使して安全な足場を見つけて仲間に伝え、注意を払いながらブロックの上に着地した。
「(必ず、助けます)」
 自分の存在に気付いた一般人へ口だけを動かして伝えるとカノンは次の足場を探す。
 隣人力を発揮し、一般人を安心させるよう振る舞うのは塔間・隼人(白衣の天災小学生・e05248)。後で必ず助けるとジェスチャーで伝える。
 翼飛行で周囲を警戒しているシア・ベクルクス(フルールダンジュ・e10131)は不自然に茂る箇所を発見し、その近辺にいる不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)と中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)へとハンドサインを送った。
 それを受けた梓はシアへ礼を言うようにひらひらと手を振ると植物から距離を置いて太いパイプの上へ移動する。
 めぐみも細心の注意の上でポジション取りをした。
 捕えられている女性に大丈夫だ、と言わんばかりの笑みを見せるのはサロメ・シャノワーヌ(サーカスティックロマンス・e23957)。それはまるで王子様のよう。
 テレビウムのステイとともに注意深く周囲を観察しながら攻性植物へと近付く。
 皆の戦闘態勢が整ったことを確認したシアとカノンが合図を出した。
 それは攻性植物にとっては、まさしく奇襲。まともな攻撃態勢を取れぬままケルベロス達の攻撃を受ける。
 梓は銜えている長楊枝を噛み千切り、直ぐに吐き捨てると雷刃突を放った。神速の突きは攻性植物の胴体を貫く。
 次いでシアも雷刃突を繰り出す。一華開五葉を変形させ、食らいつくような突きで抉り取る。
 涼子は空手の形から掌底打ちで叩く。グラビティ・チェインを破壊力に変えて乗せられたそれは確実に攻性植物へダメージを与えた。
「お前、カラーギャングか? なら、シンボルは差し詰め『緑色』か」
 真紀は華麗にステップを踏んだ。動作そのものが儀式魔術の性質と概念を疑似的に獲得するに至った魔性のタップダンス、路地裏の影縫い(バックストリート・タップダンサー)。攻性植物の影の上でステップを刻み、生命と機動力とを直接害する呪詛を叩き込む。
 時空凍結弾を精製して撃ち込むカノン。弾を撃ち込まれた蔓が凍りつく。
 サロメの奏でる「紅瞳覚醒」をBGMに、凍りついた箇所を凶器で殴打するステイ。
「そのツタ、全部切り離してやるぜ!」
 メスを大きくしたような槍を持った隼人がグレイブテンペストで蔦を薙ぎ払う。
「あなたに恨みはありませんが徒に犠牲者を増やすわけにはいきません。故にあなたにはここでリングから降りていただきます」
 高らかに、宣言するようにめぐみは言うと螺旋掌を叩きつける。螺旋を籠めた掌で触れられた攻性植物の蔓が壊れるように破壊される。
 続けて梓がGelegenheitで攻性植物に与えた傷を斬り広げる。
 その斬り広げた箇所へ涼子のブーストナックルが放たれた。
 反動で蔦が空を舞い、それを高く跳び上がったシアがルーンアックスで叩き斬る。
 真紀も跳び上がり、攻性植物を踏み付けるように蹴りを放った。着地も舞うようにスムーズに。
「天を仰ぎて幾星霜、大地を彷徨い悠久に。全にして一たるは月明かりの調べ。一にして全たるは那由他の花。時は満ち、裁きの光は放たれる」
 郁郁たるは繚乱の花・全てが等しきこの世界(ディエス・イーレ・ディエス・イッラ)。カノンは罪を犯した者に対する救済の願いを聖なる力へと変換し、解放させる。咲き誇る輝きを放つ無数の花々は、その花弁を光の刃へと変え、攻性植物を切り刻む。
 花弁の刃に混じって隼人が放ったライトニングボルトが攻性植物を襲う。

●手早く、確実に
 刃と雷に襲われた攻性植物はサロメのグラインドファイアによって部分的に燃え上がる。
 めぐみはその炎を消すかの勢いで神速の突きを繰り出した。もんどりをうつ攻性植物へ梓はドレインスラッシュで斬り付け、シアはルーンを発動させた斧を振り下ろす。
「オーライ、踊るぜ。オレのダンス見てけよ!」
 真紀が路地裏の影縫いで攻性植物の動きを止めたところに、涼子がグラビティブレイクを叩き付けた。
 間髪入れずカノンが地獄の炎弾を撃ち込んで生命力を喰らい、サロメはスターゲイザーで、隼人はグレイブテンペストで攻性植物を足止めする。
 攻性植物が蔓を伸ばして攻撃を仕掛けようとするが、ステイが凶器で殴りつけて怯ませ、めぐみが絶空斬で斬り捨てる。
 ようやく攻撃態勢へと入った攻性植物が攻撃を仕掛けてくる前に出来るだけダメージを与えようと梓とシア、そしてめぐみは連携して雷刃突で突き刺す。
 3方から突き刺された攻性植物の触手代わりの蔓が突如として爆破する。それは涼子のサイコフォース。
 爆破の追い打ちを掛けるように、隼人はライトニングボルトを放って攻性植物へと稲妻を落とす。
 そこへサロメは炎を纏った激しい蹴りを喰らわせた。
 爆破と雷と炎に襲われた攻性植物を伐採するかのようにリズミカルに斬り刻む真紀。
 そしてカノンはさらに氷漬けにすべく時空凍結弾で胴体を撃ち抜く。
 ステイが顔からフラッシュを放ったときだった。攻性植物が蔦をハエトリグサの如く変形させるとステイを捕食するように喰らい付いた。
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
 梓が放つのは試製・桜霞一閃。正中に構えた刀身に全剣気を貯め、斬撃と共に飛ばす。喰らい付くのに夢中な攻性植物は、飛行速度の遅い斬撃を避けることができずに剣気をまともに喰らう。
 この攻撃によって攻性植物は喰らい捕えていたステイをぱっと放す。
「さあ、参りますわ」
 シアは2本の藤枝の束を魔法で作り出す。それは花の腕(ハナノカイナ)、襲いかかる束はまるで抱擁するが如く。
 藤枝の束が消えると涼子が剛手甲で高速の重拳撃を放ち、殴り付ける。
 攻性植物はダメージの蓄積もあって少し後方へと動き、そこに待ち構えていたのはチェーンソー剣を手にした真紀。
「好き放題に伸び散らかりやがって! オラッ首出せ!」
 チェーンソー剣の刃で刈り取るように斬り裂く。バラバラと、蔓と蔦が何本か斬れて地面へと落ちる。
 その断面をカノンがブレイズクラッシュで穿つ。地獄の炎によって燃え上がる攻性植物。
 めぐみが螺旋掌で追い打ちをかけている間に、隼人とカロメがステイの傷を癒す。
 そこへすかさず攻性植物が蔓を伸ばしてステイを掴み、絡み付く。
 強力に締め上げられたステイはぐったりとして動かなくなってしまった。
「離しなさい!」
 カノンは蔓を断つように光の花を刃へと変えて攻性植物へと向ける。斬り刻まれた蔓はステイを解放するが、地に落ちても動かないまま。
 サロメはすぐさま駆け寄った。動けない戦闘不能状態に陥ったのみだということを確認するとほっと胸を撫で下ろし、「紅瞳覚醒」を奏で歌う。
 攻性植物は蔓の近くの蔦の葉をハエトリグサの如き捕食形態へと変え、それでカノンを捕食する。
 カノンから攻性植物を引き離すかのように梓は絶空斬で確実に斬り付ける。彼女を喰らっていた蔦は斬られて力なく地に落ちる。
 シアは高々と跳び上がり、スカルブレイカーで胴体を裂くように斧を叩き付けた。
「釘付けだろ?」
 不敵な笑みとともに真紀が踊る。路地裏の影縫いで呪詛を叩き込まれた攻性植物は涼子の放つサイコフォースで爆破される。
 めぐみは雷の霊力を帯びた武器で雷刃突を放ち、隼人は杖からほとばしる雷を放つ。
 あと少しで攻性植物を倒すことができる。
 ふらつく敵を見て皆が確信したそのときだった。

●オーズの種のちから
「オーズの種よ、俺に力を!」
 攻性植物が叫ぶ。それは化物と化してしまった不良の声。
 声に呼応するかのように攻性植物の内部から生命エネルギーが満ち溢れ、ケルベロス達が与えた傷がみるみるうちに塞がっていく。
「厄介なことしやがって」
 梓は吐き捨てるように言うとシアに目配せをして雷刃突を放った。
 神速の突きで梓が攻性植物を貫くと、すぐさまシアも神速の突きを放つ。
 2人の攻撃によって表皮が抉れた箇所へ、涼子がブーストナックルを叩き付けた。
 ダメージを与えた涼子が飛び退けば、真紀はブラックスライムを放ち攻性植物を丸呑みにするかの如く包み込んで捕縛する。
 動きが取れない攻性植物をカノンは生命力を喰らうべく狙い撃つ。フレイムグリードは攻性植物を捕え、生命力を喰らったカノンは先程受けたの傷を少々回復させた。
「今治すから待っててくれよな!」
 隼人はカノンへエレキブーストを掛ける。生命を賦活する電気ショックによって傷を癒すと同時にカノンの戦闘能力が少々向上する。
 サロメもサキュバスミストでカノンを癒す。手早い回復のおかげもあってカノンの傷は完全に塞がった。
 めぐみが絶空斬で胴体の傷を斬り広げる。至近距離まで近づいためぐみを攻性植物が蔓を伸ばして締め上げようとするが。
「危険だから私の後ろに!」
 すぐさまサロメが庇いに入る。攻性植物は2本の蔓でサロメの首を締め上げ、地面に何度も叩き付けた。
 さらに叩きつけようとする攻性植物の蔓を胴体ごと梓は斬り付ける。虚の力を纏った刃で激しく斬り付け、傷口から生命力を簒奪する。
 解放されたサロメは魂が肉体を凌駕し、ふらつきながらも立ち上がる。
 すぐさまカノンはオラトリオヴェールでサロメを包み込み、癒す。
 サロメ自身も「紅瞳覚醒」を奏でて自らを癒し、隼人もエレキブーストで生命を賦活させてある程度まで回復させた。
 サロメを回復させる一方で、涼子はグラビティブレイクを叩き込んで癒し手へ攻撃が及ばぬよう攻撃に専念する。
 シアも花の腕で藤枝の束を飛ばして攻性植物へ確実にダメージを与える。
 これによって与えられた傷を広げる真紀。ジグザグスラッシュで傷を斬り広げるとそこを目掛けてめぐみが神速の突きを繰り出す。
 ダメージを蓄積しつつも攻性植物は戦意を喪失させることはない。果敢に、そして猛烈に攻撃を仕掛けてくる。
 蔓を触手のように変形させて、それはカノンに絡み付く。しかしケルベロス達が与えてきた様々なバッドステータスのおかげもあって、その威力は確実に落ちていた。
 カノンが自力で蔓から抜け出すとすぐさま梓が試製・桜霞一閃で剣気を飛ばす。それは表皮を傷付けることはなく、体内に浸透して解放され、内部にダメージを与える。
 梓の剣気が内部で解放されると同時に表皮を爆破するのは涼子。精神を集中させて爆破させた。
 内外からの爆破でのけぞる攻性植物へとシアはルーンディバイドを食らわせる。振り下ろされた斧によって脆くなっていた表皮が削り取られた。
「こっち向け、伐採してやらぁ!」
 続いて真紀もチェーンソー剣を振り回してボロボロになっていた蔦を斬り捨てる。
 回復を兼ねてフレイムグリードを撃ち込むカノン。地獄の炎弾は攻性植物に風穴を開け、生命力を喰らう。
 カノンを回復するべく、隼人はライトニングウォールで異常耐性を高めるとともに癒し、サロメは引き続き「紅瞳覚醒」を奏でる。
 動くことができない攻性植物へめぐみは螺旋掌をぶつけた。螺旋を籠めた掌で触れられた攻性植物は内部から破壊される。

●枯れゆくもの
 攻性植物は最後の力を振り絞るかのように蔓を伸ばした。それは涼子へと伸ばされるが、彼女は絡め取られるより早くブーストナックルを叩き込む。
 攻撃を食らいつつも攻性植物は今にもちぎれ落ちそうな2本の蔓で彼女を締め上げた。無論、威力は先程の攻撃よりも落ちている。
 この間にケルベロス達は攻性植物を全力で叩く。
 シアは跳び上がり、スカルブレイカーで触手のように生える蔓を叩き斬る。
 その断面に付けられた傷を梓が絶空斬で正確に斬り広げる。
 カノンは輝きを放つ無数の花々を産み出し、それは光の刃へと姿を変えると風を帯びて渦となり、攻性植物を斬り刻む。
 刻まれた攻性植物の影の上で真紀は華麗にタップを踏んで生命と機動力とを害する呪詛を叩き込む。
 影を縫われた攻性植物の胴体を蹴り上げるサロメ。炎を纏った激しい蹴りはささくれのようになって剥がれ落ちそうな表皮に着火した。
 表皮から燃え始めた攻性植物は、まるで燃え盛る火柱のごとく。
 隼人は火を纏う攻性植物へライトニングボルトを放った。雷が落とされ、未だ燃えていない箇所を黒く焦がす。
 恐らく、攻性植物の体力はもう残っていない。炎が消えると生い茂っていた緑色は消え失せ、あるのは炭化しそうなほどに黒くなったもの。
「あなたはここまでよく闘いましたわ。でも、もうおしまいです。これが私のフィニッシュホールド。さあ、安らかにお眠りなさい」
 めぐみは高らかに宣言すると助走を付けるべく少し後方へと下がる。全身をエビ反らせるような独特のフォームから繰り出される必殺のフィニッシュホールドである膝蹴り、Boma Ye(ボマイェ)で攻性植物を打ち抜いた。
 攻性植物はもんどり打って地面へ倒れ、その死体は急速に枯れて干からびてしまう。そして、その体からオーズの種が出現し、飛び去っていった。
 めぐみはオーズの種を狙ったのだが、スナイパーであればもしかすればどうにかできたかもしれない。
 ケルベロス達が早期撃破できたため、容態が思わしくない者は多少いるものの、一般人の命の灯が絶えることを阻止することができた。
「大丈夫ですか? もう心配はいりませんわ」
 シアは意識を戻した者へと優しく語りかける。
 そして皆で手分けをして介抱し、中でも衰弱の激しい者にはヒールグラビティを掛ける。
「これで手術終了だぜ!」
 一般人の治療を終えて満足そうに言う隼人を遠目に見ながら梓はスキットルを仕舞うと、長楊枝を銜える。
「どうか、安らかに」
 カノンは静かに目を閉じる。そして干からびた攻性植物――だった者へと祈りを捧げた。

作者:香住あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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