かすみがうら事変~彼らの日の終わりに

作者:天草千々

 暗い、閉鎖されたライブハウスの奥。
 背に翼のように枝を生やした青年が、埃を被ったステージの上に腰かけている。
 ざ、と響いた足音に、俯いた顔を上げる。
 その顔はやつれ、左目のあるべきところに咲いた赤い椿だけが鮮やかに輝いていた。
「なんだ、テメエ」
「――おめでとう。君は、進化の為の淘汰に耐え抜いた。その栄誉をたたえよう」
 侵入者は問いには応えず、傍らの大きなリスのような緑色の生物が抱えた種を手にとる。
「受け取るといい、攻性植物を超え、アスガルド神に至る楽園樹『オーズ』の種だ」
 緩やかに放りなげられたそれに青年は反応をせず、種は彼の肩で跳ね――左の胸に吸い込まれるように張り付いた。
「――ぐ、あああああああ!?」
 音もなく、爆発したような風が青年の体から吹き荒れる。
 その爆風は内壁にヒビを入れ、非常灯のカバーを粉砕し、その破壊の痕を植物の緑で染めていく。
 同時に、青年の体にも新たな枝葉が芽吹き、その体を人の枠から大きく逸脱させた。
 ほんの僅かな時間ののち青年は、無数の枝が絡み合ってできた四足獣の半身と、獣の首があるべき場所から人の上半身を生やした怪物へとその姿を変えていた。
 顔は生気と、破壊を望む凶悪な意思で輝いている。
 贈り物のお礼をしてやろう、そう青年が思いついたときには、謎の来訪者たちはすでに姿を消していた。
 
「かすみがうらで緊急事態が起きた」
 島原・しらせ(サキュバスのヘリオライダー・en0083)によると、白神・楓(魔術狩猟者・e01132)の調査で、かすみがうらで起きていた一連の攻性植物の事件に、ガイセリウムで発見された楽園樹オーズが関連していたことが分かったと言う。
 種を利用し、暗躍していたシャイターンは、かの地で生き延びた攻性植物の青年たちに、より強力なオーズの種を与えたらしい。
「現在、かすみがうらの市街地は密林のように変貌し始めており、多数の市民が植物にとらわれ、そのグラビティ・チェインを徐々に奪われている」
 このままでは多数の犠牲者と、大量のグラビティ・チェインを得て更なる力を手に入れた攻性植物が生まれる事になるだろう。
「至急、かすみがうらに向かい、オーズの種を得た攻性植物を倒して欲しい」
 目標となる攻性植物は、熊の首から上が人の上半身に置き換わったような姿をしている。
 体長は3Mになろうかという巨体だが、オーズの種の影響で植物が茂る現場の状況では、油断すれば奇襲されることも考えられる。
 戦闘になれば、左目の部分に咲いた椿から破壊光線を放ち、体から枝をムチのようにのばして締め上げるほか、熊の前脚でなぎ払うように一撃を食らわせてくる。
「それから、周辺では道端や建物内などで200名ほどの一般市民が倒れている」
 市民を引き離し、植物を始末することは可能だが、その場合ケルベロスたちの存在を目標の攻性植物に気取られる事になる。
「当然、奇襲をしかけることは不可能になるだろう、救助に時間をかけすぎたり、警戒を怠れば逆に不意をつかれる可能性もある」
 市民は即座に命に関わる事態ではなく、変化の原因である攻性植物を撃破すれば解放されるはずだ、と告げてしらせは判断を一任した。
「シャイターンの関与は予想外だったが、今ならまだ最悪の事態は避けられる。なんとかかすみがうらを混乱から救って欲しい」


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)
南条・迪瑠(ラクリモーサ・e02105)
佐久間・凪(大地を裂く少女・e05817)
未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)

■リプレイ

 生い茂る植物にヘリオンでの接近を阻まれ、ケルベロスたちは目標の建物から少し離れた場所へと降り立った。
 その目にビルを突き破る巨大な枝や、アスファルトを割って車を数メートルも持ち上げた大樹が映る。
「あやや……思っていた以上に草木で覆われてますね!」
「こんなにも深い森を見るのははじめて、です」
 緑に沈んだ街の姿に佐久間・凪(大地を裂く少女・e05817)が驚嘆の声を漏らし、未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)も頷く。
 しかし少女たちの顔は、漏れ聞こえてきたうめき声に曇ることになった。
 歩道に、建物の外壁を覆う蔦にとらわれた人々の姿がある。
「急ぎましょう」
 シルク・アディエスト(巡る命・e00636)が凛とした声で言った。
 予知によれば200人余がとらわれている状況、ケルベロスたちは攻性植物を探し出し、これを討つことを優先とした。
 最良最善の選択であると確信があるわけではないが、選んだ道を真っ直ぐ行かねば省みることもできない。
「鈴、蓋はしっかり閉じておいてね……いいわよ、メリノ」
「はい、お願いします」
 繰空・千歳(すずあめ・e00639)が日本酒樽のミミック、鈴に声をかけ、その上に動物変身したメリノを乗せると背へと担ぎ上げた。
「こちらもよろしく頼む」
「了解だっペ」
 マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)も同様に小さな羊へと姿を変える。
 決まり悪げな黒顔の羊は、荷物のように山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)に担がれて更にその表情を曇らせた。
 サーヴァントを含め11人の大所帯だ、少しでも足音を減らす為の方策だったが、移動中も上方や背後に目を向けられる利点もある。
「遊んでるわけやないんや、ほらいくで」
 物珍しそうにそれを見上げるメリノの相棒、バイくんと、自らのサーヴァント、テレ坊の小さな背を、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)が笑って軽く叩く。
「静かにな」
 それに南条・迪瑠(ラクリモーサ・e02105)が、口の前に指を立て注意を付け加える。
 異形の森の中、番犬たちは静かに行動を開始した。

 件のライブハウスは、繁華街の外れにあった。
 飾り気の少ない3階建ての四角い外観は、周囲と比べ不思議なほど原型をとどめている。
 枠だけが残るその扉を開けて、中へと入った。
 先頭を行くシルクがガラスの散った床を指差し、注意をうながした。
(「……妙だな?」)
 静けさが、ほしこに違和感を訴える。
 人の声が聞こえてこないのだ。
 探す攻性植物――コガは不良グループのリーダーだ、ここには彼の仲間がいてもおかしくないはずだが。
 あるいは、もはや声も出せないのか――そんな想像を押さえつけ、2人並ぶのがやっとの狭い入り口を抜けフロアへ入る。
 外観に反して、建物内部の変化は大きかった。
 縦長の構造をしたフロアは、最奥のステージに向けてくだりの傾斜がつけられており、3階までの吹き抜けが場を実際より広く、大きく見せていた。
 ステージの脇には今は真っ直ぐ伸びる二本の大樹があり、空を支えるような威容で天井を持ち上げ、隙間を作っている。
 差し込む外の光が照らし出すフロア内部は、まるで異なる世界の遺跡のようだった。
「……」
 誰かが静かに長く息を吐いた。
 照明を吊るしていたのであろうバーや、ステージ前に並ぶ柵にも植物が絡みつき、複雑な地形を生み出している、けれどやはり動くものの姿はみあたらない。
 中へとゆっくりと脚を進める。
 3分の1ほどフロアへ進んだところで、千歳の背に伝わる振動があった。
 メリノが、音を立てないよう鈴の縄部分を脚で叩き何事かを訴えているのだ。
 振り返る。
 フロア入り口の上部、2階のバルコニー席奥に、明らかに人とはサイズの異なる大きな影があった。
 千歳とメリノの動きに、隠密気流をまとった仲間たちは素早く展開し目標を確認する。
 互いの視線を遮るものはない、いつ気づかれてもおかしくない状況だ。
 メリノとマニフィカトを降ろすことは諦めて、武器を構えた。
 シルクのアームドフォートが、ガトリングガンへと姿を変えた千歳の左腕が2階席へと向けられる。
「――――」
(「――歌?」)
 砲火の直前、迪瑠の耳が小さな旋律を捉えた。

 ――――!!
 かつての熱狂に負けないような、砲撃と破壊の大音量がフロアを揺らす。
「上です!」
「跳びよった!」
 シルクと照彦の警告を受け、前衛陣を前に残して、ケルベロスたちはフロアの中ほどへ後退する。
 そこへ地響きを立てて降り立った巨体が、その前脚を振り回した。
「くっ……!」
 丸太で殴りつけられたような痛みと衝撃に、苦痛の声が漏れる。
 差し込む光で埃が輝く中、人獣の姿をした男の体が立ち上がった。
「人がくつろいでる時に随分な挨拶じゃねえか」
 攻性植物の青年コガは気だるげな声でそう言った。
 元より、話をしにきたわけではない。
 すぐにメリノが、マニフィカトが人の形へと姿を戻し、紫の武装を展開したシルクが至近に迫る。
 竜の形をした炎が、鋼の乙女の手から飛んだ。
「――誰も居ないわよね!?」
 一般人の救助を担当する事になっていた千歳が、自身も確認をしながら叫ぶ。
 その間の主のかわりと、エクトプラズムで酒瓶を作った鈴が恐れることなくコガへ挑んでいく。
「フロアは大丈夫です!」
「こっちにもいねえ、やっちまえ!」
 コガから距離をとり、フロアの奥へと駆けたメリノが、ステージまで駆け上がり袖を確認した迪瑠が叫び返す。
 少ない情報から選んだ目的地だったが、結果的に最高のタイミングで格好の舞台を手に入れることになったようだ。
 返事に頷いて千歳はエアシューズで地を蹴った。
 火花が散り、蹴り上げる軌跡が炎の弓を描く。
 その残滓を放たれた矢の勢いで小さな影が蹴りぬいた。
「私の動きについてこれますか!」
 ステップを刻み、出入りを繰り返しながら凪が叫ぶ。
 動きは常に右回り、瞳のかわりに椿の花が咲くコガの左側だ。
「喧嘩が分かってる嬢ちゃんだな」
 死角になると踏んでの動きだが、大きく顔を動かすコガの素振りはその正しさを裏付けてるかのように思えた。
 その椿が赤く輝く。
「あっつう!!」
 凪の前へと飛び出し、破壊の光を受けとめた照彦が声をあげる。
 大げさな悲鳴とは裏腹に、オッサンを自称するレプリカントの男は、ヒゲ面を笑みの形にゆがめてゲシュタルトグレイブで突き返した。
「まるで見えてないってわけじゃなさそうだぜ、ったく面倒な相手だな……!」
「せやね、気ぃつけてや佐久間ちゃん!」
 迪瑠の指摘に同意を返し、ついでとばかりに照彦は熊の前足に蹴りを入れる。
 了解の意を告げる凪とすれ違い、車輪を鳴らしてほしこが飛び込んだ。
「歌って踊って祈っちゃうノマドご当地アイドル『山彦のメモリーズ』のほしこです☆」
 踊るようなステップで放たれたスターゲイザーを、熊の巨体は2足で立ち上がるようにしてかわした。ずんと体を戻す踏み込みをすんでで見切り、ほしこは問うた。
「なあ、コガさんよ。おらのこと覚えてねぇだか?」
 戦いの動きは止めぬまま、コガが軽く片眉を持ちあげる。
「その妙な格好、イモリの喧嘩でみたな」
 それはほしこたちの手によって倒された攻性植物の青年の名前だ。
 虚実を交えてのことだが、言葉による説得でコガから譲りうけた喧嘩相手でもある。
「んだ、今度はコスい真似なしにおめさんの相手しにきただ」
「そうかよ、だが俺ァ言ったはずだぜ? 今度かすみがうらで見たら容赦しねえってよ」
 期待していたような再戦の形とは違うけれど、告げられた言葉は以前と変わらず。
 ただ一度わずかに言葉を交わしただけの相手だが、人の姿を大きく外れてなお、ほしこには彼が変わっていないように思えた。
「――その矢、鏃は沈黙。その矢、矢羽は葬列」
 そこへ男の声と共に、水の刃がフロアへ降る。
「チッ……!」
 身を守るべくコガが両腕を頭の上にかざし、巨体をよじらせながら後ろへさがる。
 けれど、刃の雨から逃れることは出来ない。
「容赦してもらう必要はないとも」
 こちらにも期待してもらっては困るが、と告げるマニフィカトの攻撃には迷いがない。
 逃走を図る相手には思えなかったが、それでも戦闘に集中できるこの千載一遇の好機を逃すつもりはなかった。
 後退したコガを追い、シルクが前へ出る。
 彼女はダンスのパートナーのように、相手が前に出れば下がり、相手が下がれば前に出て、ぴたりと離れない。そうかと思えば攻撃の際にはふっと逆を突いて翻弄する。
「貴方が捨てたものの尊さ、その身をもって教えて差し上げますね」
 声は冬を告げる女神のように冷たく、鋭かった。
 彼女にとってデウスエクスとはただ人類の敵というだけではない、不死と言うその性質事態が嫌悪の対象なのだ。まして人から成った相手ともなれば言語道断である。
 眠りにつく冬があればこそ、春の目覚めは美しい。
 永遠の季節など、醜い紛い物でしかない。
 そんな意思を乗せたスターゲイザーの一撃が、草刈鎌のようにコガの体をえぐった。
「これが、あなたの望みだったんですか?」
 問いながら放ったメリノの魔女の一撃が、熊の胴部を打ち抜く。
 ズンと空間までも震わせる圧縮された重力塊の衝撃に、動きが鈍った。すかさずバイくんが丸っこい歯のガブリングで喰らいつく。
「……ったく、良く喋る連中だぜ」
 それをうるさげに前足で振り払ったコガの顔が歪んだのは、痛みのせいだけではないように思えた。

 決して与しやすい相手ではない。
 けれど、多くの敵と渡り合ってきたケルベロスたちにとって、コガは未知の強敵というほどではなかった。
「こっちは人助けに行きたいってのによ……!」
 声には荒さがあれど、迪瑠の表情に焦りはない。
 攻撃一辺倒の相手に、メディックの彼は回復に追われていたが想定を超えるほどではなかった。
 ディフェンダー陣にも欠けは出ていない。じっくりと続けていけばいい、と紙兵散布で前衛陣の傷を癒す。
 マニフィカトが気咬弾を拳で叩きつけるように熊の胴へ放ち、エアシューズを滑らせて踏み込んだメリノが左の前足を払うように蹴り抜く。
「弱点、見つけましたっ!!」
 ぐらり、と体を支えようとした右の前足を凪がバトルガントレットで穿つ。
 逃れようとする動きを追って、右、左と、舞うような連打が木の体を抉っていく。
「……っち、人の足だと思って好き勝手してくれやがる」
 胴から伸ばした枝の触手で、凪を後退させたコガがあくまで自然に言うのを見て、照彦は小さく溜息をついた。
 あるいはこんな事件さえなければ、彼は人の輪へと戻れたのではないか、若気の至りをいつかの笑い話にして。
 けれど、そうはならなかった。
 この街が、彼の街だった。だから結局、そうはなれなかったのだろう、それは本人が一番承知しているように思えた。
「ここまでやな、兄ちゃん」
「……ここまで?」
 照彦の言葉を、コガは静かに繰り返す。
 表情の失せた顔はわずかな間を置いて、首を横に振る。
「まだおわんねえよ……もっとだ、もっと、力をよこせ!」
 叫びのあとコガは自分の左胸、そこに張りついたままの種を拳で叩いた。
 ドクン、とはっきりと音が聞こえるほどにそれは脈打ち、攻性植物の巨体を震わせる。
 無数の傷口が膨れ上がり、残っていた人の部分が柔らかさを失い、樹皮のようにひび割れていく。
「ヒールグラビティ!?」
「馬鹿な、使えないはずだろう」
 予知にない出来事に、驚きが口をついて出る。
 いち早く行動に移ったのはシルクだった。
「全機、防御陣形! 今のうちに体勢を!」
『Heinrich Emil Ida Ludwig Emil Nordpol Eins=Bahner_05』
 声と言うには機械的な音が、少女の声に続く
 合成音声のアナウンスと共に照彦のかつての記憶が、備えていた機能が呼び起こされる。
 蜂型無人機の群れがコガを牽制し、散布されたナノマシンが仲間の傷を癒した。
「さぁ、続きをやろうぜ、ぶっ倒れるまでよ!」
 もはや人の形を完全に失った青年が、最後に残った『声』でそう笑う。
「その熱意は他に向けるべきだったな」
「アンコールなんて、頼んだ覚えはないけれど……!」
 マニフィカトが再び水の刃の雨を呼び、千歳のガトリングガンが高らかな射撃音と共に、なないろの弾丸を吐き出す。
 反撃に振るわれた熊の前足がテレ坊を、鈴をなぎ倒す。
 負傷を完全に癒したコガとの戦いは、当初の想定を大きく越えた長期戦になった。
「悪い、自分でも回復頼むぜ!」
 迪瑠が声をかける、それはかなり危険な状態に突入しつつあることを知らせていた。
「了解ですっ」
 そう言いながら攻撃は最大の防御とばかりに凪は両の拳を叩きつける。
 危機に際しても、彼女の顔から笑みが消えることはない。
「……っ!?」
 アームドフォートの一斉射を叩きこんだあと、一歩を下がろうとしたシルクの身がガクリと揺れる。熊の前足が、少女の足を踏みつけていた。
「顔はやめておいてやるよ」
「――お構いなく」
 自身に狙いをつけた椿を真っ直ぐに見つめ、シルクは動じぬ声で応える。
 直後、赤い光がシャドウエルフの少女を打ち倒した。
「誰か、シルクさんを!」
「あいよ、オッサンに任せとき!」
 蹄の硬さを拳に宿し、メリノの獣撃拳がコガの巨体を揺らす。
 すかさず照彦がシルクを後方へと抱えて下がった。
「コガさん、おめさんの街をこんなにして、これでいいだべか? ジモトの仲間はどうするだ!?」
「……それがお前になんの関係があるよ? 頭がついてんだ、手前で逃げるだろ」
 呆れたような声、けれどほしこが求めたことは語られた。
(「仲間まで手にかけたわけじゃないんだべな……!?」)
 余計な思い入れかもしれない、だがどうしても聞いておきたかったのだ。
 彼が、彼のままで居られたのか。
 疑問は解け、覚悟は決まった、マイクを握り締めて息を吸い込む。
 もう戻れない彼を倒し、彼の街をかつての姿に戻す為に。
「――――――!」
 歌い上げるのは『日帰りの追憶』。
 ほしこの声に応じて床を突き破り現れた大地の刃が、コガの体を切り刻む。
 一際巨大な奇岩に熊の胴体を貫かれ、彼は動きを止めた。
「……これで仕舞いか」
「そうだべな」
 呟いたコガの体が早送りしたように急速に枯れ、崩れていく。
 その胸から光り輝く種が浮かび上がった。
「――オーズの種!?」
「まずい!」
 驚きの声があがる中、種は空へと上っていく。
 予期せぬ出来事に誰の手も間に合わない。
 天井を貫いて、それはどこへともなく飛び去っていった。
 
 ――こうして、一つの事件は終わりを告げた。
 けれどこの地に混乱をもたらし、ケルベロスたちの牙を免れたオーズの種の行方は、まだ知れない。

作者:天草千々 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。