かすみがうら事変~敵はかすみがうらにあり!

作者:紫堂空

●テッペンとったる!
「へっ、ケンカ売る相手は選ぶんだったなぁ。お前らのシマは、今日からウチが貰うぜ!」
 街外れの廃墟で行われた二体の攻性植物化不良の争いは、一方の勝利に終わった。
 敗者を踏みにじり、勝利を叫ぶ元少年。
 そんな異形の彼に、近付き声をかけるものがある。
「おめでとう」
「っ!? なんだ、テメェら?
 俺をチーム天下布武、特攻隊長のノブナガだと知ってんのか!?」
「君は、進化の為の淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。
 その栄誉をたたえ、この種を与えよう。
 この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
 威勢のいいことを言うノブナガを気にする事もなく、褐色肌の男――シャイターンのシルベスタは用件を告げる。
 そして、隣にいる小動物のような攻性植物――ユグドラシルガードモデルラタトスクの持つ『オーズの種』を、ノブナガへと渡す。
「? 献上品ってか? まぁ、くれるってんなら貰ってや――っ!?」
 驚くほどの警戒心と考えの無さで、『種』を受け取ったノブナガ。
 ……変化は、すぐに現れた。
 植物の化け物となった体中を、力が駆け巡る。
「おおおっ! この、溢れ出るパワー! これならタケダもウエスギもめじゃねぇ!
 まさに今の俺は、第六天魔王を名乗るに相応しい!!」
 ノブナガの叫びと共に、彼の体から噴き出す力が、周囲の廃墟を、さらにその外までをも異様な植物へと作り変えていく。
 ……残念ながら頭の方は強化されなかったらしく、彼は『第六天魔王』がどういうものなのかよく知らないままだったが――。
 強大な力を持った、極めて危険な存在が新たに生まれたのは、確かなのだった。

●ノブナガ包囲網を敷け!
「かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された、『楽園樹オーズ』との関連について調査していた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)さんから、緊急の報告が入りました」
 召集に応じたケルベロス達に、セリカ・リュミエールが告げる。
「かすみがうらの攻性植物事件の裏には、やはり、楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があったようなのです」
 ケルベロスの介入や攻性植物同士の抗争を生き抜いた不良達に、オーズの種を与えさらなる強化を施し、かすみがうら市街で一斉に事件を引き起こさせたのだ。
 オーズの種を与えられた攻性植物達を中心として、かすみがうら市の市街地は密林のように変貌し始めており、周囲の市民達は植物に巻きつかれてグラビティ・チェインを吸い取られているという。
「このまま放置すれば、グラビティ・チェインを吸い尽くされた市民は干からびて死亡。
 大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物は、新たな力を手に入れてしまうでしょう。
 その様な事態を防ぐために、かすみがうらへと赴き、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破していただきたいのです」
 敵は、強化された攻性植物が一体。
 攻撃方法は以下の三つ。
 敵に喰らいつき、破壊だけでなく毒をも与える『捕食形態』
 両手から植物の種を鉄砲の如く撃ち、破壊と共にプレッシャーを与える『三段撃ち』
 可燃性の液体を霧状にして吹き出し火をつけ、魔法のような炎に包む『焼き討ち』
「捕食は、理力を用いた近距離の一体が対象の攻撃です。
 三段撃ちと焼き討ちは力強さを生かした攻撃で、遠距離広範囲に被害をもたらすためご注意ください」
 現場は、かすみがうら市市街の一角。
 標的のノブナガは体長3mほどの巨大な植物の化け物だが、周囲の建物などが植物化しているため、目立ちにくい。
「戦場で意識を失い倒れている市民は、屋外屋内を合わせて210名です。
 市民に取り付いた植物を排除すれば救助可能ですが、救助を行った事は攻性植物に伝わるので気をつけてください」
 気付かれた時点で、こちらから奇襲を仕掛けるといったことは不可能となるだろう。
 逆に、救助にかまけ過ぎていると、ノブナガがケルベロス対策を打つ時間を与える事になりかねない。
「ノブナガ――攻性植物を撃破した時点で、市民を捕らえている植物も消えるはずですので、救助を行わなくても問題はありません」
 セリカはそのように忠告してくる。
「シャイターンの暗躍は想定外でしたが、やる事は変わりません。
 街を襲うデウスエクスを撃破し、ケルベロスの手でかすみがうらを守ってください」
 一通りの説明を終えたセリカは、そう言ってケルベロス達に責任の大きさを自覚させるのだった。


参加者
風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650)
仁志・一紀(流浪の番犬・e01016)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)
九影・白礼(ウェアライダーの鹵獲術士・e19314)
スピノザ・リンハート(オラトリオのガンスリンガー・e21678)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)
朝影・纏(蠱惑魔・e21924)

■リプレイ

●地上班 ~誘導~
「さて、調子こいてるガキにお仕置きと行こうじゃねェか」
 戦を求めて彷徨う猟犬、仁志・一紀(流浪の番犬・e01016)が作戦の始まりを告げる。
 今回の彼らの企ては、以下の通りである。
 戦いやすい場所を予め見つけておき、そこに飛行班を伏兵として配置。
 地上班はあえて一般人を一人救出して標的を釣り、逃げる風を装い戦場まで誘導、地上と空から挟撃するというもの。
 ただ――。
 戦場と決めた場所の付近で呼び出して、そのまま戦闘に入るのか?
 別の場所で呼び出してから、戦闘場所へ誘導するのか?
 そもそも、戦場は予め決めておくのか?
 敵が現れてから逃げつつ探すのか?
 どうにも、各人の認識にズレがあるようなのが不安材料ではあるが……元々、全てが想定どおりにいくわけではない。
 考えるだけは考えた。
 あとはやってみるだけだ。

 飛行班の空からの誘導を受け、地上班は事前に地図であたりをつけていた、戦場に適した地点に到着する。
 ちょっとした広場のように開けたスペースで、あたりに捕まっている人間もいないため都合がいい。
 地上組は、移動中に見つけた最寄りの一般人のところへ戻り、ノブナガを誘き出すために救助を行う。
 九本尻尾のウェアライダー、九影・白礼(ウェアライダーの鹵獲術士・e19314)のミミックである箱鉄幻炎が、エクトプラズムの剣で、被害者を捕らえている蔦を切り落とす。
 大雑把な熱血娘、マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)が回復を行い、意識が戻った青年へ、一紀が隣人力を用いて説得。
 戦いが終わるまで、大人しく隠れているように言い含める。
「やりたい放題は好きだけど、ここまで大規模に巻きこんじゃあねえ。
 利用されているような感じもするし、悪いけどここで終わらせるしか無さそうね」
 見た目は中学生、中身は妖艶なオトナ、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
 今回の彼女の役割は、一般人のふりをしてノブナガを釣る囮となること。
 その為、翼や角、尻尾といったサキュバスの特徴はしまっておく。
 待つこと十数分。
 極力抑えた、けれど警戒しているケルベロス達には隠しきれない移動音が聞こえてくる。
「ひぃっ……!? ば、化け物!?」
 現れた、身の丈3mの植物の化け物。
 ノブナガを見にしたデジルは、ケルベロスに助けられた無力な市民を装い悲鳴を上げる。
「なんだ、テメェら! 俺のエサを奪うつもりか!」
 怒りの声と共に撃ち込まれた種鉄砲を、朝影・纏(蠱惑魔・e21924)が左腕を盾に受け止める。
「ノブナガと言う割にはあまりにも猪武者過ぎるわね」
 ダメージを意に介さず、纏は鼻で笑い、ノブナガを挑発する。
「なんだとぉお!?」
 そうして、相手を怒らせておいて――一目散に逃げる!
(「なんでしょう……この密林、すごく嫌な感じ……。
 森は好きですけど、ここはなんだか……。
 ううん、そんなことより早くノブナガさんを倒さないと、皆さんの命が……!」)
 先頭を行くのは、森の中を歌いながら散歩するのが大好きだという、シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)。
 彼女の持つ『隠された森の小路』が、今回の作戦の鍵だ。
 不慣れな、歩き易いとはいえない密林と化した場所で、植物の化け物から追いつかれないために。
 生い茂る植物達に道を開けさせ、一直線に目標地点まで駆け抜ける。
 気弱なシャルローネは先導役を務めることに緊張しているが、やるしかないのだ。
「――さぁ、逃げ場はねぇぞ……? んん?」
 ケルベロス達がたどり着いたのは、隠れる場所も無い広場。
 追い詰めたと思ったのだろう、勝ち誇った様子でゆっくりと近付いてくる。
「あなたバカなの? あなたごときが強いと思っているの?」
「あぁん?」
 白礼の挑発に、ノブナガが視線を向ける。
「幻炎!」
 瞬間、指示を受けた箱鉄幻炎が、隠れていた植物の陰から飛び出し、武装具現化で生み出した大きな網でノブナガに襲い掛かる。
 そうして、ノブナガの意識が地上に向いた瞬間。
「――これぞ中国大返しぃ!!」
 空から、二つの影が降ってくるのだった。

●飛行班 ~奇襲~
「俺はこれがあまり好きじゃないが……作戦のためだ、そうも言ってられないな。
 風藤の翼も似たような色……いや、あんたの方がもっと派手か。
 ちょっと目立つか? ま、地上班がノブナガをしっかり引き付けてくれると信じるか」
 ギャンブル好きのマフィア、スピノザ・リンハート(オラトリオのガンスリンガー・e21678)は仕方ないと言いながら、普段は隠している赤い翼を広げ、風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650)と空へ上がる。
「来ぬならば、来させてみせよう、ノブナガさん
 太閤秀吉さんを見習うて、巧いこと人の居らんとこにおびき寄せたらぁ~!!」
 相方を務めるレギナエも、鳥のように甲高い声で意気込みを叫ぶ。
 戦場となる地点の上空で、隠密気流で気配を消しつつ待機し。
 予めハンズフリーにしておいた携帯で連絡を取り、タイミングを計る。
 地上組が道に迷うようならば、ナビを行う。
 そうして待つこと数十分。
 どうやら、事態が動いたようだ。
 戦場となる地点へ通じる小さな路が出来たのが、遠目でも確認できる。
 続いて、広場へ走りこんでくるケルベロス達と――それを追うノブナガ。
 ある程度進んだところで、地上班が反転し、攻撃を仕掛け……。
「急ぐで! これぞ中国大返しぃ!!」
 レギナエが高く鋭い叫び声を上げながら、勢いよく急降下。
 極楽鳥のように派手派手な体で、邪魔な植物を薙ぎ払いつつ――。
「……アカン! 討つんはアケチちゃうねん!?」
 咄嗟に気づいて慌てるが、ええい、ままよ!
 鳥の嘴のような槍を構えて、稲妻の如く突きかかる!
 レギナエと共に、スピノザもリボルバーから時間すら凍結させる弾丸を放って氷づけにせんとする。
「フン……!」
 ――結論としては、奇襲は失敗した。
 完全に意識外の、油断している状態ならともかく。
 戦闘態勢に入り、しかも何らかの罠を想定している相手に、背後からだろうが空からだろうが、奇襲は成立しない。
 箱鉄幻炎の網はあっさりと、スピノザの銃撃はギリギリで回避された。
 レギナエの槍はしっかりとノブナガを捉え、幾らかの傷を与えたが、だが、それだけだ。
 奇襲が成功していれば、第六天魔王(自称)が狼狽している内に、地上組がさらに追撃。
 その間に、空中組は地面に降りて、通常の配置へつくことが出来ただろう。
 だが、実際には空から、元より当たりにくくなった攻撃を放っただけ。
 さらに、地上での適切な位置取りのために一手消費する。
「ハハハ、この魔王の裏をかくにはちょいとおつむが足りなかったなぁ!」
 ノブナガが馬鹿笑いをしながら勝ち誇り、反撃でレギナエを捕食しようと右腕を伸ばす。
 とっさに護りに入った箱鉄幻炎が、身代わりとなって攻撃を受ける。
「助けたのは一人だけ。そのうえ、長い間移動もしねぇ。
 何かあると思うに決まってるだろうが!」
 卑怯な手を平気で使う、不良同士の抗争を生き残ってきた経験の賜物とでもいうのか。
 だが、作戦が裏目に出たのは事実である。
 これだけで勝負が決まるような致命的なものでは勿論無いが、勝ちが厳しくなったのは確かだ。
 この分を取り返すためには、各人の更なる奮闘が必要だろう。
「……さあて、じゃあ本番と行きましょうか、『第六天魔王』くん?」
 演技の必要の無くなったデジルが、本来の姿と気性を見せながらノブナガを煽る。
「第六天魔王が聞いて呆れるぜ。
 貴様には、かの先人のような矜持が全然感じ取れねェ」
「んだとぉ?」
「お前には、その力は過ぎたものだ。ここで置いていけ」
 一紀も、切れ味鋭い口撃をノブナガへ浴びせる。
「過ぎたる力は身を滅ぼすってな
 手前に力を与えた奴らも迷惑だが、手前の存在も迷惑だ
 終わらせてやるよ」
 ケルベロスカードをかざしたマユは、ケルベロスコートを脱ぎ捨て。
 シスタードレス風の戦衣装を顕わにし、髪を彩る千日紅の花と翼を出現させる。
「いいぜ、やってやんよぉおおお!!」
 対するノブナガの方も、戦意十分。
 さぁ、戦いの始まりだ!

●我に力を
「ちっ、やりやがる!」
 ノブナガが吠える。
 激しい戦いが続き、両陣営共に傷ついていった。
 回復役はマユ一人、盾役は纏と白礼の箱鉄幻炎だけという、かなり攻撃に偏った構成。
 だが、普段戦っているデウスエクスと比べても耐久力は低いようで、箱鉄幻炎こそ落とされたものの、何とか『やられる前にやる』が出来そうだ。
「ノブナガちゃ~ん、草履あっためといたでぇ~♪」
 極楽堂のふしぎ道具。
 レギナエは道具袋からトレーニング用鋼鉄草履(激重)を取り出し、勢いよくぶつける。
 特別な効果をもたらす攻撃ではないが、相手がノブナガなら外せないだろう。
 さらにデジルが、相手が草履に気を取られている間に攻性植物を放ち、締め上げる。
(「う~ん、どの攻撃が当たりやすいといったことは無いようね」)
 当たればそれでよかろうではなく、しっかり分析。
「いくぜ!」
 愛銃『Ein Heldenleben』を構えた一紀は素早く間合いを詰め、重力を載せた蹴りで斬りつける。
 一通り試した結果、斬撃の類が一番ダメージの通りがいいと見てとったのだ。
「声を張り上げな! てめえらの往く道に敵はねえ!」
 仲間の攻撃の間に、マユが『獅子の魂』で後衛の回復と共に、戦意を高めて攻撃能力を向上させる。
 黙っていれば清らかな乙女に見えるマユなのだが……ド突き合いを見ると血が騒ぐという気性の荒さと、口の悪さで台無しである。
「えっと、たしか信長って、焼き討ちされた側……でしたよね?」
 シャルローネは、ふと思い出したように疑問を漏らす。
 どちらかといえば、した側として有名なのではないだろうか。
 それはともかくとして攻撃だ。
 暗殺種族の本能だろうか、シャルローネは地を這うようにして身を晒すことを避けながら間合いを計り、熾炎業炎砲で炎弾を放つ。
「ノブナガ……日本の戦国武将と同じ名前だったな。
 部下に奇襲され、焼き討ちにあったんだっけ。
 あんたも同じ道を辿らせてやるぜ……燃えちまいな!」
 各種比較し、より効果のある斬撃を。
 スピノザは発火したエアシューズの蹴りを叩き込み、幹の一部を斬り飛ばして炎に包む。
「もうひとつ食らいなさい」
 たび重なる攻撃を受け敏捷性の落ちたノブナガへ向かい、白礼は猟犬のように相手をとらえる鎖を放つ。
「ぐっ、おぉ……このままじゃ、死んじまうぜ、なぁ、おい」
「是非に及ばず」
 剣を背負ったセーラー服娘、纏は戦いの楽しさに笑みを浮かべたまま――。
 命乞いなど聞くものかと、掌底を繰り出し『心臓打ち』。
 心臓……がこの相手にあるかはともかく、確かに、行動の要となる場所に痛撃を与えたらしい。
「ごぁっ!」
 デウスエクスは、口から樹液を吐きながら、その動きを鈍らせる。
「くっ、そ、がっ……!」
 ノブナガが力無い呻きを上げる。
 間違いなく、かなり追い詰められているようだ。
 これだけ打たれ弱いのなら、正面から戦っても問題なかったかもしれない。
 ケルベロス達が勝利を確信し、僅かに気を緩めた瞬間、ノブナガが突如声を張り上げる。
「オーズの種ぇえええ! もっと俺に力を寄越しやがれ!!」
「なっ!?」
 宿主の求めに応じ、体に埋め込まれた『オーズの種』が禍々しい光を放つ。
 捕えた人々から吸い上げたグラビティ・チェインをノブナガへ注ぎ込み、全ての傷を瞬時に癒してみせたのだ!
「さぁ、仕切り直しといこうぜぇ……?」
 哀れな様子から一転、自分が優位に立ったと判断した第六天魔王は、鼠をいたぶる猫のようにいやらしい笑みを浮かべてみせる。
 勝利目前から、一気に窮地に追いやられたケルベロス達。
 このまま敗れるのか、勝って正義を示すのか。
 ここが踏ん張りどころである。

●敵将討ち取ったり!
「後は……任せたわ」
 残ったただ一人の盾役として、限界まで味方を護り続けた纏。
 唯一のメディックとして戦線を維持するマユを庇い、攻性植物に喰らいつかれ。
 大きなダメージを受けて、ついに倒れる。
 終わらぬ激戦に、一人、また一人と落とされていった。
 捕食に加え、三段撃ちを受けた一紀が沈み。
 回復役のいる後衛狙いの怒涛の攻撃により、打たれ弱い白礼、次いでスピノザが戦闘不能となった。
 残るは四人。
 その上、体力に余裕がある者は残っていない。
 どうやら相手も回復は一度で打ち止めのようだが――このまま倒し切れるかは、微妙なところだ。
「もう一息だ、気合入れろ!」
 マユが『獅子の魂』により、癒しと共にあと一押しの力を前衛へ与える。
「極楽浄土がノブナガさんを待っとるでぇ~!」
 残る力を振り絞り、レギナエが稲妻を宿す槍を鋭く突き入れる。
 続けてもう一発!
「ぢぃいいっ! 死にぞこない共が!」
「ノブナガさん……この子達はちょっと乱暴者、ですよ」
 さらにシャルローネが『夜の案内人』により、とんがり帽子の三体の小人を召喚する。
 松明を持ち、残忍な表情を浮かべた小人達は、叩いて焼いて――大きなダメージを与えると共に、植物の化け物の傷を広げていく。
「がぁあああああっ!?」
「欲望を露わにするのは好きだけど、ここまで他人の欲望を食い物にするのは頂けないわね。
 かの魔王は欲望を出しつつも統率や治世でバランスを取っていた。
 貴方はただ利用されているだけ。
 ……名前だけでは、彼には届かないわ」
 倒れかける体を気力で支えるノブナガの前に立ち、デジルが最後の一撃を放つ。
 降魔裏拳・鬼気一髪。
 蛇のように蠢く長い髪が、逃げようとする動きを追い、容赦なく貫く!
「っ、ぁ…………」
 生命を繋ぐものを破壊された第六天魔王は、小さな呻きを上げ、崩れ落ちる。
「おおっ?」
 レギナエが驚いた声を漏らす。
 死を迎えたノブナガの植物の体は、瑞々しさを失い、急速に干からびていく。
 そして。
「おわっ!?」
 体内から、光り輝く粒――オーズの種が抜け出し、そのまま飛び去ってしまう。
 予想外の出来事に、ケルベロス達はただ見送ることしか出来なかった。
「終わりました、ね」
 攻性植物の力、オーズの種。
 ノブナガもまた、デウスエクスに踊らされた被害者の一人だったのだろう。
 シャルローネは胸の前で両手を握り、第六天魔王を名乗った少年の冥福を祈る。
「さぁ、後始末頑張らんとな~」
 倒れた仲間と市民の介抱を、レギナエが口にする。
 そう、まだやることは沢山ある。
 が……。
 確かにケルベロス達はデウスエクスを倒し、殺される筈だった大勢の市民を救ったのだ。
 勝利の喜びに、救助へ向かう彼らの足取りは、自然と軽くなるのだった。

作者:紫堂空 重傷:朝影・纏(蠱惑魔・e21924) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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