●誕生、超白竜少年
タツキは不良少年である。
ただの人間ではない。
その身には、サボテン型の攻性植物、『白竜丸』を宿している。
そんな彼の元に、その日訪れたのは、小動物のような攻性植物を連れた、1体のシャイターンだった。
「おめでとう。君は、進化のための淘汰を耐え抜き、生き残る事が出来た。その栄誉をたたえ、この種を与えよう。この種こそ、攻性植物を超えアスガルド神に至る、楽園樹『オーズ』の種なのだ」
シャイターン……シルベスタはそう説明し、攻性植物『ユグドラシルガードモデルラタトスク』が持っていた種をタツキに差し出した。
タツキは手を伸ばし、その種を受け取る。
「……ははははっ、ものすげぇ力が湧いてくる……! 最高だな! このタツキ様と白竜丸が……いや。超白竜のタツキ様が! 気に入らねぇ奴ら、全部全部、ぶっ潰してやる! はははは!!」
タツキから、凄まじい力が放出される。
同時に、周囲の建造物が、植物めいた外見へと変化していく――。
「――大変です。かすみがうらで発生している攻性植物の事件と、人馬宮ガイセリウムで発見された、『楽園樹オーズ』との関連について調査していた、楓さんから、緊急の報告が入りました」
白日・牡丹(オラトリオのヘリオライダー・en0151)は、白神・楓(魔術狩猟者・e01132)の名を挙げ、集まったケルベロス達に告げる。
「かすみがうらの攻性植物事件の裏には、やはり、楽園樹オーズの種を利用するシャイターンの暗躍があったようで……ケルベロスの皆さんの介入や、攻性植物同士の抗争事件などを生き抜いた不良の人達に、より強力なオーズの種を与え、かすみがうらの市街で、一斉に事件を引き起こさせたらしいんです」
牡丹は、説明を続ける。
「オーズの種を与えられた攻性植物達を中心にして、かすみがうら市の市街地の一部は密林のような街に変貌し始めており、周囲の市民達は、植物に巻きつかれてグラビティ・チェインを吸い取られているようです。このまま放置すれば、全てのグラビティ・チェインを吸い取られた市民は干からびて死亡し、大量のグラビティ・チェインを得た攻性植物達は、新たな力を手に入れてしまうでしょう」
彼女は、信頼を宿した瞳をケルベロス達に向けた。
「それを防ぐため、かすみがうらに向かって、オーズの種を手に入れた攻性植物を撃破してください」
牡丹は胸の前できゅっと拳を握り締め、話を進める。
「敵となる不良少年の名前は、タツキ。以前、ケルベロスの皆さんと戦ったこともある、攻性植物化した人間です。より強力になっていて、体長が3メートル程度の、植物の怪物のような姿になっています。配下などはいませんが、強敵であることは間違いありません」
植物化した周辺の建物に紛れてケルベロスに忍び寄り、奇襲してくる恐れもある、と牡丹は語る。タツキの奇襲を防ぐには、ケルベロス側の警戒が必要になるだろう……だが、厄介な点がある。
「現場となるビル街では、周辺に市民が倒れています。道端や建物の中など、合わせて200名ほどです。市民には、植物がとりついています」
その植物を引き離して始末すれば救助ができるが、時間をかけ過ぎたり、救助にばかり気を取られていると、タツキの奇襲を受ける可能性も高まるだろう、と牡丹は言う。
「加えて、救助を行った場合、その時点でタツキはケルベロスが来たことに気づきます。気をつけてください。……タツキさえ撃破できれば、市民を捕まえている植物も消えるはずですが」
つまり、救助は行わなくとも問題はないということだ。
「タツキのポジションはクラッシャーです。攻撃方法は、埋葬形態と光花形態にそれぞれ変形しての攻撃と、植物化した巨大な脚による薙ぎ払うような回し蹴りの、合わせて3つです。どれも、高い威力を持つでしょう」
最後に、牡丹はもう一度ケルベロス達の目を見て言った。
「かすみがうらの攻性植物の事件の背後で、シャイターンが暗躍していたというのは予想外でしたが、楓さんのおかげで、最悪の事態になる前に察知する事ができました。敵が、かすみがうらを完全に植物化する前に、どうか撃破を。よろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103) |
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956) |
蒼天翼・舞刃(蒼き翼のバトジャン少女・e00965) |
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458) |
レオン・カメルダ(地球人のガンスリンガー・e01515) |
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893) |
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
●作戦行動
現場であるかすみがうらのビル街に到着したケルベロス達は、市民の救助を開始する――ただし、赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)と、ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)の2名だけで、である。
他のメンバーは周囲に隠れ、タツキの出現に備えている……現れたタツキを逆に奇襲するのを試みる、という作戦である。
(「本当なら救出作業が先かもしれませんけど、敵を倒した方が一般人を早く救出できるなら。……やるしかないですよね」)
迷彩を己の姿に施し、隠密気流を纏った、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)は、タツキを待ち伏せしながら思う。
決して、市民を見捨てるわけではない。早期救出のために敵の撃破を優先する。これが、今回ここに来たケルベロス達がとった作戦である。
(「まったく……育ち過ぎた雑草は目障りだな」)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)は、鋭い視線を周囲に巡らせ、警戒する。
「しっかりしてください」
「意識は……ないか」
市民にとりついた植物を引き離していく、いちごとラインハルト。
そこに、大きな影がゆっくりと近づいていく。怪物に変貌したタツキである。
敵の接近に最初に気づいたのは、ビルの屋上で待機していた、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)だ。
ジューンは、ばさり、とコートを翻す。その下には、ぴっちりとしたコスチューム。
「鎧装天使エーデルワイス、行っきまーす!」
バスターライフルを手に構え、白い翼を広げ、タツキ目がけて急降下するジューン。
彼女の瞳に、タツキの掌が突如として己に向けられるのが映る。
「え?」
掌に咲いた鮮やかな色の花に、光が集まり――破壊光線がジューンに撃ち放たれた。
「! 危ない!」
気づいたラインハルトが救出作業を中断、素早く二者の間に飛び込み、身代わりとなる。
「っ……よくも!」
着地したジューンは、改めてバスターライフルをタツキに向け、凍結光線を撃つ。
「よくも、はこっちのセリフだっての。よく来たなケルベロスども、俺にぶっ潰される覚悟はできてるよなぁ?」
凍てつくレーザーを受けてなお、タツキは歪んだ笑顔を見せた。
●喧嘩上等
タツキが現れたのを見て、真っ先に駆けつけたのは、緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)。
「敬香さん、すみません、よろしくお願いします」
「主様、任せて!」
主人であるいちごに、わんこメイドこと敬香は人懐っこい笑顔で応じる。敬香は、怪力無双を駆使して、植物から解放された市民達を担ぎ、退避させていった。
「……力に目が眩んで道を踏み外して、こんなことをするなら……もはや手遅れですね」
タツキを見てビスマスは小さく呟き、駆け寄って初撃を繰り出す。蟹鋏によるそれをタツキは回避するが、直後、ボクスドラゴンのナメビスによるブレスに呑まれた。
いちごと、ボクスドラゴンであるアリカは、桃色の霧と属性のインストールによってラインハルトの傷を癒す。
「悪いわね、あんたの思い通りにはさせないわよ!」
物陰から飛び出した、蒼天翼・舞刃(蒼き翼のバトジャン少女・e00965)が、始まった戦いに気分を高揚させながら叫ぶ。
「見て、蒼天の奥義! この衝撃と華麗さに、動けなくなったって知らないんだから♪」
翼や衣服をくるりくるり翻し、美しい舞のように、攻撃をタツキに当てていく。――『蒼天舞翼翔』。
(「流石に要救護者が多過ぎるな……手早く片付けるか」)
結衣もタツキへ攻撃を仕掛ける。『久遠<届かない明日>』(ワールドディバイダー)。タツキの足が止まり、回避が鈍る――結衣に一体何をされたのか、タツキには把握できない。
そんな中、ラインハルトは自らの傷にエネルギー光球を当て癒しつつ、タツキに問いかけた。
「タツキ、あなたにそれを渡したシャイターン……どのような姿や特徴をしていたか覚えていますか?」
「答える義理は一切ねぇな」
ラインハルトに対し冷たく返すタツキに、レオン・カメルダ(地球人のガンスリンガー・e01515)が持つ、リボルバー銃の銃口が向けられた。
「攻性植物になったら炎が嫌いになったりするのか? これから試してやるぜ……」
舞うような動きで、二丁の銃から全方位射撃を繰り出すレオン。容赦のないその攻撃に伴う炎が、タツキを包んだ。
「……上等、だっ!」
タツキは、サボテンの棘を纏う巨大な脚で、回し蹴りを繰り出した。
前衛のケルベロス達に向けて放たれた蹴り。ビスマスが、敬香が、ラインハルトが、ジューンが、アリカが、次々と薙ぎ払われていく。
舞刃にも届こうとしたその一撃を、いちごが庇う。
「お姉さん、大丈夫ですか?」
そんないちごに、きゅん、と思わずときめく舞刃。
「も、もう、無理してるんじゃないわよ」
「大好きなお姉さんを守るのは当たり前ですから」
照れ隠しを口にした舞刃に、いちごは率直に返す。
一般人の退避を終え戻ってきた敬香は、眼鏡を外した。
「Temps pour le lit(お休みの時間よ)」
意識を切り替える――わんこメイドから、冷静なる番犬へと。
●オーズの力
敵がクラッシャーなのに対して、ケルベロス側はメディックがいないという布陣である。
戦術を誤ったなら、容易に全滅するようなこともあり得ただろう。
だが、現実には、戦いはケルベロス側優勢に進んだ。
いちごとアリカ、ならびにラインハルトがこまめな他者回復を施し、ジューンやビスマスが攻撃の合間に適宜なシャウトを行ったことが、その要因として大きいだろう。
加えて、敬香とレオンがタツキに付与した炎は、どんどん勢いを増していく。ナメビスのブレスや結衣の絶空斬によるジグザグが、その後押しをしていた。
舞刃による大竜巻やオーラの弾丸は、タツキの体力を大きく削るのに役立った。
タツキの身体はやがてボロボロに傷つき、勝利は目前――に、見えた。その時、タツキが天を仰ぎ叫んだ。
「オーズの種よ、俺に力を!」
みるみる癒えていくタツキの負傷。完全に元通りとはいかないまでも、全体の9割ほど治癒したように見えた。
「えっ……」
ビスマスが思わず絶句する。
「おい、聞いていないぞ……」
「オーズの種にはこんな力が……?」
レオンとラインハルトが呟いた。
「それでも……街の皆への被害を食い止めるために、ボクらがやらなくっちゃ!」
言い切ったジューンが、大仰な構えをとる。
「この一撃を受けてみろ! 『英雄の一撃』(ヒーローアーツ)!」
叫びの後に放たれたジューンの必殺技は、タツキの顔面にぶち当たる。
「くそっ……なんで今、俺は避けられなかったんだ……!」
悔しがるタツキ。避けてはいけない気分にさせる――これが、ジューンによる劇場型戦闘術の効果である。
「……そうですねジューンさん、一般人の皆さんのためにも、わたし達がやらないと……! ……行きます。青魚だけが『なめろう』じゃない……今からそれを証明してみせますっ!」
ビスマスが、蟹をモチーフとしたフルアーマーと、蟹鋏型のシールド付きアームガードを装着――タツキの身体をじゃきりと挟み粉砕、エネルギーを奪う。ご当地のズワイガニに宿る気を集めての技、『ズワイガニシザースクラッシャー』である。
「私の力を貴方に。聞いてください、この歌を」
いちごは、『苺の守り人に捧げる、呪いを打ち破る力の唄』を歌い上げる。快楽エネルギーは力となり、歌声に乗って仲間達に届き、癒しを与えた。
ケルベロス達は、次々に攻撃を叩き込んでいく。タツキが蹴りを放とうとも、大地に融合し攻め込もうとも、ケルベロス側の優位は揺らがない――いちご、アリカ、ラインハルトの護りは、崩れない。
舞刃の気咬弾が大きくタツキの身体を抉った直後、結衣が動いた。
「狂った歯車はいずれ世界の全てを狂わせる。もう……同じ過ちは繰り返させない。お前を殺す――俺が選んだ未来に、お前は必要ない」
時の流れを断ち切り、タツキを時の檻に閉ざす。局所的な、世界からの孤立――断続的に、タツキの時間は停止させられる。
タツキ自身はその事象を知覚できないが……己を待ち受ける運命は死である、ということは理解できたらしい。
「嘘、だろ。……俺は、超白竜のタツキ様だぞ!? 負けるわけが……!」
「身の丈に合わない力は己を滅ぼす。お前はやり過ぎた、潔く死を受け入れるんだな」
タツキへと、はっきりと言い放つ結衣。
「そういうことだ、タツキ……いや、デウスエクス! 残念ながら終わりだ、ここでくたばれ!」
レオンが高速演算でタツキの構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を思い切り撃ち込む――破鎧衝。
「……てめぇらこそっ……てめぇらこそ、死ねよ……!!」
防御を砕かれ、幾重もの激烈な炎にまかれながらも、タツキは形態を変化させ、ケルベロス達を埋葬せんとする。
アリカが舞刃を、いちごがジューンを、ラインハルトがビスマスを庇う……誰も、倒れることはない。
ケルベロス側の負傷もかさんでいたため、もしもあと少しでも回復が足りなかったら、結果は違っていたかもしれないが……タツキの最後の足掻きは、終わった。
「番犬たるもの、主に迫る脅威あらば、完膚なきまで噛み砕くのみ!」
敬香が刃に炎を纏わせる。主への忠信と愛、大切な想いを変えた、情熱の炎を。
「想いの炎の激しさで……燃え尽きなさい!」
高く跳躍し、熱き斬撃を放つ。『緋連十字狼牙』(エキャルラット・ラム・フラム)――緋色の軌跡を描いた、番犬の牙たる刃が、タツキの喉笛を深々と切り裂く。
敬香のその一撃が、タツキの生命に終わりを与えた。
●死して屍
タツキの全身が、急速に枯れ、干からびていく。
その体内から、光り輝くオーズの種が現れ、飛び去って行った。
「あれは!? ……取り逃がしましたか……」
「ちっ……予想外だったな」
ビスマスとレオンが悔しげに言う。
「……でも、敵を倒せたことには、違いありません。お疲れ様でした、敬香さん」
「わうっ」
いちごは、傍に寄ってきた敬香の頭を撫でる。敬香が動物変身している時の癖でついつい撫でてしまったいちごだが、敬香はお座りし、撫でられながら、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「とにかく、市民を迅速に救助しよう」
「そうですね」
「うん、これで救護活動が始められるね!」
結衣とラインハルト、ジューンが言い、ただちに救助を開始する。他のケルベロス達もそれに続いた。
しばしの後、約200名の市民の解放はつつがなく完了する運びとなる。
ケルベロス達は、市民の命を救うことに成功したのである。
「少し、疲れました……」
いちごは舞刃にもたれかかり、うとうとし始めた。舞刃は照れながらも、そのまま寝かせてあげることにする。敬香はにこにこしながらその光景を見つめていた。
レオンはふと、タツキの巨大な死骸を見上げた。
「一円の価値もないな……」
レオンのその言葉に、ふざけるなと言い返す不良少年は、もうどこにもいない。
作者:地斬理々亜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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