愛を弄ぶ敵

作者:林雪

●きみとぼくは友達
 ―― 彼氏が出来たんだ。
「え……?」
 電話の向こうから聴こえる言葉に、シュウジが固まった。
「で、でもナナミちゃん」
 ―― わかってるよ。一番の友達は貫井くん。それは変わらないよ? だって貫井くんはほら、ボクのこと女の子だって思ってないでしょう? ボクたち親友だもんね。
「そ、そうだね……それは、そうだけど……でも」
 その後、何を話したか全く覚えていないまま、シュウジはナナミとの電話を切った。
 呆然としているシュウジの目の前に、いつの間にか現れた黒いコート姿の少女。
 彼女は手にしていた鍵で、シュウジの心臓を一突きに貫いた。だが血は出ない。シュウジは呆然としたまま動かない。
 黒いコートの少女の正体は、ドリームイーター。シュウジが、彼女でもないナナミに注いできた、無償の愛を吸い取って、怪物を生み出そうとしている。 
『あんたの愛って、ホント気持ち悪いわ。私は触るのも嫌、だから、自分で壊してしまいなさい』
 愛を吸い取られたシュウジは、意識を失いその場に崩れ落ちた。黒いコートの少女ドリームイーターは満足してその場を後にする。
 倒れたシュウジの近くに立っているのは、シュウジとは似ても似つかぬ大男、だがこれが、彼の愛を元に生み出された新たなドリームイーターだった。
 身長は2メートル以上、2本の腕は毛むくじゃらで、大きく開けた口からは牙が覗く。そして裸の上半身、その左胸、ちょうど心臓部分はモザイクで覆われていた。
『ナナミ……ナナミィ、君ハ、俺ノモノダ……!』
 
●愛を弄ぶ敵
「ボクは成立すると思うんだけどなあ、男女間の友情って。まあ今回のケースはちょっとちがっちゃったみたいだけど」
 レプリカントのヘリオライダー、安齋光弦がのんびりとそう言ってから、事件のあらましを説明し始める。
「見返りのない、無償の愛を注ぎ続けてる人が、ドリームイーターにその愛を奪われる、っていう事件が発生してるんだ。愛を奪っているのは『陽影』っていう名前の、少女の姿をしたドリームイーターなんだけど……残念ながら正体はよくわかってない」
 寒島・水月(吾輩は偽善者である・e00367)の宿敵であるドリームイーター・陽影に関しての情報は、多くはない。
「で、その陽影は、奪った愛を元にして新たなドリームイーターを実体化させ、事件を起こそうとしてる。これを止めて欲しいんだ。これ以上被害者を増やすわけにはいかないし、ドリームイーターを倒すことが出来れば、愛を奪われてしまった人も、正気にかえるからね」
 速やかに退治してやってね、と光弦が笑顔で言う。
「今回、愛を奪われてしまった被害者は、貫井シュウジ君。彼、専門学校の同級生だった谷原ナナミさんっていう女の子にものすごく入れ込んでたみたいでね。ふたりは恋人っていう関係ではなかったんだけど、シュウジ君はナナミさんに友情以上のものを感じていて、高価なプレゼントを贈ったり食事に行った時は必ず彼が支払いしたり、って」
 そのナナミに、どうやら別の恋人が出来たらしい。シュウジの愛を元に作り出されたドリームイーターは、裏切られた復讐をするために、ナナミとその恋人を襲って殺すつもりなのだ。
「ナナミさんは大きな公園の近くのアパートで、一人暮らしをしてる。彼氏とはアルバイト先が同じで、仕事後に夕食を終えてふたりでその公園を抜けてアパートに向かうところを、ドリームイーターが待ち伏せしてる」
 都内では有名な公園で、夜でもデート中のカップルやランニングをしている人などがいて、そこそこに人通りはある。だが、茂みや暗がりも多いので、あまり治安がいいとは言えない。
「ふたりを護衛しながら敵の出現を待って撃破、が任務になるけど……あんまりあからさまじゃ敵にバレるから、他のカップル装うとか何とか工夫してみてね」
 しれっと言ってから光弦が、真面目な目でケルベロスたちを見た。
「とにかくこのままほっといたら、シュウジ君もナナミさんもその彼氏さんも可哀想だ。愛を弄ぶ敵なんて許せない。頼んだよ、ケルベロス」


参加者
ジヴェルハイゼン・エルメロッテ(還らぬペルセポネ・e00004)
ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
七条・紫門(紫焔の剣鬼・e18850)
天城・命(レプリカントのウィッチドクター・e18976)
サラ・トルシエ(オラトリオのミュージックファイター・e22714)
柳楽・宗右助(鴉羽の隠し手・e23927)
安藤・優月(スノーラビット・e24042)

■リプレイ

●恋人たちの公園
「報われぬ愛、か。世界が公平だなんて、誰が言った? 一杯飲んで、さっさと忘れろ。……二杯でも良い、うぃっ」
 まるで芝居のセリフのように言い連ねるのは、長い手足をベンチに投げ出した、ちょっと詩的な酔っ払い……。
 にしか見えないが、その正体は、ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)である。
 ここは都内のとある公園。今回、ドリームイーターの標的にされてしまったナナミとその恋人が現れるのを、ケルベロス達は待っている。
 ラハティエルが酔っ払いを装って、というか実際恋人にプレゼントされたスキットルから一杯ひっかけているのだが、ナナミが通るであろう道すがらのベンチに陣取る。そして通りすがるカップルに、飄々と声をかける。眉を顰めて足早に立ち去るカップルもいれば、笑って通り過ぎる者もいる。完璧な酔っ払いを演じつつ、ラハティエルはそれがナナミたちでないことを確かめた。
「夜闇に紛れてカップルの覗きとは、ケルベロスも全く因果な稼業だな……フッ」
 その近くを、何周目かのジョギングで汗を流しつつ通り過ぎるのはジヴェルハイゼン・エルメロッテ(還らぬペルセポネ・e00004)。すらりと中性的な、よく鍛えられた肉体はまるでアスリートのような雰囲気を放つ。勿論、彼女はトレーニングをしに来たわけではなく、ナナミとその彼氏を襲う敵に目を光らせているのだ。一心不乱に走っているようでも、意識はまだ現れぬ敵へと向けられている。
(「彼の悲しみは彼が受け止めるものだ。ドリームイーターなんかに、それを邪魔されていいわけないよ」)
 『彼』ことシュウジから自由意志を奪い、破壊行為に及ばせたドリームイーターに対し、ジヴェルハイゼンは苛烈なまでの怒りを抱いている。復讐、という行為そのものを非難することは自分には出来ない……とも思っている。
 反対側からは叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)が、同じくトレーニング中を装って走り過ぎる。時々、不自然でない程度に周辺の様子を窺っている。この公園は中央にそう大きくない池があり、そこを周回するような形で走っている人も多い。ジヴと宗嗣はその中にうまく紛れ込んでいる。
 外灯に寄りかかり、その灯りの下でスマホを操作している柳楽・宗右助(鴉羽の隠し手・e23927)。黒い翼も花も隠しているので、誰かと待ち合わせをしている一般人にしか見えない。つい鋭くなりがちな眼光を怪しまれないためにと、スマホの画面を見つめている。近くの茂みにいるはずのウイングキャットのトラにだけは、時折ごく目立たない仕草で連携を確認していた。
「……」 
 仲間たちがそれぞれに風景に溶け込んでいる様子を、七条・紫門(紫焔の剣鬼・e18850)は茂みの中からじっと見つめている。が、ふと自分の傍らに丸くなっているウサギに視線をやる。人懐っこい野ウサギ、ではなく、安藤・優月(スノーラビット・e24042)の変身態だ。反対側の茂みに天城・命(レプリカントのウィッチドクター・e18976)の姿も確認出来た。
 そこへ歩いてきた、ショートカットの女性と背の高い男性の、二人連れ。
「……あれか?」
 紫門が低い声で呟くと、優月がウサギの姿のまま、ふたりを追って茂みの中を移動し始めた。小さくて目立たないウサギとは違うので、紫門と命はより気を使って、気配を殺して移動する。
「やあお二人さん、いい晩だねえ」
 ラハティエルが他のカップルにしたのと同じように声をかける。
 ナナミははにかんだような笑顔を返し、隣の男の袖を引っぱった。ちょっとボーイッシュな雰囲気はあるが、恋人に甘えている普通の女の子、という感じだ。
「おふたりさん、だって」
「酔っ払いだ、近付かない方がいい」
 彼氏が不機嫌そうに言って足早に歩き去るのを、ナナミが慌てて追いかける。おやおや、とラハティエルが肩を竦めた。
 ベンチの前をナナミたちが過ぎるのを、上空待機していたサラ・トルシエ(オラトリオのミュージックファイター・e22714)が見守る。
「あれが、ナナミ様とその彼氏さんね」
 極力翼の動きを抑え、ふわりと闇にまぎれて高い位置からドリームイーターの気配を感じ取ろうとサラは神経を研ぎ澄ます。
 優月は道の脇の植え込みを伝って、ナナミたちのすぐ近くを尾行することに成功した。二人が並んで歩く姿はいかにも恋人同時という雰囲気で、まだほんの少女の入り口に立ったばかりの年頃の優月の憧れを誘う。
 ヌウ、と現れた黒い影はそんな空気を一切読まない。いつの間に回りこんでいたのか、木の影が突然実体を持ったかのようにドリームイーターは暗がりから現れ、両手を広げてナナミたちの行く道を塞いだ。

●闇よりいでし悪夢
「キャアァア!」
『ナナミ……、ナナミ、キミ、ハ……』
 ドリームイーターの太い腕がナナミの方へ伸びた瞬間。
「俺のモノ、か? 次はそうやってしっかり伝えるんだな」
 ドリームイーターの手首を捕らえたのは紫門。ほとんど同時に、周辺で待機していたケルベロスたちが一足飛びにナナミの元へ駆けつけた。
 ドリームイーターとナナミの間で、踊るようにコートの裾が翻る。一瞬の隙をついて、ナナミと敵の間に入り込んだのはラハティエルと、まだ鞘に収めたままの刀を手にした宗嗣。
「私はラハティエル、ケルベロスの一人。邪悪なるドリームイーターよ、我が黄金の炎を受けよ! そして、絶望せよ。フッ……」
「ケルベロスだ。こいつの相手は俺たちがする。皆は逃げろ」
 ラハティエルのセリフにやや食い気味になりつつ、宗嗣が冷静な声で周囲に伝える。
 優月が敵の目の前で動物変身を解き、やはりナナミたちを守るように立ちはだかった。
「デートの邪魔をしてしまってすみません」
 と、優月がふたりの方を振り返ると、ジヴェルハイゼンが既にナナミたちを落ち着かせるべくゆっくり言葉をかけているところだった。
「ああ、混乱するのも無理はないね。でももう大丈夫。僕たちが守るよ。みんなと一緒に、早く逃げて」
「え……、狙われてるのって私なんですか?」
 ナナミは事情を知りたげだったが、彼氏の方はそうでもないらしい。
「行こうぜ、変なことに巻き込まれるのは御免だ」
「ま、待ってよ、だって……!」
『ナナミ!』
「ひぃっ?!」
 ナナミには、ドリームイーターの正体がわからない。元のシュウジとは似ても似つかぬ姿であるから、当然だ。
「なんだなんだ? 強盗か?」
 警察呼べ! いや逃げるのが先だ! と騒ぎを聞きつけた園内の一般客らの間に、混乱が生じそうになる。
「……剣気解放」
 紫門の低い呟きとともに放たれた殺気で、周囲は皆騒ぐ気力を奪われる。
 そこへサラがすこし高い位置へ舞い上がり、両手をふわり広げて極上の笑みを湛えて言い放つ。
「さあ、早くここからお逃げなさい!」
 命じられた方は一転、わかりましたー! と元気いっぱい熱っぽく叫びながら公園から離れていった。
「トラ、そっちを頼む」
 言い残して、宗右助は念のため他の避難者の誘導に向かう。サラが舞い降りてそこへ加わった。
「ナナミ様、さあ早くこちらへ」 
『ナナミ!』
 当然、追いすがろうとする敵を、ラハティエル、宗嗣、ジヴェルハイゼンが阻む。
「行かせやしないねえ」
『ガァア!』
 口数すくなくナナミたちを見ていた命も、戦闘態勢に入る。この手の話題は苦手なのだ。敵がデウスエクスでなければ、全力で遠慮したい。だがドリームイーターが一般人を狙っているとなれば、放ってはおけない。
「これがドリームイーターか、初めて戦う」
 宗右助の背に、黒い一対の翼が現れる。ドリームイーターを威嚇するかの如く開いた翼の下、宗右助が嘴の意匠をこらした古い仮面を身に着けた。一族に代々伝わる戦装束が、宗右助を戦いに駆り立てる。

●守らなくては
『ドケ、オ前ラニ用ハナイ……ナナミ、ナナミ!』
 吼える敵が放ったモザイクが、前衛に襲い掛かる。それをすり抜けた宗嗣が愛刀の宵星・黒瘴をすらりと抜き放ち、閃光の速さで稲妻突きを見舞った。衝撃に敵が後ずさるのを見逃さず、命が低い位置から縛霊撃で畳み掛ける。回復役を指示されたウイングキャットのソラが、戦場を旋回した。
 モザイク攻撃はラハティエルに命中、だが彼の剣を止めるには至らない。
「悪くない一撃だ……だが、まだまだだな。フッ……」
 攻撃的な布陣で挑む戦闘、万に一つもの被害を出す前に、素早く片付ける気概で皆戦いに臨んでいるのだ。なんと言っても今回の事件には、裏がある。目の前で暴れるドリームイーターを生み出した元凶は、今この場にはいない。本当に倒さなくてはいけない敵は、陽影なのだ。
(元凶はいつか焼くとして、今は目の前のコレだな」)
 紫門の雷刃突が、クラッシャー組の叩き込んだダメージに正確な追い討ちをかける。間髪入れず烏天狗装束の宗右助が黒い死神と化し、その傷を広げていく。
『ドケェ! ナナミニ会ワセロ!』
 ケルベロスたちの強力な攻撃を一身に受けつつ、ドリームイーターはまだナナミを追うことを諦めていないようだ。キッと優月がその敵を睨みつけて言った。
「シュウジさんの愛はたまたま実りませんでしたけど、気持ち悪い愛なんかじゃないと思います」
 優月がぐっと力を溜め始める。
「……あなたはシュウジさんのほんの一部であって、シュウジさんじゃないです。そんな物に、お二人を傷付けさせるわけにはいきません……ウサギの怖さ、思い知らせてあげます!」
 次の瞬間、普段の優月からは到底信じられないような咆哮が響く。
『イタイ、イタイ……胸ガ、イタイ』
 泣きべそのような声をあげるドリームイーターの上半身を、モザイクが包み込んだ。まるで砕けた胸のカケラを集めるような仕草で、傷をみるみるヒールさせていく。
「回復されるの面倒……」
 敵に向けてロッドを構え、命がライトニングボルトを迸らせた。敵が両手で顔前を守る仕草をするが、攻撃は確実に当たっている。
『ヌウゥ……!』
「ドリームイーターって、悪夢を見るのかい?」
 ジブが冷たく言い放ち、招来した混沌なるものを敵体内に送り込む。確かにシュウジは被害者でも、今対峙しているのはデウスエクス。そうである以上、彼女の攻撃の手が緩むことはない。
 その、ジブの中から湧き上がるような怒りが、紫門にはとてもよく理解出来た。時に自分でも持て余すような憤怒、それは戦いの中でしか消化出来ない。集中力を高め、自分自身がしんと静まり返る。次の瞬間には、視線の先の敵の肩が爆破された。
『ウギャアッ』
 宗右助もまた、戦いの熱に飲まれていく自分を感じていた。仮面の下に隠された眼光は鋭さを増し、放たれる氷の刃は対照的に冷たく敵を切り裂いていく。
「敵の足を止めるの、それで十分よ」
 ビハインドにはそう指示し、自身は回復に徹するサラ。ラハティエルに駆け寄り、精神に絡んでくる嫌な気配ごと、気力溜めで癒していく。仲間の攻撃手は、皆頼もしい。
 だが、さすがは執念の塊のような敵と言える。
『ナ、ナ、ミ……!』
 振り返ることのない名前を呼び続け、巨大な口を開けるモザイクは、まさに欲望の権化。噛み付いた先は、優月。
「! 優月様っ」
「大丈夫です、こんなの!」
 攻撃の好機と見た宗嗣が、刃を構えた。血しぶきを思わせる赤炎色をしたオニヤンマは、その刃に同化する。振るった刀の軌跡が、異形の蜻蛉となって敵を焼いた。
「これ以上、皆のユメは奪わせない……!」
『グォオオォ……!……ナ、ミ』
「ソラ、攻撃して」
 このまま畳み掛けるべきと判断した命がそう言い、自身も縛霊撃で追い上げる。
 ほのかの色に興奮したかの様子で、同じく赤く輝く翼を広げたのは、ラハティエルだった。
「いい色じゃないか……! 我が紅蓮の炎こそ、断罪の焔!」
 超高熱エネルギーが渦を巻く。舞い上がり周りの闇を炎の色に染め上げながら、地獄の炎はドリームイーターを断末魔すら残さず焼き尽くしたのだった。

●一つの恋
 戦いは終わった。
 巻き込んでしまった公園のあちらこちらを宗嗣がヒールして回り、命も黙ってそれを手伝った。
 一般人にケガはなく、ナナミと彼氏も急いで立ち去ったため無事だった。ドリームイーターを撃破出来たので、今頃シュウジもアパートでひとり目を覚ましている頃だろう。任務としては、成功である。
「……別に珍しい話じゃない。勇気が出ないまま一つの恋が終わっただけだ」
 戦闘中はほぼ口を噤んで剣を振るっていた紫門がそう呟いた。素っ気無い言葉のようでいて、彼の心はシュウジを、夢破れた者を労る。
「……シュウジって奴、ここからが本当に辛いのかもな」
 宗右助がトラを呼び寄せながら呟いた。戦いを終えた今、彼の黒い翼は元通りしまわれ、烏天狗の武装も解かれ、素顔の彼はなんとなく複雑そうではある。
「シュウジさん、乗りこえられると良いのですが……」
 戦闘を終えてホッとしている反面、心配そうな優月の肩に、ジヴェルハイゼンが優しく触れる。
「彼の道は、彼自身が選ぶべきなんだ。それが、どういう道になろうとも。少なくとも僕は――そう思うな」
 サラが短く息を吐いて頷く。
「お二人の今後が、気になるけれど……これ以上関わってはダメね」
 サラの言う『お二人』が、ナナミと今の恋人のことなのか、それともシュウジのことなのかはわからない。
 ただ言えるのは、生きている以上どんな人間にも『今後』があるということだ。
 ナナミは今の彼氏とうまくいくのか、シュウジは、自分の想いを今度こそ正しく伝えることが出来るのか? 生命の危機を乗り越えたとしても、とても些細なことであっさり壊れてしまったりもする。それが人間関係というものだ。
「上手くいくことばかりではないだろうが、生きてさえいれば、夢は続く……」
 宗嗣が手を止め、ぽつりと落とした呟き。皆の夢を守りたいと、心から願う。
 公園は元の静けさを取り戻し、周囲には再びマラソンをする人や、連れ立って歩くカップルたちの姿が戻ってきた。
「……リリア、貴女に逢いたい、な。フッ……」
 スキットルから酒を一口含み、愛しい恋人に甘い想いを寄せつつ歩み去るラハティエルの姿も、その中にまぎれていくのだった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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