陶器のロマン

作者:白鳥美鳥

●陶器のロマン
 春治は陶器が大好きだ。皿から湯呑み、花瓶等、様々なものがある。それに対して惜しげもなくお金を使う。
 更に、自らも作る事に挑戦してみたりもする。焼き窯を作ってみたりして、ろくろを回し、作品を作る。
 ……勿論、お金がかかる趣味だ。しかし、好きなものは止められない。家族にも迷惑をかけているかもしれないが、自分の稼ぎを注ぐのならそれでもいいと思う位に愛しているのだ。

 そんな春治の元に黒いコートの少女が現れる。彼女は薄気味悪く微笑むと、背にある大きな鍵を春治の心臓を目掛けて刺し貫いた。春治はそのまま崩れ落ちる。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい」
 そこから生まれたのは花瓶の形をしたドリームイーター。そのドリームイーターは彼の集めたものや作った陶器をことごとく破壊した。
 ……そして、街に飛び出していく。陶器を愛する人達の陶器を全て壊す為に……。
●ヘリオライダーより
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は事件の内容を説明し始めた。
「見返りの無い無償の愛を注いでいる人がドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が発生しているようです」
 一息つくと、もう一つの大事な事を続ける。
「愛を奪ったドリームイーターは『陽影』という名前のようです。彼女の正体は不明ですが、奪われた愛を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしています。愛を奪われる被害者をこれ以上増やさない為にも、ドリームイーターを撃破して下さい。このドリームイーターを倒す事が出来れば、愛を奪われてしまった人も、目を覚ましてくれるでしょう」
 では、事件の概要をお話します。セリカが続けたのは以下の話だった。
 ドリームイーターの狙いは埼玉県秩父市の山にある焼き窯を持つ相手である事。
 攻撃方法は、『知識喰らい』、『平静喰らい』、『夢喰らい』である事。
 周囲は山中にある為、人があまり近づかない場所。
 討伐の手段としては狙われる可能性がある人を護衛する事。或いはケルベロス達が囮になっておびき寄せる事。その二つ。
「ケルベロスは一般の方々に比べて愛の力も大きいのです。ですから、皆様が囮になる事が出来れば、ドリームイーターが狙ってくる可能性は高いでしょう。今回の場合は『陶器に対する愛』であり、焼き窯を狙う事から、どなたかに工房をお借りして、陶器作りに挑戦してみる……という事も有効かと思います。他にも色々と手段はありますので、皆様でご相談をお願い致します」
 
 セリカは最後の言葉で締めくくる。
「無償の愛とは見返りを求める事のないもの。それは奪ってはいけないものです。是非、皆様の手でドリームイーターを撃破して下さい。宜しくお願い致します」


参加者
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
ガーデニア・ヒガン(白雪之曼珠沙華・e05084)
ミレィ・ミィ(コタツムリ系可愛いものスキー・e06463)
篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)
汀・由以子(水隠る竜・e14708)
蓮城・箒哉(花守の仙竜・e18935)
遊里道・流(漣・e21314)

■リプレイ

●陶器のロマン
 とある陶芸工房。事情を話し、貸し切る事が出来る事になった。
 簡単な指導、ろくろ等の使い方、それに用いる土等も用意してくれ、教本だけでなく、やり方に関してもホワイトボードにも分かりやすく書いて貰う事が出来た。
「これなら、何とかなりそうだよね!」
 準備してくれたものに感謝しながら、この何となく分かりやすそうな気がする状態に、ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)は楽しそうに言った。
「では、ドリームイーターが来た時に分かるように鳴子や鈴の設置をしておきましょう」
 ガーデニア・ヒガン(白雪之曼珠沙華・e05084)の言葉に、汀・由以子(水隠る竜・e14708)と蓮城・箒哉(花守の仙竜・e18935)も手伝い、三人で設置を始める。残りのメンバーは陶芸の準備だ。
「うーん、まずは土づくりからかあ……」
 遊里道・流(漣・e21314)は用意された土を見て、形成に無事に辿りつけると良いなあ、そんな事を思う。
「でも、土から空気を抜くだけなんだろう? 水を入れてこねる、これなら俺も出来そうだな!」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)は、あまり陶芸に関しては詳しくもやり方もさっぱりなのだが、これなら単純で凄く分かりやすい。
「空気を抜く……どのくらいの加減でしょうか?」
「それなりに力はいりそうですねぇ~」
 篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)、ミレィ・ミィ(コタツムリ系可愛いものスキー・e06463)も土をこねる作業に頑張っている。ここでしっかりこねておくと、水分自体も均一になってくれるのだ。
 そして、準備は大体完了。これからは皆が楽しみにしている陶器づくりだ。
「よしっ、頑張るぞ~!」
 ヴィは頭には手ぬぐい鉢巻、エプロン装備で腕まくりをした、新人職人のような格好だ。それだけ気合いを感じられる。
「上手にできるかしら? ……そうね、折角だからぐい呑みでも作ろうかしら」
 由以子はわくわくと教本を見ている。ぐい呑みなのは、お酒が大好きだからに他ならない。自分の作ったぐい呑みでお酒を楽しめたらとても美味しいものになるだろう、そう思うとわくわくする。
 他のケルベロス達の目標は湯呑みが多い。
「待っててね、わたあめ。ぼくがうっかり壊してしまった水入れの代わりになるよう、しっかりかっこいいやつ作ってみせるからね」
 流にそう言われたオルトロスのわたあめは嬉しそうに尻尾を振っている。きっと素敵な水入れを期待しているのだろう。そして、工房の中の雰囲気も全体的に楽しそうなので自分も楽しそうな顔をしてぱたぱたと尻尾を振り続けている。とても可愛らしい。
 それぞれが先程練った土を使い、ろくろを回して形成にチャレンジを始める。
 しかし、全員初心者なので……。
「うぇあっ!? あっという間に器がくっちゃりいっちゃいましたよぅ!?」
 ミレィの声が上がる。
 他のケルベロス達もそれは同様なのだが、何度も挑戦する事は可能だ。初体験でいきなり上手くいくものでもない。
「うわわっ」
「……崩れちゃいました……」
 あちらこちらで悲鳴が上がっているが、それはそれで凄く楽しそうだ。
「うう~思った通りの形を作るのって難しいですね~」
 陶芸挑戦自体はわくわくしているもよぎなのだが、作っていた湯呑がへにょりとなると、自身の耳と尻尾もへにょりと下がる。
「いいんだ。形がゆがんでいても自分だけの湯呑だと思えば価値がある……気がする」
 箒哉はまるで自分に言い聞かせるように頑張っている。
 ガーデニアの目指す湯呑は釉薬で青に白の波うつ湯呑。勿論、現在の工程では焼くまでには時間がかかるので、まずは形成から。それが似合うのであれば不格好でも構わない。……叶う道理なき慕情(ユメ)を抱き続ける、不器用な心の儘に作るならば。
「……やっべ、イマイチよくわかんねぇ………よし、みんなに教えて貰おう」
 悪戦苦闘していたアバンがそう思って顔を上げると……何だか、皆、凄い状態だ。そんな訳で、雰囲気的にも一番やる気がありそうなヴィに声をかけてみる。
「……なあ、やり方、ちょっとは分かるか? 教本見ててもさっぱりだし」
 アバンの言葉にヴィはにこっと笑う。
「失敗しても諦めないっ! 燃えろ、ハンドクラフト魂だ!」
「……つまり、どんな形でも良いって事だな」
「そういう事!」
 そんな答えを貰い、何だかそれっぽい形が出来たらそれで良いのか、そう納得するアバン。
「色つけだけなら出来そうな予感がするのにぃ~」
 ミレィは叫んでいる。色つけなら彼女の好きなファンシーなものにも出来るかもしれない。
「だ、だから、せかさないでくれる?」
 流はわたあめに早くかっこいい水入れを……! とせかされていた。
 そんな時、鳴子や鈴の音が聞こえてきた。
「邪魔すんな!」
 ヴィはそう一喝する。陶芸に夢中でドリームイーターの事は忘れているらしい。
「後からでも出来ますよ」
 箒哉は苦笑する。そんな、どこか緊張にまだスイッチが入っていない感じの戦闘への幕開けとなった。

●花瓶姿のドリームイーター
「来ましたねぇ、ドリームイーター! 貴方を敗北の地へご案内ですぅ!」
 最初に飛びだしたのはミレィ。工房に入られない様にショルダータックルで外に向かって弾き飛ばした。
「外に飛び出てくれれば、中の物は心配しなくて良いな! さ、とっとと退場してもらおうか!」
 アバンはドリームイーターに大地を砕く勢いの拳で殴りつける。
「えーいっ! 足止めでーす!」
 もよぎが更に高速に輝く蹴りを放って、ドリームイーターの動きを鈍くさせた。
 その隙を狙って、ヴィが由以子達に輝く星座による加護を齎す。更に箒哉が士気を高めた。
 ガーデニアが更に足止めを加える一撃を放った所に、由以子がアームフォードから無数のレーザーを放った。
 ドリームイーターはモザイクを放ち、箒哉を包み込もうとする。それをヴィが庇った。しかし、受けた攻撃は判断力を低下させるもので流が直ぐに紙兵を放ち、それを回復させる。続いてわたあめが炎を放った。
 ミレィが蹴りを叩き入れると、彼女のテレビウムのテレちゃんが更に飛びこんで攻撃を仕掛けた。
 アバンがドリームイーターを縛り上げた所を、由以子が強烈な一撃を放つ。そこにガーデニアが炎の一撃を喰らわせた。
 もよぎの稲妻を纏った槍が突き刺さり痺れた所を、ヴィが瞳からのメーザーを照射して攻撃をしかける。更にミレィが冷気を帯びた凍結攻撃を繰り出した。
 ドリームイーターは再びモザイクを飛ばす。狙いはもよぎだが、ミレィが彼女を庇った。少しずつ、痺れが生じていく。そこに箒哉が光の盾を放って、彼女を癒しながら守備も高めさせた。
 隙をついて流が破壊力の高い一撃を放ち、わたあめがそれに続いて剣を用いて斬りつけた。
「あたしに勝てると思っているのか?」
 由以子はルーンアックスを振り上げる。そして、ドリームイーターを頭から下まで斬り割るように斬りつけた。
「せーのっ……てーい!」
「これでも喰らえー!」
 もよぎがドリームイーターの傷口を斬り広げると、そこにヴィのゾディアックソードが光を纏わせながら十字に薙ぐ。
 ドリームイーターが放つモザイクは怒りを宿したもの。一度、捕まると狙われ続ける。それはガーデニアに向かった。
 ……見返り求めぬ想いは、現実に夢結びて形成す想い。それを愛だと思う彼女へと向かって。
 でも、そんな彼女だから、このドリームイーターに立ち向かえるのだ。
「今すぐ回復します」
 箒哉が彼女に回復の光を放つ。
「壊れやすい物だからこそ一期一会で出会いを感謝し愛でるコレクター魂すっごくよく分かりますぅ! それを壊そうとする貴方はギルティですぅ!ぶっ散らばりなさいぃ!」
 ミレィの放ったケルベロスチェインがドリームイーターを縛り上げて何度も叩きつける。そこに由以子が強烈な蹴りを放った。
「痺れてくださいっ!」
「痺れろっ」
 もよぎとアバンが稲妻を放つ。そして、流とわたあめ、ヴィが炎を纏わせ燃え上がらせた。
「此処が悲しき壊夢の果てで御座います――私の焔を、葬送花とし」
 ガーデニアから白銀の焔が燃え上がる。それは一振りの刀となり幾筋もの炎が舞い踊る。
 ……燃え上がる焼き物のドリームイーター。炎に包まれるその姿は……その最後に相応しいものだった。

●陶芸品を仕上げよう!
 周囲をヒールする時にひと悶着が起きた。
「陶器はご主人の趣味だからダメだと思いますけどぉ、機材はファンシーにしても良さそうな気がするんですよねぇ……女性客倍増しそうな気がしますぅ……テレちゃんもそぉ思いませんかぁ?」
 テレビウムのテレちゃんと、にこにこ会話を繰り広げるミレィ。
「ここの機材をファンシーにヒールですぅ♪」
「うわー、ちょっと待って、待って!」
「思いとどまって下さい!」
 慌てて他のケルベロス達が止めに入った。
「ヒールは元に戻すものだから! 変身させちゃ駄目だから!」
「ここの機材自体もこの工房全体の一つなのですから」
 ヴィと箒哉が説得する。それにミリィは渋々理解をしてくれたようだ。
「形作って焼くだけじゃないでしょう? 彩色だって出来るんじゃないかしら? その時に可愛くすれば良いじゃない」
 由以子はにっこりと微笑む。
「あ、それなら桜の模様も入れられますね!」
 彩色を思ってもよぎもほんわかする。彼女は桜が大好きなのだ。
「……あ、でも、まずは作業再開させて、形にしないと駄目ですね」
「……出来あがったら、俺の分も手伝ってくれ」
 作業再開なのだが、悪戦苦闘中。もよぎの耳はぺたんとなり、アバンががっくりしている。
「教本だと、これから乾燥させて、それから彩色や釉薬もあるみたいだし。多少、いびつでも今回は形だけでも作っちゃいましょう」
「それでは最後まで頑張りましょう」
 由以子の言葉に箒哉が促す。それに全員が頷いた。
 そして、それぞれ何とか形にする。
「湯のみ! できたー!」
「うん、悪くない仕上がりね」
 もよぎの歓声と由以子の満足そうな声がする。もよぎの耳としっぽはその感情を表すように嬉しそうにぶんぶん振っていた。
「……お茶は注いで飲めそうなレベルかな」
「まあ、不格好でも、それは味だよね!」
「……味か……味かあ」
 箒哉が少し安心したように、ヴィは嬉しそうに、アバンは自分の仕上がりに複雑そうに、それぞれ声をあげた。
「彩色でファンシーですぅ~」
 ミレィも仕上がったが、どちらかというと彩色の方が楽しみの様だ。
「わたあめ、わたあめ! これ、まだ出来てないから! まだあげられないから!」
 わたあめにせかされて、流が悲鳴を上げている。
「私の心が想い、夢見た色彩と形に焼き上がるので御座いますね」
 ガーデニアはまだ見ぬ湯呑の仕上がりに想いを馳せて。
 今回の一件は楽しい思いもさせてもらった。これなら趣味にする人がいるのも頷ける。だからこそ、その無償の愛を注ぐのだろう。
「今度はちゃんと教わりたいな!」
「そうすれば、俺もましなものが出来るかな……」
 次はきちんと教わって作りたい。ヴィは明るくそう言い、アバンも今度は苦労よりも面白く作れるかな、と思う。
 でも、次からの工程はしっかり教えて貰えるから、楽しみはまだまだあるのだ。
 無償の愛……見返りを求めない愛というものは確かにある。それは一つの愛の形。
 それが一つ護れた事は貴重な事だと改めて感じるのだった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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