『覇竜の神座』覇を貫く水神

作者:陸野蛍

●永遠を生きる水神
 その日、一緒に漁に出ていた3隻の漁船と、同時に連絡が取れなくなった。
 急遽、海上警備船等で捜索を行うと、海上に木っ端微塵に砕かれた、漁船と思われる残骸が見つかった。
 その残骸は、海上で嵐にもあったかのような無残な姿をしていた。
 数十分後、奇跡的に疲労しながらも船の残骸にしがみつき海上を漂っていた、漁船の乗組員達を全員救助することが出来たが、皆、青い顔で脅え続けていた。
 それは、漂流していたことから来る疲労だけではなく、恐怖から来るものだった。
 彼らは、突如静かな海上に現れた、大渦巻きに船を呑まれたらしい。
 抗う術もない程の勢いの海流の渦に呑まれたのだと。
 震え、脅えきる漁師の一人が言った。
 あんな事が出来るのは、水神様しかいない……と。
 彼らは、知らなかった。
 確かにこの相模湾の水中には、居るのだ。
 神にも等しい存在が。
 相模湾で水神と恐れられるデウスエクスは、深い海の底で眠りについている……。

●戦艦竜仮称『蛟』改め『カエルレウム』討伐第四戦
「次の戦闘では、奴も本気で迎撃態勢を整えてくるだろうってのが、リーナの見解な訳だ?」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が隣に佇む、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)に尋ねる。
「……ええ。……与えられるだけダメージも与え、……装甲も修復不可能だからね。……恐らく、次にわたし達と戦う時は、本気だと思うよ」
 リーナが静かな声で雄大に答える。
「……そっか。何にしろ、最後のつもりで臨もう……。みんなー! 戦艦竜仮称『蛟』改め『カエルレウム』討伐第四陣の説明を始めるぞー!」
 ヘリポートに、雄大のいつも以上に大きな声が響く。
「いつもの様に、討伐資料は纏めてある。一人一部ずつ取って目を通して欲しい」
 雄大は言うと、ケルベロス達に資料が行き渡ったのを確認し、口を開く。
「それじゃ、説明を始めるな。城ケ島制圧戦の際にその戦力の強大さから、討伐対象にならなかった戦艦竜が、未だ相模湾で脅威の存在になっているのは、皆も知っての通りだ。強力な戦艦竜だが、自己回復能力を持たないと言う特徴がある。それを利用し、部隊を分け、幾度も戦闘を繰り返し、目標を撃破すると言うのが、俺達の作戦だったんだけど……」
 そこで、雄大は一度言葉を区切る。
「俺達の討伐対象への作戦は、今回を最後とする。依頼を引き受ける皆は、心してかかって欲しい」
 誰かが唾を飲む音が聞こえる。
「俺達の討伐対象は、これまで『蛟』と呼称していたけど、第三陣の皆が奴の本当の名前を持ち帰って来てくれた。討伐対象の戦艦竜の本当の名前は『カエルレウム』。第三陣の話では、これまでの戦闘で名前を教えるだけの価値が俺達ケルベロスにあると、カエルレウム自身が判断したらしい」
 名を教えることも、カエルレウムのケルベロスへの敬意の表れなのだろう。
「カエルレウムは青銀の鱗を持つ東洋竜型の長大なドラゴンだ。3回の交戦を経て、最大火力を誇っていた主砲は全て破壊、装甲も70%以下まで減らすことに成功している。そして、カエルレウム自身の体力は恐らく、20%を切っている。それを受けて、今回の作戦目標はカエルレウムの完全撃破とする!」
 雄大のハッキリとした強い口調が、ヘリポートに響く。
 三つの部隊の努力がようやく実を結び、カエルレウムを討伐する目処がついたのだ。
「体力が20%以下に減ったと言っても、カエルレウム自身の戦闘力は、ほぼ変わらない。むしろ、ケルベロスを警戒してこれまで以上の迎撃態勢で臨んでくるだろうと言うのが、第三陣メンバーの見解だ。決して油断できる相手じゃないから、気を引き締めて討伐に向かって欲しい」
 相手はあくまでドラゴンだ、少しでも油断があれば一気に形勢は引っくり返されるだろう。
「じゃあ、カエルレウムの戦闘方法についての説明をするな。重要な点を中心に話していくから、それ以外は資料の方で確認してもらいたい。主砲については、さっきも言った通り全て破壊済みだ。で、カエルレウムとの戦闘で注意しなければならないものとして、その長大な体で海中をぐるぐる回ることによって、渦巻きを形成して海流を操作し水中に居る相手の行動を阻害、渦の中心に目標を集めることが出来る。これの合わせ技として、カエルレウムが急浮上して海水を滝が逆流する様に天に昇らせ、カエルレウムが落下に合わせてアイスブレスを吐き、滝となった海水を全て氷の槍と化して、中心に集まった敵を串刺しにすると言ったものがある」
 映像データを見た者は、その海流の束縛と攻撃とのコンボの威力を十分に分かっているようだ。
 実際、第二陣はこれで壊滅的被害を受けている。
「だけど、第三陣がこれに上手く対応し、ダメージを低く抑えることに成功している。具体的には、飛行できる者が、守備力の低い者、体力低下が著しい者とメディックを抱えて技圏内から脱出。それ以外は、蛟の攻撃が来るまでにポジションをディフェンダーにチェンジ、シールドグラビティを張れるだけ張っておくと言うものだ。完全に技を防ぐことは不可能でも、継続戦闘を可能に出来た十分な作戦だったと言えると思う」
 但しと、前置きして、カエルレウムは頭が切れる為、海中に潜って海流操作に移ると見せかけて、すぐに突撃を行うなどと言うフェイントも入れてくるので注意が必要だと言うことを付け加える。
「その他に、首の周りにぐるりと巻かれた幾つもの小型砲からの散弾、口からの広範囲アイスブレス、蛇の様な尻尾での素早い薙ぎ払い、海中に潜っての突撃が攻撃手段になる」
 カエルレウムは、この数多い技を場合によって使い分ける頭脳を持った難敵だ。
「優先攻撃対象を選んで各個撃破を狙ってくるのが基本スタンスだけど、状況次第で全体を一網打尽にすることも考える頭脳も持っている。あと、武人としての誇りみたいなものも持っていて、一対一の挑発にも割と乗ってくるタイプだな」
 優先攻撃対象は、自分にダメージを高確率で与えそうな者、ダメージを与えて戦闘不能に出来そうな者と言うことだ。
「カエルレウムの防御面に移るな。身体を覆っていた、装甲は70%以下まで減少している為、比較的攻撃の通りやすい青銀の鱗部分の面積が増えているので、こちらを中心にダメージを与えてもらいたい。それと、これまでのデータを検証した結果、比較的斬撃がダメージを与えやすいみたいだな。但し! 頭、顔面への攻撃は注意してくれ。以前から顔面への攻撃は、カエルレウムの逆鱗に触れることは分かっていたんだけど、傷を付ける程のダメージを与えた場合、カエルレウムが自我を忘れる程怒り狂って、とてもじゃないが手を付けられない状態になるみたいだから」
 どうにか継続戦闘を続けられていた第三陣が、カエルレウムの怒りの引鉄を引いてしまった為、重傷者を出してしまった程だ。
「長くなったけど説明は以上だ。資料には、効果的な状態異常なんかも纏めてあるから、一通り目を通しておいてくれ。これまでの部隊が、身体を張って集めてくれたデータだから、その重みも分かって欲しい」
 言って雄大は、資料を閉じ、ケルベロス達を見渡す。
「これまでは、次に託すことが重要だから、怪我をする様な無理をして欲しくないって皆に言ってきた。だけど、ここまで来たら、相模湾の平和の為に、カエルレウムの撃破、必ず成功させて欲しい」
 そこで雄大は、ニカッと笑い。
「皆なら大丈夫だって、俺、信じてるからさ。頼んだぜ!」
 そう言って、雄大は、ヘリオン操縦室へ向かった。


参加者
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
トゥリー・アイルイヘアド(紅蓮ノ騎士・e03323)
百丸・千助(翠玉の瞳・e05330)
暁・歌夜(夢を叶える朝を望む歌・e08548)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
カジミェシュ・タルノフスキー(栄光の残照・e17834)

■リプレイ

●最後の戦い
「カエルレウム…………青か」
 海風を浴びながら、進むクルーザーの上で、カジミェシュ・タルノフスキー(栄光の残照・e17834)が呟いた。
 その呟きに周りの仲間達が、彼を見る。
「名は体を表すと言うが、ラテン語の名を持つのだ、さぞかし歳を重ねた古い竜なのだろうな」
 その言葉に、既にカエルレウムと相対したことのある者達の脳裏に、輝く青銀の鱗を持つ竜の姿が浮かぶ。
「出来る事なら、降って貰いたい所だが、そうもいくまいか」
 カジミシュは、傍らで寄り添う相棒のボクスドラゴン、ボハテルの頭を撫でる。
「向こうも死にもの狂いだろうから、こっちもしっかり行かないとね」
 棒付き飴を口に含みながら言う、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)は、装備品の最終点検に余念がない。
「武人然とした戦艦竜か……オレも一人の武人として、正々堂々恥じることの無い戦いをしないとな。ガジガジも頑張るんだぜ!」
 百丸・千助(翠玉の瞳・e05330)は、その瞳に強い闘志をたぎらせ、相棒のミミックに語りかける。
「そろそろ、カエルレウムの領海に入ります。ここからは、クルーザーを残して、向かいましょう」
 暁・歌夜(夢を叶える朝を望む歌・e08548)が、得物の日本刀を手に海中へと入って行く。
 ケルベロス達が暫く海中を移動すると、前方の海面が波打ち、光を反射する青銀の鱗が目に映る。
「また来たか……ケルベロスよ」
 青銀の鱗の持ち主、戦艦竜カエルレウムがその瞼を開きケルベロス達を見据える。
「さて……と。お久しぶり、カエルレウム。元気にしてたかしら? ……元気じゃないと困るわ。友人に『おもてなし』をしてくれた分、きっちり返さないといけないもの」
 クールな物言いで、鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)がカエルレウムに宣戦布告する。
「……前回、一緒だった小娘は癒せなかったか? 回復手よ? わが顔に傷を付けた代償だったとは言え……か弱き者に対する事では無かったかとも考えていたぞ」
 カエルレウムの言葉に胡蝶は怒りにも似た思いを抱いたが、癒しの要として感情的になることは許されない。
「お初にお目にかかるぜ戦艦竜カエルレウム! 俺の名前は、百丸 千助! いざ尋常に勝負!」
 千助が名乗りと共に斬霊刀を抜く。
「威勢のいい童も来たようだな」
 千助を見やりながらも、一切警戒した様子の無いカエルレウム。
「カエルレウムよ、今日が貴様の最後だ……ダスノフスキーのシグムントがカジミェシュ、貴殿の首を貰い受ける!」
「……見ぬ顔だが、我が名乗るまでも無かろう。我の名前を教えただけでも敬意を払っておるつもりだ」
 カジミェシュの名乗りに、本心からの言葉としてカエルレウムが答える。
「相変わらずの素っ気ない態度だな、カエルレウム。久しぶりだな。私とは、二度目になる……。今度はその首、貰いに来たぜ」
 トゥリー・アイルイヘアド(紅蓮ノ騎士・e03323)が、バスターライフルの銃口をカエルレウムに向け、宣言する。
「お前は、以前も我の首を狙っていたな。此度も我の首をひたすら狙い、敗走するか? それとも死を選ぶか?」
 カエルレウムの問いかけに、トゥリーは言葉を返す事が出来なかった。
 ケルベロスとして、自分自身正面を切ってカエルレウムと戦いたい気持ちはある。
 だが、今回の自分の役目はそうではない。
 仲間達の為に動くこと……そしてカエルレウムを討つ為の力になること、それが分かっているからこそ、トゥリーはあえて口を噤む。
「カエルレウム……貴方の武器が、装甲が……削り落されているのは、事実。わたし達は今日の為に、貴方と戦ってきた……だから。最後の戦いを始めよ……」
 静かに、霊刀『鳴月』を構える、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) 。
「よかろう。……我が武力を貴様たちが耐え抜いたのは事実、敬意を持って最後の戦いとやらに付き合ってやろう」
 カエルレウムの首の回りの散弾銃が一斉にケルベロスに向く。
(「これで、泣いても笑っても最後になる訳だね。……悔いのないように全力でぶつかって行こうか!」)
 ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)の翼が大きく開く。
「鎧装天使エーデルワイス! ジューンプラチナム出る!」
 その言葉と共に海面を走るジューン。
 同時にカエルレウムの散弾が一斉に火を吹く。
 ケルベロス対戦艦竜カエルレウムの最後の戦いの火蓋はここに切って落とされた。

●激戦
 カエルレウムとの最後の戦いは、最初から双方全力を出す形で開始された。
 散弾が着弾した瞬間、胡蝶が電流の障壁を形成すると、すぐに歌夜がカエルレウムの頭上に無数の刀剣の雨を降らす。
 鎧をも打ち砕く一撃をカエルレウムの腹部に放った、ジューンはヒットしたのを確認すると舞う様に下がり、バスターライフルに手を伸ばす。
 千助が雷の力を宿した刃をカエルレウムに突き刺している隙に、カジミェシュが癒しと守りの力を持ったドローンを空へと飛ばす。
「最初に一発かまさせてもらうぜ! 変幻自在の”魔法の弾丸”……避けるのはちーっと骨だぜ?」
 唯奈の二丁のリボルバー銃の銃口から放たれた弾丸は、まるで何者かが操作しているかのような軌道を描き、カエルレウムを狙い撃ちにする。
 リーナがカエルレウムの装甲に刀を突き刺したのに合わせて、トゥリーが重力のエネルギーをバスターライフルから放つ。
 カエルレウムも、その身体の長大な尾を横に薙ぎ、ケルベロス達を一閃する。
 ケルベロス達に油断が無いのは当然だが、カエルレウムにもこれまでには無い何か……『ケルベロス達と戦うと言うハッキリとした意思』とでも言えば良いのだろうか、計算をし、隙を与えず戦士として、カエルレウムはケルベロスと対峙していた。
 命を落とすのではないかと言う焦りから来る、乱雑な戦闘では無く、勝つ為の戦いをしている。
 ……何故か、ケルベロス達には、そう感じられた。
「グッ!」
「……いてぇし、冷てぇし!」
 カエルレウムのアイスブレスがカジミェシュとトゥリーを襲うがすぐに歌夜がブラックスライムの糸を作りだす。
「まだ……まだ止まらない。私はまだまだ止まらない。たとえ…………』
 歌夜が作り出したブラックスライムの糸は、二人の身体を凍てつかせる氷すら飲み込む、
「……攻撃の手は、止めないで。大丈夫よ。回復は私に任せて……皆は思いっきり、やっちゃって」
 一人が傷つく度に、胡蝶の癒しの盾と電流の増強が放たれ、仲間達の力を底上げしていく。
「そろそろ、オレの真骨頂を見せてもいいよな!」
 言うと千助は刀に超圧縮した霊力を纏わせていく。
 刀は、霊力を帯びて輝きを放つ透明な二本の巨大な刃となる。
「どんなに硬くても関係無え、ぶった斬る! ……舞え、朱雀!!」
 その巨大な刃を千助は自在に振り回し、カエルレウムの青銀の身体に無数の傷を付けていく。
「……貴様は危険だな」
 言うとカエルレウムは、長大な体を一本の槍と化し千助に突撃しようとする。
 その瞬間、トゥリーの詠唱が聞こえる!
「コールデバイス……“飛翔する摂理の盾”!!」
 千助の眼前に一枚のメカニカルシールドが現れる。
 だが、その一枚の盾では、カエルレウムの突進を抑えられないと判断した、トゥリーは叫ぶ。
「来い! プロテクトワイバーン!」
 その叫びと共に、浮遊する四枚の盾は、結合すると一枚の巨大な盾となる。
「止まれぇぇぇ!!」
 トゥリーが叫ぶが、それでもカエルレウムの突撃を完全に止めることはできず、盾もろとも千助は吹き飛ばされるが、ダメージを随分減衰する事が出来た為、胡蝶の回復が飛ぶとすぐに体勢を立て直す。
「これくらいの敵じゃなくちゃ、面白くねえよな」
 にやりと笑うと、唯奈は口に含んだ飴を『ガリッ」と噛み砕き、精神エネルギーを力に変えてカエルレウムに放つ。
「これでも、くっらえー!」
 ジューンのバスターライフルがエネルギーを放ったのを見計らい、リーナが無言でカエルレウムの身体を駆け上がり、手に持つナイフで傷を作る。
「距離を置いての攻撃と合わせるのは、有効だな……」
 カエルレウムは言うと、アイスブレスを後ろで構える者達に放つ。
「キャーーー!」
 そのブレスは、後ろに控えていた者達全員に、特に回復の要である胡蝶を傷つけることになった。
 その時、戦場に凱歌が響く。
「この旗と歌が潰えぬ限り、我らに敗北は無いと知れ」
 カジミェシュが故国の旗を持ち、高らかに宣言すると胡蝶達の身体が癒されていく。
 陣形を整え直す為、リーナと歌夜がそれぞれ、カエルレウムの注意を引き付ける。
 その間にトゥリーに集中回復された、胡蝶が癒しの電流を張り巡らせる。
 攻防の中訪れた、一時の睨み合い。
 カエルレウムが口を開く。
「良い連携だな。我々では、こうは、行かぬだろうな……」
「どう言うことだ……?」
 唯奈がカエルレウムの言葉の意味を問う。
「我々ドラゴンは、連携に向いておらぬのでな……。強すぎる種の定めか、皆、自分の功績を望むのでな……」
「ドラゴンは協力しないと言うことですか?」
 歌夜の疑問にカエルレウムはこう答えた。
「難敵に合えば、協力もしよう……だが、その様なことも少ない。そして訪れるのは、おのずと己達の優劣を決める戦いだけになる……デウスエクス同士で協力しても仕方なかろう?」
 カエルレウムのその言葉にケルベロス達は沈黙する。
「だから、ケルベロス……お前達は面白い。……話が過ぎたか、決着を付けよう」
 そう言うとカエルレウムは海中へと身を沈めた。

●最後の刃
 カエルレウムが、海中へと身を沈めるとすぐに渦を巻き始めた。
「これが海流操作か。千助さん! ジューンさん!」
 カジミェシュの指示に千助が胡蝶をジューンが唯奈を抱えて飛ぶ。
「いっけぇ! ヒールドローン!」
(「私のシールドでどこまで防げるかな……?」)
 思いながらもジューンは、飛翔防壁の結合を急いだ。
「下から来ます!」
 歌夜がカエルレウムの上昇を察知する。
「フェイントの可能性もある! 油断は、無しだ!」
 上空の、千助が空中へと移動した仲間達に声をかけながらも息を吸い込む。
 次の瞬間、海面からカエルレウムの顔が覗くと海水と共に宙へと登って行く。
 空中で反転したカエルレウムは、自らが作った、水の柱にアイスブレスを放つ。
「今だ!」
 千助は、アイスブレスの軽減になればと、炎のブレスを吐くが、威力差なのかブレスの量なのか僅かしか軽減できない。
 海に留まったケルベロス達の真上に、数多の氷の槍が形成されていく。
 カジミシュの鎌がリーナの竜のオーラがトゥリーの重力の光線が、降り注ぐ氷の槍を砕け散らせていく。
 だが、その数は減らせても、全てを撃ち落とすことは不可能だった。
 氷の槍の落下で更に海面が弾ける。
 飛び交う、水飛沫の中現れた四人のケルベロスが視界に移った瞬間、胡蝶はヒールグラビティを飛ばす。
「今回は耐えきったぜぇ……」
 傷だらけになりながらも、トゥリーはヒールドローンを展開する。
「……歌夜!」
 リーナが声をあげる。
 リーナの傷は、他の三人より浅かった。
 何故なら、リーナの身体を覆う様に、歌夜が氷の槍を受けたからだ。
「……リーナさん、カエルレウムが次の行動に移る前に……決着を」
 歌夜が、リーナに笑いかける。
「大丈夫だ、リーナさん。ディフェンダーに代わる時間はあった。私も回復する。攻撃に移ってくれ」
 カジミェシュの言葉にリーナは無言で頷くと、自身のグラビティを高め始めた。
「ジューン、援護するから、あんたも行け!」
 再び海上に姿を現したカエルレウムに向かって、銃弾を撃ち込みながら唯奈が叫ぶ。
「はい! エーデルワイス! 行っきまーす!」
 ジューンは高加速を付けカエルレウムに接敵すると、掌に高密度のグラビティを集めていく。
「永遠に眠れ青き龍よ! この一撃を受けてみろ!!『英雄の一撃!!』」
 ジューンの掌から、カエルレウムの巨体を貫かんばかりのグラビティが放たれる。
 流石のカエルレウムも身体をのけ反らせるが、顔をジューンに向けるとブレスを吐こうとする。
 だが、そのカエルレウムの前にリーナが立ち塞がる。
「あなたを倒す為に編み出したわたしの力……。わたしの全てを賭けたこの一刀で、勝負だよ……カエルレウム!!」
 リーナのその言葉をかき消すかのように、カエルレウムの口からアイスブレスが放たれる。
 その強烈なアイスブレスの檻から聞こえる、リーナの声。
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……!討ち滅ぼせ……黒滅の刃!!」
 その言葉と共に、アイスブレスを割る様に巨大な黒く輝く魔力の刃が姿を現す。
 その刃は周囲のグラビティを吸収しながら、カエルレウムに振り下ろされる。
「さよなら……カエルレウム……。貴方の事、忘れないよ……」
 リーナの呟きと共に黒き刃はカエルレウムの巨体を切り裂き、海を割り、全てを包むように海水が空を舞った。

●カエルレウム
 リーナの黒き刃を受け、致命傷を受けながらもカエルレウムは生きていた。
 しかし、海上に身をゆだね死するのも時間の問題だった。
「遂にやったね! みんな有難うー! お疲れ様でした!」
 ジューンが喜びを我慢しきれず、声を上げる。
「自爆なんて置き土産ないわよね……?」
 胡蝶の呟きに、カエルレウムが静かに答える。
「……我は、カエルレウム……武を誇り、覇を貫く者なり。……そんな、小細工はせぬよ」
 同じく警戒していた、唯奈と歌夜もその言葉に、カエルレウムを見つめる。
「……私達の疑いは、貴殿の誇りを傷つけただろうか?」
 カジミェシュの言葉に、カエルレウムはほんの少しだけ頭を振る。
「……いや、正々堂々と生きるものばかりではない……油断せぬことだな……これからも行きぬくつもりならな」
 諭す様にカエルレウムがカジミェシュに言う。
「ドラゴンにも色々いるんだな……」
 千助がカエルレウムに語りかけるが、カエルレウムは目を細め。
「……我が異端なのかもしれぬ。……手段を選ばぬ者もいる。……既にドラゴン達を倒して来た、お前達に言うことではないかもしれぬがな」
 カエルレウムの目が少しだけ笑みの形を作る。
「カエルレウム、あんたはこれからどうなるんだ? 消えるのか?」
「……さあな。……我は永遠と思える時間を生きてきたが死ぬのは、初めてでな」
 そう言うと、カエルレウムの身体が少しずつ海に沈んでいく。
 その姿を見ながら、誰として口を開かなかった。
「……さらばだケルベロス。……長い時の中で、中々に有意義な時間であったぞ」
 その言葉を最後にカエルレウム……水神と人々に恐れられた戦艦竜は海に消えた。
「……貴方は尊敬できる相手だったよ。……カエルレウム」
 呟いて、リーナは彼の永遠の眠りの為に祈りを捧げるのだった……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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