真冬にクワガタ?

作者:麻香水娜

 淡い月の光が降り注ぐ穏やかな山中――。
「最近は、どなたもグラビティ・チェインを集める前に、忌々しいケルベロスに殺されているようですね……」
 暗がりの中、女郎蜘蛛型のローカスト『上臈の禍津姫』ネフィリアが、忌々しげに呟く。
『ギギッ!』
 近くにいたクワガタ型ローカストが、自分に任せてくれ、と言わんばかりに声を上げた。
「そうですね……あなたであれば……」
 その声に何かを考え込んだネフィリアは、すっと顔を上げてクワガタ型ローカストを見つめ、微笑む。
「それでは、殺してきてくださいませ」
『ギギーッ!!』
 微笑むネフィリアに、クワガタ型ローカストは雄叫びを上げ、その場から走り去った。

「さっみー!」
 20代後半の男性が、コンビニに買い物に行き、ショートカットになる公園を通り抜けようと歩いている。
『キシャー!!』
 突然、木陰からクワガタ型ローカストが襲い掛かった。
 
「女郎蜘蛛型のローカストが、動きを見せているようです」
 集まったケルベロス達を前に、祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
 この女郎蜘蛛型ローカストは、知性の低いローカストを地球に送り込み、グラビティ・チェインの収奪を行う作戦指揮官のようだ。
 彼女は配下である知性の低いローカストを放って人を襲わせ、グラビティ・チェインを収奪しようとしている。
「放たれているローカストは知性が低い分、戦闘能力に優れた個体のようなので、戦うときは充分注意して下さいね」
 時刻は22時過ぎ。住宅地にある公園を通り抜けようとした男性が、運悪くローカストに捕まってしまった。
 時間が時間であるので、周囲に人はおらず、公園にある遊具もケルベロスには然したる障害にもならない。
「男性の肩に食いついてグラビティ・チェインを吸収しているのですが、攻撃を受ければ流石に男性を解放して向かってくるでしょう」
 その隙に男性を救出し、ローカストの撃破をしてもらいたい、と蒼梧は言う。
「このクワガタ型ローカストですが、高々と跳躍してブレイク効果のある飛び蹴りをしてきたり、角を突き刺して【石化】を与える『アルミ化液』を注入してきます。この2つは近接で単体攻撃ですね。それに加えて、羽をこすり合わせ、催眠効果のある破壊音波を放ってくるものが、距離は関係なく列攻撃になります」
 説明を終えると、蒼梧は集まったケルベロス達を見渡し、一呼吸置いた。
「黒幕が自ら地球に来ている……つまり、相当焦っているのでしょうね。このまま引きずり出して差し上げましょう」
 蒼梧は、穏やかに微笑んだ。


参加者
ヴェルマ・ストーリア(ブラッキープライド・e00101)
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
五里・抜刀(星の騎士・e04529)
ギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)
妻良・賢穂(自称主婦・e04869)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
ガルフ・ウォールド(でかい犬・e16297)
鵜松・千影(アンテナショップ雇われ店長・e21942)

■リプレイ

●捕らわれた男性を救出せよ
「猟奇的現場遭遇! 慎重に急いで助けましょう!」
 ローカストが男性の肩に食いついているのを発見した五里・抜刀(星の騎士・e04529)が仲間達に声をかける。
 抜刀の言葉に、ヴェルマ・ストーリア(ブラッキープライド・e00101)が、煙草を携帯灰皿に押し付けて火を消した。
「さァて、殺るか」
 携帯灰皿をしまいながら、物陰からローカストを見据えるヴェルマ。
「くっそ寒いのにクワガタぁ? ……ったく、季節感もへったくれもねーな」
 身を刺すような寒さに白い息を吐いた鵜松・千影(アンテナショップ雇われ店長・e21942)が、物陰から慎重に狙いを定めた。
「グルルル……」
「頼んだ」
 千影の横で、男性を救出する役目であるガルフ・ウォールド(でかい犬・e16297)が獰猛な唸りを上げる。その意気込みに、星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)がローカストを見据えながら短く激励した。
「お前を誘う光を用意してやるよ……こっちに、来やがれ。鵜松の名のもとに―――行け、惑わしの炎よ」
 小さく呟いた千影は、すっと精神を集中する。幻影を見せる力を込めた弾丸を放った。
『ギャ!』
 背に弾丸を受けたローカストは、妖しげに燃え盛る炎の幻影に、男性から口を離す。
「ミッション・スタート!」
「ほら、相手はこっちですわよ!」
 優輝が声を響かせると、更に隙を作る為、妻良・賢穂(自称主婦・e04869)がフロストレーザーを放った。
「ウォールドさん、お願いしますわ!」
「……」
 賢穂の言葉に、力強く頷いたガルフが物陰から飛び出し、素早く男性の手を引いてローカストから引き離す。
「な、何だ?」
「こっち、早く!」
 肩にかかる力がなくなり、何かに手を引かれた事に混乱した男性に、ガルフが更に強く手を引いた。
『ガァ!!』
 ローカストは、今まで食いついていた獲物の事も忘れ、振り返って狙撃した相手を探す。銃口から煙を出している千影を見つけると、羽をこすり合わせて破壊音波を放ってきた。
「チッ……!」
 咄嗟に周囲を確認したヴェルマは舌打ちして、千影の手を強く引いて場所を入れ替わる。
「すまん、助かった」
「……っく!」
『……ッ』
 千影がヴェルマに礼を述べたその横、ギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)と、抜刀のサーヴァントであるオルトロスのレオ太が苦しげな声を漏らした。
 狙われた千影と同じ後衛にギメリアとレオ太も居たのである。
(「……いかんッ! 俺がここで催眠にかかるわけにはッ」)
 ギメリアは、正気を保とうと何度も頭を振っていた。
「しまった、カミマミタさんが!」
 回復の要であるギメリアに催眠がかかってしまったと、五里・抜刀(星の騎士・e04529)が宙を漂う思念を集める。
「諦めちゃダメです! 諦めちゃダメです、カミマミタさん!」
 集めた思念と、暑苦しいほどに熱い思いをギメリアにぶつけた。すると、ギメリアの傷が癒えていく。
「催眠も消えたようだな……助かった。礼を言うぞ抜刀殿ッ」
 抜刀に回復してもらったギメリアは力強く笑いかけ、千影を庇ったヴェルマに視線を移した。
「ヴェルマ殿! 今すぐ回復するッ!」
 ギメリアは、独自の呼吸法により溜めた、どことなく猫型に見えるオーラをヴェルマに放つ。
「おう、悪ィな」
 破壊音波のせいで眩暈を覚えていたヴェルマは、完全にダメージが癒えて調子が戻った事に笑みを浮かべた。
「私の鎖からは逃しません……。あの方が安全圏まで到達するまでは、私のお相手をお願いしますね!」
 旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)が、しなやかに鎖を操ってローカストを締め上げる。
「煉獄と魔弾の不死鳥!」
 ガルフと男性を背に庇うように位置どった優輝が、右手に氷、左手に炎の魔力を同時に発生させた。それを体の正面でスパークせる事で『無』の力を生成。光の矢のように束ね、射放つ。光は炎を纏った鳥のような姿になりローカストに襲い掛かった。

●飛んで火に入る?
「俺達、ケルベロスだ。絶対守るから」
 ガルフが走りながら、手を引く男性に告げる。
「お、おう!」
 殺されかけて絶望にあった男性の瞳に希望の光が灯った。しかし、グラビティ・チェインを吸われていた男性の顔色は悪く、走るのも大変そうである。
「わふ!」
 男性の衰弱している様子に気付いたガルフは、走りながら気力溜めを使いつつ走った。

「わたくしも! 何時か! 結婚できる! 筈ですわ!」
 賢穂が力強く叫びながら大器晩成撃を放つ。しかし、まるでそれを否定するかのように、ローカストは羽を広げて高く跳躍する事でかわしてしまった。
『ギギー!!』
 その跳躍した状態から、賢穂を蹴り砕こうと急降下。避けきれないと、顔面の前で腕を交差して賢穂は衝撃を覚悟する。
「……?」
 中々おとずれない衝撃に瞳を開いた賢穂の視界には、ビハインドの背中が映った。ヴェルマのサーヴァントであるビハインドのモルテが、賢穂を庇っていたのである。
「ありがとうございます!」
 賢穂の礼に、モルテは口元を笑みの形にする事で応えた。
「レオ太!」
「ヒメにゃん!」
 抜刀に名を呼ばれたオルトロスが、背の黄金の車輪を回転させて炎を放ち、ギメリアに名を呼ばれたウィングキャットは尻尾の輪を飛ばして、ローカストの片方の角を砕く。
「私の力、炎の華……見せて差し上げます!」
 2体のサーヴァントの攻撃によろめいたローカストに、竜華が地獄の炎を纏わせたケルベロスチェインでブレイズクラッシュを放った。
『ギギャー!!』
 炎にのたうつローカストに、優輝が殺神ウイルスのカプセルを投射する。
『ギャ!?』
 ウィルスカプセルが当たったローカストの体は、更に炎が燃え上がった。
(「……ん? 右足の動きが……旋堂の初撃の鎖が関節を締めてズラしてたのか……」)
「右足だ! 動きがおかしい!」
「ベンさん、右足だ」
 細かくローカストの動きを分析していた優輝が声を張り上げ、その声に、千影がサーヴァントのミミックに声をかける。頷いたミミックは、ローカストの右脚に喰らいついた。
『ガーーーー!!』
 ローカストは叫びながらミミックを振り払い、よろめいたかと思うと、木に背を預けて体を支える。
「やはりな」
 優輝が満足げに呟いた。

●冬の虫は駆除だ!
 ガルフは、戦場から充分な距離が取れたと足を止める。
「……ここまでくれば、大丈夫か」
 鼻をひくひくさせて注意深く辺りを警戒しながら、口を開いた。
「じゃあ、なるべく早くここから離れて。俺はみんなのとこ戻る」
「お、おい!」
 ガルフが踵を返してその場から走り去ろうとすると、男性に呼び止められる。
「その、助けてくれてありがとう!」
「……うん。間に合ってよかった。気をつけて帰って」
 感謝の言葉に一瞬驚いたガルフだが、すぐに満面の笑みを広げて仲間達の下へと走り出した。

「今度は避けさせませんわ!」
 賢穂がフロストレーザーを放つ。
『ギャッ』
 木に背を預けていたローカストは、腹部にフロストレーザーを撃ち込まれ、衝撃で木に背中を強く押し付けられた。
 よろよろと木から体を離したローカストは、羽を広げて飛び上がる。
『ギギー!!』
 頭を下に、片方残っている角で突き刺そうと、千影目掛けて急降下してきた。
「ガウッ!」
 その時、千影の後方から大きな影がローカスト目掛けて飛び、その影に深々と角が突き刺さる。
 ――ドサ。
 落ちてきたのは、背中側から左肩にローカストの角が突き立てられたガルフだった。
 ローカストはすぐに羽で飛び上がって、ガルフの肩から角を引き抜く。
「ガルフ殿! すぐに回復を!」
 ギメリアが、急いで猫型に見えるオーラをガルフに放って傷を癒した。
「……ありがと……俺かっこ悪い……」
 ギメリアの気力溜めによってダメージを完全に回復したガルフは、起き上がって苦笑する。
「そんな事ない。助かったぜ」
 狙われていた千影が、ガルフの肩に手を置いた。表情は変わらぬままだが、掌から温かい感謝の気持ちがガルフに流れる。
「寒ィし、そろそろ終わらせようぜ」
 呟いたヴェルマの影から、漆黒の妖精が群れを成して現れた。
「狂い舞え」
「全て燃えて砕け!」
 漆黒の妖精達がローカストをあざ笑うように飛び回る。そこへ、竜華の声が響き、真紅の炎を纏った八本の鎖がそれぞれ別方向から串刺しに貫いた。
「炎の華と散りなさい!!」
 身動きの取れなくなったローカストは、オーラを纏った竜華の剣に縦に真っ二つに切り裂かれる。
『ギギギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
 ローカストの断末魔の叫びは、澄み渡った空に響き渡った。

●駆除の後は……
 真っ二つになったローカストは、まるで砂が崩れるようにサラサラと崩れる。
「偉かったぞヒメにゃん。流石だ俺のヒメにゃん。ヒメにゃんは世界一、いや宇宙一だ!」
「モルテもお疲れ。頼りになるぜ相棒」
 ギメリアは、キャットリングでローカストの角を片方折って攻撃力を削いだウィングキャットを撫でまくった。その横でヴェルマはビハインドに笑いかける。
「レオ太も格好良かったですよ。今傷を治しますね」
「……ベンさん、さみぃ……」
 抜刀はローカストの破壊音波でダメージを受けていたオルトロスにヒールをかけ、千影は、3人のように労いの言葉はないものの、しゃがんで怪我がないか確認しているようだった。
(「皆のサーヴァントたちは、こんなに大切にされてるのにな……」)
 ガルフは4人を見ながら、使い捨てられるローカストに対して、同情に近い思いを抱いた。
 それぞれが肩の力を抜く中、竜華だけが神経を張り詰めたまま周囲に気を配っている。
「どうした?」
「……ネフィリアが、なんらかの形で見ているかもと思いまして」
 優輝に訊ねられた竜華が警戒を解かずに五感をフルに働かせながら口を開いた。
「さみぃって、マジで…………おでんでも食いにいくか」
 真剣に辺りを探る竜華とは反対に、寒さで死んだ魚のような目になっている千影が、両肩を摩りながら訴える。
「そうですわね。旋堂さんも行きましょう? 息抜きも大事ですわ」
「……ふぅ……そうですね。何も見つからなそうですし……皆さんで温かい物を食べるのもいいですね♪」
 賢穂が竜華に微笑みかけると、竜華も一つ溜め息をついて、笑顔を広げた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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