追撃、白銀の雷竜

作者:鹿崎シーカー

 ガリゴリバリ、と船が砕ける。
 一台の高速艇をスナック菓子のように食っているのは、一体の竜だった。
 機械的な白銀の体に、流線型のフォルム。背中にびっしりとついた発電機関はウロコか、クジラにくっつくフジツボのようだ。しかし、無数にある発電機関のうちいくつかは無残に破壊され、ぷすぷす煙を上げている。
 かの竜の名は『V・ガレオン』。雷撃を操る、戦艦竜である。

「てなわけで、あっしらはやっこさんの調査に向かったわけっすが……」
「みんな無事だし情報も取れたから、戦果は上々。ナイスだよぉ」
 頭をかくリン・グレーム(機械仕掛けの宝箱・e09131)に、跳鹿・穫はにこにこ笑って答えた。
 彼の言葉は嘘ではない。前回の調査において、貴重な情報が多く手に入ったのだ。譲が配っていく資料には、様々な情報が追加されていた。
「それじゃ、さっそくだけど……わかったことから、説明してくねぇ」
 V・ガレオンは、その身に大量の発電機関を取り込んでおり、自ら生成した電気を使っての雷のブレスや、高速移動が可能だ。
「調べてみたんだけど、電池で動く魚雷があるそうな。高速移動の原理は多分これだと思うよ」
 かなりの速度で突進しつつ繰り出される爪や尻尾の一撃は、まさに必殺の一撃と呼んで差支えない。ただ、スピード故にブレーキと小回りが利かないのと直進しかしないため、攻撃を当てるのは難しくない。
 また、V・ガレオン自身は海面にいることの方が多く、中々海に潜らないようだ。
「まだ未解明のトコとかあるけど、結構希望が見えてきたんじゃないかな……!」
「うーし。それじゃ、第二ラウンドとしゃれ込むっすよ!」


参加者
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
水晶鎧姫・レクチェ(ルクチェ・e01079)
ディークス・カフェイン(月影宿りの白狐狼・e01544)
秋津・千早(ダイブボマー・e05473)
リン・グレーム(機械仕掛けの宝箱・e09131)
ミュシカ・サタナキア(新城さんちの娘・e11439)
碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)
繰原・マリア(糸繰り人形・e21255)

■リプレイ

●相模湾より闘志を込めて
 しぶきが収まり、船が止まった。
 陸から離れ、相模湾洋上。見渡す限り青が広がる場所でイカリを降ろし、秋津・千早(ダイブボマー・e05473)は甲板へと足を向けた。
「もうイカリ降ろしちゃったけど……船、ここに止めて大丈夫そう?」
「ええ。問題ないと思います」
 答えたのは、繰原・マリア(糸繰り人形・e21255)。忍者装束の少女は、クルーザーの船長に振り向きつつ、頭を下げた。
「千早様。ここまでの運転、お疲れ様でした」
「それは、全部終わってから聞きたいかなぁ。にしても……」
 苦笑しつつ伸びをして、千早はふっと苦笑する。
「もっと暖かい時期に暴れてくれればよかったのにね」
「ほんとに……ほんとにそうですよ。こんな寒いのに、またこの水着……」
 自分の胸元を隠しつつ、水晶鎧姫・レクチェ(ルクチェ・e01079)が恨めしそうにつぶやいた。
 前回に引き続き、今回もまたスクール水着。赤い顔をうつむける彼女に、同じくスクール水着組のミュシカ・サタナキア(新城さんちの娘・e11439)と碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)が後ろからがしりと抱きついた。
「もぉう、レクチェさんったら。とっても似合っててかわいいですよぉ?」
「せやせや。恵まれた方なんやから……もっと自身持たんかいっ!」
「ひゃっ、いやっ! ちょっと、あの、どこ触って……きゃっ!?」
 よたよたと右へ左へずれながら、船のふちまで進む三人。案の定、というべきか、ミュシカとあいねに挟まれたレクチェが、ふたりを連れて船から落ちた。
 どぼーん! と上がる水しぶき。一部始終を見ていたリーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)は、腹をおさえて盛大に吹きだした。
「ぶっ……あっははははは! 元気でいいねー! うん、かわいい子ってやっぱいいわ。やーっぱ、華ってないとだめよねぇ!」
「そりゃーまぁ、わからなくもないんすけどねぇ……もしかして、今ので、バレたんじゃ?」
「うぇ!? うそ、マジで!?」
 リン・グレーム(機械仕掛けの宝箱・e09131)の震え声に、リーフの笑顔が一転、青くなる。慌てて船の端まで駆け寄り身を乗り出すと、遠くの孤島が目についた。
 海に浮かぶ、白銀の島。無数についた機械の山に中心にそびえる鋼の斜塔。ここからではよく見えないが、きっと回りこめばトカゲに似た頭部が見えることだろう。赤い瞳を輝かせた、竜の頭が。
 戦艦竜、V・ガレオン。強大な力を持った雷竜は、ぴたりと動きを止めていた。
「……なぁーんだ、バレてないじゃん。あービックリしたー!」
「いーや、わかんねえぞ。もしかしたら、ハンバーガー食ってるだけかもしれねえしな。ほらよ」
 デッキにごろんと寝ころんだリーフに、ディークス・カフェイン(月影宿りの白狐狼・e01544)は小さなものを投げ渡す。千早、リン、マリアと順に投げ渡し、最後に海に落ちた三人にも手渡した。
「あん? なんやねん、これ?」
「インカムだ。耳に着けときゃ、ベッドの中の声も聞こえる」
「ディークス君、それはアメリカンジョークのつもりなのかい……?」
 真顔でのたまうディークスに、眼鏡を外した千早がインカムを装着しつつ小声でツッコむ。一方で、赤い顔を海から上げたレクチェは、同じくインカムを着けつつせき払いをした。
「こほん。それじゃあ、いくつか確認です。作戦と、後は……」
「海の黒ずみについてっすね。船の発電用だとすると、おそらくA型重油。60℃以上200℃未満で引火するらしいっすが……ま、火は使わないのが無難っすかね」
 戦艦竜を遠目に見ながら、リンはレクチェの二の句を継いだ。重油だったときのために、色々調べてきたようだ。一緒に海に落ちたミュシカがはいと手を挙げる。
「重油じゃなかったら回収、ですねぇ? 私、ビンとカメラ持ってきましたぁ!」
「おーう、カメラならうちもつけとるでぇ。カントクー! カメラ持ったー?」
 あいねが声を上げると、テレビウムのカントクが手にしたカメラをぱたぱたと振る。
 爆破スイッチの位置を確認し、マリアは鎖を巻きつけた手を船に乗せた。
「撤退はサーヴァントを除く四名以上の戦闘不能。追撃には注意を」
「うん。確認事項はこれで全部かな。じゃ……行こうか?」
 顔を見合わせ、互いにうなづく。そして八人の番犬と三体の従者は……海に向かって、飛び出した。
 狙うはひとつ、白銀に輝く、竜に向かって。
「さあ、見せてもらうぞ……竜の雷とやらをな!」
 同時に、海原の侵略者が、トカゲにも似た頭を持ち上げた。

●再び響くエンジン音
 しゃらららっ、とマリアの鎖が宙を抜ける。
 海の上に描かれる、鎖でできた魔法陣。その中央、足を乗せたところから、十の影が広がった。
「一ツ日之熾、二ツ仏舎利、三ツ御霊屋、四ツ夜之月、五ツいつ来て、六ツに群れて、七ツに啼いて、音無く忍ぶは七ツ影!」
 螺旋の力がこもった影は、足を離れて仲間たちに飛んでいく。螺旋と鎖の加護が行き渡ると同時に、竜がぐるんと向きを変えた。
 真正面から、無機的な頭部とにらみ合う。突撃してくる者たちに、V・ガレオンは声高に吠え、足裏についた機関を発動させる。水を盛大に吹き上げ、白銀の竜は海上を走る。
「んじゃあ、敵状視察と行きましょうかね。……ディノニクス!」
 突進する竜を見据え、リンはライドキャリバーのハンドルをひねる。頼もしい相棒は主の意思をくみ取って、海の中へダイブする。千早、ミュシカが続いて潜り、残る五人は晴れた空へ飛び出した。
「さあっ、ミニレクチェ達! 盾となってみんなをしっかり守ってね!」
 レクチェの指令に従い、レクチェをデフォルメした形のヒールドローンが高く跳んだ仲間に取りつく。小さなレクチェたちは力を合わせて、落ちる体を必死に支える。
 そして、海中。リンと千早は、迫る竜の胸を注視した。
「……っ!」
 首を傾け、意識を集中。どんよりと遅くなる時間の中で、リンは体の真横を通る物体をにらみつけた。
 V・ガレオンの胸についた、巨大な球体。わずかな振動もなければ、音もしない。ただ……小さな、とぷんという水音だけが鼓膜の奥に張りついた。
「っ! ……むぐっ!」
 すさまじい水圧に流されそうになる二人の手を、ミュシカがぎゅっと握って引っ張る。聖なる光を宿した両手は、男ふたりとディノニクスを海上へと押し上げた。
「ぐっ……ぷはぁ!」
『おー、海中トリオ! 無事やったかぁ!』
「はぁい! 元気でぇす!」
 耳から響くあいねの声をよそに、男ふたりは一分ぶりの空気を吸い込む。とんでもない速さで過ぎ去る竜の背を見ながら、千早はインカムに手を当てた。
「胸についてたやつ、見てきたよ。発電機関じゃないと思う。やっぱりタンク、だと思うんだけど……」
『そうか、ならば後でつついてみよう。今は背中だ』
 隣のリーフの声をインカム越しに聞きながら、ディークスは詠唱していた唇を止める。肩から先を、透明なきらめきが伸びていき、金剛の巨腕を作り出す。長刀のような黒い刃を持つ槍を、青空に向かって振り上げる。
「雷撃故に白銀に光るか……面白い。だが……お前は雨を……防げるか?」
 巨腕を引き、槍を全力で投げ放つ。ダイヤモンドの手から離れた槍は無数に分かれ、雨のごとく降り注ぐ。白銀の機械群に、刀身の半ばまでがザクザクと埋まる。V・ガレオンはいらだったように一声放つと、巨体を横へスライドさせる。水面に突き立った爪をブレーキ代わりに方向転換。再び加速する竜の背中めがけて、リーフは斧を振り上げた。
「速い……が! 蹂躙できると、思うなッ!」
 ガァン! と激しい音を立て、V・ガレオンの巨体が揺らぐ。発電機のひとつに斬りこまれたまま、白銀の竜は突撃を続ける。暴走列車のごとき速度での特攻。だが、ミニレクチェに支えられたレクチェとあいねは、慌てることなく狙いを定める。
「あの発電機関を狙えばいいんですね……リーフさん! 引火の可能性があります! 気をつけて!」
「さって! あのワンパターンなトカゲはんに一撃お見舞いしたろーか!」
 アームドフォートが、火を噴いた。
 着弾した場所から煙が上がり、無事な機械の合唱がさらにボリュームを増していく。V・ガレオンはスピードを緩めぬまま、その大口をがばっと開いた。喉の奥から覗く、雷鳴と光。
「ブレスだ!」
「了解です。ミュシカ様」
「はぁい!」
 千早の忠告に、マリアとミュシカがうなづき合う。満月の光を浴びたミュシカの瞳が、好戦的に輝き始めた。
「いっきまぁーすっ!」
 海面が爆発した。轟雷を溜めた口に向かって、全力疾走するマリアとミュシカ。その背後で、千早は巨大なライフルを担ぐ。稲妻を溜めた口に向かって、引き金を引いた。そして。
『ブレス、来ます! 避けてっ!』
 落雷をいくつも束ねたような轟音が海面を震わせた。真正面から接近したふたりは、ブレスを避けてサイドステップ。その間を、重力中和の光弾が突き抜け、ブレスと激突して飲み込まれた。
「しっかり捕まるっすよ!」
 千早とともに、リンはディノニクスを発進させる。ドルン、と威勢のいい音を響かせ、水上バイクよろしく水面を走る相棒を旋回、ブレスを避けて一気に近づく。
 ふたりの先を言っていたマリアが手に螺旋の力を込め、ミュシカの拳が光輝く。
「参ります」
「あはっ、あははははは! ドーラゴーンさんっ、あーそびーましょー!」
 水を蹴って空を蹴る。ブレスを吐き終えた竜の背中に飛びかかった。
 マリアが触れた機械が破裂し、ミュシカが殴った場所は派手にへこんで蒸気を噴かす。空中からあいねが銃弾を降らせ、千早も連続してビームを放つ。集中砲火にさらされたV・ガレオンが、悲鳴を上げた。
「with……貫け」
 ディークスの腕から黒いスライムが伸びる。槍となったそれは暴れる竜の背中に突き刺さった。
「留めろ」
 短く命じると、ブラックスライムがどくんどくんと脈打ち始めた。発電機関に根を張り、中身を吸い上げる。ものすごい勢いで機械を砕いていく仲間を眺め、ディークスはしぶい表情でつぶやいた。
「……まさかとは思うが……ブラックスライムだった……なんてオチは無いだろうな……? ……っ!?」
 がくん、とミニレクチェに支えられた体がかしぐ。残った発電機をフル稼働させ、V・ガレオンは海に頭を突っ込んだ。足裏の機関を使い……白銀の竜は、海の上で前転した。
 背中に乗っていたマリアとミュシカ、スライムをつなげていたディークスがまとめて海中に引きずりこまれる。レクチェは急いでヒールドローンを展開し、海に突撃させた。
『あいね、チャンスだ』
「……なんやて?」
『腹が見えた』
 リーフからの通信を受け、あいねはぐっと目を凝らす。ひっくり返っていく戦艦竜。沈んでいく尻尾の反対から、巨大な球体がせり上がってきていた。
「なるほどなぁ……いっちょ、狙ったるかあ!」
『ああ』
 リーフが腹に着地し、カーブを描いて駆けあがる。光輝く呪力を宿した刃を構え、一歩踏み込んだ、その瞬間。
 ざばあっ、と水柱が立ち上がった。海を割って出てくる竜の首。ぐわっと起き上がった頭は、口を大きく開き、中に雷をくわえていた。
「牡牛を守護せし宝玉よ、邪を払いて我らに癒しをもたらせ! Изумруд Заслон……展開!」
 海から飛びあがったリンが、竜とリーフの間に割り込む。かついだマリアをかばうようにしながら広げたのは、翡翠色の宝石の盾。
 ブシュッ! 雷の烈風にあおられて、エメラルドのバリアがきしむ。ブレスとは到底言えない竜のくしゃみに、三人は一気に吹き飛ばされた。
「ああっ! なんちゅーことすんねん!」
 胸の球体を狙って、あいねは迷わず発砲。だが、あおむけになった竜は、飛んでくる弾丸をうざったそうにたたき落とした。
 腹筋をするように体を起こす戦艦竜。巨大な砲塔が海の中から顔を出す。そして、V・ガレオンは、ミニレクチェに受け止められた三人に、銀の爪を持ち上げた。
「ぷはっ! ドラゴンさん、めっ!」
 発電機にくっついていたミュシカが、闇の右手を振りかぶり、発電機関を押しつぶす。V・ガレオンは怒りに満ちた咆哮を上げると、倒れるままに大きな爪をくり出した。
「まずいっ……」
 直立したドラゴンの横顔に、千早は手を伸ばす。燃えるように輝く竜のまなこに照準を合わせ、精神を極限まで集中させる。カッ、と目を見開くと同時に、竜の顔が爆発した。
 それでも、止まらない。
「くっ……リン様、リーフ様、お逃げください。ここは私が……」
「……ディノニクス。ふたりを頼むっすよ」
「リン様……っ!?」
 ミニレクチェを足場に立ったふたりが、横からどんと押しのけられる。降ってくる竜を真っ直ぐ見ながら、リンは肘から先をドリルのように回転させた。
 一輪バイクは女性ふたりをはね飛ばすと、ミニレクチェの群れから飛び降りる。迫る手を迎え撃つリン。竜は重力に従って落ち、抵抗をいともたやすくねじ伏せた。
「あ……」
 ざばぁん、と水柱を上げ竜が着水。その背中を、ディークスの金剛石の巨腕が殴りつけた。
「唄え。その想い示す儘に」
 雷光が弾けた。V・ガレオンのものとは違う、青い光が背中から全身を覆い尽くし、空色に染まる。悪意の青は竜を捕えて離さない。しかし……V・ガレオンは、抵抗することなく大きく息を吸い込んだ。
「何……」
 青空に首を伸ばし、むさぼるように息をする。その口に、粒子のような何かが入りこんでいく。あれは、まさか。
『ブレスだ! みんな離れてッ!』
 千早の悲鳴じみた警告が全員のインカムから飛び出した。そして。
 雷が、咆哮とともに放たれた。
 金属音と重低音。両方をノイズのように響かせながら、雷竜は首をぐるんと回す。青白い電光がそれに従い、破壊の円を描きだす。美しくも無慈悲な雷の剣は、海を通って空を突き抜け、たゆたう雲を切り裂いた。
 次の瞬間、剣の軌跡が爆発した。
 熱と波が周囲をゆする。壊れかけの発電機が、黒い水と火と黒煙を吐き散らかして、なおガクガクと鼓動した。
「全員、無事かッ?」
『ふえぇぇぇ……』
『うちは無事や。けど銃やられてもうたし、レクチェもあかんな。……ミュシカもダメくさそーやし』
 リーフの声に、気の抜けたミュシカとあいねが答える。千早とV・ガレオンの背中に乗っていたディークスも無事なようだ。リンはマリアが見つけてきたが、気を失っているようだ。
『……一度下がった方がよさそうだね』
『しんがりは引き受けよう。……逃げるぞ!』
 全員が、一斉に背を向け四方に広がっていく。怒り冷めやらぬといった様子で吠えるV・ガレオンに、リーフは斧を抱えて呪文を唱える。
「来たれ! 咆えよ竜よ! 距離・方位・速度、算出……目標捕捉!撃ぇっ!」
 再度息を吸い込むV・ガレオンの喉元に、別の竜が食いついた。
 砲塔や装甲をまとった、要塞のごとき姿の竜。かつて狩られ、竜座となった戦艦竜『咆竜』は、V・ガレオンの顔面に無数のナパームをたたきこむ。思わぬ爆轟にさらされるV・ガレオンの背後から、魔術によって召喚された幻影の竜が火を放つ。
 たちまち燃え盛る大海に、三頭の竜の咆哮がとどろいた。

●そして得たものは
「……すまなかった」
「いえ、あれはディークス様のせいではありませんから……」
 頭を下げるディークスに、マリアは変わらぬ調子で答えてみせる。正しくたたんだ膝の上には、リンの頭が乗っていた。
「せやでぇ、ディークス。あんなん、誰がわかるかっちゅーに」
「自家発電に飽き足らず、他人の電気も使えるなんてね……前回は、あんな強い電気使える人いなかったからなぁ……」
 カメラを外しながらあいねが、眼鏡をかけ直しながら千早が、それぞれ疲れた顔をする。幻影の双竜による援護を受けながら散開し、避難したのは、行きで使ったクルーザー。遠くに見える、狼煙のような黒煙をちらちらうかがいつつ、ミュシカはくるりと振り向いた。
「レクチェさぁん。レクチェさんは、大丈夫ですか?」
「はい、なんとか。この子たちが守ってくれましたから……ありがとうね」
 自分の姿を模したドローンを、優しく抱きしめる。役目を果たして壊れたミニレクチェをなでる彼女を横目に、リーフは仲間たちを見まわした。
「では、竜から奪った『財宝』の見せ合いだ……と、言いたいんだが、私は何も取れなかった。発電機の一個でも、と思ったんだが」
「ああ、その分については心配ない。例の黒ずみは取れたからな」
 闇蜥蜴withと、ミュシカの小瓶。あいねとカントクと、ミュシカのカメラ。
「後は、胸の球体と砲塔だけ、ですか」
「ああ。全く、あの速さ……かき回してくれる。機雷や爆雷は、かえって避けられないだろうがな。武器のヒントも得られやしない」
「ですが、得たものはありました。発電機も大分壊しましたし、そろそろ……ではないかと」
 マリアの言葉に、問いは来ない。この場にいる全員が、薄々予感しているだろう。
 相手の底はほぼ見えた。後は、ひたすら手を伸ばすのみ。
 迫る決着の時。遠くの方で、雷竜の怒号が空をビリビリ震わせた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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