野良猫への愛を詰めて

作者:幾夜緋琉

●野良猫への愛を詰めて
 千葉県我孫子市、市街地のとある場所。
 学校や会社へ出かける人達が落ち着き、町は市街地特有の一時の静けさ。
 家の中からは掃除機の音が聞こえ、家事に精を出す奥様と、テレビの音。
 ……そんな、何の変哲も無い市街地の一角で。
「ほーら、猫ちゃん、餌だよー、餌。食べて食べてー」
 ささみをふりふりと猫の前で揺らしながら、興味を惹きつけようとしている一人の主婦。
 ……少し太った野良猫が、そのささみに向けてとてとてと歩いている。
 その野良猫に、更にささみを揺らして興味を惹こうとする彼女。
 ……その野良猫は、ササミをぱくっと食べると、そのままにゃー、と彼女から逃げて行ってしまう。
 中々懐かない野良猫……でも、それがカワイイ。
「もう……仕方ないわねー」
 と呟いていると、彼女の背後に近づいてきていた一人の白髪の者。
 そして言葉無く、その手に持った鍵で、彼女の心臓をずさっ、と一突き。
 心臓を穿った鍵は……彼女を死へ連れていくことは無い。怪我も……何故か無い。
 そして。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌。だから、自分で壊してしまいなさい」
 と言うと共に、主婦は意識を失い崩れ墜ち、そしてその横に、彼女によく似た姿の者を産み出す。
 違いは、突き刺された胸の辺りにある、モザイク。
 彼女……いや、ドリームイーターは、くすりと微笑むと、またささみを取り出し、猫を呼び寄せるのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まってくれてありがとうございますッス! 早速ッスけど、説明させて貰うッスね!」
 と、黒瀬・ダンテは、ケルベロス達に笑顔を向けながら、説明を始める。
「今回発生している事件ッスけど、見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が発生してるッス。愛を奪ったドリームイーターは『陽影』という名の様ッスね」
「彼女の正体は不明ッスけど……奪われた愛を元にして、現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしてるッス。そこでケルベロスの皆さんには、愛を奪われる被害者を、これ以上増やさない為に、ドリームイーターを撃破してきて貰いたいッス。このドリームイーターを倒す事が出来れば、愛を奪われた人も、目を覚ましてくれる筈っすからね!」
 と、そこまで言うとダンテは。
「このドリームイーターは、我孫子市の市街地周辺を、野良猫捜して徘徊している様ッス。野良猫さんの数は多くないッスけど、彼女は野良猫に対する愛が大きいので、野良猫の気配を鋭く察知出来る様っす」
「つまり、我孫子の市街地に居る野良猫さんを護りつつ、彼女が出てくるのを護る、という形になると思うッス。ちなみにその野良猫さんは、この三毛猫みたいッスよ」
 と、塀の上で大きく欠伸をしてる猫写真を見せるダンテ。
 思わずその写真に笑みが零れるも、すぐに気を取り直すようにして。
「この三毛猫さんを狙って、ドリームイーターが姿を現わしてくるから、ケルベロスの皆さんはそれを上手く退治してきて欲しいッス!」
 そして、ダンテは最後に。
「無償の愛……いい言葉ッスよね。でもその愛を奪って、バケモノを産み出すなんて許せないッス! ケルベロスの皆さん、どうか彼女を救ってさいッス!!」
 と、拳を握りしめた。


参加者
安曇・柊(神の棘・e00166)
鈴木・皆人(地球人の鹵獲術士・e03122)
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)
ウル・ユーダリル(狩人・e06870)
虎丸・勇(グラスナイフ・e09789)
ジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)
ジャスティン・ロー(水色水玉空模様・e23362)
ポネシー・シンポル(情けは巡る・e23805)

■リプレイ

●愛の夢
 千葉県は我孫子市、市街地の某所。
 時刻は昼の少し前、町は市街地特有の一時の静けさを取り戻していて、掃除機を掛ける音やら、洗濯機の廻る音やらが聞こえてくる。
 ……そんな日常に割りこむものこそが、ドリームイーター。
「ドリームイーターって悪趣味なのが多いけど、今回も悪趣味だよな」
「そうだね……無償の愛が狙われるって、そのドリームイーター。余程人間不信なんでしょうかね……」
 とは鈴木・皆人(地球人の鹵獲術士・e03122)と安曇・柊(神の棘・e00166)の会話。
 そんな二人の会話に対し、ジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)が。
「しかし猫好きの女が多い国だ、日本と言うのは。それでジャ似るが困ることもないのだが……もう三回目だぞ? そろそろ飽きてきた……本星はどこなんだ?」
 肩を竦めて溜息を吐くジャニルに、皆人、ポネシー・シンポル(情けは巡る・e23805)と文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)、虎丸・勇(グラスナイフ・e09789)らも。
「どっちかってと猫より犬派だけど、猫も好きなんだよなー。だからこの依頼、絶対に成功させてー所なんだよなー」
「命を奪ったり襲わせたりするのはやはり許せないもの、絶対に護り切りますよ。猫さんだけではありません、同行者の皆様にも重傷が出ないように気をつけますよ」
「そうだな。猫は殺されるのは嫌なものだ。さっさと保護してドリームイーターを片付けるか……」
「うん。猫好きの端くれとしてこんな非道は許せないね。猫さんは殺させないし、猫好き奥さんも助けるよ」
 そんな仲間達の言葉ににこっ、と笑顔を浮かべてジャスティン・ロー(水色水玉空模様・e23362)が。
「そうだね。気合いを入れてササミとねこじゃらしもそーびっ! これで猫ちゃんもめろめろ間違い無いはず!!」
 自信満々に準備為てきたアイテムを装着。
 それに傍えられていたボクスドラゴンのピローも。もふっ、と拳を振り上げる。
 そんなボクスドラゴンの動きが何処かカワイイと感じつつも、ジャスティンは。
「ピローも猫ちゃんだったらもっと可愛いのになー」
 とぽつり。
 その言葉にちょっとカチンと来たのか、ピローは抗議代わりにぱくっ、とジャスティンの腕の先を咬んでしまう。
「い、いたーい。冗談だよー!? だから機嫌治して、ね?」
 ぎゅっと抱きしめを強くして、頭を擦り寄せると……ピローも機嫌を直してくれた様である。
 そんな二人の仲良い感じに、ケルベロス達も微笑みを浮かべつつ。
「まぁ何だ、まずは猫探しからか。三毛猫なら案外珍しいはずだし、数も多く無いだろう」
 ウル・ユーダリル(狩人・e06870)の言葉に、皆人が。
「そうだね。そいえば三毛って全部メスなんだよなー。生き物ってほんと不思議。今回はある意味女の子を守る依頼になるのかも? 男子としては、女の子の護衛は人生における至上命題! にゃんこだろうときっちり守らせて戴くぜ! なんてね!!」
 拳を握りしめながら、気合いを入れる。
 そして、そんな仲間達の言葉にジャニルが。
「同じ仕事ばかり増やして……そろそろ本気で本星捜さねえとな……」
 とぼやり呟き……そして、柊が。
「よし……一応三毛猫さんの写真をコピーしておいたから、皆さんに配るね。まずはこの三毛猫さん捜しをして、発見次第連絡を取る事にしよう」
 と打ち合わせすると共に、ケルベロス達は猫探しに街の中の捜索をはじめるのであった。

●三毛猫を捜して
 そして、ケルベロス達は、件の三毛猫を捜して、街中を手分けして捜索していく。
 主に動物の共を持った勇、ジャニル、ジャスティンの三人を軸にして、街中を歩き回る。
「……とにかく、猫さんを見つけるのが優先だよね」
「そうだね。しかし猫科の動物は食べられる部分が少ないから狩りの獲物にしたことは、余り無いのだよねぇ……まぁ、とりあえず捜すしか無いかな」
「そうだな。まぁ……とりあえず捜すよ」
 と勇とウルが頷き合い、ササミを持って居る妖しいご婦人がいないかも合わせて捜索をはじめる。
 ……また、動物の友の力とは違い、皆人は隣人力を活用し、外で雑談を始めている町の猫が好きそうな人達に聞いて廻っていく。
 ……中々有力な情報を得ることは出来ないが、負けじと。
「……皆人君、凄く詳細に聞いてるけど、何か解りそう?」
 と、ポネシーの言葉に皆人は。
「ん? ……いや、猫好きってさ、野良猫さんの特徴とか、居る場所とかをマジで結構憶えている人が多いし。有効な情報があれば、班同士でお互いに携帯で連絡すれば、少しは早く見つかるかな、ってね」
 と、皆人の言葉にそうか、と頷くポネシー。
 そしてケルベロス達が町を探し始めて、一時間程。
「……ん、あ、あれかな……?」
 と勇と組んだ柊が、塀の上で陽射しを浴びて、大きく欠伸している野良猫の三毛猫さんの姿を発見。
 何となく、ノンビリしている三毛猫さんは……この後、襲われるという事等、全く以て思っても居ない事だろう。
 発見後直ぐに、他のケルベロス達に連絡を取り、仲間達を呼び寄せる。
 そして仲間達が集まるまでの間、野良猫さんへ襲いかからせないように、更に逃げられないように周りを緩く包囲。
 ……そして、仲間達も合流したところで、猫さんに向けて、ササミをちらちらと見せつけて、コチラに興味を惹きつける。
「ほーらほら、三毛猫さーん。餌だよ、えさー。美味しい美味しい餌だよー」
 とジャスミンが猫じゃらしをちらつかせながら、ササミをふらふらと。
 ……美味しそうなササミと、ちらつく猫じゃらしは猫にとって、大変魅力的な遊び道具。
 そんな遊び道具に、最初は顔をひょいひょいっ、と左右に振っている。
 更にその魅惑的な遊び道具に……飛びつこうと、すっと立って、脚をカリ、カリと塀に削る。
 そして……。
『にゃー!!』
 と、狙い澄まして猫じゃらしに飛びつく三毛猫。
 そして三毛猫さんが地上に落下する間で、皆人がそっと捕まえる。
『にゃ? にゃ、にゃあ、にゃああー!!』
 やめろ、離せー、と言わんばかりに叫ぶ三毛猫さん。
 そんな三毛猫さんの爪にかじられ、じたばたしているのを、よーしよし、と言いながら皆人は宥めていく。
「ごめんな? 三毛さんは暫くの間我慢な? 無事になったら、ちゃんと解放してあげるからな?」
 皆人はそう言いつつ、持ってきたケージに入れる。
 入れる時も、何度か囓られてしまうが……笑顔は崩さない。そして、ドアを閉じて。
「ちょ、ちょっといきなり捕まえてケージは可哀想です、けど……少しだけ我慢してね。安全になったら自由にするから」
 と、野良猫さんに伝える。
『ウーゥー……』
 毛を逆立てながら、ケルベロス達を威嚇。
 ……と、その時。
『もう……猫ちゃんを虐める子達には、ちゃんとオシオキしないといけないわねー』
 と、姿を見せるのは……胸の辺りにモザイクを持った、主婦の姿。
 当然主婦のターゲットになっているのは、かごに入った愛すべき三毛猫ちゃん。
 ……勿論、今迄ずっと餌をあげ続けて……でもそれを拒否され続けている訳だが、でも……そんなツンデレのツンしかない野良猫がとても可愛いと考えて居るらしい。
 そんなドリームイーターの登場に、ケルベロス達は。
「えっと……あなたは、何で、そんなに、野良猫さんに愛情を注いでいるのでしょうか?」
 と柊の問いかけに愛し、彼女は。
『だって三毛猫さんは可愛いんだもの。理由なんて無いわよ、可愛いから愛でる。その何が悪いって言うのかしら?』
 と自信満々に言い放つ。
 そして……彼女は。
『何にしても、その野良猫さんをこちらに渡してくれないのなら……力尽くで奪い取るわ。ほら、大人しく渡しなさい』
 と、言い放つと共に、並々ならぬ殺気を感じてくる。
 でも、それに威圧されない様、ケルベロス達は野良猫さんの籠を後衛の所に配置。
「それでは……早急に、彼女をノーライフキングから、救い出す様に、しましょうか……」
 と柊が伝えると共に、一斉攻撃を開始。
 まずはジャマーのウルが、点穴撃ちでパラライズを多重に叩き込むと、キャスターの皆人も。
「いいか。ここで絶対倒す!」
 と、声高く宣言すると共に、確実に当たるペトリフィケイションで叩き込んで行く。
 そして中衛に続く後衛、スナイパーの宗樹が。
「―餞別だ、受け取れ」
 と青星の導きと、ジャニルが武神の矢で攻撃。
 そして中衛、後衛の後、前衛が動く。
 ジャスティンは紙兵散布を放つ一方、サーヴァントである、宗樹のボクスドラゴン、バジル、勇のライドキャリバー、エリィ、更にジャスティンのボクスドラゴン、ピローが立ち塞がりながら、ブレスやタックル、デッドヒートドライブを立て続けに叩き込んで行く。
 そして、最後に柊、勇のクラッシャー二人は。
「悪いけど、じっとしててね」
「え、ええ……往きますね」
 と勇が雷刃で攻撃し、柊もペトリフィケイションで、確実に体力を削る。
 そして、ドリームイーターからの攻撃は、ジャスティンがカバーリングし、その喰らったダメージは。
「今すぐ治療します! ……はい、これで大丈夫ですよ」
 とポネシーが、テレビウムの使い魔と共に、合わせてヒールを掛けていく。
 流石にドリームイーター一体の攻撃を、二人がかりでヒールすれば、ほぼ体力は全回復。
 ……戦力差から言えば、かなり圧倒的な差であると言わざるを得ない。
 まぁ、野良猫さんが籠の中から。
『にゃー、にゃああーー!!』
 と悲鳴のような鳴き声を上げ、暴れているが……大きな籠がガタガタ揺れるだけで、底から脱出は出来ない。
 勿論、ディフェンダー陣がジャスティンを含め厚くカバーするから、ドリームイーターの攻撃が、彼女まで通ることも無い。
『もう……本当邪魔。その猫ちゃんを渡しなさい、と言ってるのよ!!』
 と叫ぶが、ケルベロス達が聞く訳も無かった。
 そして、野良猫の叫びが、最初は威勢良かったものの、段々とその声が弱まってくる……。
 数分の内に、野良猫さんも、ちょっと諦め始めてしまったのかも知れないが……逆にそれが、ドリームイーターを。
『もう! 猫ちゃんが可哀想じゃないの!! 本当……許せないわ!!』
 と、段々と怒気を孕んだ声に。
 それに、更に籠の中の野良猫が、萎縮していく。
「……大丈夫だからな? 安心してくれ」
 と宗樹が籠の中の野良猫に、そう励ましの言葉を掛けていく。
 ……そして、戦闘開始から十分程が経過。
 ドリームイーターの彼女も、かなり体力が限界に近づいている様で……その動きが、かなり緩慢に。
『もう……許さない。ユルサナイユルサナイユルサナイ!!』
 と、叫び声を上げた彼女。暴れ回る彼女。
 その動きを、ディフェンダー陣が確実にカバーリングし、その攻撃を決して野良猫に通さず。
 そして。
「さて……そろそろトドメをさしてやるか」
 とウルの宣告に皆、頷く。ポネシーが回復を一層強化し、戦線維持し。
「良し……一気に仕掛ける!」
 と、ウルのシャドウリッパーが一閃を喰らわせた所で……彼女は。
『ウアアアアア……!!』
 と悲鳴と共に、崩れ墜ちるのであった。

●夢は幻
 そして、ドリームイーターを倒したケルベロス達。
 ドリームイーターが消えて、痕跡も無くなる……程なくすれば、ドリームイーターの仕組まれた女性も、どこかで意識を取り戻す事だろう。
「ふぅ……怪我が無くてよかったねー」
 と勇の言葉に頷きつつ……そしてケージの中に入れた三毛猫さんを、ケージから出す。
『……にゃぁ……』
 猫であっても、目の前で起こった事に対して……驚きというか、恐怖を憶えている様で、ケルベロス達から数歩、後ずさり。
 そんな三毛猫ちゃんに、柊がそっと近づくが。
『にゃ、にゃああ……』
 と、更に一歩に歩、後ろへと後退していく。
 そんな三毛猫ちゃんにご機嫌取りとして、キャットフードを開缶し、更に開けると。
「また、気ままに暮らせるだろう……」
 宗樹のキャットフード……暫しは警戒している様である。
 更にジャニルが。
「ほら。ささみもあるぞ?」
 と、キャットフードにささみを追加。
 段々と、その美味しそうな匂いに耐えきれなくなったようで。
『……にゃ、ああ……』
 少しずつ近づいてい……そして、ぱく、ぱくと。
「こ、怖がらせてごめんね。窮屈だったよね? もう、大丈夫だから」
 と柊が声を掛けると、それに勇も。
「うんうん。怪我が無くて良かった良かった。これからもたくさん可愛がってもらうんだよ?」
 と、三毛猫を怯えさせないように、軽く頭を撫でていく。
 ……そんな三毛猫との一時を過ごしていると、時はいつの間にか経過していき。
 周りに買い物に出る主婦達が増えてきて、三毛猫はまた、人気を避ける様ににゃーにゃーと歩き出て行くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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