キャバ嬢さんは貢がれて当然?

作者:陸野蛍

●貢ぎ愛
 その男には、地位も権力もあった。
 勿論、金も有り余る程あった。
 だから、たまたま行ったキャバクラで会った、年若いキャバ嬢が欲しいと言うものは、いくらでもプレゼントした。
 そのキャバ嬢が喜ぶ姿を見るのが単純に好きだった。
 年齢差もあるし、自分には死別したが妻もいた。
 だから、彼女から何か返して欲しいなどとは、思わなかった。
 彼女が喜ぶ姿を見せてくれるのなら、いくら貢いでも構わない……高級絨毯の上で倒れたその男は、そう思っていた。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい」
 黒いコートの少女ドリームイーター『陽影』が、男の心臓を穿った鍵を引き抜きながら、蔑むように男に向かって言った。
 すると男の身体から抜け出る様に、スリーピーススーツを着た男性のシルエットが現れる。
 だが、その頭部はカットされたダイヤモンド、スーツから覗く四肢はアクセサリーの集合体だった。
 胸にあたる場所には、ドリームイーターの証であるモザイクがかかっていた。
 その後、夜の繁華街で事件が起こった。
 ある、キャバクラが襲われ、その場に居たキャバクラ嬢が全員惨殺された。
 被害者の中には『ミヤビ』と言う若いキャバ嬢もいた……。

●キャバクラ防衛線
「俺、未成年なんだけど、なんでこう言う事件の担当多いのかなあ?」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が隣に立つ、オルトリンデ・アーヴェント(魔歌・e22637)に疑問を投げかける。
「ワタシには、分かりません。でも、ワタシが集めた情報がヘリオライダーの雄大さんの予知と一致したのなら、それはワタシ達ケルベロスのお仕事です」
 オルトリンデが雄大を諭すようにっ微笑みながら言う。
「まあ、そう言うことなんだけどさ。じゃ、始めるか。皆、集合ー! お仕事の説明だー!」
 雄大はオルトリンデに苦笑いを見せた後、ヘリポートに声を響かせた。
「ドリームイーター『陽影』がまた、見返りの無い無償の愛を注いでいる人の愛を奪い、奪った愛を元にして現実化したドリームイーターを使って事件を起こそうとしているみたいだ」
 雄大の横に立つ、オルトリンデの調査と雄大の予知が一致した為、早い段階で対応策がうてることになった事を雄大は付け加える。
「今回、愛を奪われたのはとある大手IT企業の社長。地位のある人みたいだから名前は伏せさせてもらうけど」
 倒れた被害者は、突然の急病で倒れたことになっており、既に病院に搬送されていると言うことだ。
「ドリームイーターさえ倒せば被害者は、目を覚ますからよろしく頼むな。この人が目を覚まさないと、結構大きなニュースになるっぽいんだよな」
 雄大が髪の毛をわしゃわしゃ掻きながら言う。
「まあ、続けるな。今回、ドリームイーターに狙われているのはCLUB『オーロラ』に勤めている『ミヤビ』と言うキャバ嬢だ。今のところは、生きてるけど、このままだと今夜ドリームイーターに殺されることになる。資料を見る限り、根っからのキャバ嬢さんだな、この人」
 雄大があくまで事務的に『ミヤビ』と言うキャバ嬢を説明するが、『ミヤビ』は自分の固定客には、甘え、ねだり、数々の高額なプレゼントを貢いでもらい、貰ったプレゼントは一部を除いて質屋に入れて換金すると言うタイプのキャバ嬢らしい。
「このお姉ちゃんにとっては、お客さんは、貢いでくれる人で、プレゼントをもらった時の、お礼も愛の言葉も社交辞令なんだろうなあ……」
 溜息を吐きながら雄大が呟く。
「まあ、それは置いておいて、この『ミヤビ』をドリームイーターに殺させる訳にもいかないし、仮に『ミヤビ』が殺されてしまったら、ドリームイーターは、その場に居るキャバ嬢を全て惨殺した後、キャバ嬢の無差別殺害を始めることになる。これは、絶対に防がなきゃいけないことだから」
 そう言う雄大の顔は真剣だ。
「と言う訳で、今回はきっちりと『ミヤビ』を護衛しなきゃいけないから、皆にはこのCLUBに潜入してもらいたい。女性は新人キャバ嬢、男は黒服で潜入出来る様に、既にオーナーさんには、根回ししてあるから」
 一般客を装っての潜入でも構わないと雄大は付け加える。
「ドリームイーターの元になった男性は、毎週数度決まった時間にお店に来てたらしくて、そのドリームイーターも同じ時間に現れると思う」
 いつもと同じ状態でなければ、ドリームイーターが現れる未来がずれる可能性があるので、お店には通常営業をしてもらわなければいけないらしく、ドリームイーター出現後の従業員とお客の避難も行わなければいけないとのことだ。
「ドリームイーターの説明するな。外見はスーツを着た男性型、但し頭部はカットされたダイヤモンド、手足はアクセサリーで出来ている。攻撃方法は、両手のアクセサリーを散弾銃の様にばら撒いての攻撃、ダイヤモンドの頭部から光線を出しての攻撃、巨大なネックレスを鎖の様に使用しての攻撃の三つだ」
 男がこれまで貢いできた物がドリームイーターに反映された部分が大きい様だ。
「で、これが大変なんだけど『ミヤビ』だけは、店内に残した状態で守りながら戦闘をして欲しい」
 ドリームイーターの目的はケルベロスとの戦闘ではなく、あくまで『ミヤビ』を殺すことだ。
 仮に『ミヤビ』が店外に逃げ、行方が分からなくなってしまえば、それを追うドリームイーターの撃破も難しくなってしまうのだ。
「とまあ、大変な依頼だけど『陽影』の思う通りにさせる訳にもいかないし、被害者の男性も助けなくちゃいけない。だから頼まれてほしい」
 雄大がそう言うと、一人のケルベロスが手を上げる。
「なあ、雄大。その『ミヤビ』って、キャバ嬢にちょっとばかしお説教するのはいいんかのう?」
 野木原・咲次郎(地球人のブレイズキャリバー・en0059)が厳しい顔で雄大に質問する。
「え? いいと思うけど、なんで?」
「同じ水商売やってるもんとして、その『ミヤビ』の接客スタイルは好かんし、このままだとその嬢、また事件に巻き込まれてもおかしくないからのう」
 雄大の疑問に咲次郎がハッキリとした口調で言う。
「まあ、そうだな。ドリームイーターを倒した後の『ミヤビ』に関しては、皆に任せるよ。だから皆、よろしく頼むな」
 苦笑交じりに、雄大は言った。


参加者
リリィエル・クロノワール(其の剣は舞い散るように・e00028)
寒島・水月(吾輩は偽善者である・e00367)
エニーケ・スコルーク(麗鬣の黒馬・e00486)
癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730)
叢雲・宗嗣(ほのか・e01722)
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)
井関・十蔵(羅刹・e22748)

■リプレイ

●夜の蝶
「なんで私が新人の教育係なんて、やらなきぃけないのよー!」
 CLUB『オーロラ』に、『ミヤビ』の声が響く。
『ミヤビ』は、いかにも客受けする外見をしたキャバ嬢だった。
 そんな彼女が、マネージャーに喰ってかかっている。
「売れっ子の私が、素人をそれも4人も面倒見れる訳無いでしょう! 今日は、外せないお客さんが来るのも知ってるでしょ!」
 ミヤビの剣幕にマネージャーもたじたじだが、なんとか宥めすかし、これ以上苦情は聞けないと、スタッフルームに戻ってしまう。
「もう! で、あんた達、この仕事初めてなんでしょ? とりあえず名前教えて」
 ミヤビが、愛想と言うものなど一つもない口調で、並ぶ四人の新人キャバ嬢に言う。
「ワタシは、オルトです。よろしくお願いします」
 長めの銀髪をキャバ嬢風に緩く巻いた、オルトリンデ・アーヴェント(魔歌・e22637)が、素直そうな雰囲気を出しながら自己紹介する。
「あんた、雰囲気は悪くないけど、もう少し固さ抜かないとお客は付かないよ。次」
 ミヤビがオルトリンデを値踏みするように見てから言うと、視線を黒髪の幼さの残る、キャバ嬢に移す。
「姫香と言うのです。よろしくなのです」
 緊張した面持ちで『姫香』と言う源氏名を名乗るのは、本当は12歳、エイティーンで姿を変えている、癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730)だ。
「変わった喋り方だね。それより、あんた胸ないね。こう言う所来るのはスケベ親父ばっかりなんだから、後でパット入れときな。次」
「リリィエルでーす。よろしくお願いしまーす」
「へえ、化粧のりも悪くない。雰囲気もいいね。ドレスの着こなしもいい。接客次第で客付くよあんた」
「ありがとうございまーす♪」
 ミヤビに愛想よくお礼を言う、リリィエル・クロノワール(其の剣は舞い散るように・e00028)。
「で、最後は、あんたなんだけど。なんでうち来たの? そっち専門の店の方が指名付くのに」
 ミヤビがそう言うのは、露出度低めの貴族女子風のロングドレスを着た、エニーケ・スコルーク(麗鬣の黒馬・e00486)だ。
「こう言うお店初めてで、紹介してもらったので。初めての体験ですが、ご教授のほどよろしくお願い致します!」
「まあ、良いけどね。だけど、うちで接客覚えたら店変わった方がいいよ。ウェアライダー専門のお店の方があんたは、もてるから」
 少し笑って、ミヤビが言う。
「嫌がってた割に、嬢を見る目は確かなんじゃのう」
 黒服を纏い、開店準備をしながら、キャバ嬢として潜入した女性ケルベロス達の様子を見ていた、野木原・咲次郎(地球人のブレイズキャリバー・en0059)が呟く。
 キャバ嬢とホストと言う違いはあるが、咲次郎も夜の街で働いている。
 客を付けるのにも、容姿の整え方から接客技術に至るまでテクニックが必要なのはよく分かっている。
「咲次郎、感心するのはいいが、俺たちの仕事も分かっているだろうな?」
 同じく、黒服を着た叢雲・宗嗣(ほのか・e01722)が静かに言う。
「もちろんじゃて。店長への話は通ったんかの?」
「ああ、客の避難が迅速に行えるように、席を割り振る様に了承してもらった」
「私達の方で、案内できるようなら私達の采配でも構わないそうです。ミヤビさんの接客に関しても、任せるとのことです」
 違和感を全く感じさせない黒服ぶりを発揮している、ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)が付け加える。
「了解じゃ。じゃ、わしは避難経路確保の為に出迎えやっとるから、ホールの方は任せるな」
 そう言って、咲次郎は、入り口の方へ歩いて行く。
 それを見送り、ヒルメルが女性ケルベロス達の方を見れば、ミヤビが接客指導をしている。
(「……19歳、ですか。幼いと言ってもよい年齢です。人の生き方はそれぞれですが、賢い道とは言えませんね」)
 これから起こる事件を想い、ヒルメルは心の中で呟いた。

●お仕事
 店が開店すると10分程で店が賑わいだした。
 ミヤビはと言うと、開店前の仏頂面が嘘の様に輝く様な笑顔で、新人キャバ嬢達を紹介している。
「ミヤビが~、接客教えることになっちゃったんですよ~。でも、良い子達ばっかりだから、ミヤビ嬉しくって♪」
 などと言う言葉が、灰皿を変える宗嗣の耳に入ってくる。
(「……確かにプロのキャバ嬢だな」)
 宗嗣が、そんなことを考えていると、ドアの開く音がし、見知った二人が入ってくると、にこやかにヒルメルと話している。
 すると、ヒルメルは、ミヤビの方に近づき、静かに。
「ミヤビさん、あちらのお客様がご指名です。それと、リリィエルさん、あなたにもご指名です。他の新人方は、二人のヘルプに入って下さい」
「は~い。じゃ、皆、またあとでね♪」
 そう言って、ミヤビが席を立つと、4人もミヤビに続く。
 可愛らしく歩くミヤビに、ヒルメルが耳打ちをする。
「あちらのお客様、大きな会社をお持ちで、羽振りが良い方とのことですので、よろしくお願いしますね。ミヤビさん」
「分かった。ありがと♪」
 店内なので、口調こそ変わらないが、ミヤビの目つきが一瞬変わったことにヒルメルは気づいた。
「ミヤビで~す♪ よろしくお願いしま~す」
「おお、貴女がミヤビさんですか。ある方から、ご紹介頂いたんですが、可愛い方ですね」
 品の良さそうな笑顔を浮かべながら、井関・十蔵(羅刹・e22748)がミヤビを歓迎する。
 十蔵の隣では。
「ご指名ありがとうございまーす♪ 新人のリリィエルでーす」
 と、リリィエルが彼女を指名した、寒島・水月(吾輩は偽善者である・e00367)に明るく挨拶している。
「リィィエルさん、楽しそうであるな……」
 水月がキャバ嬢になりきっているリリィエルに小声で言う。
「そう言う、水月君は、少し気が張り詰めてるかしら?」
 リリィエルも小声で水月の顔を窺う。
「宿敵たる陽影によって、引き起こされる事件だ……絶対に被害は出さない」
 静かな声で水月が言うと、リリィエルが少しだけ不安げな顔を見せる。
「大丈夫、もう熱くはならないよ。……だが、気も抜けない」
 水月の本音を聞くとリリィエルは、一瞬悲しそうな目をするが、すぐに笑顔になり。
「お客さん、ここで暗い顔をしちゃダメよ♪」
 そう言って、リリィエルは胸元を水月に寄せる。
「お客様は~」
「井関でいいですよ」
 微笑みを湛えながら名前で呼ぶように言う、十蔵。
「井関さんは何飲まれます?」
「とりあえず、ウイスキーを貰いましょうか」
「は~い。オルトちゃん、さっき教えた通りにお作りして」
「はい、ミヤビさん」
 ミヤビがオルトリンデに言うと、オルトリンデは微笑み『はい』と答え、手際良くウイスキーのグラスの中の氷を『カランカラン』と回す。
「慣れてなくて申し訳ありません」
 そう言って、十蔵にグラスを手渡すオルトリンデに、ミヤビは笑顔を向けると。
「初日でその手際なら大丈夫よ♪ ねえ、井関さん?」
「そうですね、全く」
 十蔵もミヤビに同意する。
 その時、十蔵のグラスが微かにに傾き、ウイスキーが僅かにテーブルを汚す。
 すかさず、ミヤビがハンカチで十蔵の手元を拭くと、同じタイミングでゆゆこがテーブルを拭く。
「ありがとう。姫香ちゃん」
「お客様のお洋服が汚れたら、大変なのです。お客様ぁ、今日は素敵なひととき、過ごしてくださいねー♪」
 ゆゆこが明るく言うと、ミヤビが満面の笑みを見せ。
「そうよ、姫香ちゃん。来ていただいたお客様には楽しんでもらわないとね。エニーケちゃん、代わりをお作りしてくれる?」
「はい、かしこまりました」
 エニーケの美しい黒い毛並みの手から、新しいウイスキーが十蔵に手渡される。
「どのお嬢さんも可愛らしいのに、教育が行き届いてらっしゃる。貴女のおかげですかな?」
 十蔵が持ちあげるようにミヤビに言うと、ミヤビは大げさに手を振り。
「違いますよ~♪ ここのお店に入ってくる子は皆いい子ばっかりだから~♪」
「それは、それは。貴女方も好きなお酒を飲むといいですよ。私を貴女方の本当のお爺さんだと思って甘えて構いませんからね」
「嬉しい♪ ありがとうございま~す♪ すいませ~ん、こっちお願いしまーす♪」
 十蔵の言葉に礼を言うとミヤビは宗嗣を呼びつける。
「はい、お呼びでしょうか?」
「私達にも飲み物お願いしま~す♪」
「……かしこまりました」
 そう言って下がろうとした、宗嗣にミヤビがすかさず耳打ちをする。
「グラスじゃなくて、女の子の人数分のボトル入れちゃって。羽振りいい人らしいから、気にしないわ。何かあっても私が上手くやるから」
「……分かりました」
 ミヤビにそう言うと、宗嗣は下がるが、ミヤビと言うキャバ嬢が情報通りであることの確認にもなった。
(「『何かあっても私が上手くやる』か。……プロってことなんだろうな」)
 その頃、入口では黒豹とイリオモテヤマネコのウェアライダーのカップルが来店していた。
「首尾は?」
 陣内が咲次郎に簡潔に聞く。
「皆、上手くやっておるのう」
「じゃあ、あたし達は、いつでも動けるように店で待機してればいいんだね?」
 咲次郎の答えにアガサが確認する。
「じゃな、テーブル席に案内するから、避難誘導よろしくのう」
 接客スマイルを崩さず、咲次郎が陣内とアガサに頼む。
 ……そして、数十分が経った頃、ミヤビが店の時計を気にしだした。
「どうしました、ミヤビさん? 私のお相手は退屈ですか?」
「いえ、そんなこと無いですよ~」
 十蔵の言葉に慌ててミヤビが否定する。
 十蔵がおもむろに、懐からいかにも高級そうな懐中時計を出し時間を確認する。
 当然、ミヤビの視線はその時計に行く。
 その時だった。
 入り口のドアが、盛大に吹き飛んだ。
「ミヤビー! 俺の愛を受け取った女! なんでもくれてやった! だから、お前の命をもらう!」
 煙の上がる入り口から、装飾品の化け物……ドリームイーターが現れたのだ。
 突然のことでパニックになる店内。
「な! 何!? なんで私の名前を!?」
 その中でも、名前を呼ばれたミヤビの動揺は、大きい。
「残念ですが、彼女の命は差し上げられませんね」
 その言葉と同時に、ドリームイーターを黒い鎖が絡め取る。
「皆さん、お客様の避難とミヤビさんの保護を!」
 鎖を放った主、ヒルメルが静かに指示を出した。

●トラブル
「皆さん、慌てないでお店の外へ出て下さいです」
 ゆゆこが避難する人々とドリームイーターの間に位置をとり誘導する。
「安心し、落ち着いて避難するように」
 水月も信じられる言葉で客を避難させていく。
「私も!」
 ミヤビが慌てて、店外へ駆けだそうとするが、その手を十蔵が掴む。
「怖かろうが、お前さんには、この場に残ってもらわんとのう」
「え? どういうことよ!?」
 雰囲気をがらりと変え、腕を掴む十蔵にミヤビが叫ぶように聞く。
「私達は、ケルベロスよ。あいつは、ミヤビちゃんを狙っているの。外に出してしまったら貴女を守れないのよ」
 言って、リリィエルがドリームイーターに向かって駆けだす。
「ケルベロス……」
 ミヤビが状況に困惑していると、エニーケがドレスの下に隠しておいたバスターライフルを取り出しながら叫ぶ。
「お客様。その様な行為はマナーに反します。守れないようであればお帰り願います」
 エニーケが引鉄を引くとレーザーがドリームイータを狙い撃ちにする。
 体勢を崩した瞬間、リリィエルはドリームイータの眼前で微笑む。
「さて……躱せるかしら? っと!」
 リリィエルの剣舞がドリームイーターを傷つけていく。
「何よ! あんた達がケルベロスなら私も逃がしてよ!」
 ミヤビが十蔵の手を振り解こうとする。
「申し訳ありません、心苦しいですが……」
 そう言うと、オルトリンデが抗い難い香りをミヤビに向けて放つ。
「俺達が大人しくさせるまでもなかったみたいだな」
 へたり込む、ミヤビを見て陣内が呟く。
「陣、あの子が暴れて逃げようものならお姫様抱っこしてでも、止めるつもりだったんだもんね?」
 アガサがからかうように陣内に言うと陣内は。
「あくまで紳士的のつもりだったんだ」
「二人共、じゃれとらんで、しっかり誘導しとくれ。まだ、全員外に出とらんのじゃから!」
 咲次郎の言葉で、陣内とアガサも客とキャバ嬢の避難の手助けを再開する。
「奥の避難は終了だ。俺も戦闘に加わろう。……一凶、披露させてもらうよ」
 そう言うと、宗嗣はするりと斬霊刀を引き抜いた。

●夢の終わり
 宗嗣がドリームイターを袈裟切りにすると、ドリームイーターは鎖の様なネックレスを横に薙ぎ払った。
「俺はミヤビを守るのが最優先じゃな」
 言って、十蔵が黒鎖の魔法陣を引く。
(「ミヤビの様な女も嫌いではねえからのう」)
 したたかに生きる夜の蝶、十蔵からすればそれもまた生き方だ。
「皆さんを守る為に私がいるのです! 誰かが傷ついて、辛くなるのは……私だって辛いから……!」
 そう言ってゆゆこは神に祈り、守りの力をミヤビに集めていく。
 そこへ、ドリームイーターの頭部からのレーザーが照射される。
 すかさず、カバーに入る水月。
「陽影の作りしモノは全て吾輩の敵である。――――とっておきだッ!!」
 水月は叫ぶと、全グラビティを右腕に凝縮し、純粋な破壊の力を持ったエネルギー弾を、ドリームイーターにぶつける。
 足元が崩れかけるドリームイーターだが、アクセサリーの散弾の構えをとる。
「私もお相手できますよ」
 ドリームイーターの隙をついて、ヒルメルが石化の魔力を放つ。
 続けざま、リリィエルの斬撃が奔る。
 固い金属を削るような音が店内に響いた後、今度はオルトリンデの歌声が響く。
「神怪き魔力に魂も迷う―波間に沈むる、人も神も」
 その歌声は、ドリームイーターの自由を奪っていく。
「ガトリング……READY! ありったけの弾幕を張らせていただきましょう!!」
 エニーケのバスターライフルから放たれる弾幕がドリームイーターの身体を削ると、遂にドリームイーターは、膝をつく。
「ミ……ヤビーーー!」
 ドリームイーターの突然の叫びに、へたり込んでいたミヤビの肩がビクリと震える。
「もうこれ以上……皆のユメは奪わせない……っ!」
 宗嗣は、銃に炎のオニヤンマを同化させ、異形と化した銃口から 、地獄の業火を纏いし力を放つ。
 その業火は、ドリームイーターを飲み込むと、一際燃え上がると消え、そこには夢の様に、何も残っていなかった。

●真心
「ミヤビさん! 大丈夫ですか? 終わったですよ」
 ゆゆこの声でミヤビは、意識をはっきりとさせる。
「え!? え!? 化け物は!?」
 瞬間、パニックに陥るミヤビ。
「もう消えていなくなったよ。化け物はのう」
 店内のヒールをしながら、十蔵がミヤビを見ずに言う。
「よかったー。でも、なんで私があんなのに狙われなきゃいけないのよ!」
 安心が怒りに変わったのかミヤビが鬱憤を口にする。
「あんた、男に貢がせるだけ貢がせて、のうのうとしてるんだろう? そのツケだよ」
 宗嗣が情も何もない程ハッキリと言う。
「……それの何がいけないのよ? この業界じゃ普通じゃない」
 言って、そっぽを向く、ミヤビ。
「わしは、そう思わんよ。お客さんは、癒しを求めて店に来るんじゃ。それに、応える接客をしてお金をもらうのが、この業界じゃ」
 咲次郎が、諭すようにミヤビに言うと、ミヤビは振り返り。
「だから、癒してんじゃん! サービスしてるじゃん! その分、プレゼント貰ったりしてるだけよ! キャバ嬢は、良い想いしちゃいけないの?」
 喰ってかかるように言う。
「人間の生き方としては間違っていません。ですが貴女のそれは、他人を傷つける行為に他ならない事だけは、覚えておいでください」
 エニーケが厳しさを言葉に乗せミヤビに告げる。
「商売だもの。やりようは自由だが……あの怪物は奪われた愛の慣れ果てだ。君に愛を抱いていた客がいた事も、考えておいた方が良いかもね」
 水月が厳しい瞳でミヤビに告げる。
 その姿をリリィエルは無言で見ていたが内心、ちょっと引いていた。
(「ガチ説教してる……。お仕事意識持ってのことならそんなに悪いことじゃないと思うんだけどナー。それより、この事件って水月君が追ってる相手が絡んでることの方が重要だったんじゃないかなー」)
「皆さん落ち着いてください。彼女はまだ子供です」
 ヒルメルが静かな声で続ける。
「年を経て若さ、容色が失われてきた時に、自分の行動にどのようなツケが回ってくるか想像しろと言われても難しいでしょう」
 フォローに聞こえなくもないがハッキリ言って痛烈な皮肉である。
「なによう、何にも分かって無いくせに……」
 ミヤビが今にも泣きそうに呟く。
「生き方上手とは思いますが……相手が本当に満足する奉仕とは、やはり真心が籠っていないと実現出来ないと思います」
 オルトリンデが芯の通った言葉をミヤビにかける
「一使用人の戯言です、忘れて頂いて構いません。先程はご指導、ありがとうございました」
 そう言って、オルトリンデは店を後にする。
 他のケルベロス達も静かにその場を去って行く。
「……真心か。……今からでも、大丈夫かな」
 ミヤビは一筋の涙を流し呟いた。
 変われるなら変わりたい。
 あの子たちの様に、真っ直ぐに人を見つめられるように……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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