●この地にありて
――機というものがあるのだろう。若しくは巡り合わせか、将又偶然か。
集まったケルベロス達を前にレイリ・フォルティカロ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0114)は、顔を上げた。
「既に、耳にされている方もいると思いますが人馬宮ガイセリウムが東京に侵攻により、東京都内に被害が出ています」
このままだと更に大きな被害が出ると予測されている。
それは、防衛戦で最善の結果が出たとしても市街の被害は大きいということを示していた。
「ガイセリウムが通過する……ということを考えれば、市街の被害は大きいです。勿論、最悪を想定すれば――首都消失までありえます」
勝利を、信じてはいる。だが、最悪の場合を想定するのも役目であり仕事であり――覚悟して、ここにいる。
一つ息を吸うと、レイリは真っ直ぐにケルベロスたちを見た。
「そんな、最悪じゃないって信じてひとつ皆様に依頼があるんです」
お願いに近いですが、と一つ言ってレイリは微笑んだ。
「防衛戦の戦いが終わった後、東京都内の被害が大きかった建物をヒールしませんか?」
ちゃんと無事に帰ってくるって約束つきで。
にこり、と笑ってレイリは続けた。
「実はですね。被害が大きそうな場所でバレンタインフェスタが行われる予定があったんです」
バレンタインが近いということもあって、ヒールされた建物の一部はお菓子っぽい雰囲気になることだろう。お菓子を作るのにきっと相応しい、建物に。
「本来のフェスタはもう、中止が決まってしまいました。……そのまま、というわけにはいきませんが、やってみませんか? バレンタインのチョコレート作りのイベントを」
折角だから、街の人々もお誘いしましょう。とレイリは言った。
「防衛戦の後、避難することになった街の人々が少しでも心安らげるように。折角の、バレンタインでチョコレートですから」
幸せな甘さで、大切な誰かに、ありがとうと大好きを伝えに。
●口どけに幸いを
ヒールに出向いてもらいたい場所は、小洒落た通りなどあるような繁華街だ。
「小さな広場があれば、そこを使ってプチガトーショコラ作りなんて如何でしょう?」
カップケーキのような小さい型で作るガトーショコラだ。型を使えばハートや星の形も作れる。
「作る場所については、ヒールした建物を使えばよいので問題はありません。試食スペースも大丈夫でしょう」
「あぁ。いろいろ好きに作れるって感じなんだねぇ。レイリちゃんは作るの得意なの?」
三芝・千鷲(レプリカントの刀剣士・en0113)に水を向けられた、レイリは普通ですよ。と一つ返す。
「千さんは上手なんですか?」
ガトーショコラはそう難しいお菓子ではない。失敗も少ないはずだ。
「そうだなぁレイリちゃんよりは?」
「むー。でもそうですね上手ならぜひぜひおいしいのをお願いしますね」
御意、と応じた青年をおいて、レイリはケルベロスたちを見た。
「良ければ、参加してくれると嬉しいです。私たちなりのチョコレートフェスタをやりましょう」
ヒールと一緒に、沢山の感謝を添えて。幸いを一つ届けてみませんか?
●楽しみのその前に
冷たい冬の風が吹く。カタカタと揺れるのは割れた窓ガラスであろう。
(「責任持って東京中を駆け巡り修復していくぜ! ここに来たのもその一環だ」)
息を吸い、あたりを見渡したのは一人の青年であった。
「次の現場はこの繁華街か、任せときな。すぐに修復するぜ!」
泰地はそう言うと、ボディビルのポージングを繰り出す。次々と繰り出されるポーズに、足元、罅の入っていた地面が修復されーー舗装されていく。
「やっぱ多少スイーツな見た目に変わっちまうのは避けられねえか……」
格闘家風の姿で、癒しの波動を発動した泰地は息を吐く。可愛らしい見目に、だが、わぁっと後ろから声が上がる。
「お、お兄ちゃんすごい!」
チョコレート・フェスタを楽しみにしていた子達だろう。両親らしい人が頭を下げるのに小さく会釈して、泰地は次の被災地へと急行した。向かう足の一歩、硝子の割れる音はもうしない。ヒールされた店と、石畳の広場が今日という日を楽しみにしていた人々を出迎えた。
●チョコレートフェスタへ!
広場には、店々が連なるようにあった。ショコラ作りはこちらで、と招く店主たちが厨房を解放する。元々チョコレート・フェスタはそんな日でもあったらしい。
チョコやメレンゲをさっくりと混ぜこみながら、柊一郎は四角の型を手に取る。とろりと流し込んだそこで、ひょい、と横に声をかけた。
「……混ぜ具合とか、こんな感じで良いよな?」
「……あぁ。大丈夫だ。そうだな、キューブのようにするなら……」
頷いたディディエから一つ二つ、もらったアドバイスに頷きつつ、今日の誘いの主を見ればこちらも順調に型にチョコを流し込んでいた。
「はーちゃんの手付きもいい感じじゃん。俺、負けねぇからな」
水を向けられた春乃が、ぱっと顔をあげる。
「あ、あたしだって負けないよ!」
本当はちょっぴり心配だったのだ。強引に連れてきたら。
(「お話しできてるし、だいじょうぶそうだね」)
うん、と頷きつつ、春乃は残りのチョコも型に流し込んでいく。ゆっくり、とかかったディディエの声にうん、と少女は頷いた。
「……余り心配せずとも良さそうだが」
そんな二人の手元の様子を見ながら、ディディエはそんなことを思う。あれこれとアドバイスすることがあるくらいだ。自分は丸型のガトーショコラを作りつつ、ディディエは楽しげな二人を見ていた。
「星型とか凝ったものは難しそうですので簡単そうな小さな丸いものを……」
小さな丸型の型にココアパウダーを混ぜた生地が焼き上がれば、美味しそうな匂いがユイを出迎えた。仕上げにチョコレートクリームを回りにペタペタとつけて。
「できました♪」
ちょっと不格好であまりきれいなものではないですけど、頑張って作ってちょっと嬉しくて、ユイは笑顔を見せた。
「では、これより講義を始めます……皆さん、準備は宜しいですね?」
厨房の一角では、静九によるケーキ作り講座が開催されていた。しっかりと聞きながら、沙葉は型を選ぶ。選んだのは星の形だ。
「慎重に……心を込めて」
口の中、そう言葉を作る。思い出すのは、最後に、と顔をあげ告げた静九の言葉だった。
『要なのは技術よりも思い……思いの先が、味となって相手の心に染み渡るのだと……私は、そう考えています』
「毎度思うんだけど、こういうのを手作りしてくれる女の子ってすごいよね。俺も思いを込めて作ろう」
チョコを湯煎で溶かすのと格闘しながら、頼犬は楽しげな厨房を見た。皆で一緒に一つのテーブルを使いながら作っているとやっぱり賑やかだ。
「補佐しようか」
二人の手伝いをしながら、楓は仲間にそっと諭した。
「いいか、皆で食べれるものを作るんだ。込めるのは気持ちだけでいいぞ」
口にする理由はひとつ。ニルバーナがどこから手に入れたのか、黒くてブヨブヨしたものを投入しようとしてたからだ。
「……ニルバーナ、それを混ぜるのは止めとこうな?」
「私のチョコでみんな幸せですよ~」
そんな事件が繰り広げられているとは知らずに、四季はお菓子のレシピ本を見ながらガトーショコラ作りに勤しんでいた。
「……卵黄を良く泡立ててバターの入った溶けているチョコを混ぜて、っと。それから卵白を泡立ててメレンゲを作くって、その後混ぜ合わせればいいのかな?」
型は無難に四角にしようか、と手を伸ばす四季の後ろで香ばしいチョコの香りがしていた。
「あ。そこ、チョコついてない?」
ふいに顔をあげれば、ゾーイの目に獏馬の頬についたチョコレートが見えた。混ぜてる時でもついたか、チョコのついた指先で触れてしまったのか。
「え、チョコついてる? どこだろ……」
見える範囲で、服まで見てみるがさすがに頬は自分じゃ分からない。代わりに拭おうとは思ったのだが、絶賛ガトーショコラ作り中で手が塞がっているのはゾーイも同じだ。
「……よし」
すい、と身を寄せて、え? と目をぱちくりさせた獏馬の頬についてたチョコを口でとる。次の瞬間、かぁっとゾーイの前にいた獏馬は顔を赤く染めた。
さぁ、お菓子作りを続けよう。とさく、と進め出した彼女に、ゾーイもと声がかかるのはこの少しあと。同じようにぺろり、と頬についたチョコをとった獏馬はついてた。と彼女に告げた。
「味、大丈夫かな。ね、ハイネ……一つ味見してもらえる?」
……あまり美味しくないかもだけれど。
と一つ零して、ハート型の物を手渡した。
「美味しい?」
問いかける少しだけ不安げな瞳に、琲音は微笑んで告げた。
「ハート型も可愛いですし、十分過ぎる位美味しいですよ」
彼の言葉に茨貴は心の底からホッとした。
「そっか……良かった」
言の葉はやわく落ちて。並んだお菓子を少年は見る。そんな姿を見守りながら、実の所、琲音は感激していたのだ。
(「茨貴のお手製のお菓子が食べれるなんて」)
微笑みながら、そんな思いを胸にまた一つ甘い香りが厨房に届く。
甘い香りに、賑わいが混ざる。チョコレート・フェスタは少しずつその参加人数を増やしていた。厨房には甘い香りが踊り、様々な型が出迎える。その型の前でウィリアムは悩んでいた。
「ハートはちょっとこう、わかる? 心境的にこう……こう、な? 気恥ずかしいっつーか……俺はハートとかいうキャラじゃなくない? みたいな……」
まあそういうワケでですね、とウィリアムはレイリ・フォルティカロ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0114)を見る。
「レイリお嬢さん、ちょっと型、選んでくんない? どれでもいいからさ、頼むよ。……言い訳に、なって欲しいワケです」
「そう、言われたら断れませんね。では、星を」
夜空を灯す星のように、貴方の足元を照らす灯りのように。
「クィル、意外とお茶目なのね。そんなに砂糖を入れたら甘くなりすぎるに決まってるでしょ」
「……え、入れすぎですか?」
こてと首を傾げたクィルの横では、バレンタインがニンジンを手にしていた。
「ようし!」
「もう……バレットもすぐにニンジンを入れようとする。これだから男の子はガサツでダメね」
「……ってなあにリィ、ダメなの?」
眉を寄せたバレンタインの目に入ったのは砂糖がたっぷりと入ったクィルのボールで。虫歯になっちゃうと声が上がる。賑やかな二人を横にリィは色味の濃いチョコレートを選んでいた。ちゃんと甘さ控えめ。目指すはビターな大人の味ーーだったのだが。
「ところでリィ、なんかこのへん焦げてない?」
「ほろ苦いのが大人の味だもん」
跳ねた声ひとつ、敢えて焦がしたのでしょうか……さすがです。とクィルの声が響く。
粗熱が取れれば、さぁ完成。ケーキに描いたクィルの見事な似顔絵と、独創的なバレンタインの絵のプレゼントにリィは星形と人参型のケーキを二人に差しだした。
「ちょっと早いけれど、バレンタインの贈り物よ」
二人のために、作ったガトーショコラが甘い香りを届けた。
●甘い幸せ
皆で作るのであれば、手分けして作業を進めればガトーショコラ作りも落ち着いて進められる。
「チョコ測って刻みますね!」
ルチルによって、やたら細かく刻まれたチョコがピエトラの手元に届いた。今日の担当は湯煎だ。そっと鍋にチョコを入れて、慎重に溶かしていく。
「ひっくり返さないように、注意しないと……」
真剣なまなざしで、イルヴァが型へと流し込めばあとは焼き上がりを待つだけになる。
「これって自分の分です? それとも誰かにあげますか?」
皆で食べたいなって、とルチルは呟いた。
「だって美味しそ……皆で作った記念ですし!」
そろりと顔を覗かせた本音に、ふふ、と笑う声が重なる。
「あ、いっぱいあるんだし少しなら食べてもいいですね!」
「確かに、沢山作りましたよね」
笑って、イルヴァはたくさんいっぱい、みんなに配る予定だと言った。
「「ともちょこ」というのが流行っているみたいなので! もちろんここにいる皆さんも含まれてますっ」
いつも仲良くしてくださって、ありがとうございます!
笑顔を見せた彼女の横、ピエトラはややあって口を開いた。
「ぼ、ぼくは友達みんなに渡せるようにと、思ってるんだけど……。「友ちょこ」かあ。よ、喜んでもらえるかな?」
ふわり甘い香りと話が広がれば、そういえばこう言う時自分磨きの事とか結構話すよな。と緋音は思い出す。
(「だから……あ!」)
「グラビティの威力を高めたり、技の精度をどうやって上げてるんだ? アタシはなー……え? 違う?」
目をパチクリとさせた緋音の後ろ、焼き上がりを告げる音が響く。さぁ火傷には気をつけて、開けて見れば甘い出会いの始まりはじまり。
レシピと睨めっこをしながらメリッサはプチガトーショコラ作りに挑戦していた。型に流し込めば後は待つだけ。ドキドキしているうちに美味しい香りと一緒にオーブンが開く。
「ばんざーい!」
満足の出来栄えに、メリッサは大喜びで目を輝かせた。
「あ、そうです。仕上げにこれをかけないと……」
レシピで見た素敵な雪化粧。ぱらぱらと真っ白な粉砂糖をガトーショコラに振りかけていく。
「美味しくなりますように」
魔法のおまじないも一緒にかけるうち、不思議とほっぺたが緩んでしまう。
甘い香りは厨房のあちこちにあった。
サクサクと生地を混ぜながら、リリティアはほんの少しほろ苦いカカオの味が残った大人な味のガトーショコラを作ろうとしていた。
(「あの方はきっとそういう味が好きそうですし……そうだ。ブランデーも入れてみましょう!」)
リリティアはガトーショコラを渡す人のことを考えながらお菓子作りをしていた。
「うふふ、本番の為の試作品とはいえテンションがあがりますわ…! 私とチョコ、どっちを食べます……とか、ああ、幸いテンションMAXですわ!」
何せ本番はバレンタインで、世に言う愛の日なのだから!
●これからもきっと
「初めて出会った時から、私はリリアに一目惚れだった。今や旅団でも依頼でも、二人一緒の時が多いが……こうして貴女と過ごす時間は、私の一番の幸せだな」
息を吸い、愛しい彼女を見る。
「ありがとう、リリア」
吐息が震えた。ラハティエルと二人でいると胸が熱くなるの、とリリアは零した。
「わたしの傍であなたが微笑んでくれる、それがどんなに素敵なことかわかる?」
オーブンで甘い甘いお菓子が出来上がる。
「いつも本当にありがとう。大好きなあなたへ」
焼きたてのそれを綺麗に揃えて、リリアはラハティエルに差しだした。
香ばしく、甘い香りに一つ笑い。受け取った男は彼女にミント風味のガトーショコラを渡す。
「まだ完成してないが……どうぞ召し上がれ、リリア」
怪訝ながらも食べた彼女に、ラハティエルはそっとキスをした。
「……これで、完成だ。少し甘くなったかな? フッ……」
とろり、甘さは溶けてゆく。
フェスタで解放されている厨房は広場にある店々のものだ。可愛らしく出来上がったそこに、笑みを零しさあ折角だから作っていってくれと店主たちは笑う。
「形はどうしよう~。バレンタインだしやっぱりハートかな?」
「……質問に質問で返すな、食べれば同じだろう」
「そっかごめん、火岬に聞いたアラタのミスだった」
メレンゲを作りながらそう言えば、ややあって律の答えが落ちてきた。
「……じゃあ、ハートと星の半々にしたらどうだ」
「うん。沢山作って繁華街の人達にも渡したいな」
ヒールで可愛い街になったけど、それって傷ついたってことなんだ、とアラタは呟いた。
「直ぐには難しいだろうけど、元気になって欲しい」
「……」
真剣な表情にみる不屈の輝きに、律は一度視線を外す。後はただ黙ってガトーショコラ作りを手伝った。
(「この街が荒廃すれば俺も失業だしな」)
オーブンに届ければ、後はもう焼き上がりを待つだけだ。片付けをしながらコーヒーを入れていれば見知った姿が見えた。
「フォルティカロさんと、三芝さんもお疲れ様です」
インスタントですがと断って、律が紙コップのコーヒーを薦めれば二人は微笑んで受け取った。
「律様も、アラタ様もお疲れ様です。出来はどうですか?」
「いいよ」
笑って、アラタはレイリと千鷲の二人にもプチガトーを渡した。
「諦めないでくれてありがとう」
喜んでくれるだろうか、とあかりは思う。本当に特別な日なのだ。バレンタインデーは、だいすきなひとの生まれた日だから。
丁寧にこなしていくあかりの手元で、ショコラは綺麗に焼きあがる。ホワイトチョコのペンで花を咲かせて、アラザンを煌めかせて。
「……」
白い箱にリボンを結ぶ手前に、あかりは用意していた手紙を挟んだ。
『日頃の感謝の気持ちと、……だいすき、をいっぱい込めて。貴方が居てくれるから、俺は毎日が幸せです』
「想い人さんは甘いの好きな人やろか」
緊張した様子で一生懸命作っている紺に灯乃は笑みを零す。
「ハート型がかわえぇね。きっと喜んでもらえるで?」
そしたら俺は……、と選びかけたそこで傍の彼女が固まる。
「どうしましょう、あの方を思うと渡す前から緊張しちゃいます」
落ちた声に、微笑ましげに一つ笑いながら作ったガトーショコラをオーブンに送る。ところで、と紺が言ったのはそんな時だった。
「ところで、鷹司さんに気になる方はいるのですか?」
「俺? ……甘えられる子が好きかなぁ、紺ちゃんみたいなしっかりさんとか」
口説くような文句でひとつ告げて、素直に照れて、でも冗談やってわかってくれる頭の速さがえぇねと笑った。
「れーちゃなら美味しい作り方知ってるのな!作り方ご教授願うのな!」
笑みを見せたカーコに美味しいかは分からないが、と息をついて、レベッカはしっかり混ぜるのがコツ、かな。と言った。
「でもメレンゲは潰さないようにな」
ガトーショコラは生地の混ぜ方で決まるのだ。
「分量測って混ぜて焼くのな~? わぁ!色々カップあるのな~!ハート! ハートかわいいな! あ! 星もかわいいな……困った」
コロコロと表情の変わる、楽しそうなカーコに思わず顔が緩む。
(「可愛い」)
そうだ、とレベッカは思った。星の形に出来るのなら、牛の顔っぽい形も出来るかも。内緒にして後で驚かせようと、とこっそり作って行けば、今度は異様に膨らんでると目を白黒させるカーコにレベッカは笑った。
「と言う訳ではい!れーちゃ!ハッピーバレンタイン!」
喜んで貰えたかな? と首を傾げれば、ふふ、と笑ったレベッカがガトーショコラを差し出した。
「私からも」
それはカーコが作ったのとは形の違うガトーショコラ。
「あ! これ牛さんなんだな~! カーコだから牛な? えへへ! ありがとな!」
笑みを見せれば、ふ、と吐息をこぼすようにレベッカも笑った。
「自分自身のことなら器用にこなせるんだけどなぁ。誰かに食べてもらうことを考えると、なんだか緊張しちゃう」
型に流し込んで浮舟は息をついた。ここまで行けば後は焼き上がりを待つだけだ。オーブンが焼き上がりを告げれば香ばしい香りが二人に届く。出来上がったショコラを型から外して、絶奈はホイップクリームを添える。三日月プチガトーショコラのホイップクリーム添えだ。
「絶奈も初めてなのに綺麗な仕上がりだね、ちゃんとお月様に見えるよ。食べるのが勿体無く思えちゃうくらいだ」
ボクのは、と浮船は息をついた。
「……うーん、ちょっぴり焦げてビターテイストになっちゃった。でも、初めての手作りってところに価値があるだろう?」
「矢野さんのガトーショコラもハート型が可愛らしいですね。焦げ目もご愛嬌という感じだけでなく、中の胡桃と共にアクセントになっていて素敵だと思いますよ」
やわく告げられた言葉に笑い、浮舟は言った。
「ハート型のクルミ入りガトーショコラ、さあ召し上がれ」
甘い香りと賑わいは、広場にも届いていた。
「はい、どうぞ。沢山あるから遠慮しないで?」
子供たちに微笑んで、レイラは出来上がったガトーショコラをプレゼントして回っていた。じっと見ている少女が、お礼のキャンディーをそっと渡して下がっていく。どうやら恥ずかしかったらしい。
(「でも、笑顔……ですね」)
笑顔に、変わった。
ヒールされた街の中、ゆっくりとけれどしっかりと人々の生活は取り戻されていく。今日は甘い香りと一緒に。大切な人に告げる感謝を込めて!
作者:秋月諒 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年2月13日
難度:易しい
参加:37人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 3
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