戦艦竜ヴァイスメーヴェ・サードアタック

作者:さわま

●神奈川県相模湾沖
 澄んだ青い空にカモメの一団が飛び交う。
 と、海面が盛り上がり巨大なシルエットが姿を表す。
 それは戦艦竜『ヴァイスメーヴェ』。
 以前は純白であった装甲板は大きく傷つき自らの血により薄汚れた褐色に染まっている。
 戦艦竜は辺りを見回し、大きく咆哮し、号砲を轟かす。
 まるで「自分はここにいるぞ」と何者かに知らしめるように。
 

「よく集まってくれた勇敢な戦士たちよ。戦艦竜『ヴァイスメーヴェ』が再度姿を現そうとしている」
 山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)がケルベロスに告げる。
 『戦艦竜』。以前、ドラゴン勢力により城ヶ島が占拠された際に、海の守りの要としてケルベロスの前に立ちはだかった強大な戦闘能力を持つ竜であり現在は相模湾に出現し海上交通を妨げている。
「戦艦竜は尋常でない耐久力を持つ強敵であるが通常の手段ではダメージを回復させる事が出来ない。『ヴァイスメーヴェ』も過去2度のアタックによるダメージが着実に蓄積されている。再度のアタックを貴殿らにお願いしたい」
 
「現在の『ヴァイスメーヴェ』の損傷度合いは6割弱といった所だ。攻撃に徹する覚悟があれば今回のアタックでの撃破も可能かもしれない」
 これまでの戦闘参加者たちの尽力により撃破の可能性も見えてきた、とゴロウが明るい顔をみせる。
「前回までのアタックでは敵の攻撃に対して万全の構えで挑んだ事もあり、着実にダメージを蓄積させる事が出来た。しかし今回のアタックでの撃破を狙うのであればより攻撃的な布陣を取るか、もしくは何だかの方策が必要になるだろう。しかし攻撃的な布陣を取れば大きな負傷の可能性や早期撤退によるアタック失敗といったようなリスクを背負う事になる」
 今回のアタックでの撃破が絶対に必要というような程切迫した状況では無い。無理にリスクを負わずに着実にダメージを与えて次に繋ぐのも立派な戦い方といえる。どういった方針で戦艦竜に挑むかは貴殿らの判断に任せる、とゴロウはケルベロスに信頼の目を向ける。
「戦艦竜『ヴァイスメーヴェ』の攻撃手段は3種類ある事が判明している」
 ゴロウが過去の戦闘記録を取り出し説明を始める。
「1つ目は主砲による砲撃。これは威力が高いが命中率は高くない」
 主砲の攻撃は全くの対策無しでは一撃での戦闘不能もあり得る威力がある。逆にいえばそれなりの対策をしておけば一撃での戦闘不能は防げるといえよう。
「2つ目は周囲に機雷をばら撒く攻撃。こちらの攻撃は威力はそれ程では無いが大量に食らえば足止めをされてしまうのが難点といえる」
 足止めのバッドステータスが蓄積すれば主砲の攻撃が命中しやすくなってしまう。何らかの対策は必要だろうが機雷を万全に防ごうとすればそれだけ攻撃の手数が割かれる事にも繋がるだろう。
「3つ目は竜巻を発生させ、それまで周囲にばら撒いた機雷を誘爆させて大ダメージを与える攻撃。この攻撃の威力は主砲を凌ぎ命中率も高い。凌ぐのは至難の技といえるだろう」
 恐ろしい攻撃だが攻撃の予備動作として全身の装甲板を展開するのに1ターンを消費してしまい、さらにその間は『斬撃』の攻撃に対して無防備になってしまうという欠点がある。また大量の機雷を周囲にばら撒くのに時間が必要な為、戦闘開始から10分以上が経過しない限りこの攻撃を『ヴァイスメーヴェ』が仕掛けてくる事は無い。
「今までの戦いから見えてきた事ではあるが『ヴァイスメーヴェ』との戦いではこの竜巻攻撃をどうするかがポイントといえるだろう」
 特に今回での撃破を狙うのであれば尚更考える必要がある。竜巻攻撃を食らう前に短期決戦を狙うのか、もしくは何とか竜巻攻撃を凌いで長期戦を狙うのか。
「戦艦竜は高い耐久力と引き替えに機動力には難がある。攻撃を命中させる事自体は難しくなく、バッドステータスに対する回復手段は持っていない。長期戦が望めるのであればそういった搦め手も有効だろう」
 大切なのは全員でどういった作戦で挑むつもりなのか。そのイメージを共有する事にあるとゴロウはいう。
 
 それまで緊張した面持ちで話を聞いていた日乃森・タマ(ドワーフの鎧装騎兵・en0153)が先輩のケルベロスにペコっと頭を下げる。
「ケルベロス見習いのタマっす。今回、皆さんの戦いぶりを見学させて貰える事になったっす。みんな無事に帰ってきて下さいっすよ」


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
レクス・ウィーゼ(ウェアライダーのガンスリンガー・e01346)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
アニエス・エクセレス(エルフの女騎士・e01874)
紅・龍(拝火・e02045)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)

■リプレイ


「ヴァイスメーヴェと対峙するのも……これで三度目、ですわね……」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)の呟きに【アルテミス空挺旅団】のメンバー達が振り向く。
「俺はやっこさんとは二度目になるが……本当に厄介な敵だぜ」
 レクス・ウィーゼ(ウェアライダーのガンスリンガー・e01346)のその愛らしいカピバラ姿に反した落ち着いた声。そしてサポートについてきた娘のヴァルリシアをちらりと見る。
 (「ま、娘が見ている以上、親としちゃあ頑張らねえとな」)
 不思議そうな顔でこちらを見返す娘に苦笑しつつ、同じくサポートとして戦艦竜の事前情報を熱心に仲間に伝える旅団長のドロレスにも優しい目を向ける。
「暖かい日差し……まだ風は少し肌寒いですけど。もう春も近いのでしょうか?」
 船のへりに立ち青い空を見上げたユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)の銀の髪が潮風になびく。
「【アルテミス空挺旅団】のみなさん、よろしくお願いします」
 大きな向日葵の刺繍の入ったサーコートを羽織ったロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)がしずしずと近寄ってくる。
「今回の作戦に【太陽の騎士団】の仲間も駆けつけてくれました。敵は強大ですが全員で力を合わせて戦いましょう」
 ロベリアの後ろに立つシヴィル、クーゼ、実里、凛の4人。ロベリアが「全く、私には過ぎた頼もしい仲間です」と信頼の目を向ける。
「心強い限りですわ。【太陽の騎士団】の皆様、こちらこそよろしくお願いいたします」
 その仲睦まじく、頼もしい太陽の騎士たちにミルフィがニッコリと微笑んだ。

「ドラゴンスレイヤー……私も騎士の端くれとして憧れちゃいます」
「古来より洋の東西を問わず竜というのは特別な存在とされてきたからな。それを屠る『竜殺し』も同じく特別な意味を持つのだろうね。まあ、あのトカゲもどきを殺す事とそれを一緒くたにして良いものかは議論の余地があろうがね」
 おずおずと憧れを口にするアニエス・エクセレス(エルフの女騎士・e01874)に紅・龍(拝火・e02045)が「それはそれとして強さの証明にはなるかもね」と肩をすくめる。
 そこにエルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)がひょっこりと顔を出す。
「ワタシの一族は竜を殺しその肉を食らう『竜殺しの狼』の一族なのよ」
「えっ、本当!? それはすごいわ!」
 思わず地の口調で驚くアニエスにエルピスが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふふのふー」
「うそうそ、だろ?」
 後ろからの声に振り向くエルピス。そしてその瞳に鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)が映りエルピスの口元が綻ぶ。
「ヒノト!」
「相変わらずだな、エルピス。今回もよろしく頼むぜ!」
 お互いに顔を見合わせ嬉しそうなエルピスとヒノト。その様子にアニエスが首を傾げる。
「あの、おふたりは知り合いなのですか?」
「ああ。エルピスとはこうやって依頼で一緒になる機会が何度かあってさ」
「奇縁ってやつかい?」
 龍がフムと2人を見比べる。
「実は小さな頃、ヒノトの家の近所に住んでいた事があるのよ」
「えっ、そうだったのか!?」
「ふふふのふー、うそうそ」
 ヒノトの反応に嬉しそうなエルピス。
「でも、またヒノトと一緒できて、アニエスと龍も頼もしいし、ワタシとっても心強いのよ。これはほんとよ?」


 耳をつんざく竜の咆哮が海上に轟く。水上バイクで海面を走るレクスがその咆哮の主をその目に捉える。
「やっこさん、今回はヤル気満々だな……人間の強さ、もう一度、刻ませて貰うぜ?」
 接近するケルベロスの方に旋回した戦艦竜の砲門が次々と火を噴き、無数の砲弾が迫る。
「以前と比べて鬼気迫るものを感じますわね。敵も必死という事でしょうか……」
 近づくにつれてミルフィの目に入るのはこれまでの戦いで竜の身体に刻まれた無数の傷。
「このままでは良い的ですわね。散開いたしましょう」
 アニエスとロベリアがヒールドローンを展開し、他の仲間も戦闘の準備を終えたのを見てミルフィが合図を送ると一斉に動きだすケルベロスたち。
「向日葵畑の騎士ロベリア。参ります!」
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
「みんなで無事に帰るよ。同じく太陽の騎士、河内原・実里、助力します」
「戦艦竜の脅威は経験済みだ。我らを守る盾となれ! 『守護刀心』」
「雷光と共に征く、我等の道に敵は無し! 鍔鳴り響けッ! 『雷天征路』ッ!」
 右翼、左翼、海中と散開する仲間を確認したロベリアと【太陽の騎士団】の仲間たちが、砲弾の雨を掻い潜り正面から竜に接近する。
 砲撃を迂回し左翼から戦艦竜へと近づくタンデムタイプの水上バイク。後部座席に座ったヒノトが近づく戦艦竜の巨体を見据える。その瞳には決意の色が。
(「こいつとは違うヤツだけど戦艦竜には借りがあるからな……今度こそ!」)
「エルピス、ヤツに接近してくれ!」
「分かったのよ。でも無理はだめなのよ」
 運転席に座ったエルピスが大きくハンドルを切ると、水上バイクが竜に急接近する。
「『エテルナライズ』!」
 立ち上がったヒノトの手に長大なエネルギーの槍が出現。
「やっちゃえ! なのよ。ふふふのふー」
 エルピスが操る水上バイクが竜の側面を駆け抜けると、横薙ぎに構えたヒノトの閃光槍が竜の巨体を一直線に走り、その表面で紫電が炸裂する。
 側面からの攻撃に悲鳴に似た怒号を上げる竜の背中。いつの間にか龍がそこに立つ。
「さて、これはどうだい?」
 龍が腕を空に掲げると、その腕に巨大な小手が。巨大な質量を持ったそれを無造作に足元目掛け叩きつけると、重い衝撃と共に光る印が竜の背中に刻み込まれる。
 さらに追撃をかけようと右翼から近づくアニエスに竜が砲門を右翼に向ける。
 ――ドン、ドン、ドォーン!
 一斉に砲門が火を噴く。
「わわっ!? でも――」
 即座にアニエスが水上バイクから身を投げ出す。空中に飛び出したアニエスに迫る砲弾。
「甘いです! エクセレス流槍術、魔境……」
 空中を『蹴った』アニエスがさらに高く宙を舞う。足下を通り過ぎる砲弾。両手に構えた槍を大きく旋回させたアニエスが驚く竜に迫り連撃を加える。
 海上で猛攻を受け、海中に身を沈めていく戦艦竜。その姿を海中の仲間が捉える。
(「みなさん、攻撃の手を緩める事なく」)
 ドロレスの合図にユイとミルフィが頷く。
(「恋の詩を歌いましょう♪ 『Chante le petit amour(シャンテ・ル・プティ・アムール)』」)
 キラキラと揺らめく海面からの陽光をスポットライト代わりにユイが歌を紡ぐ。そしてグラビティにのせた澄んだ歌声が海中に響き渡る。その歌声を背に受けミルフィが『セスルームニル・メイデン』を構え戦艦竜へと突撃する。
(「戦白兎乙女の、槍撃……!」)
 鋭い一撃が叩きつけられ、その衝撃に竜が一際大きく呻いた。


 戦場を海中に移したケルベロスたち。並みの敵であれば序盤の勢いで一気に決着に持ち込めたかもしれない。しかし尋常で無い耐久力を誇る戦艦竜。体勢を立て直しケルベロスたちに迫る。
(「大丈夫か!?」)
 前衛陣を襲う機雷の絨毯爆撃にヒノトが思わず大きく息を吐き出す。
(「今日の私はこの程度で倒れたりはしません」)
 爆発の中から現れたロベリアが「自分は大丈夫」とばかりに槍を掲げる。本当は小心者で臆病な気性のロベリア。しかし、自分の背中に立つ仲間。自分の隣で戦う仲間が彼女に勇気を与える。そしてその勇姿に仲間たちも奮い起たずにはいられない。
(「……いってくれるじゃねぇか。こりゃこっちも何とか保たせてやらねぇとな」)
 回復手を担うレクス。今回は以前のアタックに比べて攻撃的な布陣を採用したが、一方で戦艦竜必殺の竜巻を凌ぐ長期戦を想定している。ここまでの敵の猛攻から回復量に不安があるとレクスは冷静に分析していた。しかし、同じ結論に至り不安そうな顔をみせる娘にニヤリと笑みをみせる。
(「オイオイ、こういう時こそ笑うもんだぜ? ……それに成算が全く無い訳じゃねぇ」)
(「既にサイは投げられた。今更方針変更こそ愚の極みってね」)
 そういう龍の顔に不安の色は無い。
(「攻撃の手は緩めません!」)
(「みんなを信じるのよ!」)
 竜に迷いなく向かっていくアニエスとエルピス。その様子に満足げな顔を見せる龍。
(「それじゃ私も……ちょっぴりだけ遊んであげよう――」)
 龍のグラビティチェインが異常に膨れ上がる。仲間の背筋にゾクリと悪寒が走り龍の方を振り向く。
(「この程度で暴走なんて『つまらない』ことはしないさ。『鋼竜の吐息(ドラゴン・ブレス)』」)
 膨れ上がった龍のグラビティが変換された赤熱の溶鉄のブレスが戦艦竜を直撃。その超熱量に周囲の海水が瞬時に沸騰。発生した大量の水蒸気が海面向けて猛烈に立ち昇る。
 ――ドォンッ!
「な、なんっすかアレは!?」
 船でケルベロスたちを待つタマが海面から噴き出た巨大な水飛沫に驚きの声をあげた。


 それからすぐにケルベロスたちの決断は答えを示した。戦況に変化が訪れたのだ。
(「こちらですよ♪」)
 翼をはためかせたユイが戦艦竜の周囲をゆらりと舞い泳ぎ、その執拗な砲撃を優雅に避ける。付与され続けた【怒り】の効果で見切りが発生するのもお構いなしに竜の砲塔は恋の歌を紡ぐ歌姫を狙い続ける。
(「貴方にはもう、わたしの歌しか、聞こえない♪」)
 まるで愛の輪舞を踊るようにユイが敵を翻弄する。さらに……。
(「『ぐるるー(コッチニクルナ)』」)
 エルピスの威嚇に戦艦竜が動きを止める。そこにヒノトが閃光槍を突き出す。
 回復手のレクスを除くケルベロス全員が【パラライズ】付与のグラビティを準備し攻撃の主体として序盤から繰り出す作戦を立案していた。【パラライズ】は確かに強力なバッドステータスではあるが発動率の悪さから有効に働くのに時間がかかる。しかし、全員が同じ目的意識を持ってそれを繰り出す事により、かなり早い段階でその脅威を発揮させる事に成功したのだ。
 敵がいたずらに手数を消費し、効率の悪い攻撃を繰り返せば当然のように回復にも余裕が出てくる。レクスの成算もここにあった。
(「勝利の女神が振り向いたのはこっちのようだな。だが、この女神は気まぐれ屋だ。しっかり手綱を握ってやらねぇとな?」)
 ここぞとばかりに攻撃を繰り出すケルベロスたち。しかし……。
 外目には優雅に竜の砲撃を躱すユイ。とはいえ、その一撃は致命傷になりかねない威力を持つ。決して集中を切らす事の出来ない状況。それがユイに負担をかける。そして、ほんの少しばかり集中が途切れた瞬間。『運悪く』砲弾がユイを捉える。
 ――ドォオオオオン!
(「ユイ様。ご無事でしょうか?」)
 爆発の中からユイを背中に庇ったミルフィが颯爽と姿を現す。戦艦竜に訪れた幸運も連携を密にするケルベロスたちを突き崩すには至らない。
(「『ナイトオブホワイト』起動……! さあ、お待ちかねの今週の巨大戦……付き合って頂きますわよ、ヴァイスメーヴェ様!」)
 ミルフィの纏う武装が光を放ち合体変形。巨大な機動鎧が姿を現す。
(「いきます! エクセレス流槍術・番外!」)
 アニエスのアームドフォートが巨大な破城槍に変形し、突き出した右腕に装着される。
 機動鎧と破城槍、2大巨大兵装のブースターに火が灯る。
 ――ドォンッ!
 水中に鮮やかな軌跡を残し弾けるように戦艦竜に向け飛び出す。
(「『ナイトオブホワイト・モードデュエル』!」)
 機動鎧の巨腕が竜を抑えつけ、破城槍がその巨体に突き刺さる。
(「『ヒュージ……スピアァァァ』!!』)
 突き刺さった槍の矛先から零距離射撃が炸裂する。
(「これは特別サービスですわ!」)
 機動鎧の砲門が開き閃光と爆発が竜を包み込んだ。


 更に時間が経過。戦艦竜がその装甲を展開し必殺の竜巻の準備を始める。
(「……想定よりも随分と粘りましたね」)
 表情を硬く引き締めるロベリア。彼女がいう通り、機雷の散布に手間取ったのか発動までに以前よりも長い時間を要していた。
(「ミルフィさん、ここは私が受け持ちます」)
(「ロベリア様、ご武運を……」)
 竜が動き出すと同時にロベリアを除き前衛陣が後方に下がる。
(「少しでもロベリア嬢ちゃんの負担を減らすぜ?」)
(「いくぜ、エルピス!」)
(「うん、なの。ヒノト!」)
 それまで回復に専念していたレクスの攻撃を皮切りに、後衛陣が斬撃を繰り出す。
 それでも止まる事なくケルベロスに向かってくる巨大な竜巻。その竜巻を正面から見据えたロベリアが盾を正面に構えゴクリと息を飲む。
(「怖く無いといったら嘘になりますが……それよりも」)
 意を決したロベリアが竜巻に向かい自ら歩みを進める。
(「ここで退いて、仲間が傷つく方が――万倍怖いです!」)
 ――ドォオオオオン!
 ロベリアが竜巻に吸い込まれ、大きな爆発と閃光が巻き起こった。


 爆発と竜巻が収まり一瞬の静寂が海中に訪れる。
(「防具の効果でしょうか? 何とか生き残れたみたいですね」)
 無事を示すようにロベリアが手をあげる。即座にロベリアの元に駆けつける【太陽の騎士団】の仲間たち。
(「無事で何よりだ」)
(「さあ、まだこれからですよ」)
 竜巻を凌いだとはいえ満身創痍のロベリア。それでも最後まで仲間と戦おうと自らを奮い立たせる。
 本来、戦闘中のポジションチェンジは貴重な手番を消費してしまい、そのメリットよりもデメリットが大きくなり不利に働く事が多い。だが、今回のように敵の必殺攻撃を最低限の被害で済ます事が出来るのならば話は別だろう。セオリーに縛られず状況に応じた作戦を立て、それを実行したケルベロスたちの英断といえた。
(「千載一遇のチャンスだね。ここで終わりにしよう」)
 龍を始め、ケルベロスたちが苛烈な攻撃を再開する。戦艦竜必殺の攻撃も不発に終わり勢いは完全にケルベロスに傾いていた。そして……。
(「『ヴァイスメーヴェ』、貴方との因縁に決着をつけましょう」)
 ドロレスの砲撃が竜の残り僅かな装甲を完膚なきまでに破壊する。
(「さあ、決めちまいな!」)
 レクスの目に映る竜の巨体は初めて遭遇した時よりも随分と小さく、弱々しく見える。
(「さようなら。ヴァイスメーヴェ様」)
 露わになった体躯に突き刺さした槍を通じて、竜の巨体から命が急激に失われていく感触を感じ取りミルフィはそっと目を伏せた。


 戦艦竜の亡骸が深い海の底に沈んでいくのをアニエスがじっと眺める。
(「倒した……のでしょうか?」)
(「手応えは十分にありました。おそらく2度と『ヴァイスメーヴェ』がこの海に出現する事はありませんわ」)
 同じくゆっくりと闇の淵に消えていくその姿を見てミルフィが呟く。
(「この結果は、わたくしたちだけで成し遂げた物ではありませんわ。『ヴァイスメーヴェ』に戦いを挑んだ全ての者に誉れがあらんことを」)

「「スハーッ」」
 海面から頭を出したヒノトとエルピスが気持ちよさそうに大きく息を吸い込む。
「おふたりともお疲れ様でした」
 その2人の後ろから同じく顔を突き出したロベリアが声をかける。
「お疲れ様なの、ロベリア」
「ロベリア、格好よかったぜ!」
「えっ? 格好良かった……ですか?」
 ヒノトの賞賛にキョトンとした表情を浮かべるロベリア。
「前に一緒になった時と別人みたいでビックリしたの」
 エルピスの言葉に前にこの3人で一緒に解決した事件を思い出しロベリアが首をひねる。
「……私の行動に特に違いは無いはずなのですが。どういうことでしょうか?」

「こっちよタマちゃん♪」
 パタパタと空中を舞うユイがどこか嬉しそうに近づいてくる船に手を振る。
「やれやれ、流石に竜との戦いは疲れるね」
 ふうと龍がため息をつく。
「そうだな。だが、今夜は美味い酒が飲めそうじゃねぇか?」
 広がる海と同じように真っ青な空を見上げたレクスがニヤリと笑った。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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