夜廻りの歌

作者:犬塚ひなこ

●黒き死の影
 人気のない空き地にゆらりと泳ぐ影が見えた。
 仄蒼い光を放ち、宙を舞うそれらは死神怪魚だ。まるで踊るようにくるくると周囲を泳ぎ回った二体の怪魚は魔方陣を描き、かつて死した命を呼び起こしていく。
 そして、其処に先程までは居なかったはずの獣が現れた。
 黒い毛並みが冬の風で揺れ、鋭く立った耳は空気の音に合わせて動く。それは神造デウスエクスである犬型のウェアライダーだった。星の色めいた蒼い瞳は狂気に満ちており、知性やまともな意識があるようには思えない。
 おそらく、死神達は第二次侵略期時代に暴れていた個体を甦えらせたのだろう。
 怪魚を引き連れ、黒犬は唸り声をあげる。
 遠く轟いた鳴き声は星が瞬く空に響き渡り、冬の空気を震わせた。
 
●青い目玉の黒犬
 ――オリオンは高くうたい、露と霜とを落とす。
 そんな歌が似合うようなとても寒くて透き通った空気が満ちる夜に、その事件は起こる。ヘリオライダーから聞いた未来予知の話を語り、柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)は仲間達に説明していく。
「このまま、だと……死神、の、おもうつぼ、です」
 たどたどしくもしっかりと話し、沙夜は過去に自分が向かった件を思い返した。
 下級死神によって過去に死亡したデウスエクスが呼び起こされた事件はこれまでにも幾つも起こっている。これもそのひとつだ。
 黒犬のウェアライダーを呼び起こしたのは二体の死神怪魚。
 死神自体は弱い下級個体なのだが、サルベージされたデウスエクスは変異強化されているため、恐ろしい力を持っている。
 サルベージされた場所が人気のない郊外の空き地であることが不幸中の幸いだ。だが、このままではウェアライダーが死神の戦力として持ち帰られてしまう。
 沙夜はそれを阻止しなければいけないという旨を告げ、戦いについて話していく。
 
「黒犬さん、は、人影を見ると、すぐに、襲ってくる、みたいです」
 敵は好戦的らしく、一度接触すれば戦闘中に逃走することはない。
 しかし、その分だけ強力な力を秘めているので決して油断してはならない。相手はウェアライダー特有の攻撃や動作を行うが、その威力は相当なものだと予想される。
 そうして、気を付けましょうと語った沙夜は顔をあげた。
「ウェアライダーさ、んは、仔犬さんじゃ、ない、ですが――」
 星の下で甦った黒犬のことを考え、沙夜は頭に浮かんだ思いをそっと口にする。そのとき、彼女の裡には冬の星をうたった昔の歌が巡っていた。
「わたしには、あをいめだまの、こいぬ、さんに思える、の、です……」
 何より死したデウスエクスを復活させて、更なる悪事を働かせようとする死神の策略は許せるはずがない。沙夜は瞳を閉じ、かの獣を想った。
 きっとこの戦いは悲しき魂を葬送するものになる。そう、信じて――。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
七海・渚(泡沫・e00252)
東雲・海月(デイドリーマー・e00544)
ソネット・マディエンティ(自由という名の呪縛・e01532)
リーズレット・ヴィッセンシャフト(焦がれる世界・e02234)
大御堂・千鶴(幻想胡蝶・e02496)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)

■リプレイ

●星供
「――あおいめだまのこいぬ……♪」
 夜のしじまに幽かな歌声が染み渡ってゆく。ゆらり、ゆらりと宵闇色の長い髪を揺らして歌を紡ぐのは、柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)だ。
「悪くない夜空だ」
 少女の歌声を聴き、八代・社(ヴァンガード・e00037)は星が瞬く空を振り仰ぐ。霧島・絶奈(暗き獣・e04612)もそれに倣い、ふと浮かんだ言の葉を零す。
「ケンタウルス、露を降らせ」
 何となくそう口走りたくなるような空を見上げ、絶奈達は暫しの間だけ静謐に身を委ねた。だが、この静けさは間もなく破られてしまう。
 絶奈達が見遣る先には浮かびあがる魔方陣の光があった。
 死神怪魚達が黒狗のウェアライダーを甦らせた様を確認し、東雲・海月(デイドリーマー・e00544)はぽつりと呟く。
「せっかくの綺麗な夜空なのに……物騒だねぇ」
「デウスエクス時代のウェアライダーだったとはいえ、こうして敵として対面するのはなんだか変な気分だね」
 七海・渚(泡沫・e00252)も海月の声に頷き、遠く響く唸り声に耳を澄ました。
 死神達に無理やりに呼び起されたのだから機嫌が悪くもなるのも仕方ないのかもしれない。海月が納得した表情を浮かべ、ソネット・マディエンティ(自由という名の呪縛・e01532)もこくりと頷いた。
 ソネットが腰に固定たハンズフリーライトで視界を確保すると、空き地に光が射す。
 その光によって死神と黒犬がケルベロス達に気付き、戦闘態勢を取った。
 リーズレット・ヴィッセンシャフト(焦がれる世界・e02234)は身構え、牙を剥いて近付いて来るウェアライダーの姿を瞳に捉えた。
「一度落とした命を蘇らせると聞くと魅力的な言葉に聞こえるけどな……」
 ただ、それはやってはいけないことだ。リーズレットが死神怪魚に意識を向けると同時に、彼女の頭の上に乗っていたボクスドラゴンの響も構える。
 そして、ソネットは向かい来る黒犬の方へと駆ける。
 刹那、獣の爪がソネットの身を切り裂いた。即座に防御体勢を取った彼女は敵の速さを実感し、反撃として鉄塊剣を振り下ろす。
「気に入らないのよ」
 一言、落とされたのはソネットが敵に対して感じた心情だった。
 彼女が黒狗を引き付けている間に、皆が先ず狙うのは死神怪魚達の方だ。
 大御堂・千鶴(幻想胡蝶・e02496)は怪魚へと竜語魔法を紡ぎながら、黒獣の方に視線を差し向けた。
「無理矢理起こされるなんてさァ、目覚最悪だよネェ。ボクだったら相手の顔面殴っちゃうよォ、キャハハ!」
 千鶴は掌から竜の幻影を解き放ち、何処か楽しげに笑う。
 戦いの開幕直後から激しい炎が舞い、昏い夜が鮮烈な赤に彩られた。その合間に絶奈がテレビウムを前に布陣させ、沙夜ものそのそと動くウイングキャットのカゲに皆を護って欲しいと願う。
「可哀想な、ウェアライダーさんを、早く星へ還してあげましょう」
 沙夜は気持ちを言葉に変え、傷を受けたソネットに満月めいた光の癒しを施す。
 海月が禁断の断章を紐解いて詠唱し、渚は古代語魔法を紡ぐことで仲間達の感覚を研ぎ澄ませていった。社は仲間達からの援護を受け、視線で礼を告げる。
「空を泳ぐあの星には届かないだろう。だが……」
 ――おれ達が、そこまで送ってやる。
 社は吼える獣と浮かぶ魚達を改めて見据え、凛と言い放った。

●南十字の境界
 刹那、社が解放した魔術作用によってその脚に漆黒の銃靴が生成される。
「歪め。おれの魔弾をくれてやる」
 魔力弾を地に放ち、得たのは高反動の圧倒的な初速。速力を活かした一閃が死神を貫き、容赦のない衝撃が叩き込まれた。
 社が風を切る音を耳にした黒獣が吼え、海月は一瞬だけ目をそちらに向ける。
「キミの相手をしてあげたいけど、まずはお魚さん達に退場願いたいんだ」
 ちょっと待っててね、と彼らしい調子で告げた海月は影の如き一閃を解き放った。その影は死神の力を削り、揺らめかせる。
 絶奈も魔力を秘めた瞳で敵群を見つめ、或る物語の一節を思い返した。
「彼らは石炭袋より来る者なのか、それとも石炭袋に到る者なのか……」
 だが、いずれであろうとも絶奈のすることは変わらない。一体の死神が魔眼に惑わされ、ふらふらと宙を不規則に舞った。
 主敵はウェアライダーであるが故に、低級死神達は早々に葬った方が良い。
 そのうえ、黒狗はソネットが実質ひとりで抑えているようなものだ。テレビウムやカゲが守護についているとはいえ、押し負ける可能性もあった。
「その強さ、咆哮からだけでも分かります」
 渚は響く獣の声から秘められた強い力を感じ取っていた。ガトリングガンを構えた渚は死神に向け、爆炎の魔力を込めた弾丸を放つ。
 轟音が夜の最中に冴え渡り、火花が散った。
 しかし、死神達も怨霊の力をケルベロス達に放ち返して来る。とっさに響がリーズレットの頭から飛び立ち、怨嗟の弾を受け止めた。
 それを見た沙夜は仲間の傷を癒すべく、小人の行進曲の一節を語る。
「むかしむかしあるところに――」
 魔力を込めて語られた物語は実像を持ち、七人の小人達が味方を鼓舞する行進曲を歌った。しかし、敵の攻撃は連鎖となり、ソネットに獣撃が襲い来る。
 爪が彼女の身を抉り、数本の髪がはらりと舞って地面に落ちた。
「終わらせる。あんたのその命も、あんたにそんな命を与えた、あいつらの命も」
 ソネットは痛みに耐え、先ほど気に入らないと語った言葉の続きを零す。誰かに与えられた命、誰かに握られている命。それは仮初めの命でしかない。強制されるだけの奴は嫌いだが、強制する奴はもっと嫌いだ。
 そして、獣へと旋刃の蹴りが放たれた。
 千鶴はウェアライダーを相手取る仲間の健闘を確認しながら、任せきりにしたままではいけないと小さく頷く。
「ガツンと炎つけちゃった後はァ、華を咲かせようネェ?」
 次の瞬間、千鶴が紡いだのは花葬輪舞曲。死神に向けて這わせた蔦は鱗に浸蝕し、深海のように蒼い花を幾つも咲かせる。
 千鶴による蒼花は瞬時に爆発し、一体目の怪魚を地に墜とした。
 リーズレットは良いペースだと感じ、ぎゅっと掌を握る。されど、まだこんな所で気を抜いてはいけない。
 海月はすぐさまもう一体の敵に向き直り、渚も銃弾を撃ち放った。
 その間にも黒狗の気を引き、狙われ続けるソネットの消耗は予想以上に激しい。それを庇う響やテレビウム達の体力も削られている。
「皆大好きにくきゅうぷにぷに、癒しの時間がやってきたぞー!」
 リーズレットは肉球グローブをはめ、にくきゅうをぷにぷにさせて仲間を癒した。沙夜は仲間の癒し方法に思わず双眸を細め、自分も頑張ろうと心に決める。
「わたし、も、みなさんを支えます」
 沙夜が放つ月の光は夜の闇を薄く照らし、攻防の合間に怨霊弾を受けてしまった社を癒した。リーズレットと沙夜の二人によって回復の隙はない。
 社は死神へと心の底からの侮蔑と嫌悪を込め、無言で更なる銃弾拳法を放った。彼に合わせ、渚も流星めいた蹴りを見舞う。
 カゲも面倒くさそうに鳴きながらもキャットリングを飛ばし、仲間達の援護を行ってゆく。幾重も攻撃が重ねられていく中、好機を感じた絶奈はテレビウムに敵の横に回り込むよう指示を行った。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 そして、詠唱を行った絶奈は狂的な笑顔を浮かべる。
 刹那、多重展開された魔方陣から巨大な槍めいた輝光が解き放たれた。そこにテレビウムが凶器を振り下ろし、穿たれた怪魚が地に伏す。
 これで死神との片は付いた。
「よく頑張ってくれた。……待たせたな」
 社は地を蹴り、傷だらけのソネットの側へと馳せ参じる。口にした二言目は仲間に告げるものでもあったが、同時に黒狗にも向けられていた。海月もソネットの反対側に回り込み、これまでありがとうと明るい笑みを浮かべる。
「さ、ここからが本番だね。思いっきりいくよー」
 海月は魔導書をひらき、頁に記された一節を口にした。何が起こるか彼自身も分からない。トリックスターの名の通り、不意に発現した衝撃がウェアライダーを貫いた。
 グルル、と呻き声が響く中で渚も攻勢に移る。
 だが、怒りの儘に振るわれた敵の爪は渚へと襲い掛かった。
「くっ……強い! 不謹慎だけど今彼が生きてなくて良かったって心から思うよ!」
 死したモノである獣を睨み返し、渚は痛みを堪える。即座に沙夜が御伽噺の癒しを発動させ、渚の痛みをやわらげた。
 その合間に千鶴はナイフの刀身を敵に差し向ける。
「ボクは咲かせるワザが得意だからさァ、キミみたいに枯れてるヤツは鹵獲する気起きないんだよネェ。キャハハ!」
 千鶴の刃が黒獣に襲い掛かり、鈍く光る様はまるで六等星の輝きのようだった。
 更にソネットが指先の突きで敵の気脈を断ち、同情心を向ける。
「哀れね」
 短く告げられた言葉にはそのままの意味しか込められていなかった。ただ、此処に在ることが不条理でならない。リーズレットも小さく頷き、複雑な心境を言葉にした。
「命をこんな風に扱うなんて、許せない……」
 生に対しての冒涜を行った怪魚は死したが、生ける屍獣は未だ健在だ。リーズレットは唇を強く噛み締め、掌を空にかざす。
 極光めいた癒しの力は夜空の下で淡い煌めきを宿し、ふわりと広がった。

●眠りへの導き
 激しい獣の咆哮が星空に響き渡る。
 だが、ケルベロス達の戦略に抜けはなかった。皆を後方から支える癒しの力も、攻撃手達の連携も、攻撃と同時に与える効果やサーヴァント達の援護も問題ない。
 故に後は畳み掛けていくだけ。
「さァて、今度こそ安らかに眠らせてあげるよォ?」
 千鶴は口許を緩め、毒を宿した黒液の一閃を放った。
 社は余裕めいた所作で銃弾を撃ち込み、獣に思う。こいつも嘗ては理性を備え、この世を生きていたのだろう。だが今は動き回る死体と何ら変わらない。
「あの星まで逝けよ。一番に光るプロキオンまで。手向けの魔弾をくれてやる」
 厳かに告げた社に続き、海月と渚が影の斬撃と爆炎の弾丸を放った。三人の連続攻撃は黒狗を揺らがせ、その力を確実に削る。
 だが、相手もソネットを食い殺さんとして猛威を振るった。
 魔力を籠めた咆哮が彼女の身体を捉え、体力を奪い取る。だが――。
「この意志はその程度では止められないわ。それに、簡単に獲られてしまうほど、『私』の命は安くないのよ」
 寸での所で耐えたソネットは体内の地獄を限界まで活性化、全身に循環させることで傷ついた部位を補完した。
 前衛達にも咆哮が及んだが、テレビウムが応援動画を、響が癒しの吐息を、カゲが清浄の翼を広げることでカバーしていく。
 リーズレットはもう癒しは不要だと判断して攻撃に移る。
「行こう! こんな悲しいものは終わらせるんだ!」
 ユキと名付けたブラックスライムを解き放ち、リーズレットは高らかに仲間達に呼び掛けた。沙夜は彼女の抱く思いをそっと感じ取り、自らも竜語魔法を紡ぐ。
「犬さんを葬送って、そして、みなさんで星見を……」
 沙夜は竜の幻影から炎を巻き起こし、しっかりと敵の姿を見つめた。敵の力が弱る様を感じた絶奈は呼吸を整え、ふたたび詠唱をはじめる。
「――今一度、嘗ての棲家に送り帰すのみです」
 闘争を好む狂戦士で在りながら、他が為の救済者で在ろう。そう願う絶奈は矛盾を孕む存在だが、生命の根源を思わせる槍に込めた力は本物だ。
 絶奈の解き放つ一閃が敵を穿つ中、回り込んだ渚は相手に足払いを試みる。次の瞬間、黒狗の身は狙い通りに傾いだ。
「最後! 決めて下さい、マスター! 皆さん!」
 仲間を呼んだ渚は敢えて援護に回ることで最大の好機を作った。彼女の声に頷きを返した社は己に力を纏わせる。
「剥奪されたあんたの尊厳を、今ここに返す。――だからもう眠れ。あの高みで」
 接敵と同時に仕込み銃からの魔弾を放った社は、低く詠うような聲で囁いた。その声が相手に届いたかは分からない。だが、戦いは終幕に近付いている。
 ソネットが電光石火の一撃を入れ、海月は星の力を宿した斬撃を見舞った。
 千鶴は次が最後になると察し、蔦を開放した。
「手向けの花ぐらいは贈ってあげるよォ。だからさァ、」
 ――もう楽になってもイイんだよゥ。
 落とされた言葉と共に花が咲き、敵の身を裂き、咲き乱れる。その花の色は透き通るような星の青色。花に包まれながら倒れゆく獣を見つめ、海月は小さく呟く。
「ん、ゆっくりお休み」
 今度こそ誰にも邪魔されずに眠れると良い。思いは星の下でそっと巡った。

●夜は廻る
 死魚は絶え、伏した黒き獣の体も静かに消失していく。
「今の時代に貴方が生まれていたら、肩を並べて、一緒に戦うことが出来たのかな」
 願わくば彼が無事に天へと登り、星と共に在れますように。そう願った渚はその様を見送り、祈るように瞳を伏せた。
 海月は仲間の思いに頷きながら、星々が瞬く空を指差す。
「ほら! 一緒に星見しよ、綺麗だよ」
 そうすれば彼のウェアライダーも迷わずに還れるはずだから、と海月は笑んだ。リーズレットも頭の上の定位置に戻った響に笑いかけ、自らの掌を重ねる。
「送ったわんこが天に登れるように願掛けは良いかもしれないな! しよう!」
 今度はちゃんと天国に行くのだぞ、とリーズレットはしっかり願った。
「……まぁ、そうね。ゆっくり休めたらいいわね。あいつも」
 ソネットは一人で帰るのも何だと気付き、仲間達と共に夜空を見上げる。絶奈もそっと星を眺め、吸い込まれる様な美しさとはこういったものを言うのだと実感した。
 社も隣に佇む渚と共に星を見遣る。
「星座の話ってのは覚えておくと、話の種になるんだ」
 女と話す時には特にね、語った彼の眸の中には幾つもの星が映り込んでいた。渚は何故かその瞳がとても綺麗だと感じていたが、敢えて彼には何も言わないでおいた。
 そして、沙夜もいつの間にか丸まって眠ったカゲの傍に座り、星を見つめる。
「ウェアライダーさんは、ちゃんと星に、還れたのかな」
 わたし達の葬送は、うまく行ったのでしょうか。そう途切れ途切れに語られた思いを聴き、千鶴は双眸を細める。
「さァて、神様はこのウェアライダーをどんな星座にしてくれるかなァ」
 零れ落ちた言葉の答えを知る者は誰も居なかった。
 夜空は何処までも続く昏くて深い闇。けれどあんなに大きな暗闇の中だって星の標があればこわくない。きっと、みんなが本当の幸いを探しに行ける。
 絶奈は或る本の終章を思い浮かべ、夜空を眺めて想いを馳せた。
 今宵、ひとつの命が正しく導かれた空の下で――さあ、星がめぐる夜を謳おう。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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