ヒーリングバレンタイン2016～笑顔のショコラ

■リプレイ

●蘇る街並み、そして想い
　多少の被害は出たものの、東京防衛戦に無事勝利したケルベロス達。しかし彼らは、勝利の余韻にじっくりと浸るよりも先に、早速被害を受けた地域の復興に動く。
「よっしゃ、おいちゃんの腕に掴まんな。そこらのブランコよりも楽しませてやるよ～」
　建物をヒールしていた陽治と穣の元へ、ひとりまたひとりと近づくのは、興味を惹かれた子供たち。一緒に遊びたくてうずうずしている子らの背中を押し、陽治は楽しそうに、両腕に子供をぶら下げて走り回る。
　そんな彼の姿を、穣は目を細めながら見守っていて――この思い出の多い町並みが失われず、且つ見ていて元気が出るようにと願いながら、丁寧にヒールを施していった。
「……やっぱ子供は楽しく笑ってる姿が一番さ。それはいつの時代だって変わらない、穣もそう思うだろ？」
「うん、本当に。そう言えば陽治はどんな子ども時代だったのかな？」
　ひとしきり遊んだ後、隣に腰掛け休憩する陽治へ、穣はふと問いかけてみる。ただ野山を駆け回ってただけ、と笑って答える彼とは対照的な日々を、穣は送っていたのだけれど――それ故に、ちょっとした事がとても嬉しかった。
「兎も角まあ、この笑顔を守って行けたらいいな。その為にも互いの助けが必要だ、これからもよろしく頼むぜ？」
　一方、ルヴァリアとセレナは、小学校の校舎や校庭をヒール――あちこちを巡りながら、当時のことを思い出して懐かしい想いに浸る。そう言えば、ふたりが出会ったのも、確かこの頃だっただろうか。
「感傷……ね、でも思い出せた。絶対に挫けない……遥か高みを目指す気持ち」
　呟くルヴァリアは符を展開、重武装モードに切り替えて一気に周囲をヒールしていく。そんな眩しい彼女の姿を見つめながら、セレナの口から零れたのは幼き日の口調だった。
「僕は、あの頃より、強く、なれてる……よね」
　力を付けた実感はあるけれど、貴女に及ばぬのがもどかしいとセレナは思う。彼女を越えたいと気ばかりが急く彼が、ルヴァリアの想いに触れる日はいつになるだろう――きっと並んで歩む日が来ると、既に彼女は実感しているのだ。
（「まだ、アタシは歩いてる……羽ばたいてる途中なんだ。これからもセレナ達と進んでいくわ」）
　今回の作戦を取ったのは自分達。だから責任を持って復興していかないと、と泰地は東京中を駆け回ってヒールに奔走する。
「よっしゃ、この筋肉に任せろ！」
　次々に繰り出されるボディビルのポージングと共に、癒しの波動が放たれ建物を蘇らせていった。しかし、泰地は止まらない――次の被災地を復興すると言う使命が、彼にはあるのだから。
「ほら、上からみると、どんどん治ってくのが分かるだろ？」
　子供を抱えた千鳥は翼を広げ、上空から復興されていく街並みを見下ろす。しかも、こんなに綺麗に――そう言って彼はオーロラのヴェールを舞わせ、破壊された建物をお菓子の家に変えていった。
　わぁ、と歓声を上げる子供は、さっきまでしょげていたとは思えないほど。彼の笑顔が見れたことが嬉しくて、そして同時に守らなければならないと、千鳥は決意したのだった。
（「子供が『仕方ない』って我慢を覚えるの、好きじゃないわ」）
　今はそんなことをさせたくないと願う純香は、相棒の杖を手にヒールをかけていく。やがて子供たちと視線が合えば、彼女はおいでと手招き――歌いながら杖を振るい、魔法のように壊れた遊具を修復してみせた。
「教えてちょうだい、のぞむものを。あなたたちの笑顔が咲かないようじゃ、未来に灯はともらない」
　さあ、修復がひと段落つけば、甘く楽しいお菓子作りの時間だ。魔法じゃない手で、誰かの頬を綻ばせてみたい――そう囁いた純香は早速、お菓子工房として蘇った幼稚園へ向けて歩き出した。

●子供たちとのふれあい
　戦いに破壊は付き物、とは言えそれを代償の一言で済ませる訳にはいかない。ましてや、その破壊の一方の当事者ともなれば――そんなことを思うチャールストンは、楽しい時間と言う『思い出』を贈るべく、旅団の仲間たちと共に子供たちと触れ合うことにした。
「こんにちは、もし良ければおじさん達と一緒に遊びませんか？」
「お菓子作りを頑張りたい子は応援しますよ。体を動かしたい子はどうぞ、こちらへ」
　目線を合わせて、景臣が安心させるように微笑む中――遊びたい盛りのいぶきは、しょんぼりした様子の子へも積極的に遊ぼうと誘う。憧れのケルベロスに会えた子供たちは、瞳をきらきらさせている様子だ。
「お友達に、なりましょう？」
　腹話術のようにしてペンギン型のドローンを操るリディアーヌの元へは、あちこちから歓声が響いてきて。一方で、子供の扱いに慣れていないアガサは、どうしたらいいのか見当もつかない様子だったが――彼女が作っていく折り紙の動物たちに、いつしか大勢の子供たちが集まってきた。
「おねえちゃん、上手だね！」
　そんな中、ケルベロスは普段何してるのと言う質問には、チャールストンが『睡眠』ととぼけた回答をしたり。そうしている内にお茶の準備を整えた一行は、お菓子や飲み物を子供たちに配っていった。
「みんなで食べよう。ほら、子供が遠慮なんてするもんじゃない」
　大分彼らと打ち解けたアガサの声を聞きながら、チャールストンは思う。子供は『未来』を担う存在で、大人は『未来』への道を作る存在なのだと。
（「アタシ一人では無理ですが、ここにいるご常連の方々と一緒なら、たぶん」）
　小さい子供たちの遊び相手になると決めた望海は、全力で臨むことが大切とゴリラマスクを装着し、立派なゴリラに変身した。
「ゴリラごっこしましょう。捕まったらゴリラ！」
　ウッホウッホと大はしゃぎしつつ追いかけっこをする彼女は、恥じらうことなく全力でドラミングを披露する。その愛しい女性の雄姿を見守る一情は、手拍子を取って優しく子供たちに声をかけた。
「皆が一緒に遊んでくれているから、ゴリラさんも嬉しそうよー♪」
　――そうして大盛況の内にゴリラごっこは幕を閉じ、汗をかいて戻って来た望海へ、一情はタオルと栄養ドリンクを手渡して労う。
「望海様、素晴らしい芸でした。子供達も喜んでいましたわ……」
「ウホ……じゃなかった、ふふ。ありがとうございます」
　子供たちへ、元気と甘味を届けようとやって来たルムアとクーだが、彼らの笑顔を眺めていると逆に此方が元気を貰っているよう。
「……貴方の笑顔でも、私は元気と幸せを貰ってるぞ」
　ぽつりと独りごちるクーは籠一杯の苺を取り出し、早速苺のチョコフォンデュ作りに取り掛かる。お手伝いをする子供たちのリクエストにも応えつつ、溶かしたチョコに苺を浸して――それにクーは、動物風の目鼻をチョコペンで描いていった。
「ロリポップのような苺、可愛いですね」
　にっこり微笑むルムアは、クーの苺フォンデュに小さなラムネ菓子のリボンをトッピング。クーみたいに可愛くなった、と囁かれた言葉に、彼女の頬が微かに染まる。
「……ふ、不意討ちはずるいぞ」
　そう言ったクーはちょっぴり焦りながら、後でルムア用に作ろうと思っていた、デーツ入りの瓶を隠したのだった。
「皆で動物チョコを作って、チョコ動物園にしましょう」
「わ、楽しそうです。みんなでやろうよ、チョコのどうぶつえんっ」
　少し年上のお姉さんとして、シアが子供たちにチョコ作りのお誘いをすると――彼らに心から寄り添ってあげたいと願うベルタも笑顔で賛同する。
「ほら、粘土感覚で作りますのよ」
　そう言ったシアはペンギンさんを作っているようで、子供たちもチョコを捏ねるのが楽しいらしく、何時しか周りには色んな動物たちが仲良く並んでいた。
「よいしょ、よいしょ……わっ」
　ファミリアの小鳥たちをモデルにチョコを作っていくベルタだが、その時甘い香りのチョコが跳ねて、彼の頬に飛び散ってしまう。――と、すかさず指先でそのチョコを拭って、ぺろりと舐めたのはシアだった。
「ふぇっ！？」
　その仕草に何だか胸がドキッとしたベルタは、愛らしい瞳を瞬かせて、じぃっとシアを見つめていた。

●みんな一緒で、みんな幸せ
『土竜塚』の三人は、手作りチョコレートの作成を開始――ゆりあが得意げに、男子たちへ知識を披露する。
「お、皆上手じゃない！」
「レシピは予習してきたから大丈夫」
　迷いのない手付きで秋人は細かく刻んだチョコを投入し、湯煎をしてゆっくり溶けていくチョコを見たタルパが歓声をあげた。
「溶けて来た！　面白！　見てゆりあ、女子力！」
　そうして頃合いを見て、乾燥させた林檎をチョコに潜らせた後、並べて固める。仕上げは色とりどりのクーベルチュールに、粉糖や抹茶パウダーでお化粧だ。
「……タルパ、手が空いているなら、やる？」
「良いな！　やるやる、手伝う！」
　秋人とタルパ、更にゆりあも加わって。チョコのデコレーションに彼女は張り切るものの、肝心な自分のが出来ていないと慌てて――何とか完成させた後は、皆で交換会となった。
「君達の笑顔もチョコレート並に魅力的だよ。序に包装して、リボンを掛けてあげようか」
「ゆりあはともかく、俺に巻いたらツリーみたいになっちゃうぞ。わー！！　やめろー！」
　くすりと微笑む秋人から逃れようと、タルパは慌てて逃げだして。食べる前から笑顔にしてくれるのだから、やっぱりチョコレートってすごいな、と思ったのだった。
「あまり人前で笑わないで、リゼ」
　仕事ばかりで普段構ってあげられなかったから、とカイムはリーゼロッテをデートに誘ったのだが――にこにこと笑顔を振りまく彼女を、独り占めしたいと言う欲求が募る。
（「いつになく不機嫌なカイム様……そんなカイム様もとっても可愛いです」）
　食べちゃいたいくらい、と思うリーゼロッテは、彼の視線にきょとんと首を傾げた後、えへへと笑った。と、其処でカイムが手渡したのは、腕輪と一体型になっている指輪。そのお返しにリーゼロッテはウサギの形のチョコを差し出し、あーんして食べさせてあげようとした。
「っ、ごめっ、痛くなかったかい？」
　――反射的に噛んでしまったカイムに、リーゼロッテは大丈夫と微笑んで。ふふふと笑って頬にキスをする。
「今日もリーゼはとっても幸せです！　愛してますよ、カイム様！」
　自分の仏頂面に子供が泣かないか心配、と悩む七貴にセレナは安心させるように微笑んだ。
「そんな気負わなくても、私が七貴殿の分まで笑っておきますから大丈夫ですよ」
「こんにちは、ケルベロスのおねーさんですっ。一緒にお菓子を作ろう？」
　そんな中、元気一杯に子供たちに声を掛けるのはイルヴァ。彼女は早速ココアを練り込んだ生地を作って、色んな型を取り出して型抜きクッキーに挑戦しようとしている様子。
「ほら七貴さん、笑顔笑顔！」
「ってイルヴァはいきなり何をしている？！」
　不意討ちで、ほっぺをむにーとしたイルヴァに突っ込む間もなく、七貴の元へは遊んでと言うように子供たちが群がって来た。
「こら、頬を引っ張るな！　俺に登るな！」
　イルヴァも巻き込み収拾がつかなくなりかけた頃、不意に響くのはセレナの声。焼き立てクッキーの味見をしたい人、との呼びかけに、一斉に子供たちは騒ぎを止めてセレナの方へ向かっていく。
　――流石セレナさん。そう思いつつ、自然と七貴の顔には笑みが浮かんでいた。
（「……元気づけるつもりが、俺の方が元気を貰ったのかもしれんな」）
　こら、尻尾を引くでないとたしなめるノーザンライトは、いつの間にか子供たちに遊ばれているようだ。そんな彼女は子供の夢に魔女を加えるべく、大鍋を使った錬金術風のチョコ作りを開始した。
「渡したい誰かに似合いそうな色と、自分の好きな色を選んで、一緒にするんですっ」
　一方でルチルは、手作りストラップの作り方を教えながら――自分が作った、三つの石が煌めくストラップを示して、ふわりと微笑む。そんなルチルの様子に和みつつ、氷翠は子供たちと可愛いチョコ作りだ。
「ハートにお星様、お花やひよこさん……皆、何の形が良い？」
　みんなで交換こすれば、きっと楽しい。彼女もまた、エリオットとひよこのチョコを交換してほっこりしていたから。
「よし、もう食べよう」
　と、食いしんぼのノーザンライトは、早速ドライフルーツでのチョコフォンデュを開始した様子。仲良しのふたりにも、串に刺したチョコを持って行って――はい、あーんと勢いで食べさせてあげた。
「……おいひい」
　少し照れた様子を見せる氷翠だが、ルチルは嬉しそうに尻尾を振っている。そうして彼女たちは、それぞれに手作りのチョコを交換していった。
「三色一緒、皆、仲良し……♪」
「二人とも大好きです！」
　カラフルなチョコを手渡す氷翠に、抹茶クッキーのクランチ風チョコをお返しするルチル。そしてノーザンライトは、ドライフルーツを混ぜたチョコを差し出そうとしたのだが――。
「これは、親友チョ……やっぱ友チョコ！」
　そうして照れくさそうに渡して逃走する彼女を、ルチルに手を引かれながら氷翠が追いかける。
「……嬉しい、ね」

●笑顔の魔法
　楽しい時間になるように、そのお手伝いが出来たら嬉しいと、フィニリオンは絵本を読んだり鬼ごっこをしたりして、子供たちと触れ合う。
（「子供は……周りの皆が大変だと、寂しさや苦しさを押し込めてしまいがちです……」）
　遠慮がちな子へは、我慢しなくて大丈夫と優しく抱きしめて。フィニリオンはエリオットとも、手作りチョコを見せ合って微笑んだのだった。
「わーい、みんなボクと遊ぼうよー！」
　分かりやすいようにケルベロスコートを身につけた陽子は、元気一杯に子供たちと追いかけっこ――ぎゅーと抱きしめてつかまえた後は、スポンジの剣を使ってケルベロスごっこだ。
「はい、ちーず♪」
　と、その様子を写真に収めていたエリオットの腕に抱きついた陽子は、ほっぺをくっつけてふたりの姿も思い出に加えておいた。
「わ、僕も写っていいのかな……？」
　ちょっぴり照れているエリオットだが、楽しい時間を過ごすことが出来て、陽子には感謝しているようだ。
（「えへへ、エリオットくんはイケメンで可愛くて真面目ないー子で、おねーさんは大好きなのです♪」）
　家を追われたり、大事な場所を壊されたり――皆大変だったのだろう。そんな子達の為に少しでも力になりたいと、緋音はノルと一緒にチョコレートを贈ることにした。
「大変だったのに、よくがんばってくれたなっ。俺たちが戦えるのは、みんながこわくても、支えてくれたからだぞ」
　子供と目線を合わせてノルはお礼を言って、チョコと一緒にケルベロスカードも贈る。ケルベロス自身から手渡された贈り物に、子供たちは弾けんばかりの笑顔を見せて、ありがとーと緋音たちの胸に飛び込んで来た。
「ふふ、子どもって可愛いよな……子どもかぁ……良いなぁ……」
　ぎゅっと子供を抱きしめて呟く緋音に、ノルもぽんぽん背中をさすりながら――少し未来を見ているような気分になる。
「う、うん。子どもってかわいいよな……」
　知らず頬が赤くなるふたりは、いつかの未来に想いを馳せながら、子供たちに笑顔を届けていった。
「家族の指人形、可愛いな。これなら皆励まされるよ」
　家族を模した布製の指人形を五つ作ったララは、それを指にはめて動かしながら童謡を歌う。彼女の歌に合わせて一緒に歌うルテリスは、子供たちと戯れるララの姿を微笑ましく思い、そっと笑みを浮かべた。
（「私にはママの記憶がほとんどないけど……」）
　親子連れが楽しんでくれた姿を見届けたララは、その後ルテリスにも同じ指人形をプレゼント。ララの母です、なんて言って人差し指をくいくい動かす仕草に、ルテリスは礼儀正しく微笑み返した。
「僕の方こそ、娘さんにお世話になっています」
　――きっとララは、優しい良い母になりそうだ。そう思ったルテリスは、彼女の相棒――クストの人形をお返しに差し出す。
「わぁっ、嬉しい！　大切にするわ」
　また一緒にお出かけしてくれる、と尋ねたララに、ルテリスは優しく頷いて。これからもふたりは、思い出を沢山作っていくのだろう。
（「多少のおいたも、大らかな気持ちで受け止めて見せましょ」）
　思えば妹に弟、いっぱいいたっけなぁと思い返しながら――イェロは自分を見つめる子供たちを、ちょいちょいと手招き。そうすれば彼らは直ぐにイェロに懐いていって、チョコ作りのリクエストがあちこちで飛び交う。
「いくら器用たって、複雑なのは出来な……いや、頑張るけど！」
　合体ロボなんて無茶な注文にも応えつつ、合間に美人のお母さんやお姉さんがいないかと尋ねるイェロは、その裡で戦う気持ちを新たにしていった。
「ねぇねぇみんな、知ってるかな。笑顔ってね、誰にでも使える世界一簡単で、世界一やさしい、みんなみんなを心から幸せにできる素敵な魔法なんだ」
　おいでおいでと子供たちを集めたリーディスは、とっておきの秘密を教えるように、そっと指を立ててウインクする。
　特別な力なんて、なぁんにも必要無い――だから、どこかでしょんぼりしたり、寂しそうにしている人達を見かけたら、君達からも笑顔の魔法をかけてあげよう。
「みんな笑顔でハッピーエンド。甘く楽しい素敵なバレンタインを過ごそう！」

作者：柚烏	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年2月13日 難度：易しい 参加：37人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 6／キャラが大事にされていた 4
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