●バレンタインって誰のもの?
「よっす、皆ー。ちょっと聞いてほしい」
大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が資料を開きながら、ケルベロス達に話しかける。
「現在、人馬宮ガイセリウムの東京侵攻により、東京都内に被害が出ている上、このままだと更に大きな被害が予測されている」
『東京防衛戦』が控えている以上、最善の結果でケルベロス・ウォーが終了したとしても、ガイセリウムが通過した市街の被害は大きいだろう。
最悪、首都消失も考えられる。
「そこでだ! 戦後の東京都心部の復興も兼ねて、バレンタインのイベントをやらないか?」
雄大が笑顔でケルベロス達を見回す。
「大本の目的は、東京都内の被害が大きかった場所や建物なんかのヒール作業なんだけど、バレンタインが近いから、ヒールされた建物の一部もバレンタインに影響された形に修復されるはずなんだよ」
具体的に言うと、お菓子っぽい雰囲気になったり、ハート装飾が多くなったり、バレンタインに相応しい建物として修復されるだろうと言うことだ。
「と言う訳で、その建物を利用して、バレンタインのプレゼントを用意しようって言うイベントをやろうと思うんだよ。勿論、俺達だけじゃなく、被災した周辺の住民も参加できるイベントにすれば、防衛戦後の人達の心を元気づけることも出来ると思うんだ」
市街地の復興と被災者の心のケア、そしてバレンタインの準備が同時に出来る、一石三鳥の作戦だと言うことらしい。
「でだ! ヒールをして、イベント会場にするのは、商店街にしようと思う」
店が立ち並ぶ商店街のヒールをいち早くする事は、近隣住人にとっても、生活を立て直すのに重要になるのは、間違いないと雄大は考えたのだ。
「で、イベントの内容なんだけど。イギリス風で行くから♪」
笑顔で言う、雄大にケルベロス達が疑問符を浮かべる。
「日本のバレンタインってさ、女の子が男にチョコをあげるイベントじゃん? だけどさ、気持ちを伝えるのって男からでもいいと思うんだよな、俺」
雄大が言っていることにも一理はある。
3月にホワイトデーがあるとは言っても、日本の慣習だとホワイトデーは、男が告白する日では無く、男がバレンタインのお返しを女性にする日と言う認識だ。
「調べてみたんだけど、イギリスでは、バレンタインにプレゼントをあげるのは女の子に限らなくて、男からは一輪の花と想いを綴ったカードを贈るんだって。だからさ、会場を沢山の花で彩って、参加者にはそこから一輪の花を選んでもらって、手書きのカードを添えて好きな相手のプレゼントにしてもらおうと思うんだよ」
チョコレートメインの日本のバレンタインにおいて、珍しがられるかもとケルベロス達は、考え始める。
「皆には、会場のヒールと道具や材料の搬入、イベントの進行、参加者のお世話と言った、沢山のお仕事をお願いすることになると思うけど、よろしく頼むな!」
当然、皆も想い人へのプレゼントはそれぞれ確保してもらっていいからと雄大が笑う。
「と言う訳で、男子諸君! 待ってるだけじゃなくて、好きな女の子には自分からアプローチしような♪ 気持ちは伝えなきゃ伝わらないぞ♪」
『女の子の参加も勿論オッケーだからー♪』と言うと、雄大は早速、イベントアイテムを輸送出来る様に、ヘリオン内部の整理に向かった。
●花待ち時
「着いた、次の現場はここか?」
各イベント会場をヒールして周っている泰地が、着いた早々、気合いを入れている。
そこへ、このイベント会場の責任者、雄大が声をかける。
「泰地、お疲れー。って、お前、此処で何ヵ所目だ?」
「今回の作戦をとったのはオレ達だからな……責任を持って修復していかねーと」
泰地の出来る限りのことがしたいと言う気持ちが雄大にも伝わってくる。
「まあ、無理はするなよ。じゃあ、ここら一帯のヒールお願いしてもいいかな?」
「任せろ!」
そう言って泰地は、ポージングをすると、身体中から癒しの波動を放っていく。
「多少見た目が変わっちまうかもだが、そこは堪忍してくれな!」
泰地の言葉通り、修復された建物にはチョコやキャンディと言ったお菓子の装飾がされていく。
一通りヒールすると、泰地は、嵐の様に次の会場へ向かった。
「英国式……へぇー、向こうだと花を贈るんっスね」
花を飾りつけながら、零菜が、日英ハーフである、有栖に尋ねる。
「そうだよ。オレも日英ハーフだから、よくカードとか贈ってたんだよね♪ ……あっ、勿論、友チョコ的な奴っスよ!!」
有栖は、途中まで言って大慌てで『友チョコ』部分を強調する。
「そんな、慌てなくてもいいっスよ。あ、チョコはチョコでちゃんと用意してるから、期待してて大丈夫っスよ、加賀美さ……じゃなかった、あ、有栖……」
言いながら頬を赤くする、零菜。
「え? チョコくれるの!? うわぁ、楽しみだなぁ……零菜ー? 今、名字で呼ぼうとしたでしょー?」
喜びつつも、零菜が自分のことを名字で呼ぼうとした事を聞き逃さない、有栖。
大事な相手だからこそ、自分のことも特別に思って欲しい。
普通に名前を呼んで欲しい……。
二人で和やかに飾り付けをしていると、零菜が声を上げる。
「おっとと、ちょっとここは高くてとどかないっすね……」
その言葉に、有栖が代わりに飾ろうとするが180近い有栖でも届かない。
「有栖も届かないっスか?」
零菜の残念そうな表情を見て、有栖は考える。
「……そうだ! オレの肩を貸すッス♪ 肩車ッスよ。絶対落とさないッスから!」
「肩車! それならいけるっスよ!」
アリスの提案に笑顔で賛成すると、早速二人の共同作業が始まった。
「……どうッスか? 高身長の世界は?」
「視線が高くていいッスね! この辺に飾り付けて、っと」
「お、いいね! センスあ……!」
有栖が見上げた瞬間、無邪気に自分の上で飾り付ける零菜の胸が見えてしまったのだ。
有栖の言葉が途切れたのと、頬が赤くなったことで零菜も気づく。
「……う、上見ちゃダメっスよ、有栖」
言いながらも、そんな風に顔に出てしまう有栖がなんだか可愛くて、零菜は微笑む。
その後も二人は、高所の飾り付けを和やかにこなしていった。
「んへへー。たまには気分転換に外に出るのもいいよねぇ」
ヒールグラビティを辺りに放ち、そう無邪気に笑うのは、丁だ。
「ゆきちゃんも一緒だし、安心!」
「……はいはい、ねぇねだけじゃ心配だしな」
ゆきちゃんと呼ばれても、無表情に返すのは、丁の義理の弟、雪乃。
「ねぇねは、会場のヒール頑張りましたっ! ゆきちゃんは、私を褒めるといいよ!」
胸を張る様に丁は言うと、身体中から褒めて褒めてオーラを出している。
雪乃はと言うと、丁の頭を一撫でしながら。
「偉い偉い……これでいい?」
と、感情を込めず言う。
「ってその言い方は、心がこもってなーいっ!」
「……はいはい」
表情に出して怒る丁をあやすように、雪乃の大きな手が丁の頭をぽんぽんと撫でた。
「むう。子供扱いするんだからぁ! お詫びに一緒にお花、見るんだからね! 花より団子って知ってるけど、ねぇねに付き合ってもらいます!」
「はいはい、ねぇねに付き合うよ」
言いきる丁に仕方ないなあと思いつつも、雪乃は丁への花を考えていた。
●花飾り
「悪いのう、手伝ってもらって。雄大が、こっちにあんまり人員を配置してくれなかったんじゃ」
「いや、元々手伝うつもりだったから問題ないぜ」
謝りながらも、カードの分類を続けている咲次郎に、こちらも手を動かしつつ龍次が、軽く返す。
「人員足りないんだから、仕方ないだろう。ぼやいてないで、働く働く」
名前の挙がったタイミングで現れると、雄大は花のチェックをしている、シアに声をかける。
「シア、花のチェック任せちゃってごめんな」
「いえ、お花に囲まれるのは素敵ですもの。薔薇、カーネーション。少し抑えめの方がいい方には、勿忘草、パンジー……」
穏やかに笑いながら、シアが花を振り分けていく。
「チョコレートコスモスなんていうのも良いですわね。花言葉は、移り変わらぬ気持ちですのよ」
「バレンタインにぴったりだな。花言葉もプレートに記入していくか」
そう言って、花を選りわける雄大の髪に咲いた花がシアの視界に入る。
「そうそう、大淀さんのお花……向日葵も花言葉は『愛慕、あなただけを見つめる』ですから、ぴったりですわね」
言われて、雄大は自分の向日葵に触れると、ニカッと笑って。
「サンキュ♪ シアのミモザの花言葉もぴったりなの知ってるか? ミモザの花言葉は『真実の愛、秘めやかな愛』だからな」
「まあ。花言葉に注意してお花と色は選んでいきましょう」
シアが微笑みながら言うと、雄大も笑顔で頷き、二人で花を選んでいく。
「カードは、名刺サイズから色紙、手紙……折り紙まであるのか」
「来場者は、子供もいるじゃろうからのう」
「にしても、数が多いな。花は季節ごと、カードはサイズごとに分けておけば……。ああ! 別の紙に、どの花をどの季節で置いたか書いておかないと……」
龍次の細やかな気配りに内心感心する咲次郎
そして、男2人、黙々とカードの準備を続け、一通り終わると。
「わし、お茶もらってくるから、龍次は休憩しとってくれ」
そう言って、咲次郎が席を外すと、龍次は花を見ながら、一人の人物の顔を思い浮かべた。
「あの人に贈る花か……。ハナミズキかピンク色の椿か……迷うな。花言葉か……。……どっちを選んでも恥ずかしいな、これ」
困り顔になりながらも龍次は、一本のハナミズキを手に取ると、机に向かい少し大きなカードに文字を綴る。
「えっと、『きっかけはどうあれ、俺はあなたのことを思います。俺はあなたのことが好……」
「お待たせしたのう。お茶じゃ」
「うおう!」
突然現れた咲次郎に、思いきり驚く龍次。
「どうしたんじゃ?」
「いや! なんでもない」
(「絶対他の人に見せられねぇ、あとでちゃんと書いて、他人に見られないよう隠しとこ……」)
そう、心に誓う龍次だった。
「ふう、これだけ、花があれば来場者も喜んでくれるかな?」
「お花は気持ちを晴れやかにしますものね」
雄大の言葉に笑顔で返すシア。
「ふふ、皆さんの素敵なバレンタインのお手伝いが出来たら嬉しいですわ」
(「より沢山の笑顔が咲きます様に……」)
シアは、心の中で人々の笑顔を願った。
●花案内
イベントが開場すると、場は沢山の人で賑わいだした。
そんな中、一際忙しく動く羽目になったのが、ノルと緋音である。
「よかったら、これどうぞ」
メッセージカードに花言葉の一覧を添えて渡す、ノル。
照れながらもそれを受け取る男性を見ながら、ノルは考える。
(「男から花を贈るのって、気になりつつも、どうしていいか分かんない人って、きっと多いよな。そう言う人の花を選ぶ手伝いが出来ればいいな」)
男からの花のプレゼント。
男側に照れがあるのはノルにもよく分かる。
(「大切な人に、伝えたい想いに合わせて、花を選んだら……きっと、伝えやすいよな」)
そんな思いでノルは、困り顔の男性客に積極的に声をかけていった。
ノルと一緒に案内をするつもりでいた緋音は、女性客の案内でてんてこ舞いだった。
欲しい花がどこにあるかと聞かれれば案内し、花言葉が知りたいと言う人にはハンドブックを渡す。
恋人と一緒に来たはずなのに、こんな華やかな場所で離れ離れと言うのも切ないものがある。
ほんの少しの休憩時間、花に囲まれたテーブルに着くと、薔薇の花が目に入る。
(「この間、ノルから薔薇を11本貰ったからな……アタシからも、赤い薔薇を渡したい……お返しって訳じゃないけど」)
緋音は薔薇を一輪手に取ると、ポケットから一枚のメッセージカードを手に取り、普段なら絶対に言えない言葉を書く。
『貴方を心から愛しています。これからも、そばにいてください。貴方の緋音より』
書き終わり、筆を置いた瞬間、緋音は恥ずかしさで机に突っ伏す
(「これ、渡せるのかよ……」)
一方ノルはと言うと、案内の途中で手際よく一輪のピンクの薔薇を手に入れていた。
どの花にしようか迷っている男性がいたので、話を聞いて彼にも同じものを勧めたのだ。
『一輪の薔薇には、一目惚れって意味があって、出会った時からあなたを愛してる』
そんな言葉を伝えて。
既に書き終えて渡すだけのメッセージカードには。
『愛してる』の短い言葉に『そばにいてくれて、ありがとう』の言葉が添えられていた。
●花模様
「綺麗なものだな……」
小さく感嘆の声を漏らすのは、雪華だ。
会場にずらりと並んだ花は、どれも美しい。
そんな花達を見ながら、自分の大切な人には何の花がいいかを考え見て回る。
(「愛の花……赤い薔薇がポピュラーだが……」)
そんなことを考えていると、真っ直ぐに花開く黄色い花が目に付いた。
「……向日葵? こんな時期にもあるのか……」
雪華は、その鮮やかな黄色から目が離せなくなっていた。
そっと一輪の向日葵を手に取ると、柔らかく暖かい感触が伝わってくる。
明るく優しい彼女のイメージにピッタリだった。
向日葵を丁寧にラッピングすると、雪華は最後に薄桃色のリボンを巻いた。
カードには、一言だけ……『大好き』と認めた。
一輪の花束にカードを添えると、雪華は満足そうににこりと笑った。
「……あれ? なんで、え……っ?」
陣内は思わず戸惑いの声を上げる。
「タマちゃん……どうしたの?」
あかりも内心驚いていた。
ここで、彼に……陣内に会うとは、思っていなかったのだ。
何か言いたそうにしているが、言葉に出来ないでいる陣内に、あかりの方からもう一度訪ねる。
「タマちゃん……どうしてここに居るの?」
「俺? ……いや、俺は……そう! イベントの手伝いに来ただけだ! こう言うのには人手がいるだろう?」
「そっか、イベントのお手伝い、エライね、頑張って」
「ああ……うん」
陣内の答え方や挙動がどことなく、よそよそしく感じるあかり。
「じゃあ……邪魔しちゃ、悪いからまたね」
そう言って、あかりは陣内にバイバイするが、心の中は名残惜しくて仕方がなかった。
折角、会えたのだ。
(「ちょっとくらい引き止めてくれてもいいのに……タマちゃんの……バカ」)
あかりに何も言えず見送る形になった陣内も、内心後悔しまくっていた。
(「正直にサプライズしようと思ってたって白状してもよかったかな……。だけど……でも、やっぱり……」)
何処までも煮え切らない陣内はあかりの後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
ふと暖かい灯りの色の花が目に留まった。
オレンジ色のチューリップだ。
『おかえり』
何処からか、聞こえた気がした。
瞬間、陣内は林檎色の髪を目印に駆けだした。
まだ、カードに書く言葉は分からない。
想うことは沢山ある……けれど、改めて言葉にするのは、とても照れくさくて……。
あかりは少しだけ寂しい気持ちを抱えながら歩いていた。
その時、小さな小さな青い花を見つけた。
(「……ブルースターだ。……まるで南十字星みたいだね。僕の小さな輝ける、星」)
後ろから、大好きな声が聞こえてくる。
振り返ると、彼が駆けてくる。
ブルスターの花言葉……『信じあう心』
「何故、俺が用意することになったのか……」
アミナークはぶつぶつと言いながら、本を片手に様々な花を見比べていた。
「……何だかんだと、随分真剣に選んでますね」
少し離れた所からアミナークを眺めつつ、クスクスと笑うラスキス。
(「アミナークの様子を眺めているだけでも十分に愉しいんですけど……私も一輪、選ぶとしましょうか」)
ふわりと笑うと、ラスキスは花々を見て回る。
(「アミナークは、花言葉なんて知らないでしょうけど、嗚呼、きっと。これがぴったり」)
ラスキスはゆっくりと白いアネモネを手に取ると細めの赤いリボンを結ぶ。
カードには、アバタイトブルーのインクで一言『cherish you always.』とだけ。
意味を計りかねて、怪訝そうな顔をするアミナークが容易に想像できた。
その頃、アミナークは紫色の香りたつ花を手にしていた。
「……ヘリオトロープ……花言葉は忠誠心と……か、なるほど、忠誠心なんて無いようなもんだが、これにしよう」
花を手に取るとアミナークはテーブルについてメッセージカードを出す。
「ふむ……。とりあえず……」
アミナークはゆっくりと『Dear stupid My.lord』と記した。
「如何です?」
ラスキスがアミナークのテーブルへとやってくる。
「とりあえず、用意は出来たが……」
「あら、何を頂けるか楽しみです。私も用意したんですよ」
アミナークの言葉に、ラスキスが悪戯っ子の様な表情で言う。
「俺にもプレゼント……?」
それぞれが、相手に贈った言葉を知るのは、ほんの少し先の話。
アミナークは知っていたのだろうか?
ヘリオトロープのフランスでの別名が『恋の花』だと言うことを……。
「楔は、オレに何をくれる?」
楔に確信の質問をするのは、しきみだ。
「秘密に決まってんだろ。ったく」
そう、軽く怒っても、しきみは、嬉しそうに笑いながら楔に言う。
「オレは、秘密だぞ。準備して、当日こっそり渡すのだ!」
しきみの満面の笑みには、勝てそうにないと楔は思ってしまう。
(「……にしても、男が女に渡すってんのに、自分も準備しようとするなんて……ホント、アイツらしいわな」)
そう思いつつ、兄として想う部分もある。
(「アイツにいつか大切な誰かが出来る日まで……隣を歩み、見守ると決めたから」)
そんな兄の想いとは別に妹の想いもあった。
(「兄の傍でこうして我儘の様に手を引く『妹』……」)
「……困ってないかな」
思わず、しきみの唇から言葉が漏れる。
「ん?」
「あ、えっと、今のは……」
しきみがどう言ってごまかそうかと思っていると、楔が口を開く。
「困っちゃいねーさ。寧ろ感謝してる。こうして隣で歩いていてくれる事に」
その言葉にしきみの笑顔が更に華やぐ。
「オレ、とっても、楽しいぞ。バレンタイン、良い日になるといいな?」
「そうかい。でも其処は良い日にする……だろ?」
その言葉に、しきみは楔の腕にしがみつく。
『君に大切な人ができるまで、そばに居させて欲しい』
もうすぐ花開く桜に添えた、兄へのメッセージ。
そして兄が良い日にしてくれるバレンタイン、彼女に届くのは。
『想いを言葉に……なんて、柄じゃねーからさ』
言葉の代わりに優しい色合いの濃いピンクの薔薇が一輪。
「お花……可愛いな♪」
「可憐で可愛いのは君と一緒だね」
嬉しそうに呟くうずまきを微笑みながら撫でる夜。
「可憐? ほんとに?」
答えの代わりに撫でる力が優しくなる。
けれど、うずまきの中でその手が妹に対してのそれであることが、不安になる。
(「妹扱いは嬉しくもあるけど、ずきんともする。ボクは……どう思われたいのかな?」)
思わず夜をじっと見つめてしまう、うずまきだったが、気付かれる前に目を逸らす。
すると、夜が手に深紅のガーベラを持ち、うずまきの元へ戻ってくる。
「ボクも、お花選ぶね」
今は、夜の顔が見れなくて、うずまきは駆けだす。
そんなうずまきを見つめながら夜は思う。
(「いつか、誰かの元へ行くことがあるかと思うと……寂しくも思えるし落ち着かない気持ちにもなるけど……」)
手に持つ、深紅のガーベラは、彼女の瞳の赤。
彼女の髪の色である純白のカード。
添える言葉は『いつもありがとう』。
自慢の妹に捧げるプレゼント。
そんな夜の瞳を受けながら、うずまきはある青い花を探していた。
(「やっぱり、この世に無い花は無いかな?」)
そう思っていた時、その一角にだけそれは咲いていた。
うずまきが知っていたかは分からないが、2004年に初めて色素の定着に成功し、奇跡と呼ばれた青い薔薇。
ケルベロス・ウォー後の復興と言うことで提供された、世界的にもまだ貴重なその花。
(「あるんだ……神の祝福が花言葉の花」)
なら、この言葉を添えて彼に贈ろう。
『幸せが降り注ぎますように』
祈りにも似た、うずまきの心からの気持ちだった。
「もうすぐイベントも終わりだね」
丁がピンクのガーベラを手に雪乃に声をかける。
「……うん。ねぇねは、カード書けたの?」
雪乃が薺にカードを添えながら答える。
「へへー。出来たよー」
「なんて書いたの?」
「後でのお楽しみー」
雪乃の問いに楽しそうに答える、丁。
(「……まあ、良いけどね」)
どうせすぐ分かるから。
この人にしか見せない満面の笑みで渡す。
『I love you.』と記した、カードを渡す時に……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年2月13日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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