●壱
「大変大変!」
マシェリス・モールアンジュ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0157)がばたばたと慌ただしく現れる。
胸の懐中時計を見てから、ケルベロス達へと向き直った。
「人馬宮ガイセリウムが東京に侵攻したことで、東京都内に被害が出てるんだ! このままだと更に大きな被害が出るかも」
最善の結果が出ても、ガイセリウムが通過した市街の被害は大きい。最悪首都消滅があり得る状況だ。
「それでね、戦後の東京都心部の復興もかねて、バレンタインのチョコレートを作ってみない?」
大きな目的は、東京都内の被害が大きかった場所の建物などをヒールすることだ。
そして、バレンタインが近いこともあり、おそらく、ヒールされた建物の一部はお菓子っぽい雰囲気になったり、お菓子を作るのに相応しい建物として修復されるだろう。
勿論、自分たちだけではなく、被災した周辺住民も参加できるイベントにすれば、防衛戦後の民心を安んじることもできるだろう。
●弐
「皆に担当してもらいたいのは、被災した商店街のヒールだよ。その商店街で、バレンタインに向けて色んな果物や食べ物をチョココーティングするっていうイベントを催す予定なんだ!」
バレンタイン用にラッピング用品も揃っているし、メッセージカードを添えることも可能だ。その場で試食することもできる。
「俺は建物のヒールやイベントの手伝いをしよう。……そのあとで食べられればいいが」
綴・誓示(地球人の刀剣士・en0156)もこっそり楽しみにしている。
生ものなので、プレゼントを考えている場合は早めに贈ることが推奨されるが。フルーツを中心としたものをチョコでコーティングすれば、未知の味が待っているに違いない。
「チョコフォンデュタワーが当日はあってね、食べながら作れるよ! 作りたて、きっとおいしいよーっ!」
マシェリスが皆でヒールして楽しもう! と最後に締めた。
●壊れた建物、癒します
人馬宮ガイセリウムが通った東京、ケルベロス達の活躍で自爆は免れたものの、被害は少なくなかった。
その中の一つの商店街にケルベロス達は訪れていた。
商店街の天井は崩れ、柱も倒壊している。地面も所々ひび割れており、ガイセリウムから落ちてきたと思われる瓦礫も道を塞いでいた。
ここではバレンタインのイベントが予定されていたが、これではとても開催できない──というヘリオライダーからの要請で。
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は各地を回っていた。ここもヒール事業の一環として訪れた場所だ。
今回の作戦を起こしたケルベロスとしての責任と、被害にあった市民のためを思って。
東京中を忙しく回っている泰地も一か所、一球入魂。手を抜くことは絶対しない。
「次の現場はここか、任せろすぐに修復するぜ。うおおおおおおっ!」
ヒールをかけながらボディビルのポージングも忘れない。ちょっとしたパフォーマンスになっている。泰地の周囲に人の囲いができて、ポージングが変わるたびに歓声があがる。特に子供たちには大人気だ。
癒しの波動でヒールも忘れず。幻想的な風景に修復されていく景色にさらに歓声があがった。寒空の中、半裸で裸足の格闘家風のスタイルもパフォーマンスらしさに拍車をかけている。
その横で二人仲良くヒールをするのは癒伽・ゆゆこ(湯治杜の人形巫女・e00730)と白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)。
「もう壊れちゃわないように、なのです!」
ゆゆこは防傷無害の護法で建物をヒールしていく。そこには一日でも早く商店街の人たちに笑顔が戻るよう、思いを込めて。
「商店街をチョココーティングなのですっ♪」
その隣でヒールドローンを飛ばしたまゆのヒールは、ゆゆこの癒した商店街の建物をチョココーティングしたように可愛らしく修復していった。
「ゆゆちゃん可愛いのです!」
「えへへっ♪」
二人のコンビネーションでまさに道のひび割れは癒され、瓦礫も消え去る。
バレンタインらしく、チョコが溶けたような柄に、可愛らしいピンクのリボン。立体的で大きめなパフェやチョコの飾り。そこに泰地がヒールした分の植物の弦や綺麗な花が咲いた幻想的な外観。
──こうして商店街はケルベロス達によって可愛らしく、綺麗にラッピングされた。
●チョコフォンデュタワーで
【春空探偵団】の三人は、目の前の巨大チョコフォンデュタワーに感嘆の声をあげた。用意された材料の中から、自分が食べたいものをチェック。
延々と流れ続ける甘い香りのタワーに材料を刺したフォークをいれてチョコをかければ、チョコフォンデュの完成。
簡単で様々な味や食感が楽しめる、立派なスイーツになる。
それぞれ食べたいものを好きなだけ堪能した後は、プレゼント交換だ。
「そういえば……」
夏樹はふと思い出したようにフォンデュの材料の置かれているテーブルの皿の中から一つを選び、二人に差し出した。
皿の上には、真っ赤でぷるんとしたみずみずしい苺がたっぷり乗っている。
「はい、二人へ。日頃の感謝の気持ちを込めて!」
おおっと二人からは感嘆の声。
独り占めならぬ、二人占めだ。
「そういえば友達にもチョコあげる物でしたね! すっかり忘れてました……。ふふふ♪ 嬉しいです♪」
「……友チョコ!? そんなものが!? これはお返しをしないといけませんね……!」
二人がそれぞれ苺を手に取りフォンデュしてひと口。熟した苺の甘さとチョコの甘さがハーモニーを醸し出している。
二人もそれぞれ友チョコのお返しを選び、フォンデュして夏樹、ドラグレイ、冬華は友チョコを交換し合った。
「今後ともよろしくですよ♪」
「……これからも、よろしくお願いします、ね」
二人の言葉に夏樹はうんと大きく頷いた。
「こちらこそ、よろしくね!」
最後は三人でチョコフォンデュタワーの前で記念撮影。大切な甘い香りの思い出とともに。
チョコ好きなんだよね、と頬を綻ばせるのは藍染・夜(蒼風聲・e20064)。苺を手に取って、一緒にきたツヴァイ・バーデ(マルチエンド・e01661)に柔らかな視線を向けて。
「どちらが沢山食べられるか勝負しない?」
と仕掛ければ、ツヴァイはニヤっと笑い返す。
「勝負だから賭けるんすよね?」
「勝った方が負けた方へ1つ、『バレンタイン当日にする事』を命令出来る」
皮肉な笑みを浮かべつつ、ツヴァイは別の苺を手に取り夜を真正面から見据えれば。
「くっくっく、ずいぶん強気な賭けに出たっすねえ。泣きを見ても知らないっすよ?」
こうして──甘くて負けられない戦いが始まった。
しばらくして勝敗は決した。
「俺の負けか……」
ちょっと悔しそうにフォンデュしたパンを口に入れる夜に対し、ツヴァイは嬉しそうにニヤっと笑みをこぼした。
「んじゃ、今日一日何でも奢れってのはどうっすか?」
「それならお安い御用」
お、っとツヴァイは通りがかりのセクシーな美女に目を奪われる。それは隣にいた夜も同じようで。二人の視線は美女が消えるまで続き、退場した後はお互いの視線が同じところにいっていたことを笑い合う。
「脚が美しかったね」
「いや、ボディラインっしょ」
そんなことを喋りながら、ゆっくりと時間は過ぎていった。
ヒールを終えたゆゆことまゆも、イベントに参加していた。甘い香りのする会場の中、どれをフォンデュしようかと目移りしながら仲良く回る。
「フルーツをチョコで……どれからいただいちゃおうか迷っちゃうのです♪」
「……フォンデュ」
じゅるり、と何故かゆゆこを見ながらヨダレを垂らすまゆに慌てながら、二人で持ち寄った材料をフォンデュしていく。
フォークに刺したキウイをチョコレートの滝にくぐらせて、まゆはゆゆこに差し出す。
「はい、あーんです♪」
ぱくっとひと口。とびっきりの笑顔をまゆへ送り、自分もオレンジをチョコにくぐらせてからまゆに差し出した。
「……美味しいですっ。それじゃ私も、はいっあーんっ」
まゆもひと口。お互い笑い合って、幸せの共有。
しばらくお互いこれをつけると美味しいなど、情報を分け合っていると。
「フォンデュを見ると、浴びたり飲んだり、したくなっちゃいますですね」
「おいしいのですぅ……って、流石に浴びるのはー!?」
ふらっとただならぬ目つきでタワーのほうに向かうまゆを、ゆゆこは腕を掴んで止めに入るのだった。
桐生・神楽(花鳥風月・e18219)と天霧・愛樹(明日から本気出すわよ・e19865)も、またチョコフォンデュタワーを楽しんでいた。
「えへへ、お姉ちゃん♪ 今日は一緒に来てくれてありがとーっ!」
「神楽と出かけるのは初めてかも。悪い気はしないけど」
はしゃいでいる神楽に笑って、愛樹はフォークで手近な苺を刺してフォンデュにする。
「神楽、はい」
と、フォンデュにしたチョコを不意打ちに神楽の口元に持っていく。びっくりした神楽は、目を丸くしてから恥ずかしそうにあーんと口を開けた。
「も、もぅ……いきなりはびっくり……」
と言いながらも、神楽の顔はどこか嬉しそう。
「ほっぺにチョコついてるわよ」
そっと指で神楽の唇の端についたチョコを拭って、そのまま愛樹は指をぺろりと舐める。
それにさらに顔を赤くした神楽は、上目遣いで愛樹を見上げる。
「う、嬉しかったかも……っ。ありがと、お姉ちゃん……っ」
甘い香りに包まれて、甘い時間を過ごして。
甘いチョコレートの滝はイベントまで流れ続け。皆の視覚や味覚と楽しませた。
これもヒールで癒してくれたケルベロス達のおかげ。その中で同じくイベントを楽しんだ者たちも、きっと甘い香りに包まれて。
甘い思い出と一緒に大切に蓋をして。
作者:狩井テオ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年2月13日
難度:易しい
参加:10人
結果:成功!
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