ヒーリングバレンタイン2016~飴薔薇の箱

作者:彩取

●迫る二月十四日
 人馬宮ガイセリウムの東京侵攻。
 それにより、東京都内に被害が出ている。
 事態はそれに留まらず、このままでは更に大きな被害が予測されている。
 今後、最善の結果が出たとしても、人馬宮が通過した市街の被害は甚大であるし、最悪の場合は首都消失も大袈裟とは言えない状況だ。そう前置いたジルダ・ゼニス(レプリカントのヘリオライダー・en0029)はこう続けた。
「そこで、一つお誘いを用意しました」
 戦後の東京都心部の復興を兼ねた、バレンタインのお誘いである。
 目的は、都内で被害が大きかった場所や、建物のヒール。バレンタインが近い事もあり、ヒールされた建物の一部はお菓子を思わせる仕上がりになるだろう。その建物を利用して、チョコレートをはじめとしたプレゼントを作ろうというのだ。
 この催しは、被災した周辺住民も参加出来るイベントらしい。
 ジルダはそれを、市街地の復興と心のケアを兼ねたものだと言った。

●飴薔薇の箱
「皆さんにヒール修復をお願いしたいのは、タワーマンションの立ち並ぶ都心部になります」
 ジルダは、被災したタワーマンションをヒールした後に、マンションの集会場でイベントを行う予定らしい。
「この集会場フロアで行うイベント内容は、飴薔薇作りです」
 要は、お菓子作りである。といっても、そう難しい作業はない。
 用意するのは、透明な硝子、またはプラスチック製の箱と、薔薇の花弁を模した飴だけ。飴の花弁は大きさも色も様々で、事前に沢山用意してあるので、搬入するだけでいい。
「イベント中の作業は、飴の花弁を組み立てて、薔薇を作る事だけです」

 例えば、赤い飴の花弁だけで、赤い飴の薔薇を作るとする。
 花弁には、硝子のように透き通る透明な物もあれば、不透明な色濃い赤もある。
 他の色も同様で、それらの花弁を薔薇の形に組み立てて、一輪の飴の薔薇を作るのである。飴の花弁を接着する時は、粘度の高い透明な飴を使い、花弁の味や完成時の色味を邪魔しないようになっているので、花弁が取れないようにしっかり接着して欲しい。
「違う色の花弁を集めて、飴薔薇を作るのも良いですね」
 作った薔薇は、透明な硝子かプラスチックの箱に入れる。箱の大きさは十センチ四方で、一つの箱に一つの飴薔薇を入れるのがお約束だ。
 その他、リボンをつけるなどはご自由に。
「これで、飴薔薇の箱の出来上がり――という流れです」
「ほー。つまりわしらの仕事は会場のヒールと、道具や材料の搬入。んで」
「ヒールした会場で飴薔薇作りですね。これは一般の方々と一緒に」
 すると、要点を口にした都峰・遊佐(ウェアライダーの刀剣士・en0034)の言葉に頷き、ジルダは集まってくれた皆の前で、こう言葉を結んだ。
「この機会が、街の人々にとって良きものとなれば幸いです。それに――」
 参加するケルベロス達。そしてこの飴薔薇を贈られる人にも、幸せが訪れますように。


■リプレイ

●甘い一日
「よっしゃ、ここはオレに任せろ!」
 自慢の筋肉を唸らせ、癒しの波動を放つ泰地。崩れた瓦礫はビスケットの壁となり、ソファは色彩豊かなマシュマロ風。フローリングも優しい乳白色に変わって、まさにお菓子の家のよう。皆が修復に勤しむ中、ゼルダもお婿さんことあるふれっどと共に隅々までヒールを行った。お菓子の家で重ねる日々が、人々の癒しとなって欲しい。
「……お菓子みたいなお家だわ、素敵ね!」
 その始まりが午後に待つ飴薔薇作り。
 白とピンクの薔薇をお婿さんに持たせればお揃い気分になる予感。
「あたし、邪魔にならないように味見しとくから、後は好」
「……ホワイト、食べるついでで良いので飴を持ってきてください」
「――って、コスモス!」
「ホワイトちゃんよろしくー!」
「って、リズのもか……はいはい」
 という事で、花弁集めはホワイトが担当。
 一方のリーズレットとコスモスは飴薔薇作りの確認中。
「ふんふん……コスィこんな感じ?」
「私もこういう創作関係に触れるのは初めてなのでよく分かりません。ですが」
 実行してこその現状打破。その熱意の賜物か、二人の薔薇の色彩は七色飛び越え万華の如く。加えて見た目も中々の出来栄えだ。すると、リーズレットはこう言った。
「ホワイトちゃん! ハッピーバレンタインだ!」
 花弁の飴も良いけれど、大好きを込めた薔薇もおひとついかが?
 瞬間、小さく零れた粉砕音。
「なかなか可愛らしいものですね」
 その音を耳にしながら、艶やかな紫の薔薇を仕立てたラスキス。背筋を伸ばし薔薇に手を添える彼女の視線。その先にいるのは、父親への贈り物にするピンクの薔薇に綻ぶメイでも、順調に虹色の薔薇を作るアラタでもなく、
「三十越えた野郎に可愛いってお前……」
 赤い飴の花弁に悪戦苦闘の勲である。
 そんな男が一息とばかりにスマホを向けたのは、仲睦まじく薔薇を見つめるメイとアラタの元。するとふと、少女達の視線は二人の方に向けられた。
「勲さんとラスキスさんの薔薇はどんなの? 見せて見せて」
「おぉ! ラスキスは紫か。本物の薔薇が咲いてるみたいだ」
「メイさんとアラタさんもお上手ですよ。色味もとても似合っていて」
「……上手い下手の前に、俺はまず接着までいかねぇ」
 そこに通りがかったのは、花弁探しの途中のジルダ。青の印象が強く、実際に青が好きな娘だが、今日の目当てはミルクを落とした柔らかい紅茶色なんだとか。
 子供達に飴薔薇を配りたい。そう申し出たフランツとルトゥナの元には、有志により集められた色とりどりの飴薔薇が。生花のように綺麗に包めば、早速手渡し開始なのだが、
「私の笑顔では、怖がってしまう子もいるだろう」
 その時は、ルトゥナの美しい笑みが頼りとなる。
 だが、そんな連れの言葉に対しルトゥナは言った。
「そうね、フランツちゃんは大きいから、ビックリしちゃうかもしれないわね。でも」
 先程から、じっと彼を見ている少年達がいる。
 思うに、あれは精悍な彼への憧れの眼差しだろう。
 パールピンクの飴薔薇は、既に硝子の箱の中。するとティアローズは会場を回り、苦戦している少女の傍に近づいた。重ねる言葉は少なくとも、一緒に花弁を重ねて慎重に。
「出来た、お姉ちゃんありがとうー!」
「とても綺麗にできましたので、お渡しする方も喜ぶと思います……」
 完成した桃薔薇の前でも、笑顔の花が綻んだ。
 習うより慣れろの精神で、見知った二人の向かいで青薔薇を拵えるコンスタンティン。
「ゼニスさんと都峰さんの薔薇は、色が似ていますね」
「嬢ちゃんは紅茶飴で、わしは鼈甲飴だ」
 並ぶは透過の度合が違う、未だ花弁のままの飴。するとジルダはこう語った。青薔薇の花言葉、嘗ては不可能。しかし今は、夢叶うであるのだと。
 一方、遊佐の背向の列では朝希が丸助とご対面。
 屈んで先日の礼を伝える少年にてれ顔を表示すると、丸助は机上に目を向けた。そこには薄緑色で、透明な飴雫を朝露に見立てた綻び始めの蕾薔薇が。
「両親に渡してみようかなって、思うんですが」
 食べるのを惜しまれそう。そう悩む少年の隣で、丸助も悩みのポーズ。
「緑一色ではないのですね」
 透徹の緑に染まる薔薇。折鶴が拵えた花にジルダはこう呟いた。
 対し折鶴は言う。その御髪を眺める内に、空の青を添えたくなったと。すると薔薇を硝子に納めた後、今度は折鶴から問い一つ。
「ジルダ殿は、飴薔薇を如何に食すのでしょうか?」
 お勧めは、花弁を紅茶に溶かす手法らしい。
 互いに飴薔薇初挑戦。ハインツのチョイスは濃い赤薔薇。飴付けは慎重に繊細に。だが順調かと思った途端、花弁が手元からするり。
「ちょっとずれた、むむ……。ん?」
 その時ハインツが見たのは、悠が手掛ける精巧な薔薇一輪。内から外にかけて透明度は増し、花弁の濃度も異なるその出来栄えに思わずぽつり。
「悠のも、だいぶ凝ってるなー」
「そうでもない。葉の……角度が気に食わない」
 そんな二人の硝子箱には銀と金のリボンを添えて。
 紐解くのはお茶会の時だと思うが、これは中々に勿体無い完成度である。
 まさに、完璧である。
 それが愛樹の飴薔薇を見て彩葉が抱いた第一印象。対し、若干苦戦中の親友を見兼ねて、愛樹は手を伸ばしつつ言葉を添えた。
「説明通りだし、彩葉ならそんなに難しくないわよ。ほら」
 するとそれまでが嘘のように、薔薇へと変わる赤い飴。
 やがて一輪の赤薔薇が完成すると、彩葉は満面の笑みでこう言った。
「えへへ、愛樹ありがとう!」
「どういたしまして」
 綺麗だから、シェアハウスのリビングに飾りたい。そう語る彩葉を前に愛樹は思う。確かに、外に出て来た甲斐はあったようだと。
 器用なアシュレイの指先に、若干敗北感を抱いた優桜。
 しかし、彼の色である赤い飴薔薇は、少しでも上手に作りたい。
 そんな女心を知ってか知らずか、優桜の横顔を見つめるアシュレイ。彼女の瞳と同じ紫の薔薇は、透明度の高い花弁で仕立てたい。ただ、
「ほら、こっちが危ないですよ、ユラ」
「うぅ……ちょっと曲がっちゃったかな。でも、アシュへの気持ちは込めたからね!」
 薔薇よりも手を差し伸べたい相手の為に、動き続ける彼の指先。
 それは薔薇とお揃い色のリボンを箱に結わえて、彼女が笑むまで、ずっと。
 別々に作った飴の薔薇。
 待ちに待った交換の時を迎えると、最初は織が見せる番。
 自分の浅葱と妻の緑。その二彩を交互に重ねた飴の薔薇。花の中央には苦労して探した、ハート型に見える花一片。
「この薔薇は俺達二人だよ」
 その言葉に笑みを零して尾を揺らしながら、ルチルも箱を差し出した。
「愛しの旦那様の、綺麗な目の色みたいにしたくて」
 薔薇の葉に見立てて結わえた緑のリボン。その硝子箱の中に咲くのは、紅茶と苺の色を軸に、マンゴーの橙とレモンイエローで包んだ眩い大輪。全て、愛する人の色彩だ。
 花一片に沁みる悲しき思い出。それは意識せずとも添えられ、この花を見る度に心は痛みを思い出す。しかし、アリッサはこうも思った。
 甘い香りと煌めく飴色には、愛おしさと優しさも重ねてある。
 だからいつか、この唇で紡ぎたい。
「……嫌いには、なれないもの」
 今は苦手で好きな花。この愛した薔薇を、いとおしいと。
 器用な指先で重ねる赤い花弁。多くを象徴する薔薇に想い込め硝子の箱封じた千鳥。彼は胸中を自覚しながら思いを馳せた。
 受け取るのなら、もう手放せない。
 この薔薇が相手を縛る事になるのも本望だ。
「大事にしてほしいなぁ。……俺は我侭だから」
 勿論苦しめる意図はないが、死ぬ程焦がれる想いの前では、やはり。
 恵の手には、透き通る大輪の紅薔薇が。硝子箱に封じたそれを光に翳せば宝石箱の如くきらりと光が零れ、まるで露纏う生花のよう。
「目でも楽しめる花菓子、良いじゃねぇか」
 花に親しみをもって欲しい、その術を学びに自分はここを訪れた。
 ならば今日の成果は上々と言えよう。
 それが己の髪に咲く花ならば、殊更良きものである。
「泪生さんから見た俺って」
 この薔薇のような印象なのか。そう訊ねた雪華に対し、
「ふふ、そうだよ白雪さん。鮮やかな色の中に透き通るような笑顔……」
 泪生は気取った言葉でご返答。対し、意表を突かれ目を丸くした後、堪らず笑い出した雪華。けれど、本当は照れ隠しの術というのは秘密のまま。
「ふ、あはは、泪生さんに口説かれたー!」
「なんて言ってみちゃったり? 泪生ったらキザ!」
 そんな二人が拵えた薔薇の色は、透き通る硝子のような飴花弁。
 互いの色を添えた格別の二輪を揃えれば、思わず喜びの笑みが綻んだ。
 リオの拵えた透徹の青薔薇。
 その贈り先が自分だと知って、こう返したメルキューレ。
「貴重な時間を私に使うこともないでしょう」
「えー、だってあげたいって思って浮かんだのはキミだし」
 対し、リオの言葉は笑顔と共に。それが自分に向けられている事が不思議な反面、メルキューレも確かに淡い喜びを感じていた。
 だから、彼が手にしたのは煌めく星のような金箔。
 やがて星空を思わず飴の青薔薇を、リオの青薔薇と並べて二人は願った。
 この広い世界で得た友に感謝を。これから、もっと仲良くなれますように。
「ね、アビーはどんな薔薇に」
「しのくん、まだ見ちゃだめっ」
 そんな会話を経て完成した二人の飴薔薇。青のリボンを巻いた箱には、海月が懸命に仕立てた淡く透き通る白い薔薇。対し銀のリボンと小さなカードを添えた方は、アビゲイルの自信作。透き通った綺麗な海、彼の瞳を思わす青薔薇とは言わずに彼女がこう伝えると、
「えへへ、私のはすっごい自信作だよ! しのくん」
「僕はー、ちょっと不格好になっちゃったけど」
 キミの事を想いながら作った薔薇。
 そう紡ぐ海月に、アビゲイルも薔薇のように綻んだ。
 綻び寄り添う二輪の薔薇は、心を込めた唯一の薔薇。
 紅き透徹の薔薇はオルニティアの、そして虹色の一輪薔薇は市邨の心。
「――市邨くん、好きです」
 少女は震える唇で思いを紡ぎ、硝子の箱を差し出した。
 すると、紅薔薇の熱に中てられたように青年の目に熱が籠る。それでも雫として零すのなら、涙ではなく彼女への溢れる思いを込めて。
「――俺も君が、ニアが大好きです」
 そうして零れた音に、少女が得たのは虹色の幸せ。
 しかしそれも世界に溢れる彩りの一片。故にその先は、君の傍で見て往きたい。
 空色に包んだ白花弁の中心に、彼女の羽根先思わす黄色を添えて。そんなクィルの飴薔薇は、空に浮かぶメイアを思い拵えた物。
「すごい! 流石くーちゃん!」
「めーちゃんも綺麗ですよ」
 讃辞にてれたクィルの前には、メイアの作った飴薔薇が。
 中心に紺や濃紫の、深く静かな夜色を。周りに淡い青を重ねれば、まさに夜明けに向かう空のよう。その薔薇を交換する瞬間、二人はふとこう言った。
「くーちゃん、またお出掛けしようね」
「ええ、ぜひ。今度は――」
 花綻ぶ髪飾を選んでみたり。そんな思い出作りも一興だ。

●飴薔薇の箱
 器用に拵えたとびきりの薔薇。その硝子箱に、銀のリボンを添えたメロゥ。
「これは、オルテンシア。あなたに」
 小さな花弁重ねゆき、透き通り綻ぶ蒼き薔薇。
 それは誰かの心のよう。故に一片全てに込めた思いが、溶けるようにと願っている。そう語る少女に、オルテンシアも薔薇を抱いて囁いた。
「――ありがとう、メロ。私が作った薔薇ももちろん、あなたの手に」
 深い宵藍の如し夜薔薇に、きらりと輝く金色星。一片の導あらば世界は甘く色づいていく。その思いを込めた薔薇の元で、二人は花より甘く綻んだ。
 白と透明の斑模様。
 水晶の花弁に薄雪が積もるような薔薇を拵えるちまめの姿に、圧巻の器用さを見たシエラ。魔法を宿すよな彼女に抱く、一匙程の淡い引け目。だがこちらも会心の出来栄えだ。
「折角だから、一番の自信作はちまにあげたいって思って」
 透過の異なるピンクの花弁。そこに重ねた、胸中にあるキミへの想い。
 そうして差し出された硝子箱に、ちまめも微かに微笑んだ。
「うん、私も……そのつもり。……だって」
 シエラを思いながら作った薔薇。
 それは眼前に輝く笑みのようにキラキラと輝いている。
「素敵な贈り物ですね、ハンナ様」
 尖った花弁まあるく重ね、ハンナが咲かせた飴の薔薇。ほんのり薄緑差す白薔薇の出来栄えに、ラファーは喜びを携え言った。貰った人は幸せだ。その言葉に少女の胸に芽生えた贈り物という選択肢。そこに執事が拵えたのは、薔薇型に仕立てたレースリボン。
「わ、ラファーすごい、器用……!」
「嬢ちゃんも兄ちゃんも凄いもんだなぁ」
 白と鼈甲の薔薇を並べ讃辞を紡ぐハンナと遊佐。
 だがこの時、少女はまだ知らない。
 透徹の紅薔薇とは別に、執事が用意したもう一つの薔薇の輝きを。
 お誘いする方される方、共に喜びを胸に薔薇作り。
「迷っちゃうなあ、ヒスイさんは決めましたか?」
「はい、私は桜色の薔薇にします」
 迷うマオラの一方、早速花弁を手に取るヒスイ。その工程をじっと見つめる内に、マオラは暫し思案顔。情熱の赤も、変わり種の薔薇も捨てがたい。
 すると閃いたのは隣にいる彼の名と同じ色彩。
「んとね、まおら、翡翠色にした!」
 それは今日の感謝を込めたヒスイへの贈り物。
 対し彼も、拵えた薔薇をお返しにと呟いた。桜の色はマオラの色。
「お返しにはピッタリだと思いませんか?」
 探検友達の鬼丸とラーナ。見本の赤薔薇を前に置いて、二人は見様見真似で飴薔薇作り。だが程なくして、鬼丸はラーナの薔薇を見て呟いた。
「ラーナ器用……それに、見た事の無い、薔薇の色」
「――あ、すいません、集中していました」
 彼女の薔薇は外は白く、内に行く程青が深まる不思議な薔薇。まるで氷の結晶のような美しさは、彼女に似合いの色だと思う。すると、
「幽さんの薔薇は、可愛らしい薔薇ですね」
 とある王子の物語を思わす、透明な箱に入った赤薔薇。
 その光景に、ラーナは楽しげに笑みを浮かべた。
「ファルは誰かにあげたりすんの」
 ――誰かというか、君に。
 よもや秘密の企みがばれたのかと、咄嗟に目泳がせたアラドファル。一方、隣の友に恋人が出来れば遊ぶ機会が減るやもと思案しつつ、薔薇の拵えを続けるエンデ。すると、
「あぁ、良い出来だ」
 エンデの瞳に青薔薇を寄せ、色合いを確かめたアラドファル。
 友の元で自分の瞳色の薔薇が仕上がる中、エンデの方も手を止めた。
 完成したのは友達の髪に似せた水色。内側は光通さぬ濃い色だが、外に向かう程に淡く透明な、食べるのが惜しい飴薔薇である。
 作りたい薔薇は、最初から決まっている。
 そう語るアレクセイの手には、七色の花弁を持つ虹の薔薇。彼の狂おしい程の愛が籠った、ロゼの髪に咲く七彩の薔薇に準えた贈り物だ。
「すごく嬉しい、ありがとうアレくん!」
「ロゼこそありがとう。赤薔薇、すごく嬉しいな」
 倖せの笑みを交わしながら、ロゼの言葉に綻ぶアレクセイ。
 彼女から贈られたのは、燃えるような赤い薔薇。そこに込められた愛と、美しい薔薇のように微笑む人を見て、彼はふと思う。
 人目がなければ、今すぐ貴女と口付けを交わしたものをと。
 葉に見立てた緑の上に、濃淡異なるオレンジの花弁。そんな透徹の薔薇を迎える硝子箱に、ミルラはリボンとカミツレを添えた。
「セスには随分勇気を貰っているから」
 日溜りの笑みが翳らぬように。そんな彼にセスが差し出した小箱。
 そこには薔薇色リボンと露草の束を添えた、赤く色づくかのような白薔薇一輪。すると、セスはぽつりと呟いた。
「わたしのほうが、ミルラにたくさんの勇気を貰っているわ……だからね」
 昨晩沢山考えた分、今は少し目蓋が重い。
 そんな彼女の身体を案ずるように、ミルラの薔薇が輝いた。
 ロマンチックでオトメちっく。
 そんな会場で揚々としたスプーキーを横目に、渋い顔のアンジェラ。しかし、煌めく白薔薇を拵えた飴職人が感嘆する程、彼の白薔薇は美しい。だが、次の瞬間、
「ア、アンジー!?」
 飴職人が見たのは、ライターの火で白薔薇を炙る恋人の姿。
 当然問おうとしたが、男はふと亡き妻の話を思い出した。
 白薔薇の花言葉は、私はあなたにふさわしい。
 そして、枯れた白薔薇の意味は生涯を――と、この後がアンジェラの種明かしが先か、スプーキーの反応が先か、顛末は二人だけの秘密である。
 辛苦が心に残す爪痕。それを底に秘めてアプリコットの薔薇を拵えるシュゼット。
 一方、辛苦も適悦も相棒と二分故、楽しき時は倍楽しむと告げた遊佐は、彼女のスイートドリームを見て目を丸くした。
「崩すのを躊躇う程綺麗な出来栄えかな、遊佐先生?」
「ん、白雪の壁も形無しだな」
 水潜む胸中から、称賛の雫を零して。
「でーきた! ジルダはどっかな?」
「私も完成です。瞬きを忘れる程集中しました」
 震える手を漸く下ろし、ふうと息吐くキアラとジルダ。一方は黄桃のようないちばん星。一方は一番好きなミルク染めの紅茶色。その薔薇を硝子箱に入れ夜空のリボンをかけたなら、今日の記念に交換こ。
 勿論薔薇を二輪並べて、記念撮影も忘れずに。
 贈り物なら綺麗な物を。そう思い迷う事無く花弁集め、唯一の薔薇を作り始めるアルベルト。一方蓮杖が手にしたのは艶やかな紅色だ。
 全ての思いを乗せた、混じり気のない紅薔薇。
 そこに添えた紫紺のリボンにも、深き唯一の意味を込めて。
「――アル、出来た?」
「少々時間は掛かったが、綺麗に出来たと思う」
 そんな蓮杖の前に、アルベルトが見せた薔薇は、ネイビーを軸にバイオレットとマゼンダ、差し色にモスグリーンを重ねた一輪。それは濃密な過日と未来を願う、色濃くも深い恋の焦がれを知る花だ。
 誇りを示す、桜色の薔薇。
 その花弁を手に、ふと思い馳せるは幼馴染達の事。
 そんなサクラを微笑ましく思いながら、順調に花弁を重ねる悠月。色ごとに花言葉が異なる薔薇の花。折角なら、花に想いを込めて家族に贈るのも良いかもしれない。
 そう語るサクラに対し呟く悠月。すると、
「家族にあげるのも悪くは無いが、今は……」
 ダークピンクに染まった薔薇は、カードと感謝を添えてサクラの元に。
「これからもよろしく、ってな。……ちょっと格好つけすぎたかな?」
「ふふ、らしいんじゃないでしょうか」
 青牡丹と揃いのような、心惹かれる青の蕾。そこに六の色彩を一片ずつ添えた虹の薔薇は、大切で素敵な人達を思いながら鞠緒が作ったとびきりの一輪だ。
「パーフェクトね、ミス遠之城」
「そうね、とても美しく咲きましたね。ふふふー♪」
 一方、メアリベルの薔薇は、淹れたての紅茶や純度の高いルビーを思わす澄んだ赤。何より薔薇は、誕生日に頂いた刺繍に描かれていた花でもある。
「薔薇はメアリとママを結ぶ絆。だからメアリは薔薇が大好き」
 そう語る少女の姿に、鞠緒はもう一度、歌うように笑みを零した。
「あぁジルダ君、こんにちは。どうだい?」
「御機嫌よう――お見事ですね」
 清き透徹の青の彩りに、濃淡の変化を添えて拵えた飴薔薇。それをジルダにお披露目した後、メイザースはこう言葉を添えた。
 長く不可能の象徴であり続け、いつしか夢叶う証となった青薔薇。
 諦めぬ心が咲かせた花は、今日に似合いの花であると。
 内に据えるは濃桃の色。外に開けば少しずつ、色抜けるような薄紅色へ。宛ら、芯から色付き始めた心のようなその色彩に、ネロは甘い溜息一つ。
「――なんとも、ネロらしくない薔薇が出来た」
 赤いリボンを結わた硝子箱の中、艶めき綻ぶ飴の薔薇。
 その箱を指で突き彼女は思う。
 聖祭はやはり口実。想いは常に、心の真中に。

作者:彩取 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月13日
難度:易しい
参加:66人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 0
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