ヒーリングバレンタイン2016~ぬいぐるみと一緒に

作者:絲上ゆいこ

●東京クライシス
 ケルベロスたちの姿が見えると、レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)が軽く手を上げた。
「よぉ、来てくれたか。早速だが、お前たちも知っての通り人馬宮ガイセリウムが東京に侵攻してきているだろう? 今のままでも割りと被害が出ているんだが……」
 後ろ頭をガリガリと掻き、少しだけ言いづらそうにレプスは伝える。
「最善を尽くしてもガイセリウムが通過した市街への大きな被害は免れないと予測されているんだ。まぁ、そういう訳でな」
 レプスが片目を瞑ると、掌の上に立体映像が現れる。
 ヒールでバレンタイン! 可愛く建物を彩ってイベントしちゃおう! と銘打たれた資料映像。
 東京の街がお菓子で彩られた、可愛らしいファンタジックなイラストが添えられている。
「被害を受けた街をヒールして貰うと、時期柄お菓子っぽくなると予測されている。お前たちにはその建物を利用してイベントを行って欲しいんだ。被災した都民達の心が暖かくなるような、可愛いイベントをな」
 掌の中の立体映像を閉じると、レプスは改めて反対の瞳でウィンクし直した。
 
●ふわふわぬいぐるみの世界へようこそ
「お前たちにお願いしたいのは、被災した繁華街のヒールだ。ヒールを終えてから、ぬいぐるみを作るイベントを主催して欲しい」
 被害を被る住民たちには、子どもたちも沢山いるだろう。
 可愛らしいぬいぐるみを作る事で心を癒し、心を晴らして貰える様に。
 そして何より可愛いし可愛いではないか、可愛いと幸せな気持ちになれるだろう。
「可愛いぬいぐるみを貰って嫌な顔するヤツはそういないだろ? 少なくとも俺は一緒に寝たいくらい喜ぶぜ」
 主観たっぷりの意見をレプスは述べると、当日は忙しいぞ、と付け加えた。
「ヒールに、材料の運搬、イベントの進行……、あ、ついでにお前たちもお前たち用にぬいぐるみを作っても良いぞー、折角のバレンタインだ。自分だと思って、なんて想い人にプレゼントしちまえよ」
 冗談めかして悪い笑みを浮かべるレプス。
 手作りが上手でも、もし不器用でも、贈る相手の事を考えながら作ったぬいぐるみならばきっと可愛く感じる事ができるであろう。
「さあ、可愛い子を作ってくれよな。俺はウサギが好きだぜ」
 街も、心も癒せるステキなイベントにしてくれよな、とレプスは先ほどとは違って柔らかく笑った。


■リプレイ


 先の戦いは勝利で終えたが、半壊した街並みは侵攻が行われた紛れも無い証拠だ。
「待ってろよガキども、すぐに治してやっからな!」
 泰地が鍛え上げた肉体を魅せつけるポージングで癒しの力を顕現すると、壊れた街並みがキュートでポップなチョコレートやカップケーキ型に修復されて行く。
「多少見た目が変わっちまうがそこは堪忍してくれな!」
 街の傷跡を癒やす二人の影。
「街も人の心も僕達も傷ついたけど、命のある限りいくらでも立ち上がる事は出来る」
 だからさ、と次ぐ獅晏。
「君が無事に帰ってきてくれて嬉しいよ。……おかえり、龍次」
「戦争はいろいろと辛いけど、やりたい事がまだ沢山あるから無理はしなかったつもりだ。……少し無茶はしたかもしれないけど。うん、ただいま、獅晏さん。」
 信頼する相手の言葉は、ヒールで癒せぬ心の傷を癒やす事ができる魔法だ。
 甘い魔法に街並みが生まれ変われば、ケルベロスを信じて東京に残ってくれた人も集まりだす。
「何だかいつもよりやる気がでる気がしますし、頑張らないとですね」
 真剣な表情で布地へと針を走らせるヒメノの横で、ギルボークはすいすいと針を操っている。
「ヒメちゃん、これでもボク結構手先は器用なんだよ!」
「確かに、こういう時はボクくんの手先の器用さが羨ましいです……」
 そうして生み出されたぬいぐるみはギルボーク自身の姿だ。
 これでヒメちゃんとボクが一緒に居られない時もきっと見守ってくれる!
「ボクからのプレゼント! 大事にしてくれたら嬉しいな!」
「何故、自分のぬいぐるみを……?」
 笑顔で受け取ったが困惑は隠し切れないヒメノは、仕上がった子猫とギルボークのぬいぐるみを抱きしめて小さな箱を彼へとお返しする。
 勿論義理チョコではあるが、彼は飛び跳ねて喜んだ。
 沢山の子どもたちと一緒にぬいぐるみを作っているのは、ルオンと彼の自称『ふぃあんせ』の千織だ。
「はーい、こうやって作るんだよっ」
「む、なかなかに手ごわいな……」
 完成した狼ぬいぐるみはなんだかルオンのような気がして、とても可愛くて愛しい。
 当のルオンは子どもたちにすら随分と遅れを取りながらも、一匹の丸い犬を完成させた。
「ルオンくんのそれ、わんこさん……?」
「……兎だ。……受け取って欲しい」
 憮然と伝えるルオンが差し出す白兎。千織も微笑み狼を差し出した。
「はいあなた、『こううん』のおまもりなんだよっ!」
 交わされるちょっぴり「アジワイブカイ」幸運の白兎と、幸運の狼のお守りぬいぐるみ。
 二人は大事にすると伝えあうと、小さく微笑み合った。
 皆を手助けして回るみづきは生地を抱え、忙しく動き回る。
「お母さんに渡すの、変じゃない?」
「愛嬌があるお人形ですわ。とても可愛らしい」
 仕上げにリボンを結んでやると、女の子は笑顔で礼を言い駆けてゆく。
「幸せな姿……。私まで嬉しくなりますわ」
 愛しい人ともう会うことが叶わぬ彼女は祈る。
 ここにいる方が愛しき人とずっと寄り添っていられますように。
「それじゃ、手伝ってくーださいっ♪」
 実年齢25歳。外見年齢8歳。ドワーフの見た目で年齢を測る事は難しいが、乃恵美もその一人だ。
 その上大柄な清比古と並ぶと、
「拙者、場違いではないだろうか?」
「ひこさんとあたしの外見じゃ親子ですから」
「本当にそういう気分でござるよ」
 苦笑を浮かべる彼と2人で作るぬいぐるみは大きな白熊だ。
 針を片手に慣れないお針子作業を行う清比古は、中々新鮮で自然と緩む乃恵美の頬。
「このような感じでござるか?」
「おー、良い線いってるじゃないですか! お疲れ様、ありがとうございますっ♪」
 完成した白熊を前に、清比古にぎゅうと強く抱きつく乃恵美。
「あ、危ないでござるよ」
 これでは本当に娘を持つ父親のようだ、と苦笑を浮かべる彼は、まだ彼女の本当の気持ちを知らない。
「あー、俺っぽく作ってみたんだけど、どうかな?」
「僕も初めてだから。……でも。誰かの為に物を作るのは楽しいね」
 少し歪かもしれないけれど受け取って欲しいと、ぬいぐるみを差し出す龍次とぬいぐるみ交換をする獅晏。
「今日は龍次と一緒に作る事が出来て本当に良かった。有り難うね、龍次」
「こちらこそ」
 俺、獅晏さんに会えて良かった、と笑んだ龍次は耳を揺らした。


 幻想武装博物館の皆は、沢山の材料が積み上がった机の前に立つ。
「わ、色々あるなぁ」
「みんな、どんなのを作るの? わたしは、妖精にするつもりだけど……」
 圧倒されたかのように声を漏らすタージェ。シルは材料を選びながら皆に問いかける。
「うーん、モチーフはファミリアのニワトリにしようかな?」
 見慣れてるから、きっと作り易いはず! 多分!
 しかし何時も持ち歩いているとは言え、作る事は陽葉にとっては初めてだ。
「ぬいぐるみで大事なのはハートです、ハート!」
 少しだけ不安そうな陽葉にミライは力説する。
「それに、目の前に本物がいるから、私は大丈……」
 参考のために箱竜のポンちゃんに座って貰った瞬間にポンちゃんは歩き出す。
「ああっ、ポンちゃん動いちゃダメぇ!」
 ああ、無情。その様子を見ていたアストラは苦笑を浮かべてミミックを持ち上げる。
「ボクはバレンタイン風のボックスナイトを作ろうと思うから、ちゃんと手伝、……痛ァ!」
 ボックスナイトに、見事噛みつかれるアストラ。この旅団のサーヴァントは実に主人に対しての反骨精神で溢れているようだ。
 ボア生地でふわふわの熊を作るクリム。
 『今の私』には初めてのバレンタイン。皆で過ごすのはとても嬉しいし、とても楽しい。
「縫い終わったら白い羽をつけて……と、天使ベアの完成♪」
 同じく手際よく天使の熊を作っていたタージェがクリムの作品に気が付いた。
「ん? クリム兄ちゃんも熊なんだね! ボアの子も可愛いよね。あ、こうすれば可愛くなるんじゃないかな?」
「ミライせんせい、たすけてぇ~!」
「っと、シル先生、私の力が必要ですねそうですね! 今日は私がせんせい? なので皆も遠慮しなくていいのです!」
 シルが声をあげると、ミライが横に立ちお手伝いを始める。
「羽は針金使うとピンとすると思うよ! ミライさん。あたしもお手伝いしてもらえたら嬉しいな♪」
 白猫に皆のイメージカラーのリボンを結びながら、すみれも横から声でお手伝いだ。
「皆、物知りだね……」
 陽葉がアドバイスを聞きながら頷き、自らのぬいぐるみに取り込んでいく。
 そして各々人数分作り上げたぬいぐるみは、皆で交換会だ。
 クリムの特製ボア生地の熊を持ちシルが周りを見渡す。
「みんなで交換会みたいにするのもいいよね~♪ Xmasに負けないくらいに楽しんじゃおうっ」
 そこですみれが気づいた。
「あ、猫に尻尾つけ忘れた」
「あれ? すみれ姉ちゃん、意外とどじっこ?」
「……ど、ドジっ子違うもんっ!」
 タージェが笑うと皆つられたように笑った。
 口々に交わす魔法の呪文は、ハッピーバレンタイン。
 クロエは悩んでいた。莉緒へプレゼントするぬいぐるみのモチーフだ。
 クリスマスにも熊を送り、動物のぬいぐるみも最近沢山作ったばかりだ。
『ぬいぐるみ、さん、作り、ま、す?』
「私はウサギのぬいぐるみを作らせて頂きます、こう、抱えられるサイズの」
 莉緒とイリアはすぐに決まった様子で早々と準備を始めている。
 鮮やかな手つきであっという間に可愛らしいぬいぐるみを仕上げている莉緒を見ながら、クロエはやっとの事で心を決めた。
「よし、……動物以外もいいわよね」
 針を走らせるのは青い大きな球に、小さな球の手足。
 ぽんにゃりとした表情の顔をつければ、
『それ、なん、です?』
「えっ、……くろちゃん、かしら」
 莉緒の問いに照れた様子でクロエが答えた。
 『自分モチーフの謎生物』だなんて、素直に言える訳が無い。
「あっ、あら…?」
 そこにイリアの慌てた声が響く。
「フェルトが剥がれて……、あっ、腕が千切れそうです!? 待って、腕さん頑張って」
「ちょ、イリアさん……手伝った方がいい?」
 そうしてほぼ2人に仕上げて貰ったイリアは少ししょんぼりしていたが、完成したぬいぐるみをプレゼントされた莉緒の満面の笑みに直ぐに気持ちを取り直せたようであった。


「ロッテは部屋に飾るぬいぐるみを作るのよ」
 材料を抱えて宣言するシャルロッテ。
「なら、僕のぬいぐるみも」
「では、私が作ったぬいぐるみも」
「ほえ? 2人ともロッテにくれるの?」
 ふんわりと微笑む彼女の横で、同時に言ったロイと操が顔を突き合わせた。
「なんだよ女、お前もやるつもりか?」
「何? ククツのアホもか?」
 言い合いに火花が散る。
「いいよ、どっちの作品が彼女の心を動かせるか勝負だ」
「私が君に負けるわけがないだろう?」
 当の彼女は既に微笑みながら作業を始めている。
 操の手慣れた手つきから生み出されるテディベアは正確で丁寧な仕上がりだ。仕上がりが最高すぎてやや興奮しつつある。
 対するロイはシャルロッテのウィングキャットを模した黒猫。そしてシャルロッテは合わせた白猫のぬいぐるみに赤いリボンを結んで完成だ。 
「あ、待て女。君を模したぬいぐるみも作ったから受け取ってくれ」
「そうかククツ、ホラ君の背負っている棺桶を模したぬいぐるみだ」
 綿を引き抜いたり燃やしたりしだす2人を嗜めるシャルロッテ。
「でも、ありがと、どっちもロッテがとっても大事にするから、ね」
 シャルロッテの笑顔に毒気を抜かれたように2人は顔を見合わせた。
「へぇ、ぬいぐるみってのは出来たもんを買うイメージだったが実際に作れるんだな」
 物珍しげに呟いたモンジュが、型紙本を捲る。
「……新しく何か、欲しいと思って」
 可愛い物は好きだが余り持っていないキリクライシャは、大好きな林檎を持たせる事を先に決め悩む。
「……うさぎ?」
「ん、うさぎにするのか」
 じゃ、俺はひよこでも作ってみるかな、と生地を選ぶモンジュの横で悩む彼女。
 こんなに種類が多くては選びきれない。
「……選んでもらっても?」
「そうだな、じゃあ――」
 彼のおすすめ生地で生まれたのは林檎を抱える褐色兎。
 小さなひよこの横に、仕上げに見つけた綺麗な赤いリボンを耳に結んだ兎が座っている。
「……ありがとう」
 お礼を伝えるキリクライシャの雰囲気は柔らかい。一緒に来てくれた事が、嬉しい。
 憂いた表情を浮かべるユスティーナは、落ち着かない様子だ。
「何かを縫って物を作るっていうの初めてなのよね、出来るかしら……」
「んー。ユナは何作る?」
 メリルディに声をかけられ、彼女は咳払いで気丈さを取り戻す。
「私は猫を。まあ、楽勝よ」
「そっか、わたしのは出来上がるまで秘密ね」
 じっとユスティーナを見つめるメリルディ。
 しかし、内心慌てている彼女はその視線の意図に気づく事は出来ない。
「できたけれど、……作りなおすべきかしら、って」
 歪な形をした猫を爆誕させてしまい、溜息と共にメリルディの手元に視線を移すと。
「な、なんで私?」
「じゃーん、ミニチュアユナだよ、似てるかな?」
「肖像権の侵害よ、まったくもうっ」
 恥ずかしいけれど嬉しくて、どんな表情をすれば良いか分からない。


「へぇ、好きなぬいぐるみが作れるのか」
 クリスは可愛い物が好きと言っていたな。
 沙雪は横に座る小柄な彼女、クリスティーネを見ながら考える。
「わたくしの好きなぬいぐるみ……」
 自分が好きなもの、と言えば決まっている。
 目前の沙雪をじいと見て、心を決めたクリスティーネ。
「……どうしたの?」
「な、何でもありません!」
 隠すようにぬいぐるみ作りを始めた彼女に、首を傾げながらも沙雪は作業を始める。
 作るのはデフォルメされたカピバラだ。
「そういえば、クリスは何を作っているんだい」
「ひ、秘密ですー!」
 そうして完成した、沙雪人形。
「愛嬌があっていいね」
 恥ずかしげに見せる彼女に沙雪が微笑むと、クリスティーネも照れを隠すようにはにかんだ。
「これでできあがりですっ」
 鈴花の横で、子どもがわあと歓声をあげた。
 ――まさかデートがしたいとお願いされて戦災復興に駆りだされるとは思ってはいなかった。
 同棲中の彼女が喜ぶ姿は可愛くて愛しい。
 ま、いっかと笑うルーファスの裁縫を行う手つきは鮮やかだ。
「ルーファスは、相変わらず器用なのです。何を作っ、て」
 目を丸くする鈴花。
 彼が作っていたのは、一抱え程もある鈴花とルーファスのぬいぐるみだ。
「あ、あの、これは、恥ずかしいんです、が……!」
「こうやって手を縫い合わせれば、ほら、いつでも鈴と一緒だ」
 鈴花は頬を染めて頬を膨らませる。
「……でも、2人で過ごせて嬉しいな。ありがとうルーファス」
「一緒に持って帰ろうな」
 鈴花にルーファスがキスをすると、鈴花はますます顔を赤くするのであった。
「……ぬいぐるみ、かわいいの……いっしょにつくってみる、ですか?」
 依頼で一緒になった結華に誘われ、裁縫が苦手だから手伝いだと伝えた筈だが。
「理屈はわかるが実際に行うとなるとやはり難しくてね」
 やはり歪な形になってしまったぬいぐるみに苦笑を浮かべるアルカナタ。
「私のはごらんの有様だが、結華嬢の方はどうかな」
「みぅ、意外と、難しい、の」
 二人共完成はしたが、けして上手とは言えない。
「あんまり、うまくできなかったけど、ふわふわにはできた、かな? こうかん、する、です、よ~」
「交換?」
 結華へのプレゼントしようと思っていたが、不出来に諦めていたアルカナタは驚く。
「不出来なものだけど、これで良いなら」
「ん。……わらってるけど、かたいの」
 指摘され、む、と表情を直すアルカナタ。
「……大切にするよ」
 作りたいものがある、とスノーエルが言った。
「ここがちょっと難しくて手伝って欲しいんだよー」
「はい、良いですよ。でも、これは?」
「内緒なんだよっ♪」
 慣れた料理とは勝手が違い、意外と難しいぬいぐるみ作りに悪戦苦闘するスノーエル。
 彼女が張り切ってぬいぐるみを作る姿は幸せそうで、とても可愛いと思う。
 しかし完成したぬいぐるみを真っ先に見せられ、ミシェルは目を見開く。
 ミシェルそっくりのぬいぐるみ。
「俺が傍に居る、じゃ、ダメなのか……?」
 小さな嫉妬。……少しくらい許して欲しい。
 彼の気持ちと呟きに、スノーエルは気づかないふり。
 だって、ぬいぐるみだったら普段は言えないことも、できないことも出来ちゃうから、ね?


 使い慣れた裁縫セットを横に雪子は、雪の結晶の刺繍が入った生地を広げる。
「これ、すっごく可愛いですっ! 良ければお揃いの生地で作りません?」
「わ、……可愛いの。是非この生地を作りましょう」
 息吹は頷き、雪子に貰った雪兎の型紙を早速広げた。
「お裁縫は苦手だけれど……、ゆきさんはお得意そうだし、心強いわ」
「困ったらいつでもお手伝いします!」
「それじゃ、完成したら交換こしましょうか。……イブの拙い雪兎で良ければ、だけれど」
「勿論ですっ!」
 2人の少女が仲睦まじく作り上げたぬいぐるみは、雪子をイメージした少し凛々しい雪兎と、息吹をイメージしたトナカイだ。
 仲良く並んでお揃いの椿の造花が揺れている。
 雪子も同じ造花を自らの頭に刺して首を傾げた。
「私もお揃いにしたら、似合うでしょうか?」
「えぇ、お揃いも素敵だと思うのよ」
 笑い合う2人。楽しい時間が過ぎる。
 アイルが立ち上がり、宣言をした。
「ココをこうしてー、完成特製アイル人形にゃ!」
 アイルがぬいぐるみを掲げると、ヴォルフもニィと笑みを深めた。
「アイにゃん、俺も出来たぜ」
 ヴォルフの手には丁寧に仕上げたヴォルフ自身を模したぬいぐるみが握られている。
 お互いに交換しあうぬいぐるみは、愛しい人が気持ちを籠めた大切なものだ。
「アイにゃんと思って貰った人形を大切にするよ」
「にゃ、私もにゃっ! 絶対に一生大事にするのにゃー!」
 らぶらぶカップルは幸せそうに笑い合う。
 お互いをイメージしたぬいぐるみを作って交換しようと言い合い、クローチェとゼンは並んで針を走らせていた。
 綿を詰めるクローチェの瞳は真剣そのものだ。
 相棒には幸せになって欲しい、応援する気持ちを綿に籠めておまじないだ。
「我ながら上手くできたのデス! 大好きな相棒に渡すと思ったらつい気合入ってシマイマシタ!」
 テンションの上がるクローチェの横でゼンは中々苦戦をしている様子だが、何とか形にする事ができたようだ。
 最後に、大切な友人で相棒のクローチェが幸せでありますように、と祈りを籠めて四つ葉のクローバーのアップリケを縫い付けて完成だ。
「よし」
「完成デス!」
 並ぶぬいぐるみは赤いマフラーの黒猫と、四葉のアップリケのイルカだ。
「ゼンって何となく猫っぽいデショウ! ほら、この赤いマフラーとかゼンっぽいのデスヨ!」
「クローチェは、可愛らしい笑顔や、意外と気の利くし……、瑞々しい感性とかさ、ぱっと思いついたのがイルカだったんだ」
「イルカデスカ! クレバーなワタクシにピッタリなのデス!」
 飛び跳ねんばかりに大喜びする彼に、ゼンは笑いかける。
「おまじないも素敵だけどさ。俺はクローチェに応援してもらってるだけで、超心強いよ。――これからもよろしくな、相棒」
「勿論デスヨ!」
 そうして相棒達はこつりと拳を叩き合せた。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月13日
難度:易しい
参加:41人
結果:成功!
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