ヒーリングバレンタイン2016~想色結び

作者:小鳥遊彩羽

●想色結び
 人馬宮ガイセリウムの侵攻により東京都内に大きな被害が出ており、このままだとさらに甚大な被害が予測されている──。
「最善の結果を出せたとしても、ガイセリウムが通った辺りの被害は大きいだろうし、最悪の場合は首都消失まであり得る状況──つまり、君達の出番というわけだ」
 そう言って、トキサ・ツキシロ(レプリカントのヘリオライダー・en0055)は常と変わらぬ笑みを浮かべてみせた。
 戦いの傷跡ヒールで癒し、東京都心部を速やかに復興させる。
 バレンタインが近いこともあってか、ヒールされた建物の一部は、例えばお菓子、あるいはおもちゃのような、華やかで楽しげな雰囲気になったりするだろうとヘリオライダーの青年は続けて、一つ頷いた。
「そう、バレンタインも近いことだし、修復も兼ねて街の人達と一緒にチョコレートに添えるプレゼントを作ってみない? ──というお誘いなんだけど、どうかな」

 そして、トキサは資料をめくりつつさらに続ける。
「君達に修復をお願いしたいのは、下町の商店街だね。終わった後はそこで、天然石のアクセサリー作りを楽しんでもらえたらと思っているよ」
 天然石──いわゆるパワーストーンは、色や種類が豊富なだけでなく、例えば水晶なら『調和』、アクアマリンなら『幸福』といったように、石ごとに秘められた意味も様々。
 必要な材料や道具は全て揃っており、また初心者向けの作成キットなどもあるので、ケルベロス達だけでなく被災した周辺住民も招いて一緒に楽しめるだろうということらしい。
「アクセサリーは定番だとブレスレットとかペンダント、ピアスやイヤリングとか……になるのかな。けど、アクセサリーに限らずストラップとかも作れるし、これを作りたいって物があれば何でも自由に作っていいし、男女問わず気軽に身に着けたり使ったり出来るんじゃないかなって思うよ」
 送る相手に合わせて石を選べるし、出来上がった物は文字通り、世界に一つしかない物になる。
「あと、温かいチョコレートドリンクも飲めるから、終わった後とかにほっと一息つくのもいいかもしれないね」
 制作用のスペースの他に休憩用のスペースが別に用意されており、そこでホットチョコレートドリンクを振舞ってもらえるのだという。味は定番のミルクとビターの他、寒いこの時期ならではのジンジャーをブレンドしたものもあるとのことだ。
「私もブレスレットとか、作ってみたいです……!」
 チョコレートドリンクも美味しそうですよねと、フィエルテ・プリエール(オラトリオの鹵獲術士・en0046)が瞳を輝かせる。
「誰かに贈るだけじゃなくて、自分へのプレゼントにするのもいいよね。せっかくだから、俺も自分用に何か作ろうかなーって思ってるよ。──というわけで、頑張っていこう」

 大切な誰かへ、あるいは自分へ。
 チョコレートと一緒にたくさんの想いと心を込めた、世界でただ一つの贈り物を。 


■リプレイ

 ケルベロス達の手によって進む修復作業。
 東京中の被災地を駆け巡っていた泰地の姿も例外なくここにあり、鍛え抜かれた肉体美を惜しげもなく披露していた。
 住民達も見守る中、商店街の一角にカラフルなキャンディやクッキー、チョコレートなどを散りばめた大きなお菓子の家が現れる。
 用意された材料や道具、テーブルや椅子などが運び込まれ、修復を終えたケルベロス達は安堵の息と共に次の作業に取り掛かった。
 それは、色とりどりの天然石を用いた、オリジナルのアクセサリー作り。

 同じテーブルを囲み、アクセサリー作りに勤しむ【エリウ】の面々。
 作った物を後でシャッフルで交換という提案はリコによるものだ。
「皆さんのベリーグッドなセンスに期待していますよ。……なんて」
 リコはカーネリアンをあしらい、手のひらにのる程の小さな森のブローチを作った。
 これは手を抜けないなと笑う颯音が作ったのは、色鮮やかな翠玉のストラップ。女性に触れるように丁寧に、薔薇の花弁や飾り糸で彩りを添えて。
 ベリーグッドに作れるだろうかとどきどきしつつ、沙織は水晶を繋いだブレスレットを。間に織り交ぜた瑠璃石に込めたのは、災いを退け身を守ってくれますようにとの願い。
 イジュはべりーべりーぐっどを目指すと意気込み、色んな色を使いたくなるのをぐっと堪えて大粒のアパタイトを中心としたマクラメ編みのペンダントを作った。小粒のオパールを留め石に、願うはたくさんの素敵な縁と幸せ。
 導きを願って作られたアイオライトのブレスレットはユウの手によるものだ。もう一つ内緒で作った幸せの星──ラピスラズリのブローチは、いつも傍にいてくれるウイングキャットのじいやへの贈り物。
 ダーリンの手の中に煌いたシトリンは彼の瞳を映したかのよう。荒削りながら奮闘して作った小粒のシトリンが揺れるイヤリングはなかなかの自信作。
 それぞれ誰の手に渡るのか、それは後でのお楽しみ。
 選んだ石が、幸運と守護を運んでくれるよう祈りを込めて。
 アレンとクライスはペンダントの土台──それぞれの片翼に石を嵌め込んだ。
 ラピスラズリとサンストーン。互いの翼を合わせれば、きっとどこまでも飛べるはず。
 賑やかに響く声は【星天の銀翼】の面々のもの。
 爽が作ろうとしているのはラリマーとアメジスト、そして直感で選んだラピスラズリを連ねたブレスレット。調和と安定に成長を兼ね備え、はたしてどのような効果が生まれるのだろうと楽しみにしたのも束の間。
「ちょ、涼乃、ヘルプ!」
 絡んでしまったテグスは爽一人ではどうにもならず、慌てた涼乃が手を貸すも一層絡んでしまって。
 大変そうな二人を横目に、ミミックのボックスナイトの無言の応援を受けつつ、アストラは瞳の色と同じロードナイトのストラップと格闘していた。
「……パトリックさーんヘルプー!」
「大丈夫か?」
 涼乃の声に飛んできてくれたパトリックがピンセットを使って器用に解くのを見れば、その手際の良さに爽は感心するばかり。
 爽の手伝い、もとい救出を済ませた涼乃はローズクォーツとムーンストーンのブレスレットを。そしてパトリックは、アストラと同じように自らの瞳の色に近いアイオライトを用いてシンプルなネックレスを完成させた。
 ちょっとしたハプニングもつきもの。だけどこれもまた楽しい想い出の一頁。
「ああ、そこ、ちょっと違う、みたい、ですよ」
「もー接着剤じゃだめー?」
 沙夜のアドバイスを受けながら雫が作ろうとしているのは恋人へ贈るストラップ。
 けれど不器用ゆえになかなか進まず、見れば隣の弥奈も作業の手が止まり──もとい震えている様子。
「有枝ちゃん、すとっぷっ! 力みすぎです、よ!」
「……あっ」
 沙夜が止めるも間に合わず、弥奈の手の中で小さな音を立てて割れる石。
「私、何しに来たんだろう……」
 思わず机に突っ伏してしまう弥奈。
 不器用さんな二人を前に、次はきっと大丈夫と沙夜は優しくアドバイス。
「一緒に、がんばりま、しょう♪」
 たくさんの遠回りをしながら、少しずつ想いを形にして。
「ところで栞ちゃん。こういう小物作りにおいて大事な事は何か……わかるかい?」
 翡翠の勾玉のストラップを見せながら薊は言う。それは妥協しないことだと。
 拘って拘り抜いて一つの作品を完成させる。その言葉に栞は深く頷いて、
「出来る限り、じゃ駄目なんだよね」
 飽きっぽくてすぐ諦めてしまう自覚はあるけれど、これだけは絶対にやり遂げなければと決意を新たに栞は石を手に取った。

 他の人達の様子を見て回るのも楽しそうだと思いつつ、瑞樹は一人黙々と慣れた手つきでオレンジの琥珀をメインとしたチャンルーブレスを編んでいく。
 周りから聞こえる楽しげな声。甘い空気を纏うカップルは極力見ないようにして。
 オニキスとアンバーを交互に連ねてブレスレットを編み上げていくルトゥナの傍ら、エイトは真珠とローズクォーツ、そして少しの水晶を散りばめた華やかなピアスを作り上げる。
 作ったそれらはお互いに今日の日を過ごせたことへの礼として。
 明日どうなるかもわからぬ身、互いの安全とこれからの道を交わした石に祈る。
 目移りする程の煌めきの中から、アリッサは月長石と紫水晶を掬い上げた。
 それはどちらも『あのひと』の色。
 あのひとはもういない。喪ってから想っても、もう還らない。
 それでも、『あなた』に伝えたい想いがここにある。
 完璧じゃないし、完璧なものなんて作れない。それでも大切に想って作って渡したい。
「いつでも傍にいたいだなんて、我侭だよね」
 作りかけのストラップに結ばれたターコイズと銀藍の星を順に指でなぞり、アリシスフェイルはぽつりと呟いた。
 鮮やかだけど優しい色を持つ、生命と繁栄の言葉を持った火の石。銀のピアスの台座に濃紅の小さなレッドトパーズを据え、君の誕生石なんだよと累が言う。
 累の手元の煌めきに知らず頬を緩めつつ、ドミニクは滑らかな無垢材を丁寧に削り琥珀を飾る。
 虎魄──綽やかで誇り高い獣の魂を抱く石。
「あんたには何となく誂え向きだろ」
 彼女の許しを得て思うままに作ったものだけれど、きっと彼女の髪に似合うだろう。
 燕雀が視線を感じて顔を上げると、こちらの様子をこっそり見ている牡丹と目が合った。
「あっ! す、すみませんつい……」
「覗き見なんて、イケナイお嬢さんです」
 大きな手で目隠しされて、恥ずかしさからか頬が熱くなる。
 牡丹が作ったのは翡翠を埋め込んだシルバーのタイピン。燕雀の手にはルビーとオブシディアンを連ねた角飾り。
 想いを重ねて贈り合えば、嬉しいと牡丹が綻ばせた幼い花のような笑みに、燕雀もまた笑みを綻ばせた。

 タルパは黒の蛋白石と銀狼の牙を首飾りへと加工していく。
 虹の輝きと、紡ぐ物語への創造力と活力を──そして一番心臓に近い所を守ってくれるようにとの願いを込めて。
 その想いに感心しつつ、ネフィリムは菊結びにした真赤な紐に琥珀を飾り付けにっこりと笑った。
「タルパ君が長生き出来る様にボクからの一寸した願掛けさ!」
 ──黄泉返り、地獄纏いと呼ばれた自分には不似合いな気がして、でも嬉しくて面映くてどんな顔をしたら良いか判らなくて。
「つけて!」
 笑み浮かべる友へと頭を突き出せば、大きな角に鮮やかな赤と琥珀の花が咲く。
 快活な陽子には陽だまりのような色の石が似合いそう。
 そう思いながら、いちるは人を呼ぶというアラゴナイトを連ねてイヤリングを作る。
 あーでもないこーでもないと言いながら、陽子が作ったのは三日月のピアス。
 乳白色に添えた青色はお揃いの瞳の色。完成したら、せーので見せ合い。
 今度これをつけて一緒に遊びに行こうと笑顔の先に約束を重ねて。
 ふとした弾みに石のトレイを盛大にひっくり返してしまったのは、ふわりと漂ってきたチョコレートの甘い香りのせい。
 呆然とするロビンへ伸ばされた救いの手。こぼれた石を拾い集めながら、コンソラータは見上げた先にいた少女の姿に小さく息を呑んだ。
(「──お人形さんみたい」)
 しょんぼりと肩を落とすロビンの前で、最後の一つを拾い上げるコンソラータ。
「あの、ありがとう……ごめん、ね」
「どういたしまして、お安い御用だよ」
 何気なく頭を撫でようと少年が伸ばした手に、少女はほんの少しだけ首を竦めたけれど。
「あのね、……甘いものが嫌いじゃ、なければ。あとで、──」
 それは、一つの小さな始まりのお話。
 春乃が見つけたのはカルセドニーとアマゾナイト。幸運を運び、繋いだ絆を更に発展させてくれるのだという。
 紐に通してストラップにしつつ、隣に座るトキサの手元を覗き込めば、藍色のカイヤナイトでストラップを作っている様子。
 目が合えば、互いに綻ぶ笑み。これから先も優しい縁を紡いでいけますようにと。
 うずまきの瞳に映る【風奏廃園】の皆。
 楽しそうな姿を見ているこの時間が愛おしくて、願うことも一つだけ。
 ──『皆』がいつも無事で、ずっと廃園で笑えるように。
 ガーネットのお守りに、皆と『あの人』への想いを込めて。
 夜が選んだのは灰青色のホークスアイ。大事な局面でも平常を思い出せるよう、クリアな水晶と交互に想いを結んで繋げて一つの輪にしたら出来上がり。
 色とりどりの石達にわさわさと耳を揺らしつつ、あかりは庭園の入り口に飾るオーナメントを作る。ラピスラズリにオニキス、アメジストとガーネット、そしてシトリンと、皆をイメージして選んだ石に小さな葉を繋いで結ぶ願い。
 ──僕の大切な人達に、たくさんの幸せが降りますように。
 華はふと目が合ったアイオライトにアメジストと水晶を加えてブレスレットに仕立てた。
 優しい皆と過ごす時間はとても優しくて。だからこそ皆の幸せを華も祈る。
 色も形も様々に、想いを花咲かせる種のよう。
 他愛ない会話を楽しみながら、マールは瞳と心に触れた銀灰のアイアゲートを鎖に繋ぎ止めてストラップを拵えた。
 幸せを祈る皆の優しさが言葉にせずとも伝わってくるようで。
「貴方達自身のしあわせも忘れずに祈って頂戴ね」
 それが大切に想うひとの幸福に繋がるのだから。

 ミルラの耳元で揺れるのは、雫型の緑と球形の青を金色の細い鎖で繋げたピアス。
 緋織の腕で煌めくのは、紫苑の夜空と陽映す月色を繋いだブレスレット。
 ──世界で一つ、僕だけのもの。
 嬉しいと笑いながらも、込み上げる喜びに目を潤ませる緋織。
 有難うと告げるミルラの笑顔は少しぎこちないけれど、彼も嬉しく思っているのは同じ。
 セレナとラズリアは完成したものを互いに見せ合う。
 白い鈴蘭のガラスビーズを使ったストラップとネックレス。鈴蘭は白銀騎士団の花。揃いのモチーフが嬉しいと笑うラズリアに、セレナもまた嬉しいと微笑んで。
 忘れられない想い出が、また一つ。
 リューデがイメージしたのは友の持つ極彩色の翼。けれど彼の翼が持つたくさんの色に、どの石が相応しいかわからなくて。
「……お前が派手すぎるのが悪い」
「いきなり何なのさー! 解りやすくていいでしょー! もー!」
 唐突な八つ当たりに拗ねた声を返しつつ、アルベルトもまた、友をイメージした白いムーンストーンとシトリンでブレスレットを。
 出来上がったそれを渡そうとしたら、無造作に押し付けられる赤と青、そして黄色の三色の瑪瑙を使ったブレスレット。
 考えることは互いに同じ。けれどそれも大切に想う友だからこそ。
 刀の鍔を模したピアスの台座にカイヤナイトを嵌め込んで。
 相棒の耳元へ添えれば、スプーキーは思わず美しいと感嘆の息。
 思いがけない言葉に目を丸くしたトレイシスが作ったのは、ヘソナイトの小石を一粒嵌めたシンプルなカフスボタン。
 選んだのは偶然にも互いの誕生石。交わした想いも込めた願いも二人だけの──。
 真実の愛を引き寄せる夜の雫のアメジストに、朝に咲く純真無垢な白い花のオパール。
 ぴったりだろう? と内緒話のようにネロが片目を瞑ってみせれば、真似っ子と言わんばかりにシアはぎゅっと両目を閉じた。
『彼女』流のウィンクに、思わず笑みが溢れ出す。
 揃いの金鎖に繋ぐ朝と夜。大好きな相手を想う幸せの先に、綺麗な色の想い出を重ねて。
 メイアは少し覚束ない手つきで透明な石と水色の石を連ねながら、ふとカロンの手元に見覚えのある琥珀のハートを見つけて微笑んだ。
 それはカロンが絶対に使うと決めていたメイアからのプレゼント。
 うれしいと笑うメイアもまたどことなくカロンに似た、ご利益はお墨付きの猫と星のチャームをストラップに飾る。
 一緒に作ったストラップ。スマホに着けたそれが揺れる度、今日の想い出とたくさんの煌めきが蘇る。

 わいわいと楽しく、皆で石の意味などを調べたりしながら【男ガレ組】の五人も作業に勤しんでいた。
 ノルは大切な人へ贈るための、ブラッドストーンと水晶、ガーネットを織り交ぜたブレスレットを。女の子らしい色とは言えないけれど、いつも傍で支えるという気持ちを込めて。
 ヴィンセントは石選びのアドバイスなどをしつつ、ヘリオドールと蛍石、オニキスと虎目石、そして黒曜石と、皆をイメージした石を連ねてお守りに。
 郁は翡翠とムーンストーンのブレスレットを。喜んで貰えるかどうか不安はあるけれど、込めた気持ちだけでも届けばいいと願いながら。
 モンジュのブレスレットはクォーツとコーラルを組み合わせたもの。プレゼントかと問われれば行先は決まっていないと答え。それよりもモンジュが気になるのは皆の出来具合。勿論よく出来ていたら褒めるつもりだ。
 壬晴はヴィンセントに手伝って貰いながら、アパタイトとフローライトを一つ一つ頑張って紐に通していく。
 ──皆と、ずっと一緒にいられますように。
「石だからお守り程度なんだろうけどさ。悪くはねぇよな」
 智十瀬が作ったのは、黒が強めのスモーキークォーツとカイヤナイトを青い紐で結ったストラップ。
 恭典はクリソプレーズとアパタイトを選び、ブレスレットにした。
(「きっと似合うだろうな」)
 その想いは、目の前にいる智十瀬へと。
 男同士でチョコレートを作るのもらしくないからと代わりに選んだ贈り物。
 例えチョコレートではなくとも、心込めた一つの品を贈り合うのは悪くない。
 穣は金緑石とコバルト尖晶石を、そして獅晏はインディゴライトのトルマリンを選び、互いの耳に合わせたイヤーカフスを作った。
 とても楽しそうだと獅晏が眩しげに目を細めれば、貴男と一緒に作ることが出来たのがとても嬉しいのだと穣も笑みを深める。
 戦禍の傷痕を塞ぎ人々の心を癒し、互いの心も満たして。
 グラディウスの瞳と同じ紫のアメジストを、ユタカは彼を想う気持ちと祈りを込めて一つ一つ紐に通していく。
 ふと傍らを見やれば、小さな石を紐に通そうと悪戦苦闘している恋人の姿。
 知らず零れる笑みと共に目尻にキスを送れば、グラディウスは軽く目を見開いて、どうしたんだと恋人の頬に手を伸ばした。
 結局紐が縒れてしまって石は通せないまま、手作りのプレゼントはまだまだ先になりそうだけれど──それでも、共に紡ぐ時間は何よりも愛おしい。
 アクアマリンの雫のチョーカーと、サファイアを抱く星のネックレス。
 楽しげな声がふと途切れた直後、不意に肩に感じた重みに卦物はびっくりしてさとりを見つめた。
 祝福のお守りだと告げたさとりの声は少し小さく、けれど嬉しそうで。
 その想いが伝わってくるからこそ、卦物の中に募る彼女への愛おしさ。
 互いに頬を紅くしながらも、寄り添えばぬくもりは一つになる。
「この石はどんな意味なのかな」
 未晴がふと零した呟きに、彼女の手の中にあるアクアマリンを見て微笑む雅耶。
「幸せな結婚──俺は未晴と結婚出来て幸せだよ」
 告げられた答えに思わず瞬いて、けれどすぐに緩む未晴の頬。
 雅耶は未晴みたいな色だとカーネリアンを選び、二人で作るのはお揃いのストラップ。
 織り交ぜた石は真実の愛を守り抜くアメジスト。
 これから先もずっと、共にあることの幸せを抱き締めて。

 修復作業を終え、ホットチョコレートで一息ついていたリューディガーの元に、チェレスタとエリオットがやって来る。
 ルーディ兄さんにとチェレスタが作った水晶のブレスレット、それに込められた想いをリューディガーは確かに受け取った。
 エリオットもリューディガーのような立派な騎士を目指すと頼もしい気概を見せる。
 これからも人々の守護者として、三人は共に戦うという決意を新たにした。
 あたたかいチョコレートドリンクを手に、鳴海と輪夏は修復された街並みを見つめる。
 ヒールで出来たお菓子の家は食べられそうに見えて食べられないけれど、ちょっとかじってみたら実は甘かったりするのだろうか。
「わたし、なるみに会えて幸せ。ありがと」
 輪夏が紡ぐ感謝。その気持ちが嬉しくて、鳴海の心もぽかぽかになる。
 お揃いで作ったブレスレットの煌めきのように、これからも素敵な想い出を一緒に連ねていけますように。
 二人での初めてのお出掛け。緊張から話を繋げずにいるキリンへ、ゼノは己のホットチョコレートを差し出した。
「頂けるのですか、ゼノ殿? では、わたくしも……」
 ほっと緩む空気。互いのホットチョコレートを交換し何気なく口をつけてから──それが間接キスだと気づいたキリンの顔は見る間に朱に染まって。
 ゼノは微笑みながら、キリンから渡されたジンジャーを一口。
「これで御相子だな……」
 キリンの口の中に広がったチョコレートの味は、ビターのはずなのにほの甘く感じて。
 シャインは煌介の手を取り、自分の手とそっと合わせる。
 優しいけれど逞しい男の人の手。握り締めれば包み込まれるように返る感覚。
「こーすけ、好き。私と……改めてつきあって……」
 煌介にしてみれば今更の告白。けれどどこかで跳ねる心。
「愛してるよ、シャイン……ずっと一緒に、居よう」
 掠めるような口づけと、甘いショコラを交わして。
 ちょうだいとヒナキのカップからそのまま一口、自分が頼んだジンジャーとは違うミルクの味に瞬くスバル。
 スバルのもくださいと少しだけ強請るようにジンジャーを一口飲んだら、ぴりっとする口の中。
 少し苦手と感じてしまう自分がヒナキはちょっぴり悔しいけれど。
 チョコレートドリンクを交換して、それから特別な日のために作ったプレゼントを。

 全ての作業を終え、チョコレートドリンクを傍らに他愛ない話に花を咲かせる【藤守家】の面々。
「……さて。皆さん、アクセサリーの準備は磐石ですか?」
 指組みながら満面の笑顔で皆を見る景臣に、娘の千鶴夜はこっそりと溜め息一つ。
「……景臣、凄い張り切ってるみたいだよ」
 それを聞き取った司が楽しげな笑みを覗かせる。
 景臣が用意したのは菫青石の花を添えた首飾り。本当はもっと豪華にしたかったけれど、あまり凝るなと娘に言われたのでシンプルな仕上がりになった。
 千鶴夜が悩みつつ作ったのは、ブラックオニキスとラピスラズリを所々に連ねたブレスレット。司はクラック水晶を満月に見立て、銀細工のガムランボールの下に揺らしてストラップを作った。
 もちろん万全だと笑うローレンスが用意したのは瑠璃を用いたカフリンクス。どの子が自分の元にやってくるのだろうと、想像するだけで笑みが綻ぶ。
 藍方石とラリマーを黒い紐で結ったシンプルなブレスレットを作ったのは信倖だ。好みの色で作ったというそれは、慣れないと言いながらもしっかりと出来ている。
 石や岩の扱いは慣れていると、皆に負けじと張り切ったレンは、小さな鈴を結び目に添えたアマゾナイトとプレナイトのブレスレットを。
 色とりどりの石が繋ぐ縁。今日の想い出は、きっとこの石達と同じように煌めいている。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月13日
難度:易しい
参加:83人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 3
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