怒れる鯨竜を討て!

作者:天枷由良

●三度、相模の海で
 戦艦竜グラウ=バレーナの縄張り……とされている海域に、五隻の漁船からなる船団が侵入を果たしていた。
「この辺って化け物出るとか言っとらんかったかー?」
 先頭を行く船、その操舵手を務める男の問いに、船長が欠伸をしながら答える。
「近頃はめっきり姿を見なくなったってよぉ。大体、化け物にビビッてたら漁師はやってけねーでよ」
「ちげぇねぇや、ガハハハ! ……ハ?」
 ふと、男たちは船に影が差した事に気付いた。
 何もない海の上に、あるはずのない影。
 まさか、と見上げた時にはもう遅い。
 鯨の如き戦艦竜の腹に押し潰され、鋼鉄の尾に薙ぎ払われ、巨大な牙で貫かれ。
 五隻の船はあっという間に鉄屑となり、船員は一人残らず海の藻屑と消える。
 ひとしきり暴れたあと、抵抗するものの姿が無いことを確認したグラウ=バレーナは、海底へと戻っていった。

「ようやく見つかったようだな」
 呉鐘・頼牙(暗闇に灯る小さな陽だまり・e07656)に届いた、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)からの報せ。
 それは因縁の相手、戦艦竜グラウ=バレーナに関するものだった。
「……それでは、作戦の概要を説明させて頂きます」
 集ったケルベロスたちに、セリカはこれまでの作戦報告書を提示する。
「10メートルほどの巨体に戦艦のような装甲と高い戦闘力を持ち、城ヶ島の南を守護していた戦艦竜。その一体であるグラウ=バレーナに対する作戦は、これまでに二度行われました」
 一戦目では、詳細不明の敵に果敢に挑んだケルベロスたちが、敵の情報を持ち帰ることに成功。
 二戦目では、その情報を更に検証すると共に、ケルベロスたちを侮った戦艦竜へ多大な損害を与えて敗走させている。
「グラウ=バレーナは、依然として件の海域に潜伏しているようです。ここ暫く行方が知れなかったせいか、無謀にも海域内に侵入した漁船団が有りました。残念ながら、彼らは一人残らず全滅してしまったようですが……」
 セリカが得た情報では、グラウ=バレーナの暴れっぷりは尋常では無かったらしい。
「彼らの思考は分かりませんが、恐らく二戦を経て余裕が無くなっているのでしょう。今作戦での撃破も十分可能なほどに」
 続けてセリカは、敵の情報をまとめた資料を捲った。
「外見について、さほど新しい情報はありません」
 上体の半分を灰色の岩山に見える金属製装甲が覆い、もう半分は灰色の鱗。
 喫水線下になる腹部は白く、その皮膚の下にも鋼鉄の装甲が埋め込まれていた。
「背と腹には、それぞれ装甲を破壊した部分が存在します」
 大きく穴が空き、敵の生身の部分が覗けるというが、そこが特別な弱点という訳ではないようだ。
 背には対空機銃の役割も兼ねる砲台が十門以上。
 尾びれも鋼鉄の装甲に覆われ、鋭い切れ味でなぎ払ってくる。
「それから、双つの牙です。過去二戦でも凄まじい威力を発揮していましたが、今回はそれ以上の威力を発揮すると思われます。回避性能は低いため、攻撃を当てることに心配はなさそうですが、相手の攻撃も巨体に見合わぬ俊敏さで行われます。直線的な突撃と侮らず、防御や回復の態勢をしっかりと整えて下さい」
 その他に習性として、縄張りとされる領域に入ったものを攻撃し、敵と定めたものでも縄張りから見えなくなれば追撃を止める事が分かっている。
 最初に接敵した者に攻撃を集中させる癖も、疑いようはない。
「これまで行っていた囮作戦ですが……警戒を強めている今では、通用しないと思った方がいいかもしれません」
 そもそも、視野や聴力に難のある敵ではなかった。
 今まで囮に釣られていたのは、それでも勝てるとの慢心からだったのだろう。
「進退窮まった敵は、これまで以上に苛烈な攻撃を仕掛けてくると思います。皆さんが揃って無事に帰還できることを、お祈りしています。……それでは、お気をつけて」


参加者
ベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)
アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)
呉鐘・頼牙(暗闇に灯る小さな陽だまり・e07656)
馬鈴・サツマ(小物臭漂う植物使い・e08178)
クーゼ・ヴァリアス(載天剣・e08881)
フェイト・テトラ(悪魔少年の悪戯・e17946)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー暴走型ー・e19121)

■リプレイ

●決戦
「はじめまして! ラリー・グリッターと言います! 今日はよろしくお願いします!」
 決戦の地へ赴く為のクルーザーが留められた船着場で、ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)が礼儀正しく挨拶をする。
 戦艦竜グラウ=バレーナに対する作戦はこれで三度目だが、ラリーはグラウだけでなく、戦艦竜と戦うこと自体が初めて。
 強大な敵に対する恐怖は無いが、やはり少し緊張していることは否めない。
 せめて少しでも仲間たちとコミュニケーションを取り、連携を取りやすくしようといったところだろうか。
 同じように考えるベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)が握手を交わすと、慣れた手つきで船の出港準備をする馬鈴・サツマ(小物臭漂う植物使い・e08178)が言った。
「……手負いの獣ほど恐ろしい物はない、気を引き締めていこう」
「そうだね……心してかからないと」
 サツマの真剣な表情に、ベルフェゴールが頷く。
 グラウ討伐作戦は、これで三度目になる。
 初回から関わっている者、他の戦艦竜との戦いを経てきた者、初参戦となる者。
 今日集った八人は経緯も経験も様々だが、その目的は一致している。
「今回で、グラウを仕留めるよ」
 カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー暴走型ー・e19121)が、皆の意志を代弁するように呟いた。
 それを聞き、サツマは拳に力を込める。
 
 間もなく相模湾の沖合へ出た船は、グラウ=バレーナの待つ海域へ向かって進む。
 言葉少ない船上で、ボクスドラゴンのシュバルツを伴ったクーゼ・ヴァリアス(載天剣・e08881)が、戦前の腹ごしらえとばかりにゆで卵を一口。
「――ふむ。この玉子、意外にいけるな。みんなもどうだ?」
 一体何処で売られているのやら、ある王子の兜を模したケースに入れられた卵を差し出してみる。
 少しは肩の力を抜いてくれればと戯けてみせたのであるが、仲間たちの反応は薄い。
 波の音だけしか聞こえなくなってから暫くして、船は海の只中で停まった。
 此処から先は、いよいよグラウの海域。
 サツマと呉鐘・頼牙(暗闇に灯る小さな陽だまり・e07656)がボートを海に下ろしている間、アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)は少し確認したいことがあると船先に立った。
 すると何処からともなく風が吹き、船が僅かに揺れる。
 暫くそのままで居たアーティアだが、首を傾げて戻ってきた。
 どうやらグラウとの戦闘で一計を案じるつもりだったらしいが、海中を激しく動きまわるグラウ相手にそれが通じるかは怪しい。
 元より博打を打つつもりではないので、今回はそっと胸にしまっておくことにする。
 そしてボートに乗り換えた一同は、潮流に流されてグラウの縄張りに侵入を果たした。
 過去の作戦で使用していた音響装置はその有効性を失ったと聞かされていたため、代わりにボートにはソナーを搭載。
 海中から迫るであろうグラウの痕跡を見逃さぬようにしながら、一同はじっと、波に揺られている。
 ……と、頼牙の身体がぴくりと動いた。
 まだソナーに反応はない。
 だが、幾度と無く聞かされたこの音を、頼牙が聞き間違えるはずもない。
 ビハインドのアデルと共に様子を伺うフェイト・テトラ(悪魔少年の悪戯・e17946)と、そして仲間たちに向けて、頼牙は短く言葉を発した。
「――来るぞ」
 同時に、ソナーにも動きが。
 それが示すものは一つ。
 八人と二体は、すぐさま海に飛び込む。
 頼牙が聞いた音――金属の擦れあうような音は、全員が感じ取れるほど大きくなっていた。
 そして……。
 昏い水底から、鈍く光を放つ双牙が。
 戦艦竜グラウ=バレーナが、姿を現す。

(「あれが戦艦竜……大きいです」)
 見えた敵の容貌に、ラリーが息を呑む。
 彼女とは対称的に、カッツェは狂気を瞳に湛えて輝かせた。
(「グラウ……会いたかった! カッツェのこと、覚えてるかな?」)
 待ち望んだ敵との対面。伝わらない言葉の代わりに、鎌の柄を握りしめて心に思う。
(「カッツェが一番初めに入れたあげたお腹の傷……痛いでしょ? 痛いよね? 大丈夫だよ、すぐにカッツェの手で楽にしてあげるから!」)
 今にも飛び出したくなる気持ちを抑えつつ、急接近してくるグラウに備え、ケルベロスたちは頼牙を先頭に態勢を整えた。
 それを受けて、敵の牙は狙い通り頼牙へと向けられる。
(「さぁ……お前との因縁も今日限りだ!」)
 頼牙の左目が輝く。
 グラウのどんな細かな動きも見逃さぬよう、落ち着いて敵を見据え。
 完璧なタイミングで、頼牙は突撃を回避しようと動いた。
(「……ッ!」)
 だが、完全に回避したと思ったはずの牙が、頼牙の身体を掠める。
 己の全力を賭けてケルベロスを仕留めようとするグラウの突撃は、今まで以上の速さと威力で襲いかかってきた。
 痛みに顔をしかめる頼牙に、ベルフェゴールが生命を賦活する電撃を浴びせ、シュバルツが力を分け与える。
(「いやぁ、怒ってるねぇ。流石に威圧感が違う」)
 別の戦艦竜と戦った経験のあるクーゼだが、敵の気迫を感じて刀を握り直す。
 彼は他人を癒す術を持っていない。ならば攻撃あるのみ。
 クーゼは過ぎていくグラウの横っ腹に、鋭い突きを放った。
 かつては堅牢だった鋼鉄の装甲は、二度の戦いを経てあちこち隙だらけ。
 刀は労せず身体にめり込んでいき、グラウの鳴き声が海中に響く。
 なおも追い縋るように、アーティアが敵の構造を解析しつつ螺旋手裏剣を振るった。
 敵の視界から外れようとするその動きはグラウに捉えられているものの、攻撃目標としては優先順位の低いアーティアがどう動こうとグラウは気にしていない。
 それだけに攻撃は容易く命中し、手裏剣は敵の残る装甲を破壊して貴重な防御力を奪い取っていく。
 アーティアに限らず、カッツェやフェイト、ベルフェゴールは、サツマが海中に展開した馬鈴式戦陣農園で栽培される芋によって力を強化されていた。
 カッツェが投じた鎌もグラウの鱗を大きく剥ぎ取り、旋回を始めた敵の身体をアデルが強く念じて締め付ける。
 ケルベロスたちの攻撃を全てを受けながらも向かってくるグラウの突撃に備え、フェイトがケルベロスチェインを展開。
 鎖は仲間を守護する強力な魔法陣を描き、その先にはラリーが戦艦竜との間にヒールドローンをばら撒いた。
 次々と放たれるドローンの合間に向けて、回復した頼牙が手を伸ばす。
(「――シュヴェルトヴァッフェ!」)
 念じると共に生み出された宝剣の複製たちは、グラウへ刃を向けて揺蕩う。
 突撃の威力を少しでも削ごうと配置されたそれらを、しかしまるで気にせぬように弾き飛ばしながら、グラウは再び頼牙へ向かって突撃を仕掛けてきた。
 破壊的な威力の突撃を二度続けて喰らうことだけは避けようと、いち早く反応したラリーが頼牙に代わって前に出る。
 これまでであれば、余裕ぶったグラウは身を翻して尾の薙ぎ払いを狙ったであろう。
 しかし、今回は減速する素振りも見せずにそのまま突っ込んできた。
 直撃は免れたものの、牙に脇腹を裂かれたラリー。
 その治癒はベルフェゴールとシュバルツに任せ、クーゼが再び斬撃を放って敵の鱗を剥ぎ、アデルは海面に浮かぶ廃棄物などを引き寄せてぶつけ、サツマから力を強化され続けるアーティアとカッツェが氷結の螺旋を撃ち込む。
 過去の作戦で得られた情報を存分に活かし、ケルベロスたちは敵の攻撃を阻むものとそれを補佐するもの、攻撃に全力を注ぐものと役割を分担して戦いを続けていく。
 効果的であるが、とても苦しい戦い。
 それを実感させるように、ラリーに代わって頼牙を庇ったアデルが一撃で消し飛んだ。
 歯噛みするフェイト。だが、それぞれに課せられた役割を果たせば必ずグラウを撃破することは出来るはず。
 フェイトはじっと堪え、再びケルベロスチェインを振るった。

 それから暫くして、サツマは仲間の強化からグラウの攻撃を受ける役へと転換した。
 余裕があればもう少し遅らせるつもりでいたが、アデルが消失したのはともかくとして、頼牙と、彼を庇って動くクーゼの消耗が酷い。
 都度回復は行っているが、それでも癒やせないダメージが積み重なっているのだ。
 ラリーが一度でも連携を乱せば、二人は軽く葬られてしまうだろう。
 彼らの負担を減らすため、先頭に躍り出たサツマがグラウの牙を受け止めた。
 どれだけ身構えていても、その衝撃は身体を芯から揺さぶる。
 飛びそうになる意識を何とか引き戻して、サツマはグラウを押さえつける。
 その間に、アーティアが二つの螺旋手裏剣に風の刃を纏わせて放り投げた。
 風螺旋龍哭刃と呼ばれる技は、グラウよりも遥かに龍らしい嘶きを響かせながら、敵の巨体を僅かに引き寄せて切り裂く。
 悶えるグラウ。
 その腹下に潜り込み、カッツェが鎌を投げつける。
 狙うは、装甲が崩壊して穴が空き、生身の部分が曝け出されている場所。
 取り立てて攻撃の通りやすい弱点ではないが、カッツェは敢えて、そこを狙った。
 回転する鎌がグラウの腹を抉るたび、カッツェは溢れる感情に口元を歪める。
(「痛い? 痛いよね? ……でも、これからもーっと痛くなるよぉ!」)
 鎌を振るい続けるカッツェ。
 更にクーゼが刀を突き立てて、いよいよグラウの姿は悲惨なものになってきた。
 装甲は殆ど剥がれ落ち、傷跡に覆いかぶさった氷が砕かれるたび、グラウの表皮を道連れに沈んでいく。
 あと少し。
 そう思って、決して慢心したわけではない。
 そこで起こった出来事は、ケルベロスたちの何もかもを踏まえた上で、ただグラウ=バレーナが一矢報いようと抗った、その結果だ。
 攻撃を受けきったサツマが退き、ベルフェゴールとシュバルツ、そしてフェイトが彼の治療に当たる。
 遮るもののなくなったグラウは少しだけ深度を下げ、そして垂直に上昇を始めた。
 敵の動きに気づいたラリーとクーゼが、間に入ろうと必死で泳ぐ。
 だが二人が進路を塞ぐ前に、散らばるドローンや複製宝剣を吹き飛ばし。
 退いたばかりのサツマを追い越して、二つの牙が狙う先。
 それは、グラウにとって最も憎き者。
(「頼牙ッ!」)
 心の中でクーゼが叫んだ時、グラウの突撃は頼牙を捉えた。
 瞬間、深い青の中に小さく赤が交じる。
 急上昇していくグラウは、牙で頼牙を貫いたまま水面を飛び出し、真っ青な空に鈍色の弧を描いて戻ってきた。
 その牙の先に、頼牙の姿は無い。
 ――まさか。
 ケルベロスたちの心臓が跳ねる。
 しかし、それを確かめている余裕はない。
 残る七人は畳み掛けるように、グラウへと攻撃を集中させた。
 消えた者には治癒もサポートも出来ない。
 これまで回復一辺倒だったベルフェゴールが凍結光線を放ち、フェイトが喚び出した氷河期の精霊が吹雪となってグラウを包む。
 凍え、白く変色していく表皮にサツマがナイフを突き立て、ラリーが悪を断つ剣で斬り裂き、砕けたところをまたカッツェが氷結の螺旋が塞いだ。
 その上からアーティアが影の如き斬撃を与え、クーゼが霊力を帯びた刀で斬りこんで、シュバルツのブレスも合わせて氷ごとグラウの肉を叩き割る。
 怒涛の攻撃に、まずはグラウの心が折られた。
 背部砲台から弾幕を張りつつ、ケルベロスたちから逃れようと離れていく。
 しかし、ケルベロスたちがそれを許すはずもない。
 腰の引けた砲撃はベルフェゴールの生み出した雷壁とフェイトの魔法陣でことごとく威力をなくし、グラウを追った一団の中からサツマが抜けだして駆動剣を背に突き立てる。
 鉄を裂き、肉を裂き、沈む刃に叫びを上げるグラウ。
 その右横腹に、再び風の刃を纏ったアーティアの螺旋手裏剣が刺さった。
 手裏剣が肉片を抉り取りながら体内にまで向かっていく一方、反対側ではラリーが剣を輝かせて、渾身の斬撃『Volcanic Star Saber(ボルカニック・スターセイバー)』を放つ。
 ラリーの剣が全てグラウに埋まった後、解放されたエネルギーは爆発を起こし、グラウの身体は内部からボコボコと膨れ上がっていく。
(「さぁ、最期の声を聴かせて!」)
 鎌を携え、カッツェが持てる力の全てを投じて尾から腹下、首元にまで至る凄まじい裂傷を与えた直後。
 グラウは一際大きな鳴き声と共に、その中心から爆発を起こして真っ二つに折れた。
 残骸など、浮かび上がる余地もない。
 まるで潜水艦が爆沈していくかのように、グラウ=バレーナは海の底へと沈んでいく。

 敵の最期を見送って、ケルベロスたちはすぐに海面へ浮上した。
「……っはぁ! ……呉鐘さぁん!」
 大きく息を吸ってから、フェイトは頼牙を呼んだ。
 例えグラウを倒した所で、犠牲が出ては何の意味もない。
 何処までも広がる青の中に、フェイトと仲間たちは彼の姿を探す。
「……! 居た!」
 揺れる波の間に、黒いフードが見えた。
 ケルベロスたちはすぐにそれを追って、意識を失いぐったりとしている頼牙を掴まえると船へ担ぎ込む。
 ベルフェゴールの手を借りながら、フェイトが必死に治療を施したことが功を奏したか。
 程なくして、薄っすらと頼牙の目が開く。
「……奴は……どうした……?」
 絞りだすような声に、サツマが手を取って答えた。
「大丈夫だ、グラウは倒した。もう二度と会うこともないだろう」
「……そうか。彼奴の最期を見届けられなかったのは……残念、だな」
 それだけ言って、再び目を閉じる頼牙。
「呉鐘さんっ!?」
 慌てるフェイトをベルフェゴールが宥めた。
 まるで生命尽きるかのようなやり取りだったが、頼牙は穏やかな呼吸を繰り返している。
 ほっと安心して、身体の力が抜けたフェイトは船縁にへたり込んだ。

 ほぼ手探りの状態から始まり、ここに至るまで投入されたケルベロスは十九名。
 頼牙に関しては暫しの静養が必要だと思われるが、それ以外に大きな犠牲を出さず、敵を討ち果たしたことは讃えられるべきものであろう。 
 戦艦竜グラウ=バレーナとの死闘は、三度目にしてついに、終わりを迎えたのであった。

作者:天枷由良 重傷:呉鐘・頼牙(過去の亡霊・e07656) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 21/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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