黒き鋼の戦艦竜、亀山さんを追撃せよ

■リプレイ

●ケルベロスは海を往く
　相模湾を進むクルーザー。
　それに乗っているのは、８人のケルベロスだった。
　操舵を担当しているのは漆黒の毛並みを持つ狼の獣人だ。
　ウェアライダーのヴォルフ・フェアレーター（闇狼・e00354）を眺めているのは、頭の形に添うような角を持つドラコニアンの青年だった。
「おお、凄いんだぜ……ミミックもあれくらい出来たりしないかだぜ？」
　サーヴァントに語りかけているのはタクティ・ハーロット（碧晶龍・e06699）。
　弧を描くようにクルーザーが進む方向を調整する。
「取り舵いっぱーい」
　平坦な口調でノーザンライト・ゴーストセイン（のら魔女・e05320）がつぶやく。
　あまり表情の変わらない彼女ではあるが、よくよく見れば恨みがましい目つきをしているのがわかるだろう。彼女も運転したかったのかもしれない。
「器用なものだな。自分の手足のように運転できるものなのか、これは……」
　イスクヴァ・ランドグリーズ（楯を壊すもの・e09599）にとって、クルーザーに乗るの初めての経験だ。
　任務でなければ、もっと乗り心地を楽しめたのだろうか。
　ヴォルフの操縦で、何事もなくクルーザーは海の上を進んでいく。
　今回戦う戦艦竜『亀山』に対しては、二度目の攻撃となる。クルーザーに乗っている８人の中には、前回の戦いにも参加していた者がいた。
「亀山さん……こんなにも早く再戦の機会がやって来るなんて思いませんでしたね」
　神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）は、今回戦う戦艦竜『亀山』へ一度目の攻撃を行った際にも参加していた。
　ケルベロスの半数は水着を着ているが、彼女は今回も羽衣だ。
「そうだね。結局亀山さんとも二度目だから、本音を言えばここでつぶしておきたいが、ねえ……」
　同じく参加者だった八神・楓（亡き想いを受け継ぐ者・e10139）も言う。
　もう１人、ノーザンライトも前回から引き続いての参加者だ。
　白い髪をした少女が、クルーザーを操縦するヴォルフに向けて口を開いた。
「義兄、あとどのくらいでつく？」
　月宮・朔耶（天狼の黒魔女・e00132）の質問に、彼は一瞬だけ考えた。
「ヘリオライダーが予知したポイントまで、あと５分くらいだな。そろそろ警戒しておいたほうがいいだろう」
　後半は義妹だけでなく、全員に聞こえる声だ。
「だってよ。がんばろうな、リキ」
　白い髪をした少女は自らのサーヴァントであるオルトロスを撫でてやる。
　オルトロスは嬉しそうに目を細めた。
「もうついちゃうんだ。だるいなあ……」
　キャビンにずっとに突っ伏していた少女が、気だるげに身を起こした。
「敵がでっかいと時間がかかるから余計だるいんだよね……」
　柊・桐華（だるだるキャット・e03229）はバッグから棒つきのキャンディーを取り出して、口にくわえた。
（「初の戦艦竜戦となるが……足を引っ張らぬよう、気を引き締めねば」）
　イスクヴァが大きく息を吸う。
　周囲を警戒していた朔耶が、黒い影を海中に発見したのは、数分後のことだった。

●揺らめくライト
　ケルベロスたちは次々に停止したクルーザーから飛び降りていった。
「主人を守る為にも、共に尽力しよう。頼むぞ」
　イスクヴァが、タクティのミミックと朔耶のリキに語りかける。
　サーヴァントたちが同意するような仕草を見せて、主を追って海中へと飛び込む。
　海神の加護を受けたという水着姿で、彼女も飛び込んだ
「……はぁ、やっぱでかいなぁ、戦艦竜……。あんなでかいの、何体も相手にしてらんないんだけどなぁ……だるいし……」
　ぼやく桐華が倒れ込むように水没する。
「いざ竜殺し」
　ノーザンライトも魔女らしい残酷な目つきに変わる。
　午後の光を反射して輝く波間に、ケルベロスたちが消えていった。
「義兄、後は任せた」
「ああ、すぐに俺も行く」
　朔耶の言葉に頷いて、ヴォルフは停めていたクルーザーを少し離れた場所へ走らせる。
　海中に飛び込んだ朔耶は全長１０ｍほどの戦艦竜『亀山』がそこにいるのを見た。
　まずはその細長い尻尾が分割されて広がったのを見て、朔耶は腕に留めていた小型ライトを操作する。
　白い光を放つライト。
　敵の攻撃にあわせて光の色を変えることで回避の手助けになればという作戦だ。鈴や桐華も持っている。
　影響はわずかなものかもしれないが――ごくわずかであっても生き延びられる可能性が増えるならば。
　ライトを操作しつつ、朔耶は『御業』を操った。
　高速で動き、前衛のイスクヴァやサーヴァントたちを薙ぎ払う戦艦竜。
「頑張ってくれよな、リキ」
　呟いた言葉は、水の壁に阻まれた。
　加速が止まったところで、朔耶の操る御業が巨体を鷲掴みにする。
　傷ついた仲間たちは、鈴が氷の盾を、イスクヴァが紙兵を展開して守っていた。
　後衛から一気に接近したノーザンライトが拳を装甲に叩き込む。そこに、楓が生み出した黒色の魔力弾も命中した。
　さらに水底の岩を利用した跳弾が死角から敵を狙う。桐華の攻撃だ。
　タクティは息を止めて、光の輪を竜へと飛ばした。
　光の戦輪は竜の体を切り裂き、硬い装甲を刻む。
（「装甲も武器も、しっかり削らせてもらうんだぜ」）
　８人の中でタクティだけは水中で息ができる準備をしていなかったが、ケルベロスの肺活量は常人をはるかに上回る。長期戦にならなければ問題ない。
　青色のライトが次に速射砲を使おうとしているのを伝えてくる。砲弾がタクティの前方で仲間たちを打つ。
　ヴォルフが、撃ち終わりを狙って礫を放った。
　タクティも水をかきわけて、まだむき出しになっている砲へと接近。
（「一番良いのは主砲潰すことだけど、スクリューか速射砲のどっちかだけでも持っていきたいんだぜ。叩き割らせてもらうんだぜ！」）
　放ったオーラが礫の当たったあたりの砲口を結晶化させる。
　ガントレットを装着した拳を、結晶化した場所に叩きつけると、そこにひびが入った。
　ケルベロスたちの攻撃に表情を変えることなく、三度戦艦竜が攻撃を行う。
　高速の突進をヴォルフとリキが回避したが、ミミックが水底へ沈んでいく。
　イスクヴァは地獄化した右目から炎を広がらせた。
（「戦艦竜、何という威圧感……」）
　水中であろうと地獄の炎は激しく燃え盛り、彼女の全身を覆った。
　仲間たちが反撃を繰り出す中で、さらに放たれた戦艦竜の速射砲から、イスクヴァはヴォルフをかばった。
　その攻撃でリキが倒れたが、イスクヴァは２人分のダメージを受けても踏みとどまる。
　仕草で謝意を伝えてきたヴォルフがそのまま戦艦竜へ加速。
　鋭利なシースナイフで幾度も切り刻んだ。
　地獄の炎を再び燃やしてイスクヴァは自らの傷をふさいだ。鈴や桐華も回復の技で彼女をフォローしてくれた。
　さらに、雪だるまの精霊たちが彼女やヴォルフの周囲に出現する。精霊たちが傷口に寄り添うと、傷口に心地よい冷たさが広がって傷がふさがっていく。
　楓の肩に少し大きな雪だるまが乗っているのが見えた。彼の技のようだ。
　まだ耐えられる。
（「せめて次に繋げられる位には戦力を削っておかねばな……」）
　突進攻撃を食らいながら、螺旋の力を送り込んで戦艦竜の内部を破壊する。
　次いで戦艦竜が翼を広げたときのことだった。砲を撃たずに、竜はイスクヴァへとまっすぐに突っ込んでくる。
　後衛の仲間たちが、ライトを三色に変えていた。
　翼の先端から伸びた鋭い爪が、イスクヴァの体を捕らえる。
　爪から流し込まれた力が体内を駆け巡り、彼女は血を吐いた。
　再び地獄の炎を燃やす。仲間たちも回復してくれた。
　けれど、大きく開かれた口の奥から主砲がイスクヴァに突きつけられる。
（「まずい！」）
　必殺の大砲には耐え切れないと、彼女ははっきり察していた。
　逃れようとしたイスクヴァを黒光りする砲弾が捕捉し、打ち倒す。
　ノーザンライトは魔力機関を発動させて手にしていた機械弓の弦を巻き上げた。
（「やっと使ってくれた……」）
　ほんの微か、唇の端が上がっていたかもしれない。
　引き金を引いて妖精の加護を宿した放つと、それはまるで吸い込まれるように、まだむき出しの主砲へ突き刺さった。
　攻撃を受けても常に平然としていた竜が、大きく身じろぎをした。
　やはり弱点のようだ。
　恨みはないがこれは生存競争。
　それに竜を狩って己が力を証明したい思いもある。
　鈴へ向けて親指を立てて見せると、ちょっと考えてから彼女も親指を立ててくれた。

●狙う理由
　イスクヴァが倒れた後、戦艦竜は後衛へと攻撃を向け始めた。
　もっとも、突進攻撃は届かないため、前衛と後衛を交互に狙っている。主砲はイスクヴァを倒した後、使っていない。
「前衛だけ狙ってくれたほうが楽なんだけどな……めんどくさいなあ」
　桐華がぼやく。
　速射砲は彼女の体も捉えていたが、ダメージを負うことよりも選ぶ対象が増えることのほうが面倒くさい。
「回復するから頑張れー……」
　ダメージの大きな朔耶に向けて、桐華は満月のようなエネルギー球をぶつけた。
　凶暴性を与えられた彼女は、御業を操って翼持つ獣を作り出す。稲妻のような輝きが海中を走り、戦艦竜を包み込んだ。
　竜の突進攻撃をヴォルフが回避する。
　だが、彼が反撃した拳も、戦艦竜に回避された。
　朔耶もそうだが、ヴォルフは速度に頼った攻撃だけを繰り返している。
　いかに彼の得意分野で、戦艦竜の不得手な分野だとしても、見切られた状態で攻撃を続ければたまにはかわされることもある。
「うざいなあ。船は沈むのがお約束なんだし、さっさと沈んでくれないかなー……？　ちゃっちゃと吹っ飛べー…」
　桐華はまたもぼやきながら、海底から溶岩を噴出させた。
　楓は『Hielo・Alma』の禁断の断章が記されたページを開いた。
　ノーザンライトの傷を癒すとともに、脳細胞を強化して攻撃力を増す。
　味方を支援しながら、彼は戦艦竜の動きを観察していた。
（「ヴォルフにはさっきの爪のほうが当たりそうなもんだが、使わないのかね」）
　突進が当たるのは３回に１回といったところ。なのに、主砲だけでなくイスクヴァを狙った爪も戦艦竜は使っていない。
（「速射砲が当たりにくくなるから、か。裏を返せば、後衛を先に倒したいと思ってるってことだ」）
　亀山は決して適当には戦っていない。それなりの戦術があって動いている。
　戦艦竜が口を開けた。大砲が今度は桐華に向けて放たれる。
　だが、空色の水着を着た少女は、ぎりぎりのところで身をよじって回避した。
　イスクヴァも含め、ケルベロスたちの半数以上は主砲に対してもっとも相性のいい防具を選んでいる。命中に劣る戦艦竜の攻撃がすべて当たるはずがない。
　ノーザンライトが氷の騎士を呼び出して大砲を狙わせる。タクティも急接近すると、大砲を結晶化させて殴りつけた。
　戦艦竜が苛立たしげに翼をばたつかせる。
「わかったぜ。お前さん、リスクを背負うのが嫌いなんだな？　だから本当はその大砲をなるべく使いたくないんだろ」
　当たれば確実に倒せると判断したタイミングでしか使わない。
　イスクヴァにせよ桐華にせよ、先日の戦いのとき以上に、ダメージを蓄積させてから主砲を撃っていたようだ。
　回避した隙に、楓は今度はヴォルフの脳細胞を活性化させた。
　もちろん、いつまでもしのぎ続けることはできない。三度放たれた主砲が桐華を打ち倒し、戦艦竜は次に狙う相手を見定める。
　３番目に狙われたのは鈴だった。
　例のごとく速射砲で体力を削り取り、そして口を開ける。
　だが、羽衣が水の中に舞って、彼女もまた主砲を一度は回避してみせた。
　鈴のボクスドラゴン、リュガが自分の主に属性をインストールする。
「ありがとう、リューちゃん。なるべくしのいでみせるから、応援しててね」
　鈴は光の盾を自分の前に具現化した。楓も雪だるまの精霊で守ってくれる。
　速射砲は幾度も飽きることなく放たれる。
　その間に、朔耶はコキンメフクロウのファミリアを射出し、ノーザンライトのオーロラの片手剣と、ヴォルフのシースナイフが鱗を切り裂く。
　タクティの放つ光の戦輪は仲間たちのダメージをさらに増幅していた。
　速射砲の攻撃でリュガが先に倒れ、その次に放たれた主砲がまた鈴に向けられた。
　迫ってくる黒い光を、今度はかわせなかった。
「前回に続いて今回もなんて……わたしはそんなに狙いやすいんでしょうか」
　小さな体へと叩きつけられる衝撃に、ついそんな言葉が漏れる。
（「……違う」）
　意識が途切れる寸前、鈴は自分で呟いた言葉を心の中で否定する。だが、なぜ違うと感じたのか、考える時間は残されていなかった。
　これで３人。
　残っている５人はなおも攻撃を加える。
「ようやく半分を超えたくらいか……もう少し削っていきたいな」
　ヴォルフは呟いた。
　対策を立てた分、最初の遭遇時以上の傷を与えている。だが、それでもまだ『殺し』きる段階ではない。
　あと何度切れば殺せるのか。
　殺し難いからこそ興味が増す。
「何処まで逃げてくれますか？」
　真紅の刃がついた大鎌が飛ぶ。目標をどこまでも追い詰める攻撃――『Wahnsinnig　attentat』が亀山を狙う。
　だが、あっけないほど簡単にその刃はタクティが刻んだ傷に突き立った。強化された脳細胞のおかげか、深く刺さっている鎌をヴォルフは引き抜く。
　４人目にタクティが主砲に倒れるまで、ケルベロスたちはさらに竜を傷つける。
　撤退の合図である、点滅するライトが点った。

●撤退
　倒れた４人を回収してクルーザーに乗せ、ケルベロスたちは戦艦竜から離れた。
「他の竜に遭遇しないように気をつけなくてはな」
　背後から再び向けられたノーザンライトの視線をスルーし、ヴォルフは港へとクルーザーを走らせる。
「義兄、手当てしてるからあんまり揺らさないでくれよ」
　朔耶の言葉にヴォルフが頷く。
「あー、疲れた……じゃ、後は他に任せようか……」
　キャビンに寝かされたまま、桐華が呟く。
「……すまない。足を引っ張らないようにしたかったが、最初に倒されてしまった」
　目を覚ましたイスクヴァが言う。
「自分が倒れると、やっぱりちょっとへこむんだぜ。でも、４人倒れるまで戦う予定だったんだから、なにも失敗はしてないんだぜ」
　同じく目を覚ましたタクティがフォローする。
「ああ。攻撃を引き受けるのがお前さんの役目だろ。しっかりこなしてくれたぜ」
「稼いでくれた時間でだいぶ攻撃できたぜ。そうだろ、義兄？」
　楓や朔耶が言った。ヴォルフも否定はしない。
「次で仕留め切れるといいんですが……」
　鈴が呟く。
　与えたダメージは、５割５分といったところか。目標だった６割強には少し足りない。確実にとはいかないだろうが……。
「……うまくやれば次でいけそう」
　ノーザンライトの声は小さかったが、聞き逃す者はいなかった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年2月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 5
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