戦艦機竜 参之陣

作者:犬塚ひなこ

●黒機竜戦艦
 海の底に沈む黒い影が鋭い咆哮を轟かせる。
 その声の主である漆黒の戦艦竜の身体には痛々しい傷が残っていた。おそらく竜はその痛みと、この傷をつけられたことへの怒りに打ち震えているのだろう。
 背に幾つも生えている砲台の一部は折れ、物々しさを感じさせる黒い走行も剥がれ落ちている部分があった。だが、戦艦竜が持つ力はまだ衰えてはいない。
 ただ怒りのままに。己の領域に近付く者をすべて排除せんとして、竜はふたたび激しい怒りの宿る咆哮をあげた。
 
●海の彼方
 黒機の戦艦竜と戦った第二陣が帰還した。
 その戦況報告を聞き、雨森・リルリカ(オラトリオのヘリオライダー・en0030)と角行・刹助(モータル・e04304)は何やら相談をはじめていた。
「――だと、俺は考えるんだが」
「なるほどです。刹助様の予想はあたっているみたいでございます!」
 刹助が語る内容を聞き、リルリカは大きく頷く。そして、ヘリオライダーの少女は戦艦竜討伐に集まった第三陣のケルベロス達へと向き直った。
「皆様、聞いてくださいです。刹助様からお話があるそうですっ!」
 第一陣に参加した刹助のことを紹介したリルリカは後ろに下がり、後の説明を彼に任せる。反対に一歩踏み出した刹助は仲間を一度だけ見渡し、口をひらいた。
「おそらく……いや、確実に戦艦竜はケルベロスとの戦闘を学習しているようだ」
 第二陣の結果報告と自分の経験則から導き出した結論を告げる。
 あれほど強力な力を持っている敵がただやられっぱなしでいるはずがない。学習の結果、敵の行動パターンが変化していることは確実だろう。
 力押しだけでは駄目だと感じた敵はこちらの動きを制限しようと狙ってくるだろう。また、それに伴って攻撃方法も変えて来ることが予想される。
「この先の戦いはかなり激しくなるぜ。だが、奴は弱ってもいる」
 刹助は注意を呼びかけたが、同時にこれはチャンスだと話す。いくら攻撃パターンが変わろうとも弱点は不動のまま。
 黒機の戦艦竜の弱点は魔法。そのうえ、戦艦竜は強力な戦闘力と引き換えにダメージを自力で回復する事ができない。粘り強く戦えば今回で撃破することも夢ではないはずだ。
 戦艦竜は一度戦闘が始まれば撤退を行うことはない。
 動揺にこちらを深追いしないという性質も変わってはいない。ケルベロス側が撤退すれば追いかけてくることもないので、危なくなったら倒さずに戻ってくることもできる。
「俺としては早くけりを付けてしまいたいんだが、その辺りは向かう者次第だな」
 刹助は淡々と語り、以上だ、と告げて説明を終えた。
 彼の瞳は海の向こう側へと向けられており、まるで戦艦竜との再戦を待ち侘びているかのように見える。
 何にせよ、敵の動きも予測できている今が戦艦竜を滅する大きな機会となる。
「リカもご武運をお祈りしていますです。ふぁいと、おーなのです!」
 刹助の隣に立つリルリカは笑顔を向け、皆を応援する。
 きっと、ケルベロス達はよりよい未来を作り出してくれる。そう信じる少女の瞳はまっすぐな信頼を宿していた。


参加者
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
カロン・カロン(フォーリング・e00628)
大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)
角行・刹助(モータル・e04304)
雨之・いちる(月白一縷・e06146)
九浄・聖沙(地球人の鹵獲術士・e14513)
東雲・菜々乃(ウェアライダーの自宅警備員・e18447)
星屑・チホ(星に願いを・e19511)

■リプレイ

●竜と人
 きっと――彼は、この到来を待ち詫びていた。
 ケルベロス達が乗る船が波間を往く音を聞きつけた戦艦竜は荒波を掻き分け、怒涛の勢いでクルーザーに体当たりを仕掛けた。その衝撃によって白波が荒々しく揺らぎ、散った飛沫がまるで銃弾のように襲い来る。
 衝突の衝撃を避けるべく、即座に海に身を投げた九浄・聖沙(地球人の鹵獲術士・e14513)は敵を鋭く睨み付けた。
「来たわね。アイドルの顔に泥を塗った罪は、重いわよ」
「はー、聞いてはいましたけど、おっきいですねー……よいしょっと」
 対して、二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)は緊張感のない言葉を落として海面に飛び込む。戦闘前はどんな相手かと緊張していたのだが、いざ目の前にするとそんな感想が浮かんだ。
 だが、緊張し過ぎないということは戦いにおいて良い傾向なのかもしれない。葵の声を聞いた雨之・いちる(月白一縷・e06146)は双眸を緩め、気を強く持った。
 狙うのは先の陣でのリベンジ。
 強大だった敵は今やかなり傷付き、所々が破損している。
「あら、ボロボロじゃない。辛いでしょぅ。感謝なさい、今日で沈めてあげるわ」
 戦艦竜を見つめ、カロン・カロン(フォーリング・e00628)はふふんと鼻を鳴らした。自らの耳を高く立てて決意を口にしたカロンに合わせ、いちるもしっかりと言葉を紡ぐ。
「ここで決着、付けるよ」
 そして、仲間達も彼女に続いて海上の戦いに向けて戦闘態勢を整えた。
「これまでの経験で奴の凄さは分かっている」
 大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)がこの戦艦竜と対峙するのも三回目。三度目の正直という言葉があるように、此処で終わらせる決意は強い。
「もう、悔しい思いはしたくないのですよ」
 凛と同じく、東雲・菜々乃(ウェアライダーの自宅警備員・e18447)もこの戦いが二度目となる。ウイングキャットのプリンと共に海中で身構えた菜々乃の気合いもかなりのものだ。星屑・チホ(星に願いを・e19511)はリベンジに燃える仲間達の気持ちを汲み、尻尾の毛を逆立てる勢いでぴんと伸ばした。
「ここまで繋いでくれた人たちの分まで頑張るのよ!」
 その声に対するようにして戦艦竜が激しい咆哮をあげた。
 カロンは空気と水面が振動する様に身を震わせ、波間を懸命に泳ぐ。
「あぁ……冷たいわ、寒いわ……うぅ、泳ぐの苦手なのよぅ」
「寒いけれど、私は十分戦えるわ」
 聖沙が頑張りましょうと皆に告げ、両手に構えた刃を敵に差し向けた。
 冬の風に加えて氷のように冷えた海水が身を軋ませたが、ケルベロス達にとってそんなものは些細なことだ。
 角行・刹助(モータル・e04304)は万が一の時の為の救命具が傍に浮いていることを確認し、敵の姿を改めて確認した。
「お前も中々粘る」
 刹助はふと呟きを零す。刹助が過去に対峙した時の記憶を思い返した刹那、戦艦竜は迅雷の砲撃でケルベロス達を狙い撃つ。これまでとは一線を越した威力の痺れが巡ることを感じながら、刹助は痛みを抑えた。
「それに単細胞ではないらしい。……やるぞ」
 落とされた言葉は静かだったが、その裏には確かな決意が秘められている。
「こっちだって出来る限り粘りやがるの!」
 チホは仲間の心持ちを頼もしく感じ、黒機の戦艦竜を見据えた。
 必ず此処で全てを終結させる。皆の心は今、ひとつに束ねられていた。

●血戦
「今度はこちらの番です。いきますよっ!」
 水を蹴り上げ、戦艦竜に狙いを定めた葵は拳を振りあげる。先手は取られたが、まだ有り余る闘志と思いがこちらにもあった。
 戦籠手を正面に構え、敵に向けて一跳びに突っ込んだ葵の一撃が捻じ込まれる。
 それは戦艦竜からすれば些細なものだったかもしれないが、確実な衝撃となって装甲にひび割れを作った。
 そこへカロンによる気咬の弾が放たれ、刹助の雷撃が重なる。
 いちるは仲間に信頼を寄せ、その間に皆の防護を固めようと動いた。
「回復は任せて。攻撃は、頼んだ」
 指先を天に掲げたいちるは精霊魔法を発動させ、魔力を吹き込んだ桜の花びらを舞い散らせる。それは邪気を祓うが如く、仲間達に護りを与えていった。
 いちるに礼を告げ、凛は刃を向けて装甲を駆け上る。
「奥義! 岩龍閃!」
 凛が白楼丸を振り下ろした刹那、ライドキャリバーのライトがガトリングを掃射していった。阿吽のコンビで連撃を打ち込んだ二人は、更なる攻撃を与える為に身を翻す。
 彼女達と入れ替わりになる形で聖沙が水面から飛んだ。
「どこを見ているのかしら?」
 足技で戦艦竜の体躯を蹴り上げ、手にしたナイフを逆手にした聖沙はめいっぱいの力を拳で叩き込む。滅竜拳双破の名の如く、ドラゴンを滅する為に放った魔力が装甲を伝って爆発した。
 攻撃は効いているが、気を抜くことは許されない。
 菜々乃は攻性植物に黄金の果実を実らせ、聖なる光を発現させた。
「皆さん、気を付けてくださいね。砲撃は厄介です」
 プリンも菜々乃に合わせて清浄の翼を広げ、仲間達へ加護を与える。更にカロンが電光石火の蹴りを放ち、敵に痺れを宿した。
 葵もカロンの後に蹴撃を重ね、敵に不利を与えてゆく。
 しかし、飛び散る水と衝撃は身体をどんどん冷やしていった。
「んん、動きにくいわね……でも大丈夫よ、お仕事は確りこなすわ!」
 思わず冷たさに声を零したカロンだったが、それもふわふわの毛並みが多くの水に触れるからだろう。すぐに首を振って水を弾いたカロンは明るい笑顔を見せ、更なる攻撃の機を窺った。
 だが、次の瞬間。次なる攻撃がチホやいちる、聖沙に向けて放たれた。
 すぐさま反応した刹助が聖沙を庇い、菜々乃はチホの防御に回った。二人は鋭い痛みに耐えながらも、防護役としての務めを果たす。
「大丈夫ですか?」
「チホは平気なのよ。でも、何て攻撃しやがるの」
 菜々乃の問いかけにチホは頷いたが、攻撃を受けた他の仲間はかなりの衝撃を負っていた。特にいちるはまともに砲撃の効果を受け、眉をしかめている。
「ぐ、っ。相変わらず、やな感じ」
 いちるは何とか痺れが巡る体を動かし、魔術切開による治療を自分に施した。
 支えるはずの自分が砲撃にやられていてはいけない。ぐっと痛みを抑えたいちるの瞳はしかと戦場を映し出していた。
 そして、やはり後衛に攻撃が向くのだと察した刹助は戦艦竜の体躯へと駆け登ってゆく。敢えて自分の存在を報せるかのようにして取り付き、攻撃対象が自分に移るように立ち回る為だ。
「立場が同じなら。俺も故郷の滅びを救うため、異星の敵地へ打って出たかもな」
 ――だが、俺には俺の戦う理由が有る。
 彼等の意思と己の意志は相容れないものなのだと感じ、刹助はケルベロスチェインを迸らせた。機を合わせた凛も黒楼丸を振りあげ、更なる一閃を敵に見舞う。
 冬の薄い陽射しを反射した刃はほのかなピンク色に輝き、煌めきを宿した。
「次を頼むぞ」
「ええ、任せておいて」
 凛に頷き、聖沙は翼を広げて跳躍する。二つの星座の力を同時に宿した刃を大きく振るえば、超重力が生まれた。そして、聖沙はひといきに十字斬りを叩き込む。
 菜々乃は皆の盾になって耐えることに集中すべく、己の身を癒した。
 ただでさえ状態異常を狙ってくる敵だ。身動きを封じられることだけは極力避けねばならないだろう。攻防は尚も続いたが、ライトは的確に仲間を庇っていた。
 しかし、ライトは攻撃手であるカロン達を守ることでかなり消耗している。
 チホは仲間が果敢に戦う様を見つめ、自らも星の力を紡いでいった。
「繋ぐは架け橋、紡ぐは瞬く星。おいで、Monoceros」
 空中に描いたのはいっかくじゅう座。そして、星座の力を召還したチホは渾身の一撃を戦艦竜に見舞った。
 ――グルルルル、と痛みに呻くような声が響き渡る。
 葵はその声を聞き、確信する。
「皆さんっ、この装甲の後ろです! ここが特に弱いみたいですよ!」
 先程、自分が殴り抜いた後も同じ呻き声を発していた事実を総合し、葵は皆に敵の更なる弱点を伝えた。それは第一陣、第二陣の仲間達が崩した箇所だ。
「ああ、分かった」
「みんな。まだいける、よね?」
 刹助が頷きを返し、癒しの力を解き放ったいちるも仲間に問う。
 敵の攻撃は烈しかったが誰も闘志を失っていない。問いかけに是と答えた視線は鋭く、皆が更なる戦いへの意志を抱いていた。

●決戦
 其処から巡ったのは死闘とも呼べる戦いだった。
 咆哮が轟き、波飛沫が激しく散り、魔法や斬撃、砲撃が幾度も打ち放たれる。戦艦竜は暴れに暴れたが、ケルベロス達とて一歩も譲らない。
 葵が戦籠手で敵を殴り抜き、凛も剣閃を敵に見舞っていった。
「この程度なの? 以前の方が激しかったわ」
 聖沙も凛と言い放ち、幾度目かの滅竜拳双破を放つ。既にライトは戦う力を失って倒れ、防護役に回る菜々乃と刹助もかなりの力を奪われていた。
「まだだ」
「負けません。ここまで戦ってきた人たちの為にも……!」
 刹助が戦言葉を紡いで耐え、菜々乃も乙女の希望を胸に抱く。いつだって想像のエネルギーは強い。溢れた金色の力で仲間と自分の治療を行い、菜々乃は堪えた。
 そのうえ、敵が動く度に強い波が傷に染み込む。
 カロンは爪を装甲に立て、地を蹴るようにして戦艦竜の体躯上を駆け抜けた。
「水に阻まれたくらいじゃ止まらないのよ。最近の猫は水中でも強いの」
 ふるりと体を震わせて、毛を逆立てる。やればできると信じる心を力に変えたカロンの一撃は鋭く巡った。
 チホもカロンの明るさに笑みを返し、銃口を剥がれた装甲に差し向ける。
「どれだけ疲れたって、隙を見逃さねぇようにするのよ!」
 多少の無茶はへのかっぱ。今こそ無理と無茶を通す時だと自分を律したチホは幾重もの銃弾を撃ち放った。
 凛も絶空の斬撃で斬り込み、敵に蓄積した衝撃を更に増やしていく。
 しかし、そのときだった。
「拙いな。これは――」
 凛は戦艦竜がこれまでにないほどの気迫を発していることに気付き、身構えた。その狙いは後衛や前衛ではなく、凛自身に向けられていた。
 そして、次の瞬間。凛に向けて竜が突撃し、その身を大きな衝撃が貫いた。
「か、は……っ」
 呼吸すら許されぬ程の衝撃が襲い、凛は海中に伏した。
 いちるがすぐに回復を施そうと動いたが、既に彼女は意識を失っていた。刹助が救命浮具を投げ寄越し、葵が凛にそれを装着させる。
「凛さんは大丈夫みたいです。ただ気絶しているだけみたいですっ!」
 仲間に現状を告げ、葵は拳を握った。
 徐々に不利な状況になっているが、まだ負けたわけではない。攻撃を重ね、癒しで支え、戦い続ければ勝機だって見えてくるはずだ。
「この機は逃さない。俺は臆病なんだ」
 刹助は独り言ち、思う。今この場で万事を尽くす働きをしなければ多分ずっと後悔する。そうさせない為には死力を尽くさなければならない。
 跪いて生きるよりは、抗い続けて死んだ方がいい。
 刹助は自然治癒力を活性化させ、戦場に立ち続ける覚悟を強めた。そのとき、回り込んだカロンは仲間の重い思いを感じ取る。
「独りで意気込まないで良いわ。私達もいるのよ。安心してっ」
 ね、とカロンは刹助に微笑みを向けた。
 そうだな、と小さく返した彼は跳ねて駆けるようにして戦艦竜に向かったカロンの後ろ姿を見送る。
 聖沙も決して手を緩めず、敵の装甲を打ち砕かん勢いで攻撃を続けていった。どれだけ厳しくとも諦めぬ心が仲間達の裡に巡っている。
 だが、次に放たれた一閃は容赦なく菜々乃の体力を奪い取った。
「後はお願いします……。私の分まで……よろしくね、プリン」
 菜々乃は仲間の盾になるという役目を果たし、満足した笑みを浮かべて意識を手放す。その意思はきっとプリンが継いでくれると信じた。
「もう、誰も。倒させない」
 いちるは癒しが間に合わなったことを悔しく感じ、唇を軽く噛み締める。
 チホも掌を握り、状況をしかと把握した。
 仲間は倒れているが、既に戦艦竜とて虫の息。癒しの手はまだある。それに強力な攻撃手だって健在だ。
 葵は気を引き締め、敵の頭上めがけて装甲上を駆けていく。
「もう少しのはずです! いっけぇぇーっ!」
 先ず一撃。更に跳躍してもう一撃を打ち込み、葵は戦艦竜の力を大きく削った。聖沙も其処に続き、鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムを解き放つ。
「もうすぐアナタの終わりが訪れるわ」
 鋭い一閃が竜の身を抉り、激しい痛みの咆哮が響き渡った。
 だが、戦艦竜は近くに居た刹助に向けて一気に突撃する。大きな衝撃が彼の身を襲い、意識を遠退かせた。
「やはり俺の悪い予感は良く当たる。自分でも嫌になるくらいにな。だが――」
 此処で倒れ、今日を思い出す度に後悔し続ける事だけは嫌だ。刹助は気力を振り絞り、魂で肉体の疲弊を凌駕した。
「うん、支える。がんばって」
 いちるは仲間が二度と倒れぬよう、渾身の気力を彼に放つ。これが最後に癒しになるように。次が戦艦竜の終焉になるよう心から願って。
 プリンも皆を癒し、聖沙や葵、刹助も更なる一撃を打ち込み続けていく。
 黒機の竜は今や見る影もなく瀕死寸前だ。
 カロンは紫の双眸を薄く細め、勝機が訪れたことを確信する。幾ら体力が危うくとも、息が切れていようとも、自分は仲間の援護を信じて攻撃を行うだけ。チホもカロンの狙いに気付き、ふたたび星座の力を具現化させる。
 視線を交わしたカラカルとフェネックは、同時にぴんと尻尾を立てた。そして――。
「覚悟しやがるの。一片だって容赦してやらねぇーです!」
「さあ、存分に味わって逝きなさいな!」
 チホが解放した一角獣の力が巡り、カロンの鋭い蹴りが戦艦竜を貫く。
 その瞬間、ひときわ激しい叫びが海を震わせた。

●終止符
 戦いの終わりは一瞬。海底に落ちていくように沈み消える戦艦竜の姿を、誰もが無言で見つめていた。そして、聖沙が漸くぽつりと呟く。
「終わったのね」
「そうみたいですねっ」
 葵はほっとした様子で息を吐き、いちるも揺蕩う波の間で安堵を覚えた。チホもぷるぷると震えて寒さを示しながら、激しかった戦いを思い返す。
「つめたい」
「寒すぎやがるのよ」
「あぁ、冷たいわ、寒いわ……」
 いちるとチホの声にカロンもはっとして先程と同じ言葉を零す。まるでこれまで無視してきた疲れが一気にあらわれたようだった。凛と菜々乃は浮き具に掴まっており、後で手当てをすれば意識を取り戻すだろう。
 刹助はゆっくりと息を吐き、戦艦竜の最期を見送る。
「短い付き合いだったな」
 こうして、ケルベロス達は戦艦竜との戦いに終止符を打った。
 深き水底に葬られた黒き竜はもう二度と姿を現すことはない。だが、彼等の記憶にはしかと刻まれている。迅雷を操り、咆哮を轟かせたドラゴンの姿が――。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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