解き放たれた暴虐な主

作者:缶屋

 その咆哮は空気を揺らし、歩みは大地を揺らす。
 突如現れたそれはビルを尾の一撃で倒壊させ、人々を震撼させた。
 倒壊したビルの陰から現れたのは、翼を持つ巨大な爬虫類のような怪物。
「……ドラゴン」
 道行く人々がそう呟く、と人々は蛛の子を散らしたように逃げ惑う。
 ドラゴンは逃げ惑う人々に向け、大きく息を吸い込む。と、その口から炎のブレスを放つ。
 放たれた炎の奔流は人々を呑みこみ、辺りを火の海へと変える。
 ドラゴンの地面を揺らしながら歩み始める。その歩みは止まらない。車道の車を一踏みにし、逃げ惑う人々はその尾で、炎で焼き尽くす。
 ドラゴンの歩みを阻むものはない。
 町を火の海に変えながら町の中央に、多くの人々がいる場所へ、さらなる殺戮を求めて進むのだった。

「皆さん、お疲れ様です」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールが頭を下げる。顔を上げたセリカの顔には緊張の色が浮かんでいる。
「長崎県の佐世保市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが復活し、町を破壊、殺戮に及ぶという予知がでました。幸いなことに、ドラゴンは復活したばかりで、グラビティ・チェインが枯渇し、飛行することができません。そのためドラゴンはグラビティ・チェインの略奪のために町の人々を殺し、力を取り戻そうとするでしょう」
 セリカが真摯な目を向ける。
「もし、力を取り戻した飛行の能力を取り戻したドラゴンは、他の地でも殺戮の限りを尽くすことでしょう。なので、その前にドラゴンを倒し、町を救ってください」
 セリカは呼吸を整え、口を開く。
「では、戦闘場所について説明します。戦闘場所は町中で、町中にはマンションやビルが建ち並んでいます。戦闘はドラゴンが姿を現したその時から開始されます。町は破壊されても治すことができますので、町の被害はあまり気にせず確実に撃破してください。また、市民にはあらかじめ避難勧告をだし、警察も避難誘導をしてくれるので、人を巻き込む心配はありません。次にドラゴンの能力ですが、体長は約10メートルです。その爪は鋭く、尾の一撃はコンクリートのビルすらも倒壊させる破壊力を持ち、一度に複数人を薙ぎ払います。また、離れた相手には炎のブレスを使用し、一度に辺りを焼き尽くしますので気を付けてください」
 セリカの話が終わるとネオン・ネムフィリアが立つ。
「ドラゴンに町を蹂躙されるわけにはいかない、絶対に撃破しよう」
 と、ネオンは決意を口にした。


参加者
アルビノ・リアドラゴン(ドラゴンズロア・e00246)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
ノル・キサラギ(十架・e01639)
石蕗・陸(うなる鉄拳・e01672)
大御堂・千鶴(幻想胡蝶・e02496)
エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)
ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)
岡留・辰衛(瘧師・e05860)

■リプレイ


 喧騒に包まれる街。人々は慌てふためき、指示された方へと進む。
 着々と迫るその時に備え、人々は避難しているのだ。
 しかし、その流れから取り残されるように立ち止まる人影があった。
「街が、人が、炎に包まれる運命を変えてみせるわ、この手で」
 ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)は避難する人々を、街を見、覚悟を口にする。
 ユスティーナの隣に立つ石蕗・陸(うなる鉄拳・e01672)が両袖を捻じり上げ、ネクタイを緩め、落ち着いたようにその時を待つ。
「同じ竜族として、私が奴を始末する必要があるんだ」
 アルビノ・リアドラゴン(ドラゴンズロア・e00246)が今から現れるドラゴンを前に言う。
 張り詰めた空気が辺りを支配している。
「大丈夫、俺たちはひとりじゃないから」
 その空気を肌で感じノル・キサラギ(十架・e01639)が愛用の銀のリボルバーを天に掲げ、祈るように微笑しみんな鼓舞する。
「ノルの言う通りだ。俺たちは勝つためにここにいるんだ、頑張ろう」
「ぼくも力を尽くすよ」
 レオン・ネムフィリア(オラトリオの鹵獲術士・en0022)とアシュリー・ウィルクス(混沌・e00224)が言う。
「俺たちがドラゴンの注意を引ければB班が攻撃しやすくなる。みんな頑張ろう」
 A班の面々――ユスティーナ、アルビノ、陸、レオン、アシュリーはノルの言葉に頷き、その時を待つのだった。
 街の人々が避難し、数分。静寂が辺りを包んでいた。それは正に嵐の前の静けさと言えるだろう。
 しかし、その静けさは儚いものだった。突如、大地が揺れ、空気が振動し暴威の到来を知らせる。
 A班の目の前に現れたのはドラゴン――翼を持ち、その体表は鱗で覆われ四肢は太く、獰猛な牙に鋭い爪、長い尾を持っている。
 ドラゴンはさも当然のように街を歩く、街の中央に向かい、虐殺を始めるために。
 しかしその歩みが止まる。
 眼前に立つ小さな存在。しかし、その存在をドラゴンは無視することができなかった。
 ドラゴンは挨拶するかのように前足を振り上げる。と、眼前に勢いよく振り下ろす。それで全てが終わるはずだった。
 しかし終わらなかった。そこに潰れ、絶える屍はなかったのだ。
「地球の番犬は、怪我じゃすませねぇほど噛むぜ、覚悟はしてきたか?」
 ドラゴンの攻撃を躱した陸が懐に飛び込み、ドラゴンの腹に拳を叩きこむ。
 それを開始の合図とし、ドラゴンとの戦闘が始まった。
 少し離れたビルの屋上、ドラゴンから死角となるその場所に4人2体とが、暴威を振るう巨体を眺めていた。
「ワァ、迫力あるよネェ。でもボクはそんなのに負けないよゥ!」
 魔導書を片手に大御堂・千鶴(幻想胡蝶・e02496)が言う。
「はン、デカブツがいい気になってやがるな……いっちょ、デカけりゃいいってもんじゃねぇってことを教えてやるか」
 ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)はドラゴンに2丁のリボルバーを向け、照準を合わせながら言う。
「ルタ、皆の盾になるんだよ」
 そう言い岡留・辰衛(瘧師・e05860)はルタの頭を撫でる。
 エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)は魔法の木の葉を体に纏わせ、次いで殺気を辺りに放つ――殺界形成を発動させる。
 戦闘準備を終えたB班の面々――千鶴、エリース、ミミ、ヴァーツラフ、辰衛、ルタは戦闘に参戦するのだった。


 ドラゴンが目の前の敵と相対している、その時、死角からの攻撃がドラゴンを捉えた。
 新たに敵が現れた、そう認識した時、ドラゴンは尾をアルビノたちに向けるように、体を動かす。しかし、ドラゴンはアルビノたちを忘れたわけではない。
 ドラゴンの尾は阻む物を全て薙ぎ倒しながらノルに襲い掛かる。
 ノルは尾をひらりと躱す、とドラゴンの正面に向かい駆ける。
 ヴァーツラフたちの方に首を向けたドラゴンだったが、ユスティーナたちはB班への攻撃を許さない。
 ドラゴンの注意を引くべく、アルビノとノル、A班の面々が躍動する。
 前を払おうとすれば、後ろが。後ろを払おうとすると、前。ドラゴンはA斑の動きに翻弄されていた。
 飛行できれば、と翼をはためかせるが、その巨体が地上から離れることはない。
 力を取り戻すためには人を殺し大量のグラビティーチェインが必要である。が、今はそれが足りない。グラビティーチェインドラゴンを集めるためにドラゴンは人間の多くいる場所に向かわなければならない。
 しかしながら、思うように歩を進めることが出来ずにいるのだ。
 ドラゴンはその尾で陸を薙ぎ払い、できた一瞬の隙に首を巡らせた。そしてその瞳がビルの屋上に居るB班の姿を捉える。
 それに気付いたアルビノが電光石火の蹴り――旋刃脚を放ち、注意を逸らそうとする。が、一瞬、ドラゴンの動きが止まっただけで、すぐにドラゴンは大きく息を吸い込み、灼熱の炎がビルに向かい放つのだった。
 炎の奔流はまるで生き物のように周囲の物を呑みこみ、目的のビルへと向かう。
「ブレスが来ます」
「飛んで……」
 辰衛とエリースの言葉に他の4人と2体はビルから飛び下りる。その刹那、辰衛たちが居たビルの屋上は炎に呑みこまれた。
「狙ったものは……逃さない」
 エリースは地上に着くまでの寸瞬、態勢を立て直し、矢を射る。妖精弓を2つ束ねて射られた矢は、神々を殺す漆黒の巨大矢――武神の矢はエリースの言葉通り、ドラゴンに突き刺さる。
 ビルから飛び降りた千鶴は華麗に地面に降り立ち。それに続き地面に降り立ったヴァーツラフたち、遅れてエリースが着地する。
 その頭上から炎に焼かれ、降りそそぐ瓦礫が千鶴たちを襲うが、千鶴たちは瓦礫の雨を縫うようにドラゴンの死角へと潜りこむ。
 ドラゴンが辰衛たちに気を取られたその瞬間を、ノルは逃さかった。ドラゴンの懐に潜りこみ、光の剣――マインドソードで腹を遮二無二に斬りつける。
 耐えかねたドラゴンが払いのけようと爪を振る。と、ユスティーナがその間に割って入りドラゴンの攻撃を受け止めた。 
「ビックリしたネェ。お返しだよ」
 千鶴の掌からドラゴンの幻影――ドラゴニックミラージュが放たれ、ドラゴンの体臂を竜燐の上から焼く。
 ドラゴンは千鶴の方に顔を向け、もう一度ブレスを放とうとするが、突如目の前に現れた陸がその鼻頭に向け、高速の重拳撃――ブーストナックルが放つ。その一撃はドラゴンの顔は空に向け、ブレスは空に向かい放たれた。
 ドラゴンは気付く。目の前に立つ者たちがただの人間ではないことを、最強種である自分を脅かす脅威であることを。


 ドラゴンは歩みを止め、目の前にたつケルベロスたちに眼を向ける。
 それは自分と戦う者たちが脅威であり、排除しなければならないと判断した結果だった。戦うに値する者。それを認識した時、ドラゴンは耳を劈くような咆哮を上げる。咆哮は大気を揺らし、耐えかねたケルベロスたちは耳を塞ぐ。
 その一瞬の隙をドラゴンは見逃さない。
 ユスティーナに向かい爪を振るう。ユスティーナは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。ドラゴンはそれを逃さず、もう一度爪を振るう。が、そこに陸が割って入り、ノルのマインドリングから光の盾が具現化された盾――マインドシールドがユスティーナを護る。
 さらに畳み掛けようとするドラゴンに、ヴァーツラフ、千鶴、エリースがそれを許さない。
 二丁のリボルバーからばら撒くように弾丸――制圧射撃が放たれ、ドラゴンの動きを牽制。次いで、武器から精製された物質の時間を凍結させる弾丸――時空凍結弾が、心を貫くエネルギーの矢――ハートクエイクアローがドラゴン動きを止める。
 動きを止まったのはほんの一瞬、ドラゴンの瞳がエリースたちを捉え炎のブレスを吐く。
 直撃の瞬間、3人の前にミミとルタが立ちふさがる。
 炎の奔流に焼かれ傷ついたミミとルタに辰衛がオラトリオヴェールを使う。と、ミミとルタを光が包み込み、その傷を癒す。
 ケロべロスたちもやられているばかりではない。
「お返しよ」
 ユスティーナが構えたバスターライフルから放たれた魔法光線――バスタービームがドラゴンの肉を抉りさる。
 痛みに声を上げるドラゴン。
 翼で宙を舞ったアルビノが拳に地獄の炎を纏わせ、拳とともに地獄の炎――ブレイズクラッシュをドラゴンの額に叩きつける。
 宙を舞うアルビノを捉えようと腕を振るうドラゴン。その隙が出来た瞬間を逃さず、陸がドラゴンの横腹に裂帛の気合を重力震動波に変換した一撃――グラビティシェイキングを撃つ。と、ドラゴンが揺れる。
 ドラゴンは尾でアシュリーを払いのけようとするが、尾がアシュリーに届く前にノルの目にも止まらぬ速さで撃ち出された弾丸――クイックドローがその尾を弾く。
 ドラゴンがユスティーナたちに気を取られているのを好気と、辰衛たちも動く。
 辰衛は殺神ウイルス――デモクエスの回復を妨害する殺神ウイルスを放ち、ドラゴンの治癒を阻害する。
 ヴァーツラフが放った弾丸は壁や地面を捉え、跳弾し、弾丸が四方からドラゴンの体臂に突き刺さる。
 翼で空を飛んだ千鶴はドラゴンの頭上からドラゴニックミラージュを、死角からエリースが武神の矢を放つ。
 ケルべロスたちの攻撃はドラゴンを追い詰めていく、そして戦いは最終局面を迎えることになるのだった。


 ドラゴンの体はケロべロスたちにより数多の傷が刻みつけられていた。爪は折れ、今やその眼は隻眼となり、翼にはいくつも穴が開いている。
 しかしドラゴンの闘争心は治まることはない。それはまさに怒りと等しい、最強種である自分を追い詰めたものたちへの怒り、グラビティーチェインの枯渇により力を振るえない自分への怒りだ。
 ドラゴンはブレスを放つ。衰えることのない炎の奔流がケルべロスたちを襲う。
「フッ、さすがだな。まだ息があるのか。同族として褒めてやろう。だが、そろそろ終わりだ。良くやったが私たちの相手じゃない」
 アルビノの言葉ともに、ケルベロスたちは最後の攻撃を開始する。
 まず飛び出したのは千鶴。
「黒き茨よ、大空を堕とす檻と成れ。キャハハ! キミの魔力、美味しくいただくネェ! ――鳥籠狂想曲」
 千鶴が殴打した場所を中心に虚空から黒い茨が現れ、ドラゴンの自由を奪うように鳥籠を形成し、茨がドラゴンの魔力を奪う。
 ケルベロスたちを払いのけようと暴れるドラゴンをアシュリーとレオンが牽制する。
 次いでヴァーツラフが接敵する。
「ダモクレスにぶち抜く徹甲散弾、一発一発がチタンの特注品だ! ミンチになりやがれぇえええっ!! ――Извержение клеймор」
 放たれた一撃はドラゴンの肉を食いやぶる。その反動でヴァーツラフは転げる。
 そこにドラゴンの尾を振るおうとする。
「やらせると思ってるんでしょうか?」
「やらせ、ない」
 辰衛の放つ時空凍結弾が、エリースの放った武神の矢がドラゴンの動きを止め、その一瞬できた隙にヴァーツラフは態勢を立て直す。
「破ァッ! ――砕震波」
 ドラゴンの懐に潜りこんだ陸のまっすぐに撃ちこんだ正拳突きから放たれた衝撃が、ドラゴンの体臂を貫き、肉を抉る。
 よろめくドラゴン。だが、まだ足をおらず、その目は死んでいない。
 そこに躍りかかる二人――アルビノとノル。
 アルビノの放った弾丸は地獄の炎を纏う弾丸――フレイムグリードはドラゴンの生命力くらう。
 ノルの右腕が回転し、貫通力が増した一撃――スパイラルワームが、ドラゴンの皮膚を貫く。
「たとえこの身が滅んだとしても、魂はけして砕けることなく明日を謳う――永劫のブレイズ」
 心に紡がれた詩と信念の舞が鎧装へと集約し、ユスティーナは集約した力をドラゴンに放つ。
 衝撃がドラゴンを襲い、ドラゴンはそれでも立っていた。大きく息を吸い込み、ブレスの態勢。身構えるケルベロスたち。しかし、ブレスは吐かれることはなかった。
 代わりに消え入りそうなか細い声を上げるドラゴン。
 それを最後にドラゴンは大きな体を揺らし、その場に力なく倒れるのだった。
 ドラゴンとの戦いを終えた面々は一所に合流していた。
「あぁ、疲れたぜ」
 大声で陸はそう言い一番に座り込む。それを見た、他の面々も同じようにその場に座る。
 皆の顔には同様に疲れの色が浮かんでいる。しかし、ユスティーナだけは表情を崩さず凛とした顔をしている。
「誰か傷ついている人はいませんか?」
 辰衛はルタを治療しながら座り込むみんなに訊く。
 ヴァーツラフは胡坐をかく。
「お腹空いちゃったよォ。みんな、何か食べに行かなァい?」
 声を上げる千鶴。
「やはり、相手が相手だと疲れますね」
 アルビノがエリースに言う。と、たどたどしくエリースが言葉を返す。
「ん、そうだね……陸も、言ってた」
「ああ、そうだな。まぁリクじゃなくてたかしなんだけどな、別にいいけど」
「……?」
 小首を傾げるエリースに陸は何でもない。と手を振って見せる。
 しばらく休憩したケルベロスの面々は、一人一人と立ち上がる。
 戦いを終え、ドラゴンから町を救ったケロべロスたちはそれぞれ帰路に着くのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。