戦艦竜 氷霧と共に現れるもの 大詰め

作者:紫堂空

●沈めろ! 戦艦竜!
 二度の戦いを経て、戦艦竜トウテツは無数の損傷を受けていた。
 その傷は、けっして浅いものではない。
 だが、脅威が去った訳ではない。
 トウテツは今も変わらず同じ海域に潜み、じっと獲物が訪れるのを待っている。
 この強大な敵を倒さない限り、相模の海に平和は訪れないのだ。

「先日の戦いにより、戦艦竜トウテツに相当の痛手を与えると共に、その戦闘能力をさらに詳しく知ることができました」
 セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へと説明を始める。
 前回以降、件の戦艦竜の被害は出ていないものの、それはその海域の船舶の往来が妨げられているということ。
 長く放っておける状況ではない。
「皆さんには、再び戦艦竜との戦いに赴いていただきたいのです」
 事前の情報通り、戦艦竜の受けた傷は修復されていない。
 前回までで与えたダメージは、おおよそ80%といったところだ。
「上手く戦いを運べば、この戦いでトウテツとの決着がつくでしょう」
 ただ、深手を負っているとはいえ相手は強敵である。
 けっして油断はしないように。そうセリカは釘を刺す。
「問題の海域まではクルーザーを出しますので、それに乗っていってください」
 おそらく遠距離での砲撃で沈めにかかってくるだろうが、自由に使っていいものなので、破壊されても構わないという。
 船に乗ったままで最後まで戦い続けるというのは難しく、おそらくは海に入ることになるだろう。
 海中での戦闘に関しては、ケルベロスはみな十分程度の無呼吸戦闘が可能であることから、特別な準備が無くとも不利になることはない。
「続いて、戦艦竜トウテツの情報です」
 この戦艦竜は、全長約十mで、周囲に凍気を撒き散らす薄青の鱗に覆われている。
 自身の鱗から漏れる冷気により、戦艦としての装甲部分まで凍り付いているのが特徴だ。
 攻撃方法は以下の三つ。
 周囲に漏れ出る凍気を凝縮し、近接攻撃を仕掛けた者への反撃として使う『凍気の棘』。
 背中の砲塔、その巨大な主砲で狙い撃つ『砲撃』。
 氷属性の『ドラゴンブレス』。
 凍気の棘は近距離、単体対象であり、素早さを生かした破壊的な攻撃。極めて高い破壊力と共に、相手の受けている守護の類を解除してくる。
 砲撃は、遠距離単体が対象の、力強く破壊をもたらすもの。極めて高い威力に加え、副砲での追撃を行ってくるため非常に危険である。
 ドラゴンブレスは、力強く、斬りつけるような氷の息。遠距離まで届く上に、範囲攻撃にもかかわらず威力絶大。
「ただ、ブレスを放った後は三~四分のインターバルを必要とするようです」
 前回の鱗狙いの攻撃により、二発目以降の用意がスムーズに行えなくなったようだ。
 ブレス直後は鱗から漏れる凍気が無くなるため、目安となるだろう。
「また、その状態の鱗には攻撃の通りがいいようです」
 狙いをつける分当たりにくくなるので、必ずしも有効というわけでは無いが……。
 トウテツは海中に潜んでいるが、海上で大きな音を立てるものに襲い掛かってくるので、近くに行くだけで釣りだすことが出来るだろう。
「また、向かってくるものを迎撃するように出来ているため、ひとたび戦闘になれば撤退することは無いでしょう。
 同時に、逃げる敵を深追いすることも無いので、これ以上は危険だと感じたら撤退するようにしてください」
 その場合作戦失敗となってしまうが、命あっての物種である。
「三度目の正直! 今度こそ勝って相模湾を平和にしよう!」
 共にセリカの説明を聞いていた夏川・舞は、そう言って再び戦艦竜へと立ち向かう意思を見せるのだった。


参加者
黒鳥・氷雨(何でも屋・e00942)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
三國・沙摩柯(風龍・e04293)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
一色・紅染(脆弱なる致死の礫塊・e12835)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
氷鏡・緋桜(九天を砕く赤い悪魔・e18103)
久堂・悠月(悠久の光を背負うもの・e19633)

■リプレイ

●船を飲み込む冷たい嵐
 ケルベロス達を乗せた、二隻のクルーザーが海を行く。
 山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)の、複数の船を併走させてブレスを誘い、次のブレスの用意が整うまでに叩こうという作戦である。
 戦艦竜撃破の為に必要ということで、なんとか二隻目のクルーザーを用意してもらえた。
 三隻なら言うことはないのだが、これでも目的は果たせるだろう。
 ほしこの『プランA』に従い、一隻目に乗り込むのは以下の四人と一体。
「私はこっちだな! よし任せろ!」
 凛として堂々、眼光には知性が宿るおバカ、三國・沙摩柯(風龍・e04293)。
 メカメカしい体のちっちゃいおっさん、流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)。
『ウェアライダールーヴ』と名乗り活動するヒーロー少女、風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)と、そのライドキャリバーのヘルトブリーゼ。
 人見知りのおどおど少年、一色・紅染(脆弱なる致死の礫塊・e12835)。
 そして、二隻目には以下の面々。
「かつて世界を破滅させた力。究極の戦闘種族ドラゴン。そんな奴とやりあうなんざぁ……最っ高にワクワクするな!」
 強さを得るために手強い相手を求める熱血拳士、氷鏡・緋桜(九天を砕く赤い悪魔・e18103)。
 前回に続いて参戦の拳銃使い、黒鳥・氷雨(何でも屋・e00942)と、ライドキャリバーの宵桜。
 楽しいこと一番の気さくな青年、久堂・悠月(悠久の光を背負うもの・e19633)。
 そして、作戦立案者のほしこ。
 三隻目に乗るはずだった夏川・舞は、船が落ちた後は一隻目のメンバーの回復へ回される予定だったので、そのまま一隻目へ追加で乗り込む。
 今回の撤退条件は、舞とサーヴァントを除いて四人以上が戦闘不能となった場合。
 倒し切るつもりで戦うが、何が起きるか分からないのが戦場だ。
 万が一に備えておくのは、悪いことではない。
 戦闘海域に入る辺りでケルベロス達は船を下り、クルーザーの後部から垂らした長いロープに掴まって引っ張られていく。
「ふははははははは!」
 沙摩柯は翼を出して風を受け、ウインドサーフィンのように海上を滑る。
 緋桜は、ロープの先に丸太を括りつけてそれに掴まって進む。
 ――と。
 前二回と同じく、急激な温度低下と共に霧が発生し、戦艦竜トウテツが浮上する。
「――――――ッ!!」
 ほしこの狙い通り、複数の船を確認した戦艦竜は、ひといきに沈めようと氷のブレスを吐き出した。
 ……予定と違ったのは、『船だけを壊させて無傷で戦闘に入る』とはいかなかったこと。
『高速で移動する船』に繋いだ『ロープを掴んでいる』状態。
 視界は船と霧で二重に遮られ、自らの体や船が水を掻き分ける音が耳も邪魔する。
 咄嗟に、効果範囲外まで素早く離脱するのは無理があった。
 相手がブレスでなく砲撃を選択した場合、無事な方はそのまま接近して先に戦闘を始めるつもりだったのも、退避を遅らせた原因である。
「ち、相変わらずやっかいな攻撃だなこれは。
 おい、皆無事か!?」
 頭を振って張り付いた氷を払いつつ氷雨が声を張り上げると、すぐに全員が答えを返す。
 通常の戦闘距離よりも離れていたことと、狙われた船が障壁の役目を果たしたため、受けたダメージは本来の三割~四割ですんだようだ。
 いくらか被害はあったものの、ブレスを使わせるという目的は達成することが出来た。
 あとは、次が来る前に一気に撃破してしまうだけ。
「散開! 戦闘開始やで!!」
 清和の指示に、全員が本来の位置取りをする。
「ボロボロだなぁ、戦艦竜トウテツ。
 冬に水遊びは勘弁だし、ここで終わりしようぜ?」
 スナイパーである悠月は後ろへ下がり、ペンダントを開放。
 身の丈ほどの大きさを誇る、青と銀の両手斧『悠久斧グランリュミエール』を取り出し構える。
「よっ、久しぶりだな……リベンジに来たぞ」
 城ヶ島の調査時に氷の戦艦竜に敗れた響は、今度は負けないと闘志十分である。
 同じタイプの、ではなく負けた相手そのものであればもっと盛り上がっただろうが――戦艦竜という存在に対するリベンジと思えば、問題はない。
「変身!」
 叫び声を上げた響は、獣人化。
 黒い毛並みのボディに黒スーツ、黒地に赤い縁取りのプロテクターという、戦闘用のヒーロー形態へ変身する。
「情報、消耗、前二戦が、あったからこその、機会。
 あと少し、なら……ここで、終わらせられる、ように。
 全力で、挑みます……!」
「グォオオオッ!!」
 おどおどと、けれどきっぱり言い切る紅染に、トウテツの方も敵と認識し咆哮を上げる。
 さぁ、戦艦竜トウテツとの三度目の戦いの始まりだ!

●急げケルベロス、次のブレスの来る前に!
「歌って踊って祈っちゃうノマドご当地アイドル『山彦のメモリーズ』のほしこです☆」
 先手を取ったほしこが名乗りを上げる。
「おら以前出発した戦艦竜退治の依頼が中止になり、名付け親になり損ねて悔しいだ……。
『相模ぷぴ太郎』と名づけてご当地キャラにするつもりだったのに!
 なんでトウテツ!
 かわりに沈んで相模湾のご当地キャラになってもらうだ☆ 覚悟すっぺし♪」
 当の戦艦竜にしてみれば、「知らんがな」としか反応しようがない事を言い放つほしこ。
 戦い続ける者達の歌を歌い、前衛の傷と状態の回復、守備強化を行う。
「さぁ再び相見えたなトウテツ。
 前回の借りは返させてもらうぜ? 借りっぱなしは性に合わないんでな」
 続いて仕掛けるのは、氷雨と宵桜。
「今回は遊び抜きで本気でいかせてもらうぜ」
 周囲に飛び散ったクルーザー二隻分の残骸を二段跳びで移動しつつ、槍のように鋭くしたブラックスライムでブレス後の鱗を狙い撃つ。
 ライドキャリバーの宵桜は、残骸の上を走り回りながらガトリングの掃射で相手を抑えにかかる。
「さぁ! ド派手にいくぜ!」
 持ち込んだ丸太を足場として再利用して、赤い髪を逆立てた緋桜が攻撃を仕掛ける。
 背中に三対の翼のように放射状に配置した、赤く透き通る『高エネルギー結晶体』。
 消滅時にエネルギーを放出して推進力になるというその結晶体を利用し、高速接近。
 達人的な右拳の一撃を叩き込む!
「あの、夏川さんには……メディックで、その……」
 ダメージを受けた者へは分身を、攻撃は命中優先で。
 おどおどと舞に指示を出した紅染は、トウテツへ向かい、急所を貫く蹴りを打ち放つ。
(「前とは違う……やれる……!」)
 前回の戦闘を思い出し、どうやって立ち回るかのシミュレーションもしてきた。
 自分に言い聞かせながら、響は満月のような光の玉を取り込み、傷を癒すと共に攻撃性を高めていく。
 ライドキャリバーのヘルトブリーゼは、その間に主人が狙われないよう、炎を纏って突撃して時間を稼ぐ。
「剣竜! 倍ィィ、功夫ぅぅぅッ!」
 ダブルジャンプで一気に接近した沙摩柯が、その勢いのままに攻撃を仕掛ける。
 沙摩柯剣風。
 武器、手足、尻尾、翼、角、牙、乳……あらゆるものを一気に、全力で叩き込む荒技だ。
 我が身の事など、欠片も興味無し。
 力の限りぶっ込むしか知らない沙摩柯は、仲間がいるから倒れても大丈夫だと、危機感も躊躇も無くひたすら攻撃なのである。
(「こんなでかい相手は流石に初めてだが……さて、どこまでやれるかな」)
 嵐の如き沙摩柯に繋ぐのは、悠月。
(「さぁ、竜狩りだ。派手にぶちかまそうぜ!」)
 仲間を信じ、水中から攻撃を仕掛ける。
 雷の力を宿した愛斧で、神速の突きを見舞う。
「ガァアアアアアアッ!」
 水上からの攻撃ばかりでそちらに意識が向いていたところに、水中からの一撃だ。
 不意を突かれた戦艦竜が、痛みと怒りの叫びを上げる。
「ほれほれー、こっちやでー!」
 そして、悠月の信じた仲間は――。
 清和は攻撃を仕掛けることなく、相手の注意を引き付けんと目の前を忙しなく動き回り。
 おまけに、手持ちの閃光照明弾を光らせてみる。
「グォウッッ!」
 特別な効果をもたらす行動ではないが、目立つ相手を狙うことにしたのだろう。
 戦艦竜は、清和の望みどおりに背中の砲塔を向ける。
「いっ、だだだだっ!」
 分かってはいた。その為の備えもしてきた。
 だが、壮絶に痛い。
 これが護りの薄い後衛に当たったら、一撃で倒されることも十分ありえるだろう。
 盾役が戦線を維持できるかは、かなり大きい。
「戦艦竜トウテツ、これで最後にするですよ。この海を取り戻して、二度とあなたの被害にあう人を出させないのです……!」
 再び援護に駆けつけた機理原・真理は、ライドキャリバーに体当たりをさせつつ、ドローンを展開して前衛を治療し、護りを固めていく。
「舞さん! お手伝いしに来ました!!」
 おなじく、支援に来てくれた芥河・りぼん。
「わたし達で始めた戦い! 頼れる仲間が終わらせます!」
 戦艦竜に指を突きつけ言い放つと、海中から怪我人の治療にあたっていく。
「回復支援するです。遠慮なく戦ってくださいなのです」
 続いて、隠密気流でこっそりやってきたクリスタ・アイヒベルガーが『Graciousrain』を使い、前衛の回復と異常耐性の付与を行う。
「通りすがりのブレイズキャリバーだ。
 使命感に駆られ救援に参じた、微力ではあるがサポートする」
 さらにロイ・メイが、地獄化した心臓に過負荷をかけて癒しの光を放ち、後衛の傷とブレスにより張り付いた氷を解除していく。
 回復を受けつつ、舞も傷の深い清和へ分身をつける。
「及ばずながら加勢させてもらうぜ!」
 続いて、舞と一緒に船に乗ってきたロディ・マーシャルが、アームドフォートの主砲により戦艦竜の動きを止めにかかる。
「とはいえ、今回は俺はあくまで助っ人。
 トドメはきっちりキメてくれよな!」
 追加のクルーザーを用意してもらい、こうやって何人もの助っ人が来てくれている。
「これはもう、しっかりと倒しきるしかないよねっ!」
 声を上げる舞同様、一同の士気は大いに高まるのだった。

●決着、戦艦竜!
 結論からいえば、彼らは間に合わなかった。
 その後の戦艦竜の攻撃は二度。
 二発目の後衛狙いの砲撃は、宵桜が身を呈して受け止めたものの。
 次の砲撃が、回復役の舞を直撃して沈めた。
 その間にケルベロス達は攻撃を加えに加えて、トウテツをおおいに追い込んだ。
「喰らいな」
 二丁拳銃を抜き放ち、両手を広げ構えた氷雨は、残骸と海面を使った跳弾で鱗を狙う。
「今回は援護させて頂く!
 恐るべき龍……だが見事に追い込んで居るな……ならば……私も一撃援護をさせて頂こう!」
 駆けつけた皇・絶華が、古代の魔獣の力を宿すという魔技を使う。
 手にした刃で戦艦竜を狂ったように突き刺し、更に食い千切りにかかる。
「おっちゃんを無視しすぎや! そのどてっぱら突き抜けたるで!」
 攻撃してくる訳でもないので、優先順位が低いとみなされたのか。
 二回にわたり無視される形となった清和が、スパイラルアームでトウテツの装甲を削りにかかる。
 だが、まだ。
 まだ足りない。
 あとひと押しが出来なかった。
「ォオオオオオ――――ッッ!!」
 ついに準備の整った戦艦竜トウテツが、その溜め込んだ冷気を一斉に吐き出し、後衛へ吹きかける!
「アメジスト・シールド、最大展開! ……く……少しでも威力を削ぎます!!」
 ブレスに先んじて、フローネ・グラネットが紫水晶の障壁を張り、ブレスの効果を抑えにかかる。
 盾役の宵桜が、もっとも体力の落ちている氷雨を庇いに疾る。
「微力だが助太刀じゃ!」
 さらに夜刀神・煌羅が、響の代わりに前に出てブレスを受け止めつつ、菩薩の力を宿した掌で怪我人の治療を行う。
 ――そうして、圧倒的な冷気の嵐が吹き抜けた後。
 立っていられた後衛は五人。
 氷雨を庇った宵桜、そして響のヘルトブリーゼの二体が落とされた。
 残った面々の傷も、かなり深い。
 もう一度ブレスが来れば、後衛は総崩れになるだろう。
 だが、こちらも相手を相当に追い詰めている。
 もう一息で、倒せるはずだ。
「クスクス……ダメだよ、痛い事したら……。お仕置きしてあげる。斬って、抉って、壊して、殺してあげる。いい子で死んでね」
 攻撃を受けた紅染が、今までとはまったく違って好戦的になり、強い攻撃性を見せる。
 悪夢に魘されし狂神。
 狂える神の力を降ろし、『全てを破壊したい』という意志のもとに行動する『邪悪な影』を顕現させるという、危険な技だ。
 標的となった戦艦竜は、その荒れ狂う力を受けて大きなダメージを受ける。
「ふははははははは!」
 紅染に続き、トウテツの懐へと跳び込んだ沙摩柯が。
「剣竜! ばぁぁぁぁぁいィかんふぅーーーーーぅッ!」
 テンション高く叫びながら、『沙摩柯剣風』でひたすら攻撃を叩き込む。
(「いくぜ――『相棒』!」)
 連携を重視するが、隙あらば大技を狙う目立ちたがり。
 海中より近づいた悠月が、愛斧に語りかける。
 繰り出すは、『光り輝け』。
 悠久斧グランリュミエールの動力炉を起動させて自身の力を上昇させ、展開した魔方陣と共に、悠久の光を統べるという一撃を放つ。
「ガァアアアアアッ!」
 いよいよ後の無い戦艦竜が、自身の死に抗おうとして咆哮を上げる。
「♪ 急いて 泊まらず! エド夢羅ワールドスクウェアリング 来てよ バブルよ もういちど! 奇岩の川の 玉手箱☆」
 ここは攻め時と、ほしこも『日帰りの追憶』で畳み掛ける。
 歌が無数の切り立った奇岩となり、『日帰り旅行のように』往復して鋭く斬りつける。
「大袈裟な伝説も今日で終わりだ!」
 続く緋桜が、勝負を決めにかかる。
「輝け……輝け。もっと! もっとだ!! もっと輝けぇええ!!!」
 緋桜の全身を金のオーラが包み、右腕が黄金に輝いていく。
「黄金の覚悟(ブレイバー) ーーー!!」
 拳の前面に指向性の重力波と衝撃波を形成し叩き付けることで、対象を徹底的に分解し光の粒子へと変える一撃が、確かにトウテツの体を捉える。
 だが――。
「耐えた、だと?」
 通常なら勝負を決める一撃を受け、なおも沈まない。
 生命力などかけらも残っていない『ただ倒れていない』という状態だが、それでも死を拒んでみせたのは、戦艦竜としての意地なのか。
「私の重さ受けてみろ! トゥッ!! ライダーキック!!」
 そこにダメ押しで放たれる、響の『グラビティライダーキック』。
 天高く跳び上がり、宙返りのち重力を纏った蹴りを叩きつけ、グラビティ・チェインを流し込んで内部から爆散させる。
「お前の魂貰っていく……ごめんな」
 勝負が決まり、降魔拳士としての力で魂を喰らった響は、小さく謝罪の言葉を呟く。
「俺らの勝ちだ。ゆっくり眠ってな」
 崩れていく巨体。
 海中から上がってきた悠月が、戦いの終わりを宣言する。
 そう、相模の海を荒らした戦艦竜トウテツは、ケルベロスの力によってついに撃破されたのだった。

●勝利という美酒に酔う
 戦いは終わった。
「あはっ、やっと沈んだな!
 さあ歌うべ☆ 
 相模湾の竜退治を記念する凱歌『竜撃のメモリー』ですっ♪」
 ほしこは戦艦竜の撃破に気分を良くし、歌いだす。
「ふー……これでここは一段落か。
 ん、こいつはヤツの……」
 煙草に火をつけながら、塵にかえっていくトウテツを見ていた氷雨。
 足元に、鱗の欠片が落ちているのに気付いて拾い上げる。
 響は、喰らった戦艦竜の魂を体内に感じつつ。
 トウテツがどんな思いで戦ってきたのかに思いをはせ、お礼と謝罪を呟く。
 その他の面々も、感無量といった面持ちである。
 残念ながら、クルーザーは壊れてしまったので、これから短くない距離を寒中水泳しなければならないが……。
 ――いや。
「大丈夫だったようだな」
 撤退をサポートしようと、エンジン付きの小型ボートで待機していた木下・昇が、戦闘が終わったので近づいてきた。
 小型とはいえ、何人か乗るスペースはしっかりある。
 彼の準備は、予定とは違う形で役に立つこととなった。
「やりましたね!」
 さらにもう一隻を、りぼんが持ってくる。
 元々は、ボートを張りぼてで大きく見せ、クルーザーの被弾確率を下げる囮としようと考えて用意したものだ。
 ブレスを誘うという作戦ではまとめて破壊されるだけなので、後ろに置いておいたのだが……。
 こうして、帰りの足として有効活用されることとなる。
「さぁ、帰ろう!」
 戦艦竜を退治するために集まったケルベロス達は、勝利の喜びを噛みしめながら、二隻のボートに乗ってゆっくりと帰路につくのだった。

作者:紫堂空 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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