始まりは古の咆哮

作者:朽橋ケヅメ

 遠く、恐ろしい咆哮を聞いたのが始まりだっただろうか。
 それとも、不吉な地響きが先だったのか――いずれにせよ、見上げるほどの巨体が古びた灰色のビルを薙ぎ倒す光景はいま現実に、目の前にある。
 ドラゴン、とそれは呼ばれるのだろう。
 物語やゲームの中ではその名と姿を知っているけれど、青い鱗で覆われ、翼をはためかせながら、建物の三階まで届こうかという腕を振り上げて道を遮るものを破壊していく姿を目の当たりにすれば、ただ恐ろしさに身震いするばかりだった。
 その巨体が向かう方向には街の中心、人々が集まる繁華街がある。
 ……あそこが襲われれば、どれほどの被害が出るか。
 ついには粉々に崩れ落ちたビルを踏み越えて、ドラゴンが再び歩を進め始めた。
 あわててその進行方向から横に逃れるように駆け出す。距離を取り、ほっと息をついて振り返った……そのとき、ドラゴンは長い首をしならせ、くるりと頭の向きを変えた。
 鋭い牙の並んだ口が大きく開かれ、その喉の奥から吹き出す冷気の束――それが、最期に見た光景だった。
 
●始まりは古の咆哮
 集まったケルベロス達の前へと進み出て、シャドウエルフの女性が丁寧な物腰でお辞儀する。
「ヘリオライダーの、セリカ・リュミエールと申します。事件について説明させていただきますね」
 穏やかに微笑んで頷くと、セリカは未来予知で得た事件の情報を語りはじめた。

 福岡県久留米市。筑紫平野に位置する中核市であるその地で、デウスエクス種族のひとつ『ドラゴン』が目覚めるのだという。
「ドラゴンは、先の大戦の末期にオラトリオの方々によって封印されていました。それが、どういうわけか各地で復活して、人々を襲おうとしています」
 復活したばかりのドラゴンは、力の源であるグラビティ・チェインを失っているためか、本来の飛行能力が発揮できず、街を破壊しながら人間の集まる場所へと向かう。
 多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い、力を取り戻そうとしているのだろう。
「ドラゴンが飛行の力を取り戻せば、さらに多くの人々が脅威にさらされることになります……ですから、皆さんには、ドラゴンが力を取り戻す前に、撃破していただきたいのです」
 出現するドラゴンは全長10メートルほどの巨体を青い鱗で覆い、多くの能力が失われているとはいえ、氷の息を放って広範囲を凍結させることができる。
 もちろん、巨体に見合った手足の大爪を硬化して繰り出す一撃や、周囲の敵へと尻尾を薙ぎ払う攻撃も相応の破壊力を持っており、侮ることのできない相手だ。

「ドラゴンの進路は、出現したこのあたりから都市の中心部を目指して一直線に向かっているようです」
 セリカは地図の一点を示し、指先で一筋の線を描いた。
「出現地点の近くに、オフィスビルの並ぶ通りがあります。ドラゴンがビルを破壊しようとしている時が、攻撃のチャンスになる、と思います」
 ビルの高さや死角などを活かし、巨大な敵に対しても優位に立って戦いを進めることができれば、勝利が見えてくるだろう。
「建物は壊されてしまうかもしれませんが、あまり気兼ねしないで、今はドラゴンを確実に倒すことを考えてくださいね。破壊された建物はヒールで治すことができますし、近くの方々にはもう避難勧告を出していますから」
「さすが、手際が良いね」
 依頼に集ったケルベロスの一人、リボルバー銃を携えたシャドウエルフの男性が口の端を上げ、ギルバート・ハートロックと名乗った。
「ドラゴンをこの星の空へ放つわけにはいかない。それに何より、人々を守らなくてはね」
 この場に集った仲間達へと視線をめぐらせ、ギルバートは力強く頷く。
 セリカもまた頷いて微笑みを浮かべ、そして口を開いた。
「ヘリオライダーとして、しっかりと皆さんを現地へお送りします。どうぞ、よろしくお願いします!」


参加者
天壌院・カノン(オントロギア・e00009)
御神・瑠琉(銀閃砲狐・e00714)
捩木・朱砂(薬屋・e00839)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
秋芳・結乃(地球人のガンスリンガー・e01357)
ダニエラ・ダールグリュン(ウェアライダーの鎧装騎兵・e03661)
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)
切広・光(火車・e04498)

■リプレイ


 青い鱗に覆われた巨躯が一歩を踏み出せば、電柱はへし折れ、千切れた電線の先が断末魔のように音を立てて弾けた。
「これが、どらごんというのか……」
 住人が避難を終え、無人となった街区へと先陣を切って降り立った切広・光(火車・e04498)が、ぴくりと耳を震わせ、少したどたどしくデウスエクスの名を呼んだ。
 ドラゴン――封印を解いて目覚めた災厄は、人間の気配を求め、都市の中心へと向かって進んでいる。
 その進行方向、四階建ての雑居ビルの屋上に立つ人影があった。
 逆光に照らされ浮かび上がるその姿は、拳を突き上げ高らかに告げる。
「我が名はアルレイナス・ビリーフニガル! 邪悪なるドラゴンよ、我がジャスティス力の前に平伏すが良いッ!」
 説明しよう! ジャスティス力(ちから)とは、アルレイナスの持つ正義の心が生み出すなんかカッコイイ力だ! たぶん!
 ひと声咆え、迫り来る巨大なドラゴンに立ち向かおうとする青年――アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)の姿は、一見すれば果敢を超えて無謀にも映る。
 けれど、これはケルベロス達の戦いなのだ。

「やっべ龍の咆哮すっげえ煩いわ」
 ドラゴンの死角に降り立った捩木・朱砂(薬屋・e00839)が舌打ちした。
 耳栓の一つもしてくれば良かったぜ――と尖った耳を弄りつつ、朱砂に続いて降り立った仲間達を手振りで誘導し始めた。
 すると現れた銀色の狐が、屋上伝いにビルとビルとの間を飛び跳ねて渡る。
 ふわりと着地した狐は光に包まれ、アームドフォートを携えた少女――御神・瑠琉(銀閃砲狐・e00714)が姿を見せた。
 ドラゴンを狙い、腰だめに構えた砲身の照準が少し震えている。瑠琉は緊張をほぐそうと深呼吸ひとつ、そして、
「……魔砲少女、とか言ってみたりして……」
「ん?」
 と首を傾げたのは、ケルベロスコートから50口径のライフルを取り出した秋芳・結乃(地球人のガンスリンガー・e01357)だった。
「あっ、いえ、街を壊すドラゴンは許せませんね~」
 手と尻尾を振り振り、慌てた様子で笑みを浮かべる瑠琉に、結乃もうんっ、と頷いて、
「そうだね、寝起きのうちに倒しちゃおうっ」

 敵の進路から少し外れた公園に、小さな翼をぱたぱたはためかせてエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)は降り立った。
「ドラゴン、本当に、大きいの……こんなのも封印できて、昔の同胞は本当にすごかったね」
 見上げる敵の姿、初めての戦いに、呟いた言葉。
「エルス君にだってその勇敢な血が流れているんだ、きっとできるさ」
 そう応えて微笑むのは、ギルバート・ハートロック(シャドウエルフのガンスリンガー・en0021)。
 独り言を聞かれた恥ずかしさにエルスは羽根を逆立てて、ギルバートの髭をちくちくとつついた。

 ビルの上でドラゴンを挑発するアルレイナスと、建物の間を縫いながら敵を翻弄するように駆ける光。
 ドラゴンが目障りな二人の姿へと気をとられている間に、仲間達の戦闘準備を確認しながら奇襲のタイミングを計っていた朱砂が、合図を出した。

「……ターゲットロック……対ショック……OK……」
 瑠琉の構えた砲身に、エネルギーが凝集圧縮されていくほどに、周囲の空気までもが揺らいで見える。
「行けっ!」
 砲口から伸びる桃色の光線――超長距離一点狙撃がドラゴンの前肢を貫き、首元の鱗を掠めて灼いた。
 間髪を入れず、結乃の銃口からもグラビティを収束させた光線が放たれた。
「……捉えるっ」
 第六感の域にまで集中を高め、瞳孔を窄ませた結乃の眼には、光線の向かう軌跡が視えている。寸分違わずドラゴンの眉間へと衝突したグラビティの塊が、巨躯を怯ませた。
 するとドラゴンは、己に傷を加えた二筋の射線の主をその眼に捉え、反撃を加えるべく迫る。
 瑠琉と結乃は視線を交わし、逆の方角へと駆け出す。瑠琉は二つ隣のビルへ。結乃はビルの裏手へと飛び降り、赤茶のポニーテールをなびかせて着地すると死角に隠れた。

「命を刈り取るのは辛いものですが……放ってはおけませんね」
 ドラゴンを見下ろすアパートの屋上に立っていた天壌院・カノン(オントロギア・e00009)が視線を送る。
 その先には、カノンの指示で隣家の屋根に降り立っていたダニエラ・ダールグリュン(ウェアライダーの鎧装騎兵・e03661)の姿があった。
 ――さあ、参りましょう。
 ――ああ、腕が鳴る。
 無言の頷きを交わし、カノンとダニエラは一斉に飛び降りた。
 目指すは、後ろを向いたドラゴンの背。
 二人が両の手に二振りずつの長剣を構えれば、都合四閃の刃が星辰の重力を宿し、四方から厚い青鱗へと振り下ろされた。
 悲鳴のように甲高い音色、青い火花。
 刃の一端は弾かれたものの、深々と突き立った一太刀が巨躯を身じろがせた。
「この地もかつては誰かの愛する森だったのならば、守らぬ訳にはいかないな」
 ここはダニエラの求めるような、緑あふれる地ではない。それでもこの地を守るのだと、ダニエラは決然と告げた。


 恐らく、ドラゴンはそれまでケルベロス達の力を侮っていたのだろう。あるいは、戦闘の勘が鈍っていたのかもしれない。
 だが、いよいよデウスエクスたるこの身を害する存在、と認識を改めたのか、ドラゴンは低く重く咆え、見違えるような速度で手近な敵――得物を構え直したカノンとダニエラを目掛けて爪を振り上げる。
「お前の相手はこちらだッ! 旋刃脚ーッ!」
 それを見て取ったアルレイナスが二人の前に飛び出し、大きく跳躍してドラゴンの顎を目掛け電光石火の蹴りを放った。
 だが、呪力で超硬化したドラゴンの巨大な爪がその一撃を受け止めると、返す一閃はアルレイナスの腹部に吸い込まれ、その身体は大きく弾き飛ばされた。
 地面に叩き付けられ暗転する視界、だが意識を失ったのは数瞬のこと。
「アルレイナス様、しっかりしやがれでございます」
 耳慣れた声と乱暴な言葉遣いは、衝破弾烈・ペネトレイト(ビリーフニガル家の召使い・e03792)だ。
 壁に潜んで戦況を窺っていたメイド服のレプリカントは、アルレイナスの首根っこを掴んで立ち上がらせながら、片手でガトリングガンの弾丸をドラゴンの足元に掃射して牽制する。
「ここは任せてくれ!」
 光は二人とドラゴンの間に入り、竜の咆哮には獣の咆哮、とばかり、高らかに魔力を籠めた吠え声をあげた。
 巨躯が僅かに怯んで足を止めた隙に、ペネトレイトとともに後方へ下がったアルレイナスを包み込むのは、魔力を帯びた木の葉。
「暴れられると厄介だよなあ」
 と肩をすくめる朱砂の生み出した木の葉は、アルレイナスに治癒と妨害能力を授けていく。朱砂は頬を緩め、
「ま、ナイスファイトだ」

 一撃の重さを考えれば、真っ向の力勝負を避けて先ず敵の動きを阻害するのは戦場の定石といえるだろう。
 後方に控えるエルスは禁縄禁縛の呪法や古代の石化魔法を次々と放ち、その幾つかはドラゴンの巨体を確実に蝕んでいた。
 巨躯が身じろぐ姿に、エルスはふうと息をつき、
「ちょっと苦しそうになってきたのね、勝てない相手じゃなさそうなの」
 だが、こんなものではないとばかりに、ドラゴンは首を巡らせながら氷のブレスを広範囲に撒き散らす。
 極低温の猛吹雪に襲われ、後方に陣取っていたエルスやギルバート、結乃や瑠琉の視界は一瞬にして白に染まった。
 だが、纏わり付く氷に痛みを覚えつつも、ギルバートは見た目ほどの深傷を負うことなく銃を構え直す。
 五里・抜刀(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e04529)の展開するヒールドローンが、ブレスの威力を和らげたのだった。
「助かるよ」
「お役に立てて何よりです」
 ギルバートが頷くと、ドラゴニアンの男性は騎士の儀礼に倣って丁寧に一礼を捧げた。
 エルスが小さな翼を羽ばたかせると、あふれ出た虹色の光がケルベロス達を包み、纏わりつく氷片が溶けていく。
「負けちゃだめなの!」
 同じく深傷を免れた結乃は、敵の動きが鈍っているのを見て取り、お返しとばかりにバスターライフルを構えた。
「これはどうかな?」
 銃口から放った凍結光線は、しかし青鱗の表面へと解けるように弾かれる。
「氷に氷じゃイマイチかな……っと!」
 ドラゴンの注意を引いてしまったと気づき、結乃は建物の角へと駆け出す。
 そのとき、甲高い銀狐の声が響いた。
 瑠琉の咆哮にドラゴンが気をとられた隙に、結乃は再びビルの陰に隠れ、次の好機を窺うのだった。


 ドラゴンの厚い鱗の前に、放つ刃の一つ一つは小さな傷でしかない。
 それでも、動きを阻害する呪力の積み重ねによって、確かに届くようになったケルベロス達の攻撃は、回復能力を持たないらしいドラゴンの体力を着実に削っていく。
 だが一方で、ケルベロス達の側も、エルスを中心として治癒を続けてはいても、癒しきれない傷が積み上がってくる。
 決着の時が近づいていることは間違いなかった。

「猛き英雄の魂よ、安らぎに微睡む魂よ、泡沫に揺蕩う魂よ」
 祈るような、聖なる詠唱が崩れかけたビルの谷間に響く。ドラゴンはその出所を探して首を巡らす。
「この身に宿りて奇跡の花を」
 が、詠唱の結句が早かった。カノンの祈りが、辺り一面に麗しの花を咲かせ、ドラゴンの精神をも惑わせようとする。
 カノンは再び身を隠そうと翼を広げてビルの間を舞う――が、呪縛を振り切ったドラゴンは尾を振り上げて大きく薙ぎ払った。
 空中で体勢を整えきれないカノンを襲う巨大な尾の前に飛び出したのは、壁を蹴って跳ね上がった光の姿だった。
 尾の一撃を受け、掲げた斬霊刀もろとも壁に叩き付けられた光は苦しげに呻き、ふらりと立ち上がる。
「護衛も、ちと飽きた……な」
 光の周囲に炎が宿る。炎は幾重もの輪を描き、火車となってドラゴンを囲むと、僅かの間動きを封じた。
 その一瞬を逃す光ではない。しかと握ったままの斬霊刀に魂を込め、火車諸共に竜の鱗を切り裂けば、深々と刻まれた傷から鮮血が流れ出た。
 恐れ、だろうか――そのとき、ドラゴンの咆哮は声色を変えた。爪を振り上げて、血塗れの光目掛けて振り下ろそうとする、その前にアルレイナスが立ちはだかった。
「やられてばかりじゃないぜ!」
 と、今度は爪の一撃をかい潜り、光の元へと駆け寄ると、正義のポーズを決めて、
「響け、癒しのジャスティス力! 輝け、波動ッ!」
 ジャスティスヒーリング、と名付けた正義の波動が、光や仲間達の傷を癒やしていく。

「終焉の幻、永劫の闇、かの罪深き魂を貪り尽くせ!」
 人形のようなあどけない姿のエルスが、内に宿した闇の力を解き放つとき、古の竜の魂ですら闇に侵食されていく。
 それでも、ドラゴンは最後の力を振り絞るように、さらなる氷の吐息を放った。
「っく……」
 視界まで白く凍てつく吹雪の中、剣を掲げたダニエラは懸命にブレスを受け止めて耐えた。
「回復は任せた。その代わり攻撃は任せてくれ!」
 ひび割れた路面にダニエラが刃を突き立てれば、氷竜の鱗も溶かさんとばかりに竜の足元から吹きだした溶岩が、焦げた臭いを放ちながら敵を焼き尽くすように広がる。
「任された」
 朱砂が口の端を上げて縛霊手を高く掲げると、戦場に薬液の雨が降り注ぎ、仲間達の凍傷を癒やしていく。
「当たれっ」
 結乃の放ったエネルギー光弾は動きを鈍らせたドラゴンの胸元に正確に吸い込まれると、敵のグラビティを奪い取り弱めた。
 アームドフォートを構え直した瑠琉が、手振りで指示を送る。
「こちらへ惹きつけている間に、カノンさん、背後から攻撃願いますー」
 動き出した仲間の姿を確認すると、瑠琉の身に纏う砲台が一斉に火を吹いた。
 無数の射撃に、ドラゴンは血を滴らせながらもいきり立ち、ブレスを放つべく大きく息を吸い込む。
 だが、その息が吐き出されることはなかった。
 ドラゴンの頭上で星のように輝く二振りの刃が、六枚の羽に誘われ、青鱗に覆われた頭部へと吸い込まれる。
「荒ぶる猛き龍よ、その魂を救済いたしましょう」
 カノンの放った十字の斬撃は、ドラゴンに残された最後の力をも断ち切ったのだった。
 轟音とともに地に倒れ臥せ、動かなくなったドラゴンの身体は、音もなく溶け崩れていく。
 そして、見る間にその巨躯は幻のように姿を消し、ただ破壊された建物の残骸だけが、災厄の跡を物語っていた。


 全てが終わったことをようやく実感すると、結乃は大きく息をついて、笑顔を浮かべた。
「ふふ、いきなりドラゴンは緊張したね!」
「うんー、疲れました~、誰か連れて帰ってー」
 すっかりと銀狐の姿になって、だらーりと床で丸くなっている瑠琉。
「瑠琉、大丈夫か?」
 心配そうに声を掛ける光。朱砂は肩をすくめ、仕方ないな、と瑠琉を抱き上げた。
「緊張が解けてどっと疲れがきただけだろう。たれパ……いや、たれキツネだなこりゃ」

「壊れたままじゃ、可哀想なの」
 エルスが崩れた民家にヒールをかければ、修復された家の屋根をエルスの髪の花に似た大きな白椿が彩る。
 心なしか、壁もふわふわ柔らかい手触りになっているような。
「可愛くしちゃったけど、悪くないかも?」
 長い銀髪を揺らして首を傾げるエルスにダニエラも頷き、破壊されたビルを木の葉で覆われた姿に修復してみせた。
「緑の多い街並みになるといいな」
「おーい! 見てくれよ、このジャスティス力!」
 と手を振るアルレイナスのジャスティスヒーリングで修復された電柱や信号機は、なんだかビシッとカッコいい姿になったのだ、という。

 翼を畳み、祈るように目を閉じたまま座り込んでいるカノンの姿を見つけて、光は側に近づきそっと頭をなでた。
「助かったよ、ありがとう」
「こちらこそです、切広さん」
 頷くカノンに、光は目を細めて広光でいいよ、と答えた。
「そうだ、帰りに博多辺りでのんびり飯でも食えると嬉しいが、どうだろう」
 朱砂がそう切り出すと、戦いで乱れたポニーテールを整えた結乃もさんせーいと諸手を挙げた。
 ダニエラも表情をほころばせて頷き、
「福岡まで来たのだから美味しいとんこつが……」
 と言いかけて、エルスがじっとこちらを見上げていることに気づくと、
「………草食動物のウェアライダーだってとんこつラーメンくらい食べるさ!」
 ダニエラの言葉にエルスは首を振り、漆黒の瞳を興味津々に見開いて、
「あの……耳に触ってみたいの。いい?」
 と、思いがけない言葉に、思わず誰ともなく笑みをこぼす。
 きょとんとした表情でそれを見ていたエルスも、つられるように一緒に笑顔を咲かせるのだった。

作者:朽橋ケヅメ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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