雷龍吼える

■リプレイ

●壊れる都市
　雷龍が、徳島市を闊歩していた。
　一歩踏みしめるごとに、道路が、ビルが、幾多の建築物が瓦礫へと姿を変えていく。
　徳島市は、ドラゴンに蹂躙されていく。その上空に、ケルベロスたちはいた。
「おーおー、デケェ獲物が暴れてら」
「まるで歩く災害だな……」
　ベルガー・グレイン（嘘吐き・e03445）の呟きに、アマルティア・ゾーリンゲン（氷の心・e00119）が同意する。
「町は壊されても治るけど、人の命は失われたらもう戻らないから」
　ヴェルナー・ブラウン（オラトリオの鹵獲術士・e00155）は悲しげな表情を、きっと引き締める。
「だからそうなる前にぼく達が阻止してみせるの」
　そう言って、胸に手を当てた。
「日々の鍛錬の成果を見せる時ですよ！」
「そう簡単にグラビティチェインはあげません！」
　芥河・りぼん（熱血リサイクル・e01034）と咲海・たま（天からミュージックシャワー・e00434）が口々に言う。
「ドラゴンがこれから行おうとすることを、其れを俺は許すことはできない……」
　千軒寺・吏緒（ドラゴニアンのガンスリンガー・e01749）は静かに呟くと。
「止めさせてもらう！」
　気合いの声を出した。その横には、星迎・紗生子（元気一番星・e02833）。
「やーっっとおーっっ」
　小さな体を元気いっぱいに動かし、戦闘のシミュレーション。機敏な動きだが、紗生子をよく知る人ならばわかるだろう。表情に、微かな緊張の色が見える。
　賑やかな仲間達を横目に、ディクロ・リガルジィ（静寂の魔銃士・e01872）はため息を吐いた。
「あぁ、煩い……煩い」
　穏やかな笑顔に見える表情だが、言葉が帯びるのは憂いの色。その対象となるのは、ドラゴンの嘶き、羽ばたき、足音、そして雷鳴だ。
「煩いから、静かにしなくちゃ、ね」
　そう言って、腰のリボルバー銃に手を添えた。
　思い思いの時を過ごす仲間達に、近衛・翔真（ウェアライダーの螺旋忍者・en0011）は頼もしげな視線を向けた。
　やがてへリオンはドラゴンに接近、降下地点へとたどり着く。
「わわ！　高いですね！」
　りぼんはたまに目配せ。頷きあうと、タイミングを合わせ飛び降りた。
「いやっほー！！！」
　たまは背面飛び。ぐんぐんと近づく地面。逆さまの視界が、ドラゴンを捉えた。
「いっけーっ！」
　生み出されるのは時空を凍り尽かせる弾丸。ドラゴンに命中し、その体の一部を氷で覆う。
　2人に続き、続々と飛び降りるケルベロスたち。ディクロは目にもとまらぬ素早さで、リボルバー銃を抜き撃ち。弾丸はドラゴンの巨体を正確に捉えた。
「あか　だいだい　き　みどり　あい　むらさき　くも　そら　いろ　きらきらきれい」
　降下しながら、紗生子は斬霊刀を持った手を伸ばす。
「ぴかぴかまぶしい　もっとみたい　もっとちかづきたい」
　もっと、もっと。届かない物を捕まえようとするかのように伸ばした手が……届いた。
「いちばんぼーしーみーつけたぁ！」
　紗生子の斬撃、元気一番星がドラゴンを切り裂いた。いきり立つドラゴンを尻目に、ケルベロスたちは距離をとった地点に着地。散会し、おのおのの持ち場に陣取る。
　雷龍とケルベロスの戦いの幕が、切って落とされた。
　
●戦場
「紗生ドラゴンなんて怖くないもんっ」
　初撃を食らわせた紗生子が、ドラゴンを挑発しながらビル街を駆ける。そのちょこまかした動きに、ドラゴンも釣られた。紗生子の動くその方へ向かい、歩を進める。しかし、その方向に市民は既にいない。待ち構えるのは、得物を手に万全の態勢を整えたケルベロスたち。
　そんなことを知る由もなく、ドラゴンは道を瓦礫へと変えながら進んでいく。復活まもなく、知力も完全には復活していないのに加え、幼い紗生子が囮を務めたのも功を奏したのだろう。ドラゴンがビルの狭間の広場にたどり着いたそのとき。
　ビルの陰から飛び出したのは、アマルティアだった。
「よくやった星迎。出番だ、パフ」
　トランクを開くと、現れるのは真紅のボクスドラゴン。体こそ小さいが、遙かに大きな雷龍に堂々と向き合う。その横を駆けて、アマルティアは跳躍。身の丈ほどもある長大な日本刀に地獄の炎を宿し、叩きつけるように切りつけた。鱗に深々と刃が突き刺さり、ドラゴンは苦悶の鳴き声を上げる。
「続くよ！」
　ヴェルナーが躍り出た。突きだした掌から、現れるのはドラゴンの幻影。現実の龍と幻影の龍が対峙し、にらみ合ったのは一瞬。幻の吐き出す炎のブレスが、業火と化して雷龍を包んだ。
「これも作戦の内だもんね」
　おびき寄せられたのに気づいたか、ドラゴンが炎に包まれながら吠える。その姿に、ヴェルナーは微かに笑って告げた。
　ドラゴンは、ケルベロスたちによって半円状に囲まれている。この状況では、退くのも簡単ではない。そこを狙って、ケルベロスは波状攻撃。たまの弾丸とディクロの竜の幻影が、併走するかのようにドラゴンを捉える。紗生子もきびすを返し、信じる心を力に変えて斬りかかった。
　続いてはりぼん。長大な銃身を持つバスターライフルが、唸りをあげる。集約した魔力に振動する銃を押さえ、しっかりと狙いを定めて引き金を引いた。魔力光線がドラゴンの腹部に命中。ドラゴンは身もだえしつつ、攻撃の主であるりぼんに目を向けた。
「今ですよー！」
　大きな瞳で睨まれても、りぼんは一切怯むことなく、ビルの向こうへ合図を送る。その声に応え、飛び出してきたのは吏緒。
「推して参る！」
　駆け抜けながら日本刀を抜き放ち、月光の如くきらめく刃でドラゴンの急所に切りつける。刃は鱗の間を正確に切り裂き、血が流れ出した。
　そこに、上空から放たれる冷たい光線。ビルの屋上から、じっと機を待ち続けていたベルガーの放つ凍結光線が、狙い過たずドラゴンを射貫いたのだ。急速に温度を奪われ、ドラゴンの体が冷えていく。
「ミーディカ行くぜ。あんま前出過ぎんなよ？」
　命中したのを見計らったベルガーが、ビハインドと共にビルを飛び降りる。軽やかに着地し、前衛へ。押さえの位置に移動し、ドラゴンをにらみつけた。
　奇襲による初撃は成功。とはいえ、ドラゴンの生命力はまだまだ旺盛、巨体に秘めた闘気も、底知れぬものがある。いわば、これからが戦いの本番。ケルベロスたちはドラゴンを包囲する陣を整え、再び気を引き締める。
　そして少し離れた場所では、もう一つの戦いも行われていた。
　ビルの間を走り、逃げ惑う人の波。ケルベロスが相手をしてくれているとはいえ、一般市民にとってドラゴンは脅威以外の何者でもない。人々が我を忘れるのも無理はないだろう。
　母に手を引かれて逃げていた幼児。その足が、道に転がる瓦礫に躓いた。繋いでいた手は離れ、幼児は転ぶ。慌てる母親だが、人の波に阻まれ、思うようにはいかない。幼児の泣き声が響く。
　そのとき、幼児を抱き上げ、微笑みかける影。
「もう大丈夫！　オレと一緒に逃げよう？」
　幼児を保護したテオドールは、その魅力で周囲の人々を先導し、人波をかき分けて母親のもとへ。礼を言う母親に軽く頷くと、周囲の避難民を整理しだした。
　上空からはブルーベルが、周囲の様子を見て指示を出す。その的確な動きに助けられ、避難民たちの流れもスムーズになっていった。
「はーい、危ないので一緒に逃げまショウね～♪」
　ソルシエは目立たないよう身を隠しながら、逃げ遅れた人々を探し、誘導する。人々を整理する影の中には、藍色の髪をしたシャドウエルフの姿もあった。
　レグザイアから避難完了の連絡を受けた翔真が、満足げな笑みを浮かべる。心強いサポートにより、避難誘導は順調に進んでいた。この分なら、予定より早く戦線に加われそうだ。
「ドラゴンは頼んだよ皆……！」
「みなさん、どうかご無事でいてくださいね」
　レグザイアとブルーベルが、祈りを込めて呟く。テオドールは友人である吏緒の健闘を祈り、そっと拳を握った。

●雷龍
　ドラゴンの体が金色に光る。雷の力を帯びた、息吹の予兆。狙うのは、紗生子と吏緒。ドラゴンの口中で稲光が駆け巡り、そして吐き出された瞬間、割って入ったのはアマルティアとパフだった。
　強烈な電撃の力に、体が痺れる。それでもアマルティアは微動だにしない。パフも、主人に付き従うかの如く、しっかりと立っている。
「器が知れるぞ。ドラゴン。あまり、私を失望させるな」
　傷つきながら、アマルティアは毅然と言い放つ。
「すまん、サンキュー」
「パフちゃんありがと！」
　吏緒と紗生子が、口々に礼をいう。それにアマルティアは軽く手を振って答え、パフは雄叫びを上げた。
「すぐ治しますよ！　えっと……ここ！　ですね！！」
　りぼんが放つ衝撃波が、右斜め４５度から頸椎に当たって生命力を活性化、アマルティアの痛みを癒やしていく。
　戦いは激化していた。完全ではないとはいえ、さすがにドラゴン。一撃一撃の重みは侮れない。それに対し、ケルベロスもまた己に出せる限りの火力でもって対抗する。
「でっかいトカゲはちゅどーんだよっ！」
　紗生子はスイッチを押す。ドラゴンの体につけられた、見えない爆弾が連鎖爆発。ドラゴンの体は爆炎に覆われる。
　威力ある攻撃だが、ドラゴンは未だ倒れない。ますますいきり立ち、紗生子に爪を突き立て、握り潰そうとする。
「あうっ痛いよおっ」
　爪で引き裂かれた体にさらに力がかかり、紗生子の脳裏に最愛の父の姿が浮かぶ。
「放してもらうよ」
　紗生子の危機を察したディクロが、リボルバーを抜き撃ち。弾丸は紗生子を傷つけることなく、正確にドラゴンの爪を弾き飛ばした。くびきが解かれ、紗生子の体は地面に転がる。
「紗生ちゃんファイト！　歌っちゃうよ～！」
　たまが奏でる、勇気をもたらす曲が紗生子の耳に届いた。その響きに励まされ、紗生子は立ち上がる。涙目をごしごしとぬぐい、ドラゴンに向き直った。
「ディクロお兄ちゃん、たまお姉ちゃんありがとーっ！」
　助けてくれた2人に礼を言うのが早いか、紗生子は再びドラゴンへ攻撃を繰り出していく。
　双方共に傷を負いながら、それでも攻撃を繰り出す激しい戦い。しかし、次第に形勢はケルベロスの側に傾く。常に巧みな連携を取るケルベロスに比べ、１体のドラゴンは封じられた力を回復することもできない。
　ヴェルナーの発動した「御業」が、ドラゴンの体を締め付ける。動きが鈍ったのを見たヴェルナーは、ディクロに目配せ。一瞬のアイコンタクトから、ディクロが呼び出したのは竜の幻影。精霊石の指輪が輝くと同時に、幻影の放つ炎はドラゴンを包み込んだ。炎に包まれ、ドラゴンは悶絶する。
　既に動きを大きく縛られ、生命力も失ったドラゴン。倒すには今が好機と動きかけたケルベロスだが、その機先を制するかのように、ドラゴンの体が光った。
　放たれるブレスを、しかしアマルティアは紙一重のステップでかわす。
「その口は閉じろ」
　その勢いのまま高々と跳躍すると、ドラゴンの頭に強烈な飛び蹴りを見舞った。
「遅くなった！」
　そこにたどりついたのは翔真。後方には、手伝ってきたシヴィルの姿もある。
「雷の力をまとった息吹とは厄介だな……」
　シヴィルは黒天で地面に獅子座を描く。前衛にいた者に守護の力が宿り、傷を癒やした。吏緒が団長のサポートに、感謝をこめて軽く礼をする。
　翔真が加わり、仲間の援護も受けて、ケルベロスの攻撃はさらに勢いを増す。
「こいつはどうだ！」
　吏緒が電光石火の如き蹴りを叩き込み、すかさず翔真も重力を込めた拳を叩きつける。
「君は、煩い。ならば僕は齎そう、静寂と言う名の秩序を」
　ディクロはリボルバー銃を構える。魔法の青白いリボンがたなびき、光線は音もなく発射された。
「先に寝ててくれないかなぁ」
　ドラゴンの意識が眠りに蝕まれ、動きがさらに鈍る。
　そのドラゴンの鼻先を、走り回るのはたま。
「魂込めて今、咲海たま、オンステージ！」
　宣言し、踊る。ドラゴンはそれが機に触ったか、顔をしかめた。苦しみながらもその尻尾を振るう。巨大なビルを崩すほどの、強烈な一撃だ。
　何者をも吹き飛ばさんとするような、尻尾の一振り。しかしそれを、ベルガーとミーディカはしっかりと受け止めた。
「ミーディカ下がれって、アブねぇだろ？」
　ベルガーの言葉に、ミーディカは首を横に振る。２人で共に尻尾を受け止め、仲間に害が及ぶのを許さない。
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え、死と絶望の炎が我が周囲で燃え上がる」
　回復が間に合わないと判断し、アマルティアは呪文を詠唱。
「聞けよ、聞け。神々よ聞け、この呪いを」
　アマルティアの獄炎の息吹はベルガーの傷を燃やし、癒やしていく。
「もう少しです。頑張りましょう！」
　りぼんの召還した光の盾もまた、ベルガーの傷を癒やした。
　最後の反撃も打ち砕き、後は勝負を決めるのみ。
「天に遍く星々の煌きよ　ここに集いて　彼の者を打ち砕け」
　ヴェルナーは足を止め、詠唱。高密度のエネルギーが爆縮し、まさに弥終の檻と化してドラゴンを縛る。
「今だよ、みんな。今度はコギトエルゴスムじゃなくて、確実に倒しておくの」
　動きを封じられたドラゴンに浴びせられる攻撃。ディクロの銃は頭部を貫き、紗生子は非物質化した斬霊刀でドラゴンの霊体を切り捨てる。
「ワリィな、これも仕事なんで。成仏してくれや」
　ベルガーの炎の息がドラゴンを包み、アマルティアは地獄の炎を叩きつけた。炎に飲まれ苦しむドラゴンの目前に、飛び込んで来たのは吏緒。
「これで、終いだ！」
　銃弾は、正確にドラゴンの頭部を貫いた。ドラゴンが断末魔をあげ、その巨体をゆっくりと横たえる。吏緒は重厚から上がる白煙を、ふっと吹き飛ばした。

●回復する都市
　戦いが終わり、都市に静寂が戻ってきた。
「どうにかなったな。皆、お疲れさん」
「ま、当然の結果だな。起きたばっかの寝坊助ドラゴンに負けるとかありえねぇ」
　吏緒の言葉に、ベルガーは冗談めかして笑う。
「皆さんとのチームワークの勝利ですね！　近衛さん！　ありがとうございました！」
「ああ、こちらこそ」
　りぼんと翔真は、しっかりと握手を交わした。
「適当にヒールして帰ろっか」
「ヒールしたら徳島どう変わっちゃうんだろ。綺麗になるといいねーっ」
　ディクロの言葉に、紗生子が笑顔。その視線の先にある破壊された都市も、そのうちに回復し新たな姿を得るのだろう。
「徳島市かあ……市の花は確か桜だよね……雅な市だなあ……」
　たまは町を見て回る。その肩に、風に乗って何かが乗った。
「……あっ」
　いったいどこから飛んできたのか、それは季節外れの桜の花びら。たまの表情が、自然と和らぐ。
　ケルベロスたちはドラゴンを破り、都市と住民を守ったのだった。

作者：佐枝和人	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年9月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 5／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。