水底の巨影、戦艦竜『決戦』

作者:白石小梅

●水底の巨影、その最後に
 真鶴岬、沖合。
 時は、空が白み始めたばかり。朝方に、靄の掛かる海の上。
 今は封鎖されている海面に、クルーザーが一艘、走っている。
 近場の漁業協同組合が、戦艦竜が跋扈するこの海域の安全を確認すべく、放った船である。
 作業をする数人の組合員が、いつものように安全確認を始めた時、ソナーを見ていた男が一人、金切り声をあげる。
「ソナーに反応だ! 大きさ9……10メートル! でけえぞ!」
 男たちの間を、稲妻のように緊張感が走り抜ける。
「向かってきよる! 例の奴か!」
「船を狙ってくるぞ! エンジン全開! 奴は逃げるもんは追わんっちゅう話じゃ!」
 その指示は、的確だった。素早くもあった。指示を終えた船長は、すぐさま無線を取る。
「港か! 奴が出よった! 船を全て……」
 そして、それでもなお、遅かった。
 それは、完全に不意を突いた奇襲であったが故に。
 船底に突き刺さった衝撃は、爆発する紫電と化し、指示を出していた船長らを肉片へと変える。
 水が盛り上がり、船は真ん中から二つにへし折れた。海は怒り狂ったかのようにうねり、飛び出した斬翼が、その残骸を切り裂く。
 響き渡るのは、爆音と咆哮。
 復讐の怒りに臓腑を焦がし、ガレオンは三度そこへ現れる。
 地獄の番犬を、この水底に引きずり込まんが為に。
 
●戦艦竜ガレオン
 その連絡に、ランディ・ファーヴニル(酔龍・e01118)は顔をあげた。
「……奴か?」
 望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)は真剣な面持ちで頷く。
「はい。ガイセリウムの迎撃準備を整えなければならないこの時期に、厄介なことですが……戦艦竜ガレオンの動向が判明いたしました。ここにいるメンバーで、早急に討伐部隊を編成。出撃いたします」
 彼女の差し出した資料写真には、古風な帆船を模した戦艦竜。
 名はガレオン。
 知らぬ者のために、小夜は一から解説する。
「戦艦竜は城ヶ島南海の守護を任務としていた竜種です。体長は10メートルほどで、戦艦のように装甲や砲塔を纏っています。城ヶ島制圧戦では、彼らのせいで南岸からの上陸を断念せざるを得なかった強敵です」
 搦め手からの奇襲によって本拠を潰された戦艦竜たちは、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の調査により、相模湾を根城に漁船などを襲う被害を出している。
「自由自在に海を渡る彼らを大作戦で補足する事は不可能です。出現を感知し次第、少人数による奇襲部隊を繰り出して襲撃と撤退を繰り返す波状攻撃作戦が実行中です」
 戦艦竜の特徴は、強大な戦闘力と膨大な体力。そしてそれに代わり、ダメージを自力回復出来ないという点だ。
「故に拠点を失い、補給・整備を断たれた今こそ、戦艦竜を討つ機なのです。これを逃すわけにはいきません」
 今回、真鶴岬沖の海域の安全を確かめに出た漁協のクルーザーが、ガレオンに沈められる予知が出たと言う。
「戦艦竜のため、相模湾の漁業は現在、壊滅状態です。安全確認に出た船さえ沈められるのでは、調査さえまともに出来ません。無駄な犠牲を払わぬよう、すでに今回の活動は中止する旨を連絡をしてありますので、皆さんはクルーザーですぐに現地に向かってください。代わりに皆さんがガレオンと鉢合わせするはずです」
 
「……奴の現状は?」
 ランディが問い、報告書を読んでいた面々が、顔をあげる。
「緒戦、完全な奇襲の形で四割。第二戦、調査重視の陣形で二割五分を削りました。現在、残り体力は三割五分。撃沈するとすれば、今しかありません」
「戦艦竜は自分からは逃げねえが……さすがに、ここでもう一戦してこっちが撤退しちまえば、次は勝ち目はねえと気付く。情勢が安定するまで隠れちまうかもしれない、ってことか」
「はい。撤退を選択できる状況ではありません。今回は、決戦となります」
 小夜が頷く。
「敵グラビティは三つ。詳細は資料をご覧ください。主砲の強力さが攻略のネックとなっておりましたが、ランディさんらの活躍で、『理力を素に繰り出される、斬撃の性質を持った遠距離単独攻撃』とわかりました」
 つまり、斬撃耐性の防具で対策を試みれば、戦闘不能になっても高確率で重傷は避け得る。体力のあるディフェンダーなら、耐えきることも可能だろう。理力耐性の防具を用いて、避けに徹するのも手だ。
「それに伴い、ポジションも判明いたしました。大方の予想通り、クラッシャーです。まあ、あの攻撃力ですからね」
 ただ、今回は注意点があるという。
「予知では、組合の船は奇襲を受けました。奴は警戒心が増しているようです。皆さんにはクルーザーを一隻手配してありますが、奴は領域内に入ってきた船舶全てに先手を打つ腹積もりでしょう。すでに向こうが待ち構えている状況にこちらが飛び込むわけですから、奇襲を避けるのは困難です」
 つまり、どこかの列が不意打ちを被ってからの開戦となる。
「先に海に潜っても、察知されてしまうでしょう。ケルベロスが乗っている限り船を優先的に攻撃してくるので、特定の列に攻勢を誘導するなどして、対策をあらかじめ立てておくと良いかもしれません」
 
「ガレオンは情勢に呼応しているわけではありませんが……奴を放置しては首都東京を守る上で、後顧の憂いを残します。戦艦竜ガレオンとの長い闘いに、終止符を打ちましょう」
 出撃準備を、お願い申し上げます。
 小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
加賀・マキナ(竜になった少女・e00837)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)
ナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)
御門・愛華(落とし子・e03827)
エフイー・ゼノ(闇と光を両断せし機人・e08092)
佐藤・弘樹(閃光の復讐者・e13754)
旋風寺・真(嵐を呼ぶゲーム小僧・e16599)

■リプレイ

●決戦へ
 朝靄の中を、一艘のクルーザーが進んでいく。
 船首に立つ竜人はその肩にしがみつく青いボクスドラゴン、スーの顎を軽く撫で、呟いた。
「さて、最後の仕上げじゃな。気合入れていかんとのぉ!」
 そう言うナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)の言葉を聞く者は、実は船の中にはいない。
「ナギサトさん、こんな装備まで用意してくださって……ありがたいのだけど、お金は大丈夫なんでしょうか」
 水中スクーターでクルーザーを追随しているのは太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)。いくさに臨むに金に糸目をつけぬ、ということだろうが、それにしても大奮発と言えるだろう。しかしおかげで、船を追いながらも自由に動くことができる。
「……そろそろ戦闘区域に突入しているはずです。作戦通りに」
 周囲を警戒しつつ仲間に合図を出すのは、御門・愛華(落とし子・e03827)。
 頷くのはエフイー・ゼノ(闇と光を両断せし機人・e08092)。
(「戦艦竜……様々な戦場で暴れまわっているようだが、ここで一旦の終止符を打たせてもらうぞ」)
 彼らが臨むは、戦艦竜。最強の誉れ高い、ドラゴンの一角。
(「全く、こいつ等を巻き込みたくは無かったが……こうなった以上は仕方ねェな」)
 腹の中で呟いたのはランディ・ファーヴニル(酔龍・e01118)。戦艦竜ガレオンの主砲をその身に受け、生き延びている唯一の男は、後方を進む千枝と旋風寺・真(嵐を呼ぶゲーム小僧・e16599)に檄を飛ばした。ランディにとって、この二人は旧知の仲なのだ。
「良いか、お前ら、俺より先に倒れるンじゃねェぞ。ンで、戦勝祝いするぞ!」
 力強く頷く千枝に対し、真は無邪気に返す。
「ガレオンって僕のスーパーロボット『勇者装甲ダイガメレオン』とちょっと名前が被っているんだよ。なんとしてもここで落とさないとね!」
 だが、その本心に揺らぎはない。口にはしないものの、ランディのことをとっつぁんと慕う少年は、全力で仲間を援護するつもりだ。
 これから始まる東京防衛戦を前に、後顧の憂いを残すわけにはいかない。
 加賀・マキナ(竜になった少女・e00837)と、佐藤・弘樹(閃光の復讐者・e13754)も、この戦艦竜との邂逅は二度目となる。
(「そろそろ誰かがとどめを刺さないといけない……」)
 マキナは、場合によっては相手と差し違えてでも、ここで決着をつける覚悟でいる。敗北を喫することがあるならば、仲間たちの代わりに身を投げうってでも、と。
 まだ暗い海の中には、何も見えない。それでもケルベロスたちは不穏な気配を微かに感じ取った。
 弘樹が、ツイン・バスターライフルを握る指に力を籠める。
「前回の宣言通り……決戦だな」
 明らかな殺気に、海の上ではナギサトにしがみついていたスーが唸り声を発する。
「……来たか」
 老いた剣士はそう呟き、水面が輝いた瞬間、迷いなく船首から身を躍らせた。
 刹那、水面より飛び出した副砲の砲弾の群れが、紫電と共に炸裂する。
 捻じ曲がる金属の悲鳴と共に、クルーザーがへし折れる。
 戦艦竜ガレオンとの、最後の闘いが、始まった。

●序盤
 舌打ちが、一つ。
「……身に着けるものはまだしも、さすがに機械はもたんか」
 ナギサトは水中スクーターが破損したのを確認し、それを外す。身に走る激痛と痺れ。だが老剣士もその従者も、まだ倒れない。
 すぐさま飛び出すのは、千枝と真。
「旋風寺さん、回復は私が行います。前衛を……!」
「了解! 僕の競泳水着はスーパーロボット型……行くぞ! 武装召喚・ダイガメレオン見参! 紺碧の装甲よ、悪を遮る壁となれ!」
 優先すべきは、前衛に魔術的守護を付与すること。予知通りならば、次に来るのは斬翼。そして恐らく、人数の多い前衛を狙ってくる。
 雄叫びと共に、少年の体が装甲に覆われていく。全身を換装したレプリカントのような機人と化し、碧玉のような輝きを発する。
「ガメレオンフィールド……展開!」
 加護が前衛を覆った直後、水面に突っ込んでくるのは、幽霊船を思わせる巨体。予想通りに前衛に斬翼で打ちかかる。
 エフイーを庇って斬翼を引き受けたのは、愛華。加護と防具が、彼女の細い肢体を護り抜く。
「大丈夫。計画通り、私は自分の仕事をするだけ。エフイーさんも、お願い」
「ああ。さすがの火力だが、負けられん……ここで終止符を打つ! 弘樹! マキナ! 続いてくれ!」
 頷く仲間たちを背後に、エフイーが剣を抜く。まだ無事であったスクーターを最大に回転させ、エフイーは巨竜の胸元に飛び込んだ。
「全を破断せし、乾坤一擲之一撃也!」
 荒神の断罪剣が巨竜の外殻を強引に穿ち、弘樹のバスタービーム、マキナの真紅の魔槍がその後を追う。
 ガレオンは雄叫びをあげて、身を翻す。一撃の重さから、即座にこの三人を危険分子と見て取ったようだ。
 ルーンディバイドを放ちながら、ランディが弘樹に言う。
「俺たちが十人程度の小勢だってのは、二度の闘いで知ってるはずだが……それでも、無人でないと知ればクルーザーを狙った。こいつは逆から考えれば……」
「……逃げる足を断ったつもり、だろうな。見ればわかる。奴も、ここで決戦の腹積もりだ。全力で来るぞ!」
 もはや、逃がしはせぬ。命を賭けても、この海原をお前たちの屍で彩ってみせる。
 妄執とも言えるほどのその決意を、ガレオンは天に吼え放った。

●切り札、破れて
「強固な破りには一点の力。基本じゃな」
 千枝のヒールを受け、ナギサトの雷迅突が閃く。彼はガレオンの攻守を崩すのが役目。
「だが、俺とスーだけでは、しばし掛かる……頼むぞ」
 サーヴァント使いは、呪いを与える力が分割されてしまう。共に闘うならば、最終的に一人より多くの呪いを穿つのは確かだが、その弱点は初動の遅さにある。
 ガレオンの力が万全である序盤を、どう凌ぐか。互いに、ここをどう動くかに勝負がかかっている。敵もまた、万全な内に、こちらの作戦の中核を潰さなければならないのだ。
 ガレオンの瞳は、以前、己の額を穿った槍と、その射手とを捉えている。
 ……お前か。小娘。
 一瞬の視線の交錯。
 巨大な目が、歪む。
 狙いは、定まったのだ。
「……みんなは攻撃を続けて! ボクが引きつける!」
「加賀さん! でも、副砲だったら……!」
「次は主砲で来る! 必ず、ボクを狙う!」
 千枝の言葉を振り切り、マキナが前に泳ぎ出る。その手の内には、再び、真紅の魔槍を紡いで。
 理屈はある。クラッシャーは二人。ディフェンダー二人がその護衛。万全なうちにスナイパーを一撃で排除しておけば、あとは前衛を列攻撃で磨り潰しながら、状況に応じた対処をすればよいだけになる。
 だが、マキナにはそれ以上の確信があった。
「覚えてるんだろ。ボクを。この槍を。前と同じ。この槍からは、逃さない! 例えボクを倒したとしても……!」
 ガレオンの口元に、炎が凝縮する。
 マキナの放った紅い閃光が、その瞳を穿つ。左目を潰され、絶叫と共に、戦艦竜はのけ反る。
 だがガレオンにはまだ、なんの阻害もない。理力の高いマキナを、主砲で狙えるのは今しかない。だからこそ、ここだけは譲れないのだ。
 戦艦竜は首を戻し、爆音を轟かせた。爆炎がマキナの体を捉え、弾き飛ばす。
「……!」
 身を翻しかけた真を、千枝が止める。
「待って! 旋風寺さんは、前線にもう一度加護を! 私は、御門さんをヒールします……!」
 一瞬、反論仕掛けた真も、すぐに意図を察する。マキナはスナイパー。あれを喰らえば、戦闘不能は免れない。だが、逆から言えば。
「主砲は如何に強力でも、落とせるのは一人だけ。今なら、前線を持ち直せます。時間さえ掛ければ、阻害も効いてきます」
「わかった。作ってくれた時間を、無駄には出来ないもんね……!」
 頷いた真が、再びガメレオンフィールドを展開する。
「猫神様、おいでください……! 私たちに、力を貸してっ!」
 放たれる二九九式神霊弾に、前衛が立ち直っていく。
 海に浮かびながら、マキナの口の端に笑みが浮かぶ。
 この僅かな時間の差が、後に勝負の明暗を分ける。

 スーの青い属性が弘樹の体にインストールされ、その傷と微かな痺れを取り除いている。
 閃くのは、ナギサトの遠当て。
「こいつでどうかな。お前さんの砲弾とは違う、文字通りの『斬』程距離内……じゃよ」
 確実に、ガレオンには呪いが穿たれつつある。
 しかしその時、副砲が中衛に滑り込んだ。紫電が閃き、高い悲鳴と共に、スーの姿が融けて消える。
 愛すべき小竜の消失に、ナギサトの額にしわが寄るのにも構わず、ガレオンは前衛に向き直った。
 主砲の態勢だ。その目が、笑むように歪んで、視線を絡め合う。
「やる気、か……」
 呟いたのは、ランディ。
 ガレオンは自分が主砲を生き延びた男であることを、知っている。早急に落としたい敵の中で唯一、多少の阻害があっても、今ならばまだ当てる自信があるのだ。奴は、序盤のうちに、潰せる限りの戦力を潰すつもりだ。
 それならば、受けて立つ。
 意図を察した千枝のマインドシールドを身に受け、雄叫びと共に自己回復し、ランディは自ら火線に滑り込んだ。
「止むねェとはいえ、コイツはトラウマ食らうたびに思い出しそうだぜ……来い!」
 その日、二度目の爆音。
 ランディの大柄な体が、その一撃を受けて水に沈む。
 ガレオンの目が、嗤った。
「とっつぁん!」
 だがその目は、次の瞬間に、驚愕に歪む。
「今回はそう簡単に……抜かれるつもりはねェんだよ!」
 ランディが、その胸に巨大な火傷の痕を作りながらも、浮上して見せる。
 ディフェンダーとしての力。斬撃耐性。千枝、真、そして自身の魔術的守護……。
 主砲の一撃が獲物を仕留め損なった、初めての瞬間だった。

●轟沈
 闘いは、続いている。
「まだだ! 続いていくぞ!」
 弘樹のガトリング連射が、強大であったはずの装甲を剥いでいく。
 ガレオンは明らかに動揺していた。
 切り札である主砲を、耐えきられた。というだけではない。その後も、全力で敵の前線を切り崩しているはずが、崩れきらないのだ。
 真と千枝の気力溜めが前衛に飛び交い、主砲に当たったはずのランディさえも、倒れない。
「時は掛かった。が、もう頃合いじゃな。マキナは、役目を果たした」
 ナギサトの脇差が、さっと空を切れば、吹き出す血しぶきと共に呪いが広がっていく。
 命中と防御への魔術的阻害はじわじわと己を蝕み、エフイーに向けて放った主砲は空を切る。
「鈍ったな! 外すとは、失策も良いところだ!」
 反対に、打ち込まれるのはスターゲイザー。
 斬翼で前衛を切り裂いても、愛華が弘樹を庇い、あまつさえヒルコの大鎌を翻す。
「倒した……なんて思った? 余所見は駄目だよ」
 細い肢体に不釣り合いな鎌が閃き、その巨体に十字の切り傷を刻む。
 防具による対策をされている。完璧なまでに。
 追い詰められながら、竜の脳裏に思案がよぎる。
 マキナを倒した時、ガレオンは己が優位を確信した。だがあの小娘の狙いは、身を賭けて仲間に立て直しと阻害魔術を付与するだけの時を与えることにあったのだ。
 それでもなお、戦艦竜に撤退の二文字はない。血に塗れながら、雄叫びと共に、副砲をまき散らす。それは前衛に滑り込み、遂にランディが力尽きる。
 最後に、その前に立ちふさがったのは、弘樹。
「もうお前に勝ち目はない。ここまでだ。とどめを、刺す!」
 迫る弘樹に身を引かず、最後の瞬間、竜が命を賭けたのは、その斬翼。
「いけない……! 刺し違えるつもりです! 佐藤さん、一度逃げて!」
 千枝が叫ぶが、もう間に合わない。行くしかないと覚悟を決めたその時、激突に割り込むのは、小柄な人影。
「……!」
「絶対に食い止める。進んで……!」
 止める間もない。愛華の体を切り裂いた斬撃の波動が、弘樹から逸れる。そして遂に、その胸元に、ツイン・バスターライフルが突き刺さった。
「貴様が沈めて来た者達と……同じ最後を辿れ!」
 引き金が、落ちる。

 その胸元に輝く、閃光。
 朝日の光を背に響くのは、断末魔の咆哮。
 外殻を形成していたガレオン船の形骸が、ひび割れて崩れ落ちる。甲羅のようにそれを纏っていた水龍が、ゆっくりと水面に倒れ伏していく。
 固唾を呑んで見守る面々の眼前。遂に戦艦竜は水柱を上げて暗い海の底へと沈んでいった。

●水底へ……
「……やった! やったぜ!」
 一瞬の間の後、真が叫ぶ。
「旋風寺さん! すぐに、戦闘不能者の救助を!」
 千枝の言葉に頷きながら、真は手分けをしてヒールに向かう。前線が激戦を耐え抜いた結果、メディック二人は無傷。水中スクーターも健在だ。
「勝った、ね。みんなが頼りになる仲間で、良かった」
「加賀さんが囮になってくれたおかげです。信頼してくれて、ありがとう」
 一方では、真がランディと愛華を治療している。
「大丈夫、情報通り……私は、折れたりしないよ」
「俺も重傷じゃねえ。前回の方が酷かったぜ」
 重傷者は、なし。全員に、安堵が広がっていく。
 ふと周囲を見れば、浮かんでいたガレオン船の外殻が主を追うように水底へと沈んでいく。
 フジツボが纏わりついた大砲のような部位を、そっと受け止めたのは、弘樹。
「お前が存在した証。お前を打ち倒した証……もらって行くぞ」
 同じように、外殻を持ちあげたのは、真。ガレオン船の船体だったのだろう外殻は、よく見ると薄く輝く鱗に覆われている。
「これ……僕の装甲強化に使えるかな!」
 己の力の飛躍を思い描き、真が喜びの声をあげる。
 その隣で、水底へ沈んだ竜へ、ランディはそっと声を掛けた。
「お前さん、強かったぜ。……前回は何もやらんと言ったが……ありゃ撤回……引導代わりだ。持っていけ」
 ランディが、小さなワインをそっと水底へ沈める。
 迎えに来るように、近づいてきたのは、エフイーとナギサト。
「この勝利は、今まで戦ってきた皆の力があってこそだ……感謝しなければ、な」
 エフイーがいう間に、千枝とマキナも合流して。
「さて、スーは地上に戻ってから、呼び戻すとしよう。千枝と真のスクーターが無事のようじゃな、押して行ってくれるか。これにて……凱旋じゃな」
 寄り集まる八人を祝福するように、真鶴の海に朝日が煌めいていた。

 戦艦竜ガレオン、討伐作戦。
 決戦における戦闘不能者は、サーヴァントを含め四名。
 重傷者なし。
 合計にして二十人のケルベロスによる、三度に渡る波状攻撃を以って、ついに戦艦竜ガレオンは轟沈した。
 後、報告書には、そう記載された……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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