不沈の武装竜亀

作者:雷紋寺音弥

●不沈艦攻略指令
「お集まりいただき、ありがとうございます。相模湾にて、再び戦艦竜『ドラゴン・タートル』の動きが確認されました」
 二度に渡る攻撃で、敵はそれなりに傷を負っている。攻勢に出るチャンスは今であると、集まったケルベロス達にセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は告げた。
「相次ぐ戦いで、敵の体力は全体の五割五分程度まで減っています。前回、出撃して下さった方々が、想定以上のダメージを負わせることに成功したようです」
 だが、それでも一度の戦いで与えられた損傷は、敵の総体力の三割五分程度。弱点である魔法攻撃を主体として攻めた結果だが、前衛の負担が重すぎる陣形で挑んでしまったことに加え、後半戦での火力低下も相俟って、継戦能力の低さを突かれ逃げ切られてしまった。
「敵の使用する技は、背部に背負った無数の砲塔による一斉攻撃や、口から吐き出す猛毒のブレス攻撃ですね。後は、身体を回転させることで、巨大な尾による薙ぎ払いを仕掛けて来ることもあるようです」
 前後左右、隙間なく敷き詰められた砲塔に死角はなく、強固な外殻に守られた身体は、生半可な打撃や斬撃では通らない。俊敏性や攻撃の命中率こそ低いものの、最も人数の多い隊列を優先して狙うことで、火力の無駄を少しでも減らすような戦い方を好んで使用する。
 迂闊に同じ隊列に並べば、予期せぬ集中砲火を受ける可能性もあるとセリカは告げた。しかし、考えようによっては、それを利用して敵の攻撃目標を誘導できるとも。
「敵は守備を重視した陣形を取っているようですが、それでも元の攻撃力が高いため、当たればかなりの損害を被る可能性があります。いっそのこと、守るよりも避けることに重点を置いて戦った方が、長時間戦うことができるかもしれません」
 もっとも、持久戦は敵の得意とする戦い方でもあるので、チマチマと体力を削るような戦い方では、また逃げ切られてしまうだろう。ただでさえ固い相手だ。一撃の瞬間火力を高める工夫も施さなければ、あの堅牢な甲殻を貫いて本体にダメージを与えることは難しい。
「敵の確認された海域までは、前回同様にクルーザーで向かっていただきます。ただし、敵は水中戦を仕掛けてくる上に、水中でも能力が低下することはありませんので、ご注意ください」
 ドラゴン・タートルは海上の光に釣られる性質があるようだが、外敵を見つけた場合は、そちらの排除を優先してくる。よほど、船を敵に印象付けることをしなければ、沈められる心配はないと思うが。
「ダメージを負っているとはいえ、敵は未だ健在です。前回に引き続き、今回も全体の三割程のダメージを与えることを、最低限の目標としたいところです」
 追い込んでいるとはいえ、相手は未だ体力に半分近くの余裕を残している。上手く行けば撃破できるかもしれないが、撤退のタイミングを間違えた場合、その高い火力によって重傷を負わされる危険性も高い。
「撃破の機会を逃してはならない……。その気持ちは解りますが、焦りは禁物です。どうか、まずは無事に任務を遂行することを、第一に考えるようにしてください」
 どれだけ戦果を上げたところで、死んでしまっては意味がない。まずは、次に繋げられるように、しっかり相手を弱らせることが重要だと。
 最後にそれだけ念を押し、セリカはケルベロス達に依頼した。


参加者
レナード・ストラトス(誇りを捨てたスナイパー・e00895)
椎名・来栖(貴方が為の輪舞曲・e01160)
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
ヤクト・ラオフォーゲル(銀毛金眼の焔天狼・e02399)
サンダル・アドビス(輝くみんなの目印・e02698)
蔵人・双麻(地球人の鹵獲術士・e04134)
プルミエ・ミセルコルディア(フォーマットバグ・e18010)

■リプレイ

●武装竜亀、三度!
 冬の風が吹き荒ぶ深夜。相模湾の海上に漂うのは、ケルベロス達を乗せた一艘のクルーザー。
「ステージの準備は整ったデェス!」
 甲板に立てた簡易式のミラーボール。それをライトで照らしながら、椎名・来栖(貴方が為の輪舞曲・e01160)はアイドルさながらに歌を紡いだ。
 他の者達が次々に海へと飛び込む中、彼女はコンサートの如く歌って踊る。その光と歌声で、戦艦竜を誘き寄せるために。だが……。
「……えっ?」
 瞬間、甲板がぐらりと揺れたかと思うと、来栖を乗せた船が轟音と共に吹き飛んだ。
 砕け散る船体。宙へと投げ出されたのは来栖だけでなく、ぎりぎりまで船に残っていた蔵人・双麻(地球人の鹵獲術士・e04134)も同じ。しかも、それだけではない。
「……っ! どうやら、私を覚えていてくれたようね、ドラゴン・タートル……」
 散乱した船の残骸の隙間から、モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)が顔を見せた。次いで、その背中に巨大な砲塔を備えた戦艦竜が、海面を割るようにして姿を現した。
「無事か、三人とも!」
 突然の奇襲に、アクセル・レインウォール(洸剣・e00746)が思わず叫ぶ。こちらの接近を感付かれたのか。しかし、それでも何故?
「少し、見立てが甘かったようですね。囮は囮で、別に用意した方が正解でしたか……」
 冷静に現状を分析しつつ、プルミエ・ミセルコルディア(フォーマットバグ・e18010)は次の一手を考えつつ口にした。彼女の言う通り、歌を歌って誘き寄せることや、仲間の一人を先行させて潜らせることは、今回に限って言えば悪手でしかなかった。
 大声で歌を歌っていれば、深海より敵が接近する微かな音など掻き消えてしまう。それを補うためにモモが水中深く潜ったのだろうが、ドラゴン・タートルは光に誘われる性質を持つと同時に、己の縄張りを侵した者へも容赦はしない。
 こちらが敵を視認できる距離なら、当然のことながら相手もこちらを視認できる。浮上と共にモモの姿を発見し、敵は即座に捕食から排除へと思考を切り替え砲撃して来たのだ。
 以前の戦いと比べ、人の乗った船を直接囮に使うのは、あまりにも無謀が過ぎる行動だった。しかし、ここで嘆いていても始まらない。今は一刻も早く、敵を迎撃する体勢を立て直さねば。
「一月ぶりだね、ドラゴン・タートル。そっちは覚えてないかもしれないけど、お前みたいな大きな毒蛇を見逃すなって、僕の孔雀の血がうずくんだよ!」
 翼を広げるサンダル・アドビス(輝くみんなの目印・e02698)。だが、戦艦竜は答えない。代わりに向けてくるのは、縄張りを侵した者に対する激しい敵意。
「まあ、データのために一つ気合いを入れようか。金儲けのヒントになるかもしれんしね」
「御託はいらねぇ。潜水から一直線にブチのめす」
 双麻が杖を構え、ヤクト・ラオフォーゲル(銀毛金眼の焔天狼・e02399)がすかさず海中に潜る。そして、レナード・ストラトス(誇りを捨てたスナイパー・e00895)が静かに狙撃場所へと移動したところで、巨大な竜亀と戦いが三度幕を開けた。

●矛砕き
 最初の綻びは、開戦早々に訪れた。
 敵の戦艦竜が狙うのは、最も人数の多い隊列。現状では前衛がそれに当たり、敵は強烈な尾の一撃と、猛毒のブレスで執拗に彼らを狙っていた。
「ま、拙いデス! このままじゃ、直ぐに突破されてしまうデェス!」
 その身を毒に蝕まれ、早くも来栖が危機に陥っていた。やはり、前衛が狙われる陣形はディフェンダーの負担が大きい。自分も攻撃に晒されながら同列の仲間まで何度も庇えるほど、戦艦竜の攻撃は甘くない。
 唯一の幸いは、こちらも攻撃に特化していたことで、敵にも痛手を与えられていたことだろうか。だが、ここで深追いするのは禁物だ。来栖が倒れて人数が減れば、次は無防備な後衛が狙われる。
「このままでは不利ですね。……陣形の入れ替えを」
 頃合いだと悟り、プルミエは仲間達へと告げた。一手を潰しても生き残る。全員が隊列を入れ替えたところで、再び戦艦竜の尾が襲い掛かるが。
「っと! そう簡単に、捕まるかっての!」
 叩き付けられた尾を紙一重で避けるヤクト。この戦いのために、防具から装飾品の類まで厳選して調整したのだ。極端な能力に特化した相手は、きちんとした対処を行えば、それだけ攻撃も見切り易い。
 身体を捻り、そのまま一直線に肉薄すると、音速を超える拳で装甲諸共に殴り飛ばした。衝撃が巨体を揺らしたところで、続けてモモがリボルバーを抜き、静かに構える。
「……OKよ。この位置からが本番ね」
 瞑目し、呼吸を整え、狙うは敵の砲塔部分。数は多いが、それでも破壊することができれば、少しでも敵の火力を減らせるかもしれないと。
 跳躍する弾丸が、幾度となく戦艦竜の周りを飛翔して装甲を抉る。やはり、魔術的な攻撃には弱いのか、普通に弾を撃つよりも通りが良い。
「強敵相手は血が沸くものだね。これは知識欲と並んで、抗いがたいな」
 中衛に下がり、双麻もまた落ち着きを取り戻していた。そのまま敵の装甲の一点に意識を集中させ、念じると同時に爆破する。甲殻が弾け飛び、砲塔がひしゃげ、先程よりも確実に敵の戦闘力を奪っていた。
「遠距離でしか戦えないと思うなよ?」
 そんな中、不敵な笑みを浮かべ、レナードが空を駆ける。否、この場合は泳ぐと言った方が正しいだろうか。
 装甲の亀裂を抜け目なく見つけ、そこへ強引に銃口を射し込んで弾を撃ち込んだ。内部から肉を裂かれ、戦艦竜が苦悶の雄叫びを上げる。つかず、離れずの一撃離脱。それを見たサンダルもまた、敵の口を狙って強烈な光子砲を浴びせるが。
「さぁて、全力で行くよ! これを受けきれるかな?」
 敵の技を無力化するために、ブレスの発射口である口を狙ったのだろう。しかし、狙いとは裏腹に、砕け散ったのは数本の牙のみ。
 敵の武器を破壊して丸裸にする。そんなことが可能ならば、今までの戦いで戦艦竜はとっくに武装解除していたはずだ。攻撃に割り込んで妨害しようにも、そもそも自分を狙っている攻撃でなければ、正面から捉えて相殺することも不可能である。
 加えて、ブレスの元の発生器官は口の中よりも更に奥、恐らくはその先にある敵の体内。正確な場所さえも不明な器官を、外部から狙い撃って破壊するのもまた不可能に近い。
 戦場では、絶えず状況が変化する。自分の手番を潰してまで、相手の手番に合わせて攻撃するような余裕はなかった。ケルベロス達が自らの意思で考え、行動しているのと同じく、敵もまた明確な意思を持って動き回る存在なのだから。
「小細工が通用する相手ではありませんね。ならば……ここからは、全力で行かせてもらいますよ」
 荒れ狂う戦艦竜の下方から、プルミエが光陰の如く迫り、蹴り上げる。ただの打撃ではない。電光石火の早業で急所を貫く、降魔の力を宿した一撃だ。
 水中に鈍い音が走り、戦艦竜の身体が海面を割って浮上した。自らの意思ではなく、プルミエの攻撃を受けて海上へ叩き出されたのだ。
「なるほど、確かに強大な敵だが……気持ちでは負ける気はさらさら無いな」
 両手に長剣を構え、アクセルも続く。真正面から無策で挑めば苦戦は必至。しかし、先のプルミエの一撃を見て確信した。
「俺はまだ未熟だが、俺の使える手練とこの命を以って貴様と相対しよう」
 瞬間、重なる星辰の力が天地を揺るがし、超重力の斬撃が戦艦竜の甲殻に十字の傷を刻み込んだ。どれだけ堅牢な装甲に守られようと、魔力を帯びた刃であれば、十分に敵の防御を貫ける。
「歌は力をくれる一つの魔法なんデス! もう、邪魔はさせないデスヨ!」
 来栖が手にしたスイッチを押し、後方で巻き起こる色とりどりの大爆発。彼女の歌に合わせて炸裂する爆風が、強大な敵と戦う者達へ更なる力を与えて行った。

●それは無我の如く
 再び綻びが訪れたのは、陣形を入れ替えて数分後のことだった。
 前衛を狙わせる戦い方では、やはりディフェンダーの負担が重すぎる。毒を除去するだけならば来栖一人でも間に合うが、傷まで治すとなれば話は別だ。
 ヒールの量が、決定的に不足していた。ともすれば、複数人を纏めて回復させるしかない来栖よりも、フォローに入っている双麻の方が仲間達を支えている状態だった。
「これ以上、手数が減った状態で無理をするのは危険ですね。……次の陣形へ移行しましょう」
 プルミエが、再び隊列の変更を仲間達に促す。強敵相手に手番を潰しての移動は悪手だが、どちらにせよ、このままではジリ貧である。
 再び隊列を変更するケルベロス達。だが、先程とは異なり、今度は攻撃手以外を中衛に集める形での移動。
 モモとサンダルの気弾が不可解な軌跡を描いて戦艦竜へと食らいつき、レナードの放った無数の魔弾は確実に敵の鱗を削ぎ落して行く。それらの援護射撃を真正面から食らってもなお、砲撃で応戦する戦艦竜だったが、しかし砲弾は明後日の方向へ飛んで行くだけだった。
「あ……は、外れた……デスカ?」
 来栖から安堵の溜息が零れる。もっとも、これは決して偶然などではなく、ケルベロス達の行動によって引き起こされた必然である。
 攻撃を防ぐのではなく、撹乱に特化して避けることを優先する。高火力、低命中率で、狙う隊列を誘導しやすい相手だからこそ、有効に働く策なのだ。
「分の悪い賭けは嫌いじゃないけど、負けっ放しは趣味じゃないのよね」
 モモがにやりと笑った。放たれた銃弾が幾度も跳ね返り戦艦竜を襲うが、それだけでは終わらなかった。
「今までの借りを返してやるぜ! テメェの臓腑。その全て、貪り喰らう餓狼の顎門に沈め!」
 両腕に燃え盛る焔の狼頭を纏ったヤクトが仕掛けるのと同時に、他の者達も一斉に攻撃を開始したのである。
「開けよ世界。過去未来の因果を超えて、この一撃を与える為に……」
 因果を捻じ曲げるレナードの銃弾が敵の体内に猛毒のウイルスを送り込み、双麻の放ったファミリアシュートの一撃が、更に被害を拡大させて行く。
「お前の口は大きくて狙い易いからね。今度こそお前を沈めてあげるよ!!」
 サンダルの放った魔法の矢が敵の顔面を直撃し、その隙に側方へと回り込んだプルミエが、再び敵を蹴り飛ばした。
「こ、これはもしかして、勝てるかもしれないデス?」
「いや、最期まで油断は禁物だ。俺達が倒れれば、他の者に危険が及ぶことを忘れない方がいい」
 自らの傷を癒しつつも、来栖を諭すアクセル。そう、彼の言う通り、中衛は囮なのだ。それならば、自分は自分で可能な限りの支援をしようと、来栖もまた覚悟を決めたようだった。
「終りをデリバリーデース! 着払いでお願いするデスよ!」
 魔術式を組み込んだ特殊弾を発射し、それを敵の上空で爆発させる。刹那、戦艦竜の巨体をも上回る物体が出現し、一気に落下して押し潰した。
 跳ね上る水飛沫。崩れ落ちる謎の物体の中から戦艦竜が姿を見せるが、先程までの勢いは既にない。咆哮と共に猛毒のブレスを吐き出すものの、それらは全てケルベロス達の横を掠めただけで終わってしまった。
 流れに抗い、耐えるのではなく、流れの中に道を見つける。死中に活を見出す戦い方は、さながら無我の境地に辿り着いた者の如く。
「効率の良い思考は逆手に取り易いですね。皆さん、一気に押し切りましょう」
 訪れたチャンスは逃さない。プルミエの言葉に他の者達も頷いて、再び戦艦竜に怒涛の攻撃を浴びせ掛けた。

●チェック・メイト
 攻防一体の戦術から撹乱戦法に切り替えたことで、戦況はケルベロス達が優勢となっていた。
 巨大な堤もアリの空けた穴から崩壊し、巨像も毒蜂の群れに倒されることがある。浮沈艦とて、それは同じ。絶大な威力を持つ火砲であろうと、当たらなければ脅威にはならない。
 だが、それでも戦艦竜とて、このまま黙って駆逐されるつもりはないようだった。
「……っ! しまった!?」
「アウチッ! ど、どうして、当たるデス……か……」
 尾の一撃による薙ぎ払いが、双麻と来栖を纏めて沈めた。前回の戦いから学んでいたヤクトと違い、二人は回避特化の調整が少々甘かったのだ。
「これは拙いね。僕が前に出るから、援護はよろしくね」
 慌ててサンダルが二人の穴を埋めるべく移動するが、それでも焼け石に水だ。アクセルが自らの傷を癒し続ける中、モモとレナード、そしてプルミエの3人による一斉攻撃を受けてもなお、戦艦竜はしぶとく反撃を繰り返すことを止めなかった。
「そっちの方がスリルありそうだけど……さすがに、冗談を言っている場合じゃないみたいね」
 中衛の者達が狙われ続ける光景を目にして、モモがリボルバーを片手にしたまま言った。敵は満身創痍だが、それはこちらも同じこと。執拗な隊列変更により回復のタイミングを奪われてしまい、こちらは序盤から蓄積したダメージから完全に復帰しきれていない。
 初戦の傷が、ここに来て大きく響いていた。回復を捨て、攻撃と撹乱に特化していることも相俟って、今さら立て直そうにも手遅れだった。
「くっ!? みんな、ごめん……」
 度重なる攻撃の応酬に、ついにサンダルも捕捉され海中に没した。交代したとはいえ、あくまで繋ぎ。狙撃に特化した彼のスタイルは、そもそも囮役に不向きである。
「いよいよ、覚悟を決める時かしら? でも……勝負はまだ、着いてないわよね?」
「ふざけやがって! 図体のでかいトカゲもどきが、調子に乗るんじゃねぇよ!」
 モモの気弾が敵の砲塔を圧し折ったところで、ヤクトが敵の前鰭に掴みかかった。光纏いし聖なる左手、漆黒纏いし闇の右手。それら二つの力を合わせ、強引に鰭を引き千切る。
「ギィィィヤァァァッ!!」
 沈まぬ艦が、無敵の竜が、ついに痛みから叫び声を上げた。間髪入れず、レナードも敵の傷口に零距離射撃を叩き込む。思わず海中に逃げ出そうとする戦艦竜だったが、そこに待っていたのはプルミエだった。
「あなたは私です。……私は……『あなた』ですよ」
 そっと片手で触れながら、彼女は問う。その度に、敵の内部が徐々に物言わぬ水晶と化し、やがてそれは表層にまで変化を与え。
「8人じゃないんですよ……。だから、貴方独りに『私達』が負けるわけがない!!」
 ここに来るまで、多くの者達が挑んで来た。その想いを、覚悟を、決して無駄にするわけにはいかないと彼女は叫んだ。誰か一人の力ではない。ここまで道を繋げてくれた、全ての者達による勝利だと。
 次の瞬間、砲塔の先端まで完全に水晶化させられたところで、戦艦竜は木っ端微塵に砕け散った。
 毒々しい紫色に光る無数の星が、深夜の相模湾に降り注ぐ。勝利を祝福するかのようにして舞い降りる月明かりを受け、竜亀の欠片は静かに輝きながら波間を漂い続けていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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