戦艦蒼竜のニ巨砲 第弐戦

作者:缶屋


「今日は大漁だなぁ!」
 網にかかった大漁の魚を見、上機嫌に笑い、漁の成果を誇らしく思う漁師たち。
 しかし、
「あれは……何じゃ?」
 そんな中、一人の漁師の笑みが凍り付き、震えた指で水平線をさす。
 その様子はあまりにも異常で、笑いあっていた漁師たちも指さされた方角へ顔を向け、目を凝らす。
「船? 違う戦艦……あれは……ドラゴンじゃ!?」
 一人の漁師が声を上げると、漁師たちは慌てて、漁船を動かすが時すでに遅かった。
 蒼い戦艦竜の翠眼は漁船を捉え、二つの巨大な砲門はすでに漁船に狙いをすましている。
 大気が震え、轟音が辺りに響く。
 直撃を受けた漁船は沈む、漁師を、捕まえた魚たちを道連れにして。
 

「相手は手負いの戦艦竜だ」
 夜殻・睡(記憶を糧に咲く氷刃・e14891)は、眠たそうな眼差しを、集まったケルベロスたちに向け、告げる。
「おいおい、オレのセリフを取るなよな!」
 睡の隣に立つアイス・クーデタ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0135)が割って入る。
「じゃあ、こっからオレが説明するぜ」
 戦艦竜は、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、その体には戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を持っている。
「相手はかなり強いんだ。けど、ダメージを自己回復できないから、前回での戦いのダメージがまだ癒えてないぜ!」
 ただ、回復はできないが、耐久力が高く今回の戦闘で撃破するのは、かなり難しいだろう。
「でも、ダメージを蓄積させれば必ず倒せる。オレはケルベロスたちが力を合わせれば、決して勝てない相手じゃないって、信じてるぜ!」

「じゃあ、今の戦艦竜について説明するぜ」
 アイスは、前回の戦いで判明した情報をもとに説明を始める。
「相手は蒼い戦艦竜。前回の戦いで二~三割ほどのダメージを負っているぜ」
 何も情報がない状態で、これだけの戦果。やっぱりケルベロスたちは凄いぜ、とアイスが前回戦ったケルベロスたちを称賛する。
 戦艦蒼竜は八基の砲塔を持っていたが、前回の戦いで二基が潰され今は六基、ニ巨砲に関しては小さなヒビが入っている。
 バットステータスなどは引き継いでいない。
「敏捷系の攻撃が苦手みたいだぜ。で、判明した戦艦蒼竜の攻撃は」
 戦艦蒼竜の攻撃は、自慢のニ巨砲による砲撃だけでなく、砲塔による斉射、雷のブレスがあると判明した。
 また威力は高いが、攻撃の精度は低く命中率は高くない。
「怠惰な性格なのか、戦闘中はあんまり動くこともなかったみたいだぜ」
 前回の戦闘では、背で戦うケルベロス振り落とそうとした程度で、海に潜ったりはしなかった。
 ただ今回も同じかはわからないぜ。と、アイスは意味深なセリフを残す。
「攻撃は主に近づいてきた者を片っ端、逆に離れて行く者は追わないぜ」
 ケルベロスたちが撤退を始めれば、戦艦蒼竜が追うことはない。
「ああ、辺りの海に船は出てないから、避難とかの心配はないぜ!」

「前回に続いて、過酷な戦いになることが予想されるぜ。とっても危険な任務だ、けど絶対に生きて戻ってきてくれよな!」


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
ケルン・ヒルデガント(目からビーム・e02427)
森部・桂(情報収集端末・e05340)
空国・モカ(パッシングブリーズ・e07709)
夜殻・睡(記憶を糧に咲く氷刃・e14891)
ロッティ・エーベルバッハ(流浪の夢想家・e16587)

■リプレイ


 よく晴れた空、燦々と輝く太陽の光が反射し、海面はキラキラと宝石のように輝いて見える。
 鼻につくのは潮の匂い、波も穏やかでクルージングには絶好の日和だ。
 そんな海を切り裂く、クルーザーが二艘。
 前方のクルーザーの甲板には、六名のケルベロスの姿がある。
「静かな海だろう……だが、奴は突然仕掛けてくる。常に周囲を警戒してくれ」
 声を上げたのは、空国・モカ(パッシングブリーズ・e07709)。眼鏡の奥の瞳は、地平線のその先を見つめている。
「……見つけた。……来たぞ、東だ!」
 夜殻・睡(記憶を糧に咲く氷刃・e14891)の大声に、ケルベロスたちは東に顔を向ける。
 そして見えてくる戦艦蒼竜の姿。まだ距離があるというのに、その姿はあまりにも巨大だ。
「なかなか威容だね、見ると聞くとでは大違い」
 岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)は、思っていたよりも巨大な姿の戦艦蒼竜に、少し驚き口を開くと、
「話には聞いていましたけど、実物を見ると大きいですね」
 ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)も感嘆にも似た声を上げる。
「何と美しい姿だ」
 ロッティ・エーベルバッハ(流浪の夢想家・e16587)は、先に見える強敵の姿に言葉を漏らす。
「手負いの獣は危険というが、チャンスでもある。ここで止めを刺してやりたい所だが」
 小さな紫の炎がベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705)の口から漏れる。小さな炎は彼が落ち着いている証だ。
 前方のクルーザーに乗るケルベロスたちが、戦艦竜の姿を確認した頃、遅れて後方のクルーザーに乗るケルベロスたちもその姿に気付いていた。
「まさか生身で戦艦の相手をすることになるとはのー……」
 巨大な戦艦蒼竜の姿に胸を躍らせるケルン・ヒルデガント(目からビーム・e02427)。その顔はどこか楽しそうに見える。
「敵を分析すれば、この身が滅びても次なる者が戦える」
 そう口にし、森部・桂(情報収集端末・e05340)は船首から戦艦蒼竜が情報にない行動をとらないか、その一挙手一投足まで観察する。
 戦艦蒼竜の翠眼が、ケルベロスたちの乗るクルーザーを捉える。
 ゆっくりと動く二巨砲。狙いを定め、二巨砲から高速の砲弾が、耳を劈く轟音とともに放たれる。
 そして、炎上するクルーザー。ここに戦艦蒼竜との第弐戦の幕が開くのだった。


 いち早く砲撃に気付いたのは、ベリザリオ。
「ドローンたちよ、皆を護れ!」
 ベリザリオが召喚したドローンが、同船するケルベロスたちを守護し護りを固める。
「直撃する、飛び降りろ!」
 モカの怒声とともに、ケルベロスたちがクルーザーを捨て海へと飛び込む。
 ケルベロスたちが海に飛び込んだ瞬間、砲弾がクルーザーに直撃。クルーザーは炎上し、ゆっくりと沈み始める。
「凄い破壊力なのじゃ……関心ばかりしておれんのじゃ。では、相手になろうなのじゃ」
 目の前で沈んだクルーザーから目を切り、ケルンが戦艦蒼竜を見据え、戦艦蒼竜の頭上に緑色の粘菌を招来させる。
 緑色の粘菌が戦艦蒼竜の顔にかかり、一瞬動きを止める戦艦蒼竜。
 その隙に海へ飛び込んだケルベロスたちが、必死で泳ぎ戦艦蒼竜に接敵する。しかし、動きが止まったのはほん一瞬、背の砲塔が泳ぐケルベロスたちに向けられ、火を噴く。
「私が誰も落とさせない!」
 桂が放ったケルベロスチェインが、海面に魔方陣を描き、砲塔により斉射を受けるケルベロスたちを守護、その傷を癒す。
 だが、二戦目。初戦とは違い、戦艦蒼竜はケルベロスたちの実力は十二分に把握している。背に乗せまいとする斉射はあまりに苛烈で、ケルベロスたちをもってしても容易に防ぐことが出来ない。
 しかし、一つの影が水中から飛び出す――睡だ。
 睡の顔には挑発するかのような微笑、そして左手に持たれた鞘が一閃する。
「……どうも。この間振りだな、戦艦蒼竜。……怒れ、叫べ、喚け、お前の敵はここに居る」
 鞘は戦艦蒼竜の喉元を捉え、感覚を麻痺させる。翠眼が睡の姿を捉え、斉射が止むと二巨砲がゆっくりと海面の睡を捉え、火を噴く。
 ――その瞬間、ケルベロスたちが駆けた。
「敵は一人じゃあないんだよ」
 背を駆けあがるロッティが視認不可能な斬撃で、戦艦蒼竜の脇腹を斬り裂きながら、背に登る。
 ロッティの斬撃に、陽動だと気づいた戦艦蒼竜は砲塔による斉射を再開し、砲塔の一つがロッティに向けられる。
「……遅い」
 ラインハルトが納刀状態の日本刀を、一瞬で抜刀し砲身を斬り落とすと、
「これで一つ終わりだね」
 響が獣化した拳を叩きつけるように振るい、砲塔の一つを破壊する。
「また会えて嬉しいぞ」
 斉射を縫うように、背中を駆けるモカはDNA侵蝕毒を生成した手裏剣で、砲塔を翻弄し、
「とにもかくにも、どのような敵なのかを知ることから始めぬとの!」
 高々と舞い上がったケルンが、ルーンアックスを力の限り振り下ろすのだった。


 戦艦蒼竜との戦いも中盤を迎えようとしていた。攻防は一進一退とはいえず、ケルベロスたちは綱渡りのような戦線を維持していた。
 戦艦蒼竜が誇る耐久力と攻撃力は非常に高く、ダメージを与えるも攻勢は衰えることをしらない。
 しかし、ケルベロスたちは違う。天災のように暴威を振るう、攻撃に耐え忍びながら戦闘を行っているのだ。誰か一人でも倒れれば、戦況が大きく戦艦蒼竜に傾くのは、火を見るよりも明らかだ。
 だが、ケルベロスたちは諦めない。
「道を拓け、果て無き荒野へと続く道を。行こう、レーヴァテイン」
 ロッティの背に炎を纏う光輪が現れ、爆発的な速さをロッティに与える。凄まじい速さで駆けるロッティに砲塔の斉射は追いつけず、炎を纏った右拳が戦艦蒼竜の砲塔に深々と突き刺さり、爆炎を巻き起こす。
 だが、砲塔はしぶとくも動き、狙いを定める。
 まだ態勢が整っていないロッティは斉射に晒される。膝を着き倒れそうになる、その時、目の前に狐耳の少女、響が割って入る。
「今、その傷を癒すよ」
 背中に斉射を受けながら、響はオーラを右手に集めるとロッティに渡し傷を癒す。
「蜂のように舞い、そして刺す」
 宙を舞うモカは空中で体を捻り、一回転すると砲塔の頭上から残像が見えるほど高速の蹴突を連続で放ち、響を襲う砲塔をスクラップに変える。
 一方、クルーザー上では傷ついたケルベロスに桂が回復を行っている。
「響、今治療を」
 桂は禁断の断章とされる章を詠唱し、響の脳細胞を活性化させ、常軌を逸した強化と回復をもたらす。
 彼女の回復が戦線の維持に大きな役割を担っているのは言うまでもない。
「戦艦蒼竜、ブレスは使わせないぞ」
 ベリザリオは甲板から高々と飛び上がると、戦艦蒼竜の横面を殴りつける。
 それはただの殴打ではない。自らの背に、雷のブレスを放とうとする戦艦蒼竜を牽制する一撃だ。そして、殴られた場所から網状の霊力が発生し、戦艦蒼竜の口を塞ぐ。
 しかし、それでも戦艦蒼竜は止められない。標的が変わる。
 甲板に降り立ったベルザリオは、クルーザーに狙いをつけた二巨砲を目に、響の前に躍り出る。
 轟音とともに放たれる砲弾。それはクルーザーごと二人を呑み込むように見えた。しかし、そうはならなかった。
「……あ、っぶね」
 砲弾がクルーザを襲う瞬間、戦艦蒼竜の背から飛び降りた睡が間に割って入ったのだ。
 薄れゆく意識の中、クルーザーの無事を確認にした睡は、そのまま意識を失うのだった。
「夕火の刻、粘滑なトーヴ。遥場にありて回儀い錘穿つ。さて、御伽噺の続きを語ろうかの!」
 幼き頃から記憶に残る御伽噺の世界を具現化し、一振りの剣を呼びだすケルン。剣はケルンに兎の如き速さを与える。
「刀で艦を斬るというのも、これこれで趣きのあるものかもしれぬの!!」
「目の前の敵を斬るだけです」
 背中を預け合うケルンとラインハルトは、自分たちに狙いを定める砲塔に目をやる。
 先に動いたのはケルン。
 速さで砲塔を翻弄し、次々と斬撃を与えていく。
「Don't get so cocky!」
 それとは逆にラインハルトは居合の態勢をとり、日本刀を抜き放つ。その斬撃は、一瞬遅れ、空間を飛ぶように自分を標的にしていた砲塔だけでなく、響を追尾していた砲塔をも斬り裂いた。
 そして、戦艦蒼竜との戦いは最終局面を迎えるのだった。


 ケルベロスたちにとって、回復役を兼ねていた睡が倒れたのはあまりに痛手だった。
 それにより戦況は一変し、回復の手が足りなくなったのは誰の目から見ても明らかだ。
 ただ、ケルベロスたちの攻撃も確かに効いている。戦闘当初は六基あった砲塔も、今では二基までその数を減らし、またその二基も無傷ではない。
 戦艦蒼竜は失った砲塔を補うかのように、雷ブレスを使う。そして、今もその口から稲光が漏れ、背中に乗るケルベロスたちを襲おうとしている。
 雷のブレスがケルベロスたちを襲い、ブレスの奔流に飲み込まれるラインハルト。ブレスには耐えたが、その体は痺れ動くことが出来ない。
「……くっ」
 ラインハルトの目に映る砲塔。避けることが出来ないのは、自分が一番わかっている。ここまでか。
「こう見えても狐は義理堅いのです。……なんて、ね」
 二カっと笑みを見せ、倒れる響。
 遅れて、クルーザーに乗る桂から回復が届き、体の痺れが消える。
 ラインハルトはオーラの剣を形成し、砲塔に向かい駆ける。砲塔も斉射により応えるが、倒れるよりも早く砲塔にマインドソードを突き立てるのだった。
 最後の砲塔はモカを追尾していた。だが、モカの動きは素早く捉えることが出来ない。
「そろそろ、追いかけっこは終わりだ」
 立ち止まったモカは氷結の螺旋を放ち、砲塔を凍らせると、
「これで最後だよ」
 それを待っていたかのようにロッティが、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放つ。
 これにより、戦艦蒼竜の背にあった砲塔は全て破壊されたのだった。
 しかし、戦闘は終わりではない。砲塔が潰されようと、まだ二巨砲がある。
 二巨砲の狙いはクルーザーだ。
 放たれる砲弾、クルーザーには避ける術はない。クルーザーから飛び立つベリザリオ。
 その身を挺して、砲弾を受けるつもりなのだ。
「クルーザーは私が沈めさせない!!」
 巨大なドラゴンのブレスを思わせる紫炎を吐き、砲弾を受け止めるベリザリオ。その決死の選択によりクルーザーは難を逃れる。
「皆よ、これ以上は全滅のリスクが高まる……悔しいが撤退じゃ」
 ケルンの声は背に乗るケルベロスたちに届き、ケルベロスたちは一様に納得したように頷く。
「そうだね。ここが退き時だな」
 背から飛び降りるロッティ。その先にはベリザリオの姿がある。
「ここまでのようだな」
 ロッティ同様、モカも背から飛び降り睡の許へと泳ぎ、クルーザーに引き上げる。
 ラインハルトは倒れた響を優しく抱きかかえ、クルーザーへと飛び移る。
 撤退を開始するケルベロスたち。だが、戦艦蒼竜はそれを許さなかった。今まで海に浸かっていた長く逞しい尾を、クルーザー目掛け振るったのである。
 しかし、桂とケルンがそれを許さなかった。
「紫電よ、我が敵を縫いとめよ!」
 紐のような電撃が戦艦蒼竜の身体に纏わり付き、その動きを妨害し戦艦蒼竜の動きを止める。
「肝を冷やしたのじゃ、大人しくせんかのぅ」
 ケルンが招来させた緑の粘菌が、戦艦蒼竜の顔を包む。
 そして、戦艦蒼竜の動きが止まったその隙に、ケルベロスたちはクルーザーのスロットルを全開にし、海域を離れるのだった。


 海域から脱したケルベロスたちは一息ついていた。
 倒れていた面々も目を覚まし、激しい戦闘だったというのに深刻なダメージを残した者は誰も居なかった。
 また最大の戦果は、砲塔を全て破壊したことだろう。
 しかも、それが引き金になってか、尾での攻撃も確認することができた。
 最大の戦果を挙げたというのに、ケルベロスたちの顔に笑みはない。
 それはこれからも続くであろう、戦艦蒼竜との激しい戦いを見据えてのことだろう。
 ただ、それは今日ではない。
 岸に着いたケルベロスたちは、戦艦蒼竜の居た海域に目をやり、各々帰路につくのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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