進撃するは紅きドラゴン

作者:のずみりん

 首都圏を離れた地方都市、その外れに立つ古びたビルが爆発した。
「な、なんだ、今の!?」
「爆発よ! 爆発!」
 まき散らされる破片と煙、火事かガス爆発かと遠巻きに見守る人々が憶測に騒ぐ。あのビルで一体何が起きたのか?
 人々が騒ぐなか、巻き上がる土煙の向こうに何かが赤く揺らめいた。
「なに、あれ……怪獣!?」
「ど、ドラゴンだぁーっ!」
 気づいた者が叫ぶと同時、溶岩流の如き火炎が辺りを薙ぎ払った。炎に包まれる人々、砕ける地面、街路樹が次々と松明のように燃えあがっていく。
「ガァァァ……!」
 野次馬ごと土煙を振り払ったドラゴンは十メートルはある巨体を重たげによじった。
 勢いを乗せ、振り回された尻尾が建物を次々と打ち砕いていく。
 今、この場に敵はない。デウスエクスであるドラゴンはグラビティ以外の力で傷つくことは決してないのだ。
 ドラゴンは殺戮する獲物を探し、町の中心へと進撃を開始した。

「たたた、大変っす! ドラゴンっすよ、ドラゴン!」
 ヘリオライダー、黒瀬・ダンテは緊迫した声でケルベロスたちに事件を伝える。
 長崎県の佐世保市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたデウスエクス、ドラゴンが復活して暴れだすという予知があった。
 復活したばかりのドラゴンは、グラビティ・チェインが枯渇している為か、飛行する事ができず、人が多い街の中心へと向かいながら殺戮を繰り広げようとしている。
「ドラゴンの目的は人間を殺し、グラビティ・チェインを略奪して力を取り戻す事に違いないっす」
 ダンテは言う。力を取り戻し飛行可能となったドラゴンは、廃墟と化した町を後に飛び去っていってしまう。そうなる前に弱体化しているドラゴンを倒してほしいと。
「デウスエクスであるドラゴンを倒せるのは、ケルベロスの皆さんだけっす。どうか、惨劇を止めてくださいっす!」
 出現するデウスエクス、ドラゴンは紅い鱗に包まれた一体。一体だが十メートルはある巨体の強敵だ。
 振るわれる手足の爪は呪的防御ごと敵を貫き、振るわれる尻尾は近づく相手をまとめてなぎ払い、足止めしてくる。
 そして敵を焼き払う高熱火炎のブレス。ブレスは射程も範囲もあり、どの距離で戦うにしても警戒が必要だろう。
「ドラゴンが出現する市街までは、自分が皆さんをお連れするので心配無用っす。ドラゴンが現れた直後には攻撃を仕掛けられるかと」
 また市民には避難勧告を出すし、町は破壊されてもヒールで治せるからとダンテは状況を説明する。
「ある程度は町が破壊されても大丈夫っす、確実にドラゴンを撃破してください!」
「ドラゴンは強大で恐ろしい相手です。ですが、ソフィアたちには力があります」
 ソフィア・グランペールは淡々と、しかし決意のこもった声でいう。
 ケルベロスのグラビティならドラゴンを倒すことができる。皆を守ることができる。
「守りましょう。ソフィアと皆さんで、街の人々を」


参加者
芦牙也・紅羽(白面金毛二尾の狐・e00260)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ロードライト・レギオン(金輪奈落・e00880)
江田島・武蔵(地球人の刀剣士・e01739)
星野・優輝(新米提督の喫茶店マスター・e02256)
ダモス・テレーラ(シャドウエルフの刀剣士・e04157)
武器・商人(闇之雲・e04806)
夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)

■リプレイ

●いざ、戦場へ
 予知された惨劇の地点へ、ケルベロスたちはヘリオンから次々と飛び降りる。グラビティ以外から被害を受けないケルベロスにとって、この程度の落下は朝飯前だ。
 九人が着地するのに少し遅れ、ビルが爆発を開始する。
「初仕事か、少し緊張するな」
 着地した星野・優輝(新米提督の喫茶店マスター・e02256)は誠実そうな顔に抑えた声で呟く。
「なぁに、いまさら怖気づいたの? 面白いじゃない」
「別に、そういうわけじゃあない。ただ、少し考えてただけ」
 対照的な芦牙也・紅羽(白面金毛二尾の狐・e00260)の自信をみなぎらせた挑発に、少しむっと優輝は返す。
 封印されたデウスエクスは何の為に、誰が復活させたのだろうか。もちろん考えるだけで答えの出る問題ではないし、調べるためにも彼は戦いを恐れない。
「その意気ですな、お二人さん。では、張り切っていきましょうか」
「……来ます」
 そんな二人の様子を江田島・武蔵(地球人の刀剣士・e01739)は頼もしそうに笑い、コートから二刀の斬霊刀を抜く。
 ソフィアの警告と共に赤く揺らめく影へとケルベロスたちは駆けた。敵は巨大な強敵、何はともあれ先手をとっておきたいところだ。
「こんな町中に現れるなんざ。やっこさん、よっぽど遊び相手がほしかったみたいだな」
「それを許すわけにはいきませんね。ドラゴンを見たいという野次馬な方が来る前に、避難勧告を手伝ってきましょう。ソフィアさんについてきますよ!」
 避難勧告が出てなおどよめく市民を横目に、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)はふとそんな感想をもらす。
 だが心配は無用のようだ。どよめく市民には援護に来てくれたツォーナたちが、避難勧告の手伝いへと回ってくれている。
 人々に声と手振りで避難を促し、『キープアウトテープ』で人々を遠ざけていく彼女らの活躍で後方の心配はまったくない。
 頼もしい支援に助けられ、憂いなくケルベロスたちはドラゴンと対峙した。
「一気に接近して奇襲出来ればよさそうじゃが、瓦礫程度では挑発にもならんかの……殺生に荒れ狂うドラゴンは見るに堪えん」
「……いきましょうか」
 感情を抑えきれず漏らす夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)と、読めない表情の声のロードライト・レギオン(金輪奈落・e00880)。正反対な二人が戦いの口火を切った。
「たやすくは当てられんじゃろうがっ!」
 バトルオーラを帯びた煌羅の蹴り、魂を食らう降魔の一撃がドラゴンの向こう脛を強打する。
 更にロードライトが放つ火球、フレイムグリードが続けざまに後脚の鱗を続けざまに叩き、跳ね返された余波が煙と粉じんを吹き飛ばす。
「グゥゥゥ……!」
「此処までデカいのと戦り合うのは初めてだけど……私の初陣に相応しいわ!」
 全貌を露にしたドラゴンが道路へと踏み出してくる。その姿に紅羽は鼓舞するように叫んだ。街路樹や標識と並ぶと、十メートルの巨体は更に恐ろしく圧巻にも見えた。
「これはこれは……でかいトカゲですねぇ」
 だが、側面へと向かったダモス・テレーラ(シャドウエルフの刀剣士・e04157)はその背中へと好戦性をむき出しに笑う。
 やはり情報通り空を飛べる翼はない。それはドラゴンのグラビティ・チェインが枯渇している証。町を守るため、倒せるのは今しかない。

●ドラゴンアタック
「ヒヒヒ……竜の復活、かぁ。竜は宝を溜め込むと聴くけれども……」
 ヒヒヒ、と再び笑う武器・商人(闇之雲・e04806)、彼の前髪で目元を隠した表情は読めない。ただ確かなのは商人もケルベロスの一人であるということ。
「さて、キミはこちらに来てはいけないよ。お下がり」
 その背中に黒ずんだ緑光の翼が展開され、放たれる光弾『暗夜行路(ノー・エントリー)』。
 ドラゴンを幻惑する光の反射が、商人の髪をまばらに飾る紫陽花の花を怪しく照らした。
「総員、第一種戦闘配置。ミッション・スタート!」
 優輝の号令と共に杖から雷が飛んだ。出鼻を挫かれたドラゴンに痛撃を見舞わんと、優輝の声を合図にケルベロスたちは突っ込んでいく。
「ガァッ!」
 痛烈な初撃にケルベロスたちを認識しつつも、ドラゴンはすぐに我を取り戻すと道路を踏み砕き前進を開始した。包囲を避けたか、あるいは足を止めるまでもないという傲慢か。
「下からの攻めは効果薄、かの……こうも瓦礫を増やされると、この格好でよかったわ、と!」
 先の一撃も決定打には程遠そうだとワークギアをはたく煌羅を、強烈な尾撃が襲う。
 豪快に舗装ごとケルベロスを蹴散らし、振りぬいた後に戻ってくる肉の鞭。だがその蹂躙を弾丸の嵐が中断させた。
「夜刀さんのお手伝いです。御飯の恩なのです」
「サポートするね。タフそうな相手だし」
 駆けつけたメレディス・アリンガム(レプリカントの鎧装騎兵・e10096)たちの援護だ。中断された攻撃に、すかさず紅羽がルナティックヒールの癒しを飛ばす。
「負けてるんじゃないわよ! あの無駄にでかい首、いただいてやんなさい!」
「そう言われましても、なかなか出目が回らねぇもんでさ!」
 紅羽の檄に応えながら鬼人は身体を敵の進路から外す。地獄と化した腕に斬霊刀を握り、ドラゴンと正面切って戦う者たちの脇、足場と敵の死角を彼は探った。
「なかなかのモノだな、だがまだ足りん!」
 振り下ろされる爪を斬霊刀で十字受けし、武蔵は叫んだ。裂帛の気合いに道路が割れ、弾かれた爪が歩道橋をかすめる。
 支柱をばっさり裂かれて傾く橋。倒れるそれを強引にくぐり、ロードライトの火球が飛んだ。思わぬ方向から炸裂した攻撃にドラゴンが呻く。
「いいですねぇ、その力づくな攻め! 死線を越えようとする姿、素晴らしい」
 橋の影からダモスが飛んだ。崩れた陸橋を坂道にかけ上り、駆け抜けざまに太いドラゴンの首筋を一閃する。鱗よりも赤く血が舞った。
「見えたぜ、勝ちの目って奴が!」
 よろめく巨体に鬼人が仕掛けた。回り込んだ彼は瓦礫を足場へ斜めに振り込むようにドラゴンの脚へと斬霊刀を打ち込んだ。
「ガァァァァッ!?」
 加速をのせた達人の一撃、上下からの痛撃にドラゴンがたまらず膝をつく。だが漏れる声は苦痛だけではない。
「あれは……まずい、回避!」
 薬液の雨を降らせながら優輝が叫ぶ。それをも飲み込み、紅蓮の炎が吐き出された。

●紅蓮に立ち向かえ
 炎に焼かれた武蔵めがけ、更に追撃の爪が迫る。受けが間に合わない、やられる!
 身を固くしたその時、紅竜の爪が軌道をそれた。よく見ればそこには半透明の『御業』、商人の禁縄禁縛呪が動きを封じてくれていた。
「すまん、助かった!」
「ヒヒヒ、彼のお蔭でねェ」
 直撃の間際に展開された、龍の鱗を連想させる赤く力強い光!
『天人所戴仰 龍神咸恭敬!』
 それは煌羅の技、『龍鱗護光(リュウリンゴコウ)』の光だ。彼の朗々たる声に輝きは更に力強く、仲間たちを包んでいく。
 優輝のメディカルレインのお蔭もあり、ケルベロスらの被害は周囲の惨状から随分と抑えられた。必殺の予想を覆されたドラゴンが焼け跡に咆哮し、突進してくる。
 ならば、ここからは反撃開始だ。
「やられっぱなしは性にあわないのよ!」
 焼けた肌の不快に紅羽は伸びた狐尾を膨らませ、ルナティックヒールを仲間達へと投げかける。湧き上がる凶暴性をそのままにダモスは叫び、大鎌を振りかぶる。
「私をここまで傷つけるとは……いいですね!これでこそ楽しめる戦いというもの!」
 投げつけられた大鎌がドラゴンに死をもたらさんと首筋を裂く。苦痛交じりの火炎が反撃と襲い掛かるが、それがダモスを燃え上がらせることはない。
「……大丈夫です。星が、あなたをお守りします」
 彼の立つ地面に浮かぶのはソフィアのゾディアックソードが描いた守護結界だ。容易く炎を振り払い、ダモスは更に声を昂ぶらせていく。
 ドラゴンの巨体は今やむき出しの地面に縛り上げられている。立ち向かうケルベロスたちだけではない、巌・凱(地球人のブレイズキャリバー・e06380)や白城・優生(猛虎焔舞・e10394)たち支援者たちの放ったグラビティもが十重二重にとその身を厳重に抑え込んでいるのだ。
「ガ、ァァァ……!」
「さぁ、どうしました!? 私をもっと極限まで追い込むのです!」
 ドラゴンの苦痛の叫びをダモスの狂気を帯びた声が飲み込む。両者の形勢は今や逆転しつつあった。

●ドラゴンバスター
 吹きかけられる炎を払いのけ、優輝は手にした杖を腰に差す。
「勝機ありだ、押し切るぞ!」
「承知」
 右手に氷、左手に炎、相反する魔力を正面に束ね弓矢のように引き絞る。その姿にロードライトは頷き、鉄塊の如き巨大剣を両手に構えた。
 踵を縁石へとつけると、横殴りに飛んでくるドラゴンの尾を受け止め、タイミングを合わせて押し込んだ身体がきしみ、縁石が砕けていく。
 悲鳴を上げる我が身も省みず、ロードライトは鉄塊剣を押し込み十字に振りぬいた。
「ギャォォォォ!?」
 切り裂かれた傷は『地獄』と化す。尻尾に走る激痛にドラゴンがのたうちまわり、体をひねる。見えた!
「……叡智と追撃の矢!」
 優輝の手から光の矢が飛んだ。一直線に放たれたそれはドラゴンの首筋、仲間たちが何度となく打ち込んできた傷口を正確にとらえ、抉りぬく。
「止めを!」
 もはや最後の抵抗と暴れまわるドラゴンに彼は叫ぶ。
「応!」
「援護します」
 勢いよく答え、武蔵は走る。降り注ぐ火炎をソフィアの守護結界で交わし、彼は一気に肉体へと取り付いた。
「おっと、邪魔はさせませんよ。ヒヒヒ」
 振り落とそうとするドラゴンの腕を商人の操る『御業』が掴み上げる。長くはもたないが、死角に回り込むには十分。
 武蔵が駆け上れば、そこには逆方向からとりついた鬼人の姿があった。
「考えは同じ、みてぇだな?」
「では、同時でいくか!」
 笑顔で頷き、二人の剣士は三振りの斬霊刀を振りかぶる。
 武蔵が放つ電光石火の突きにあわせ、鬼人の斬霊刀が舞った。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ!」
 切り上げ、薙ぎ、逆袈裟、全てを刹那に繰り出す多段斬りから必殺の突き。装甲を失った斬撃の中心点を斬霊刀が打ち抜いた。
「グ、オォォォ……」
「これで終わりだ。あばよ!」
 息が抜けるような断末魔の悲鳴に別れを告げ、武蔵は一気に刀を抜く。倒れるドラゴンの肉体から二人はひらりと飛び降りた。

 破壊された街、倒されたドラゴンの死体に布をかぶせた煌羅は失われた命へと弔いを唱える。
 ヒールグラビティで街並は直せても、失われた生命は取り戻せない。何もかも救う、というのはやはり難しいのだ
「……とはいえ、よくやれたというべきかの」
 ふっと息を吐き、彼は弱い笑顔でいう。ドラゴンへ立ち向かった彼ら以外の支援者、十人近い仲間たちのお蔭で人命への被害は極限に抑えられた。
 優生をはじめ多くの仲間たちは避難誘導の後も市街の修復、怪我人の手当てをソフィアと共に手伝ってくれている。
 仲間たちの元へと足を向けながら、武蔵は感慨深く強敵を振り返った。
「いや~倒せたね。しかしこれからはこんなのを相手にしていくんだな。しかもこれで下っ端ときたもんだ」
 これが師の言っていた実戦。予想外の連続であったが、彼はすくむことなく笑ってのける。
「これからは退屈しないで済みそうだ」
「えぇ、次はもっと楽しみたい所です」
 意味の異なる笑いを含み、ダモスが隣に並ぶ。そんな二人に鬼人の声が聞こえてくる。
「戦闘も終わった事だし、ちょいと飯を食いに……その前にめんどくさいが、片付けようぜ。散らかりっぱだと、なんだか、後味悪いしよ!」
「あぁ、今いくよ!」
 仲間たちの声に二人は復興の現場へと歩き出した。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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