目覚めし竜の咆哮

作者:駒小田

 とある都市の郊外で、それは突然に現れた。
 突如として出現した巨大な生物、それは紅の鱗を身に纏い、四肢と翼を生やし、鋭い爪牙を持っていた。口元には蓄えられた焔が揺らめいている。
「竜……? ドラゴンか?」
 ある者が呆けたように呟いた。
 ドラゴンが動き出す。その鋭い双眸は都市の中心へと向けられていた。
「に、逃げろ!」
 誰かが声を上げる。それを合図とし、茫然としていた人々が身を跳ねさせるように走り出した。
 だがスケールが違う。ドラゴンの1歩は人の全力疾走を容易く跨いで行く。
 ある者は踏み潰され、またある者は尾に払われた。
 ビルなどの建造物は障害に値しない。ドラゴンの背後には破砕の道筋が出来ていた、森にできる獣道の様に。
 
「ドラゴンの復活っす!」
 ヘリオライダー、黒瀬・ダンテは開口一番にそう叫んだ。はっ、とした彼は咳払いをひとつ。
「封印されていたはずのドラゴンが復活して都市を破壊し尽くす、そんな予知があったっす」
 幸か不幸か、復活したばかりのドラゴンはグラビティ・チェインが枯渇しているらしく、その影響なのか飛ぶ事ができないという事だ。
 最も、そのおかげでグラビティ・チェインの略奪のために都市が狙われているのだが。
「皆さんには、ドラゴンが力を取り戻す前に倒して欲しいっす」
 完全に復活を遂げたドラゴンは飛び去り、また別の都市を襲うかもしれない。
「それでは作戦の概要を説明するっす」
 まず始めに、と前置きしてダンテが状況の説明に入る。
「奴が出現したら避難勧告を出すっす。あと、街は破壊されたとしても後で再生が可能っす」
 つまり、街への被害や一般人への配慮はあまり必要が無いという事だ。
 さらにダンテは続ける。
「今回現れるドラゴンは炎のブレスを吐いてくるっす。これ以外にも鋭い爪や長い尻尾にも注意が必要っす」
 広範囲に及ぶ攻撃方法が多いのが特徴らしい。
「最後に戦場についてっすけど、そこそこ高いビルが多い市街戦になるっす」
 ドラゴンは巨体だ。上手く地形を利用する必要があるかもしれない。
「弱体化しているとはいえドラゴンっす……けど、皆さんなら必ず倒せると信じてるっすよ!」
 ダンテが期待に満ちた眼差しをケルベロス達に向けているのを見てユリア・フランチェスカは、あらあら、と呟いた。
「期待されてるわね、私達。みんなとなら、きっとうまくいくと思うわ」


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
ベルベルベルベルベ・ルベルベルベルベル(九つの鐘に想いを込めて・e00337)
ジーナ・カミーザ(星のリコルド・e01123)
エリオット・シャルトリュー(ディスティラリーマウザー・e01740)
倉瀬・空(自在銃爪・e02373)
ナユタ・カーマイン(オラトリオの刀剣士・e02808)
東雲・杏子(自由を渇望する少女・e04077)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)

■リプレイ

●空の踊り場にて
 ケルベロス達は空にいた。眼下に広がるのはビルの乱立、今は警報が響いている。
「市街地でのドラゴン退治、実に絵になる光景だと思わないか」
 倉瀬・空(自在銃爪・e02373)が誰に問うでもなく呟いた。
 彼が見据える先、都市郊外にドラゴンが見える。その周囲に人影は無いようだ。
 ヘリの奥、東雲・杏子(自由を渇望する少女・e04077)は敵となるドラゴンから視線を逸らさない。
「これからあの子を滅ぼすのね……」
 そう漏らす声は果たして誰かに届いたのか。
「よっし、そろそろ降りっぞ」
 地図を確認していた陶・流石(撃鉄歯・e00001)が開いていた扉から身を乗り出した。
「オレいっちばーん!」
 扉の近くにいた空と流石の間をすり抜けて、エリオット・シャルトリュー(ディスティラリーマウザー・e01740)が外へ飛び出す。
 それを皮切りに他のケルベロス達もヘリオンから空中へと身を投げる。
 降下中、下からの風圧を受けながら螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が叫んだ。
「先行して奴を誘導する」
 翼を広げ風を掴む。彼はやや降下気味の軌道描き目標へと加速していく。
「ドラゴンの誘導、私も同道させてもらうわ」
 言ってジーナ・カミーザ(星のリコルド・e01123)が続いた。
「ユリアちゃんは逃げ遅れた人がいないか確認をお願いしてもいい?」
 ベルベルベルベルベ・ルベルベルベルベル(九つの鐘に想いを込めて・e00337)がユリア・フランチェスカ(オラトリオのウィッチドクター・en0009)に問う。
「分かったわ。合流するまで頑張ってね」
 頷き承諾した彼女が軌道を変え離れていった。
 それを見送り、ベルベルベルベルベもドラゴンへと進路を変える。
「こっちは誘導が来るまで現地の検分と位置の確保か」
 危なげなく着地したナユタ・カーマイン(オラトリオの刀剣士・e02808)はセイヤ達を見送りながら呟いた。
「っても、あんま時間はねぇぞ」
 流石は周囲を見渡している。先程見ていた地図と地形を照合しているらしい。
「誘導もピンポイントという訳にはいかないだろうしね」
 同意する杏子もビルの位置を見ている様子だ。
「各自、優位なポジションを確保、交戦範囲にドラゴンが入り次第戦闘開始といった所か」
 空が作戦のまとめと確認を入れ、他のケルベロス達も同意の頷きを寄越す。
 そして彼らも行動を開始する。自らを有利とする場を確保するために。
 
●復活した脅威
 視界の先、ドラゴンが周囲を見回している。人を探しているのだろうか。
「そろそろかな……それじゃ、皆に守護の福音を!」
 ベルベルベルベルベが身を回し鐘の音を響かせる。鎖の魔方陣が展開し、ケルベロス達に守りの加護を与えた。
「よっしゃ、頑張ろうぜ!」
 真っ先に仕掛けたのはエリオットだ。
 手にした杖から雷を迸らせドラゴンに向けて打ち付ける。
 攻撃に反応したドラゴンは、口腔貯えた炎を牙の隙間から漏らしていた。
「鬼さんこちらー!」
 敵の巨体に物怖じせず挑発する彼は、笑っていた。
「高度を下げろ! まとめて焼かれるぞ!」
 セイヤの怒号が飛ぶ。彼は建物の間に身を滑り込ませる。
 ドラゴンは頭を水平方向にスイング、同時に口内に貯えていた炎を吐き出した。
 周囲が赤の奔流に呑まれ。ケルベロス達も巻き込まれた。
「攻撃は最小限として誘導に専念した方がよさそうだわ」
 ジーナはセイヤと同じように高度を落とし、難を逃れたようだ。
 仲間の被害を確認すべく視線を空へと仰ぐ。
 ベルベルベルベルベが癒しの力を行使しているのが見えた。無事のようだ。
「こっちだ!」
 セイヤが奇襲を仕掛ける。
 建物の間から飛び出した彼はドラゴンの腹部目掛けて蹴りを放つ。
 当たる、が手応えが無い。
 チッ、と舌打ちし、蹴りの反動を利用し離脱を試みた。
「誘導地点に向かうぞ」
 言って彼は踵を返し飛翔する。
「援護するわ」
 ジーナはセイヤの離脱を援護するべく砲台を展開した。
「目標補足……行って!」
 主砲の一斉発射、無数の砲弾がドラゴンの鱗を穿つ。
 ドラゴンの咆哮が響いた。その音は痛みよりも敵意を感じさせる物だ。
 今こそ竜は敵を敵として認識し追撃に入る。
「きたぜ……きたきたー!」
 エリオットは迫るドラゴンにテンション高めだ。
 あとは仲間達が待つ誘導地点に向かうだけだ。
「上手く惹きつけられたみたいだね」
 ベルベルベルベルベは目標地点を見据える中、その背後からは破砕の音が近づいていた。
「深追いは禁物ね。一撃離脱を基本に……急ぐわよ!」
 ジーナの掛け声と共に、全員が離脱軌道に入る。
 ドラゴンは巨体だが、その図体に似合わず速い。
 進路上の建造物などものともしない。ドラゴンは追撃の速度を上げていく。

●咆哮が大地を揺する
 空はビルの屋上からドラゴンの動向を観測していた。
 建物を粉砕し巻き上がる土煙が見える。時折、炎が噴き出しているのが確認できた。
 破壊の道筋は正しくこちらに向かっている。
「そろそろだな」
 そう呟き、周囲に展開する仲間達に合図を送った。
 すでにセイヤ達を視認できる距離まで迫っている。
「仕掛けるぜ!」
 最初に動いたのは流石だ。よく見ると彼女の身体には呪紋が浮かび上がっている。
 牽制にと気弾を一発ぶちかました。
 突然の乱入者にドラゴンは一瞬気を取られたような反応を示す。
 杏子はその隙を見逃さない。
「不死という呪縛に囚われた哀れな存在……アタシが解放してやる」
 放たれた手裏剣は螺旋の軌道を描き、ドラゴンの腕に突き刺さる。
「こいつも貰っていけ!」
 ビルの屋上から飛び出したナユタは剣を抜く。すれ違いざまに放たれた剣閃は腕の傷を正確に切り裂いた。
 ドラゴンは咆哮し、腕を大きく振り回す。
「下がってな!」
 振り抜かれた軌道上にいたジーナを突き飛ばし、流石が割って入る。
 竜の爪撃を受け止め、しかし弾かれる。同時に身体を覆っていた呪紋が砕けた。
 舌打ち一つ、彼女は空中で姿勢を制御し着地を決める。
「誘導ご苦労だった、治療に専念するといい。少しの間こちらで何とかしよう」
 ドラゴンの一撃で巻き上げられた瓦礫の雨の中、空には行くべき道が見えていた。
 崩れる建物の破片を足場とし、彼はドラゴンへと迫る。
「お前が意地と命を貫くのは――」
 ついに空はドラゴンへと肉薄した。
「私の号砲を迎え、なお立ってからだ!」
 零距離から放たれた弾丸がドラゴンを穿つ。
 苦悶の咆哮を上げ、ドラゴンが大きくかぶりを振った。
「追撃、行きます!」
 ドラゴンの隙を狙ってイビナが高速で突っ込んでくる。
 雷を帯びた神速の刺突撃、突き込みから瞬時に離脱へ転じた。
「耐久力に優れた相手であっても、何度も積み重ねていけば……!」
 言の通り、ドラゴンは未だ健在だ。
 その背に影がある。その人物は掌に込めた螺旋の力をドラゴンに叩き込む。
「アタシ達の邪魔をするなら容赦はしないッ!」
 杏子が放った力は硬い鱗を素通りし、体内へと伝達する。
 螺旋の力が内部で炸裂、鱗の隙間から飛沫が噴き出した。
「その守り崩させてもらう!」
 再びビルから飛び出したナユタは渾身の突き下ろしを敢行する。
 深く突き刺さった剣を強引に捻り、更に突き込んだ。
「爆ぜろ……!」
 剣から雷撃がほとばしり、見れば鱗が幾枚か弾け飛んでいった。
 雷撃と内部破壊を同時に背に受け、ドラゴンが苦痛に身を捩る。
 ドラゴンは離脱しようとする2人に対して動きを作った。
 捻った身体を戻す反動を利用した尾による薙ぎ払いだ。
「チィッ!」
 回避を試みるが位置が悪い、近接していたため尾の範囲から逃れるには速度が足りなかった。
 巻き込まれた建物の瓦礫と共に2人は吹き飛ばされてしまう。
「癒しの福音を……!」
 戦場に鐘の音が響いた。
 極光の光がナユタと杏子を包み込み、傷を癒していく。
 ベルベルベルベルベ達が復帰したようだ。ユリアの姿もある。
「さぁさあこっからだぜ! 仕切り直しといこうじゃねぇか!」
 エリオットが高らかに宣戦を告げた。

●竜を狩る
「回復はわたし達に任せていいからね」
 ベルベルベルベルベの言葉にユリアが頷いた。
「えぇ、後ろで支えるわ。だから皆は心置きなく前に、ね?」
 2人が皆を送り出す。
 真っ先にしかけたのはエリオットだ。
「よっしゃ、いくぜ! ははは! 凍っちまいなぁ!」
 彼は杖の先に弾丸を生成しドラゴンに狙いを定めた。
「合わせるわ。これで釘付けにする!」
 ジーナは視線の先、ドラゴンを照準し構える。
 エリオットが弾丸を放つ。同時、ジーナは莫大量のレーザーを撒き散らした。
 多くが逸れるかに見えたレーザー群は、照準されたターゲットに対し屈折の連続を以って追いすがる。
 ドラゴンにレーザーの雨が降り注ぐ、次いで一発の弾丸が炸裂した。
 着弾地点を中心に空間に歪みが生じる。
 空間内の時を止め物質の熱を消失させてしまうオラトリオの弾丸だ。
 ドラゴンは絶叫とも呼ぶべき咆哮を周囲に響かせ、首を大きく振り上げた。
「ブレスか? 間に合え……!」
 流石は高速で銃を抜き、立て続けに2発弾丸を放つ。
 この牽制に対し気勢を殺がれたのか、一瞬タイミングが遅れた。
 周囲が炎に呑まれる。幾人かが巻き込まれたが、隙を作った事で防御が間に合ったようだ。
 更に。
「せーのっ!」
 ベルベルベルベルベとユリアが同時に癒しの力を展開する。
 ブレスによる負傷は瞬く間に治癒され、戦闘の続行を可能にした。
「そろそろ終わりにしよう」
 ビルの上、セイヤの周囲には漆黒のオーラが纏わり付いている。
 遮るように空がドラゴンに対峙した。
「私達が道を付けてやろう」
 言って駆け出す。ナユタと杏子もそれに続く。
「切り込む!」
 ナユタの剣が閃いた。踏み切ると同時、翼で空気を掴み叩きつけ身を飛ばす。
「私もいますよ!」
 イビナがナユタと共にドラゴンに突撃を仕掛ける。
 更に杏子が援護として、牽制の手裏剣を投じた。
「アタシはアタシ達の自由を守る!」
 空が銃を構える。
 ドラゴンがブレスの予備動作に入るのが見えた。
「さぁ、膳立てはした」
 引鉄を引いた。彼の眼差しはドラゴンの背後に向けられている。
 セイヤは空達の攻撃を囮とし回り込みを掛けていた。
「フゥ――」
 深く息を吐く。両腕のオーラが集束し龍の姿を象る。
 ただならぬ気配を感じたのかドラゴンはブレスをキャンセルし、後方の敵に対し尾による薙ぎ払いを仕掛けた。
「今度は止めるッ!」
 割り込んできた流石が尾の一撃を受け、押し留める。
「行け! 最後の一撃は譲ってやるよ!」
 彼女の激励にセイヤは口元を吊り上げ答えた。
「仕留めてくるさ」
 跳躍し、ドラゴンの尾を伝い疾走する。
「プレイアディ!」
 ジーナが自身のサーヴァントの名を呼ぶ。
 ミミックが大口を開けドラゴンに喰らい付く。
「ついでにオマケよ……ありったけ!」
 ドラゴンに対し展開した砲台から砲撃の乱打を浴びせる。
「ククッ! おあつらえ向きだよなぁ……オレも混ぜてくれよ!」
 エリオットの雷撃が炸裂した。
「じゃあ、私も混ぜてもらおうかな」
 鐘の音が響く、ベルベルベルベルベは身を振り加護を与える鐘を鳴らす。
 ドラゴンの背を行くセイヤの周囲で、味方の援護の余波なのか爆発が連続した。
「派手にやる」
 鼻で一笑、しかし彼の気分は高揚している。
 ドラゴンは多方向からの同時攻撃により身動きが取れない。
「ここだ!」
 セイヤは身を跳ばす。
「喰らいつくせ! ウロボロスの牙ッッ!!」
 黒龍のオーラを纏った拳を叩き込む。その場所はナユタ達が鱗を破壊した場所だった。
 更にもう一撃を撃ち込んだ。黒い龍のオーラがドラゴンの内部を蹂躙する。
 次の瞬間、ドラゴンの身体を漆黒のが覆い尽くし、爆ぜた。
 ドラゴンの絶叫が木霊する。
「やったか……!」
 ナユタが動かなくなったドラゴンを見上げて呟く。
「それフラグだろ」
 呆れ半分と流石もドラゴンを見る。黒く変色した体躯に気配は無かった。
「まだ怪我してる人はいるかい? ババッと治療しちゃうよ」
 背後でベルベルベルベルベとユリアが最後の仕上げと仲間達の治療にあたっている。
「あら、何処にいくのかしら?」
 この場を去ろうとする空に対し、杏子が問い掛けた。
「気になる事があってな。少し調べてみようと思う」
 念のためだ、そう言い残して彼は行く。
 なら自分はどうしようか、そう考えて視界を回すとセイヤが歩いてくるのが見えた。ジーナとエリオットもいる。
「ふふ、なかなかの戦いだったわね! みんなお疲れ様!」
 ドラゴンを倒し自由を掴んだのだ。ならば今はその余韻に浸ろう。
 そう思い、杏子は仲間達の方へと歩きだした。

作者:駒小田 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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