迫り来る殺戮ドラゴン

作者:ほむらもやし

●2015年8月
 閑静な市街地にある、古いビルの窓の全てが、突然に砕け散った。
「危なかねー。誰も怪我しとらんね」
 何事かと集まってきたのは、夏休み中の学生や買い物客たち。
 人々が遠巻きに見守る中、割れ果てた窓の内側で青白い光が煌めき始め、間もなく屋上を貫いた電撃の帯が空に伸びて、四階建ての建物はガラガラと音を立てて崩れ始める。
「すごかー。何が起きてるの?」
「うわ、煙たか~堪らんばい」
 多量の砂埃を含んだ空気の塊が微かな圧と共に押し寄せ、それが周囲に拡散され薄まって来るに連れて倒壊現場の中心部にある影の形状が明らかになってくる。
「がばいでかかね、ワラスボのごたー?」
「うんにゃワラスボは干潟の魚ばい、翼は無かよ」
 やがて影の主が翼を持つ巨大なは虫類、いわゆるドラゴンでだと明らかになる。
 さらに睨み据えるような眼差しが、獲物を見るような殺意に溢れていることも。
「こりゃあやばか。逃げるばい!!」
 道路の向かい側のアーケード街の中へ逃げてゆく人々の姿を追って、ドラゴンは動き始める。それは正に今、殺戮の幕が開いたことを意味していた。
 
●迫り来る脅威
「皆さん、聞いて下さい。佐賀県の佐賀市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが、復活して暴れだすという予知がありました」
 ヘリオライダーである、セリカ・リュミエールは、分かりよいように九州の地図を指し示しながら話を始める。
「さて、究極の戦闘種族とも、言われるドラゴンですが、復活直後はグラビティ・チェインが枯渇しているためか、飛行することもできないようです。そのためドラゴンが本来の力を取り戻すために、人間を虐殺して、グラビティ・チェインの略奪を始めるのは明らかです」
 完全では無く能力も制限されているとは言っても、爪や牙による斬撃や10メートルにもなる巨体から繰り出される打撃、また吐き出される電撃ブレスの威力は、人々を殺戮し、街を破壊するには余りあるものだ。
「ドラゴンが現れるのは市の中心部から少し離れた位置にある古いビルです。避難指示は既に出されており、一般の人々は避難済みです。もちろん車両などが通行することもありませんので、みなさまはドラゴンの撃破に万全を期して下さい」
 なおドラゴンが出現するビルに入っていたディスカウントストアは数年前に廃業しており、近々取り壊しの計画もあったらしい。またビルの周囲の建物が戦闘によって破壊されてもヒールを使えば、なおすことが出来るので、街への被害は考慮せずに、全力で戦っても問題は起こらない。
「ドラゴンの体長は10メートルほどもあります。巨体にふさわしい攻撃力や防御力があると考えた方が良いでしょう。攻撃手段は爪や牙での斬撃、巨体を生かした打撃、口から吐き出す電撃のブレスとなるでしょう」
 近くには古びたアーケード街もあり、周囲にには低層のビルや建物も多いため、地形的な状況を活用して行動すれば、巨体を誇るドラゴンに対して、様々に攻撃を掛けることも出来るだろう。
「究極の戦闘種族、ドラゴン。本来の力を取り戻していないのはラッキーと言うべきかしら、もちろん手加減する義理もないわよね」
 ヘリオライダーのセリカの説明を聞いたケルベロスたちの中の一人、ユリア・フランチェスカが、明るく澄んではいるが、微かに怒りを孕んだ声で言い放つと、絶対に勝ってみせますわと、凜とした太陽の如き笑顔を見せるのだった。


参加者
ネロ・チェラード(影桜・e00316)
ペトラ・クライシュテルス(ハートフルノート・e00334)
水戸部・政木(商売人・e00499)
サフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)
天之空・ミーナ(紅風・e01529)
アリア・トゥールス(虚偽の愛喰・e02297)
マリオン・ハリウェル(レプリカントの鎧装騎兵・e02498)
ロココ・ミストルティア(戦場の郵便配達員・e05632)

■リプレイ

●序
 天空に伸びる雷撃と共に轟音が響いた。
 落下するガラスの破片が路面で立てる澄んだ音を耳にしながら、ドラゴンの討伐に馳せ参じた、ケルベロスたちの胸に万感が溢れてくる。
「いやぁ、なんとも半端ねえ、これ大丈夫?」
「んふふー。記念すべき初任務っす」
「やーれやれ。いきなり大物相手に立ち回りとはな」
「……へぇ、面白い相手じゃない」
 自重によって、沈むように崩れ行くビルの最期を見つめながら、ワクワクしている者もいる。だが、目の前で、これから対戦する相手の、莫大な破壊の力を目の当たりにすれば、戦慄にも似た感想を抱くのも自然なことだ。
(「絶対に失敗するわけにはいかないね……!」)
 この近所では最も高い、地域銀行の本店ビルの屋上から、巻き上がる砂埃の中に敵影を探す、サフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)のもとにも、濃厚な砂塵を含む空気の塊が吹き寄せる。
「一般人の避難は、間違い無く完了しているようね」
「その点は問題ありません。……対象ドラゴン、任務開始します」
 万一にも一般人が戦闘区域に入る可能性が無いこと確信した、ネロ・チェラード(影桜・e00316)と、ロココ・ミストルティア(戦場の郵便配達員・e05632)は、安堵を含んだ呟きを零しながら、砂埃が覆う街並みの中にドラゴンの姿を探す。

●蘇るドラゴン
 どこからともなく弱い風が吹く。
 灰色一色に塗られたように見える街並みが、急速に明暗のコントラストを取り戻し始める。崩れたビルの中央付近に立つ影がドラゴンの首であると、サフィーナは気づく。
 ヘリオライダーからの予知情報をもとに、ドラゴンに発見されない様、仲間たちは出現地点の周囲に散開して、身を隠している。視界を遮る砂埃が薄れつつある今、高所に陣取った仲間もまた敵影には気づいている筈だ。
「さぁ、初陣だ」
 サフィーナが小さく上げた声に、素早く反応したビハインドのカミヒメが従う。ドラゴンは未だ自分たちの存在に気づいていない筈だから、すぐに仕掛ければ注意を惹くことができるはず。
「千の菊花よ、美しく散れ。仇なす者共の足枷となれ」
 堂々とした声を上げる。声の響きに合わせるように、魔力で生成された菊の花園が、砂埃が満たす灰色の闇を削り取る。気配を察知したドラゴンが身体の向きを変え、尻尾を振り上げる。正にその時、散り砕けた花弁がドラゴンにまとわりつく。
「……!?」
 奇襲の成功を確信した瞬間、サフィーナの身に走る重い衝撃、続いて宙に浮くような感覚の後、再び違う質の衝撃と激痛がやって来た。
「回復は任せてちょーだいっ♪」
  振るわれたドラゴンの尾の一撃に吹き飛ばされたサフィーナに向けて、トラ・クライシュテルス(ハートフルノート・e00334)が即座に癒やしの技――サキュバスミストを発動する。
 ドラゴンの尾に吹き飛ばされたサフィーナの身体は木造家屋の2階部分を半壊させ、瓦礫の中にめり込んでいる。
 砂埃は急速に薄れ、ドラゴンの全容が明らかになる。
「なんて大きな……」
 初撃に対する反応を見ても、奇襲によって一気呵成に倒せる相手では無いことは分かる。ならばと刹那の逡巡の後に、長期戦を意識したロココはステルスリーフを発動する。
「これはどうでしょうか?」
 感覚を確かめるように、ネロは黒影弾を放つ。位置の特定を懸念して、直ぐに移動を開始する。
 そして思いがけない方向から、弾丸を撃ち込まれ、その影に浸食されるドラゴンの表情が苦痛に曇る。
「やれやれ、やっと自分のターンっすね」
 次いで、マリオン・ハリウェル(レプリカントの鎧装騎兵・e02498)の構えた長大な銃身から凍てつく光条が放たれる。
 直後、屋上から屋上へ、ビルや木造家屋の屋根の上を飛び跳ねるように動きながら、マリオンは再射撃の機を伺う。敵の姿は巨大だ。どこから撃っても命中させる自信はある。あとはチャンスさえあれば。
「目標ロックオン。クラスターミサイル全弾発射っす!」
 ドラゴンが見せた一瞬の隙をマリオンは見逃さなかった。
 声と同時にミサイルポッドから火炎が吹き上がり、直後大量のミサイルが射出される。互いの射線の干渉を避けるように放射状に排煙の軌跡を描くミサイル群。バラバラに飛ぶかに見えたそれらは、間もなくドラゴンの方へと吸い込まれるような軌道と変わる。
「はっはー! デカ物が避けれるモノなら避けてみろっす」
「!?」
 ドラゴンの表情が驚きの色に染まった直後、そのドラゴンを中心に閃光が爆ぜ、天高く火柱が上がる。
「やった……っすか?」
「まだね。やっていないみたいよ」
「とにかく、動きを止めますよ!」
 一瞬遅れてやって来た轟音、続けて衝撃波を受けながら、必殺の一撃を命中させたマリオンの呟きに、落ち着いた口調で返しながら、ユリア・フランチェスカ(オラトリオのウィッチドクター・en0009)がバスターライフルを構える。同じくドラゴンの動きに懸念を抱いた、シェーラ・バウケット(放浪家・e02327)が、タイミングを合わせるように、大量の弾丸を放つ。
 弱まりゆく炎に吸い込まれるように、炎の内側で弾幕は爆ぜる。大量の弾丸を受けながらもドラゴンはびくともせず、それどころか炎が消えて再び姿を露わにしたドラゴンの爪や牙は戦い始めた時よりも鋭く伸びており、その偉容はこの戦いが簡単には終わらないことを告げているようだった。
「やーいワラスボちゃんよーぅ!」
 ムードが暗くなりかけたその時、ひょうきんな叫び声を上げながら、ガントレットに内蔵されたジェットエンジンを起動し、超高速でドラゴンに突っ込んだのは、水戸部・政木(商売人・e00499)であった。
 ひょうきんな言葉とは裏腹に渾身の力を込めて繰り出した重拳撃が強靱な鱗を砕いてめり込む。
「む」
 だが、次の瞬間、政木は凄絶な圧力を腕先に感じ、踊るように後に跳び退く。
「固いねえ、これ本当に、俺たちの手に負えるの?」
 辛抱強くダメージを重ねる以外に勝機は無い厳しい事実。
 だが、敢えて事実を口に出せば、やるべきことも明快になるから、気のせいかムードが楽になってくる。
「其の力は許されざる者を裁く力。大地の精霊よ、その槍を以って敵を討て!……飛んじゃえっ♪」
 魔導書を手に、ペトラ・クライシュテルス(ハートフルノート・e00334)が詠唱を始める。詠唱と共にドラゴンの足下から突き上がってくるのは、大地の精霊の力を借りて呼ばれた石の槍。その力は巨大なドラゴンをも足止めた。
「……ま、愚痴ってても仕方ねぇ。きっちりしっかり仕留めるとするか!」
 素早い動きで動きを留めたドラゴンに肉薄し、電光石火の蹴りを繰り出すのは、天之空・ミーナ(紅風・e01529)である。
 突如死角から姿を見せた小さな身体の少女が、鋭い蹴りでドラゴンの急所を貫く。
 ケルベロスたちの連続攻撃に疲労を帯び始めていたドラゴンの巨体が震える。だが、よしと、確かな手応えを感じたのも刹那、ドラゴンの鋭く伸びた爪の先端が、間合いを取ろうと跳び下がろうとしたミーナの背中を掠る、飛沫を上げる鮮血、声を絞ったような悲鳴が響き、激痛が半身を走り抜ける。
 そして次の瞬間、追い打ちを掛けるように突き出された爪刃が、ペトラのヒールドローンの加護を打ち砕いて、ミーナを直撃する。
「かはあっ!」
 弾丸のように飛ばされ、ビルの壁に激突したミーナを目がけて、ドラゴンは手を緩めることなく、とどめの一撃を放とうと、爪を振り下ろす。
(「私が絶対、守るから……!」)
 爪撃の軌道に、サフィーナと共にビハインドのカミヒメが、割り込んで来る。
 ドラゴンの鋭い爪は一直線に降ろされ、反射光が一条の白い軌跡を描く。深々と斬られる水音と共に身を震わせたサフィーナは血の塊を吐き出すが、役目は果たしたといった穏やかな表情を浮かべ、瓦礫の中に落下した。

●果てしない戦い
「あなたの罪、その身をもって償いなさい」
 ロココが手にする小瓶から放出された粉末が、魔法の吐息に乗せられて、ドラゴンの周囲に漂い始める。
 その効果に動きを鈍らせるドラゴンを目がけて、アリア・トゥールス(虚偽の愛喰・e02297)は迷うこと無く両手に持ったルーンアックスを振り回す。
「強いわね。でもアタシとして、思い出にするにはいい相手だわ」
 狙うは巨大なドラゴンの肩、両足で確りと路面を踏みしめ、高々と跳び上がる。
「さぁって、全力で叩き潰してやるわ」
 高く掲げた2本のルーンアックスを握る手に力が籠もる。燃え上がるように熱くなる両腕、まるで体内を巡る血流が腕に集まって来る感じだ。たとえ僅かであってもより良い結果を目指すための全力。それは全力で壊すことによって、自らの思い出を構築する、アタシのための戦い。世のため人の為、仲間の為なんて都合のよい言葉にはしない。
 感情によってのみ構築され、渇望からくる動作をもって、アリアは斧刃を振り降ろす。その舞を連想させるような刃の動作は強靱な鱗に覆われたドラゴンの肩に深々と傷を刻みつけた。
「アタシが絶対に助けてあげるわ」
 メディックは癒しを武器に戦うポジションだ。今こそ、その武器を振るうべき時だ。ペトラは今、奥歯を強く噛み締め、黒い瞳の奥に戦友への愛を込め、効果の薄れ始めた、ヒールドローンを繰る。
「ミーナさん、サフィーナさん!」
 だが、ペトラの苦悩に気づいた、マリオンの発動したメディカルレインが癒やしの雨を降らせる。繰り出した、それはメディックの技には及ばないかもしれないが、それ無しには戦いは続けられなかっただろう。
 そして仲間を癒やしている間も、戦闘は続く。
「おいおい、おじさんは構ってもらわないと死んじゃうんだよ?」
 寂しげな呟きと共に、政木が無造作に投じた瓦礫がドラゴンに当たって落下する。瓦礫の崩れ落ちた先、ふと目にとまった閑静な路地裏に一瞬目を奪われつつも、ロココは己の役目を全うするため毒手裏剣を投じる。
(「……こんな素敵な路地裏、壊したら、もったいないよ」)、
 弓なりの軌跡を描いて飛翔する毒手裏剣を追うようにして、オルトロスのココロもまたドラゴンに迫る。毒手裏剣が鱗を破って突き刺さると同時に、ココロから放出された瘴気は、どす地獄の如き気配を発散しながら、ドラゴンに毒を染み付ける。
「効いているようね。なら、こういうのはどうかしら?」
  側面に回りこんだアリアが高々と跳び上がる。太陽を背にしたアリアの身体は刹那、シルエットに変わり、手にしたルーンアックスが陽光を受けて輝きを放つ、一瞬の後ドラゴンの頭部に振り下ろされた斧刃が衝撃音を轟かせる。
 直後、苦痛のためか、ドラゴンは悲鳴と共に身を大きく揺らす。身体が暴れる度に周囲の民家が紙細工のように崩され、頭部に乗ったアリアは揺れる体に振り飛ばされて、瓦礫の中に打ち付けられる。
「ふふ、いったいなぁ……でも、それがアナタなのねぇ……?」
 だが、立ち上がったアリアが見たのは、大きく口を開き、正に雷のブレスを吐き出さんとするドラゴンであった。
 瞬間、破裂するような連続音と共に、光が爆ぜて、風景が点滅する。無数に分岐した雷のブレスは、アリアを焼くに留まらず、あちこちに降り注ぎ、無数の破壊の痕を刻む。
 強大なドラゴンの攻撃により、ケルベロスたちの継戦力は限界点へと近づきつつあった。だが、これまでに積み重ねたダメージによってドラゴンが抜き差しならぬ状況に追い込まれているのも事実。
「戦いはまだこれからです。頑張りましょう」
 呟いて気合いを入れ、ネロは引き絞った弓を放つと、再び移動を開始する。
 突き刺さった黒影弾に浸食されながらも、ドラゴンは動きを止めない。荒ぶる巨体から繰り出される衝撃が、閑静な街を瓦礫へと変えて行く。
「くっそ、死ぬかと思ったぜ」
 自らの力も使い傷を癒やした、ミーナが瓦礫から飛び出して、ドラゴンの前に躍り出る。右手に持った惨殺ナイフを媒介に、自身の精神力で作り出した巨大な剣を作り上げ、両手に持ち変えると、ゆっくりと後方に振り上げる。もはや持てる力を温存している場合ではない。必死に戦わなければ勝てないと覚悟してのことだ。
「さあ、この一撃で……お前と私、どっちが生き残るかの運命が決まるぜ!」
 まるでミーナの言葉に応じるように、ドラゴンもまた身体を正面に向ける。今は力を失っているとは言っても最強と呼ばれた戦闘種族だからなのか、単なる気まぐれか、或いは考える余裕すらも無かったのか。
「行くぜ!」
 全力をもって跳び上がり、振り下ろされた巨大な刃が、ドラゴンの振りかざした爪刃の煌きと交差して火花を散らす。直後、身体ほどの大きさもあるドラゴンの爪刃に添わせ、下方に振り降ろされた巨大剣の刀刃が、近くでは壁のようにしか見えない胴体に摩擦音と共に一条の傷を刻む。
 悲鳴にも似た叫びを上げながら、ドラゴンは大きく息を吸い込む動作を見せる。
「雷撃来るわよ! 気をつけて!!」
「手は抜かぬ……全力の一撃、受けてみよ!」
 ペトラの警告に頷きのみで返しつつ、前に出るのは、天之空・ティーザ(白狼剣士・e02181)。前線を支える仲間たちに手を貸さんと、雷の闘気を帯びた抜き身の一撃を放てば、既に疲労の色を見せつつあった、ドラゴンのブレスは大きく逸れて地域銀行本店ビルを砕く。
「あと少しで勝てそうなのに、今、頑張らないと……」
 移動した民家の屋上から、ネロが鋭い眼光で狙い定める先、ドラゴンが飛ぶことの出来ない羽根をばたつかせている。
「影よ集え……そして、邪竜を穿つ闇となれ……!」
 周囲の影を収束させて弾を作りだすと、ネロは間髪を入れずにそれを撃ち出した。超高速で撃ち出された弾丸はドラゴンの強靱な外皮を貫き破り、体内深く食い込む。
 激痛に周囲を見やれば、間近に迫った政木が、俊敏な身のこなしで、
「いいねぇ、実にいい」
 跳び乗るように肩に着地して、手を添えると、翼の羽ばたきが止まる。俊敏な動きで巨体から飛び降りる背後で、周囲の空気が帯電し始める。
「これならどうっすか?」
 駆け続ける政木の前方、瓦礫の影に身を隠したマリオンの放ったゼログラビトンの光弾が命中すると空気の帯電が霧散する。とほぼ同時に、ドラゴンの次の動きを読み切ったように、姿を現したロココが流れるような身のこなしで螺旋掌を繰り出す。瞬間、ドラゴンの鱗の表面が音を立て逆立ち、体液が溢れ出る。
「これ以上何も奪わせない」
 サフィーナの炎を纏った激しい蹴りに続いて、ユリアの放つ光がドラゴンを焼き、そしてペトラの放つ猟犬縛鎖が複雑な軌跡を描きながら、燃え上がるドラゴンの巨体を縛る。
 直後、地響きと共に膝を着いたドラゴンの身体がぐらりと傾く。
「さぁ、この一撃で……アナタもアタシの思い出よっ!」
 苦痛に身悶えながらも、最期の瞬間まで戦おうと、ブレスを吐き出そうと開かれた顎を、アリアは斧刃で切り上げる。……すると、口内の青白い光が消えてドラゴンはそのまま動かなくなった。

●戦い終わって
「とっとと帰って、風呂にでも入って、一杯やりてぇな、嬢ちゃん!」
 良く響く声で叫んでから、政木は自分の得物の汚れを軽く落としてから仕舞い込んだ。
「確かにそうしたいわね。にしても、アンタもこれくらいの怪我で済んで、ラッキーだったわね」
 そう言って、ペトラは振り向いて、膝を着いたまま息絶えた、ドラゴン死骸を見上げる。
「やばかったっすよね、もう終わったってぇのに、これ、また動き出しそうに見えるんっすよ……」
 そう口を開いたマリオンの頬に、緩やかな風が当たる。
 有明海から吹いてくる、午後の南風である。
 今回の戦いが、どんな意味を持つかはかは、誰も確信を持てていないけれど、使命感の為でも、自分の思い出を埋める為でも、義憤の為でも、動機は何であったとしても、全力を尽くして勝利し、誰一人欠けることは無かった。
「小難しいことはいい、とにかく勝ったぜ!」
 言って、ミーナが周りを見れば、疲れ果ててはいたけれど、満足そうに身体を休める仲間の姿があった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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