戦艦竜『呉』の逆襲

作者:秋月きり

 暗い海に轟きが響く。それは巨大な海獣の咆哮だった。
 咆哮を上げた主――戦艦竜『呉』は目の前を航行する漁船を砲撃すると、執拗なまでにブレスや爪、尻尾で破壊を繰り返す。
 逃げ延びた船員は後に語った。
 あの姿はまるで、八つ当たりをしているようだった、と。

「戦艦竜『呉』が再度、相模湾に現れたわ」
 集ったケルベロスの顔を一瞥した後、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が静かに言う。
「まずは戦艦竜についておさらいをしましょう。先日の城ヶ島制圧戦を知らない、って人はいないと思うけども」
 戦艦竜とは、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンの事である。特徴として、10mくらいのドラゴンの巨体に戦艦のような装甲や砲塔が取り付けらた容姿が挙げられる。その戦闘力は強大の一言に尽きる。
 それが狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の調査で、相模湾で漁船を襲うなどの被害を出している事が判明したのがつい最近の事。今や、数名のケルベロス達がその対応に追われていた。
 彼女の言う戦艦竜『呉』もその内の一つ。
 先日、その威力偵察が行われ、いくつかの情報を持ち帰る事が出来た。また、二割強のダメージを与える事にも成功している。
 戦艦竜は総じて、自力でダメージを回復する事が出来ない。よって、その蓄積で倒す事が、その撃破のための作戦でもある。
「あとは、実際に戦った人から説明をして貰った方が良さそうね」
 リーシャの言葉にセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が進み出た。
「私達の遭遇した戦艦竜『呉』は、二足歩行のドラゴンの双肩に巨大な砲台がついている、そんな容姿でした」
 また、戦艦竜の名に相違なく、身体の随所に装甲が張り巡らされており、その防御力の高さを伺わせた。
 主要な攻撃はその砲台による砲撃。そして、爪や尻尾を用いた格闘攻撃。その上で、何より警戒しないと行けないのはその口から吐かれる熱線、ブレスだった。
「それと、海の中での戦いになる為、陸上での戦いと勝手が違う事も注意して下さい」
 戦艦竜は巨体のため、俊敏な動きとは言い難い。だが、海中であろうと陸上と変わらない動きをしている印象を彼女たちに与えていた。
 とは言え、ケルベロス達も相応の備えをしていれば、海中での戦いに遅れを取る事はない。そして、その準備が出来る事は、ケルベロス達の強みでもあった。
「もう一つ付け加えるなら、戦艦竜の習性ね」
 セレナの言葉をリーシャが引き継ぐ。
 戦艦竜は攻撃する行動を取る。その為、戦闘が始まれば撤退をする事はない。
 同時に、敵を深追いする事もしないため、ケルベロス達が撤退を始めれば追いかけてくる事もない。
「ただ、呉に限って言えば、先の戦闘に於いて『ケルベロスそのもの』を憎んでいる感があるわ」
 習性そのものを曲げはしないだろうが、戦闘中の攻撃は苛烈を極めるだろう、と言うのが彼女の予想だった。
 緊張した面持ちで、セレナも「はい」と、頷く。
「今、呉が受けているダメージは約三割。これが大きいと見るか小さいと見るかは分かれるところだけど、それでも、今回の戦闘で呉を倒す事は難しいと思う。でも、この繰り返しがいずれ呉を撃破に繋がるわ」
 みんなならそれが出来ると信じていると、リーシャはケルベロス達を送り出す。
「さぁ、行ってらっしゃい」


参加者
和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)
ダモス・テレーラ(美食道化・e04157)
ビリオン・ヴィロサ(重装固定砲台毒茸・e05512)
ナカ・ミミ(スロースノードロップ・e10203)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)

■リプレイ

●戦艦竜、動く
 海底に眠る呉は、首をもたげ、ゆっくりと両眼を開く。
 体内のソナーに反応が有ったのだ。また地球人達の船とやらが、自身の領域を侵そうとしているのだろう。
 全身を覆う疼痛は忌々しい事に、まだ晴れそうにもない。憂さ晴らしにその船とやらを破壊している時間だけが、この煩わしさを解放してくれた。
 今回もまた、その為に浮上を開始する。
 読めるはずもないその表情には確かに、苛立ちの色が浮かんでいた。

 クルーザーが進行を停止する。ヘリオライダーが予知した海域にたどり着いたのだ。
「一刻も早くこのドラゴンを倒さなければいけません」
 ドライスーツに身を包み、ダイビングの準備を整えたセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が決意新たに呟く。此処に来るまでに波間に船の残骸らしき漂流物を何度か見た。その全てが呉の犠牲とは考えにくいが、彼の戦艦竜を放置しておけばその被害が拡大するのは明らかだった。
「今回はとにかくダメージを与えて、皆が無事で帰ろう!」
 気負いすぎは良くないと、足ヒレを履きながらアルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)が明るい声を上げる。だが、脳天気にその台詞を口にしている訳ではない。その証拠に、その青い瞳は正義の炎が宿っていた。
「気を抜けんがな」
 離れれば砲撃、近づけば格闘と、決して組みやすい相手ではないと、ナカ・ミミ(スロースノードロップ・e10203)が二人に語りかける。ゴーグルに覆われたその表情は仲間からも読めないが、彼女の声からも二人と同様、緊張の色が滲んでいた。
「どの程度できるかわかりませんが、できる限りのことをしましょう」
 アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が決意を口にする。眠そうにも見えるその表情はしかし、サポートは任せて欲しいと力強い響きを伴って。
 アトの言葉にダモス・テレーラ(美食道化・e04157)も頷く。やれる限りやってみる。その思いは彼もまた同じだ。
「砲を背負った竜か……。親近感は湧くが、しっかり沈めに行かないとな」
 まだ見ぬ強敵を思い、ビリオン・ヴィロサ(重装固定砲台毒茸・e05512)が呻く。彼は戦艦竜『呉』の容姿を口伝えで聞いただけだが、自身が身体に纏った重砲台を思うと、幾らかの親近感を憶える。相手がドラゴン、自身がドラゴニアン、と言うこともそれに輪を掛けていた。
「きっととんでもなく強いんだろうね」
 心してかからないと、と和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041)が自身に喝を入れる。
「さて、行きますよ」
 旧式スクール水着というマニアックな恰好のヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)がファミリアロッドを掲げ、宣言した。その傍らで自身のサーヴァント、ウイングキャットのヴィー・エフトがにゃぁ、と泣く。
 二つの視線の先は、呉が存在している筈の海域。
 斯くして八人のケルベロスと戦艦竜の戦いは再開される。それを告げるかのように着水の音が9つ、どぶん、と冬の海に響いた。

●呉、咆哮する
 昼間のためか、水中での視界は悪くない。
 問題ない、とハンドサインで仲間と意思疎通を交わすアルレイナスを視界に納め、ヒマラヤンは頭を巡らす。
 前回を踏襲するなら、或る一定以上の距離に近づかなければ戦艦竜が攻撃してくる事はなかった。
 だが。
「――?!」
 十メートルを超す巨体はすぐに発見できた。それと同時に。
 真っ直ぐに呉はケルベロス達に突っ込んでくる。その表情に喜色すら見えたのは、気のせいか。
(「不味いです!」)
 再三思い知る。戦艦竜とは戦艦と竜の双方の特性を持った存在だと。
 戦艦である以上、索敵能力は視認に頼るケルベロス達より上。何らかの方法で感知した呉はそのまま、ケルベロス達に向かってきたのだろう。
 呉の口腔が輝く。この兆候が示すものは一つ――。
「ブレスが来ます!」
 前回、それを目の当たりにしているのはセレナとヒマラヤンのみだ。セレナの警告と共に、閃光が迸った。
 薙がれた炎が焼くのはダモス、ナカ、ヒマラヤンの三名。そして。
「ヴィーくん!!」
 ヒマラヤンと共に泳いでいたヴィー・エフトがブレスの直撃を受ける。一撃で消し飛ぶと言う事態は避けられたが、そのボロボロの風体は二撃、三撃と繰り返されればどうなる事か。
「恨んでいる、ですか」
 ナカを息吹から庇ったセレナが唸るように言葉にする。
 前回の戦闘に参加していたのは自身とヒマラヤンだ。つまり、ヒマラヤンのサーヴァントもまた、参加者である。初動としてヒマラヤン達を巻き込むようにブレスを吐くのは納得出来る話だった。
「よくもヴィーくんを!」
 飛び出そうとするヒマラヤンの肩を押さえ、首を振る。不意打ちにも似たブレスを彼女とダモスの二人は回避する事が出来た。だが、冷静さを失えばすぐにその魔手は彼女に牙を剥くだろう。
 セレナの制止に頷いたヒマラヤンはケルベロスチェインを展開させ、海中に魔法陣を描く。守護の光は仲間を包み、セレナの傷を癒していく。
 それでも癒しきれない傷はアトから飛んだオーラと、自身のシャウトで回復する。
「こう見ると大きいですね」
 十メートルの竜が悠然と海中を泳ぐ姿に、セレナの傷を癒し終わったアトが呟く。
(「こんなのを倒せるのでしょうか――」)
 だが、倒さなければいけない。これがデウスエクスであり、人々の生活を脅かす害獣である以上、その駆逐はケルベロスたる自分達の役目だ。
「魔人降臨ッ! とうッ!!」
「いくよっ」
 自身を禍々しき呪紋の浮かぶ魔人へと変貌させたアルレイナスと幻影を身に纏った流麗が呉の気を逸らそうと、その周囲を泳ぎ回り、攪乱する。
(「海面まで浮上できれば――」)
 流麗は嘆息する。
 自慢の翼で飛び回れば、今以上の攪乱は出来るだろうが、呉に浮上する気がない以上、それ以上を望む事は出来ない。
 二つの動きに視線を逸らした呉に、三つの衝撃が突き刺さる。
 ダモスの雷を帯びた斬撃と。
 ナカの螺旋を描く掌底と。
 そしてビリオンの超がつくほど加速された突撃だった。
 その三つの衝撃を受け、呉の身体がよろめく。
 だが。
「その程度ではまだまだ、と言ったところか」
 ビリオンがアームドフォートを構え直しながら、嘆息する。響く呉の咆哮は、衰えを全く感じさせない。この戦いも長くなりそうだった。

●激震、走る
 呉の砲身が火を噴く。水中にも関わらず、轟音を響かせたそれは狙い違わずヒマラヤンへ、そして彼女を庇ったセレナに直撃する。
「くっ!」
 苦悶の表情を浮かべるセレナを庇うように、飛び出したのはアルレイナスだ。
「喰らえ、指天殺ッ!」
 気脈を断つ指拳が呉に突き刺さる。
 だが、石のように重くなる筈の身体は、それを思わせないほど軽やかに、巨大な爪がアルレイナスの身体を薙ぐ。
 その一撃を防いだのは流麗の身に付けた砲身だった。刀身さながらに受け止めたアームドフォートが火花を散らし、殺しきれなかった勢いを受け、流麗の身体が吹き飛ぶ。
「流麗さん!」
 アトのオーラがその傷を癒す傍ら、再度と、ナカのケルベロスチェイン、ケット☆シーが槍の如く勢いで呉に突き刺さる。
 幾度となく急所と思わしき箇所を貫き、或いは切り裂いた。蓄積された重圧は呉を苛んでいる筈だった。だが、それでも呉の攻撃は勢いを弱めない。
「ほらほら蜥蜴さん、どこを見ているんですか? 私はこっちですよ~」
 挑発の言葉と共にヒマラヤンから迸る幻影は、ドラゴンの炎。幻影とは言え、皮膚を焼く竜語魔法に呉の表情が歪む。
(「ヴィーくんの仇、とまでは言いませんが」)
 彼女のお供のヴィー・エフトは既にいない。サーヴァントである彼が呉の二度三度の攻撃に耐えられるはずもなく、既にその身を消失させていた。
 だが、その犠牲が無駄ではない。彼が稼いだ時間は、ケルベロス達の攻撃として呉に叩き付けられている。彼らの放ったバットステータスは今や、呉の身体を蝕み、思うように動けなくなるぐらいの干渉はしているはずだ。
 問題は、戦艦竜という存在が、それ以上の規格外の存在である、と言う事だろう。
 それらをまるで意に介していない様に、猛攻は留まる事を知らなかった。
「だが生き物である以上、不死身と言うわけではないだろう」
 ビリオンのアームドフォートが火を噴く。主砲の一斉放射が突き刺さるのは呉の左肩の砲塔。砕くつもりで放たれた砲撃はしかし、その強固さの為か、細かな傷を走らせるに留まる。
「壊せそうではあるのですが……」
 その様子をつぶさに観察していたダモスはむぅと唸る。
 破壊の様子が見えない訳ではない。故に、精度の高い攻撃を繰り返せば、主砲の破壊は可能だろう。問題は火力だ。ビリオンの火力が低いという訳ではない。一人で行うには圧倒的に火力が足りないだけだ。
(「副砲はあくまで副砲と言う訳ですか」)
 前回、副砲が潰された様子を目の当たりにしたセレナは、その天と地ほどもある耐久力の差に愕然とする。砲塔を潰す事に拘らない方が良い。それを仲間に伝えようとハンドサインを行った瞬間だった。
 再び、炎が舞った。
 セレナを中心に薙がれた炎は、呉の周りを飛び交っていたケルベロス達を強襲する。
「流麗さん!」
 アルレイナスの腕の中で、流麗が苦痛に身を捩る。幾度となく、攻撃主としての彼を庇い続けた流麗に限界が訪れたのだ。
 フィルムスーツから零れる肌に走る火傷が、痛々しい。
「離脱を!」
 戦艦竜は逃げる者を追わない。セレナの短い文言に頷いた流麗はコクリと頷き、弱々しいながらも浮上を開始する。
「馬鹿な!」
 続けて放たれたビリオンの台詞は、呉の主砲がその流麗に向けられていたからだ。
「追撃?!」
「冥界に棲まうは銀の姿、染まりしは鎖の意思。嗚呼、常世に現し我に従え!」
 困惑するセレナの言葉と、ナカの詠唱は同時だった。その指に挟まれたジョーカーの札は水中と言うのに寸分違わず呉に突き刺さる。それが召喚するは冥界の銀の鎖。闇より放たれた銀色は呉を繋ぎ止める。
「さあ、燃やし尽くしてあげましょう!」
 そこにダモスが漆黒の炎を放つ。二つの攻撃に阻まれ、呉は主砲を放つ機会を逸してしまっていた。
 耳朶を打つ呉の咆哮だけが響いた。
「戦場を離脱するまでは気を抜けない、と言う事か」
 煩わしく感じる存在を許すつもりはない、と先の行動は示すかのようだった。
「僕のジャスティス力よ! 我が両手に集まり、悪を滅ぼす光と成りて敵を撃てッ!」
 流麗の離脱を確認したアルレイナスは、彼女の仇討ちとばかりに、詠唱を始める。
 ジャスティス力とは正義の心が生み出したなんか格好いい力。少女の期待を、祈りを一身に集めたその光は、戦艦竜という悪の存在を許す筈がない!
「激烈! ジャ~ス~ティ~ス~……光ォ線ンンンッ!!」
 放たれた光線は、正義の一撃が呉の身体を貫き、灼く。
 断末魔も斯くやと言う呉の咆哮が響いた。
「……ああ、うん。判ってた」
 健在の呉の姿を見て、がっくりと項垂れる。アルレイナスから放たれたジャスティス光線は少なくない被害を呉に与えていたが、それで倒れる戦艦竜でもなかった。
 反撃にと放たれた尻尾の殴打が、アルレイナスの身体を吹き飛ばす。
「アルレイナスさん!」
 セレナの悲痛な声が響く。間に割って入る隙もないほど、綺麗な一撃だった。
 勢いのまま、水面へ浮上した彼はもう戻れそうにない。戦場復帰は望めそうになかった。
 そして、再び轟音が響く。
 呉の砲撃を紙一重で回避したヒマラヤンは、両手に纏ったオーラをガントレット状に展開する。
「コード・トーラス! これで殴られたら痛いですよ!」
 巨大な拳が横殴りに呉を叩く。
 その一撃を受けた呉の目が、ぎろりとヒマラヤンに向けられた。
「思い出しましたか蜥蜴さん。誰のどの攻撃が痛かったかって」
 精一杯の強がりと共に胸を張る。その挑発に応じた呉が再び呼気を吸う動作を行った。
「そんなにケルベロスが憎いなら――!」
 息吹の狙いはヒマラヤンを中心とした一角。キャスターのポジション効果で自力で回避が可能なダモス、ヒマラヤンの両名より、優先すべきはナカ。
 そう判断したセレナは彼女を庇いながらその言葉を口にする。
「人々を狙わず直接私達にその力を向けなさい!」
 ゾディアックソードで息吹を薙ぐ。
 切り裂いた炎はナカの身体を捉える事はなかった。だが、その代償は。
「――っ?!」
 続けざまに放たれた砲撃がセレナに直撃する。そのダメージは、彼女の意識を刈り取るのに充分だった。
「セレナ!」
 庇われたナカがその細い身体を受け止める。
 前衛三人が倒れた。彼らの定めたその時が来たと、ビリオンとアトが頷く。
「悔しいですね」
 ぽつりとアトが呟く。残った五人は皆、同じ気持ちだ。だが、どう見ても呉は健在であり、無理矢理戦闘を継続したところで倒せる気はしない。
 ならば、後身に託すのみ。
「撤退するぞ!」
 ビリオンが宣言と共にアームドフォートとバスターライフルを遮二無二放つ。
 同じくダモスが漆黒の炎を放ち、呉の視界を遮る。
 ナカから放たれるのは無数のトランプ。攪乱を目的としたその三種の攻撃に、呉の動きが止まる。
 その隙にとケルベロス達は戦場を離脱する。
 最後に一度だけ、呉の咆哮と共に砲弾が飛んできたが、殿を務めていたヒマラヤンはそれをヒーリングチェインで叩き落とすと、仲間と共に浮上するのだった。

●地獄の番犬、帰還する
「覚えていろよ! ですよ!」
 ぐったりとしているセレナを支えながら、ヒマラヤンが前回、仲間の口にした言葉を踏襲する。今は倒せない。だが、いつか倒せると信じて、その言葉を口にする。
「もう、追撃は無さそうですね」
 ケルベロス達に興味を無くしたのか、それとも戦艦竜そのものの特性のためか。呉が追ってくる様子はなく、アトがほっとした様子で嘆息する。
 周囲を見渡していたナカはクルーザーを見つけ、こっちこっちと手を振る。看板に見える二つの人影は、先に浮上した流麗とアルレイナスだろう。未だ遠目にしか見えないが、二人とも無事そうだった。
「倒したかったですね」
 後ろ髪引かれる思いでダモスが呉のいた海域に視線を向ける。その気持ちは誰も同じで、そうだな、と同意の言葉が返ってくる。
 だが、皆は知らない。
 彼の思いが呉に対する好奇心、とりわけ、味に対する好奇心に由来する事を。
「こんな戦い方しなきゃならないとは、さっさと終わらせたいもんだ……」
 幾度も寒中水泳を繰り返したくないからな、と心底ウンザリした表情のビリオンに、ぷっと噴きだした仲間達は笑顔のまま、確かに、と頷くのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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