ホストに恋焦がれて

作者:陸野蛍

●ドリームイーターからのプレゼント
 マンションの一室で『彼女』は、大きな鍵で胸を貫かれて倒れていた。
 手には、『ユウヤ』に渡す為に用意した、高級ブランドの時計の包みを持って。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい」 
『彼女』に突き刺した鍵を引き抜きながら、黒いコートの少女が蔑みの目を『彼女』に向けながら呟く。
 少女の呟きに応える様に、倒れた『彼女』から分離するように、可愛いドレスを着て、全身にプレゼントの箱を付けた、人型の異形が現れる。
 その心臓にあたる部分は、未だに『彼女』を侮蔑の瞳で見つめる少女と同じように、モザイクに覆われていた。
 その夜。
『ユウヤ』の源氏名を持つ一人のホストが殺害された。

●少年ヘリオライダーの無茶振り
「ちょっと、ホストやって来てくれないかな?」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)は、ケルベロス達にいきなりそんなことを言いだした。
「ああ、悪い悪い。順を追って説明するな。見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が起こっているみたいなんだ。ドリームイーターの名前は『陽影』。少女風のドリームイーターみたいなんだけど、詳細は現在不明。奪った愛を元にドリームイーターを現実化して、事件を起こしている」
 今回は、あるOLが愛を奪われ意識を失っているとのことだ。
「このドリームイーターを倒せば彼女も目を覚ますし、何よりも、彼女の愛から生まれたドリームイーターに惨劇を繰り返させる訳にはいかないんだ」
 なんでも、彼女が愛を注いでいた相手、ホストのユウヤは、このドリームイーターによって既に殺害されていると言う。
「ユウヤを殺したことで、このドリームイーターは、ホストを無差別に殺戮し始めるだろう。その前に、ドリームイーターを誘き出して、討伐してほしい」
 そう言って、ケルベロス達を真剣な瞳で見つめると、雄大はポケットから一枚のビラを出して広げて見せた。
「と言う訳で皆には、ホストに扮してもらって、このドリームイーターを誘き出してもらいたい。既に、一軒のホストクラブを臨時休業にしてもらって、誘き出す場所として用意してある」
 ケルベロスは、愛の力も一般人に比べて大きいので、ホストに扮したケルベロスが集ったホストクラブを用意すれば、ドリームイーターは必ず誘き出させるだろうと雄大は言う。
「で、そのホストクラブがこの会員制ホストクラブ『ブルームーン』って訳だ」
「なんじゃとー!?」
 雄大の言葉に、一人のケルベロスが素っ頓狂な大声を上げた。
「そ、そ、そこ、わしがバイトしてるホスクラじゃなかね!?」
 話を聞いていたケルベロスの中でも、他より頭一つ分以上身長の高い男、野木原・咲次郎(地球人のブレイズキャリバー・en0059)である。
「そうだぞ、咲次郎。元々、ケルベロスが勤めてるお店だとオーナーさんと話が通しやすくて助かるよな」
「雄大……」
 雄大の軽い口調に咲次郎が絶句する。
「ホスト役の男性と客役の女性も必要かな?」
 男装すればホストは、女性でもいいらしい。
 場が華やかになればなるほど、ドリームイーターも誘き寄せやすいだろうと雄大は言う。
「で、ドリームイーターの戦闘方法な。一つ目は、体中に付いたプレゼントを飛ばして爆弾の様に使ってくる。二つ目は、シャンパンを模した武器からのモザイクエネルギーの放射。で、最後はクレジットカード状の武器を手裏剣の様に飛ばして攻撃してくるみたいだな」
 ホストに貢ぐ行為自体が、このドリームイーターの特性に繋がっているようだ。
「俺には、よく分からないけど。無償の愛ってきっと難しいんだよな。何も望んでいないようで、いくらかは見返りを求めてしまうんだろうな。だけど、それをドリームイーターに利用されちゃうなんてダメだよな! 意識不明の彼女の為にも、このドリームイーターの退治頼……」
「雄大」
「ん? なんだよ? 咲次郎? 人が話してる時に」
 咲次郎の割り込みに雄大が若干不満そうな声を漏らす。
「この依頼、俺も行きますよ。オーナーには、今、携帯で話をつけました。オーナーも俺が居た方が店のことも安心らしいですし。デウスエクスの退治が上手く行ったら、店で遊んで帰ってもいいそうですよ。どうせ、従業員もお客様もいらっしゃいませんからね」
 普段の口調からは、想像もできないような丁寧な口調で、咲次郎が雄大に告げる。
「あ、え? そうなの? っていうか、咲次郎?」
「ホストが必要なんでしょう? 大淀さん。でしたら、ホストとしてケルベロスとして、俺もこの依頼に臨みますよ」
 咲次郎のその爽やかさが、雄大には逆に怖さとして感じられる。
(「……これは、怒ってるかもなー、咲次郎。まあ、あとは、皆に任せるからな! 頼んだぞ! 上手くやってくれ!」)
 心の中で、ケルベロス達の色々な意味での成功を祈る、雄大だった。


参加者
斉藤・怜四郎(黒衣の天使・e00459)
ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)
カナメ・クリュウ(蒼き悪魔・e02196)
篠田・隼斗(瑠璃水晶・e08361)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
ファルシア・フェムト(精神年齢十八歳・e19903)
紫瞳竜・四(ドラゴニアンの螺旋忍者・e22130)

■リプレイ

●初めてのホスクラ
 夜の繁華街。
 ここ、会員制ホストクラブ『ブルームーン』では、特別営業が行われていた。
「いらっしゃいませ、お客様。当店は、初めてでらっしゃいますか?」
 群青のスーツを着て、穏やかな微笑を湛える、野木原・咲次郎(地球人のブレイズキャリバー・en0059)が、華やかなドレスを着た女性、オルトリンデ・アーヴェント(魔歌・e22637)を迎え、優しく尋ねる。
「は……はい。ワタシ、こう言った場所初めてで……」
 オルトリンデが初々しい様子で、おずおずと答える。
「大丈夫ですよ、姫。今宵は姫の為だけに我々一同、素敵な時間をプレゼントさせて頂きます」
 咲次郎が恭しく頭を下げると、白いスーツを纏った、斉藤・怜四郎(黒衣の天使・e00459)がオルトリンデの前に跪く。
「いらっしゃいませ、お姫様。エスコートは私、怜四郎がさせて頂くわね。さあ、お手をどうぞ」
 紫の輝きを放つ瞳を、オルトリンデに向け、陶器を扱うように丁寧に手を取り、彼女をエスコートする怜四郎。
 テーブル席に案内されると、オルトリンデのテーブルに数人のホストが集まってくる。
「いらっしゃい。初めて見る顔だよね? オレはカナメ。隣いいよね?」
「は、はい」
「ありがと♪」
 そう言うと、胸元を開き、色気さえ感じさせるホスト、カナメ・クリュウ(蒼き悪魔・e02196)が、オルトリンデの隣に座ると、艶のある唇で。
「今夜の出会いに何か、カクテルで乾杯しようか?」
「は、はい」
 同じ答えしか返せないが、オルトリンデは内心ドキドキなのだ。
 オルトリンデはまだ17歳の未成年だ。
 そして、彼女は元々主人に仕えることで生きて来た為、こう言った、もてなされる側になることに慣れていないのである。
(「使用人の性、でしょうか……」)
「彼女に似合ったカクテルを」
 カナメがバーカウンターに声をかけると、白髪のバーテン、ファルシア・フェムト(精神年齢十八歳・e19903)が軽く頷き、シェイカーに数種のドリンクを入れ軽くシェイカーを振り、小さなグラスに注ぐと、オルトリンデのテーブルにゆっくり近づくと、グラスを差し出し。
「シンデレラ、飲み口が爽やかなノンアルコールカクテルです。あなたのイメージで作らせて頂きました」
 そんな言葉と共に、カクテルを手渡されオルトリンデの頬に朱が差す。
 その様を微笑みながら見つつ、ファルシアもドキドキしていた。
(「これでよかったんだよねぇ? 頑張って覚えたけど、こう言うの初めてだし、私普段お酒飲まないからねぇ」)
 ファルシアは、一見紳士の風格だが、記憶を地獄化していることもあり、精神年齢は10代である。
 大人の雰囲気を出すと言うのも実は一苦労なのだ。
「じゃあ、今日、キミと出会えたことに乾杯」
 カナメが手に持ったグラスを差し出すと、オルトリンデもおずおずとグラスを重ねた。
「カナメばっかり、お姫様を一人占めはずるいな。隣いい?」
 社交的な笑顔で尋ねるのは、篠田・隼斗(瑠璃水晶・e08361)だ。
「飲み物とか大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
 カナメとは別の意味で親しみやすさを感じるスタンスで、隼斗は笑顔を向けてくる。
 カナメが魅惑的なホストだとすれば、隼斗は親しみやすさを感じる。
「可愛いドレス着てるね。俺なんてスーツ苦手だけど、ホストだから無理して着てるんだよ」
 そう言って、隼斗は無防備な笑顔をオルトリンデに向ける。
 そんな時、黒い仔猫がゆっくりと、オルトリンデに近づき、甘える様に、膝の上に乗る。
「可愛い……」
 そう言って、オルトリンデはその黒猫、動物変身した、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)を優しく撫でた。
 キアリは、愛くるしいしぐさで、オルトリンデに甘え、カクテルのグラスを軽く叩いて、オルトリンデに飲み物を勧める。
 だが、そんなキアリも本来は10歳。
 ホストに関して殆ど知識が無いと言ってもいい。
(「ホストクラブって、男性が女性をおもてなしして、女性の警戒心を緩めて、お財布の紐も緩めるのよね?」)
 そんな、曖昧な知識でも今は立派な猫ホスト、オルトリンデに身体を寄せ甘えるのを忘れない。
「お姫様、楽しんでる?」
 怜四郎が優しい笑顔でオルトリンデの顔を覗き込む。
「あ、はい!」
「もっと、貴女とのお話楽しみたいんだけど、貴女の為にちょっとスペシャルな準備をするわね」
 そう言うと、怜四郎は、カナメとハヤトを連れて奥へ下がる。
 すると、入れ替わるように、大人の落ち着きを感じさせる黒髪のヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)と、スーツを着込んだ竜派のドラゴニアン、紫瞳竜・四(ドラゴニアンの螺旋忍者・e22130)がオルトリンデに微笑んだ。

●夢の時間
「シニョリーナ、君の時間を俺が少しもらってもいいかな?」
 黒のイタリアンブランドのスーツをスマートに着こなす、ヴィンチェンツォがオルトリンデに尋ねる。
「あ、よろしくお願いします」
 オルトリンデは緊張をほぐすように、キアリを撫でながら答える。
「私も一緒させてもらうな」
 四も一言言って席に座る。
 だが、落ち着き払っている、ヴィンチェンツォに対し、四はどうにも落ち着かないでいた。
 どうにも、このホストの派手なスーツが落ち着かないし、元々金が全てという価値観の四にはホストクラブに金を落とす女性の価値観も理解しがたかった。
(「大体こんな人相の悪いホストっているのか?」)
 竜派のドラゴニアンのホストはこの繁華街においては特に珍しい訳ではないと、ホストの作法をならっている時に咲次郎から聞いてはいたが。
 けれど、四は思わず自身の左目に走る傷を撫でる。
 そんなことを考えていると、ヴィンチェンツォの指示でファルシアが最高級のワインをグラスに注ぐ。
 それを見た途端、四は、胃が痛くなる思いだった。
(「作戦の為とは言え、そんな高い酒必要無いだろう……」)
 そんな、四の思いも知らず、ヴィンチェンツォはワインに口を付けると。
「このワインも悪くない。酔うには、丁度いい。だが君の魅力ほど酔えるものは今夜は無いがね」
 そう言って、オルトリンデの目を伏せさせている。
 たわいない話を続けていると、ファルシアがヴィンチェンツォに耳打ちをする。
「どうやら準備が出来たようだ。シニョリーナの為のスペシャルだ」
 ヴィンチェンツォの視線の先、隼斗、怜四郎、カナメがかなりの高さのシャンパンタワーを用意していた。
「君の魅力の引き立て役にしかならないが、このシャンパンタワーが俺達からのプレゼントだ」
「じゃあコール行くわよー」
 シャンパンを手にした怜四郎が場を盛り上げる様に言う。
 その時だった。
 クラブの扉が開くとすぐさま、何かが発射され『ガッシャーン!」と音をたてて、シャンパンタワーを崩壊させたのだ。
「コールなんてさせない!」
 入口を見ると異形のドリームイーターが怒りのオーラを出し立っていた。
「やっと現れたね」
 猫の姿から人の姿に戻り、キアリが言う。
「さてさて、これからがメインイベントの始まりだね」
 隼斗も得物の大鎌を手に笑う。
「あなたに同情しない訳じゃないけど、ホントの愛はお金じゃ買えないのよ。悲しいけど、ここはそういう場所なのよね」
 言いながら怜四郎は雷の障壁を作りだす。
「ドリームイーターに言うのもなんだが、夢の一時にようこそ。過激に熱烈に歓迎しよう」
 リボルバー銃の照準をドリームイーターに合わせ、ヴィンチェンツォが言い放つ。
「さあ、オレ達と楽しいことして遊ぼうか?」
 好色的な笑みを浮かべ、言った瞬間カナメは、ドリームイーターに駆け寄ると、流星の軌跡を描く蹴りを、ドリームイーターの胸元に決めた。
「夢の様な時間には終わりが来るんです。ワタシ達があなたの時間も終わらせます」
 斬霊刀を構えたオルトリンデはケルベロスの顔になっていた。

●無償の愛の裏側
「何の見返りも無く無償の愛を注ぐか……。私には理解できんな。良かったら教えてくれないか?」
 ドリームイーターを二本のナイフで切り裂きながら、四がドリームイーターに尋ねる。
「愛が欲しいのよ! 夢が欲しいのよ!」
 四の問いには答えず、ドリームイーターはクレジットカードを鋭利な刃物として投げつける。
「こう言う場所は思い切り楽しむ場所なんだよねぇ。無粋な奴はお引き取り願った上で出入り禁止だよねぇ」
 ファルシアがチェーンソー剣を横に薙ぎドリームイータに言い放つ。
 ドリームイーターに隙を与えないように、オルトリンデの斬霊剣とキアリの螺旋の一撃がドリームイーターにダメージを与えて行く。
「Numero.2 Tensione Dinamica」
 ヴィンチェンツォの放った銃弾は白銀の光を放ちながら、ドリームイーターを撃ち貫く。
 その途端、ドリームイーターの四肢の自由が制限される。
「お前のような存在を憐れまない訳でもないが、これも仕事なんだ」
 ヴィンチェンツォが静かに言い捨てる。
「許さない! 愛を! 夢を! 私は!」
 ドリームイーターが身体中のプレゼントを無差別に投げ、店内を爆発させていく。
「そう言うことされると迷惑なんじゃけど! 行くんじゃ! 茶太郎!」
 咲次郎は店内が破壊されていく様子に慌て、自らの犬型ファミリアをドリームイーターにぶつける。
「店の被害は、最小限の方がいいんだよな? これ以上は被害は出させないぜ! お姉さん、俺とちょっと遊んでいこうぜ!」
 隼斗の瞳が月の様な淡い光を放つと、隼斗の言葉が魅惑の言葉となり、ドリームイーターの瞳には、隼斗しか映らなくなる。
 ドリームイーターは隼斗に向かって走り寄ると、シャンパンのレーザーを隼斗に向かって放つが、すかさずそこへ、ファルシアがカバーに入る。
 カウンターをかける様にファルシアの炎の一撃がドリームイーターを襲っている隙に、キアリの分身がファルシアに癒しを施す。
 その間にも、ヴィンチェンツォのリボルバーが火を噴き、四のナイフがドリームイータを切り裂き、血液の代わりにグラビティを噴出させる。
「なんでよー! 私は愛が欲しいだけよー! その分の愛はあげたじゃない!」
 ドリームイーターが攻撃を受けながらも、己の欲を口にする。
「無償の愛を与えているつもりでも、どこかで何かが帰ってくることを願っていたんでしょうか?」
 オルトリンデが悲しそうに呟くと、瞳を閉じ……心に響く魔歌を紡ぐ。
「神怪き魔力に魂も迷う―波間に沈むる、人も神も」
 その歌は、ドリームイーターの精神に直接響き、ドリームイーターを迷い狂わせる。
「いやー! 私は! 私は! いっぱいあげたもの!」
「……人ってなんで、叶わないってわかってるのに、手を伸ばすんだろうね? 本当に愛らしくて、愚かだよね」
 ドリームイーターの言葉への返答なのかカナメがそう口にすると、ドリームイーターの身体は、蜘蛛の糸に絡みつかれたように、マリオネットの糸が絡まったかのような滑稽な姿になる。
「お店に来たならお客様」
 そう言って怜四郎がウインクと共に宙で弓を引くと、ハート形のオーラの矢が形成される。
「あなたのハートいただきよ」
 言葉と共に放たれた矢は、ドリームイーターのモザイクに覆われた胸を貫くと、ドリームイーターの動きを完全に止めた。
 そして、ゆっくりとドリームイーターは存在自体が夢だったかの様にモザイクを光らせながら消えて行った。
 ホストに無償の愛を求めていたはずのドリームイーターは幻となって消え、そのグラビティは、愛するホストを失った女性の元へと帰って行った。

●夜は終わらない
「相手の心を繋ぎ止めたくて貢いじゃうって、私も分かるのよねぇ」
 店内のヒールをしながら、怜四郎が寂しそうに言う。
「ほら、私って尽くす系だから♪」
 ウインクを付けて言う、怜四郎の本心は一体どこにあるのか。
(「貢いでしまう方がいるのも、納得してしまいますね。主に仕える気持ちに通じるものがあるのかもしれませんね。自分が望んでしているなら、幸せなのかもしれない……」)
 癒しの霧を店内に撒きながら、オルトリンデはそんな風に考えていた。
「咲次郎。貴重な調度品は表には出ていなかったんだよな?」
「大丈夫じゃ。数百万単位のものは、奥に片付けておいたからのう。そこそこのものはあったかも知れんが、ケルベロスカードで補填が効く程度じゃ」
 四は咲次郎のそんな返答に、胃が痛くなる思いだった。
(「そこそこのものって、いくらなんだ? 高い酒をド派手に使う作戦ってだけでも、頭が痛かったんだ、私は……」)
 金が全てだと考えているからこそ、無駄に使うことを嫌う四的には、精神的疲労が半端ではない。
「ほら、お前等! 手が止まってる! お片付けまでが仕事なんだから気合い入れてやろうな!」
 本業が清掃業だからなのか、隼斗は異様なやる気を見せ、活き活きと片付けとヒールに勤しんでいる。
 戦闘時より活き活きとしていると感じるのは気のせいだろうか?
 そんな中、ヴィンチェンツォは、ドリームイーターが消えた場所に灰皿を添えて煙草を置いた。
 自分達で消したものだが、女性の想いだった存在なのだからと……。
 一通り片付けが終わると、カナメが仲間達に向かって口を開く。
「さて、お仕事も終わったし、もう少し、この楽しい空間を楽しんで行こうか」
「……シャンパンタワーのやり直ししようよ。……見たかったし」
 キアリもおずおずと言う。
「いいわねー。シャンパンコールも結局やらずじまいだったし。皆でコールしましょう」
 怜四郎も笑顔で賛同する。
 怜四郎の内心にはもう一つの下心もあった。
(「皆のイケメンホストぶり、堪能しきれてないもの。折角だから癒されたいわよねぇ」)
「じゃあ、お酒を用意しますね」
 そう言ってファルシアがバーカウンターに入って行く。
(「皆さんの楽しい一時を一緒に楽しめるなら」)
 心が18歳のファルシアは、純粋にそう思っていた。
「ドンペリも飲んでみたいしね。いいんだろう、咲次郎?」
「まあ、今日は無礼講じゃなあ。好きな酒を選ぶんじゃな」
 カナメの問いに、咲次郎が苦笑いで答える。
「俺は年代物のウイスキーを貰おうか。宴はこれからだろう?」
 ヴィンチェンツォも夜をまだまだ終わらせる気は無いらしい。
 皆が宴の準備をしている中、ただ一人、四は帰り支度を始めていた。
「四は、飲んで行かんのか?」
 咲次郎が尋ねると、四は首を振り。
「新しい依頼を探しに行く。金を稼がないといけないからな」
 そう言って四は、店を後にしようとする。
 だが、四にも本心があったりする。
(「湯水のように金を使うとか私の精神が持たない……」)
 その気持ちを仲間達には言わず、四は『ブルームーン』を出る。
 店の中からは、ケルベロス達の賑やかな声が聞こえてくる。
 彼らの夜はこれからの様だ。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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