絡繰鎧武者

作者:刑部

 時刻は真夜中。
 佐賀県は鹿島市の市役所近くの交差点に、突如として2m程の怪魚が現れた。……その数3体。青白く発光する体で空中を泳ぐ様に体をくねらせる怪魚達。その軌跡が魔法陣の如く光を増すと、その中心の地面から引っ張り上げられる様に現れた者。
 それは2m程はある鎧武者のからくり人形の様に見えた。
 操り人形の様なぎこちない動きで四肢を動かした鎧武者は、体の調子を確かめる様に腰の鞘から太刀を抜く。
「コード……エラー……エラー……」
 小さな警報音を立てるその鎧武者は、ダモクレスなのだろう。カクカクカクと頭が揺れ、顎のパーツが落ちると、自らそのパーツを踏み潰した。どうやら知性は無い様である。
 暗がりの中、3体の怪魚はそのダモクレスの周りを嬉しそうに泳ぎ回るのだった。

「佐賀県の鹿島市で、怪魚型の下級死神の動きが確認されたで」
 そう言葉を発したのは杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)だ。
「また第二次侵略期以前に地球で死亡したデウスエクスを、変異強化した上でサルベージして持って帰ろうとしているみたいや。ほんま色んなとこに出よんなー鬱陶しいわぁ。ほっといたら死神の戦力が増えてまいよるから、多摩川の防衛戦もあって忙しいとこやけど、ちょっと行ってくれへんかな?」
 苦笑交じりに状況を説明した千尋がウインクする。

「場所は佐賀県は鹿島市の市役所近くの交差点や。2車線の三差路やな。現場は夜中やけど、街灯もあるから薄暗いけど見えへんという事はないと思う。
 ほんで、交差点を遠巻きにして警察が道路封鎖してくれてるから、町の人らの事は気にせんでえぇわ。
 で、奴さんらやけど、死神は2mの怪魚タイプが3体、怨霊弾放ったり噛み付いてきたりしよる。ほんで死神がサルベージしたんは、鎧武者のからくり人形みたいなダモクレスや。
 これも大きさ的には2mぐらいやな。得物は長めの刀身をもった日本刀で、死神に変異強化されとるからか、知性を失ってるっっぽいから、会話の成立は無理やと思う。本能のまま力任せに襲い掛かって来ると思うから気ぃつけや」
 千尋は現地の状況や敵の状態について質問に答える。
「鎧武者型のダモクレスもそのまま眠りたいやろうに、無粋な事するもんやで、まぁ出て来たもんはしゃーない。もう1回重力の鎖を叩き込んで、『死』を体験してもらわんとな」
 千尋はそう言って、ケルベロス達に赤茶色の瞳を向けたのだった。


参加者
ネル・アルトズィーベン(蒼鋼機兵・e00396)
ソネット・マディエンティ(自由という名の呪縛・e01532)
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
響・千笑(ガンスリンガー・e03918)
墓守・襤褸子(ボロッ娘三等兵・e12226)
レンナ・インヴェルノ(アリオーソ・e14044)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)

■リプレイ


 佐賀県は鹿島市。
 地面から引き上げられた鎧武者姿のダモクレスの周りを、3匹の怪魚が嬉しそうに泳ぐ。
「くるくると楽しげに泳いでますねー。でもそれもここまでよ。私達がきっちり撃ち落としてあげます!」
 大きく深呼吸した響・千笑(ガンスリンガー・e03918)が、両手で己の頬を叩いて気合いを入れる隣で、
「死したダモクレスを使役する死神達か……そのおぞましい姿、見るに耐えないな……ここで全てを終わらせる」
「ほんとネル様の言う通り、死神というのはやっかいなものです。ここで全て殲滅してしまいましょう」
 無表情のままそう断じたネル・アルトズィーベン(蒼鋼機兵・e00396)のアームドフォートがゆっくりと動いて砲口を向け、メイド服の裾を翻したリュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)が念の為に殺界を形成して頷くと、彼女のウイングキャットの『シーリー』が同意を示す様に小さく鳴く。
「エラー、エラー、コードヲカクニンセヨ」
 無理やり引き上げられた鎧武者のダモクレスから、同じ調子の機械音声が漏れている。
「死に損なったダモクレス、か。 知性も失ってしまっているなんて、ただ、ただ、苦しくて悔しいだろうな。僕達の手で早く楽にしてあげよう」
「マキナクロスに使い潰された挙句、行きつく先は死神の手駒、か。哀れな戦闘人形ね」
 ビハインドの『レノ』と寄り添いトナカイの耳をピクピクと動かしたレンナ・インヴェルノ(アリオーソ・e14044)が、エラー音を止めようと自身の脇腹を殴る鎧武者に悲しげな瞳を向け、かっての同族を見つめソネット・マディエンティ(自由という名の呪縛・e01532)がやれやれという風に肩を竦め頭を振ると、青いシルクのリボンに留められた髪が揺れる。
「倒してバラしたら自分の強化パーツの素材になりそうなのであります?」
 嬉しそうにそう述べ、鉄鍋ヘルメットを被って敬礼する墓守・襤褸子(ボロッ娘三等兵・e12226)に、同じレプリカントであるネルとソネットが、止めといた方が良いんじゃという視線を向けたが、司令官機として建造されながら、あまりの低性能故破棄された襤褸子は、自分の強化を思い描いて瞳を輝かせていた。
「眠っているところを無理やりに起こしてまた戦わせるなんて、酷すぎ、です。もういちど、しっかり眠らせてあげるのですよっ」
 自身の体より大きな鉄塊の如きハンマーをくるくると回した白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)が、鎧武者に人差し指を突き付け無い胸を張る。
「さぁ、行くか。死んだ後も利用されるなんざ、デウスエクスつッてもここまでされる謂れはねェだろう。さっさと終わらせて眠らせてやろう」
 シュっとナイフを構えたクラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)が一歩踏み出すと、吼えたボクスドラゴンの『クエレ』と他のケルベロス達もそれに続く。
「ビー……ビー……セッキンスルモノヲハイジョセヨ!」
 何らかのセンサーでもあるのか、鎧武者の内部から警報音が響くと、鎧武者がケルベロス達に体を向け刃を抜き、怪魚達も宙を泳ぎながらこちらに顔を向け牙を剥く。
 遠くに道路を封鎖しているのであろうパトライトの灯を見ながら、戦いの火蓋は切って落とされたのである。


「死神さんはみんなにおまかせです。思いっきりぼこぼこにしてくださいですねっ。……まゆの相手はあなたです」
 鉄塊の如き得物を構え鎧武者に対峙したまゆは、
「先手必勝、一撃粉砕! 全・力・全・開っ!」
 よく考えれば怒りを付与し、自分に攻撃を向けさせる手段を講じればよかったなと心の中で反省しつつ、一気に距離を詰め、敵の眼前で回転して得物を叩き付ける。
「カウンター……ハツドウ!」
 その一撃を受けながらも弧を描く様に刃を滑らせ、まゆの腱を狙う鎧武者。
 その脇を抜けるネルやソネットら仲間達が、鎧武者の後ろから迫ろうとする怪魚達に躍り掛かると、鎧武者がまゆを無視してそちらへ動こうとする。
「おっと、そうはさせないのよ」
「自覚しろ、てめェの価値を」
 続いて死神を相手取ろうとした千笑が銃口を向け足止めする様に銃弾を放つと、首を向けたクラムが声と共に牙を撃ち出した。その間にクエレもまゆに暗属性をインストールし、受けた傷の回復を図る。
「エラー……エラー……カイセキフノウ」
 音を立てながらも鎧武者が振るった刃がまゆを襲い、その流水の如き斬撃は襤褸子やレンナにまで効果を及ぼす。
「あなたの相手はまゆなのです。そちらには……させませんのですっ」
 胡蝶蘭の髪飾りで留めたピンクの髪を躍らせたまゆが、己の全身に地獄の炎を纏い死神と引き離す様に鎧武者を牽制する。
 リュティスの回復を補う様にクエレが飛び回る中、
「そちらは任せたぜ」
 まゆの様子を見たクラムは、声を掛けて視線を死神達に戻すと、仕寄った仲間に牙を剥く怪魚に鎖を伸ばし、
(「気負い過ぎないように、足を引っ張らないように……」)
 自分に言い聞かせた千笑が、ガトリングガンの銃口をその怪魚に向け、小気味良い音を立てて銃弾をばら撒いた。

 怪魚が大きく開けた口に並ぶ鋭い歯が空しく空気を噛んでカチカチと鳴る。
「どこを見ている? 私はここだ」
 噛まれる瞬間、一気に横移動したネルのアームドフォートが、その言葉と共に火を噴き、その弾を追い抜く勢いて距離を詰めたネルの刃に、剥離した装甲が結合し巨大な刃となって怪魚を薙いだ。
 黒い体液を垂らし悶絶する様に身をよじった怪魚が、千笑の銃弾を受けながらも前衛陣に向け怨霊弾を飛ばす。
 その弾をルーンアックスの刃の側面で撃ち返す様に潰したソネットが、
「自分の意志も思考も無く、ただ黙って命令に従うだけの様な奴は嫌いだけど、誰かを無理やり好き勝手に命令下に置いたり、使役する様な連中はそれ以上に、虫唾が走るぐらい嫌いなの」
 藍色の瞳に怒りを湛えて跳躍し、その斧を振り下ろす。
 残念ながらその一撃は怪魚の体をかすめただけで刃が地面を穿つが、その一撃を避ける様に無防備になった怪魚は、クラムとリュティスの攻撃をモロに食らい、逃げる様に後退しようとする。
「逃がすか! 手を汚さず仮初の命を与え事を成そうとする、目障りな死神供が」
 そうはさせじと追い縋ったネルが、叩き付ける様に振り下ろした刃に身を裂かれた怪魚に、
「二度と墓荒らしなんて無粋な真似できないようにしてあげるわ。機闘士拳術の殺神拳たる所以、その身を以て味わうと良いわ死神風情」
 ドン! と踏鳴を起こしたソネットの、右ジャブから始まる連続打撃を次々と次々と叩き込まれた怪魚は、ボコボコになって地面に落ち、その姿は霧散する様に掻き消えた。

「鮮血の花を咲かせて頂きましょう」
 そう言って最初に幻惑の糸を飛ばしたリュティスは、その後回復に追われていた。
 ネルやまゆ達に加え、自身とレンナのサーヴァント『シーリー』に『レノ』も加えた前衛偏重の布陣の為、怪魚の放つ怨霊弾の被弾範囲が広い為だ。
「次はそっちでいいよね?」
 そのリュティスの視線の先、怪魚の一体を歌声で押さえていたレンナが、ソネットの拳で1体が消えたのを見て声を上げ、もう一体を押さえるレノに視線を向けると、レノは怪魚に金縛りを掛けその攻撃をいなしており、
「くっくっくっ……嫌がらせなら任せるなのであります。正直、自分の同類を操るような奴らにムカついているなのであります」
 襤褸子がそのねじ曲がった気合を重力振動波にして2体の怪魚に叩き付け、クラムと千笑の攻撃がそれに続くと、踊る様に空中で一回転し前衛陣に怨霊弾を叩き付ける怪魚。
「まったく、バカの一つ覚えでございますね。何度やっても無駄でございますわよ」
 メイド服の裾を摘まんで軽く会釈をし、生きる事の罪を肯定する歌詞を紡ぐリュティスの歌声に今受けた傷が癒え、シーリーもその歌声に合わせて踊る様に宙を舞い、その翼を羽ばたかせた。
「お尻が焼け付くまで回ってやるであります!!」
 そんな中、次々と味方の攻撃を受け動きの鈍くなった怪魚に、襤褸子がズビシィ! と人差し指を突き付け、そのお尻を軸にコマの如くスピンしながら突っ込んで行く。アスファルトを削り煙を上げながら突っ込んでいく襤褸子が集中攻撃していた方の怪魚を跳ね上げ、レンナの方へと向ってゆく。
「ちょ、ちょっと襤褸子。こっちに来ないでよ!」
 慌てて跳び退いたレンナは、その勢いで腕を振り両バスターライフルの銃口の向きを変え、
「あなたの結末は、バッドエンドだよ」
 引き金を引くと、襤褸子に跳ね上げられた怪魚に魔力の奔流が叩きつけられ、その体が爆発四散する。
 そして残った1体には、目を回してお尻を赤くした襤褸子が、吐瀉物をぶっ掛けていた。
「……!!」
 その吐瀉物を受けた怪魚の体が痙攣し、びったんびったん地面を叩きながらのたうち回る。
「……襤褸子様のゲ……口からお出しになられた物に一体何の効果が……」
 リュティウスがその赤い瞳を見開く中、のたうつ怪魚は仲間の集中攻撃を受け遂に動かなくなった。


「くうぅ……」
 鉄塊の如きハンマーを弾き上げられたその胴に、緩やかな弧を描いた一閃が叩き込まれ、刻まれた衣服を赤く染めたまゆが呻く。
「メッサツ……メッサツ」
 カクカクと体を動かした鎧武者は更に畳み掛けようと腕を振るうが、その腕に黒い鎖が絡まる。
 ぐいっと引っ張られた鎖に体勢を崩し、
「後ろがお留守ですよ」
 いつの間にか距離を詰めたリュティスが、太腿に仕込んでいたナイフを手に側背から突き入れた。鎧武者が顔を向けずそのままリュティスを刃で薙ぐが、クラムの鎖に片腕を引っ張られており、一撃を加えて直ぐリュティスがメイド服の裾を躍らせ跳び退いていた為、刃は虚しく空を斬る。
「やらせるかッてんだ……チッ……こっちに寄ッてくるんじャねェよ」
 そのケルベロスチェインを手繰り寄せるクラムは、鎧武者が自身に攻撃目標をシフトしたのを感じ、クエレがまゆを回復するのを見ながら舌打ちして後退する。そのクラムと入れ代る形でネルと襤褸子。
「壊れた者を直すという芸当は不器用な私には難しいな……」
「貴君の身体は自分が有効利用させてもらうなのであります」
 レプリカントである2人は、かっての同族である鎧武者に憐みの視線を向け、ネルのブレードがその装甲を裂き、腕をドリルの様に回転させた襤褸子が、ネルの穿った傷口にその腕を突き入れる。
「シュウフクセヨ、シュウフクセヨ」
 そのダメージに復元回路を起動させる鎧武者が、闇雲に刃を振るって襤褸子とネルを押し返す。
「生憎、この程度で怯む私ではないのでな……」
 その刃をブレードで迎え撃ち、一歩も退かないネルの肩を使ってその頭上を飛び越え、
「元同胞のよしみよ。もう利用されることの無いよう、完膚なきまでに叩き潰す」
 ソネットが地獄の炎を纏わせたルーンアックスを振り下ろし、鎧武者の体に大きな裂傷を刻み鎧武者がその裂傷部に小さなスパークを起こし蹈鞴を踏む。
 着地したソネットの胸にCross Fortuneが踊り、
「こっちを見やがれ」
 クラムの上げた声に顔を向けた鎧武者は、クラムの構えた刃の刀身に映し出された何かを見て、
「デンジャー、デンジャー!」
 機械音声と共に狂った様に刃を振り回すが、その刃が振るう度に何かにぶつかった様に跳ね上げられる。
「今の内にちゃっちゃとトドメ刺しちゃってよ!」
 それは千笑がクイックドロウの的確な射撃を、鎧武者の持つ刃に撃ち込む事で起こる現象であった。
 そしてレノのポルターガイストにより舞い上がった砂礫が鎧武者に襲い掛かり、顔に飛びついたシーリーが滅茶苦茶にその顔を引っ掻く。
「シカイフリョウ……」
 視界を塞ぐシーリーの首根っこをむんずと掴み、放り投げた鎧武者が見たのは足の裏。
「あなたに贈るのもまた、バッドエンドなんだよ」
 レノの起こした砂礫を裂く様に跳躍したレンナが、ふわふわしたチョコレート色の髪を棚引かせて、重力を宿した蹴りを鎧武者の顔に叩き込んだのだ。その衝撃に頭が背中の方へガクンと落ち、
「これでトドメだ。全・力・全・開!」
 ソネットとネルの攻撃に合わせたまゆが、全力の一撃を叩き付けると、鎧武者の上半身が千切れ跳び、信号の鉄柱に叩き付けられた。
「ソンショウカダイ、フクゲンカイロエラー……エラー……エ……」
 スパークと煙を上げた鎧武者から機械音声が途切れると、夜の町に静寂が戻ったのである。

「今度こそ静かに眠れ、絡繰鎧武者よ」
「今度こそ、安らかな眠りに付いてね」
 残骸を前にレンナが静かに目を閉じ、千笑と一緒に黙祷を捧げる。
「残念ですが、全部ぼろぼろなのであります」
「死神に操られてたやつだぜ。使えたとしても止めといた方が良いと思うがな」
 鎧武者の残骸を色々調べた襤褸子が溜息と一緒に言葉を吐くと、小首を傾げたクラムが冗談とも本気ともとれない調子で口を挟んだ。
「こんどこそ、ゆっくり、です」
「建物の被害はこれだけでしょうか? ヒールっと」
 それで合ってるのかどうか分からないが、まゆが高級オイルを供える後ろで、リュティスが曲がった信号機にヒールを掛けていた。
「そうだ。討伐は完了したので解除してもらって構わない」
(「せめて、誰にも邪魔されずゆっくり眠りなさい」)
 ネルがアイズホンで道路封鎖している警察と連絡を取り合う中、ソネットが鎧武者の残骸に視線を向け、その瞳を閉じた。
 こうして佐賀県は鹿島市に現れた死神と絡繰鎧武者は、ケルベロス達の手によって無事討伐されたのである。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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