粉雪のデュエロ

作者:三咲ひろの

 粉雪がちらつく空の下、ひとつの決闘が始まろうとしていた。
「今日こそは決着をつけてやるぜ。そして俺達のチームの傘下にさせてやらあ!」
 赤い髪をツンツンと立たせた少年が、樹皮のように異形化した腕を突き上げて勝利宣言をすれば、彼が率いるグループの少年達が怒号の様な歓声を上げる。
「ふん、馬鹿に負ける謂れはないね」
 対峙する眼鏡の少年は、飽きれたように肩を竦める。後ろに控えた彼のグループの構成員が、それに合わせて赤髪の少年にブーイングを上げた。
「僕が勝って、仕方ないから軍団を躾てやるよ」
 蔦のように伸びた腕をひとふりし、アスファルトを叩き割った。

「……やはり、危険な力を手にしようとする若者が後を絶ちませんね」
 的中した事件にため息をついて、ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)は帽子の鍔を引いた。藤名・みもざ(ドワーフのヘリオライダー・en0120)はその後を引き継ぎ、事件のあらましを皆に伝えていく。
「あのね、若者グループが攻性植物の果実で異形化して抗争してるんだよう」
 若者グループ同士の喧嘩であればケルベロスが関わる事件ではないが、ここにデウスエクスが絡むのであれば見過ごせるものではない。
「勝ったグループが負けたグループを吸収してくから、このまま放っておくと大きな力を持った組織になっちゃうかもしれないの」
 攻勢植物が巨大組織化する前に、その芽を刈り取る必要があるのだ。
 現場は街の郊外。ケルベロス達は、決闘の場に乗り込むことになる。
 人通りはなく、デウスエクスの力を持たない少年達はケルベロスが戦いを始めれば勝手に逃げて行くので一般人を巻き込む心配は必要ない。しかし、敵が2体いるというのが厄介な点だった。
「もしも攻性植物同士が手を結んで、2体同時に相手をするようになったら勝利は難しいんだよう。2体のうちどちらか1体だけでも倒してくれたら、この作戦は成功だと思うのっ」
「これは……作戦を練る必要がありますね」
 みもざはジャックの言葉に頷いて、皆の顔を見渡した。
「みんなの知恵と力を合わせればきっと大丈夫。現場までびゅーんって飛ばしてくから、頑張ろうねっ!」
 ぐっと握る両手に、沢山の信頼が込められていた。


参加者
道玄・春次(花曇り・e01044)
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)
ルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)
マティアス・エルンスト(メンシェンリアリン・e18301)
ガンバルノ・ソイヤソイヤ(カオスの姫君・e18566)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
禍神・戮(殺人卿・e20532)
巽・清士朗(町長・e22683)

■リプレイ

●2人の決着
 空から落ちる粉雪が冷たい風に舞い遊ぶ中、少年達の戦いは激しさを増していた。
「あまり動くとバレるかもしれないけど……」
 桜の様な柔らかな色の髪に落ちる粉雪もそのままに、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)は双眼鏡を片手に物陰から顔をのぞかせた。彼女の前で繰り広げられるのは、通常ではあり得ない戦い。眼鏡の少年の長く伸びた腕が相手を絡め取ろうと蔦を伸ばし、赤毛の少年が樹皮と化した固い足をアスファルトに踏み入れて大地を浸食する。
 チームの代表として戦う彼らを、それぞれのチームメンバー達が大きな声で囃し立て応援していた。
「木の葉を隠すなら森の中と言うしな」
 腰パンにワーキングブーツ、パーカーの上にダウンベストを羽織り、ニット帽とサングラスを合わせれば、ちょい悪風のティーンファッションとしては完璧だった。巽・清士朗(町長・e22683)は周囲の少年達に同化する姿で、遠距離攻撃が届く距離を見定めて隠れる物陰を選ぶ。
 攻性植物が力を奮う度、いっそ無邪気なほどの歓声が上がる。
(「ほんまに……子供は可愛らしく雪玉投げ合って戦っとればえぇのに」)
 道玄・春次(花曇り・e01044)は白狐の面を隠すようにローブのフードを目深に引き下げ、纏う隠密気流で気配を殺した。同じ力を用いて潜むジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)は、まるでファッションのように容易くデウスエクスの力を振るう少年達へ諦念と憐憫の入り混じった視線を向ける。
「だが、彼らを終わらせてやるのも、私達の役目でしょう」
 小さな声を拾ったルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)は、同じ思いで頷いた。攻性植物となった彼らを助ける道があるなら迷わずそれを選んだだろう。けれど救いは叶わない。それならばデウスエクスを撃破し争いの種を刈り取ることがケルベロスの使命だ。
「ともあれ、ここまで騒ぎが大きくなれば倒すしかないでしょう。確実に行きましょうか」
 彼らが狙うのは、決闘の勝敗が決し空気が緩んだその時。弱った攻性植物を集中して叩く作戦だった。禍神・戮(殺人卿・e20532)は決闘を観察しながら、心に決める。攻性植物2体は、己が最も強いのだと言わんばかりに力をふるう。しかしその力を齎すのは外部要因――攻性植物に成り果て手に入れたものだ。力を身に着けるというのは、そんな安易なものではない。強さを履き違えた彼らを見据えて、戮は己の刀に指を添える。
「斬ろう。――二つ共」
 2体を相手にするリスクは拭えないと知りつつ皆で選んだ作戦の立案者のひとりであるガンバルノ・ソイヤソイヤ(カオスの姫君・e18566)は、動かない表情の下で胃がキリキリと痛むような思いを抱える。
(「二体とも倒したいのは山々というかすっごい倒したいんですがこっちの被害が大きいとストレスがマッハというか……!! ぜ、全員帰れるようにしっかり回復頑張りますっていうか頑張るしかないというか……!!」)

 攻性植物同士の戦いは、華僑に入っていた。激しい打ち合いに周囲が歓声を上げる。押されているのは赤い髪の少年だろう。戦況を見定めたマティアス・エルンスト(メンシェンリアリン・e18301)は死角となる物陰に潜み、機を待った。
「単純馬鹿だと思ってたけど、君、結構イイ線行ってたよ」
 力比べのように腕を交錯させたまま、眼鏡の少年が最後の一撃を放つ。至近距離でそれを喰らった赤毛の少年が、派手に吹っ飛び背中を打ち付けた。
「これで終わり。いいよね? 部下にしてあげるよ」
 勝利を確信した眼鏡の少年はしっかりした足取りで敗者に近づくと、身を起こすための手を差し伸べる。
「……はっ、仕方ねぇ。手下になってやるよ」
 オーディエンスから大きな歓声が上がる中、赤毛の少年がその手を取った――次の瞬間。
「――照準完了、発射」
 マティアスの放ったフォーレストキャノンを皮切りに、ケルベロス達の遠距離攻撃が赤毛の少年に降り注いだ。

●偽りの戦い
「……なっ! 何者だっ」
 一斉に飛び出して来たケルベロス達に、2体の攻性植物が慌てた様子で振り返る。
「もはやこいつの力などあなたには不要! 組織に象徴たる花は、一輪あれば宜しいのです……!」
 清士朗は赤毛の少年に斬りかかりながら、攻性植物の力に心酔し勢い余ったチームメンバーの行動と見せかける。
「胸の空く思いだね。其処の赤髪の彼には借りがあるんだ。この菓子折りに免じて止めを譲ってくれないか? 部下諸君には危害を加えないからさ」
 戮が差し出す和菓子の菓子折り手に取った攻性植物は、戮の褒め言葉を気分良さそうに聞く一方で眼鏡の奥の眼を訝し気に眇めた。
「さっきの聞いてた? 僕が勝ったから、全部こっちの部下なんだけど」
 トドメを刺して戦力を削げば、自分の利益は薄いと肩を竦める。
「アンタの強さに惚れたわ」
 春次はそう言って眼鏡の少年を持ち上げると、ここで相手を倒す利を説いていく。
「王様は一番に強い1人で十分やろ? 生かしたらまたアンタの座奪うかもしれんしな。俺達やってこう見えて強いんやで、見てて」
 言って、【 ファルセダー 】で召喚した「ユメの精霊」で赤毛の少年を貫いて見せる。
「ふぅん、面白い手を使うね……いいよ、これを食い終わるまでは見学しておこう」
 攻性植物は受け取った菓子折りの箱を開け傍観の姿勢を取ったが、完全に彼らを信用した様子ではなかった。彼らが仕掛けたタイミングは敵の疲弊が大きいのが最大のメリットだが、攻性植物同士の敵対関係に決着がつい後であるため勝者の攻性植物側にとって利に薄い点は否めないだろう。そのため共闘までには至らなかったが、1体ずつ相手取るための工夫は半ば成功したとも言える。ルルリアレレイはそれ以上の言葉を重ねるより手早く1体を倒し切ることが肝要と見て、前衛に守護星座の光で状態異常に対する耐性を付けていく。
「終わったタイマンに横やりを入れる卑怯モンには、俺のこの力だけで十分だっ」
 赤毛の少年が叫び、激しく地面を踏み鳴らす。融合した大地が全てを飲み込もうと咢を開けた。巻き込まれた後衛の一群に、ガンバルノがヒールドローンを打ち上げる。
「癒しの音楽よ、仲間を助けてあげて」
 ドローンで取り去り切れなかった催眠は桜子の歌声で拭われた。
 赤毛の少年は攻性植物の力を縦横無尽に振るい次々に仕掛けてくる。消耗をした1体と言えども看過できない戦闘力だった。その一撃は重く響き、手早くヒールをしても回復できないダメージがじわりじわりと降り積もっていく。
「……軌道計算完了」
 マティアスは紫眼に映る標的の動きを計算に入れて、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放つ。攻撃は戦闘機としての本分。近頃豊かさを備えて来た人間味より、戦闘機としての雰囲気が際立っていた。
 自らの武装を着慣れないストリート風から馴染んだ羽織袴に篭手、手甲の侍風に変じ、清士朗が獲物を構える。
「残念だがもう人には戻れぬ。切るぞ――降魔」
 魂を喰らう攻撃は過たず赤毛の少年の左腕を捉え、続く戮の蹴りが延髄を強かに打ち据えると攻性植物の口から絶叫が上がった。
 ルルリアレイのミミックのガルガンチュアが攻性植物の足に噛みつき動きを抑え、すかさずジャックが松明持ちのウィリアムを放った。
「大きすぎる力を手にした者の末路など 大体どれも一緒です。……彷徨い続ける愚かな魂の火をお見せしましょう」
 火炎弾が赤毛の少年の足元で爆発を巻き起こす。消えぬ炎に撒かれた攻性植物が、異形化した腕を激しく振り回した。
「っと、あっぶな」
 捕食しようと迫る蔦を春次は跳躍で避け、着地と同時に突き出した掌から竜の幻影を放つ。ボクスドラゴンの雷蔵も春次に続いてブレスを浴びせかけた。連撃を浴びた攻性植物の体が大きく傾ぐ。
 あと一撃だ。それで決まる。悟った戮は、音もなく抜いた刀を青眼に構える。
「鍛錬も積まず、貰い物の力に振り回され、徒に牙を剥いて回るか。さぞ愉しいだろう、無軌道な破壊は」
 皮肉のような言葉と共に、長刀をゆらりと振るった。
「しかし力には責任が付き纏う。誰かを傷つけられるのは、傷つけられる覚悟のある者のみだ。――その覚悟はあったか、少年」
 地面を叩く音すら置き去りにした真っ向から踏み込み。卓越した技量から成る一撃は、苛烈の一言に尽きた。攻性植物は避けることもできない。終わった。と、赤毛の少年を含めた誰もが思った。
「ご馳走様。そろそろ参戦させてもらうよ」
 その一撃を代わりに受け止めたのは、眼鏡の少年の異形化した右腕だった。

●粉雪降って
「漁夫の利を狙うのは、君らだけじゃないよ」
 小悪党の笑みを浮かべ、眼鏡の少年は空になった菓子折りの箱を投げ捨てる。続けた台詞は赤毛の少年に対するものだった。
「足手纏いはさっさと消えろよ」
 見れば今までいたチームメンバー達は疾うに逃げていた。炎と氷でじりじりと灼かれる痛みに顔を歪めた赤毛の少年は、悔しそうに唸り立ち上がる。しかし、逃亡意志を察したルルリアレレイが逃げ道を塞ぐように素早く回り込んでいた。自棄のように繰り出される捕食形態の攻撃を、彼女は正面から受け止める。
 2体目の攻勢植物との戦いがは避けられない流れに、ジャックは新たな1体の行動を阻害するために攻撃をしかける。サイコフォースの武器封じが幾重にも取り巻くのを感じ、眼鏡の少年が舌打ちをした。
 それでも妨害の間を縫って、眼鏡の少年の足が大地を浸食する。ぼこぼこと音を立てて地面から突き出た攻性植物の攻撃は威力が削がれていても十分強力なものだ。
 ガンバルノは唇を噛み、間を置かずに2体から攻撃を受ける形となったルルリアレレイに真に自由なる者のオーラを施し、清士朗が新たな戦線を支えるために紙兵を大量に散布させ、仲間の守護を強化した。
 
 クラッシャーとスナイパーを多く配して火力を重視したことで攻性植物1体を間際まで追い詰めたものの、新たな攻性植物の参戦が天秤を逆に傾けるような大きな流れを作っていた。けれど、そんなアクシデントの中でも当初の作戦――敗者側の1体を集中攻撃で倒すことは忘れていなかった。
「桜子たちも簡単には負けたりしないよ。さぁ、この攻撃を受けなさい!」
 桜子は普段は優しく和む眦をきりりと釣り上げて、赤毛の少年に狙い澄ました攻撃を放った。桜子が創り出した桜の花弁は赤毛の少年の姿を飲み、一斉に弾ける。紅蓮の炎が渦巻き、粉雪が一瞬溶け消える。その後に残されたのは、動くことのない黒炭の塊だけだった。
「……! ケルベロスか」
 人の攻撃では死なないデウスエクスに死を与えた彼らの正体を知って、眼鏡の少年は大きな跳躍で距離を取る。
「それで、君は続けますか? 続けると言うのなら、争いの種を刈り取る戦いを私達は惜しみません」
 ルルリアレレイは少年達へ言葉を向けながら、仲間の戦力を確認する。2体を相手にする無理の中で健闘し、1体の撃破をもぎ取ったケルベロスとて無傷ではない。体力を削られた者が目立っていた。
 1体を倒したことで、目的のひとつは達せられた。次に手を出すか否かは彼らの裁量の内にある。
「ここはお互いに、被害は抑えたいでしょう」
 余計なことは喋らずクレバーな戦闘に徹していたガンバルノがゆっくりと口を開いた。無軌道な戦いに仲間達を投じるわけにはいかない。
「そうだね」
 攻性植物側も異論なく、小さく肩を竦めてあっさり身を翻した。忸怩たる思いで建物の陰に姿を消した攻性植物の背を見送れば、辺りに静けさが落ちる。それまでの苛烈な戦いが嘘のようだが、路上に転がる黒い炭の塊は偽りではなくひとつの命の終わりの証左。舞い落ちる粉雪が積もる端から崩れ消えていく攻性植物を見下ろして、ジャックはゆるく首を振った。
「こんな力を手に入れ挙句の果て死んでしまう……愚かですよ、本当に」
 力を手に入れようとする愚かで憐れな少年達は、この街にまだひしめいている。
「人も降魔も死ねば神……寿ぎ申し上げる」
 2拍の開手が鳴らし、清士朗は思いを昇華させるように雪空を見上げた。
「……やがて暴力に依存しない一般人の暮らしを見出してくれると良い。そう、願う」
 マティアスの声は祈りのように、粉雪の間に解けた。

作者:三咲ひろの 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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