夕陽の空、地を這うモノは

作者:幾夜緋琉

●夕陽の空、地を這うモノは
 静岡県と長野県の県境にある、青崩峠。
 山腹に拡がる、むき出しになった青い岩盤から、この名が付けられたと言われるここ。
 県境の石碑や木札があり、ここが県境で在る、と改めて認識出来る。
 が……そんな県境の稜線を少し、熊伏山の方へ移動した所を、登山服に身を包んで進んでいる若者達。
 ちょっとした登山を楽しみにやってきただろう彼ら。
 ……そんな彼らの脚元を、もぞもぞと歩んでいるのは……カブトムシ。
 でも、その姿は小さくて……山登りに夢中な若者達は、プチッ、と踏みつけてしまう。
 ……ジタバタ、そして動きを止めたカブトムシ……と、次の瞬間。
 その場に現れたのは……カブトムシの姿をした、ローカスト。
 勿論、そのサイズは人並みの大きさ。
 そして……ローカストは、背後から、若者へ襲いかかる。
 突然襲いかかられ、驚く若者……背後から襲われた一人を覗き、残る若者達は。
『う、うわぁああ、なんだよ、やべーよ!!』
 と、混乱の極みの中……彼を置いてきぼりにして、逃げていくのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まって戴けた様ですね? それでは、早速ですが、説明を始めさせて戴きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに一礼すると、早速説明を始める。
「今回の依頼ですが、デウスエクスの一つ、ローカストが新たな動きを見せているようで……それの対応をお願いしたいのです」
「このローカスト……今迄のローカストとは違い、知性の低いローカストが、グラビティ・チェインの奪取の為、地球に送り込まれている様なのです」
「これらローカストは、知性が低い様です。ですが……その代りという訳ではないのですが、戦闘能力に優れた個体の様なので、戦う際には注意が必要かと思います」
 そして、セリカは続けて詳細な状況の説明を続ける。
「このダモクレス、姿形は巨大化したカブトムシになります。そしてカブトムシは、逃げ遅れた若者の方に上からのし掛かっており、その首筋からアルミ化液を注入しようとしています。とりあえず、先ずはこれを妨害する事が先決となります」
「無事に若者を救出した後は、彼を守りながら、ローカストを倒す事になります。一般人の方は、襲われた瞬間に足を挫いた為、その場から逃げることが出来ません」
「つまり、彼を守りながら、ローカストの熾烈な攻撃……鋭い角による攻撃と、羽根を震わせての破壊音波の攻撃に対応する必要があります」
「先ほども言いましたが、このローカストは知性が低く、攻撃一辺倒です。回復をすることはありませんが、それをカバー出来る位の高攻撃力と体力を持っていますので、万が一にもその攻撃を若者へ遠さない様、注意して下さいね」
 そして、最後にセリカは。
「何にしても、ローカストの横暴をこのまま放置しておく訳にはいきません。皆さんの力で、ローカストを確実に倒してきて貰えますよう、宜しくお願いしますね」
 と、微笑み送り出すのであった。


参加者
不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)
レーベン・ヴァルター(エグゼクター・e01734)
龍泉寺・咲夜(煌焔武侠・e02115)
ラピス・ウィンディア(箱庭の魔女・e02447)
ニクス・ブエラル(枷ニ非ズ・e06113)
ソーニャ・ニコラーエヴナ(ウェアライダーのガンスリンガー・e16217)
立華・架恋(ネバードリーム・e20959)
水嶌・杏理(犬の王子様・e22795)

■リプレイ

●虫蠢く
 静岡県と長野県の県境にある、青崩峠。
 むき出しになった葵岩盤が見えるという山腹、その県境の稜線を熊伏山の方へと少し移動した所に現れるのは、カブト虫型ローカスト。
 人並みの大きさまで大きくなるローカスト……一般人からすれば、恐怖を感じる存在であるのは間違い無い。
 その救出の為、ケルベロス達は稜線を駆けていた。
「でかいカブトムシか……すげー強そうだな! って、倒さなきゃなんねぇんだった……」
「そうだなぁ……標本にして売ったら、いくらぐらいになっかねぇ、と思ってたが、そんな事言ってる場合じゃねぇな。まずは仕事をきっちりやっかねぇ」
 水嶌・杏理(犬の王子様・e22795)と不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)、それにレーベン・ヴァルター(エグゼクター・e01734)が。
「なんと言うか、新年早々にローカストに選ばれるとは、ツイて無い奴も居たもんだ。だがまぁ今ならまだ凶だし、大凶にならないよう、祈ってるんだな」
「そうだな。どんだけ強かろうと俺の敵じゃねぇけどな!!」
 自信満々に言う杏理。
 ……と、そんな三人の会話に龍泉寺・咲夜(煌焔武侠・e02115)が。
「まぁ、大きな甲虫。故郷の子供達が見たら大喜びですね。やはり怪力自慢なのでしょうか……力比べですね」
 と微笑む一方、ソーニャ・ニコラーエヴナ(ウェアライダーのガンスリンガー・e16217)とラピス・ウィンディア(箱庭の魔女・e02447)、ニクス・ブエラル(枷ニ非ズ・e06113)らも。
「カブトムシさんにしては、こんな寒い中でちょっと元気が良すぎますねぇ……」
「そうよね。この季節にカブトムシ、か……カブトムシは越冬出来ないと聞くけど、このローカストも同じようね」
「うん。こんな季節にカブトムシ、しかもローカストなんて……この人達も災難だね。でもまあ予知されている以上、見逃す訳にもいかないしね」
 ……と、そんな事を言っていると。
 向かいの方から、息を切らせながら走ってくる男の姿。
『はぁ、はぁ、はぁ……た、たすけ、たすけてくれぇえ……!!』
 と、ケルベロス達を見るなり、すぐに命乞いをしてくる。
 そんな彼に、立華・架恋(ネバードリーム・e20959)は。
「大丈夫……もう大丈夫よ。私達が、貴方達を護るから。だから……一端避難して。青崩峠なら、安全だと思うから、そこでまってて」
『わ、わかった。ああ、頼む、俺の友達が、何かよくわからん奴に捕まってるんだ。そいつも助けてくれぇ!!』
「勿論よ。大丈夫……安心して」
 架恋の言葉に、たのむ、頼むぞよぅぅ、と言って……そして彼はそのまま、ケルベロス達の来た道を帰っていく。
「……仕方ないな。良し、行くぞ」
 と、レーベンの言葉に頷いて、ケルベロス達はローカストの居る所へと急ぐのであった。

●角の光
 そして、救いを求める男と別れてから山間の稜線を急ぎ、約三分。
『や、やめろ、やめろぉおお……!!』
 聞こえてくるのは、叫び声。
 それと共に。
『ウゥゥゥ……!』
 声ではない、唸り声と、争い合う声が聞こえてくる。
 そんな乱闘現場の声の下へと急ぐ……そして、巨大化したカブト虫ローカストが、青年の上に馬乗りになっている場面に遭遇。
「余裕もありませんね……ラピスさん」
 と桜夜の言葉に頷き、そしてラピスが先陣切って。
「さぁ、踊りましょう」
 と、黒影弾の一撃をローカストの頭に打ち込む……それと共に、直ぐにケルベロス達が突撃。
「うっしゃー! 行くぜ相棒。思いっきり暴れてやろうじゃないか!!」
 ローカストに対して、レーベンのクイックドロウや、桜夜の螺旋掌、杏理のゾディアックソードの一閃が、そのカブトムシの頭の角に叩き込まれ……馬乗り耐性から、後方に向けて跳ね飛んでしまう。
 馬乗り解除された瞬間に、一気に架恋が接近し、馬乗りされていた男を抱え上げる。
 そして抱え上げた後は、そのまま一端戦線離脱……ニクスも架恋をサポート。
 しかしローカストは、そんなケルベロス達、一般人に追いすがろうとする。
 ……でも、そんなローカストの前に立ち塞がる形で、ソーニャ、咲夜、杏理が。
「させませんよ」
「ふふ、此処から後ろへは行かせませんよ。お相手します」
「どこ見てやがんだ。お前の相手はこの俺様だ!」
 宣言すると共に、バトルオーラを更に燃え上がらせ、微笑む咲夜……そしてソーニャがジョブレスオーラでBS耐性を付与すると、梓も。
「ずっと使ってなかったから忘れったが、そぃやこんなもんあったけねぇ」
 と言いながらヒールドローンを展開する。
 ……そんなケルベロス達の動きに、カブト虫ローカストはキキィ、と奇声を上げて威嚇。
 そんな威嚇するローカストに対しても、全く動じることはなく。
「さあ、純粋な力比べではありませんが、体格差もありますので許してくださいね」
 と、咲夜は言いつつ、旋刃脚で蹴りつけると、更に杏理も旋刃脚、ソーニャはハートクエイクアロー。
 更にレーベンがクイックドロー、ラピスの死天剣戟陣……と、次々激しい攻撃で嗾けていく。
 そんなケルベロス達の猛攻で、ローカストの注意を完全に惹きつけておき……その間に、架恋とニクスは、安全な所まで彼を背負い、運んでいく。
 戦闘音が聞こえなくなる位まで離れた所に辿り着くと。
「ふぅ……ここまで来れば、大丈夫だろう」
「そうね……」
 とニクスに頷き、彼を降ろす架恋。
 青年は、驚愕の表情を浮かべていて……襲われたことに対して、まだ動揺している様で。
「大丈夫?」
『はぁ、はぁ……な、なんだったんだよ、あれぇ……』
 半ば涙目の青年。それに架恋、ニクスは。
「あれはローカスト……あのままだと、ローカストにアルミ化液を注入される所だったわ」
「いい? 急いで逃げるんだ。青崩峠に君の仲間も逃げたはずだから、そこに行けば合流出来る筈だよ」
 と、ケルベロス達の言葉におずおずとながら頷き、そしてちょっと足を引きずるようにしながらも、その場から逃げていく。
 ……そして青年の離脱を見送りながら、二人は仲間達との合流に、再度、稜線を急ぎ戻るのであった。

 そして、戦闘開始から8分程が経過。
「ったく、こんなとこでやられてやるわけにはいかねえんだよ! おら喰らえぇ!」
 と杏理が降魔真拳で殴りかかると、咲夜が指天殺、ソーニャの武神の矢がローカストの体力を削り、一方レーベンが螺旋掌、ラピスの禁縄禁縛呪等が、次々とバッドステータスの付与を行う。
 それに対して、ローカストは力強いパワーアタックで、ケルベロス達を押し込んでいく。
 一発一発が、とても強力なローカストの一撃。雄々しいカブト虫の角が、服を切り裂き、時折羽根を擦り合わせて不快な音を響かせ、破壊音波攻撃を付与していく。
 しかし、そんな攻撃に対し梓が。
「おぉおぉ、みんな愉しそうにやりあってんなぁ……」
 とちょっとぼやきながらも、ローカストの攻撃から仲間を守るために紙兵散布やヒールドローンでの仲間の強化を。
 一方、架恋のウィングキャット、レインは清浄の翼で、ローカストから喰らったダメージの回復に飛び回る。
 ……そして、10分程が経過した所で。
「お待たせ。戻ったよ」
 とニクスの言葉に頷く架恋。
 ケルベロス達全員そろい踏み。
 しかし、ローカストは。
『ウゥゥ……!!』
 唸り声を上げて、前に前に出て攻撃し続ける……回復等はしない、正しく狂戦士。
 しかしそんなローカストの猛攻を、梓に加えニクスも回復手に加わり、ウィッチオペレーションでの重点ヒール。
 そして架恋は、スターゲイザーや縛霊撃で。
「ここは……通さない」
 と、防衛陣よりも先には絶対に通さないという強い意志で、ローカストに対峙。
 そして、戦闘開始から、十数分。
 ローカストのT字の角の片方が、ポキリと折れる。
『グアアア……!!』
 かなり痛がるように、身体を震わせるローカスト。
 そんなローカストの動きに、咲夜が。
「隙あり……今がチャンスです」
「ああ!」
 頷く杏理が前に出て、そして。
「恨むなら、俺の前に現れちまった不運を恨め、あばよ!!」
 渾身の降魔真拳が、角に命中……角が根元からポキッ、と折れると共に、ラピスが。
「カブト虫は越冬出来ないわ。貴方もそう……カルコサの夢を抱いて眠りなさい」
 とラピスの宣告と共に、飛翔鳳凰裂蹴撃がその胸元に一閃。
 その一閃は、ローカストの体躯を貫いて……ローカストは絶叫と共に、崩れ墜ちた。

●折れた角
「これでおしまい……安らかに眠りなさい」
 と、架恋が、倒れたローカストに一言呟く。
 そして、完全にローカストの姿が消え失せた所で、改めて周囲を見渡す。
 当然ながら、何もない空間……ただ、ローカストと青年、更にケルベロスとの戦闘の痕跡は、いろいろな所に残っている。
 その痕跡を、軽く咲夜、梓がヒールを飛ばしてあらかた修復。
 大方終わった所で。
「これで……大方終わりだよなぁ?」
 と、梓の言葉に。
「まぁ……後は、一応青年がちゃんと合流出来たかを確認した方がいいかな?」
「そうですね……合流出来ているか、ちょっと心配ですし」
 とニクスに頷く咲夜。
 そしてケルベロス達は、青崩峠まで戻る。
 そこには無事に、合流出来ていた二人の姿。
 そんな二人に、ニクス、梓が。
「なんとか終わったよ……君も災難だったね」
「そうだなぁ。でもま、次からは気ぃつけろよ?」
 二人の言葉に、こくこく、と頷く。そして咲夜が。
「それでこれからどうするつもりでしょう? ……足を挫かれた様ですし、ムリはしない方が良いと思いますが……」
 と言うと、それに。
『も、勿論勿論帰りますっ!!』
 ……心底もう恐怖したらしい二人。
「分かりました……それでは、山を下りるまではお送りしましょう」
 と咲夜の提案に、他の仲間達も。
「ま、仕方ねえよな。俺達がいるから安心しろよ!」
 杏理の自信満々な言葉を聞いていると、何故か不思議と安心出来る。
 そして二人と共にケルベロス達は、山を安全に下るのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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