泳ぐ魚

作者:猫鮫樹

 街灯がぽつりぽつりと光る深夜の市街地。
 夜が深いこの時間帯には、人の気配がほとんどなかった。
 さわさわと風が緑を揺らす音だけが響き、この場所を隔離しているかのように感じる。
 ふわりとその中を青白い光が三つ動く。
 大きさは2mくらいの魚だ。深海魚のようにどこか歪なその魚は、ゆらゆらと泳ぎまわっていた。
 規則正しく、何かをなぞる様に、その三匹の魚はゆらゆらと泳いでいく。
 円を描くように、直線を描くように、その青白く光る体を右へ左へと、ヒレを動かし泳いで回る。
 次第に魚たちの青白い光が残ると、そこには魔方陣のようなものが描かれた。
 描き終わった魚たちが魔方陣のような物から離れると、淡く強く魔方陣のような物が光りだした。
 中央の光が強くなり、ゆっくりと弱まると、そこには過去にケルベロス達の手によって殺されたヴァルキュリアが現れた。
 光の翼と女性の姿はそのままに、腕があるはずのその部分から獣のような大きな腕が生えている。
「みんなー! 死神の活動が確認されました!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の明るい声が響いた。
「深夜の市街地でお魚さんの姿をした死神なのです」
 ぴょこぴょことねむは自分の手をヒレのように動かしながら説明をする。
 浮遊する魚型死神は、どうやら第二次侵略期以前に地球で死亡したデウスエクスを変異強化し、サルベージし持ち帰ろうとしているらしい。
「かなり下級の死神なのですが、変異強化したデウスエクスを戦力に連れていかれては大変なのです」
 魚型死神と復活したデウスエクスを倒してくださいとねむは言った。
「復活したデウスエクスはヴァルキュリアです、ただ変異強化によってその姿はもとのヴァルキュリアと違うのです」
 ねむは両手を上にあげて、軽く振りながら続けた。
「なんと! 両腕がヴァルキュリアの体より大きな獣のような腕に変わっていて、まるで攻撃だけしかしないような行動をとるみたいなのですよ!」
 ヴァルキュリアの姿を現すように、小さな体を一生懸命ねむは動かし、ケルベロス達に伝える。
 可愛らしいねむの姿にどんなヴァルキュリアなのか想像つかないのか、ケルベロス達はじっとねむを見つめた。
「変異強化したヴァルキュリアは何も考えず攻撃のみをしてくるみたいです、お魚さんもみんなに倒されないようにと『噛み付く』や『怨霊弾』で攻撃してくるので気をつけてください!」
 ねむはふぅと息を吐き、姿勢を正しケルベロス達を見つめた。
「深夜の市街地にはほとんど人気はないので、多少派手になっても大丈夫なのです。変異強化したヴァルキュリアとお魚さんを倒してください」
 ねむはそう言うと、よろしくお願いしますねとお辞儀する。
「ねむはみんなが倒してくれるのを信じてまってます!」
 少し照れくさそうにねむは笑った。


参加者
囃羽・宴(カルヴァニレ・e00114)
三十世・紀梨(フェイクアペアー・e01307)
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)
北十字・銀河(オリオン座に憧れて・e04702)
アオイ・ヤキマ(風渡る異邦人・e12081)
エレノア・エリュトゥラー(小さな船頭さん・e15414)
フィニリオン・グランシア(春霞抱擁・e18426)
水映月・黒江(シャドウエルフの鹵獲術士・e18985)

■リプレイ

●市街地にて
「ぐるるるるるる……」
 深夜の人気のない市街地に、響き渡るは低い唸り声。
 光の翼を携えた女性の姿からは想像もつかぬその声と両腕。
 魚型死神により呼び起こされて変異強化したヴァルキュリアは、街灯に照らされている。
 大きな腕を振り回し、手当たり次第に破壊していた。
 その周りを魚型死神はゆらゆらと泳ぎ回る。
「ああ、そのような醜い姿に変わってしまったのですね」
 水映月・黒江(シャドウエルフの鹵獲術士・e18985)は殺気を放ち、そう静かに呟いた。
「死者を冒涜する行為、如何なる理由があるにせよ許すわけにはいかぬ。」
 黒江に合わせるようにアオイ・ヤキマ(風渡る異邦人・e12081)も口を開いた。
 現場についた他のケルベロス達も各々、動きやすい位置につくと各自武器を構える。
 ヴァルキュリアはゆらりとこちらを一瞥すると、低く唸り両腕を地面に叩き付けた。
 それに応えるように魚型死神は、ゆらりとヴァルキュリアのまわりを泳ぐ。
「ミモザ、一緒に頑張ろうね」
 フィニリオン・グランシア(春霞抱擁・e18426)は、ミモザと呼んでいるウィングキャットの左前足を優しく握り、額を合わせるとすぐに星彩のオリゾンで仲間の守護を願う。
 それに続いて文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)は脳髄の賊活を使い、宗樹にくっついていたボクスドラゴンのバジルが、自分の主のためにと支援した。
「援護は任せろ!」
 ゾディアックソードを大きく振るい、星天十字撃でヴァルキュリと魚型死神に攻撃をしたのは北十字・銀河(オリオン座に憧れて・e04702)だった。
「私も援護いたします! 行くよ、オリーヴ!」
 エレノア・エリュトゥラー(小さな船頭さん・e15414)がサーヴァントのナノナノに声を掛け、ヴァルキュリアの横を泳ぐ一匹にエスケープマインを仕掛ける。
 攻撃されたヴァルキュリアの両隣にいた魚型死神は、体勢を立て直すとその口を大きく開け、噛み付こうと泳ぐ。
「お前邪魔なんだよ」
「我が技でその魂に安らぎを」
 その攻撃が届く前に囃羽・宴(カルヴァニレ・e00114)の千火殲尽、アオイの緋炎脚の炎が二体の魚型死神を襲う。
 避けきれずに炎を受け、なんとかそれでも泳ぐ魚型死神。
「ぐるるるるる……!」
 魚型死神が攻撃を受け泳ぐ最中、ヴァルキュリアが唸ると叩きつけるかのように両腕を宴達に向けてくる。
 宴、アオイ、フィニリオンがそれぞれ行動を取ろうとしたときだ。
「偽りの生、利用されお前もさぞ気に食わないだろう……」
 三十世・紀梨(フェイクアペアー・e01307)が愛刀を構え、サイコフォースをヴァルキュリアに食らわせる。
 まともに食らったその攻撃にたじろぐヴァルキュリアは大きく吼える。
 女性的な姿から想像もつかぬその咆哮に、8人はただ眉をしかめ攻撃を繰り出していく。
 自分達の持つ技と力を、お互いフォローし合いながら攻撃していく。
「大きな体の割りには素早いんですね! オリーヴ、ヴァルキュリアに攻撃を!」
 エレノアがナノナノに声を掛けるとすぐさま攻撃し、エレノアも同時にヴァルキュリアに攻撃する。
「宴、アオイ、フィリニオン! このまま援護するからどんどん攻撃していけ!」
 銀河がそう叫ぶと三人は頷き、泳ぐ死神三体を的に絞り攻撃する。
「これだけ攻撃していれば、死神はもう倒せますね」
 アオイの言葉に両隣の二人が頷く。
 ケルベロス達が攻撃の手を止めないように、死神とヴァルキュリアも手を緩めることはなかった。
 魚型死神二体がより一層尾ひれを揺らめかせると、口を大きく開けて向かってくる。
「させません!」
 フィニリオンとミモザがそれぞれ魚型死神の攻撃を受け止める。
「宴さん、アオイさん今です!」
 受け止めたフィニリオンは叫ぶと、二人はそれぞれ構え、魚型死神に攻撃を叩きつける。
「ありがとう! これでも食らえ!」
「感謝致します、我が技でその魂に安らぎを!」
 二人の攻撃を避けきれず、まとも食らった二体の魚型死神はじりじりと その体を赤く染め上げ、塵となって消えていった。
「あと死神一体とヴァルキュリアのみか」
 面倒くさそうに宗樹は呟くと、隣に居た紀梨が愛刀を一振りしてそれに返す。
「ええ、油断は出来ないけど、これならなんとかなるだろう」
 その言葉にエレノアが頷く。
 ケルベロス達は残りを倒すべく、各々体勢を整えた。
 
●残るは
 残された魚型死神は、二体を弔うかのようにぐるぐると泳ぎ始めた。
 それに合わせヴァルキュリアは一層深く唸れば、獣の腕を振るい上げ地面に叩きつける。
 叩き付けた反動と駆け出した反動を合わせ、ヴァルキュリアは攻撃をしてくる。
 攻撃を受け止めるのはフィニリオン。だが、魚型死神はそれを分かっていたかのように怨霊弾を撃ってくる。
「そっちがそうやってフォローするように、俺達だってフォローし合ってんだぜ」
 銀河は怨霊弾を撃ってきた魚型死神をサイコフォースで迎え撃つ。
 魚型死神は悔しそうにゆらりと尾ひれを揺らし、こちらを伺った。
 宗樹は攻撃を受け止められ、止まっているヴァルキュリアにバジルと一緒に攻撃を加えていく。
 受けた攻撃に多少怯むが、それでもヴァルキュリアは攻撃の手を緩めることはしない。
「なかなか攻撃は重いですが……ミモザ、がんばろうね」
 フィニリオンの声に、ミモザは応えるようにヴァルキュリアへ攻撃する。
「オリーヴ! フィニリオンさん達に加勢して!」
 オリーヴがエレノアに言われすぐに加勢に動く。
「押さえてる間に残りの死神を倒す!」
 紀梨が愛刀を構え螺旋氷縛波を使う。
 それに合わせて銀河もフォローを入れていけば、避けきれずに弱ってきた魚型死神は最初のような優雅な泳ぎを見せることもできず、ゆったりと漂うばかりになった。
 そこに黒江はアイスエイジで更に弱らせる。
「残りはあなたとヴァルキュリアのみ……まずはあなたから焼き魚にしてあげます」
 再現術式:烈火の歯車。黒江が放ったそれは地面を焼き、魚型死神へと向かう。
 避けるほどの気力もない魚型死神は黒江の言ったとおりに焼かれ、そして塵に消えていった。
 残るはヴァルキュリア。
 油断しないように、回復をし、体勢を整え挑む。
「あああああああああああああ!!」
 低く唸るだけだったヴァルキュリアは体の底から搾り出すように叫ぶと、一、二歩下がった。
 隙がないようにヴァルキュリアの行動を見つめると、ケルベロス達は武器を構え、ヴァルキュリアの出方を伺う。
「我を守護せしオリオンよ。獅子と正義の女神の力を借りて負の者の罪を償わせよ!!」
 先に動いたのは銀河だった。
 銀河は星霊同化を使いヴァルキュリアを攻撃する。
 避けきれなかったヴァルキュリアはそれをまともに食らいよろけるが、痛覚を感じないのかそれを合図ととり攻撃を始めた。
 大きく腕を振るい、地面を抉り、空を切るが、傷を負う体ではそううまく動けないのだろう。
 前衛に位置する三人はうまく避け、攻撃を受け止め、炎を食らわせる。
 それでもヴァルキュリアは止まることはしなかった。
「可哀想に……」
 紀梨はぽつりと漏らした。
 愛刀の柄をぎゅっと握りヴァルキュリアを見つめる、その瞳は何を感じたのだろう。
 宗樹はそれを横目で見るとすぐにヴァルキュリアへと視線を戻す。
 唸り攻撃を続けるヴァルキュリアにはもう、神々しかった姿はない。
 あとはもう一度静かに眠らせてあげることだけだ。
 スピードも攻撃の重さも格段に落ちたヴァルキュリアは、前三人の攻撃を受け前へ前へと進み、銀河と黒江のほうへと駆けてくる。
 二人はヴァルキュリアの攻撃を難なく避けて、更なる傷を負わせていく。
 重なる傷は増え、ヴァルキュリアの体から流れる血液が花びらのように散った。
 後衛に位置する三人のところまで腕を振るいながら来るヴァルキュリア。
 彼女は何を思っているのだろうか。
 エレノアがヴァルキュリアの腕を受け止めケルベロスチェインをふるう。
 白鯨錨鎖……錨つきのケルベロスチェインが生み出す暴風を食らい、宗樹とバジルがエレノアをフォローする。
 紀梨が愛刀の切っ先をヴァルキュリアに向け、精神を集中させた。
「いくぞ、ジョニー!」
 愛刀を振れば、紀梨の姿に重なるようにして幻影が現れる。
 亡き恋人と共に、紀梨はヴァルキュリアの体を斬りつけた。
「あああああああああああああああ」
 斬られた反動でヴァルキュリアは後ろに倒れる。
 背に生える光の翼からはもう、輝きは消え失せ、ゆっくりとヴァルキュリアの体が消えていった。
 残るは8人と、戦いが終わった静けさだった。

●願うは
「強く美しい戦乙女よ……安らかに」
 銀河が小さく剣礼をすれば、場の緊張感は一気になくなった。
 残った8人と、現場の荒れた惨状以外は平和へと変わったのだ。
「もう起こされないといいな」
 宴がそっと消えたヴァルキュリアに願う。
 他のみんなもそうだなと頷くと、周りの修復のためにヒールをかけ始めた。
 黒く染まっていた空が、ゆっくりと明るく染め上げようとする時間に変わっていくところだった。
 

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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