なお白き荊の竜 第2節

作者:秋月諒

●白き荊に告げよ
 晴れ渡る空の下、冬の風が波を散らしていた。岩場に叩きつけられる波は大きく、泡立つ。まるでそこだけが別の空間であるかのように、海は荒れていた。泡立ち、巻き上がった白が風に舞い上がれば荒ぶる海面に白い巨体が姿を見せる。それは、白き戦艦竜であった。白銀を思わせる体に、四連装砲塔を積んだドラゴンは、ゆるりと不機嫌そうに身を揺らす。その身にあった装甲には罅が入り、一つ、二つと欠けていた。岩場に持ち上げた体を、そのまま白銀の戦艦竜は波の中に落とす。
 バシャン、と巨大な波柱が立ちーー次の瞬間、戦艦竜が身を乗り上げていた岩場が砕け散った。荊の巻きついた長い尾だけがバシャンと、海面を叩く。その尾には、薔薇の花が咲いていた。

●なお白き荊の竜 第2節
「白銀の戦艦竜の、最初の調査が完了したよ」
 ヘリポートに姿を見せたのは、白銀の戦艦竜との戦いを終えた一人ーーシエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)であった。ふわり、と蜂蜜色の髪を揺らし完了を告げた娘は、息を整えると先の戦いで、戦艦竜の弱点や耐性、そして習性、攻撃の種類などの情報を得ることができたのだと言った。
「十分すぎるほどーーと言っていいです」
 第一陣メンバーへの感謝を告げたのはレイリ・フォルティカロ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0114)だ。
「敵戦艦竜へのダメージも、確認できています」
 顔を上げたレイリの横、すぅ、と一つ息を吸いーーシエラは言った。
「今回の調査で得られた情報を元に戦艦竜と再戦します!」
 
 白銀の戦艦竜ーー未だ、その名を持たぬ戦艦竜は、白銀の鱗を持つ存在だ。背には四連装砲塔を持ち、体には戦艦のような装甲を取り付けている。
「戦艦竜は、城ヶ島の南側の海を守護していました。強力な戦力を持つがゆえに、城ヶ島制圧戦では城ヶ島の南側を攻略目標から外していたんです」
 そのうちの一体と、最初の戦いを終えて手に入れたのは弱点や耐性をはじめとした多くの情報であった。
「攻撃は、背の四連装砲塔からの攻撃とドラゴンブレス。このブレスが、先の一件で漁船を襲っていたもので間違いはありません。砲塔からの攻撃については、攻撃の前に咆哮が響きます」
 咆哮と共に、打ち出される攻撃は大量のミサイルで周囲一帯を狙うものだ。攻撃の前、咆哮を響かせる前には僅かにだか戦艦竜の口元に泡が見える。状況を確認することができるだろう。
「命中率で言えば、ドラゴンブレスの方が高いと見ていいです」
 戦艦竜は体力やダメージは大きいが、命中や回避はそれほど高くはない。とはいえ、まったく当たらないということはない。ドラゴンブレスの方は、パラライズも確認されている。
「注意は必要です。それと……確認していただいた、長い尾に巻きついている荊、こちらを使った攻撃ですが第一陣の皆様の情報通り、あれは攻性植物で問題ありません」
 荊と開花の折に見せた花は、嘗て、攻性植物を操る戦士と戦いーー勝利と共に戦艦竜が喰らい、手に入れたものだろう。
「その力と、耐性を」
 荊と共に繰り出された尾の攻撃は強力だ。十分、注意してほしいとレイリは言った。
「これが一つ、分かっているのはやはり大きいです」
 使わせた、とそう思っていいだろう。
 戦艦竜の体には、傷もついている。その弱点に、耐性に気がついたが故に打ち込んだ一撃が白銀の身に刻まれていた。
 戦艦竜は神経質で、ケルベロスたちを撤退させたとはいえ、今もその苛立ちで姿を見せていた岩場を破壊している。
「いざ戦いになれば、苛立ちを露わに攻撃をしかけてきます」
 己の攻撃を邪魔するものを、特に狙うようだとレイリは言った。
「どうか、気をつけてください」
 戦艦竜は、攻撃してくるものを迎撃するような行動をするため、戦闘が始まれば撤退する事はない。
「同時に、敵を深追いしないという行動も行うため、ケルベロス側が撤退すれば、追いかけてくる事も無いようです」
 これをうまく利用して立ち回るのがいいだろう。
 息を吸い、レイリはまっすぐにケルベロス達を見た。
「今回の戦いで、戦艦竜を完全に倒すことは無理です。ですが……多くの情報を持った今、情報の少なかった前回よりも戦いを有利に進めることはできます」
 情報という、武器を有したのだ。
「戦艦竜と正面から戦うことになる。その事実は変わりません。危険な任務であることも」
 ですが、最初の一撃、しっかり叩きこんでいただきました。
 そう言って、レイリは顔をあげる。
「波状攻撃、第二弾と行きましょう。目的は、変わらず最終的にこの戦艦竜を倒しきることです。皆様、どうかご無理だけはせずに」
 ちゃんと無事に帰ってきてくださると信じています、とレイリは告げる。
「ではーー再戦と参りましょう」
 皆様、幸運を。


参加者
玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
イルヴァ・セリアン(紅玉雪花・e04389)
リテ・ゴルドナ(雪原の紅い花・e17688)

■リプレイ

●再戦の地にて
 相模湾、戦場から離れた安全圏にケルベロスたちを乗せたクルーザーは来ていた。
 シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)の瞳は、真っ直ぐに海を見ていた。
(「多分まだまだ先は長いし、無理して怪我しないように気をつけて調査しようね」)
「……では、その形で」
 合図の打ち合わせも済んだ。玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)の瞳に、波立つ海が見える。
「行こか」
 ホットココアを煽ると、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)は胸元でパン、と拳を打ち鳴らしながら獰猛に笑う。その横、リテ・ゴルドナ(雪原の紅い花・e17688)の瞳に戦艦竜の姿が見えた。
「さぁさぁ、悪い戦艦竜にお灸を据えてやらなくちゃだな」
 己を昂ぶらせるように、そう言って、リテは翼をピン、と張って戦いへと飛び立つ。
 クルーザーの縁を蹴って飛び込めば、白銀の巨体が目に入る。薄く開いた口元に、小さな泡が生まれたのが瀬理の目に映った。
「砲撃、来るで……!」
「グルォオ!」
 合図と共にそれが告げられるのと、咆哮が響くのは同時であった。戦いの、始まりだ。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
 ミサイルを交わし、一気に間合いへと踏み込んだシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が痛烈な一撃を戦艦竜に叩き込む。
「相模湾の平穏、返してもらうぞ。戦艦竜!」
 ぐん、と身を向けてきた戦艦竜に、シヴィルは身を横に飛ばす。その後ろから迫ってきたのはイルヴァ・セリアン(紅玉雪花・e04389)だ。水中を蹴り、流星の煌めきと重力を纏った蹴りを戦艦竜へと叩き込む。
(「みんなの平和を脅かす存在は、わたしの手で排除する。相手がどんなに強くたって変わりません」)
 唸り声を耳に、だが距離は、あけない。
 イルヴァが選んだのは出来る限り、積極的に戦艦竜に近い位置をとって戦うことだ。
「わたしは、わたしらしい戦いを貫いて……そして、敵を倒すための布石を、少しでも多く持ち帰ります!」
「グルァア!」
 唸り声にシエラは戦艦竜の間合いへと切り込んだ。振り下ろす刃と共に豊富なグラビティ・チェインを破壊力として解き放つ。
 ガウン、という音と共に装甲が欠け落ちる。衝撃に、顔をあげた戦艦竜の尾がシエラの目に見えた。花が咲いたままだ。この意味はどこにあるのか。警戒は忘れぬまま、水中を蹴れば、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)の炎が見えた。水中を蹴り放つ凍結の弾丸が戦艦竜を撃ち抜いた。
「チッ、硬えな……そのギラついた鱗は伊達じゃねえかよ」
 ガウン、と音が響く。衝撃に視線だけを向けた敵に息を吐く。
「一度や二度の襲撃じゃ倒せねえ、か。上等だ。どれだけタフでも俺たちは狙った獲物を必ず狩る。精々元気なウチに暴れまわってやがれ」
 必ず倒す、その時の為に。今は全力を叩き込む。
 一撃に、視線だけをあげていた戦艦竜の間合いへと踏み込んだルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)の手が熱を帯びた。それは意図的に低温化した炎が、戦艦竜の熱を借りて加速度的に温度をあげたが故。掌に熱を纏い、それを扱い切る男の掌底が白銀の鱗に触れる寸前に静止する。
「ルォオ」
 失敗と見たのか。嘲笑うような声にルースは告げる。
「到達点1000℃。本当に恐ろしいのは、その温度を一瞬で失った時だ」
 戦艦竜へと纏わり付いた人肌の炎が一瞬にしてーー灼熱へと変じた。

●白銀の竜
「グルァアアア!」
 炎が、戦艦竜を包み込んだ。咆哮と共に瞳が殺意を抱く。前衛を突破せんとする敵に一撃を叩き込んだのは、瀬理だ。
「さーて第2ラウンドの開始や。ほな、行っくでぇっ!」
 螺旋を込めた拳で軽く触れれば、爆砕が戦艦竜を襲う。グルァア、と響く声と共に装甲に罅が入る。その、欠けた一つを視界に儚は雷光による壁を紡ぐ。
「雷にて、不浄を消す盾を」
 光は、後衛へと。守る様に広がった雷が、水中にあって尚光る。
「ジャマな茨を刈り取りに参りましょうか」
 言の葉ひとつ、口の中に作れば唸る戦艦竜の牙が見えた。背には砲塔を持つ、巨大な竜。さすがの威圧感だ。
(「それでもやれることはやりましょう」)
 皆さんが防いでくれている間に、私はやれることを。
(「少しでも深く、消えない傷を」)
 リテの大鎌が、戦艦竜の首筋目掛けて振り下ろされる。一撃に、竜の瞳がリテへと向いた。
 ゴウ、と海水さえ震わせるように戦艦竜は白い炎を放った。薙ぎ払う炎が狙ったのはーー後衛だ。痛みと熱が体を襲う。——だが、まだ大丈夫だ。
 ルースは武器を握る。デカい敵は単純に燃えるのだ。
「それにこいつは何とも美しいじゃないか。今回この手で倒せないのは非常に残念だ……」
 しかしそれも縁だろう。
 薄く開いた唇で言葉を作り、ルースは告げる。
「今日はお前の事を知る為の日と割り切ろう。次に会ったらその時こそ落としてやる」
「ルォオオ!」
 刃をむき出し、響く咆哮に静かに笑い水中を蹴った。
 海中の戦場は、次第に熱を帯びていく。ぐん、と顔をあげ、大口を開ける戦艦竜がその砲塔から火を吹けば、響く咆哮に瀬理が警戒を告げる。相手の動きを備に観察し、見つけた予兆をしっかりと共有しているお陰だ。ミサイルの余波を翼にビリリ、と受けながらも細い翼でリテは舞う。
「(聞いていた通りだな……だが、ひるむわけにはいかないぜ)」
 リテはブラックスライムの槍を放つ。——だが、一撃は分厚い装甲に阻まれた。ギン、と響く一撃を耳に、イルヴァは敵の死角から空の霊力を帯びたナイフで戦艦竜を切りつけた。傷跡を押し広げる様に斬り裂けば怒りに満ちた咆哮と共にブレスがイルヴァを襲う。
「ルォオ!」
「——っく」
 僅かに、息を詰める。儚が回復を告げる声を耳に顔を上げる。積極的に戦艦竜に近い位置をとっているのだ。傷が多いことは理解している。それでも戦う者であること、守る者であることに矜持を持ったイルヴァは、武器を握る手を緩めはしない。
「こっちは無視か?」
 たん、と水中を蹴りシヴィルはチェーンソー剣を振り下ろした。無慈悲な斬撃を叩き込めば、装甲が欠け落ちる。
「冷凍マグロの解体にチェーンソーを使うと聞いたことはあるが、まさかドラゴンの解体にチェーンソー剣を使うことになるとはな。まるで、漁師になった気分だ」
 呟き落とせば、苛立ちに満ちた瞳がシヴィルを捉える。構え直した武器と共に見据えたのは敵の動きだ。
 加速する戦場に戦艦竜は、未だ相対した時と変わらぬ力を見せていた。回復の声が響く中、剣戟が火花を散らす。
「その攻撃は予測済みや! つれへんなぁ、うちに仕掛けてきぃな」
 後衛へと向かうブレスの前に庇い出て、瀬理は笑い告げた。ルォオ、と響く声に獣化した手足に重力を集中し一撃を分厚い装甲へと叩き込んだ。
「!」
 衝撃に、僅かに戦艦竜が身をひく。狙ったのは攻撃と共に叩き込むプレッシャー。ただでさえ低い敵の命中率を下げるため。
「ルゥオオオ!」
 一撃に、苛立ち露わに戦艦竜は吠えた。

●水底と踊れ
 咆哮と共に、炎が舞う。刻みつけると力と、炎と氷をもって海中の戦場は加速する。返す一撃が盾を担う者達に防がれる事実に苛立つように戦艦竜は後衛へと攻撃を向けていた。血塗れの指先で武器を構え、シエラはブラックスライムで作り上げた槍を放つ。
「あ……これって」
「あぁ。あいつ魔法に……」
 そう、応えかけたリテの前、黙れとばかりに白き炎が放たれた。
「!」
 衝撃が、体を叩く。倒れるその寸前でリテは言い切った。
 魔法に、耐性があると。
「ルォオオオ!」
「聞かせないつもりだったら、悪いな」
 ルースがバスターライフルを戦艦竜へと向けた。
「一つ嫌ってるのは、これだろう?」
 ゼログラビトン。
 攻撃の手を封ずる、武器封じの能力を有す一撃が装甲を焼いた。戦艦竜の正面へとシヴィルとイルヴァが切り込んでいく。
「手応えがあったのは、破壊の方だよ!」
 シエラの声に、あぁ、と答えたのはあぽろであった。指先、紡ぐのは冷気。氷の弾丸が、戦艦竜を撃ち抜いた。
「欠けてんじゃねぇか」
 装甲に、入った罅ごとごとりと落ちていくものがある。その破片を避け、瀬理は2本のルーンアックスを高く掲げーー振り下ろす。
「行くで……!」
「ルォオオオ!」
 装甲が、大きく欠けた。ギィ、と軋む音が肌に伝わる。嫌がる様に身を揺らし、次の瞬間、荊を纏う尾がーー動く。
「来るよ!」
 いち早く声をあげたのはシエラだった。
 狙いはーー瀬理だ。
 開花した荊と共に振り下ろされる一撃が瀬理を襲った。衝撃が全身に伝わりーーだが、
「——っは」
 立っている。
「回復を!」
 即座に、儚は回復を紡ぎ出す。ふわり、と広がるのはヒール用ナノマシーンだ。
「気をつけよ、怠惰の夢に飲まれぬように」
 味方の傷を癒すそれは、浴びすぎると戦意まで癒してしまうので注意が必要とされる品だ。重ねて、回復をするイルヴァの声を聞きながら儚は先の一撃を思い出す。一撃に、耐えきれたのは「今」だからか。あと少し傷が多ければ倒れてしまっていただろう。
「グルォオォ」
 戦艦竜の声は、最早怒りに満ちていた。邪魔だと、言わんばかりに降り注ぐミサイルに、水底を蹴り、ケルベロスたちは熱を帯びた戦場を駆ける。体は重く、痛みーー癒しきれぬ傷も多くある。その中でも、盾役の3人の傷は特に多かった。
「ルォオオ!」
「——ッ」
 響く咆哮と共に、放たれたブレスからシエラを守って瀬理が倒れる。剣戟を重ね、一撃を叩き込みながらも苛烈さを増す戦場にシヴィルもまた倒れていく。
「——く」
 剣を手に、歪む視界でそれでもとシヴィルが伝えたのは戦艦竜の砲撃について。調べていたのだ。
「あの砲撃に、エフェクトはない、ぞ」
 ただ叩きつける一撃だ。その一言を伝えた彼女を受け止めてあぽろは顔をあげる。
 これで戦闘不能となった仲間は3人。守護を担っていた儚のサーヴァントも既に倒れている。
「始めるか」
 ルースのその言葉に、残るあぽろ、イルヴァ、シエラは頷いた。
 これより先、あと一人が倒れるまで戦艦竜の弱い所を攻撃する。それは苛烈を覚悟した戦い。
「雷にて、不浄を消す盾を」
 血濡れた指先で、けれど儚は仲間に回復を紡ぎ、言った。
「行きましょう」
 覚悟ひとつ、その身に抱いて。

●道標
「グルォオオァアア!」
 白銀の戦艦竜が、吠えた。その咆哮に、ケルベロスたちは海中を蹴る。距離を詰めたルースのナイフが戦艦竜へと沈む。斬りつけたのは、砲塔の付け根部分。
「グルォオ!」
 響くのはただの咆哮。傷を刻むことに特化した一撃で、戦艦竜の動きを見たルースが身を飛ばす。探ったのは葬送の荊の使用条件だ。
「打って来ないか?」
 視線を上げた男の前、シエラが尻尾の荊を斬り落とす様に一撃を叩き込んだ。
「ルォオオ!」
 咆哮と共に、戦艦竜は荒々しく尾を振るった。触るなとばかりに身を震わせ、こちらを向く。瞬間、放たれたブレスが後衛を襲った。一撃と共に、ぐん、と戦艦竜がこちらを向く。
「狙ってきます……!」
 警戒を告げたのは、儚を戦艦竜が睨んだ。その視線に青年は声を返す。
「私は、盾を磨き、剣を研ぐもの。その盾が輝けば、身を守り。剣が光れば、敵を裂く」
 儚を中心に広がった雷が後衛を癒していく。唸る戦艦竜の間合いへと、あぽろは踏み込んだ。狙うのは砲塔の付け根。
「燃えて、凍って、怯えて、痺れちまえよ。全部俺たちからのプレゼントだ!」
 ジグザクとした刃で一気に切り裂いた。
「グルォオオオ!」
 高く、響くその声と共に尾に咲いていた薔薇が領域を広げた。
「! 来るか」
「させない……!」
 鋭く、振り下ろされようとした一撃にイルヴァが庇いに入った。鋼の散る音と共に、血がし吹く。
「……ッ」
 立ち続けるには、さすがに受けていた傷が多すぎた。じわり回る毒と歪む視界に唇を引き結んで娘は白銀の竜を見る。続く一撃は、無いか。
(「違う、何か……」)
 感じた違和が、解を得るよりも先に視界が歪む。
「撤退を」
 告げる言葉が重なった。意識を失った仲間に肩を貸しながら、戦艦竜の姿を見た儚は小さく息を飲んだ。
「花が……」
 戦艦竜の尾。その荊に咲いた白い薔薇が多くーーそして、大きくなっていた。

 日中の日差しが、クルーザーに差し込んでいた。ホットココアの準備ができる頃には、仲間たちも無事に意識を取り戻していた。
「あ゛ー……冷えた身体にココアがしみわたるわぁ……」
 ホットココアに、瀬理は息をついた。
「攻撃の中じゃ、やっぱ破壊のやつの方が苦手みたいやな」
「あぁ。それと若干だけど、魔法には耐性がある感じだな」
 カップを手に、告げたのはリテだ。
 尻尾の荊に攻撃してみたけど、とシエラは顔をあげる。
「効いてた……っていうよりは嫌がってた感じかな」
 反応がある場所なのは確かだ。切り落とせる感じはなく、葬送の荊自体を封じるのはできないようだ。
「攻撃はしてきたけど、あの一撃じゃなかった無かったのは……距離、なのかな?」
 それとも立て続けにあちこちを皆で攻撃していたからだろうか。
「砲塔の付け根も攻撃してやつ全員に仕掛けてくるって感じでもなかったからな……」
 考えるあぽろの横、イルヴァが一つ気になることがあったと言った。
「あの一撃の後、戦艦竜は攻撃を行って来ませんでした」
「大技のあとか。確かに。元々、そう俊敏な方じゃねぇって話しだが、あれは……!」
 は、としたあぽろの横イルヴァは頷く。
「はい。あれは隙、だと思います」
 大きく、強力な一撃であるが故の隙。
 戦艦竜は、回避と命中はそう高くは無い。だが高くはないのと、隙が生まれているのは別の話だ。思えば最初の一撃の後も攻撃は深く入っていた。
「発動条件に揺れがあるのは、これか」
 蓄積ダメージと、砲塔の付け根への攻撃。
 状況から見れば、この二つそれぞれがキーだろうとルースは言った。
「今回は最初の方でも使ってきたし……やっぱり、ダメージと追い詰められたと感じた時、かな?」
 シエラのその言葉に、頷きが返る。
「こっちの都合で上手く使うってこともできそうやな……。最初の方であれば、耐え切れるし」
 重かったけどな、と息をついた瀬理の横、砲撃についてシヴィルが付随する力はなかったと告げる。
「これで、だいぶ弱らせられたでしょうか」
 シヴィルはチョコレートの甘みにほう、と息をつく。頷いた儚は、尾の荊に変化があったのだと言った。
「大きく、そして増えていました」
 応えた儚の膝の上、ちょこんと乗っていたてれが、首を傾げる。少しばかり口元を緩め、儚は続けた。
「あれはダメージによる変化だと思います」
 そう考えれば、今回の戦いで大分弱らせることができたはずだ。
 白い薔薇を思い出しながら、ケルベロス達は海を見る。手に入れた情報を、さらなる武器として再びこの地に来る為に。
 決着をつける為に。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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